富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

心に王冠を

2010-03-03 14:36:42 | コバルト
集英社文庫 コバルトシリーズ 初版:昭和53年5月
カバー:菅沢貞一

コバルト文庫のカバーはNOWなものが多いが、
これはひときわNOWい。


<心に王冠を>
熊谷三吉は、平々凡々と日々を送る、何のとりえもない高校3年生だ。
大学にも進学しない、スポーツもそれほどできない、彼女もいない、不良でもない。
心の中になんとなく広がる後悔とあせりを感じ始めていた三吉は、
ある朝、これからは自分に誇りを抱き、自分の王として生きるのだと決意する。

突然の三吉の変化に、周囲からの攻撃も少なからず起こる。
三吉の家族、継母や父、兄弟からのいやがらせ、
不良の沼田からの暴力…しかし三吉の強い意志はそれらに屈することはなかった。

ある日、三吉は幼いころからずっとともにいた少女、虹子の胸で思い切り泣く。
これが最後の涙だ。
三吉は愛する女性という後ろ盾を得るとともに、さらに確固たる決心を固める。

何があっても毅然とした態度で振舞う三吉へ、家族からの執拗な嫌がらせはますます激しくなった。
高校を卒業するまで我慢していた三吉だったが、家のお金を盗んだ容疑が虹子にまでかけられたその日、
ついに家をあとにする。

三吉は高校に通いながらラーメン屋で住み込みで働きはじめた。
虹子への愛、そして未来への希望。
それらに後押しされながら、三吉は自立した一個の人間としての歩みを進めるのであった。




「自分も変われる!」

きっと多くの若者を勇気付けただろう!と思わせる小気味いいストーリー。
読んでるうちに私の背筋も伸びてきた。

三吉が自分の王になる決心をするのがいささか唐突だと思ったが(きっかけが記されていない)、
それが読者に「つべこべ言わずに、やれ!」という気分にさせるのかもしれない。
(…ということまで狙っていたのであればすごいと思う)

そして三吉の精神は強い!
決心した朝の様子は、やや滑稽であり笑ってしまったが、
たった1日でまわりに変化を感じさせるほど変わるのだ!

うだつのあがらない少年が突然きりっとして、
家ではテレビをボーっと見ていたのが「ヨブ記」なんて読んだりして、
(たぶん)数日で不良の沼田を屈服させ、虹子に愛を告白するのだから
そりゃあもうカッコイイ!

設定は平凡な少年だけど、スーパーヒーローに見えてくる。

つらいことがあったとき、何度となく読み返したくなる一冊だ。



さて、『のぶ子の悲しみ』に次いで、この本にはいろいろ考えさせられたのだが、2つには共通点がある。


三吉は自らの王として、のぶ子は女王として生きる。
そして2人とも、「豚」のように生きたくないと思い、自分の幸福のために信念を貫く。
自分は誰にもなろうと思わない、自分なのだ。


そうか。
私は『青春をぶっつけろ』のメッセージが、妙に腑に落ちてしまった。
確かにこの話でも、三吉は周りの「豚」を「軽蔑」しているきらいがあり、どうかと思った。
でもそれはつまり、表現がなんであれ、自分の誇りを象徴しているだけではあるまいか。
言葉の過激さ、乱暴さにだけ反発して、ぜんぜん読めてなかったじゃんか。


ちょっともう一回『青春をぶっつけろ』を読み直してみようかと思った。
あるいは、もう少しいろいろな作品を読んだあとでもいいかもしれない。
(これも単純さのなせるゆえんか)


それだけ私がこの2冊から受け取ったメッセージは強烈なのだ。
自分の人生を変えた本は今までもあったが、それに入るだろう。
だからもっと深めたい。



しかし三吉はのぶ子より幸せだ。
家族はさておき、虹子や虹子の母、ラーメン屋の主人と、周囲の愛に包まれている。
最後、三吉の父がちょっとかわいそうだったが…。
この話の女の子バージョンも読みたい。この先出てくるだろうか。



さて、最後に瑣末な話。

ヒロイン虹子はとてもキュートだ。
三吉の細やかな心の動きを察することができるとともに(まるで女房みたいに)、
本棚に「性科学書」を隠し持っていたりと、ちょっとエッチな匂いのする女の子。


接吻の最中、激情にかられた三吉の手が「動いた」。
虹子は抵抗し、すぐに三吉は離れたのだが、そのあとの二人の会話がどうもわからない。


「さっきはこわかったわ」
「すまん」
「ううん。だって、……わかったんだもの」



ううむ。わかったって??『純愛一路』と同じあれのことか?
もっと心情的なことか?
くだらないことだけど気になる…。


2010年3月2日読了


>>次は…『明日は青春』


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おっしゃるとおり (ちゃこ)
2011-02-24 15:52:36
ふみさん、この本をすすめてくださって
ありがとうございました!
おっしゃるとおり、襟を正したくなる
三吉の生き様でした。
『純愛一路』のあれ…何だろう。次は『純愛一路』を読むべきでしょうか。
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ちゃこさん (ふみ)
2011-02-25 20:18:39
よかった!

恋愛論が好きになれない私も、この作品は人生訓として受け止めています。

『純愛一路』も私の大好きな作品です。人生訓というより恋愛ドラマですが。
あれとは、あれ。くだらないことです…。


またちゃこさんのところにもおじゃましますね。
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