ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「魔法少女まどか☆マギカ」少女を犠牲にする者たちよ やめてくれ

2018-12-20 06:58:41 | アニメ
「魔法少女まどか☆マギカ」観終わってwikとか他の方の批評なども見てかなりがっくりしています。この前に見た「少女革命ウテナ」と「輪瑠ピングドラム」にあまりにも感激していたので同じような感動を期待していたせいもあります。
「ウテナ」の作り手である幾原邦彦氏は男性でありながら少女の思いを代弁してくれたかのようで、いや男性だからこそ女性が描き得ない部分も描けるのではないかとも思えたのですね。
名作として聞いていた「まどマギ」もきっとそれかそれ以上のものだってあるかもしれない、などと期待していたわけです。しかし同じような男性が多々存在するわけもなく流れで期待するのもおかしいことでありました。


以下ネタバレありますのでご注意を。



「まどマギ」にがっくりしたのは内容のせいだけではなく非常に多くの方の、特に男性の評価や支持を得ているからなのですよ。確かにアニメ作品の技巧としては素晴らしいものがあると私も思います。それまでにないオリジナリティだけで言えば特出すべきものなのでしょう。
例えば時間軸を巡るストーリングの面白さなどは私も大好きな構成の方法でありますし、それまでの魔法使いの少女に惜しみなく与えられる魔法の力にはそれなりの代償が必要であるし与えられる意味と理由が存在していることなども納得させられそうになります。納得させられそうになるという曖昧な表現なのは、エントロピーが云々という方向性で説明するにはこの論理は不十分だと思うからです。

そしてこのアニメを真剣に語るのを躊躇させる、がっくりさせてくるwikで書かれていた文章

「ハードでシリアスな物語をアイドルが演じる「すごく面白いアイドル映画」に近いイメージで企画した」

少女とその内面を語る虚構の世界ではなく虚構の世界のための虚構の世界を描いたことに対して真剣に語るのは愚かしい、ということですね。

つまりは「男性が求めるアイドルのこうであって欲しい願望の世界」を描いたアニメ作品に「これは女性としてはどうのこうの」と言うお前がそもそも間違っていることに気づけ、と嘲笑われることを最初から計算しての作品なのだと言っているのです。
なんという嫌らしいロジックであることでしょうか。
しかもそれを支持している男性がいかに多いかということもがっくりしてしまうのです。

そうです。このアニメ作品「魔法少女まどか☆マギカ」は「ウテナ」のような真実に少女とは何か、本来少女はどうあるべきか、と問うた作品ではなく最初から「男が求める少女とはこういうものなのだ」というものなのです。
なのでその世界の少女にはその世界の男性が性的に接触してくることは皆無です。その少女は見ている男のものであって少女自身が性的な相手を見つけることは許されない。思春期特有の百合描写などと書かれていますが、まどかとほむらの関係に私は特別なつながりを見出せません。あまりにも友達・友情を強調しすぎているのが設定のための設定にしか思えないからです。その友情を確立するためのストーリーは語られていないからです。ストーリーからではなく「友だちだよ」とセリフで説明しているだけなのです。そうしたストーリーは作り手にとって意味がなかったのです。

まさしくこのアニメは作り手の意識「すごく面白いアイドル映画」として構築しているわけですね。この「アイドル」というのは芸能界のアイドル、というのと同義語です。
何も知らない少女たちはアイドル事務所のアイドル発掘人キュウべえから「魔法少女=アイドルになる契約をしないか」と持ち掛けられ「その代わり夢がかなうよ」とか言われうっかり契約し、死ぬまでこき使われます。
途中でおぞましい男たちが「女は殴って言うことを聞かせろ。年を取って役に立たなくなったら捨てればいい。それをうまくやれるのが男だ」というのは本音ですね。
魔法少女が次第に輝きを失って黒ずんでくる、というのはアイドルであるべき少女の魅力が失われることを意味しています。そして明るい輝き観満ちた願いを持っていた少女がいつしか呪いの言葉を吐くようになるのです。「嘘をついたのね。私を死ぬまで働かせるだけなのね。アイドル事務所なんて奴隷の事務所じゃないか。恋愛もできず休みもなく働かされるだけなのね」そういう呪いの言葉を吐くようになった少女は役に立たないのでもう「魔女」として追い出すのです。
そしてキュウべえ=アイドル事務所は「魔女というのは魔法少女の成れの果てなんだよ。みじめだね。あんなのになってはいけないよ。あんな醜いものはやっつけてしまえ。魔法少女だけが正義の力を持っているんだよ」というわけですね。
ここでいう魔女、というのは男から見た年を取っていく女性、少女でなくなり心が黒ずみ男に呪いの言葉を吐くようになった女性、という意味合いなのです。あくまでも男から見た、という意味付けなので女性からすればそれは不当な言い方ではありませんか。大人になっていくのは男性も女性も同じことで女性に対し「いつまでも魔法少女でいてくれ」と願うのは不自然です。
成長し勉学し経験を積み判断ができるようになった女性は男性から見れば魔女のような存在なのですね。しかも年を取ってあんなに醜くなったよ、とこのアニメは描いています。


