1. まえがき
前に述べたようにパノフスキーに始まる起電力の誤りが広がっている。最近、グリフィ
スの電磁気学を見たが、パノフスキーの説明に似ているが、起電力と電界が区別されて
おり、何となく言わんとすることが理解できた。
また、オームの法則の一般化が述べられており、理解が深まった。
2. オームの法則の一般化
オームの法則は、導体(抵抗体)の電流密度、電気伝導率、電界を j, σ, E として
j=σE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.1)
と表されている。以前に述べたように、運動する導体棒では棒の速度をv、周囲の磁界を
B とすると
j=σ(E+v×B) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.2)
となる。 したがって、この法則は形の変化しない基本法則ではないと思っていた。しか
し、グリフィスによると、導体中の単位電荷当たりに働く力を fとすれば、この法則は
j=σf ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.3)
となる。つまり、電流は電荷に働く力によって(電荷が移動して)発生する。fはどんな
力でも構わないが、電磁気的な力であれば当然、f=E+v×B となるから、(2.2)が得られ、
オームの法則が一般化された。
なお、この法則は f があると電流が流れるという意味では無い(このように等号で結ば
れた法則の解釈は便利な時もあるので誤解されやすい)。つまり、抵抗に電流が流れて
いるとき、抵抗内部の単位電荷当たりに加わっている力の関係を示している。
また、よく知られたように、完全導体では、
f=j/σ → 0 (σ → ∞) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.4)
となる。したがって、完全導体に流れる電流は電荷保存則と回路を形成する素子の特性
によって決まる。
3. 起電力
これについても、パノフスキーと同様に
f=fs+E ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.5)
としている。起電力と電界の記号を分けただけ明確になっている(パノフスキーにも
説明は有ったと思うが、訳が悪いのか起電力の力は電界のような誤解を与えている)。
そして、起電力と回路の電界の場所を区別した説明もされているが、分かりにくい。さ
らに、理想電池には抵抗が無いから、完全導体の論理(2.4)を使って、fs=-E として、起
電力εと電圧Vの関係
V=-∫abE・dl=∫abfs・dl=∲fs・dl=ε
を導いている。この結果は正しいが、電池を抵抗とするモデルに違和感がある。本来、
オームの法則は電流が流れている時の法則であるが(理想)電池は電流に依存しない。
最初に電池のモデルがあって、現実的に内部抵抗を含むモデルを考えるという手順だと
思うのだが。
4. あとがき
上のように、電池を抵抗と見て議論すると形式的にはすっきり結論が得られるが、物理
的な意味はどうだろうか? 以前に説明したように、起電力によって、分離した電荷に
より発生した電界と起電力が釣り合っている(電流の有無によらず)のが電池とした方
が分かり安いと思うのだが。
以上
[参考文献] 電磁気学Ⅰ、グリフィス、丸善出版、2019(原本 2017)
1.はじめに
パノフスキーの電磁気学に起電力に関する記述がある。これを鵜呑みにした説明が日本では広
く拡散している(外国は?)。しかし、元の説明も分かりにくく、誤っているため、同様に意
味不明である。
2.起電力について
元々、起電力の定義は、ほとんど無いか明確さに欠ける説明しかない(なにしろ、電磁気学で
は原初の電荷の定義すら、説明でしかない)。その中で、電気学会のものは「定義」として1
ページに渡る正しい「説明」(電磁誘導以外のとき)をしている。ただし、パノフスキーの記
号を使っているため、起電力と電界の区別がハッキリせず、明確さに欠ける。
マクグロウヒルの事典には、起電力は力で無いと書いてあり、これを鵜呑みにしたと思われる
