特殊相対性理論・電磁気学・数学

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磁界中に置かれた平行レール上を動く導体棒に何故電圧則が成り立つか

2023-10-10 23:42:51 | 電磁気学

1. まえがき

 磁界中に置かれた平行レール上を動く導体棒の回路問題はよく知られている。この場合の
 計算にはキルヒホッフの電圧則が使われている。ところが、一般には電圧則は電磁誘導が
 無い保存場
     ∲E・ds=0 ・・・・・・・・・①
 において導かれる定理である。これについて考察した。

2. 問題

 上のリンクのように、磁界中の平行線路を導体棒が運動して、他端は抵抗Rが接続されて
 いる。磁界をB、導体棒の速度をv、レール間の距離をℓとすれば、起電力は vBℓで、流れる
 電流は I=vBℓ/R と電圧則から求められる。

 一般に、起電力の定義や適切な説明はほぼ無く、電圧との区別もされないままなんとなく
 使用されている。これによって電圧則は定理として導かれず、「法則」として使われてい
 る。

 大体、電圧則は電圧に関する法則・定理であって、「起電力」という不明確な言葉がによ
 って曖昧になっているし、①の保存場でなければ「電圧・電位」の定義もできない

3. 起電力と電圧の説明

 今回、導体棒に発生した起電力
     e=∫(v×B)・ds
 によって、棒の両端に分離した電荷による逆電界が導体棒に発生している。この電界 E
 は、起電力と釣り合って安定し
     E+v×B=0
 という関係にある。この逆電界によって、電圧が定義でき
     V=-∫E・ds=∫(v×B)・ds=e
 となって、今回、起電力と電圧は等しい(電池でも同じ)。このことが、起電力と電圧の
 関係を曖昧にしている。

4. 電圧則の導出

 電圧則の元は電磁誘導の法則
    e=-dΦ/dt
 である。今回、電磁界による起電力は
    e=∲(E+v×B)・ds =∲E・ds+vBℓ
 となり、
    dΦ/dt=-vBℓ
 と合わせて
    ∲E・ds=0
 という、電界の保存則が得られる。つまり、電圧則が使用できる。

5. あとがき

 起電力は中性の電荷を分離する力であり、その大きさは系に成す単位電荷当たりの仕事
    (1/q)∫F・ds 
 で定義される。力が電磁界の場合はローレンツ力 F=q(E+v×B) である。

 ただ、抵抗中の電界は起電力とは呼ばないなど定義に足りないものがある。また、通常
 は分離した電荷わ保持する素子が接続されている(断線も含め)が、そうでないとき
 (短絡されたときや空間中の電磁波)は電界の保存則が導かれず、電位・電圧が定義さ
 れない。

以上