花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

絶望的なショック

2015-06-09 14:47:49 | P子の不倫
「あたし、この間、大ショック、ううん大大大ショックを受けたの、もうもう、絶望的な大大大ショックよ、ああ!!」
 P子がため息つくように言ったので、
「どんな、ショック? 大が3つもつくなら……」
「ううん、3つどころか10、ううん100、ううん1000くらいつくショック!!」
「あらあら、大が1000もつく、どんなショックだったの?」
 しょっちゅうショックを受けている彼女のことだから、話半分に聞こうと内心は思ったんです。
「机の引き出しの整理してたら、ずっと前に買って読んだムック本の切り抜きが出てきたの」
「何のムック本?」
「女性向けのムック本で、テーマがセックスについてなの。セックスは健康のバロメーターとか専門家が書いてるのだけど、セックスは健康のバロメーターって、あたしが先に考えた言葉よ」
「専門家のほうが先でしょう? それを読んでP子の頭にイン・プットされてたんじゃないの?」
「ううん、あたし、絶対、あたし」
「ハイハイ、それで」
「『コレステロールが性ホルモンを作る』っていうタイトルの記事を読んで、その後、愛する旦那様との会話で、その話をしたの。男性機能がちょっと不元気だったから、「血圧下げる薬の副作用ってことはないでしょうしね。コレステロール下げる薬だったら副作用だと思うけど。性ホルモンはコレステロールが作るって、専門家が書いた記事読んだわ。でも、降圧剤だけでコレステロール下げる薬は飲んでないものね」って、念を押すみたいに言ったら、「飲んでるよ」ってあっさり答えたから、「えええええっ!」ってベッドから跳ね起きて、もうもう、息をするのも忘れそうなほど驚愕して絶句して愕然となって大大大ショックを受けたのよ」
「それは……確かにショックね」
「いつから飲んでるのって聞くと、もう5年か6年前からだっていうから、さらにショックを受けちゃったの。そんなこと一言も言ったことないし、あたしが薬嫌いってことを知ってるから言わなかったのか、目の前で飲むわけじゃないから言わなかったのか、あたしが質問するまでそのこと黙ってたなんて!」
「まさに妻と愛人の違いね。一緒に生活してれば当然知ってる妻と、週に一夜程度会う愛人との」
「それでわかったのよ! 間違いなく、そのコレステロール下げる薬の副作用なのよ! 性ホルモンが少なくなっちゃったのは。人間ドックの検査で数値が高いからって医師から処方されたらしいけど、血圧もコレステロールも標準値を厳しく設定して薬をジャンジャン飲ませる製薬業界と厚労省と医療業界の陰謀とか、健診で、健康な人たちが、厳しい数値より少しでも高いと、必要のない薬を処方されちゃうのが現代医療の風潮、という認識が一般的とか、薬を飲む前に数値を下げる努力する方法があるとか、どうしてそんなに簡単に飲んじゃうのって言って、性ホルモンが減っちゃうから飲むのをやめたらって言ったら、やめたら大変なことになるかもしれないって、医師から洗脳されちゃってるの」
「最近は薬を飲む前に食事とか運動とかで数値を下げる人が多いんじゃない? その医師はきっと、すぐ薬っていうタイプの医師なのよ。検査の病院変えるように言えば?」
「だけど親戚の医師がいた病院で、長年、ご両親も病院へ行く時はそこだったし、家族じゅう行くから信頼してるのよ。特定機能指定とかの☆☆病院だしね」
「あの有名病院ね。周囲でも信用して行く人、結構いるみたい。特定機能指定っていうのも、何かあると取り消されたり、また指定されたり、そのへんの隠蔽事情もあったり厚労省なんていい加減だって噂聞いたわ」
「きっと、ノルマがあるのよ」
「ノルマ?!」
「そ。患者に薬をどれくらい処方して売りつけなくちゃ製薬会社からたっぷりお金を貰えないってノルマがあるに違いないわ。そのノルマをこなすために本当は健康な人たちに、検査で、年々厳しく設定した数値より少しでも高いと片っ端から薬をど~っさりと処方しちゃうのよ、ノルマがあるから」
「まるでセールスマンの営業ノルマみたい」
「そうよ、おんなじよ。ああ、あたしって、何て可哀想な被害者……って言ったら、愛する旦那様が噴き出すみたいに笑ったの」
「被害者とはオーバーねえ」
「じゃ、犠牲者よ。ここにこんな哀れな犠牲者がいることも知らずに、ううん、あたしと愛する旦那様っていう2人の犠牲者がいることも知らずに、あたしの愛する旦那様の、大事な大事な大事な性ホルモンを、残酷にも冷酷にも減らしまくってるなんて!! きっと神様の罰が当たるわ!! ね、そう思うでしょ!!」
 キッと私の顔を見て同意を求めるので、ウンウンとうなずいてあげたんです。心やさしい私――。

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