「崖の上のポニョ」 ブルーレイが同時発売でないのは販売戦略か?

2009-07-04 14:18:22 | Diary
「崖の上のポニョ」ご多分にもれず僕も発売日に入手しました。人それぞれ色んな意見があると思うけど、僕は大好きな作品です。といっても今回はちょっと堅いお話・・・。




フィルムが映し出す色を出来るだけ忠実にデジタルで再現するというのは非常に困難な作業らしい。これは「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」で鈴木氏本人が口にしていたことである。「千と千尋の神隠し」の頃、世の中にはまだジブリが満足するようなカラー マネージメント システムは存在しておらず、ジブリは独自でそのシステムを構築した。試行錯誤ということもあったのだろう。結局「千と千尋の神隠し」の DVD は "赤く映る" と物議を醸すことになった。良かれと思って取り入れた "色温度" への対応が裏目に出た格好である。技術的には正解なのかもしれないが「誰が観るのか」という基本的な部分が抜け落ちていたように思う。「崖の上のポニョ」のブルーレイ化を担当する柏木吉一郎氏との対談で当時のことを振り返っているが、その話を聞く限り「最高の画質を再現する」ということに心を奪われすぎていたようだ。いつものように意地悪にダメ出しをする側に回っていてほしかった。本人は失敗したという自覚はないと思うが、個人的には鈴木氏らしからぬ判断ミスだったと思っている。

さて本題の「崖の上のポニョ」のブルーレイ化についてである。今回は「DVD と販売時期をズラしているのは姑息な販売戦略だ」と一部のファンから糾弾されている。真実を知っているならともかく、勝手な解釈を並べ、読む者を扇情するような書き込みも多い。おそらくそれを鵜呑みにしてしまうファンも出てくるだろう。とはいえ最初は自分でも同じような疑念を持ったことは確かである。

「なぜ同時期に発売しないのだろう・・・」

実は冒頭に書いた柏木吉一郎氏との対談において、この裏事情が間接的に読み取れる。詳しい話は実際に「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のポッドキャスト版を聞いていただくとして、僕自身はこんな感じで受け止めた。まず今回の「崖の上のポニョ」がジブリ初のブルーレイ化になるということ。次に "色の再現" という点において、ブルーレイの性能を最大限に引き出せるシステムを構築しなければならないということ。やはりフィルムの色を再現するというのは今回もかなり難しい作業のようである。過去の失敗例もあることだし、試行錯誤はかなり入念なものになると予想される。つまり時間が掛かることは必至なのである。それゆえ DVD と同時期に発売を行うのであればブルーレイに合わせる他ない。換言すればブルーレイの発売が遅れるのではなく、DVD の発売が前倒しできるというだけのこと。ジブリの肩を持ったような解釈かもしれないが、自分ではそう受け取った。

結果的にそれも販売戦略だという人がいれば、それは自由だと思う。「売られていないものを買うことはできないが、店頭に並べられていればつい手を出してしまう」という消費者心理は確かに存在するし、ジブリ側にその打算がなかったとまでは言い切れない。それゆえの論点なわけであるが、今回の場合、時間差販売を批判すれば「DVD のリリースを冬まで延ばせ」の裏返しになってしまうのが何とも皮肉である・・・。

余談だが、前掲の対談収録で「クッキリハッキリ見えればいいのか?」という鈴木氏の鋭い疑問に対し、柏木氏が「今まで見えなかったものが見えるようになる」と返す場面があった。ちょうど音楽産業がアナログのレコードからデジタルの CD へシフトしたとき、よく耳にした宣伝文句のようである。この言葉を聞いて僕はちょっと違和感を覚えた。実写であれば柏木氏の説明も当てはまるだろう。しかしアニメはすべてが意図的に書き込まれた絵である。高精細になったからといって見えなかったものが見えてくることはない。手書きのアニメーションにおいてデジタルの果たすべき役割というのは、アナログが持つありのままの姿を再現することに尽きる。デジタルの良さをスペック的に表現しようとしたところに鈴木氏は釈然としないものを感じたのではないだろうか。

鈴木敏夫のジブリ汗まみれ Podcast:
2009/04/14 パナソニック柏木さんがれんが屋へ! その壱
2009/04/21 パナソニック柏木さんがれんが屋へ! その弐



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4 コメント

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Unknown (通りすがり)
2009-07-05 22:01:57
はじめまして。ポニョのDVD、SD画質ながらキレイですね。
ポニョのBDが年末発売なのは8月の北米公開を考えての事のようです。
http://www.apple.com/trailers/disney/ponyo/hd/
ここで配信用ながら1080pのHD画質が観られます。
「今まで見えなかったものが見えるようになる」のは本当ですね。
そもそもポニョは2kの解像度で製作されているようです。