日本の教授もそう断言する。しかし、起電力の元は電荷を分離させる力である。悩んでいたと
ころ、あるサイトでドストライクの定義を見つけた。
これによると、起電力によって電荷qにかかる力をFとしたとき、その単位電荷当たりの仕事
e=(1/q)∫F・ds ・・・・・①
を起電力(の大きさ)という。しかし、電池の場合は、一般にFを求めることは難しいが電磁
気学ではその詳細は不要である。つまり、起電力によって、電荷が両端に分離して、その電荷
による電界が起電力の力と逆方向に発生して、釣り合っている(この場合、起電力は電界でな
いから電池の内部(外部も)には電界が現れるていることが、明示されておらず理解を難しく
している)。
そして、その発生した電界の電圧によって起電力を表せる。釣合いにより F=q(-E) 、①は
e=(1/q)∫F・ds=(1/q)∫q(-E)・ds=-∫E・ds ・・・・②
となる。これはどのような電池でも適用できる。ただ、抵抗内の電荷にも力は働くが、これを
起電力とは言わず、多少の斟酌は必要となる。
つぎに、電磁誘導の場合の起電力は勿論、ローレンツ力 F=q(E+v×B) しか無く①から
e=∲(E+v×B)・ds ・・・・③
となる。ただし、電磁誘導の場合、一般に静止導体内部では電界が0となるように電荷が分離
して、起電力の電界は打ち消されて、別の場所に移動する場合があるため、周回積分とした。
つまり、電磁誘導以外の起電力は電磁現象ではないから、直接、電磁界では表せないことに注
意する必要がある。パノフスキーのように E' やEexなどの記号を使うと訳が分からなくなる。
なお、起電力の記号は普通、e、ε、Vemf などを使うが、V、v(V=-dΦ/dt , v=-Ldi/dt)と
書いたものを見かけることがある。これらの著者は起電力意味や電圧・電位差との違いを理解
していないと疑ってよい。
3.パノフスキーの誤り
定常電流(電磁誘導が無視でき、静電界に準ずる)の場合として「7.2」項で
[言明1]エネルギー消費 j・Eは回転(rot E?)が0であるような場では供給できないから、
純粋に回転が0であるような電場では定常電流が存在しない。
電荷が分布した静電界のことを指すのかよくわからないが、下の抵抗と電池をつないだ簡単な
回路では、上に述べたように、電池の内部に電界が在り、線積分の方向に対して、抵抗と電池
では反対だから ∲E・ds=0 となり、電磁気学の数式上、何の問題も無く、抵抗でジュール熱が
消費することは周知である。つまり、電流の原因が何であれ、E' を電磁気学の方程式に入れず
とも普通の電磁界で現象を説明できる。
[言明2]このような起電力の場が存在するものと仮定して、これをE' で表す。またEをポテン
シャルから導き出せる電場とすると、伝導方程式(?)は
j=σ(E+E') (7.4)
となる。
これもよくわからないが、電界をポテンシャルの成分Eと非静電場の成分E'に分けているようだ
が(E=-∇φ-∂A/∂t と関係ある・・・?)、その後の議論は静電場でもE'を使用しており意味
が不明である。電気学会の本はうまく説明しているが、分かりづらい(記号Eeは電界ではない。
だから安易に E+Eeなどと書いてはいけない)。そして、砂川氏は完全に間違っている(この
認識がほとんどだと思う)。
大体、オームの法則は i=σE であって、抵抗導体が運動しても i=σ(E+v×B) である。勿論、
磁界の純粋な時間変化による電磁誘導の要因は電界 Eに含まれている。
パノフスキーは電界を2つの成分に分けているが、具体的な対象や分ける方法がはっきりせず、
何の議論をしているかわからない。
例えば、電池の起電力は電磁界以外の力によるものだから、電磁界の方程式に含めてはいけな
い。電磁気はあくまでも電磁界によって、電荷に加わる力の関係式である。
もう一つ不明なのは、その後の9章の電磁誘導の式
JR-ε=-dΦ/dt (9.2)
であり、「(9.2)は、既に使われてきたどのような関係からも導きだし得ない独立な実験法則で
あることに注意しておこう」という。
まじですか? 電磁気学には、まだ法則があったのか? 聞いたことがありませんよ!!
