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◇企業システム◇今話題のSaaSに死角はないのか

2008-09-02 16:30:21 | 視点

 【視点】最近、各社からSaaSに関する発表が相次いでいる。それらを挙げると、日本ユニシスがSaaS型サービス基盤「SASTIKサービス」の提供開始/富士通中部システムズがSaaS型統合CRMアプリケーションサービス「CRMate(シーアールメイト)」を中小規模から大規模までラインアップ強化して提供/NECネクサソリューションズとソフトブレーンがSaaS型営業支援システムを販売開始/アライドテレシスがオラクルのSaaS型CRMソフト「Oracle CRM On Demand」を導入し顧客管理システム刷新―などである。SaaSは“ソフトウエア・アズ・ア・サービス”の頭文字をとったもので、ソフトウエアをインターネット回線を介して送り、ユーザーは必要なときに、必要なだけ利用できる従量制料金体系になっている。また、ユーザーのデータはSaaSベンダー側に記録され、ユーザーのシステム負担は自社導入に比べ大幅に抑制することができる。つまりSaaSを導入することにより、ユーザーは初期投資コストを大幅に削減できることになる。

 米国でのSaaSベンダーでの成功事例としてはセールスフォース・ドットコムが挙げられるが、このほか既に日本に進出している米国のSaaSベンダーとしてネットスイートなどを挙げることができる。セールスフォースはCRM、ネットスイートはCRM以外にERP、Webシステムなども提供している。SaaSが威力を発揮するのは、自社でシステム構築するより大幅に開発期間を短縮できることが挙げられる。また、頻繁に変わる制度を一ユーザーが変化のたびにシステムを変更するのは大変なことであり、SaaSベンダーが一括して行えば効率的だ。このようなことからセールスフォースやネットスイートなどの成功事例も現れ始めており、大手ITベンダーでも相次ぎSaaSプラットフォームを開発し、独立系ソフト企業に提供しつつあり、これが現在、冒頭に挙げた各社からの発表の数に表れている。

 しかし、SaaSの前途はすべてがばら色かというと、まだまだ乗り越えないとならない課題も多い。まず、コストの点である。初期導入コストは、自社開発した場合に比べ確かに安く済み、立ち上げまでの時間も短い。利用コストもも従量制なので使った分だけ払えばいいので合理的だ。しかし、1年経ち、2年経ち、利用が長くなっても一定の料金を払い続けなければならないという問題が出てくる。また、貴重な顧客データをSaaSベンダーに渡すわけであるが、最近強く求められるようになった内部統制の強化の観点からすると不安要素が付きまとう。さらに、SaaSベンダーが倒産したらユーザーは窮地に立たされる(これについては最近公的機関のお墨付きをSaaSベンダーに与え、ユーザーの不安を取り除く制度がスタートした)。このほか、パッケージソフトベンダーがSaaSによってユーザーに直接ソフトを提供するとなると、従来からあるディーラーの存在はどうなるのかなど、SaaSの前には乗り越えなければならない課題も少なくない。

 ただ、これからの企業システムのあり方として、ユーザーが自らシステムを保有しないという方向に向かうのは確実で、その意味からするとSaaSベンダーは一歩先を行っているということが言えよう。最近グーグルやアマゾン、それにIBMは盛んにクラウドコンピューティングということをいっている。これは企業システムのすべての処理をネット介して行い、ユーザー側には巨大なシステムは置かないことを念頭に置いたシステムとなっており、言わSaaS型といえよう。クラウドコンピューティングは、パッケージソフトで成功を収めてきたマイクロソフトに対する牽制球といった意味合いが強いが、いずれにせよ、企業システムはSaaS型に徐々に移行し始めていることだけは確かだ。(ESN)