ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ブレス

2009年02月25日 | 映画レビュー
 ちょっと独りよがりが過ぎたんじゃないのでしょうか、キム・ギドク監督。わたしとの相性でいえば、実に当たり外れの大きい監督です。で、今回は外れ。 

 刑務所で自殺未遂を繰り返す死刑囚に興味をそそられた孤独な人妻が死刑囚に面会に行く。本来ならば面会できる資格もないのだが、「昔の恋人です」と言い張ってなんとか彼と面会をはたし、面会の度に面会室を四季折々の壁紙ではりめぐらせたり服装も四季折々に合わせて替えてみたりといろんなことを試みるけれど、不思議なことについにはその人妻と死刑囚とは情交を交わすこととなり……

 絶対にありえない設定だけれど、そのありえない設定でも、物語の核心部分にリアリティがあれば観客は納得する。そもそも死刑囚が収容されているということになっている刑務所が、日帝時代の刑務所であり、現在では博物館となっているところだ。だから、ヒロインが死刑囚への面会を求める窓口が実はその博物館のチケット売り場であり、その窓口をそのままロケに使っているものだから、どう見ても刑務所の受付には見えず、博物館のチケット売り場にしか見えないところが苦しくもお笑いである。韓国の事情は知らないが日本では死刑囚は刑務所ではなく拘置所に拘置されている。面会も家族しか許されていない。それに死刑囚は雑居房ではなく独房に居るのだ。そのあたりもリアルな世界とは無縁なこの物語に納得できるかどうかが問題となる。

 いや、そもそもがファンタジーなんだからそんなリアリズムはどうでもいいことだとしよう。そこは譲ったとしても、物言わぬ死刑囚と夫に浮気された人妻というおよそ出会うはずのない二人のコミュニケーションになにか切羽詰まったものを描かないと観客には伝わってこないのに、この映画ではそのあたりの描写がまったくない。これではあまりにも独りよがりと言えよう。中国人俳優チャン・チェンを主役に使ったというので、どうやって言葉の壁を越えさせたのかと思ったら彼には一言の台詞もないのだった。台詞がないのならないなりに彼にもっと一人の死刑囚の絶望や悔悟を超えた普遍的ななにものかを呈示されないと、わたしは共感も追体験も得ることができない。 

 それに、面会室での彼らの濡れ場を監視カメラを通して覗き見ている所長(?)の存在というものがまたあざとく狙いすぎ、と思う。演じているのがキム・ギドク監督その人だというではないか。所長と観客と監督が一体となって神の視線となるこの映画には、わたしたち自身の下世話な覗き趣味を冷笑するかのような底意地の悪さが感じられて、品の良さを感じない。テーマには惹かれますが、わたしの趣味には合いませんでした。(R-15)(レンタルDVD)

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ブレス
韓国、2007年、上映時間 84分
製作・監督・脚本: キム・ギドク、音楽: キム・ミョンジョン
出演: チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ、カン・イニョン、キム・ギドク

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2 コメント

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Unknown (パープルローズ)
2009-02-28 09:07:03
これはまだ見てないのですが、きのう「悲夢」を見てきました。これ以上にありえない設定でひきました・・・。ギドクは方向を間違ってるのかもしれませんね。
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実は「悲夢」を (ピピ)
2009-02-28 20:44:18
見ようと思っていたのです。その前に予習として「ブレス」を見て引いてしまったので、「悲夢」を見る気がすっかり失せました。やっぱり見なくて正解だったみたいですね。
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