もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

米軍協力者の国外退避始まる

2021年07月31日 | 軍事

 米軍のアフガニスタン撤退に伴う、米軍協力者の国外退避作戦が始まった。

 アメリカ政府によれば、第1陣の約200人が30日に米バージニア州の陸軍基地に到着し、1週間ほどで特別移民ビザを得て入国できるとしている。
 同作戦の対象者は、既に米国への特別移民ビザを申請している2万人程度とされているが、通常は申請者が3~5人の家族の同行を希望するために10万人にも達する可能性が有るとみられる。
 アメリカは、特別移民ビザの発給に数か月~数年が必要であることから、先ずビザ手続きが既に最終段階まで進んだ申請者700人と家族2500人をアメリカ国内に、次いでセキュリティー審査を終えていない申請者4000人と家族をクウェートやカタールの米軍基地などに一時収容するとしている。また、中央アジア3国にも一時受け入れを打診しているが、こちらは実現性が低いのではと思っている。
 米軍協力者とは、通訳などで直接米軍に協力した人とされているが、もし、実定法よりもイスラム神法で統治するタリバンが政権を握れば、制裁を受けるであろう「裏切り者」の対象は際限なく広がり、例えば飲食・風俗業種はもとより、就学した女児やチャードルをヒジャーブに変えただけの女性も制裁の対象とされる恐れがあることを考えれば、10万人の救出では到底済まないように思う。
 権力を握った者、若しくは握ろうとする者や価値観を変えようとする者が、旧体制の遺産を破壊するために民衆暴力を扇動することは効果的であるために、しばしば利用される。文化大革命では紅衛兵に実定法を越える毛沢東語録を与え、10月革命やイラン革命では奨励した密告に基づく秘密警察による粛清を許し、現在でも法治国家では禁じ手とされる事後法に依って親日レッテル貼りに勤しんでいる韓国、コロンブス、リー将軍の像を倒して地名や通りの名前を変えるのに忙しいアンティファやBLM、と事例に事欠かない。

 連合軍占領下の日本でも、将兵の接待を生業とする職業が存在し、自分が海自に入隊した昭和30年代後半でも夜の町にはオンリーさんと呼ばれる女性が数多くいた。また、街には「翻訳」の看板を掲げた代読・代筆業も多く、戦後は終わっていないと思ったものである。オンリーさんは、身体的な迫害までは受けなかったであろうが、世間の後ろ指や白眼視に耐えるという生活を、ましてや、混血児や混血児の母親は計り知れない被差別生活を余儀なくされたのであろう。神学の存在しない日本でも迫害に近い差別があったことを思えば、イスラム原理主義下のアフガンで米軍協力者の烙印を押されることは、死に直結するものであろう。
 ともあれ、米軍撤退後のアフガンに、我々が不当と思われる差別・報復・制裁を受ける人々が取り残されないことを祈るものである。


キリンとハイネケン

2021年07月30日 | 自衛隊

 キリンビールが、工場見学を有料とする方針であることが報じられた。

 報道によれば工場見学を有料とする他、見学時に提供される試飲等のサービスにも何らかの制限が設けられるらしい。
 昭和45年度の世界一周遠洋航海に参加することができた。世界一周とは言え初任幹部の練習航海が主目的であるために、寄港も10か国で実質は単なる地球一周と呼んだ方が適当であることは云うまでもない。そんな中でオランダのアムステルダム港に寄港して史跡研修と銘打たれたバスツアーでの出来事である。
 漸く下士官(3海曹)になった下っ端であり、ツアーがオランダ海軍の好意であるのか日本大使館の手配(防衛庁負担)によるものかは覚えていないが、運河・風車・チューリップ畑を見学したことは覚えている。そして、最後の見学はハイネケンビールの工場であった。
 当時の日本でハイネケンビールと云えば、ちょっと高級なバーの洋酒棚の一角に並べられている程度で、我々薄給の身には手の出ない物であったと記憶している。
 工場見学を終えて、ゲストホールに集合した際、テーブルには既にハイネケンの小瓶が整然と並べられて我々(総勢200名程度)を待っていた。ツアー指揮官(概ね少壮の尉官)の合図で試飲が始まったが、当然のことながらものの30秒で呑み終えてしまった。あまりのあっけなさにハイネケンの広報担当がにこやかに追加サービスを担当者に命じたのが騒動の発端であった。その後は追加しても追加してもあっという間で、最後には20名ほどの担当者が運搬・開梱・配布する有様となった。試飲がどのようにして終了したのかは覚えていないが、世界一のビール会社との矜持からハイネケンが断るとは思えないので、ツアー指揮官が強権的に終了したものであろうが、時すでに遅く空箱が山のように積み上げられてのお開きであった。
 おそらく1000本以上は呑んだものと思えるが、ビール代をハイネケンが負担したのか、オランダ海軍が補填したのか、日本政府(防衛庁)が弁済したのかは知らないが、翌日のツアーでは追加の試飲は無かったそうである。

