高校で使用される教科書検定での検定意見等が公表された。
気になったのは、徴用工問題の記述で「半島からの連行」という表現が「動員」に訂正されたということである。政府は、2021年4月に維新の馬場代表の質問書への答弁書として強制的なニュアンスを持つ「連行」を「動員」とすることを閣議決定し、日本の主張を明確にしている。資料的にも、強制連行しなくても募集を掛ければ所要以上の応募があって、選考に苦慮する程であったことが明白となっている。一方、朝鮮にあっても合格者がを遠方に出稼ぎする身を案じるよりも高額な報酬を羨む気持ちの方が強かったことも明らかにされている。
史実はさておき、驚かされたのは検定意見を付けられた出版元の編集責任者が「単純に表記が曖昧だった。政治的な意図をもって入れたというより、用語の使い方で確認を怠った」と述べているらしいことである。長年にわたって日韓のトゲとなっている問題に対して、執筆時のリードタイムを勘案しても、閣議決定から1年以上も経過していること、教科書検定で数年に亘って問題視されていること、等を考えると、単に執筆者や校閲者の単純ミスではないように思える。執筆者は「確信犯」的に「連行」文言を使用し、校閲者は四半世紀も繰り返し使用された「徴用工の強制連行」という言葉が刷り込まれていたために見逃した」が真相であろうと推測している。
今、町行く人々に「慰安婦・徴用工という言葉から連想するのは?」と問いかけたら、100%近くが「強制連行」と答えるであろう。言葉や数字が独り歩きを始めると、如何に明白な反対資料や正論を以てしても、訂正は容易ではない。対処療法は、人口に流布・膾炙するよりもできるだけ早く正確な数字や語句を提示する事しかないように思えるので、2021年の閣議決定は遅すぎたと云えるのではないだろうか。
海上自衛隊の上級司令部には、発簡文書を浄書する前に「文書審査」という手続きが必要である。自分が経験した文書審査では、審査の女神とも称したい女性職員から懇切丁寧ではあるが辛辣な御指導を賜るのが常であった。女神様は「てにおは」「句読点」はおろか、用語の意味、受け手の誤解を招きやすい字句にも精通しており、既に決済を受けた文書でも「決裁者に報告して訂正しなさい」と突き返されたこともあった。
出版会社にも同様の校閲エキスパートが存在するのは確実であろうと思えるので、今回の教科書編集責任者の「見逃し」発言も些かに眉唾にも思えるが、人件費節約のあおりでエキスパートを解雇したために不名誉な結果を招いたのかも知れない。