もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

少年法の改正に思う

2021年05月31日 | 社会・政治問題

 今国会で、改正少年法が成立したことが報じられた。

 改正少年法は、来年(2022年)に民法の成人年齢が18才以上となることに合わせる形で成立したものであるが、報道(解説)によれば18歳以上~20歳未満については4月以降も民法上は成人、刑罰規定は少年法の刑罰精神が適用されると云うダブルスタンダードの制度になるらしい。
 現在の少年法では、18・19歳は死刑もあり得る「年長少年」とされ家裁が逆送致する犯罪は原則として殺人や傷害致死などの懲役下限が3年以上の犯罪となっているが、改正少年法では「特定少年」と呼称を変更し、逆送致の対象を強盗など法定刑1年以上の犯罪まで拡大されるとともに不定期刑は廃止される。また、従来禁止されていた実名報道や顔写真も可能となるとされている。
 これらによって、少年法の規定を悪用して振り込め詐欺の受け子等に勧誘される特定少年に対しては一定の抑止効果が期待できるとされているが、民法と刑法が完全に同期していないのは法律上如何なものであろうか。
 所謂「法の下の平等」は、法が求める義務を果たす成人に一定の権利を認め、義務を放棄し・法を犯した者に刑罰を与えることで成り立っており、その義務・権利・刑罰は成人一律の基準でなければならず、社会的地位、財力によって動かされるべきではなく、年齢によっても動かすべきではないように思う。
 国民が社会に対して不満を持つ背景はいろいろあると思うが、法律のダブルスタンダードによって生じる不公平感が最も大きいのではないだろうか。
 改正少年法では、施行から5年経過後に社会情勢や国民感情を考慮して「特定少年に関する規定」を見直すとされているが、5年を待つまでもなく現状でもダブルスタンダードは認めるべきではないとする意見が大勢を占めているのではないだろうか。

 かく云う自分も、特定少年期を僅かに超えた時に喧嘩が原因の傷害罪で罰金刑と行政処分を受けた。この処分で昇任や昇給について同期の後塵を拝しつつ勤務したが、その後の勤務を振り返れば処罰は有難いものであったように思える。もし、少年法の恩恵を受けての生温い説諭や保護観察であったら、金銭的な不利益は被らなかったであろうが適当な勤務を送ったであろうと思っている。
 罪状・人格・境遇等によって一様に、普遍的に、単純に、論じるべきではないだろうが、温情=正という図式もまた不確かなものであると思う。少なくとも成人に対しては一様・同列の基準を適用することが、法治国家として適切であるように思う。


ロシアの日本漁船拿捕について

2021年05月30日 | ロシア

 稚内沖合で操業中の漁船1隻が、ロシア国境警備隊の臨検を受けた後、拿捕されたことが報じられた。

 拿捕された漁船は僚船3隻と底引き網漁を行っていたが、僚船は無事に稚内港に帰投したとされている。拿捕された海域は不明であるが、現在の船舶、特に領海警備の船舶や漁業協定に基づく海域で操業する漁船は高性能のGPSを搭載しているので、船位を失った結果として拿捕したり漁労禁止区域に入り込むことは想像できないために監視艇・漁船のどちらかが故意に船位を操作したことは十分に予想できるが、これまでに拿捕された漁船の例を観ると、高額な罰金と漁具・水揚げ魚介類が没収されて釈放されることが一般的であることから、漁船が大きなリスクを冒すことは考えられず、ロシアが漁労海域を我田引水的に作為した公算が大きいものと考えざるを得ない。
 かって、ソ連邦が健在であった頃には歯舞・色丹島近海の優良な漁場と隣接する根室港には「赤い漁船」と称される複数の漁船が存在したとされる。「赤い漁船」は、ソ連が主張する領海内で操業しても拿捕されることは少なく、拿捕された場合にも短期間の拘束の後に漁具・水揚げ品もろとも釈放される場合が殆どであったとされる。「赤い漁船」は、ソ連の求める物品や情報の提供によって直接的な被害から免れていたとされるが、彼等がソ連に提供できる情報は公刊資料程度であったもののソ連としては根室周辺の分断・混乱が起きれば十分とする情報戦の一環として行われていたと推測している。
 戦後の韓国が一方的に設定したに李承晩ラインによる日本漁船の拿捕、1970年代に起きたアイスランドとイギリス間のタラ戦争のように、一般的に漁船の拿捕は水産資源の争奪によって引き起こされる。しかしながら、ソ連・ロシアの拿捕は領土問題に対するプロパガンダや国境警備隊の資金調達という面もあり、他の拿捕案件とは些かに趣を異にしていると思っている。

