ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

二人日和

2008年10月02日 | 映画レビュー
 栗塚旭といえば新撰組の土方歳三。これはもう何十年経とうと土方歳三。あのダンディ渋いかっこいい土方さんは空前絶後でありました。その栗塚旭もすっかりはげ上がって好々爺として登場したのにはびっくり。

 レビューを書こうと思ったのに、すでにほとんど細部を忘れている!(^_^;)

 とにかく端正につくられた映画で、あまりにもお行儀よくきちっと作られているため、なんだか窮屈な感じもする。京都に住む老夫婦の45年の日々がもうすぐ終わろうとしているそのときを淡々と描いた作品で、中高年なら身につまされるようなお話です。子もなく二人きりの生活で妻に先立たれる夫、その悲哀を寡黙な男の後ろ姿で表現した栗塚旭が偉い。

 徐々に全身の筋力が衰えていく難病に罹った妻をせっせと介護する夫がいじらしい。夫は神祇調度司という職についている老職人。徒弟を何人か雇っていて、厳しい親方は無口で無愛想な職人気質の人。神祇調度司は神社の神官や巫女の装束を作る仕事を司る。この手際がまた興味深いのだが、映画ではあまりその物造りの現場が映らなかったのが不満だ。この職人がいったい自分の仕事のどこにどうこだわっているのか、もう少し丁寧に描いてくれればさらに映画の感動や細部の豊かさがアップしたというのに。せっかく京都の町屋、京都らしい職人仕事を映していながらその魅力を存分に描いていないのは惜しまれる。いや、この映画のコンセプトはこの「慎ましさ」にあるのかもしれない。ほれみよこれみよとばかりに職人芸を映して見せたり感動的に話を盛り上げたりすることを野村恵一監督は嫌ったのかもしれない。

 妻が徐々に衰えていくという悲惨な生活にもかかわらず、妻を介護する夫にはそれほど悲壮感がない。夫婦の会話もきわめて物静かで何気ない。そこにはもう、長い間の夫婦生活がもたらした<安心>が二人のあいだに腰を据えているのだ。妻を慰めようと、夫はいつも水を汲みに行く神社の境内で通りすがった学生手品師を雇うことにした。プロ顔負けのいい腕をしたマジシャンは実は医学生。病気の妻のもとにせっせと通ってきて手品を教えてくれるうち、彼ら三人の間には暖かな気持ちが流れるようになる。

 枯れた老夫婦にもその昔駆け落ちだの心中未遂だのといった情熱的な過去があった。そのことは夫婦の姪(池坊美佳)の口から語られる。夫婦の若かりし頃の回想は幻想的なダンスシーンで描かれる。しかしこの回想場面は決して実際に彼らの過去がそのようであったということではなさそうだ。これは象徴的に挿入されたタンゴのダンスシーンのようにわたしには思えた。

 妻が亡くなってそれでお仕舞いかと思ったけれど、ドラマはまだ続く。そりゃそうだ、妻が死んでも世界は続くのだから。一人残された夫の寂しさわびしさが静かに胸に迫る。そして一方で、若い医学生の恋が対比され、一組の夫婦は一方が死んでその物語を閉じ、一組の恋人たちはこれから漠たる未来へと向かう。この対比はちょっと図式的すぎたかもしれない。あと、不満点はゲスト出演した素人二人の演技があまりにもひどい。きたやまおさむと池坊美佳は京都らしい人材ということで抜擢されたのかもしれないが、雰囲気ぶち壊しである。

 とにかくわたしは昔から好きだった栗塚旭がいっそう渋いおじいさんになっていたことにひたすら感動した。もうこれだけでこの映画を見たかいがあったというもの。(レンタルDVD)

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二人日和
Turn over 天使は自転車に乗って(旧題)
日本、2004年、上映時間 115分
監督: 野村恵一、プロデューサー: 山田哲夫、脚本: 野村恵一ほか、音楽: 門奈紀生
出演: 藤村志保、栗塚旭、賀集利樹、山内明日、藤沢薫、池坊美佳、きたやまおさむ、

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2 コメント

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突然失礼します ()
2008-10-05 12:57:35
栗塚旭さんの大ファンです。豊かな言葉で綴られたレビュー、拝読させて頂き感動しました。特に「慎ましさ」という表現に心打たれました。有難うございました。キネマ旬報の映画評で、栗塚さんの演技を「黒由玄が乗り移ったよう」、特に最後の水汲みでの表情を「老いの美学」と絶賛されていたのを思い出します。御存知かも知れませんが、CS時代劇専門チャンネルで、昨年夏から『特集・栗塚旭』と銘打って、東映主演7作品が一挙放映されたところ、大反響を巻き起こしました。今は『俺は用心棒2』が放映されています。時専HPにファン掲示板も設置されています。昨年は京都の栗塚さんに会うツアーが企画され、応募が殺到したりしました。プロマイドの売上も増え、現在、時代劇スターで長谷川一夫さん、大川橋蔵さんに次いで3位なのだそうです。そこで9月末から、マルベル堂との提携でセブン-イレブンでも栗塚さんのプロマイドが買えるようになりました。8月には、東大阪の司馬遼太郎記念館でテレビ時代劇『燃えよ剣』の上映会が行われました。全26話中4話までの上映でしたので、5話以降も是非、上映を続けて頂きたいものです。10月7日(火)・8日(水)には東京・紀尾井ホールで『高橋竹山 津軽三味線ひとり旅』という舞台で、高橋竹山を演じられます。
嬉しいレビューにつられ、ついつい長々と書き込んでしまいました。御存知のことばかりでしたら、申し訳ありません。最後まで、お読み頂き有難うございました。
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栗塚旭さんの情報 (ピピ)
2008-10-05 22:09:34
 誠さん、はじめまして、熱心なファンでいらっしゃるようですね(^^)。

> 御存知のことばかりでしたら、申し訳ありません

 て、とんでもありません、「ご存じのこと」は何一つありませんでした。
 そうでしたか、栗塚さんはそんなに人気沸騰しているのですね。嬉しいです、あの歳でその人気とは。栗塚旭さんは知的な雰囲気がそのままに美しく歳をとっていますから、上品で凜としてとても良い感じです。
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