ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

山田詠美にはまる

2005年08月13日 | 読書
 ああぁ~、またまたとみきちさんにそそのかされてしまった!
 この人のお奨め上手にはいつも完敗でございまする。もうあなたのいいなりよっ、てな感じ。



 ぼくは勉強ができない。と宣言して周りの好意的笑いを受けてしまう、とってもナイスな高校生が主人公。秀美とうい名のハンサムボーイはシングル・マザーの美人ママと好色なおじいちゃんと3人で暮らしている。この3人が3人とも浮世離れしていて、こんな人たちが一つ屋根で暮らしていたらほんとうに楽しいだろうなと思わせる。

 およそありえそうもない人々のおしゃれで洞察力鋭い会話には脱帽。リアリズムなんてまったく感じられない小説なのに、描かれていることは「人生の真実」だ。秀美は高校生らしからぬ老成した観察力をもって自分の周りの人間を見ている。

 「とみきち読書日記」で最初にそそられたのはこの本のほう。「A2Z(エイ・トゥ・ズィー)」

 「とみきち読書日記」のコメント欄で

とみきち「恋愛中に読むと、とっても良い、と友達が言ってました」
ピピ「わっかりましたぁ! 早速恋します。」
とみきち「んも~~~っ、言うことなしのベストなリアクション!」

 というようなやりとりがあって図書館で借りた。とみきちさんからは「では早速恋したんですね」というレスがあったが、……その件についてはコメントを差し控えさせていただきます(笑)。そんなおいしいことがあればここに書くってばっ(~o~)。

 この小説を読む前に『ぼくは勉強ができない』を先に読んだほうがいい。同じ人物が登場するからね。そう、ぼく=秀美くんのいかす母親、仁子が出てくるのである。この物語は仁子の同僚の恋物語。

 35歳という微妙な年齢の女性編集者とその夫、どちらも婚外恋愛中。夫婦は別々の出版社に勤務し、二人が同じ作家を担当することもあるというライバル同士。そんな夫一浩には一年前から若い女がいた。妻夏美に恋人の存在を告げて家を出て行く一浩。しかしこの二人、なぜか全然深刻にならない。夏美は夫の浮気を知って泣くけれど、どこか醒めている。おまけに自分まで10歳年下の恋人を作ってしまう。

 さて、この夫婦のダブル不倫はどうなるのでしょう。AからZまで、26文字で人生のすべては描ける。その26文字を使ってそれぞれを頭文字に26の単語を紡いで夏美の気持ちを描いていく。山田詠美、すごいです。こんなに軽快でわたしにフィットする文体は久しぶりだ。物語は少しずつ時間を飛ばして先に進む。そしてほんのちょっと時間を戻る。この往還がまったく断絶なしにすっと挿入されるあたり、とっても映画的な小説だ。

 「不倫」だなんて、だれが倫理を決めたの? 不倫だなんていいたくない、これは恋なの。彼はわたしの恋人。そう言う夏美は、まるで十代の女の子のようにはじけた恋をする。あまりにもあっけらかんと明るく楽しく胸を焦がす恋には、ちょっと恥ずかしくなってしまう。さすがにわたしぐらいおばさんになってしまうと、こういう恋は感情移入が難しい。むしろ、夫婦の絆とはなんだろうと考えさせる部分のほうがずっと感情同化がたやすい。

 山田詠美はけっこう説教臭かったり哲学臭かったりするのだけれど、それを日常レベルの言葉で深く考え、感覚を鋭くえぐっていくから、読者にはぐさぐさくる。恋に恋するような有頂天の恋。その最中であってさえどこか醒めている夏美という知的で美しい女性のまなざしが眩しい。

 そして、作家が編集者の言葉を借りて読者に語りかける小説への愛。ここにも胸が熱くなるものがある。

 こんなに素敵な小説を薦めてくださったとみきさんに感謝!
 小説の内容詳細はとみきちさんのブログをお読みください。心に響くセリフが引用されていて、しみじみします。

<書誌情報>

 
ぼくは勉強ができない / 山田詠美著. -- 新潮社, 1996. -- (新潮文庫 ; や-
34-6)

A2Z / 山田詠美「著]. -- 講談社, 2003. -- (講談社文庫)