 現在、日本漁船が拿捕されるケースはどれくらいあるのかとネット上を探したが、政府資料を含めて発見できなかった。しかしながら、個々にはロシアの他に韓国によるものや、南米の太平洋岸やアフリカの東海岸でマグロはえ縄線が拿捕された報道もあり、相当数の拿捕案件が起きているだろうと推測する。
 一方、他国の漁船を拿捕した実績は水産庁のHPに掲載されており、拿捕の実績は次のようになっていた。
  (記載要領は、相手国:平成30年実績/平成29年実績/平成20年実績)
 韓 国:5/1/18
 中 国:0/4/2
 ロシア:1/0/0
 合 計:6/5/20
 この数字、中国船団による三陸沖のサンマ/マグロ漁・父島近海のサンゴ採取・尖閣水域の操業、北朝鮮による大和堆周辺のイカ漁・・・等々の報道から、多いと見るべきか・少ないと観るべきなのだろうか。


空母レナルド・レ―ガンの中東スウィングに思う。

2021年05月28日 | 軍事

 横須賀を母港とする空母「レナルド・レーガン」の中東派遣の可能性が報じられた。

 報道によると、現在中東地域に派遣されている空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」が7月に海域を離れてノーフォークに帰港するために、レーガンが6月以降に最大で4か月間の予定で米軍のアフガニスタン撤収を支援するとされている。
 レーガン打撃群の主要な構成は、横須賀を母港とするタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦3隻と第15駆逐隊のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦7隻、厚木基地の第5空母航空団、佐世保を母港とする第11揚陸隊の強襲揚陸艦1隻とドック型輸送揚陸艦4隻、プラス若干の攻撃原潜で、空母の機動性を考えると海・空自衛隊の全攻撃力にも等しいものである。レーガンの随伴兵力は報じられていないが、アフガン国内の武装勢力を牽制・抑止しつつという大規模な撤収作業であることを考えれば相当数の麾下兵力を帯同することになり、短期間であるが東アジア地域の米海軍兵力は大きく減少することになる。この状況は、力の空白地域・期間に乗じて既成事実を積み上げて居座ることを伝統とする中国政府と中国海軍にとっては将に渡りに船の現象であるが、そのことを熟知しながらもアジアからレーガンを引き抜くことには「巧妙に敵に塩を送る」バイデン政権の下心が透けて見えるようにも思える。
 世界の火薬庫ともされる中東地域に空母打撃群を常続配置しない米軍の戦力配備は疑問にも思えるが、財政負担低減のために16隻保有していた攻撃空母を12隻(現在は11隻)に減らす際に、欧州・中東地域の紛争には本国・アジアの空母兵力を振り向ければ十分という「スウィング戦略」の残渣であると思っている。アジア地域の兵力をスウィングすることが可能と判断した時点では、朝鮮半島情勢は一応落ち着いて、ソ連に対しては戦略核で抑止できる見通しが有り、中国は対外膨張を企図する余裕・能力がないとの判断に立ったものと思うが、北朝鮮が核を保有したことや中国海軍が目覚ましい増強を遂げるとともに中華覇権の野望をむき出しにしている現状を観ると、在アジア兵力のスウィングの前提は大きく様変わりしていると思う。

 レーガン打撃群の不在は最大4か月間とされているが、アフガンの情勢は米軍撤退を見越したタリバン、アルカイダ、IS共同戦線の攻勢を観る限り内戦再突入は必至の情勢と思えるので、レーガンの不在、極東米軍の弱体化は相当の長期に及ぶ可能性が極めて高いように思える。アメリカ大統領の善意とアメリカ軍の即時・全面支援を基に構築されている自衛力を考えれば、米軍の空白が長期に及ぶことは憂慮すべき事態ではあるが、同盟国であっても中国に差し出しかねないバイデン外交であれば今後も同様の事態が起きることは覚悟しておかなければならないように思える。
 敵基地の定義、敵基地攻撃能力整備の要否、ミサイル射程の長短等に議論を費やす場合ではないように思うのだが。


