――いつも強く願う 「心がのぞければいい」と――
2011年に惜しまれつつも解散した女性コーラスデュオのRYTHEMの5枚目のシングル『万華鏡キラキラ』の歌い出しの一節である。この曲が世に出た10年前、多くの日本人が歌詞に共感し、人の心をのぞけないもどかしさに改めて気付かされた。僕もその一人であり、学生時代から趣味として小説を書いていたのは、コミュニケーションを極力避けてそれに逃げていたとも受け取れる。人見知りが治らないまま早28年、僕のやってきたことは果たして正しかったのか。
これは、一人の少女によってその答えが導き出され、それに悩み苦しんだ64日間の物語である。
<第一部:6years>
全ては2013年12月17日、小説共有サイトに僕の記念すべき1作目『ただの女子高生』が投稿されたことから始まった。実はこれを徹夜で書き上げ、翌日は普通に日勤の勤務がありヘトヘト状態だった。
「今日どうしたんですか?」
話しかけてくる一人の少女。ストレートである。
>人間が分かり合えるかもしれないという希望はとっくに捨てている。分かり合えるわけが無い。だが、そうだとしても人間と人間は言葉のキャッチボールをしなければならないのが現実なのだ。
>ストレートとは正しく向き合わねばならない。
そう、僕は逃げずに向き合うと決めたのだ。どんな精神状態であってもしっかりと会話を交わさなければならない。
「昨日寝てないんですよ」
「エー、何していたんですか?」
しかし、ここで僕は最大の失言をすることになる。
「小説を書いていたんですよ」
そのレスポンスは正解であり不正解だった。事態はとんでもない方向へと向かう。
「どんな話ですか?」
「まあ一言で言えば学園ものです」
「見せて下さい。すごい気になります」
徹夜で書いた『ただの女子高生』で用いられた滝口と沢井の会話の9割は、僕とストレートの交わした会話を原案としているのだ。しかも沢井はストレートと同じ高校3年生。そんな小説を見せられるわけがない。
「イヤ、大したものじゃないですよ」
僕は必死に拒否に持って行こうとしたが、
「それでも良いから読んでみたいです。私文章力が無いから参考にしたくて」
完全に押し切られる形で僕はOKしてしまった。
本当に大変なことになった。次にストレートがシフトインする5日後の22日までに“小説”を持ってこなければならない。彼女は僕が徹夜で書いていた小説を読みたいだけで、普通ならそのファイルをそのまま印刷すれば終了するが、今回は前述の理由によりそうはいかない。なら会話の部分だけ修正すれば良いのではないか。それも考えたが、あいにく仕事も年末のハードモードに突入しており5日という短期間では不可能だった。
そこで、過去に作成した他の作品群より選ぶことにした。ブログに掲載した過去作を読み漁る。そして悲しい事実に気付く。
――自身を持って人に見せられる作品が一つも無い――
僕は学生時代から一体何をやってきたのか。ただの自己満足だったのか。だが悲しみに浸る時間は無かった。過去作から一つを選び、ストレートに見せられるレベルに達するまで推敲しなければならない。その素材はどれにすべきか。『もうひとつの虹』は論外、『桜の舞う頃に・・・』は学園ものではないし、カピバラ絡みの実話は気持ち悪いだけ、書きかけの『COLORS(仮)』を5日で仕上げるのは不可能、ならば残るは一つしかない。
――『タオル』――
(つづく)
2011年に惜しまれつつも解散した女性コーラスデュオのRYTHEMの5枚目のシングル『万華鏡キラキラ』の歌い出しの一節である。この曲が世に出た10年前、多くの日本人が歌詞に共感し、人の心をのぞけないもどかしさに改めて気付かされた。僕もその一人であり、学生時代から趣味として小説を書いていたのは、コミュニケーションを極力避けてそれに逃げていたとも受け取れる。人見知りが治らないまま早28年、僕のやってきたことは果たして正しかったのか。
これは、一人の少女によってその答えが導き出され、それに悩み苦しんだ64日間の物語である。
<第一部:6years>
全ては2013年12月17日、小説共有サイトに僕の記念すべき1作目『ただの女子高生』が投稿されたことから始まった。実はこれを徹夜で書き上げ、翌日は普通に日勤の勤務がありヘトヘト状態だった。
「今日どうしたんですか?」
話しかけてくる一人の少女。ストレートである。
>人間が分かり合えるかもしれないという希望はとっくに捨てている。分かり合えるわけが無い。だが、そうだとしても人間と人間は言葉のキャッチボールをしなければならないのが現実なのだ。
>ストレートとは正しく向き合わねばならない。
そう、僕は逃げずに向き合うと決めたのだ。どんな精神状態であってもしっかりと会話を交わさなければならない。
「昨日寝てないんですよ」
「エー、何していたんですか?」
しかし、ここで僕は最大の失言をすることになる。
「小説を書いていたんですよ」
そのレスポンスは正解であり不正解だった。事態はとんでもない方向へと向かう。
「どんな話ですか?」
「まあ一言で言えば学園ものです」
「見せて下さい。すごい気になります」
徹夜で書いた『ただの女子高生』で用いられた滝口と沢井の会話の9割は、僕とストレートの交わした会話を原案としているのだ。しかも沢井はストレートと同じ高校3年生。そんな小説を見せられるわけがない。
「イヤ、大したものじゃないですよ」
僕は必死に拒否に持って行こうとしたが、
「それでも良いから読んでみたいです。私文章力が無いから参考にしたくて」
完全に押し切られる形で僕はOKしてしまった。
本当に大変なことになった。次にストレートがシフトインする5日後の22日までに“小説”を持ってこなければならない。彼女は僕が徹夜で書いていた小説を読みたいだけで、普通ならそのファイルをそのまま印刷すれば終了するが、今回は前述の理由によりそうはいかない。なら会話の部分だけ修正すれば良いのではないか。それも考えたが、あいにく仕事も年末のハードモードに突入しており5日という短期間では不可能だった。
そこで、過去に作成した他の作品群より選ぶことにした。ブログに掲載した過去作を読み漁る。そして悲しい事実に気付く。
――自身を持って人に見せられる作品が一つも無い――
僕は学生時代から一体何をやってきたのか。ただの自己満足だったのか。だが悲しみに浸る時間は無かった。過去作から一つを選び、ストレートに見せられるレベルに達するまで推敲しなければならない。その素材はどれにすべきか。『もうひとつの虹』は論外、『桜の舞う頃に・・・』は学園ものではないし、カピバラ絡みの実話は気持ち悪いだけ、書きかけの『COLORS(仮)』を5日で仕上げるのは不可能、ならば残るは一つしかない。
――『タオル』――
(つづく)
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