ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

椿三十郎

2008年03月09日 | 映画レビュー
 実家の両親がやって来たので、久しぶりに家族全員で見られる映画を、ということでS次郎(中学2年)のリクエストで「椿三十郎」を見始めたら、一番ハマったのはY太郎(高校1年)。最後まで大喜びで見ていた。

 ストーリーはとっても単純でわかりやすいがかといって決しておざなりなお話ではなく、椿の花がうまい伏線になってなかなか達者な脚本には感心させられる。リメイクしたくなるのもわかるけど、森田芳光監督はまったく同じ映画を作ったという話だから、なんでそんなことをする意味があるのか、不思議だ。これでええやんか。

 「用心棒」の続編的な作品で、敵役が同じく仲代達矢。仲代はこのときせいぜい30歳ぐらいなのだが、とてもそうとは思えないすごい存在感をまき散らしている。三船敏郎の渋さといい、この当時の役者のオーラは今のものとは比べものにならない。この二人に匹敵できるのは今の若手なら浅野忠信ぐらいかも。

 脚本の巧みさ、構図の大胆さはどちらも「用心棒」に劣るが、それは「用心棒」が面白すぎるからであって、本作だけ見れば十分面白いと評価できよう。用心棒の殺陣も素晴らしかったが、本作の最後に配置された仲代との一騎打ちはあっけなく終わるとはいえ、度肝を抜く場面だ。これは公開当時、相当話題になったのではあるまいか。

 ストーリーの要となる、藩の不正事件というのが実をいうといまいちよくわからなかったのだ。なぜ家老を巻き込む不正事件があのようにまどろっこしい展開を見るのか、全然納得できない。脚本には突っ込みたいところが山のようにあるのだけれど、すべてが「これは映画なんだから」という虚構性の前にはひれ伏してしまうような力があるのはやはりただならぬ作品といえよう。天然ぼけのようなおっとりした奥方と娘、不正を働く奸臣のくせに頭の巡りの悪いお偉方たち、血気盛んなだけで知恵の回らない青年武士たち、といったキャラクターはそれぞれ笑えるのだが、三船の演じた椿三十郎がなぜ青年武士たちに同情したのか、その肝心の部分が説得力に欠ける。

 ところで、夜のお堂の中で武士達が語り合う場面を見たうちの爺ちゃん曰く、「蝋燭一本であんなに明るくなれへんぞ」。まあまあ、そこは映画なんだから、細かいところは言わないの! とにかく息子が大喜びしていたというのが面白いところです。彼らは「白黒の映画なんかいらんわぁ~」「時代劇なんか面白くないわ!」とか文句言いながら「七人の侍」も「用心棒」も大喜びしていたし、この「椿三十郎」もすっかりハマっていたから、やはり黒澤の力は並々ならぬものがあります。

 頼りない公僕たちの義憤に手を貸すアウトローの素浪人という物語の構造が受けた時代性が今も生きているというところが面白い。これはひょっとして2.26事件の青年将校の心性にも通じるものがあるのだろうか。(レンタルDVD)

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日本、1962年、上映時間 98分
監督: 黒澤明、製作: 田中友幸、菊島隆三、原作: 山本周五郎『日々平安』、脚本: 菊島隆三、小国英雄、黒澤明、音楽: 佐藤勝
出演: 三船敏郎、仲代達矢、小林桂樹、加山雄三、団令子、志村喬、藤原釜足、入江たか子、田中邦衛

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