コロナ探知犬を知る

2021年05月27日 | コロナ

 コロナ探知犬によるコロナ感染識別の取り組みが報じられた。

 このような取り組みを全く知らなかったので大慌てでネット上の記述を拾い読みしたところ、既に昨年7月には、短期間の訓練を受けただけの犬に人の唾液を嗅がせることで、90%強の確率で感染の有無を判別できることを、ドイツの研究者が明らかにしていたらしい。
 時系列にまとめたものでは無いが各国の探知成功率等をみると、イギリスの実証実験では88%の成功を収めたとされていた。
 また、フランスでは、爆弾探知犬、捜索救助犬、結腸がん探知犬の14匹で数十回の実験を行って、76~100%の確率で成功を収め、特に結腸がん探知犬の2匹は68回のテストで100%の成功率を収め、更にこの2匹は医学検査で陰性とされた被験者2人を繰り返しマークし続けたために病院に連絡した結果、その後の検査でこの2人は陽性と判定された事例もあったそうである。
 コロナ探知犬の活用は実証研究を離れて、既に実戦配備についていることも知った。フィンランドのヘルシンキ空港には昨年9月から試験的に配備され、タイでは今月以降簡易検査場に配備されたようで、非感染者が正しく非感染と判定される割合が91%を示すとされている。また、アラブ首長国連邦(UAE)、スイスでも探知犬の訓練を開始しているとされていた。
 この方法は探知犬の能力によって大きく左右されるが、記事の通り探知確率が90%超であればPCR検査と遜色がなく、検査時間は圧倒的に有利であることから、入国審査等の水際防御には最適の手段であるように思える。
 一度抑え込みに成功した台湾での感染拡大を観る限り、今回の中国コロナ過は完全に終息することなく、今後数年間はパンデミックの危険性をはらんで生活しなければならないように思える。ネット上を散見した限りでは日本での取り組みは見つけることができなかったが、長期間のコロナ戦争のためには、空港ゲート、駅改札口、各種イベントの入場口等にコロナ探知犬を配置することは、有効ではないだろうか。

 これまで、悪行を為した人を「犬畜生にも劣る」と蔑だように、品性のランクは、人間の下に餓鬼・畜生がおり、更にその下に極悪人がいるという図式が定着していたが、コロナ探知犬の活躍、ライカ犬の宇宙開発貢献、忠犬ハチ公を筆頭に、飼い主の危急を救った愛犬、・・・等を観る限り、人間社会に対する犬族の貢献は、自分を遥かにしのぐものと考えざるを得ない。数日前のブログで競馬をやらない理由として「馬畜生の勝敗に人間が一喜一憂することが我慢できないため」と書いたが、競走馬は馬同士の優劣は承知の上で、射幸心に眩んだ人間にその浅ましさを教えるために走っているのかも知れない。


枝野政権の安保構想

2021年05月26日 | 野党

 立憲民主党が離島防衛を念頭に置いた「領域警備・海上保安体制強化法案」を纏めて、次期国会に提出することが報じられた。

 法案の骨子は、海上保安庁の装備を5年ごと区切って計画することと、自衛隊が海保の活動を補完する「海上警備準備行動」の新設とされている。
 法案は、立民政権における国防不安を打ち消すために作成されたものであるが、不安を助長するだけのものに思える。
 海上保安庁の装備新計画については自衛力整備に採られている中期防衛力整備計画(中期防)構想と同等の制度であり、特に反対する理由は見当たらないが、「海上警備準備行動(以下、準備行動)」の新設については疑問視せざるを得ない。
 準備行動は、海上警備行動発令の前段階として保安庁を主・自衛隊を従とした警察行動を目途としていると思われるが、現在、中国が領海内での警察任務に充たる海警部(=保安庁)を人民解放軍の1部局として傘下に置き、軍事行動を警察行動と強弁するための布石を打ったことと軌を一にするものであるように思える。中国の処置に対して列国が反対しているのは、行政の一環として行われるべき警察行動が3権を超越(注)する軍事行動と区別できないことに対する不安からであり、枝野政権の準備行動発令も警察行動と軍事行動の境界を曖昧にしてしまう危険性が有る。枝野政権が準備行動を発令して自衛艦が紛争海域に出動すれば、中国は即座に海軍を投入して済し崩し的に武力行使に踏み切るであろうことは想像に難くない。その意味から、準備行動はみすみす中国の仕掛けた罠に嵌まることで、紛争の激化にしか寄与しないように思える。

 立民への安保不安視解消を目指す取り組み事態は一歩前進と捉えるべきかもしれないが、立憲民主党の国会行動を観る限り国防に関するグランドデザインは「見えない」以上に「無い」と感じられる。
 重要インフラ周辺の土地利用監視を骨抜きにして中国の入手・敵性利用の途を残し、不法滞在する敵対外国人であっても拘留期間を短縮あるいは難民認定して滞在を認め、テロ特措法を骨抜きにして公安活動を妨げ、日米同盟を基軸とする一方で集団的自衛権の限定行使を「立憲主義に反する」と拒否し、・・・と安全保障音痴ぶりを如何なく発揮している。
 そして今度の準備行動法案である。枝野代表率いる立憲民主党の主張を横並びにすれば、中国覇権に手を貸す思惑が浮かび上がると見るのは思い過ごしだろうか。

(注)憲法9条にも「国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は・・・」と規定することで、軍事行動は憲法諸規定を貫く3権と区別するために「国権」と記述されている。