まどかは最後にすべての魔法少女を救うために存在さえ犠牲にします。しかし結局世界には魔女と入れ替わりに魔獣が世界を襲っています。うーん。現在のアイドル芸能界の衰弱を見るようです。ほむらは孤軍奮闘。魔法少女を救うために無になったまどかを思いながら魔獣(ジャニーズとかエグザイルとか男のアイドルのことということかな)と戦い続けるのでした。

というような解釈ですかね。

思い切り幼くて何も考えていない感じの造形ながら内股で性的誘惑を見せるという萌え系のキャラクターに直感的に反感を持ったのはまったく勘違いではなかったということでした。

作品は完全にそうした男たちの願望である「男世界を救うためなら全身全霊を犠牲にして死んでいく少女こそが正義」というものを具現化しています。
ここまで名作と言われるのはそうした願望を完璧なまでに映像化できたからです。
子供も見ることができる範囲内での表現でありながらここまで少女を死に追いやることになんの躊躇もないアニメ作品が存在するのです。
少女が少女でなくなれば魔女という化け物になる、という表現が何故許されるのか。

可愛らしい少女でなくなるならいっそ死んでしまえ、という描き方が受け入れられるのは虚しいです。その少女というのはローティーンまでなのです。

まどかは馬鹿でしたね。まどかが「もういいの」というセリフを言った時はぞっとしました。いったいこれまでどのくらいの女性がこのセリフを言ったことか。

「もういいの」

すべてをあきらめた言葉なんです。追い詰められて追い詰められてどうしようもなくなったのです。
キュウべえ=アイドル事務所であり=男性の欲望=男性に従事しろと言われ続ける女性世界に対し反抗し続けようとしたまどかはここで折れてしまう。
「もういいの」
男たちの薄笑いが見えます。最初からそう言えばいいのだ、男に逆らえるわけがないのだ、と。

そしてほむらはなんとかなるのではないかと思いながら男たちの願望どおり戦い続けている。

「もうよくないよ」

こんなアニメを作品を私は許したくない。

ただの少女に全世界の責任を負いかぶせ戦えと言いながら男たちは姿を見せもしない。
少女たちが傷つき血を流す姿を見ているだけでなにもしない。
いつの間にか男たちは少女を救って戦うことすらしなくなったのだ。
男性たちでこのアニメを見て「良し」と思うものは呪われるがいい。

魔女の呪いだと言われてもかまわない。

魔法少女じゃないから、と嘲笑したいのならそうするがいい。

少女は魔法少女ではない。
少女は少女であり
誰かを愛し、成長していく。

少女の成長を黒ずんでいく宝石などという例えは認めない。

ひとりの少女の犠牲を神になったとか言って人身御供にしていた歴史がある。
神になる、という言葉で少女を生贄にする恐ろしい史実がある。

このアニメに騙されてはいけない。少女を犠牲にしてはいけない。
少女の思春期の力が全世界を救うエントロピーなどというデマゴギーに乗らないで。そんなことはあり得ないのだから。
男の歪んだ願望に踊らされないで欲しい。少女を騙そうとしているだけだから。

少女は普通に成長して大人の女性になるだけです。

それだけのこと。

それだけのことが素晴らしいのです。
 
それを奪って少女を人身御供にしたこの作品は許せない。

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2 コメント

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Unknown (ナナシ)
2023-02-06 17:13:35
>このアニメに騙されてはいけない。少女を犠牲にしてはいけない。
少女の思春期の力が全世界を救うエントロピーなどというデマゴギーに乗らないで。そんなことはあり得ないのだから。
男の歪んだ願望に踊らされないで欲しい。少女を騙そうとしているだけだから。
自分もそうだと思います。

身も蓋のないことをいうと、まどマギは『ネオリベの侍女』であるフェミニストを高度に皮肉った話ですので
ようはフェミニストの(大人の女が守るべきマナーとエチケットを無視した)我が儘で現実無視していて無責任な願いは自分や周りの大切な人(当然男も含む)を結果的に不幸にしてしまうけど、ネオリベであるボク達は救われるからじゃんじゃん願ってねww
という話である。
まどマギの最高に醜悪な設定は、キュゥべえに願ったら『本当に叶えたい願いが絶対に叶わななくなる』という呪いが自分に降りかかるので開き直って利己的な願いをしたところでどうしようもない(≒自分だけ良ければ良いという生き方は許されない)という絶望があるんだよね…
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>Unknown (ナナシ)さん (ガエル)
2023-02-07 06:16:50
コメントありがとうございます。
よほど嫌だったのかこのアニメの記憶がほとんどなくなって「嫌だった」という気持ちだけが強く残っています。
女性版のこのような作品が生まれてくるのかもしれませんがそれもやはり受け入れがたいのではないでしょうか。
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