Fate:
Jeff Limbo - vocals
Hank Sherman - guitars
Pete Steiner - bass, keyboards
Bob Lance - drums
最近 CM で Van Halen の "Jump" がよく流れていますね。シンプルでありながらインパクトのあるシンセ・パートは後世に残る名演と言ってもいいのではないでしょうか。多くのファンやアーティストに親しまれてきたこの曲、近年では Paul Anka のカバーや Dave Lee Roth 本人によるブルーグラス・バージョンなどが記憶に新しいです。ところで、そんな "Jump" のイントロを耳にしていて、ある曲を思い出しました。デンマーク出身のハード・ロック・バンド Fate が 1986年にリリースしたアルバム "A Matter Of Attitude"、そこにオープニング・ナンバーとして収録されている "I Won't Stop" という曲です。出だしのシンセ・パートが "Jump" を彷彿させるんですよね(笑)。実家にいた頃、親のエレクトーンを拝借してちょっとだけこれらの耳コピに挑戦したことがあります。どちらも簡単なフレーズですから、ド素人が遊びで弾くにはちょうど良いネタでした(笑)。
「運命の翼」という邦題がつけられた本作は Fate の通算二作目となるアルバムです。バンドは Mercyful Fate の分裂に端を発し、ギタリストの Hank Sherman が中心となり結成されました。オカルト的な音楽性は King Diamond に引き継がれ、Fate では前身バンドとは似ても似つかないキーボード主体のハード・ポップに姿を変えています。もちろんこういう経緯を知ったのは後になってからのことで、最初は Mercyful Fate だの King Diamond だの言われても何のことかサッパリでした。後に友人宅で彼らの音楽を聴く機会に恵まれましたが、初めて耳にするそのサウンドはあまりに衝撃的で「冗談なんだか本気なんだかわからない」という印象を受けたことを覚えています(笑)。
本作リリース後、オリジナル・メンバーの Hank Sherman が他のバンドへの参加を理由に Fate を脱退、バンドは新たなギタリストと専任のキーボーディストを迎え、これを乗り切ります。しかしこのラインナップも長くは続かず、次作 "Cruisin' For A Bruisin'" の発表後、またしてもギタリストが脱退。加えてヴォーカリストの Jeff Limbo までがバンドを離れてしまいます。そんな危機的状況の中、救世主となったのが新加入のスウェーデン人ギタリスト Mattias Eklundh でした。高度なテクニックと独創的なリックを擁する彼のギター・プレイは瞬く間にシーンの注目を集め、バンドも大きくクローズ・アップされるようになります。日本でもギター誌などで「マティアス奏法」と題した特集記事を見かけるようになりました。実際、彼を経由して Fate というバンドの存在を知った方も多いのではないでしょうか。
切り口として Mercyful Fate と Mattias Eklundh に軽く触れるつもりが、随分と話が長くなってしまいました(苦笑)。ただ僕個人に関することを言えば、キッカケとなったのは某 HM/HR 専門誌に載っていた本作のアルバム評であって、Mercyful Fate つながりでも Mattias Eklundh つながりでもないんです。レビューで引き合いに出されていた Bon Jovi という名前につられ、つい聴いてみたくなったというのが真相です(笑)。だから僕にとっての Fate はこのアルバムの音楽性であり、後追いで聴いた 3rd 以降はまたイメージが違いますね。
ここで十八番の思い出話を・・・(笑)。とにかく Bon Jovi 似というだけで気になり出した「運命の翼」。まずは行きつけのレンタル店を片っ端から当たってみることにしました。ところがマイナーな作品であるせいか、いくら探しても見つかりません。半ば諦めモードになり、買ってしまおうかとも思いましたが、やはり貧乏学生が未聴 CD にいきなり三千円を出すというリスクは避けたいところ。結局、ダメもとでその中の一店に "入荷のお願い" をすることにしました。店員のお姉さんに「入荷の保証はできないけど、取りあえずここにアーティスト名とアルバム名を書いてくれる?」とメモ紙を渡されたことを覚えています。やるだけのことはやったので正直「これで駄目ならしょうがない」という気持ちでしたね。その後、手ぶらで帰るのも申し訳ないと、適当にレコードを漁っていたんですが、実はこのとき、偶然手に取った一枚が Bonfire の "Don't Touch The Light" だったりするんです(笑)。バンド名すら知らなかったけど、帯タタキの文句と裏ジャケのメンバー写真だけで決めました(笑)。今思えば、偶然が引き合わせてくれた出会いとでも言うのでしょうか。この話はまた別の機会に・・・。
しばらくして入荷の連絡が入ったときはさすがに嬉しかったですね。一つ予想外だったのは輸入盤のアナログだったこと(ジャケが違うのですぐに気付きました)。レンタル店で扱われているレコードはほとんどが国内盤でしたから、マイナーなアルバムを輸入盤で仕入れてくるマニアックな店側の対応に "影のメタラー" の存在を感じましたね(笑)。それはさておき、今でもこのレンタル店にはわがままを聞いてくれたことに感謝しています。ちなみに以下は国内盤のジャケット。
無理を言って仕入れてもらったアルバムですから、僕も張り切ってメタル・テープに録音しました。とはいえ、僕の貧相なオーディオ・システムでは大してその恩恵に与れたわけでもなく・・・(苦笑)。とりあえず、どうでもいいことはだけは未だによく覚えています(笑)。
ダラダラと下らない話ばかり続けてしまいましたが、収録曲についても少し触れておきますね(笑)。本作での目玉は何と言っても前述のオープニング・ナンバー "I Won't Stop" でしょう。イントロからコーラスまで文句の付けようがない仕上がりです(これを凌ぐものといえば、ヴォーカリストのエラの張り具合くらい?・・・笑)。他にも "Hard As A Rock" や "(I Can't Stand) Losing You" など、質の高い楽曲が並びます。初めてレコードに針を落とした日、そんなハード・ポップの王道サウンドに心地良く浸りながらアルバムを聴き終える予定でした。まさかラストに思わぬ落とし穴が待ち受けているとは・・・(笑)。
スピーカーから「ドゥエッ、ドゥエッ、ドゥエ~」というオールディーズ風の曲が流れてきたときは、さすがに耳を疑いましたね。ハード・ポップ然としたアルバムのイメージが、最後に来て、もろくも崩れ去っていくのを感じた瞬間です(苦笑)。今でこそ、彼ら流のユーモアとして受け止められる "Do It" ですが、当時の僕には、ただおちゃらけているようにしか聞こえず、すべてを台無しにされたような気分でした。例えるなら "Operation: Mindcrime" のラストで Jeff Tate がレゲエを唄ってしまうくらいのショックとでも言いましょうか・・・(笑)。
いい加減、これだけ書いて終わりにします(笑)。リマスター盤発売の際、ボーナス・トラックが二曲追加収録されました。惜しむらくは、本作のアウトテイクではないこと。おそらく現ラインナップに近いメンバーで録られたデモ曲ではないかと思います。ギターが主導権を握り、ボトムとグルーヴを強調したサウンドは、もはや同一バンドの楽曲とは言い難く、メンバーや音楽性が異なる時期のマテリアルを安易にボーナス・トラックとして加えてしまうことに、いささかの疑問を禁じ得ません(苦笑)。楽曲の出来は決して悪くないですが、取りあえず本編とは切り離して聴いたほうが良さそうです(笑)。