78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎重松清の『流星ワゴン』を読んでみた

2009-09-14 17:03:18 | 小説30冊読破への道
──僕はやはり、その横顔が明日になっても消えない毎日を幸せと呼ぶタイプの男なのだろう。


妻は不倫し離婚届を突きつけられ、息子は中学受験失敗を期に不登校、暴力と荒れ狂い、会社はリストラされお金もない。
希望を失い自殺も考えていた主人公・永田一雄(38歳)は5年前に交通事故死した父子の乗るワゴンに拾われ、
時空を超えて人生の岐路となった場所を巡る“やり直しの旅”に出た。

それは見知らぬ男と一緒の妻を偶然見かけた日であったり、息子の模試の日であったり。
行く先々で何故か必ず現れる一雄の父(何故か同い年の38歳)と共に、過去を変えて未来を明るくしようと奮闘する。







※以下本格的なネタバレです。







この物語には一貫して「家族の絆」がテーマとなっている。
謎のワゴンに乗る幽霊の父子もそうだが、
一雄と父、一雄と息子、そして一雄と妻、それぞれの壊れた関係に焦点を当てている。

やり直しの旅でそれぞれの関係を修復し、未来を明るくしたかった一雄。
だが、どんなに努力しても未来を変えることは出来ない、それが現実であることを幽霊父子に聞かされる。

それでも一雄はその旅の終盤、妻に必死のお願いをした。
「おまえが未来を変えてくれ。ヒロ(息子)の受験の結果がわかったら、すぐに離婚してくれ」

妻が離婚し、息子を連れて引っ越してくれれば、息子は二中(=受験に失敗し入らざるを得なかった公立中学。
そこでのいじめが原因で不登校になる)に入らずに済むのだ。


しかし、やり直しの旅で行われたことは関わった人の記憶には残らないという悲しいルールがあり、
結局未来は大きく変わらなかった。
それでも一雄は現実を受け入れ、生き続けることを決意する。



当方は幸せとは何なのか、よく考えてしまう。
お金があれば幸せになれるのか。
お金がなくても両親や妻や子供、家族の存在が幸せにしてくれるのか。
自分の好きなこと、楽しいことが思う存分出来れば独身でも幸せと呼べるのか。孤独死が待っているとしても。




一雄にとっての幸せはこれだ。
旅の最後、ラブホテルでの妻の横顔を見て、一雄はこう思うのだった。



   僕はやはり、その横顔が明日になっても消えない毎日を幸せと呼ぶタイプの男なのだろう。




Hなシーンや終盤の一雄と父の立ちションなどの描写は余計だったが、
絆とは何か、幸せとは何か、そして人生とは何か、大いに考えさせられる物語だった。

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