ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「日本世間噺大系」伊丹十三

2018-09-07 07:29:28 | 評論・随筆


伊丹十三のエッセイ集といえば「ヨーロッパ退屈日記」「女たちよ!」で当時の日本の人々のマナーやセンスの悪さを認識し、「本物の良さ」=トラディショナルというものを学び楽しませてもらえましたよね。今の目で読むとやや高圧的で取り澄ました感もあるでしょうが、その気位の高さが心地よかったのだと思います。それにしてもこれらの著書を書かれたのが伊丹氏の20代後半30代前半だったというのは凄いことではないでしょうか。映画の話、食べ物・酒に関する蘊蓄、男性・女性それぞれのお洒落について、車の運転、マッチのつけ方、猫の可愛さ、英語を話すコツ、小噺、音楽の楽しみ、など。しかも洒脱な挿絵は伊丹氏本人のものとは、とんでもないかたであります。

そういった伊丹十三氏の極上のエッセイですっかり自分のセンスも磨き上げられたような気分になった後で読んだのが、「日本世間噺体系」でした。
本作に収められたものはエッセイというのとは少し趣が違うように思えます。文章の形式も小説風もあり、対談風もあり、インタビュー型もあるというような感じですね。当時、特に不思議な感覚になったのが「芸術家」という文章でした。
まず冒頭から「及公」と書かれているのに戸惑います。「おれ」とるびがふってあるから読めるようなものの「おれ」を「及公」と書くのを初めて知りました。その「及公」という一人称で語る「及公」が懸命に書いた小説を「先生」の家へ赴き、読んでもらった原稿を押し返されたところから話が始まります。といっても8ページと少しの短い文章なのですが、促された批評を後回しにして先生は及公にウィスキーと大蒜を味噌でつけたものを勧めるのです。
朝から何も食べていなかった及公は空腹に刺激物をいれて気絶してしまうのです。
目を覚ました及公に先生はさらに菹(キムチ)を勧めるのでした。
なんとも凄まじい話です。辛くてもう食べられないという及公に先生は「君は芸術家たる権利を自ら放棄してしまった馬鹿だ」と言い放つのです。
さらに辛いナッチーボックンを食べた後に菹を食べた及公は清清しい酸っぱみを味わい驚きます。そして朝鮮半島の隅隅に数知れず犇めきあっている、したたかな芸術家たちの大群を思ったのでした。
その頃は、不勉強の身で朝鮮という国のことをまったく意識したことがありませんでした。今にして思うと何故その頃、もっと隣国について勉強しなかったのかと悔やまれます。世界文学集のようなものでも中国のものはさすがに幾つかあっても朝鮮韓国についてはわずかでありました。
伊丹十三氏のこの短編で少しだけ私の中に朝鮮という国の良いイメージが作られたのではないかと思っています。

(余談ですがもう一つの韓国のイメージはアニメ「アタックNO.1」の崔さんとのエピソードですね)
 
後で、もう少し続きを書きます。

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