もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

WTO事務局長選に思う

2020年06月30日 | 社会・政治問題

 WTO(世界貿易機関)事務局長選に韓国産業通商資源省の兪明希氏(女性)が出馬することが報じられた。

 元アゼベド事務局長(ブラジル)は2013年に第6代事務局長に選出されて現在2期目であるが、WTO改革が進まないことから任期を1年残して退任する。現時点で後任選挙に立候補を表明しているのはメキシコ・ナイジェリア・韓国(EUは出馬断念)であるが、誰が当選しても西側諸国(特にアメリカ)が納得できるような改革は実現できないだろうと観られており、上級委員の選考・選出を拒否しているアメリカの姿勢が変化することはなく、WTOの機能不全は近い将来には解消できないと思われる。韓国は、日本の対韓輸出管理の厳格化に対してWTOに提訴したが、提訴を担当したのが兪明希氏であることを思えば氏が当選した場合には、今まで以上にWTOの公正さが損なわれることが予想される。兪明希氏は立候補表明に際して「紛争解決機能の実効性を失うなど危機にあるWTOの交易秩序と国際協力体制を復元し強化することが、私たちの経済と国益の向上に重要だ」とし、「高まっている私たちの国の地位に相応しく、国際社会の要求に主導的に貢献する時が来た」と述べている。このコメントについて日本のメディアは一様に「WTOの中立理念を述べている」と報じているが、自分は「当選後は韓国経済のために働く」と公言しているものと解釈している。「韓国経済のため」は貿易管理体制を中国主導型に変更させる間接表現に他ならず、こうなれば15の国連機関のうち中国が意のままに操れる機関はWHO・WTOを含めて6機関にも及ぶこととなる。

 先に日本が提訴した「韓国の福島県産品輸入規制問題」では、科学的根拠を認めて日本の主張を妥当とした小委員会(パネル)の裁定について上級審が「韓国の食品衛生法に合致しており妥当」と韓国国内法を優先するという国際調停機関としては不可解な裁定に煮え湯を飲まされた日本としては、WTOを更に恣意的に運用するであろう兪明希氏の当選阻止に全力を挙げて欲しいと願うところである。


専門家会議の反省

2020年06月28日 | コロナ

 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」)の改組が報じられた。

 専門家会議は、2020年2月に中国コロナ対策について医学的な見地から助言等を行うために新型コロナウイルス感染症対策本部の下に設置されたものであるが、6月24日に「新型コロナウイルス感染症対策分科会」として改組された。改組に対して識者の一部には、政治家の独断であり専門家の意見を封じるものとする意見が多いようであるが、専門家会議の座長が「我々も前のめりになり過ぎた」と述べているのが真相であるように思う。専門家会議は対策本部長(総理)の幕僚であり政策の決定や遂行に関しては口を閉ざすべき存在であったが、見解を発表したり政策の適否を表明する等、恰も政策決定機関や政策遂行の指揮系統の一部と誤認される言動が見受けられために、中国コロナ対処は専門家会議と総理の双頭制となって経済政策との整合性を欠くことに繋がったように思う。参謀が直接隷下部隊の戦闘を指揮することは、日露戦争の旅順要塞攻撃において満州軍総参謀長の児玉源太郎大将が隷下の乃木希典大将指揮の第三軍を作戦指導という名目で直接指揮したことに代表される。児玉大将の作戦指導については、乃木大将の更迭を避けるという満州軍司令官大山巌大将の指示に基づいて行われて成功した事例であるが、大東亜戦争で大本営参謀の辻正信中佐が現地作戦指導と称して行ったポートモレスビー作戦やガダルカナル島奪回作戦はことごとく失敗している。本ブログでも度々書いたことであるが、幕僚は定量的な分析によって序列化した複数の案を指揮官に提出することに尽き、どの案を採用するかは指揮官の専権判断で最終責任も指揮官が負うものである。幕僚は作戦立案に当たっては第一線から距離を置いた冷めた目で全体を俯瞰的に捉える黒子に徹するべきであり、過度に1側面にのみ拘れば精緻な作戦計画は立案できないように思う。以上のことから、改組された分科会には経済担当を含めて多方面の有識者が名を連ねるとされているので、感染者の抑制・経済活動・出入国管理等にバランスの取れた提言が期待できるのではないだろうか。

 今回の分科会とよく似た存在として軍隊(自衛隊)の司令部組織がある。司令部は作戦・情報・後方・通信等の分野に区分され、参謀長が各分野の整合を図り注力の方向を纏めて指揮を補佐することとなっているが、軽易な専権事項を除いて直接に部隊に命令する権限は有しない。そのために、極論であるが参謀は人格を持ってはならないと主張する人も居る。今回の分科会が行政組織系統樹上のどの位置に置かれるか判らないが、以後の中国コロナ対処で有効な存在であって欲しいと願うと同時に、指揮系統(ライン)と参謀(スタッフ)の在り方と権限について、国民も認識する必要があるのではないだろうか。


基地攻撃能力とは?

