これは面白かった! 目が覚めるコメディでございます。巡礼の旅だけあって、罰当たりなシーンのない、安心映画なので家族揃って見られます。と言いたいけど裸体が二度出てきます、為念。四国のお遍路さんみたいなのがキリスト教徒の世界で今でも生きているのね、興味深かった。
さて物語は…。
亡き母の遺産を相続するにはパリからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(フランス語でサン・ジャック)まで徒歩で1500キロの巡礼の旅に、それも仲の悪い姉兄弟そろって行かねばならないと知った3人は、嫌々ながら出発したのだった。旅のお供はガイドのギイと若い女性二人、青年二人(なぜかイスラム教徒)、しかも男の子の一人は聖地メッカへの巡礼だと思い込んでいる。もう一人の中年女性はいつもスカーフを頭に巻いて颯爽と歩く。総勢8人、バックパックを担いでの二ヶ月の旅はどうなることだろう…
一行のキャラがはっきりしていて大変面白い。特に中心となる中年3人きょうだいの仲の悪さが笑わせる。彼らがいい歳をしてつかみ合いの喧嘩をするところなんて可笑しくってたまりません。嫌々歩いているものだからいろんな小事件・笑事件を巻き起こす。
フランスってこんなに田舎だったのね、と思わせるひたすら美しい田園風景が広がるが、最初のうち、一日7時間の山歩きに慣れない彼らは景色を楽しむ余裕もない。きょうだいは喧嘩ばかりしているし、少女達を目当てにツアーを申し込んだイスラム教徒の若者はお目当ての少女に振られるし、失読症の少年ラムジィはこの旅の間に誰かに文字を教えてもらおうと調子のいいことを考えているし。と、まとまりのない一行がいつしか心を通わせるようになるのだろうと、だいたいが先は読めるのだけれど、途中で起きるいろんな「事件」やすれ違う人々のキャラクターが面白いので、見ていてちっとも飽きない。
キリスト教の聖地へ向かうのにガイドはアラブ系だし、一行の中にイスラム教徒が二人混じっているというのがミソなのだ。コリーヌ・セロー監督は前作「女はみんな生きている」で強烈な男性批判を繰り広げてフェミニストらしいところを見せたが、今回は男のバカぶりを嗤うだけではなく、視線がもう少し柔らかくなっているし、硬直したフェミニスト自身への批判もチクリと見せている。
本作ではフェミニズムという視点だけではなく人種や宗教による差別という問題を組み込んだことで物語の幅が広がった。セロー監督自身は無神論者だというが、その意見を代弁するのが3人きょうだいの中のクララだ。彼女はベテランの高校フランス語教師で、ラムジィに文字を教えることになる。巡礼の旅でありながら宗教色が薄いのはセロー監督の個性ゆえだろうか。イスラム教徒二人にしてもメッカに向かっての礼拝の場面が出てこないし、巡礼者たちが宿泊する施設や教会でも祈りの場面がない。とどめは差別者神父の登場だ。巡礼の映画なのに宗教に批判的な目を向けているのが面白い。困難な旅の最後に8人が家族のように仲良くなるのも、彼らの宗教色の薄さゆえではなかろうか。
巡礼者たちが見る夢もシュールで含意に富み、最後のどんでん返しも微笑ましく、楽しめる一作です。
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SAINT-JACQUES... LA MECQUE 上映時間112分(フランス、2005年)
監督・脚本:コリーヌ・セロー、製作:シャルル・ガッソ
出演: ミュリエル・ロバン、アルチュス・ドゥ・パンゲルン、ジャン=ピエール・ダルッサン、マリー・ビュネル、パスカル・レジティミュス、エメン・サイディ、ニコラ・カザレ、マリー・クレメール、フロール・ヴァニエ=モロー
さて物語は…。
亡き母の遺産を相続するにはパリからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(フランス語でサン・ジャック)まで徒歩で1500キロの巡礼の旅に、それも仲の悪い姉兄弟そろって行かねばならないと知った3人は、嫌々ながら出発したのだった。旅のお供はガイドのギイと若い女性二人、青年二人(なぜかイスラム教徒)、しかも男の子の一人は聖地メッカへの巡礼だと思い込んでいる。もう一人の中年女性はいつもスカーフを頭に巻いて颯爽と歩く。総勢8人、バックパックを担いでの二ヶ月の旅はどうなることだろう…
一行のキャラがはっきりしていて大変面白い。特に中心となる中年3人きょうだいの仲の悪さが笑わせる。彼らがいい歳をしてつかみ合いの喧嘩をするところなんて可笑しくってたまりません。嫌々歩いているものだからいろんな小事件・笑事件を巻き起こす。
フランスってこんなに田舎だったのね、と思わせるひたすら美しい田園風景が広がるが、最初のうち、一日7時間の山歩きに慣れない彼らは景色を楽しむ余裕もない。きょうだいは喧嘩ばかりしているし、少女達を目当てにツアーを申し込んだイスラム教徒の若者はお目当ての少女に振られるし、失読症の少年ラムジィはこの旅の間に誰かに文字を教えてもらおうと調子のいいことを考えているし。と、まとまりのない一行がいつしか心を通わせるようになるのだろうと、だいたいが先は読めるのだけれど、途中で起きるいろんな「事件」やすれ違う人々のキャラクターが面白いので、見ていてちっとも飽きない。
キリスト教の聖地へ向かうのにガイドはアラブ系だし、一行の中にイスラム教徒が二人混じっているというのがミソなのだ。コリーヌ・セロー監督は前作「女はみんな生きている」で強烈な男性批判を繰り広げてフェミニストらしいところを見せたが、今回は男のバカぶりを嗤うだけではなく、視線がもう少し柔らかくなっているし、硬直したフェミニスト自身への批判もチクリと見せている。
本作ではフェミニズムという視点だけではなく人種や宗教による差別という問題を組み込んだことで物語の幅が広がった。セロー監督自身は無神論者だというが、その意見を代弁するのが3人きょうだいの中のクララだ。彼女はベテランの高校フランス語教師で、ラムジィに文字を教えることになる。巡礼の旅でありながら宗教色が薄いのはセロー監督の個性ゆえだろうか。イスラム教徒二人にしてもメッカに向かっての礼拝の場面が出てこないし、巡礼者たちが宿泊する施設や教会でも祈りの場面がない。とどめは差別者神父の登場だ。巡礼の映画なのに宗教に批判的な目を向けているのが面白い。困難な旅の最後に8人が家族のように仲良くなるのも、彼らの宗教色の薄さゆえではなかろうか。
巡礼者たちが見る夢もシュールで含意に富み、最後のどんでん返しも微笑ましく、楽しめる一作です。
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SAINT-JACQUES... LA MECQUE 上映時間112分(フランス、2005年)
監督・脚本:コリーヌ・セロー、製作:シャルル・ガッソ
出演: ミュリエル・ロバン、アルチュス・ドゥ・パンゲルン、ジャン=ピエール・ダルッサン、マリー・ビュネル、パスカル・レジティミュス、エメン・サイディ、ニコラ・カザレ、マリー・クレメール、フロール・ヴァニエ=モロー