ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「ゆたかさへの旅ー日曜日・午後二時の思索」森本哲郎

2018-08-26 07:08:35 | 評論・随筆


この本のことを書こうとしていつものようにアマゾンを検索したら絶版になっていてショックを受けました。そんなことになってるとは・・・時の流れとは言え悲しい。

よく影響を受けた本とは?という類の質問がありますが、私の場合、すぐに頭に浮かぶのは森本哲郎氏の「ゆたかさへの旅」であります。続けてあげれば同氏の「サハラ幻想行」であり「そしてーぼくは迷宮へ行った。」なのです。
小説は大好きだけど、直接衝撃を受けたのは森本氏の一連の著書ほどではないように思えます。それは私にとっては、小説の真意をくみ取るよりもエッセンスを直接を受け取るほうがわかりやすかった、ということなのでしょうけど。
それともう一つはそれまで(高校生時代まで)欧米文学に偏っていた自分の思考・価値判断が突然アジア・アフリカのそれを示されて雷電に打たれてしまったのですね。

「ゆたかさへの旅ー日曜日・午後二時の思索」は1972年に刊行された、とあります。日本の高度経済成長と名付けられた時期の終焉と思われる時ですね。
社会に倦み疲れた若者たちと共に森本氏はインドへ旅立ち、そこで「ゆたかさ」とはなにか、という問答を繰り返すということになります。


以下、本の内容に触れていきますので、未読の方はご注意ください。というのもアレだな、絶版なのに。







前置きが長くなりましたが、この中で私が衝撃を受けた、というのは「一神教、多神教」という考え方。そしてそれに連動する「1の文明、2の文明、そして0の文明」この中でインドは無論0の文明であります。何もかも飲み込んでしまう0の文明であると森本氏は語ります。そして日本は1の文明であるというのです。ここはちょっと疑問ではあったのです。日本ははっきり言って多神教なのに1の文明なのでしょうか。たぶん、この時の考え方はそういった多神教を捨ててエコノミック・アニマル(当時はやった言葉です)となったということでしょう。日本人は1の文明を選択したと森本氏は言うのですね。そしてそれは良いことだったのか?と。

さらに話はモヘンジョ・ダロへと続きます。モヘンジョ・ダロは五千年近くも前の町でありながら、ダストシュート、水洗トイレ、下水道、マンホール、風呂やプールもあちこちにある、という考えられないほどの高度な文明を持っていたのに突如滅亡したという謎の都市なのですが、ここで旅の道連れ(というより先導者のような)の若者、椿君がガールフレンドのダリアちゃんと森本氏にのたまうのです。
「ダストシュートとか排水溝とか、片付けよう片付けようとしてじぶんがかたづいちゃったのさ」
つまりは
「文明は必ず滅びるんだ。なぜかというと、排除ばかりしているうちに、じぶんまで排除しちゃうからね。合理化をとことん押しつていったら、しまいに非合理このうえないものになっちゃうんだな。」


「じゃどうするのよ」と問い詰めるダリアちゃんに
「だからここに泊まってゆっくり考えなおすってわけ」

椿君は考え付いたのでしょうか、何かを?

インドに行くと人生観が変わるとよく言われます。この本でも森本氏と旅をした若者たちはインドの「ゆたかさ」を体験し生き方を模索していきます。その表現や行動は少し大げさでおかしくも感じるのですが、森本氏が年配でもあるおかげか(40代の頃でしょうか)落ち着いて観察し考えてくれるのにほっとします。
無論、年かさでものめりこむ方もいるので氏の人柄でありましょう。

椿君はそのままインドで修行を続けますが、森本氏は1の文明である日本へ戻り、再びやるせない日曜日の午後を体験する、という結末になります。しかしそこで森本氏は「門から出ていくアートマン」というイメージから「心を遊ばせる」という言葉を導きます。

高校生の時、このような本を読み衝撃を受けた、ということを少しはお伝えできたでしょうか。
欧米の考え方とは違うもの、というかそれこそ欧米人もインドになにかを求めて彷徨ったのだと思います。そういうお話が多々あります。チベットに救いを求めた方もありますね。
森本哲郎著「ゆたかさへの旅」に巡り合って、それ以後の自分の見方考え方、本の読み方はまったく変わりました。
その著書が今では出版されていないとは、失望でしかありません。興味を持たれた方が図書館か古本で読めればいいのですが。
とはいえ、氏の書かれたものはいろいろに形を変え、語り継がれているのではないかと思っています。


ずっと後になって今は亡きねこぢるさんの「ぢるぢる旅行記・インド編」に出会ったときは嬉しかったです。そこに描かれたインドは懐かしいものでした(私はまったくインドに行っていませんが)

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2 コメント

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Unknown (八木 美津子)
2023-10-24 22:00:58
私が高校生のときに読んだのも「豊かさへの旅」だったのか?「インドへの旅」だと記憶していた。そして私はこの本に影響を受けて本当にインドへ行ってしまいました。16歳で読み、実際にインドへ行ったのは8年後、24歳の時でした。半年の予定が伸びて1年して帰ったら、日本は昭和から平成になっていました。
ありがとうございます。 (ガエル)
2023-10-25 12:46:33
>八木 美津子さんへ
まさかこの「豊かさへの旅」にコメントをしていただけるとは。
もう忘れられた本なのだろうなと思いながらもやはり自分の大事な記憶の一つです。
ほんとうにインドへ行ってしまったというのは凄いですね。さらに平成は令和へと。
時間は過ぎゆきますね。
ありがとうございます。

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