1. まえがき
一般相対性理論の議論が主流となり、特殊相対性理論は簡単な記述となっている。その中
で、ローレンツ変換の導出過程も杜撰なものが多い。というのも、この理論にとって重要
なのはローレンツ変換であって、その導出過程は本質では無い。つまり、ローレンツ変換
を原理の一つとしてもよい。
とはいえ、なるべく少ない原理から理論が構成される方が望ましい。これを明確にすると、
以前に述べたように、隠れた原理や物理概念の意味がはっきりする。
2. 同時の定義の重要性
アインシュタインの論文の最初に述べられる「同時の定義」については、ほとんど議論さ
れず、その意義がほとんど知られていない(省かれたり、同時の相対性と誤解している書
籍もある)。
しかし、ローレンツ変換が想定される時空では時間と座標、特に時間の意味が不明確にな
る。一言で言うと、時間とは、各座標における「基本周期物理現象の周期の回数」のこと
であり、このままでは出だしがバラバラだから、同時の定義によって、時刻合わせをして
おけば、一つの慣性系では「同じ時間」が使えることになる。
しかし、この当たり前のような定義はどこに使われるのだろうか? 以前に述べたように
この定義によって、同一慣性系内で座標 r₁ から時刻 t₁に発した光が、座標 r₂ に到達した
ときの座標 r₂ の時刻 t₂は
t₂=t₁+|r₂-r₁|/c (cは光速度)・・・・・(2.1)
となることが保証されている。
3. 原理・仮定
(1) 特殊相対性原理(時空間の等方性・一様性を含める)
(2) 光速度不変の原理
(3) 慣性系間の(相対)速度は光速より小さい
(3)は以前に述べたが、どこにも書かれていない重要な仮定である。つまり、この仮定が
ないと、ローレンツ変換が導けない。したがって、この理論は元々、光速以上の議論は
初めから除外されている。
4. 変換の線形性
このことも、本質ではないが、こだわりがある書籍では時空間の一様性から結論として
いる。しかし、数学的に導かれていない。その原因は一様性が数学的に定義されていな
いことにある。その定義は座標変換を
x'=f(x,y,z,t) , y'=g(x,y,z,t) , z'=h(x,y,z,t) , t'=k(x,y,z,t)
としたとき、
∂xi'/∂xj=定数 (xi' , xj はそれぞれ、(x',y',z',t') , (x,y,z,t) を表す)
である。たとえば、∂x'/∂x=a , ∂x'/∂y=b , ∂x'/∂z=c , ∂x'/∂t=d とすれば、マクローリ
ン展開によって
x'(x,y,z,t)=f(0,0,0,0)+(x∂/∂x+y ∂/∂y+z∂/∂z+t∂/∂t)f(θx,θy,θz,θt) (0<θ<1)
=x₀+ax+by+cz+dt
となる。他も同様である。
なお、アィンシュタインの論文は偏微分法手式で議論した後、線形変換しているが、わ
かりにくいだけで始めから線形変換にしておけば簡明になる(意図が不明である)。
5. 変換の絞り込み
5.1 原点合わせ
以下では、簡単のため、慣性系S'はSに対して、+x方向にvの速度を持つとする。以上
の議論から慣性系S(x,y,z,t)とS'(x',y',z',t')間の変換は
x'=x₀+a11x+a12y+a13z+a14t
y'=y₀+a21x+a22y+a23z+a24t
z'=z₀+a31x+a32y+a33z+a34t
t'=t₀+a41x+a42y+a43z+a44t
と表せる。ここで、慣性系内で同時の定義により時刻合わせをしたように、S系とS'系
の時刻合わせを、各系の原点が一致したとき t'=t=0 とすれば(各座標により時間が異
なるので1点でしか合わせられない)、 x₀=y₀=z₀=t₀=0 となり
x'=a11x+a12y+a13z+a14t
y'=a21x+a22y+a23z+a24t
z'=a31x+a32y+a33z+a34t
t'=a41x+a42y+a43z+a44t・・・・・・・(5.1)
を得る。ここで、各係数は(x,y,z,t)の定数ではあるが、速度vをパラメータにもつ可能性
が想定されている。
5.2 空間の等方性
ここで、空間の等方性から2つの座標を図1から図2のように、x軸を中心に180゜回転
しても物理条件は変わらない(座標系を固定して空間を回転しても良い)。すると、
各座標系のイベント座標は (x,y,z,t) , (x,',y',z',t') → (x,-y,-z,t) , (x,',-y',-z',t') となるが、
変換式は変わらないから (5.1)式は
x'=a11x-a12y-a13z+a14t
t'=a41x-a42y-a43z+a44t・・・・・・(5.2)
となる。(5.1)と(5.2)式の第1、4式の差を取ると
x'-x'=0=2a12y+2a13z , t'-t'=0=2a42y+2a43z
y, zは任意だから、上式を満たすには
a12=a13=a42=a43=0
となる。これを(5.2)式に入れると
x'=a11x+a14t
t'=a41x+a44t・・・・・・(5.3)
つぎに、図3のようにx軸周りに90゜回転すると同様に、(x,y,z,t) , (x,',y',z',t') →
(x,-z,y,t) , (x,',-z',y',t') となり、(5.1)式は
