もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

パイプラインのハッキングを知る

2021年06月04日 | エネルギ

 5月7日にアメリカ最大規模のパイプラインがサイバー攻撃を受けて一時的な可動休止を余儀なくされた。

 サイバー攻撃はシステム復旧の身代金を要求するコンピュータウイルス「ランサムウェア」によるものとされており、パイプラインを運営するコロニアル社がハッカー集団に身代金として500万ドル(5億5000万円)を支払って操業再開にこぎつけたとされる。
 パイプラインと聞けば、産油国の油井から積出埠頭までの原油や欧州国境をまたぐ天然ガスの輸送路と認識していたが、今回のパイプラインは南部テキサス州から東部に精製ガソリンや航空燃料を供給するもので総延長は9000kmにも達する施設であることを知った。ちなみにネット上の写真を見ると、直径4~5mはあろうかと思えるパイプがさしたる防護設備や漏出局限対策もなく地上に敷設されている。パイプの接続箇所には漏出検知センサーが設置されてコントロールセンターで監視や緊急遮断等の処置を行うと聞いているが、各遮断弁間の液体だけでも相当な量になり、米加間のシェール原油・ガスのパイプライン建設が頓挫しているのも肯けるものである。
 アメリカはこれまで「テロリストとは交渉しない」ことを内外に宣言しているものの、拘束されたアメリカ人解放の陰には民間企業が秘密裏に身代金を支払った可能性を指摘されており、コロニアル社がハッカー集団に身代金を支払ったことを公にしたことに関しても政府やメディアから非難の声は少ないように感じられる。数日間の操業停止でも東部各州では在庫が底をついたガソリンスタンドが出ていたそうで、政府も国民生活維持の前には「背に腹は代えられぬ」と黙認せざるを得なかった状態に陥ったのだろうか。

 報道によれば、14日になって今回の犯人と目されているハッカー集団「ダークサイド」が活動停止を宣言したとされている。「ダークサイド」は、自分たちのサーバーにアクセスできなくなったためとしているので、アメリカのサイバー犯罪対策機関が、ダークサイドの発信源やサーバーを特定して遮断したものであろうと推測するが、その詳細が明らかにされることも無いだろうし、明らかにされても理解できるものでは無いだろう。
 地震大国の日本では県をまたぐような石油製品パイプラインは敷設されていないので、パイプラインを重要な社会インフラとして捉えていなかったが、自動車大国にとっては電力・水道にも匹敵する重要な施設であることを知った。秋葉原での自動車暴走がテロリストにヒントを与えて、EUにおける自動車テロに発展したように、アメリカのパイプラインがアメリカにとって国是をも無視しなければならない重要施設であることをテロリストに教えた事案のようにも思える。