ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

魂萌え!

2007年11月18日 | 映画レビュー
 原作と同じ部分は退屈。原作にない場面は面白い。これって、やっぱり映画は「読んでから見るな」ということかな? いやいや、「博士の愛した数式」は原作・映画ともによかったし、これってやっぱり演出の力量だろう。原作はリアリティが稠密に書き込まれているというものだったけど、映画は「お芝居してます」という雰囲気が強く、いまいちのめり込めない。

 だけど、「妻と愛人の対決場面」は原作より映画のほうが迫力あった。これは三田佳子がうまいからだろう、手に汗握る緊迫感があった。わたしは思わず妻にも愛人にも肩入れしてみてしまって、「あ、どっちの味方なんだろう」と思わず苦笑。

 ラストシーンが原作と全然違って現実感が希薄なのだ。映画的にはこっちのほうが盛り上がっていいと思うけど、原作にあった手堅さというとかリアリティは失われてしまった。それになんであの場面であの映画? 「ひまわり」は何十年ぶりかで観た。懐かしい!

 風吹ジュンの全裸シーンがあるので、ファンには楽しみでは? この歳で入浴場面やベッドシーンに挑むのだから、大したもんです。それにしても団塊世代のおばちゃんたちは強いわ! ボートのシーンは原作にはないけど、この映画ではひょっとしたらここが最高によかったかもね。劇場内は圧倒的に中高年女性が多かったし、わたしの近席のおばちゃんは随所でよく笑っていた。何がそんなに可笑しかったんだろう?

 汐留のホテルが出てくるけど、これはどこかしら、夜景が素晴らしい。今度出張の時に泊まりたくなった。

 団塊世代の女性といっても様々な人がいるだろう。誰も彼もが自己主張が強いわけではないから、敏子のようにおとなしい奥さんがいても不思議ではない。彼女が夫の急死をきっかけに自分を変えていこうとするその姿を共感を込めて描いた原作に比べて、映画はいっそう彼女を飛んでる女へと変身させようとしたのだろう。それは、原作が「いつまでも終わらない日常」の中に敏子が回帰していきつつも、少しずつ何かを変えていけるかもしれないという希望を抱かせ、でもやっぱり何も変わらないかもしれないという不安もないまぜにした微妙な終わり方をしたのに対して、映画のほうは彼女を「映写技師」へと変身させたことによって、「変わらない日常に耐える」ことから跳躍させてしまったことに現れている。この現実味のないラストは、団塊世代の女性達にありえない夢や希望を抱かせる罪作りなものなのか、諦めないことを鼓舞するプロパガンダなのか。阪本順治が彼女たちに与えるメッセージが後者を意図しながら前者に終わってしまうような危惧を抱いた。

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日本、2006年、上映時間 125分
監督: 阪本順治、製作: 李鳳宇ほか、原作: 桐野夏生、音楽: coba
出演: 風吹ジュン、田中哲司、常盤貴子、加藤治子、豊川悦司、寺尾聰、藤田弓子、由紀さおり、今陽子、三田佳子

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