2020年06月27日 | 軍事

 イージスアショア配備計画の断念に伴って、敵基地攻撃能力の整備が再浮上している。

 これまでも敵基地攻撃能力の如何については幾たびも議論されてきたが、政府は「敵基地攻撃能力保有は憲法上は許されるが、専守防衛という政策的な観点から保有しない」としていた。しかしながら、具体的に敵基地とは何を指すのか、敵基地攻撃能力とは何を指すのかがはっきりしないままに議論されてきた感がある。基地にも、戦線にある小規模移動基地、やや後方に置かれた中規模の指揮・補給品集積基地、さらに後方の恒久的な司令部・飛行場・ミサイルのサイロ・通信施設・補給廠と様々であり、それを破壊するための兵器も極めて多様である。河野防衛相は25日、外国特派員協会で「新たなミサイル防衛体制を巡り、「敵基地攻撃能力」の定義を整理した上で議論し、専守防衛を逸脱する「先制攻撃」と混同される懸念を払拭する」と述べたが、ウサマ・ビン・ラディンが米軍の戦略・戦術の中枢であるペンタゴン攻撃に使用した武器は乗っ取った民間旅客機であったことを思えば、敵の基地とそれを攻撃する兵器を定義づけることは甲論乙駁を招いて極めて困難ではないだろうか。多くの国民が漠然と考えている敵基地攻撃能力とは中距離弾道弾や巡航ミサイルであろうが、兵器は使用する・又は使用を命じる者の意志によって攻守いずれにも効果を発揮するものであり、専守防衛に限定した兵器?は防空壕や掩体壕しかない。最大の敵基地攻撃能力は単に兵器の種類を特定するものでは無く、「敵の侵攻を阻止するためには、敵の基地を攻撃することも厭わない」という断固とした意志とその表明であると思うが、兵力整備の方向性や防衛予算の制限のためには、遅まきながら「日本版敵基地攻撃能力」なるものを定義することは若干の進歩であるかも知れない。繰り返しになるが、世界の軍事常識には専守防衛兵器なる概念は存在しない。

 この動きに対して早速に朝日新聞は「日本が攻撃能力を持つことになれば、中国など近隣諸国の反発が高まるのは必至だ」と分析・牽制している。この姿勢は朝日新聞に限らず、公明党、野党、有識者の論調に共通するものであろうが、中国海警局(中国人民軍の部局に改編)の公船が74日間も尖閣水域に留まって複数回の領海侵犯を繰り返し、奄美大島北東の接続水域内に中国の潜没潜水艦が跳梁している今も、中国への土下座を誘導・強要する姿勢は国益に照らして如何なものであろうか。


急性疾患と慢性疾患を知る

2020年06月26日 | コロナ

 産経新聞で、立正大学長の吉川洋氏の論を読んだ。

 論は、中国コロナ禍について述べられたものであるが、二つの点でなるほどと思った。1は、今回のコロナ禍で医療崩壊が問題視されたのは、超高齢化社会に対応するために日本の医療体制の重点が急性疾患対応型から慢性疾患対応型に変化を余儀なくされた点であるとしていることである。云われてみれば、救急車で運ばれるような急性疾患や外傷患者に対応する部門よりは、加齢に依る臓器劣化に起因する慢性疾患対応に資源を多く割いているであろうことは推測できるし、昨年に経験した入院生活でも入院患者の大半は後期高齢者と思われる人々であった。慢性疾患患者に対する医療は主として定期的な検診と投薬治療であろうし、医師にとっては余命を測り得るもので、死はその延長線上の必然であろう。一方、数時間のうちに重篤化して死亡する危険性と院内感染を引き起こす可能性が有るものの、いつ起きるか判らない中国コロナのような感染症のために多くの資源を常備することは得策ではなく、ある程度採算性を無視できる公立病院でも不要・不急の機能とされるだろうし、採算を重視する民間医療機関がそのような機能を常続的に維持することは絶望的である。クルーズ船対処以降に自衛隊中央病院では医療関係者を含めて1名の感染者も出さなかったことが評価されているが、戦死傷対処という究極の急性疾患対処を目標とする軍病院であれば、対生物兵器防除施設・装備を持って訓練を行っていたための在り得べき結果であろうと考える。以上のことから、今回の中国コロナ対処の教訓として、一定規模以上の医療機関は非採算的な感染症対処能力の維持を義務付けるとともに、税制面での優遇措置等を講じるべきではないだろうか。2は、感染症に対する都市の脆弱性である。吉川氏は「100年前、医療先進国のイギリスと、後進国日本の平均寿命が同じ」であったことをあげて、都市への人口集中が感染症等の防除には致命的であるとしている。中央官庁や大企業の本社が東京に集中している構造を一朝一夕に変えることは不可能であろうが、今回の在宅勤務の実績等を踏まえて努力すべき目標であるように感じられる。

