ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

萌の朱雀

2007年12月16日 | 映画レビュー
 これはつまらない。

 「沙羅双樹」と比べるといかにも完成度が低くて、「模索中です」っていう作品だ。映画館で見たときに全編ほぼ寝通してしまった「殯(もがり)の森」に比べても映像の質が格段に落ちる(ちなみに、「殯の森」がつまらなかったわけではなく、体調と環境の問題であった)。やたら画面が白っぽくて色がとんでいたり(わざと?)、音が聞き取れなかったり、何を狙っているのかよくわからない沈黙や「空白」を作ってみせるあたり、同じような手法で作られた「沙羅双樹」よりずっと稚拙な印象を受ける。

 一つには、奈良県の山奥に住む家族の構成をきちんと説明しないために、肝心の、少女の淡い恋心や青年の複雑な心理を観客に納得させられないことが原因の一つと思われる。祖母・息子夫婦とその子どもたち、という直系家族の話かと思いきや、実は主人公一家の男の子はこの家の息子ではなく、両親の離婚によって叔父夫婦に引き取られた子どもであるのだ。まずこれを押さえておかないと後の展開がさっぱりわからない。

 あまりにも淡々と山村の風景が映し出され、日常生活がドキュメンタリータッチで流れていくため、わたしはこの一家の家族構成を把握できなかった。DVDを見ている最初のうち、うちの家族たちが周りで騒いでいたため、ちっとも音声を聞き取れなかったのが原因だ。それにしてもこんなに画面の緊迫度が低い映画なんだから、うっかり見過ごさない/聞き逃さないようにそのあたりはちゃんと説明してほしかったわ(涙)。

 この映画は役者に素人を多用し、演技させずに自然な流れを作っているかのように見えて、ストーリーの流れじたいはちっとも自然じゃない。父親の蒸発も母親の里帰りもその理由に説得力がない。誰にも焦点を合わせないような淡々とした撮り方をしているからだろう。しかしそれでも、少女の恋心や家族への揺れる思いだけはよく伝わってくる。

 悪口を書いたようだが、ときどきはっとさせるようなショットがあり、やはりこの監督が力を秘めていることは感じさせる。「沙羅双樹」がお気に入りなだけに厳しい評となったようだ。ただ、このなんともいえない薄い空気感の映画が好きな人にはぴたっと受けると思うので、試しにご覧になることをお勧めしておきます。あ、音楽はいいです、とっても。ピアノの美しい調べにうっとりします。(レンタルDVD)

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日本、1997年、上映時間 95分
監督・脚本: 河瀬直美、プロデューサー: 仙頭武則、小林広司、撮影: 田村正毅、音楽: 茂野雅道
出演: 國村隼、尾野真千子、和泉幸子、柴田浩太郎、神村泰代、向平和文、山口沙弥加

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