ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「わたしが正義について語るなら」やなせたかし

2018-11-14 05:42:21 | 評論・随筆


やなせたかしさんのお話をあちこち(ネットとか)で見聞きしてはいたけどちゃんと本で読んだのは(たぶん)初めてです。とてもわかりやすい文章で綴られていて読みやすいのが嬉しい。これもやなせたかしさんの特別な才能でありますね。
そして書かれている言葉が凄く共感できることばかりでした。

じつは「アンパンマン」はほとんど見たり読んだりしてなくて申し訳ないですが、あちこちで自然とキャラクターやお話は知ってしまうほどの人気作ですから主人公はもちろんばいきんまんだってしょくぱんまんだってメロンパンナちゃんだって知っています。

そうした人気キャラを生み出したやなせたかしさんは、みんなが知ってる歌を作詞し(たとえば「手のひらを太陽に」)手塚治虫アニメ「千夜一夜物語」のキャラデザをしたりした凄い人です。

他にも無名の時期にNHKでマンガの先生として出演してたり「詩とメルヘン」の編集長だったりいろんな舞台美術をしていたり、驚くばかりですが、ご自身は絵を描くのは好きだけど一番になるように上手くはないと謙遜されています。

マンガ家なのにマンガ雑誌に載ったことがなく、いろんな仕事をしていたけど「アンパンマン」が世に出て認められたのは50歳も過ぎてからでそれ以前は「残酷だ(頭を食べられるから)」とバッシングを受けるありさまだったというのが(噂に聞いてはいましたが)なんともおかしいです。

そんな風で、絵柄からしても優し気でかわいいものが大好きというかんじのやなせたかしさんが「正義について語る」というのはアンパンマンのキャラクターからも感じられることですが、ご本人が戦争に行かなければならなかったこと、弟さんを戦争で失ってしまったことが大きく影響しているのですね。
やなせたかしさんにとって「正義とは戦うことじゃなく、お腹が減った人にあんパンをあげること」というのにとても共感します。

今ネットを見ていても人の言動に対して酷い言葉を書くことが多すぎて恐ろしくもなり悲しくもなりぐったりもします。
なんとかして自分と違う他をおとしめよう、やっつけよう、こらしめようということを互いにやり合っている。確かに言いたいことを言ってもいいし、間違いだということを言って話し合うのは悪いことじゃない。むしろそれがコミュニケーションというものだけど。あまりにも行きすぎてしまった時は少し落ち着いて謝って握手するのもまた良いことであると思うのです。

気に入らない人たちを「来るな」というのではなく、あえて丁重に招き入れて自分たちの考えを落ち着いて話すという方法はないのかと思うのですよ。
人間はそれぞれが違う。でもその違いを話しあって少しでも分かり合う。それが交流というものではないでしょうか。


そしてやなせさんは「正義を行うことは褒められることはあまりない」ということも書いてます。つまり褒められたいのなら正義は行えない、ということだし、正義をやったら誉めてくれるどころか罵られ疎外される覚悟がいる、ということですね。
これも色々なことを思い出させます。(安田さんとか)
やなせさんは会社でなにもないのに残業している中で定時で帰る勇気とか、会社内の悪事を摘発する勇気について述べられているのですが、これらの「正義」も大変なことです。
例えばセクハラをされている人、痴漢をされている人を救う「正義」もあるわけで、そういうのを「自己責任」などと言うべきではないわけですよね。怖くて助けられなかった、というのならわかりますけどね。頑張って欲しいけど。

せめてお年寄りとか力のない人に重いドアを開けてあげるくらいの正義は持っていたいものです。

つまり正義とは嫌いな相手をやっつけることじゃなく(たとえ嫌いであっても)弱った人にあんぱんをあげること、重いものをもってあげて助けてあげること、なんですね。


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