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子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

子宮内膜症のparadigm change

2006-10-29 | 子宮内膜症
腹腔鏡の進歩とともに子宮内膜症手術も大きく変わりつつある。

1.腹腔鏡下手術出現前(1990年以前)
以前は、子宮内膜症手術(保存手術)は開腹によって行うものであり、チョコレート嚢胞核出や癒着剥離のみであった。腹膜病変はほとんど見逃されてしまうし、深部病変を切除するのは困難である。手術侵襲が大きく、大きな傷が残ること、また、新たな癒着を生じてしまうことなどから、何度も手術を行うことは避けられるべきであった。そこで、ある程度症状が進行するまで様子をみることが多かったのである。(チョコレート嚢胞が6-7cm程度になるまで)月経痛や骨盤痛に対しては、薬物療法(GnRHアゴニストやダナゾール)で治療するのが普通であった。骨盤痛などがひどくなってきたら、薬物療法をくり返すか、妊娠出産を望まない年齢になってきたら根治療法(開腹による子宮と両側卵巣の摘出)である。

その後、本邦では80年代後半から経膣エコーガイド下にチョコレート嚢胞を穿刺吸引しエタノールを注入して固定する手技が行われるようになった。しかしながら、この治療法では卵巣内の病変に対しては有効であっても腹腔内の病変は放置され、アルコールが漏れることにより腹腔内癒着を悪化させるなどの懸念がある。

2.腹腔鏡下手術登場後(1990-2000年頃~)
腹腔鏡下手術の進歩により、癒着剥離、チョコレート嚢胞の核出が腹腔鏡下で行われるようになった。(本邦では2-3cmほどの小切開を加えた体外法のほうが普及した。)術後癒着も開腹よりはるかに少なく、骨盤内がよく観察できるので腹膜病変の焼灼が行われるようになった。腹腔内洗浄や子宮内膜症に対する処置により軽症~中等症の子宮内膜症では妊孕性が大きく改善される。(術後1年ほどをゴールデンタイムと呼ぶ)

手術侵襲が小さいこと、術後癒着が少ないことなどから、特に体内法を上手く行える術者は小さなチョコレート嚢胞であっても腹腔鏡下手術を行うようになった。軽症であるうちに手術をしたほうが予後がよいこと、軽症と思っても既に腹腔内に病変が進んでいることもあること、放置すれば進行していくことからである。

また、月経痛や骨盤痛に対して仙骨子宮靭帯切断が行われるようになった。(しかしながら、仙骨子宮靭帯切断後の子宮内膜症性疼痛の中長期予後はよいとはいえない。)根治療法、準根治療法(子宮は摘出するが卵巣は温存)をする場合も腹腔鏡下で行えるケースが増えた。

ただし、チョコレート嚢胞の核出後、卵巣機能が低下する例があるとの指摘もある。これは、粗暴な手術操作によるためかもしれない。(エキスパートの手術ではこのようなリスクは非常に低いと思われる。)

3.腹腔鏡下手術発展期(2000年頃~)
腹腔鏡が優れている点は、拡大して骨盤内臓器を観察できることである。ダグラス窩へのアプローチもしやすく、細かな手術操作も可能である。このことを利用して、エキスパートたちは腹膜病変、深部病変の切除を行うようになった。ダグラス窩完全閉塞や腸管等の強固な癒着剥離、膀胱や直腸子宮内膜症に対する手術、子宮腺筋症核出も腹腔鏡下で行うことが可能となっている。重症子宮内膜症の場合、手術によって妊孕性が上がるかどうかはわからないが、少なくとも骨盤痛や月経痛などの症状は劇的に改善する。従来は手術の対象とされなかった重症例でも、完遂度の高い手術が可能となった。

この10年ほどで子宮内膜症手術も大きく進歩してきた。しかし、婦人科医のすべてが腹腔鏡下手術ができるわけではないし、腹腔鏡の術者すべてがエキスパートというわけではない。患者さんにとっては受診した婦人科医によって1.~3.まで方針、説明が全く異なるのではないかと思う。

軽症、中等症の子宮内膜症はかならずしもエキスパートが手術しなくてもいいと思う。しかしながら、重症例、骨盤痛や月経痛の強い例を治療するのはエキスパートの仕事だろう。ただし、3.のレベルの術者は明らかに不足している。時間はかかるだろうが、より多くの後継者を育てなくてはならない。
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手術前のホルモン療法について (りんご)
2006-11-01 01:01:35
いつもブログを読んで内膜症について勉強させていただいております。
手術を控えているのですが、術前のホルモン注射に関して疑問があり質問させてください。

筋腫&内膜症があった場合、腹腔鏡手術前のホルモン療法は有効でしょうか?
手術前数ヶ月前、もしくは数週間前からGnRHアゴニストを患者に使用し、筋腫などを小さくしてから手術する・・
術前の薬物療法について賛否両論あるようなのですが、松本先生はどのようにお考えでしょうか?
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