【ユーザー】野村総合研究所(NRI)は、08年に引き続き、09年9月11日から30日にかけて、日本国内に本社を持つ大手企業の経営企画部門を対象に、「経営戦略におけるIT(情報技術)の位置づけに関する実態調査」を実施した。今回の特徴として、産業や業界の構造変化に対する意識の高まりから、経営戦略で構造改革の方向性を示す企業が増加している。経営によるIT投資の選別や評価が厳しくなる一方で、戦略的なIT活用の認識や、SaaSやクラウド等の新しい外部ITサービスへの期待が高くなっている。経営が目指す構造改革を実現するためには、経営とIT部門の連携強化が重要であり、経営のリーダーシップが期待される。(野村総合研究所:10年1月18日発表)
【コメント】野村総合研究所(NRI)が今回行った「経営戦略におけるIT(情報技術)の位置づけに関する実態調査」は、今後のわが国の企業が国際競争力を付けることができるか、どうかの大変重要なテーマとなっている。古くから、各企業には情報システム(IT)部門が存在し、企業システムの企画、システム構築、システム運用管理を一手に担当してきた。IT部門が主導してきた企業システムは、それなりに各企業にとって欠かせない経営ツールとして機能してきている。
ところが、これからの企業経営の環境を考えた場合、これまでの常識が果たして通用するかどうかは、断言できない面がある。メインフレーム時代からクライアントサーバーシステム時代へと移り変わり、さらにWebシステム時代に突入し、そして現在、仮想化技術の導入によるサーバーの統合時代へとさしかかってきた。その延長線上にはクラウド時代が到来することは、もはや否定できないことである。こうなると、過去の蓄積は、あまり意味をなさないことになりかねない。丁度、これは真空管から半導体へと変化を遂げた後に、真空管技術をいくら振るかざしたところで、意味を持たないことに似ている。
こんな中、NRIでは「経営戦略におけるIT(情報技術)の位置づけに関する実態調査」を行い、次のような調査結果を得た。情報システムの設計・開発・運用において、「外部サービスを利用していない」と回答した企業は10.9%にとどまり、約9割の企業が何らかの外部サービスを利用している。これは「ベンダが持つ高度なソリューションや技術力を活用する」や「要員の不足を補う」が主な目的。また、SaaSやクラウ
ド等の新しい外部サービスに対しては、①ライフサイクルコストの削減、②迅速性・柔軟性の確保、③最新・最適な技術の選択などの効果が期待されている。ここから、環境変化に対する自社のIT対応能力を、効率的かつ効果的に高めようという狙いがみてとれる。
また、今回の調査から、経営戦略とIT戦略を一体的に策定している企業は、前回より約10ポイント減って20%程度に留まった。さらに、約6割の企業が、経営戦略とIT戦略を一体的に策定することが望ましいと考えているにもかかわらず、そのうちの3分の2の企業において、一体的な策定ができていないという問題もある。これらの結果を踏まえると、ITの力も活用して、経営が目指す構造改革を実現させるためには、
これまで以上に経営とIT部門の連携を進めていくことが重要と考えらる。そのためには、IT投資に対して積極的に関与し、リーダーシップを発揮していくことが経営には求められる、と今回の調査では結論付けている。
経営戦略とIT戦略を一体的に策定している企業が減少しているという事実は、ある意味でショッキングな結果である。これまで幾度となくCIO(情報担当役員)の重要性が指摘されていながら、現実は逆方向へと向かっていたことになる。各企業とも、経営とITの関係を再度点検してみる必要がありそうだ。(ESN)