「崖の上のポニョ」ご多分にもれず僕も発売日に入手しました。人それぞれ色んな意見があると思うけど、僕は大好きな作品です。といっても今回はちょっと堅いお話・・・。
フィルムが映し出す色を出来るだけ忠実にデジタルで再現するというのは非常に困難な作業らしい。これは「
鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」で鈴木氏本人が口にしていたことである。「千と千尋の神隠し」の頃、世の中にはまだジブリが満足するようなカラー マネージメント システムは存在しておらず、ジブリは独自でそのシステムを構築した。試行錯誤ということもあったのだろう。結局「千と千尋の神隠し」の DVD は "赤く映る" と物議を醸すことになった。良かれと思って取り入れた "色温度" への対応が裏目に出た格好である。技術的には正解なのかもしれないが「誰が観るのか」という基本的な部分が抜け落ちていたように思う。「崖の上のポニョ」のブルーレイ化を担当する柏木吉一郎氏との対談で当時のことを振り返っているが、その話を聞く限り「最高の画質を再現する」ということに心を奪われすぎていたようだ。いつものように意地悪にダメ出しをする側に回っていてほしかった。本人は失敗したという自覚はないと思うが、個人的には鈴木氏らしからぬ判断ミスだったと思っている。
さて本題の「崖の上のポニョ」のブルーレイ化についてである。今回は「DVD と販売時期をズラしているのは姑息な販売戦略だ」と一部のファンから糾弾されている。真実を知っているならともかく、勝手な解釈を並べ、読む者を扇情するような書き込みも多い。おそらくそれを鵜呑みにしてしまうファンも出てくるだろう。とはいえ最初は自分でも同じような疑念を持ったことは確かである。
「なぜ同時期に発売しないのだろう・・・」
実は冒頭に書いた柏木吉一郎氏との対談において、この裏事情が間接的に読み取れる。詳しい話は実際に「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のポッドキャスト版を聞いていただくとして、僕自身はこんな感じで受け止めた。まず今回の「崖の上のポニョ」がジブリ初のブルーレイ化になるということ。次に "色の再現" という点において、ブルーレイの性能を最大限に引き出せるシステムを構築しなければならないということ。やはりフィルムの色を再現するというのは今回もかなり難しい作業のようである。過去の失敗例もあることだし、試行錯誤はかなり入念なものになると予想される。つまり時間が掛かることは必至なのである。それゆえ DVD と同時期に発売を行うのであればブルーレイに合わせる他ない。換言すればブルーレイの発売が遅れるのではなく、DVD の発売が前倒しできるというだけのこと。ジブリの肩を持ったような解釈かもしれないが、自分ではそう受け取った。
結果的にそれも販売戦略だという人がいれば、それは自由だと思う。「売られていないものを買うことはできないが、店頭に並べられていればつい手を出してしまう」という消費者心理は確かに存在するし、ジブリ側にその打算がなかったとまでは言い切れない。それゆえの論点なわけであるが、今回の場合、時間差販売を批判すれば「DVD のリリースを冬まで延ばせ」の裏返しになってしまうのが何とも皮肉である・・・。
余談だが、前掲の対談収録で「クッキリハッキリ見えればいいのか?」という鈴木氏の鋭い疑問に対し、柏木氏が「今まで見えなかったものが見えるようになる」と返す場面があった。ちょうど音楽産業がアナログのレコードからデジタルの CD へシフトしたとき、よく耳にした宣伝文句のようである。この言葉を聞いて僕はちょっと違和感を覚えた。実写であれば柏木氏の説明も当てはまるだろう。しかしアニメはすべてが意図的に書き込まれた絵である。高精細になったからといって見えなかったものが見えてくることはない。手書きのアニメーションにおいてデジタルの果たすべき役割というのは、アナログが持つありのままの姿を再現することに尽きる。デジタルの良さをスペック的に表現しようとしたところに鈴木氏は釈然としないものを感じたのではないだろうか。
鈴木敏夫のジブリ汗まみれ Podcast:
2009/04/14 パナソニック柏木さんがれんが屋へ! その壱
2009/04/21 パナソニック柏木さんがれんが屋へ! その弐