ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

麦の穂をゆらす風

2007年04月17日 | 映画レビュー
 アイルランドがイギリスから「独立」したのは1922年。これはイギリス王国の自治領としての独立だった。完全独立は1949年に果たされるが、今なおアイルランド島北部はイギリス領土だ。という程度の知識しかわたしにはない。現代史専攻の人間としてはお粗末極まりないのだが、だいぶ前に見た映画「マイケル・コリンズ」もすっかり内容を忘れているし、なんとマイケル・コリンズが31歳で暗殺されたという結末まで忘れてしまっている! だいたい、リーアム・ニーソンが31歳に見えなかったのだからしょうがない。

 本作に登場するのはマイケル・コリンズのような有名人ではなく、無名のアイルランドの闘士たちだ。村一番の秀才で、ロンドンに出て医学の修行をしようとした医師になりたての若者が、イギリス軍に虐げられる同胞を目の当たりにして駅で踵を返す。その日から彼は独立運動の闘士になった。兄とともにIRAに参加するのだ。本作はこの兄弟の対立と葛藤を通して、アイルランド独立の悲劇を描く。

 重くて重くてやりきれなくて、救いがなくて。同じテーマ、同じような展開なのに、「大地と自由」のようなカタルシスがない。救いがない。それは、生真面目で真っ向勝負のストレートな作風にも表れている。映画的には面白みに欠けるとも言えるだろう。この作品に描かれたことなら小説でも表現できる。

 ただし、理屈っぽいけど、IRA内部の論争は迫力がある。役者の熱演が手に汗握る名場面を作り上げているのはさすがというべきか。いつの時代にも、「敵の譲歩」をめぐって路線の対立は生まれる。だが、それを暴力という形で止揚しようとする態度こそが今のわれわれには赦されないことなのだ。独立のための武力闘争がそのまま内ゲバへと転化していく様子はたまらない。

 若い女性シネードが最後に慟哭しながら言う台詞にケン・ローチの思いの全てが込められている。「二度と顔を見せないで」。

 この台詞が二度語られることに、「暴力の連鎖」の悲劇がある。やはり9.11以後の作品なんだということを痛感する。95年の「大地と自由」のようなある種の救いやロマンティシズムがここでは影を潜めているのだ。ケン・ローチの絶望感は深い。

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麦の穂をゆらす風
The wind that shakes the barley
126分(イギリス/アイルランド/ドイツ/イタリア/スペイン、2006年)
監督: ケン・ローチ、脚本: ポール・ラヴァーティ、音楽: ジョージ・フェントン
出演: キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド、メアリー・オリオーダン、メアリー・マーフィ

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