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>通りすがりさん! (gw)
2009-07-06 05:43:52
駄文にお付き合い下さり、ありがとうございます。

ブルーレイが今冬のリリースになるのは北米のリージョンが日本と同じという理由だからなんですね(DVD は違いますものね)。ブルーレイの制作期間はそこから逆算してスケジューリングしているということなのかなぁ・・・。

「今まで見えなかったもの」を「今まで再現できなかったもの」とするならば仰るとおりだと思います。ただ記事中ではちょっと違う角度で捉えてみたんですね。強いて言えば「今までそこに描かれていることを知らなかったもの」とでも言いましょうか。ですからブルーレイが高画質であるということ自体に異論は無いんです(笑)。現在我が家にはブルーレイを再生する環境はありませんが、いずれすべてのジブリ作品をブルーレイで見てみたいですしね!

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Unknown (くろもあ)
2009-08-10 14:04:31
お久しぶりです。

知っている名前が出てきたのでちょっとびっくりしました。
柏木さんとは直接面識はありませんが、私の周りには柏木さんをよく知っている人がたくさんいて、私の仕事も柏木氏が所属しているPHLと連携することが多いです。

すでに知っていることもあるかもしれませんが、専門分野なので説明させてください。
ブルーレイとDVDの違いですが、どちらもデジタルであることには変わりは無いんですが、では何が大きく違うのかというと、ブログの中でも述べていますが、簡単に言うと解像度が違います。
どのくらい違うかというと、
DVDは、30万画素
ブルーレイは、200万画素
解像度が違うので、見えなかったものが見えてくるというのは事実だと思いますよ。
ところで、映画館の話になるんですけど、最近、映画館もフィルムの映写から、デジタルプロジェクタへの移行が盛んに行われています。多くのデジタルシネマは、2K1K=約200万画素、たまに高級なところだと、4K2K=約800万画素です。
つまり、ブルーレイは、映画館と同じ映像を家庭に再現するメディア、と言うことができるんじゃないでしょうか。
今までは、家庭では、ボケボケの映像を見てたんだけど、ブルーレイによって、映画館の解像度に近づいた。といえるのではないかなあと思います。
くっきりはっきり、見えなかったものが見えるようになったについては、解像度が増えたことで、手書きの微妙なニュアンスも映像で伝えることができるようになった。と理解することもできるんじゃないでしょうか。
あと、ブルーレイの解像度を見るためにはハイビジョンテレビも必要になりますね。

ほかにもDVDとブルーレイは圧縮方式が違ったりといったような話はあるんですが、今日はこの辺でやめておきます。

それではまた。
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>くろもあさん! (gw)
2009-08-15 12:19:45
少し言葉足らずの部分があったかもしれませんね。まず僕は「ブルーレイの解像度なんて DVD と大差ない」と思っているわけではありません。やはり高解像度になってセル画に近づくことは歓迎すべきことです。緻密に書き込まれた背景の再現性が向上したり、臨場感が増したり、その恩恵にあずかるところは大きいと思います。よって、くろもあ氏の説明に異論はないです(笑)。

では何が引っかかったのかというと、少々 "言葉のあや" になってしまうんですが、「見えなかったものが見えるようになる」という概念が "アニメ" と "実写" では違うということがひとつ。僕には「存在を認知できなかったものが突然現れた」かのように聞こえてくるんですよね。テレビでもハイビジョン化が進み、「人物の顔のシワまで映るようになった」といわれますが、例えばアニメにおいてシワは映るのかという話です。もちろんアニメーターがブルーレイの解像度でなければ再現できないくらい緻密にそして意図的にシワを描き込んでいればそうなるでしょう。でもそれはナンセンスです。

作り手は作品のありのままの姿を余すところなく届けたいと願っているはずです。柏木氏の言わんとしていることもそれであることはわかるのですが、「見えないものが見えるようになる」という説明は技術的見地に立った人物の言葉だと思います。製作者にとっては限りなくセル画に近づくことが理想であり、それ以上でもそれ以下でもないからです。乱暴な言い方をすれば「描かれているものは完全に再現してほしいが、見えないものまで見える必要はない」とでもいいましょうか。こう書くとやっぱり "言葉のあや" って感じがしますね(笑)。

きっと僕は、ジブリ作品におけるブルーレイの魅力のプレゼンに、もっと心を打たれる一言が欲しかったんですね。だから紋切り型のお茶を濁したような説明では納得できなかったんです。今はまだブルーレイもハイビジョンテレビも持っていませんが、いつか「トトロの森」をブルーレイ画質で見るのを楽しみにしています。今回の記事はそんな僕の期待の裏返しだと思っていただければ幸いです。
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