シンクロ」 エッセイ BY 隼
信号が赤から青へ、少しだけアクセルを開け、ギアを蹴り込む!
クラッチをミートさせると同時に、4気筒エンジンの奏でるサウンドは気持ちとシンクロしながら車体を前に押し出す。
ファースト、セカンド、サードとリズミカルにシフトをしていくと、
ライディングジャケットの開けてある襟や袖から、朝の空気が流れ込んでは体を洗いながして後方へ・・・・
そんな僕を無視するかのようにして、彼女は何も語らず、体を柔らかいケースに包まれつつ、少しだけ斜めの姿を後方に晒している。
安物だけどね、純白の砂浜にだけ見られる、コーラルブルーの姿は、これから向かう季節にあらがうように、僕へ暖かさを届けてくれるんだ。
夏の間はね、 シーブリーズ達が僕を取巻き、 無口なその娘は部屋の片隅にずっとたたずんでいるけど、
季節が替わって、ふと暖かさが恋しくなった僕は、そっとケースを開けて取り出す。
そして、綺麗なクロスで丁寧に拭きあげてチューニング。
いけね・・・・弦を張ったままだった・・・・
しばらく会えなかった恋人みたいに、まるで拗ねているかの様に音が微妙にずれる。
優しく「ごめんね!」とその娘につぶやくと、そのまま左腕でフレットを押さえ、右手の指で撫でるように弦をはじき始めると、
不機嫌はすぐに和らぎ、 素敵な表情を見せ始めると同時に、美しい声を僕の心へ流し込んでくれる。
4速から5速、そして6速にシフトすると、 再び5速へギアを蹴り落として、レブカウンターを2500回転に保つ、
「クッ!」 後ろのやつがウザい、 別に格好付けているわけじゃ無い。
彼女(ギター)を離したくないから連れているだけだ。
ウィンカーを左に出してそいつに道を譲ると、そいつは不機嫌そうに横を通り抜け、 テールランプを僕の目に突き立てつつ離れていく。
朝まで降っていた雨は、アスファルトの上に透明のベールをかぶせ、街路灯の明かりをキラキラと反射させている。
次の交差点を左に曲がれば着くけど、そこは霧とシンクロする朝日がとても美しいところ。
日常の中で、うっかりすると消えてしまいがちで、でも少しだけ注意をすれば得られる幸せ、というのはあらゆる処に存在してる。
サイドスタンドを出して車体を傾けると、イグニッションキーをオフにする。
あたかもそれがリセット信号のように、4気筒、弦、太陽の全てが静寂というシンクロで統一。 僕の一日はそこからスタートする。