 「ポツンと一軒家」なるTV番組がある。いろいろな理由と主張から、一般的には辺鄙としか言えない一軒家に住む人々を紹介する番組であるが、住人は決して世捨て人ではなく物理的には近隣住民や社会と適当な距離を置きつつも自由に・闊達に生活している。将に羨ましい生き方と思うものの、既に知力・体力・金力の限界にある身では「ポツンと一軒家」生活に転舵不可能であるが、若い諸氏にはお勧めできる生き方かもしれない。


朝鮮戦争勃発の日に際して

2020年06月25日 | 軍事

 朝鮮戦争勃発から70年が経過した。

 朝鮮戦争は1950(昭和25)年6月25日に金日成率いる北朝鮮軍が事実上の国境線であった38度線を越えて韓国を攻撃したことによって始まり、以後、国連軍(アメリカ)と中共義勇軍(中国)の代理戦闘の趣となって1953年7月27日の休戦協定までの攻防に終始し、現在の軍事境界線に依る南北分断を決定づけた戦争と認識している。朝鮮戦争は現在も休戦状態であり、2018年4月に板門店で行われた第3回南北首脳会談で、2018年中の終戦(停戦・終戦・平和条約)を目指す板門店宣言が発表されたが実現には至らないどころか、現状はこれまでに類を見ないほどの緊張関係にあるように感じられる。朝鮮戦争には国連軍として22か国が参戦したが、アメリカの占領下にあった日本は参戦することもなく戦争特需によって経済が回復したことが大きいとされる。しかしながら、国連(アメリカ)軍の能力補完のために要請という形ではあったが戦争に協力した(させられた)集団があったことは案外知られていないのではないだろうか。国連軍の敗勢を転換させたとされる仁川逆上陸作戦を含む補給・輸送支援には、港湾荷役や輸送業務に4,000人が従事し、元山・仁川・鎮南浦・群山では特別掃海隊が46隻の掃海艇【駆特(駆逐特務艇)、哨特(哨戒特務艇)】・試航船と1,200名の隊員が掃海作業に当たり、機雷27個を処分する成果を挙げる一方で、掃海艇2隻沈没、1人死亡し、8人が負傷するという被害も受けている。また、国連軍病院で63人が勤務していたともされている。韓国大統領府によると朝鮮戦争勃発70周年を迎える本日、文大統領がいかなる形であれメッセージを出す予定としているが、南北対話の劇的進展と成果を誇る文大統領を歴代大統領には類を見ないほど公然と罵倒している北朝鮮に対して、アヒル口の文大統領は何を称え、何を呼び掛けるのかと興味津々である。北朝鮮の首席報道官と揶揄されながらも、ひたすら南北融和・祖国統一を念仏のように唱える文大統領の行動の原点は、彼の出自に原因があると考えるのは的外れであろうか。文大統領の両親と姉は、朝鮮戦争中の1950年12月に北朝鮮の咸鏡南道咸興市から米国の貨物船で脱北した避難民であり、祖父母は北に残したままだったとされている。そのため、南北統一は父祖の地に帰ることができる唯一の方法であり、そのためには大韓民国と国民の将来など眼中にないもののようである。

 ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の回顧録「それが起きた部屋」の米韓首脳会談に関する描写が青瓦台の発表と食い違っていることから、これまでの青瓦台の発表を疑問資する声が聴かれる。これまでも、青瓦台の発表をアメリカ政府高官が覆すことが度々であったが、今回のボルトン氏の描写と青瓦台の発表の間には同じ現場にいたとは信じ難いほど隔たりが大きいとされている。国民と相手国に2枚舌を使い分け、米中双方に阿るものの中国訪問では晩餐会も開かれない冷遇にも恬として二股外交を貫く強靭な精神力は、弱腰外交の我が外務省も見習うべきかもしれない。