 今にして思えば、浅ましい国辱行為であるが、バスツアー中の運河では水を掛けられたり風車では老婦人から罵声を浴びせられたりと、参加者には些かのフラストレーションが溜まった状態であったことは知って頂きたい。昭和28年の明仁皇太子殿下、昭和40年の常陸宮殿下御訪問によって幾分改善されたとはいえ、当時もオランダの反日感情は強かったが、団体行動には感情的に反応するものの、少人数で行動する上陸員が直接に危害を受けることは無かった。
 それにしても、あの時に飲んだハイネケンビールが大変に美味かったことは今でも覚えている。


連合会長のインタビューを読んで

2021年07月29日 | 野党

 神津里季生連合会長のインタビュー記事を読んだ。

 主題は、先に同じ文言の政策協定を立憲民主党・国民民主党の3者間合意では無くそれぞれと個別に締結したことに関して、3者間合意を阻んだ最大の要因である「全体主義」と「内摂概念」については明言を避けて「捉え方は都合の良いように・ご勝手に」というスタンスを維持する等、立民・共産の選挙居力に配慮した歯切れの悪さであるが、共産党嫌いの一部単産に配慮して現野党が政権を担った場合にも共産党との連立や共産党の閣外協力は完全否定する内容となっていた。
 また、奇異に思ったのは会長の「国会議員は我々が知りたいことを政府に問い質すのが役割」との言葉である。中学生に聴いても「国会と国会議員の権能は法律を制定して行政を制御・監視すること」と答えるだろうが、連合会長にあって国会議員とは喫緊の経綸は措いて「モリ・カケ・サクラ質問」に血道をあげる蓮舫・辻元・福山・杉尾各議員などが国会議員の鏡であるのだろうか、それとも立国両党には国政担当能力は無く、精々が政府のあら捜しが適任とのレトリックであるのだろうか。
 特定団体の代弁・利益誘導を一義とする議員は、族議員或いは組織内議員と呼ばれ、これまで野党は自公に対して政経分離・政教分離と厳しい姿勢を見せていたが、連合会長の言葉からは応援する立民・国民は恰も連合の丸抱え若しくは薬籠中の政党と捉えていることは明らかで、これまでは労組出身議員は少数であるために漫然と見過してきたが、これからは連合族議員というカテゴリィや政労分離若しくは政連分離なる造語が必要になるのかも知れない。
 小池百合子都知事は希望の党の結党に際して「全てのしがらみからの脱却」を挙げて喝采を浴びた。自分は小池氏のパフォーマンス過多の政治姿勢は必ずしも評価しないが、政治家が一部の利益代表であってはならないとする氏の主張には賛成である。連合が「しがらみ」として今まで以上に存在感と影響力を増し、意に添わぬ走狗議員を烹るような事態はあってはならないように思う。

 一般社会でも資金力や技術力に大きな差がある2社と、骨幹である箇所を曖昧にした同一の契約書で契約することは考えられないと思うが、ゴリ押し的に成立した政策合意は、連合・立民・国民の3者が論語の説く「民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず」の具現を図ったもののように思える。
 「どうせ政策合意の文言・真意など有権者は読み・解きはしない」という3者の驕りと有権者無視が心底にあるように疑うのだが、それでも応援しますか。


南北直通電話回線の再興に思う

2021年07月28日 | 韓国

 昨2020年6月以降遮断されていた南北直通電話回線が再興されたことが報じられた。

 電話回線再興の陰には本年4月以降に複数回の信書交換があったとされているので、再興には文大統領の懇請と金正恩総書記のしたたかさが透けて見えるように感じられる。
 2019年2月にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂したのは、仲介役として存在感を示したかった文大統領の失敗が決定的であると観ている。1回目の米朝首脳会談では実現性は絶望的ながら曲がりなりにも北の非核化について対話を継続することで合意していたが、2回目の首脳会談までの間の南北首脳会談に於いて文大統領がトランプ政権の意に反して、北の非核化というゴールを朝鮮半島の非核化に動かし、更には朝鮮戦争の終結・平和協定締結という新たなゴール設定に同意したことが大きいと思っている。さらには、北の非核化のステップ(老朽した核実験施設の破棄等のまやかしであったが)に応じて韓国が国際社会に対して働き掛けるとともに韓国独自で支払うとした対価(南北鉄道連結、経済食糧支援等)の全てが空手形であったことも見逃せないが、韓国には北への経済制裁という国連決議を取り消す力や、国連決議に反して援助することで国際社会から孤立することに耐える力が無いことを文大統領は見誤ったものであろうか。文大統領の対日姿勢をマスターベーションと評して実質的に更迭された在韓相馬弘尚公使の見立ては、対米朝姿勢にも当て嵌まる様に思える。
 今回の南北電話回線の再興は、バイデン政権の対北動向を瀬踏みするために首席報道官(文大統領)を使って北が送ったシグナルと云う見方が一般的であるが、任期1年を切った文大統領が後任政権の対北政策に引き継がせる遺産作りとする観測もある。前政権の残した対日外交遺産の全てを弊履の如く捨て去った文大統領が、自身が遺し得るかも知れない対北外交方針については継承されるべきとするのは理解できない独りよがりであるが、相次ぐ北朝鮮のしっぺ返しに遭ってピエロに堕しても平然としている文大統領の面目躍如と観るべきなのだろうか。