-z'=a21x-a22z+a23y+a24t
y'=a31x-a32z+a33y+a34t
となる。また、図4のようにx軸周りに逆に90゜回転すると同様に、(x,y,z,t) , (x,',y',z',t')
→ (x,z,-y,t) , (x,',z',-y',t') となり、(5.1)式は
z'=a21x+a22z-a23y+a24t
-y'=a31x+a32z-a33y+a34t
となる。これらの式の和をとれば
-z'+z'=0=2a21x+2a24t
y'-y'=0=2a31x+2a34t
となり、この式は任意の x,t について成立するから a21=a24=a31=a34=0 を得るから
y'=a22y+a23z
z'=a32y+a33z・・・・・・(5.4)
となる。
5.3 y,z軸の変換の絞り込み
つぎに、S'系で t'=0 のとき、y'=y=0、z'≠0 の点を考えると(5.4)式は 0=a23z、z'=a33z
となる。すると z'≠0 だから、a33≠0、z≠0 となる。すると、a23=0 を得る。同様に
z軸についても同じ議論ができ、a32=0 を得る。すると(5.4)式は
y'=a22y
z'=a33z ・・・・・・(5.5)
となる。
(5.3)(5.5)式から、以上をまとめると、通常使われている出発点の式
x'=a11x+a14t
t'=a41x+a44t
y'=a22y
z'=a33z ・・・・・・・・(5.6)
が得られた。
6. ローレンツ変換の計算
6.1 座標系の相対速度から
S'系の固定定点 x'はS系から観て、速度vをもつから、x'=a(x-vt) の形となる。すると
(5.6)式を書き換えて
x'=a(x-vt)
t'=bx+dt
y'=ey
z'=fz ・・・・・・・・(6.1)
とできる。
6.2 光速度不変の原理から
原点から±x方向に光を発射すると、(光速度の不変の原理と同時の定義からの)
(2.1)式から、光の到達点は x’=±ct’, x=±ctとなる。以下は複合同順として
±ct’=a(±ct-vt)=a(±c-v)t、t’=b(±ct)+dt=(±bc+d)t
この両式から t’,t を消去して
±c(±bc+d)t=a(±c-v)t → bc²±cd=a(±c-v)
これらの2式を和と差をとれば
2bc2 =-2av, 2cd=2ac → bc2=-av, d=a → d=a, b=-(v/c2)a
となる。まとめると
x’=a(x-vt)、t’=a(t-vx/c2)・・・・・・・・・・(6.2)
となり、(6.1)式の未知数は a,e,f のみとなる。
6.3 特殊相対性原理・空間の等方性
つぎに、変換の係数をvの関数としてa(v),e(v),f(v)とする。(6.2)式をx,tについて解くと
x=(1/a(v)D)(x’+vt’), t=(1/a(v)D)(t’+vx’/c²)
ここで、D=1/γ²=1-(v/c)²
となる。この式は特殊相対性原理により、変換の形が変わらないので (6.2)式におい
て v→(-v)とした
x=a(-v)(x’+vt’), t=a(-v)(t’+vx’/c²)
に一致しなければならない。つまり
a(-v)=1/(a(v)D) → a(v)a(-v)=1/D=γ²
となる。
y の変換についても同様で
y=(1/e(v))y’=e(-v)y’
となる。つまり
a(-v)a(v)=γ2 、e(-v)e(v)=1 ・・・・・・・(6.3)
となる。つぎに、S’ 系を基準にすると特殊相対性原理により、次式が成立つ
x=a(-v)(x’+vt’)、 y=e(-v)y’ ・・・・・・・・(6.4)
さらに、空間の等方性により、座標系の取りかたに変換式は無関係だから、(6.2)式
で、S,S’ 系の座標軸を、(x,y),(x’,y') → (-x,-y),(-x’, -y’) と変換した座標を考えても、(6.4)
式と同様な変換式となる。
ただし、座標の方向を反転したので、S系はS’ 系に対して、速度 vをもつから、
-v → v として(6.4)式は
-x=a(v)(-x’-vt’)、 -y=e(v)(-y’)・・・・・・(6.5)
となる。この式と(6.4)式を比較すると
a(-v)=a(v)、 e(-v)=e(v)
となり、これを(6.3)式に代入すると、a(v)=±γ、e(v)=±1となるが、a(0)=e(0)=1から
a(v)=γ、 e(v)=1
となる。z軸についても、y軸と同様なので f(v)=1 となる。これらをまとめると
x’=γ(x-vt)、t’=γ(t-vx/c2)、y’=y、z’=z・・・・(6.6)
を得る。ここで、γ=1/√{1-(v/c)²} である。
7. あとがき
以前にも述べたが、特殊相対性理論・ローレンツ変換の意義について注意したい。
これらの原理や結論は電磁気学から導かれるという議論があるが決してそうではない。
この理論はガリレイ変換と同様に、慣性系間の時空の構造を規定するものである。
この理論の上に力学や電磁気学が建設されている。だから、これらから光速度不変やロ
ーレンツ変換が導かれても当然のことになる(力学は修正された)。電磁気学は光の理
論でもあるから、このことが顕著に表れている。
以上