栗塚旭といえば新撰組の土方歳三。これはもう何十年経とうと土方歳三。あのダンディ渋いかっこいい土方さんは空前絶後でありました。その栗塚旭もすっかりはげ上がって好々爺として登場したのにはびっくり。
レビューを書こうと思ったのに、すでにほとんど細部を忘れている!(^_^;)
とにかく端正につくられた映画で、あまりにもお行儀よくきちっと作られているため、なんだか窮屈な感じもする。京都に住む老夫婦の45年の日々がもうすぐ終わろうとしているそのときを淡々と描いた作品で、中高年なら身につまされるようなお話です。子もなく二人きりの生活で妻に先立たれる夫、その悲哀を寡黙な男の後ろ姿で表現した栗塚旭が偉い。
徐々に全身の筋力が衰えていく難病に罹った妻をせっせと介護する夫がいじらしい。夫は神祇調度司という職についている老職人。徒弟を何人か雇っていて、厳しい親方は無口で無愛想な職人気質の人。神祇調度司は神社の神官や巫女の装束を作る仕事を司る。この手際がまた興味深いのだが、映画ではあまりその物造りの現場が映らなかったのが不満だ。この職人がいったい自分の仕事のどこにどうこだわっているのか、もう少し丁寧に描いてくれればさらに映画の感動や細部の豊かさがアップしたというのに。せっかく京都の町屋、京都らしい職人仕事を映していながらその魅力を存分に描いていないのは惜しまれる。いや、この映画のコンセプトはこの「慎ましさ」にあるのかもしれない。ほれみよこれみよとばかりに職人芸を映して見せたり感動的に話を盛り上げたりすることを野村恵一監督は嫌ったのかもしれない。
妻が徐々に衰えていくという悲惨な生活にもかかわらず、妻を介護する夫にはそれほど悲壮感がない。夫婦の会話もきわめて物静かで何気ない。そこにはもう、長い間の夫婦生活がもたらした<安心>が二人のあいだに腰を据えているのだ。妻を慰めようと、夫はいつも水を汲みに行く神社の境内で通りすがった学生手品師を雇うことにした。プロ顔負けのいい腕をしたマジシャンは実は医学生。病気の妻のもとにせっせと通ってきて手品を教えてくれるうち、彼ら三人の間には暖かな気持ちが流れるようになる。
枯れた老夫婦にもその昔駆け落ちだの心中未遂だのといった情熱的な過去があった。そのことは夫婦の姪(池坊美佳)の口から語られる。夫婦の若かりし頃の回想は幻想的なダンスシーンで描かれる。しかしこの回想場面は決して実際に彼らの過去がそのようであったということではなさそうだ。これは象徴的に挿入されたタンゴのダンスシーンのようにわたしには思えた。
妻が亡くなってそれでお仕舞いかと思ったけれど、ドラマはまだ続く。そりゃそうだ、妻が死んでも世界は続くのだから。一人残された夫の寂しさわびしさが静かに胸に迫る。そして一方で、若い医学生の恋が対比され、一組の夫婦は一方が死んでその物語を閉じ、一組の恋人たちはこれから漠たる未来へと向かう。この対比はちょっと図式的すぎたかもしれない。あと、不満点はゲスト出演した素人二人の演技があまりにもひどい。きたやまおさむと池坊美佳は京都らしい人材ということで抜擢されたのかもしれないが、雰囲気ぶち壊しである。
とにかくわたしは昔から好きだった栗塚旭がいっそう渋いおじいさんになっていたことにひたすら感動した。もうこれだけでこの映画を見たかいがあったというもの。(レンタルDVD)
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二人日和
Turn over 天使は自転車に乗って(旧題)
日本、2004年、上映時間 115分
監督: 野村恵一、プロデューサー: 山田哲夫、脚本: 野村恵一ほか、音楽: 門奈紀生
出演: 藤村志保、栗塚旭、賀集利樹、山内明日、藤沢薫、池坊美佳、きたやまおさむ、
レビューを書こうと思ったのに、すでにほとんど細部を忘れている!(^_^;)
とにかく端正につくられた映画で、あまりにもお行儀よくきちっと作られているため、なんだか窮屈な感じもする。京都に住む老夫婦の45年の日々がもうすぐ終わろうとしているそのときを淡々と描いた作品で、中高年なら身につまされるようなお話です。子もなく二人きりの生活で妻に先立たれる夫、その悲哀を寡黙な男の後ろ姿で表現した栗塚旭が偉い。
徐々に全身の筋力が衰えていく難病に罹った妻をせっせと介護する夫がいじらしい。夫は神祇調度司という職についている老職人。徒弟を何人か雇っていて、厳しい親方は無口で無愛想な職人気質の人。神祇調度司は神社の神官や巫女の装束を作る仕事を司る。この手際がまた興味深いのだが、映画ではあまりその物造りの現場が映らなかったのが不満だ。この職人がいったい自分の仕事のどこにどうこだわっているのか、もう少し丁寧に描いてくれればさらに映画の感動や細部の豊かさがアップしたというのに。せっかく京都の町屋、京都らしい職人仕事を映していながらその魅力を存分に描いていないのは惜しまれる。いや、この映画のコンセプトはこの「慎ましさ」にあるのかもしれない。ほれみよこれみよとばかりに職人芸を映して見せたり感動的に話を盛り上げたりすることを野村恵一監督は嫌ったのかもしれない。
妻が徐々に衰えていくという悲惨な生活にもかかわらず、妻を介護する夫にはそれほど悲壮感がない。夫婦の会話もきわめて物静かで何気ない。そこにはもう、長い間の夫婦生活がもたらした<安心>が二人のあいだに腰を据えているのだ。妻を慰めようと、夫はいつも水を汲みに行く神社の境内で通りすがった学生手品師を雇うことにした。プロ顔負けのいい腕をしたマジシャンは実は医学生。病気の妻のもとにせっせと通ってきて手品を教えてくれるうち、彼ら三人の間には暖かな気持ちが流れるようになる。
枯れた老夫婦にもその昔駆け落ちだの心中未遂だのといった情熱的な過去があった。そのことは夫婦の姪(池坊美佳)の口から語られる。夫婦の若かりし頃の回想は幻想的なダンスシーンで描かれる。しかしこの回想場面は決して実際に彼らの過去がそのようであったということではなさそうだ。これは象徴的に挿入されたタンゴのダンスシーンのようにわたしには思えた。
妻が亡くなってそれでお仕舞いかと思ったけれど、ドラマはまだ続く。そりゃそうだ、妻が死んでも世界は続くのだから。一人残された夫の寂しさわびしさが静かに胸に迫る。そして一方で、若い医学生の恋が対比され、一組の夫婦は一方が死んでその物語を閉じ、一組の恋人たちはこれから漠たる未来へと向かう。この対比はちょっと図式的すぎたかもしれない。あと、不満点はゲスト出演した素人二人の演技があまりにもひどい。きたやまおさむと池坊美佳は京都らしい人材ということで抜擢されたのかもしれないが、雰囲気ぶち壊しである。
とにかくわたしは昔から好きだった栗塚旭がいっそう渋いおじいさんになっていたことにひたすら感動した。もうこれだけでこの映画を見たかいがあったというもの。(レンタルDVD)
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二人日和
Turn over 天使は自転車に乗って(旧題)
日本、2004年、上映時間 115分
監督: 野村恵一、プロデューサー: 山田哲夫、脚本: 野村恵一ほか、音楽: 門奈紀生
出演: 藤村志保、栗塚旭、賀集利樹、山内明日、藤沢薫、池坊美佳、きたやまおさむ、