 文大統領の東京五輪開会式出席のための来日は見送られたが、一つの、もしかして最大の理由は、東京大会への南北統一参加を拒否するとともに開催自体を痛罵していた北朝鮮に対する配慮であったのかも知れない。
 北朝鮮では緊急米の軍・民備蓄庫が案に相違して空で、関係者の粛清・降格が取り沙汰される等、経済食糧事情は更に逼迫しているとも伝えられているので、金正恩総書記としても韓国を利用せざるを得ない窮状に追い込まれているのかも知れないが、頼られた韓国には「仏の顔も三度まで」と云う格言は無いようである。


上陸・外出について

2021年07月26日 | 自衛隊

 自衛官にとって最大の娯楽、楽しみは、世間と同じく外出である。

 艦艇では外出ではなく上陸と呼ぶが、いろいろな決まり・制約があり、上陸の種類と概要を思いつくままに略記すると。
 ・普通上陸:当直シフト以外で階級別に一定割合で許可される通常の上陸。
 ・半舷上陸:乗員の半数を上陸させるもので、上陸の機会が2日である場合や、緊急出港が予想されたり警戒を要する外国港湾で付与
 ・特別上陸:主として当直中に家族保護等のための緊急な場合に付与。各職域の送別会等に時間を区切って付与する場合もある。
 ・入湯上陸:真水保有量が少なかった時代や真水保有量の少ない小型艇で、入浴のために時間を区切って半舷上陸の形で付与。自分の経験では3回あるだけ。
 ・賞与上陸:円滑な艦内生活のために定められた普通役員と呼ばれる食卓係・衛生(厠)係等に従事した場合1カ月に1日の割合で当直日に与えられる上陸
 ・捕虫・捕鼠(そ)上陸:相当量のアブラムシや鼠1匹を捕まえた場合に1回、当直日に与えられる上陸。ただし、衛生状態の整った現在では無い、若しくは空文化
 ・区域外上陸:通常の交通手段で片道2時間以上4時間未満の時間を要する地域に行動する場合に申請・許可。
 と事細かく定められている。
 普通上陸は、艦艇の大小や乗員の多少によって差異はあるが、現役中は海士3日に2日(2/3上陸という。以下同じ)、2・3曹は3/4、1曹は4/5、CPO(先任海曹)・幹部は5/6日が標準的であったが、おそらく現在でも同じであると思う。自分の若年時代は平日1/4・土・日2/3上陸で、平日は概ね週1回の上陸であるが運悪く上陸日が航海日に当たって上陸できないこともしばしばであった。
 上陸が如何に貴重であるかは、1か月間食器洗いや便所掃除に頑張って1回の上陸を賞与(ボーナス)として与えられることに端的に表されていると思う。
 懲戒処分には至らない程度の悪さには、CPO権限による「上陸止め」という刑罰がある。上陸止めは、通常は期間で示されるが意地の悪いCPOは上陸可能回数で示すので、航海などで上陸出来ない日はカウントされないために思った以上に日数がかかることがある。また、上陸止めは、懲戒処分待ちの状態でも発動され、いわば未決拘留であるが被告人は「少々処分は重くてもいいから早く処分申し渡しを受けて上陸止めが解除される」ことを願うのが普通(実体験)である。

 上陸が乗員最大の楽しみであることは洋の東西を問わないようで、アメリカ海軍では上陸をliberty partyと呼び、将に”自由だ”の叫び声が聞こえてきそうな字面である。さらに上陸止め刑罰もあるらしく、他の乗員がliberty partyに出艦する際に、仲間から冷やかされながらペンキ塗りをしている兵隊をよく見かけるし、佐世保のニミッツパークでは兵隊がひたすらに穴を掘っては埋め戻すことを繰り返している光景もおなじみである。