富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

ちぎれ雲の歌

2010-02-14 14:57:16 | コバルト
集英社文庫 コバルトシリーズ
初版:昭和52年10月
カバー:新井苑子
カット:佐川節子

禅では食事の時、一口食べ終わる前に他のものに箸をつけてはいけないという。
1冊読み、読後感をまとめながら次の1冊を読む。
今週は、仕事も忙しいうえに関根恵子の映画を見に行ったりして
頭の中がごちゃごちゃになってしまった。
ゆとりを持たねば。


<ちぎれ雲の歌>
6年前に町を去った美津が帰ってきた。いつも英介のそばにいた美津。
高校2年になって再開した二人は、お互い6年前と変わらない愛情を持っていた。
ある日、美津は近所のおばさんから、英介と雪枝が許婚であるといううわさを聞く。
雪枝は英介の遠い親戚で、おおらかで活発な、美津とは正反対の少女だ。
そんなはずはない…、二人の仲を疑う美津。
そして美津にも不良の増田や剣道の達人、新藤が接近しはじめる。



幼なじみの二人が青年になり愛を深め合う、というパターンが多く見られるが、
どの作品でも、男の子の優しさがにじみ出ている。
「守ってあげたい」という気持ち。そして一生そばにいたいという気持ち。
ラスト結婚を意識するシーンからも、寄り道ない恋愛の話であることがわかる。
ありえない?でもいいなあ、と素直に思う。

しかし男の脇役の影が薄い。
女の子の登場人物に特に個性を持たせているような印象がある。



<夜明けの星>
知恵子は自分の家族にぎこちなさを覚えていた。
年老いた両親、そして年の離れた冷たい兄、一徳。
特に21で亡くなったという姉のことになると両親はひどく動揺した。
優しかったもう一人の兄、政彦は「悪い仲間」に入り(政治活動か?)、町を出て行ってしまった。

どことなく孤独を感じる知恵子は、中2のある日、一徳のある一言から出生の秘密を知る。
知恵子は死んだ姉の子だったのだ。

失恋、腹違いの妹との出会い、一徳からの冷たい仕打ち。
「にくまれても踏みつけられても、立ち上がって、壁にぶつかっていくんだ」
そんな政彦の言葉を胸に懸命に生きる知恵子。
しかし祖母が死に、いよいよ自分の居場所を失った知恵子は、町を出る決心をする。
ある少年に会いに行くのだ。



ああ、もう悲しい。
「ふさ子の良心」みたいなラストだったらどうしようかと思って読み進めた。
かろうじてラストで希望の光が見えるが、それでも心に重いものが広がる。
苦難を乗り越えようとする知恵子の強さを、立派とみるのか悲劇とみるのか?
私も平和な世の中に生きているということか。

2010年2月11日読了


>次は…「湖は慕っている」


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