ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「日本世間噺大系」(続き)伊丹十三

2018-09-08 06:25:43 | 評論・随筆



さて昨日の続きです。といってもさほどのこともないのですが、少し書き留めたかったので。

「ヨーロッパ退屈日記」「女たちよ!」のエッセイの上品さから「日本世間噺大系」へ移るとちょっとした違和感を感じてしまうのではないでしょうか。(氏の著作の発行順で言うと少し間を飛ばして言っていますが)前作の洒落た蘊蓄と比較すると知性の豊かさは相変わらずだけど、どこか危険な雰囲気が忍び寄ってくるようです。
「博物館」などは前作の伊丹氏らしい知識でドイツの博物館の素晴らしさ「プレーンオムレツ」は機知に富んだ会話が面白く今までと変わらないイメージなのですが、「黄色い潜水服」になると「これはいったい?」という感じがします。
昨日書いた「芸術家」には秘密めいた暗さはありませんが、独特のイメージに唸らされます。「チンパンの嘆き」に来ると危険なところへ足を踏み入れていくスリルがありますし、「断髪」も犯罪の匂いが、「天皇の村」「無線タクシー」「クダショー」「天皇日常」このあたり単なるエッセイではなくなってくる。よく書かれたものだと思います。「塩田」「骨」などの深刻さ。「クソ水」(タイトルからして何だろうと思いますね)これは事実なのでしょうか?ネット検索してみたのですが、わかりませんでした。

「ヨーロッパ退屈日記」から「日本世間噺大系」まで本の発行年で見ると10年くらいの間があるようですが、伊丹氏の変化というより、もともと伊丹氏が持っているものではなかったのでしょうか。皆が憧れる洒脱な趣味人という表面の奥にはあまり一般の人が追及しようとしない暗部を見つめ暴こうとする気概のあった方だったのですね。
ということを発見したかのように書かなくても伊丹十三氏が監督した映画作品を見れば一目瞭然ですし、映画だけを見た方だったら伊丹十三という人は問題作ばかり作ってきた監督だ、という評価でありましょう。私はエッセイが先でイメージを持っていたので改めて思い知ったというわけです。

伊丹十三氏の謎の死がいつか解明されることはあるのでしょうか。64歳という若すぎる年齢でした。


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