もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ベラルーシ強制着陸に学ぶ

2021年06月02日 | 軍事

 ベラルーシがライアン航空(アイルランド)のボーイング機を強制着陸させて搭乗していた反政権派のジャーナリスト、プロタセビッチ氏を拘束した。

 着陸に至る経緯を纏めると、航空機はアテネからリトアニアの首都ビリニュスに向かっていたが、ベラルーシの空域に入るとベラルーシの管制官が「機内に爆弾が仕掛けられた情報(メール)があるのでミンスク着陸を勧告する」としたためにパイロットは疑念を持ちながらも最終的に、旅客機が「国際民間航空条約に定める緊急事態」にあることを宣言してミンスクに着陸したとされている。
 各国の情報機関によって、メールの着信時刻が管制官の着陸勧告後であることが判明し、強制着陸は反体制派の拘束が目的であることが明らかとなったために、ベラルーシ擁護のロシアを除く各国がベラルーシ発着便の運航休止やベラルーシ領空の飛行禁止を相次いで表明し、ベラルーシは年間70億円ともされる上空通過料を失うことになると報じられている。
 パイロットが従った国際民間航空条約やベラルーシが失う上空通過料を知らないので、例の通りの付け焼刃を試みた。
 国際民間航空条約は、1944(昭和19)年にシカゴで連合国・中立国の52ヵ国で結ばれた条約でシカゴ条約とも呼ばれ、枢軸国であった日本も1953(昭和28)年に加盟し、現在は190カ国以上が加盟している。その後、1983年に起きたソ連の大韓航空機撃墜事件で「各国が領空を飛行する不審な航空機に対しての強制着陸指示等の権利と民間航空機はその指示に従うことの義務が」が追加されており、今回のパイロットも国際条約の規定に従って着陸したものであることを知った。
 一方、上空通過料については国際基準がない各国独自の料金設定で、日本の場合は、管轄する飛行情報区(FIR)を通過する「最大離陸重量15㌧以上の航空機」に対して、陸上及び周辺区域では通過1回あたり89,000円、洋上空域では通過1回あたり16,000円となっていた。上空通過料は、航空管制官等の人件費やレーダーなどの航空保安設備の維持管理費に充てるために徴収しているが、国情に応じて友好国に対しては割安に設定したり免除したりと様々で、日本も韓国・中国・台湾・香港からの北米路線や太平洋・オセアニア路線は割高に設定しているらしい。ネット上には日本~豪州間の飛行に際して、ルートによってはアメリカ(グアム管制圏を飛行?)に上空通過料を払っているそうである。ちなみに、ANA THE SKYというサイトには「2012年の上空通過機は約20万機」とあることから、日本が得る上空通過料は30億円超となり、捨てがたい財源であると観るのは自分の懐の寂しさの故だろうか。

 プロタセビッチ氏解放にむけて西側諸国は経済制裁を強化したり非難の声を上げるだろうが、中国に拘束された北大教授の例を見るまでもなく、言葉の通じない指導者を相手にしては有効な対処は悲観的に思える。
 ソビエト連邦に幕引きをしたゴルバチョフ氏、共産党を非合法としたことでロシアの混迷・荒廃を招いたと糾弾されるエリツィン氏に代わるプーチン大統領は、ソ連時代の版図再現を夢見ているようで、既にEU・NATOに取り込まれたバルト3国と国境を接するベラルーシを西側との緩衝地帯とする以上に攻勢発揮地点として擁護・援助を続けるだろうし、ロシアの援助が続く限りベラルーシのルカシェンコ政権の暴虐も続くように思える。