具体的な説明も無いので、もはやコメントのしようもない。
4.最後に
定年になってから、パノフスキーの電磁気学を知った。みると学生時代の座右の書の元ネタの
1つだった(回路が運動するときの電磁誘導の解析に感動した)。
電気回路においては、起電力、電圧、電位差の区別や電磁誘導については未だ不明確な記述が
多い。だからキルヒホッフの電圧則がマクスウェルの式から明確に導かれていない原因なのだ
が、いずれ述べてみたい。
文献
電磁気学上、パノフスキー、丸善
電気磁気学、山田・桂井、電気学会
理論電磁気学、砂川、紀伊国屋書店
物理学大辞典 第2版、丸善㈱、P291 起電力、McGraw-Hill
以上
1.まえがき
ファインマンの電磁誘導の説明には一部重大な誤りがある。この法則には「磁気規則の例外が
あり、成立しない場合がある」というのである。その例外とは、回路が線状でなく、広がりを
もつ導体が運動する場合である。
2.ファインマンの言明
図1のように、磁界中の2つの導体板をそれぞれO、O'を中心に接触させながら回転した場合、始
めOBO'であった回路がOCO'の回路に変化して緑線で表せる閉回路において大きな鎖交磁束の変
化があり、大きな起電力が発生するはずだが、実際はほとんど起電力が生じず、ファラデーの法
則は成り立たないというのである。
3.電磁誘導の正しい適用
勿論、ファインマンは間違っている(突っ込み満載の訳者も無言)。まず、電磁誘導の要因は次
の3つがある。
① 磁界の純粋な時間変化(磁界の運動による変化ではない)
② 構成する回路(導体)の運動によるローレンツ力
③ 磁界(の源)の運動による誘導電界の発生(観測座標系の違いによる②と裏表の関係)
したがって、今回の要因は、導体の運動であり、②の場合のみが関係する。そして、簡単にわか
ることであるが、図1のOBO'に墨で線を引き、導体を回転させると線はOCO'には動かず、実際
の移動先はOAおよびA'O'であり、ほぼ回路の動きは無く、閉曲線としてはOACA'O'という曲線に
なる。したがって、起電力がほぼ無いのは当然であり、立派に電磁誘導の法則は成立している。
つまり、好き勝手な所に線を引いてはいけないということである。
はじめに、引く線(考える閉回路)はどのようにとっても良いが、その回路が実際にどう動くか
を追跡しなければならない。
まとめておくと、電磁誘導の法則は上の3つの要因をすべて含み磁束の時間変化だけで説明でき
る「万能法則」である。注意点は広がりを持つ導体が運動するときは正しい(実際の運動に沿っ
た)回路を取ることだけである。
4.単極誘導について
電磁誘導の発見、電磁気学の完成から150年も経ち、難しい数学理論でもないのに未だに原初の
単極誘導についても正しい理解が欠けているようである。
ある書籍(電磁気学、前野、東京図書)では、単極誘導では「電磁誘導の法則は成り立たない」
ので、「レンツの法則はいつでも成立する厳密な物理法則ではない」とまで言い切った。これは
ファインマンの誤りを鵜呑みにして接触点の間に線を引いた。この場合、接触点はファインマン
の例とは逆に動かず、鎖交磁束の変化は無く、起電力は発生しないと言う。
しかし、そうだとしても電磁誘導の法則とは何の矛盾も無い。この法則はどのような回路を取ろ
うと成立する(導体の有無さえ無関係)。要は、現実に発生している起電力を求めるにはどのよ
うな回路を取るのが正しいか?という問題となる。
そして、電磁誘導で発生する起電力を求めるには、起電力が発生している所に回路を取らなけれ
ばならないことは「当ったり前」である。
例えば、図2のように、よくある平行導線上を滑る導体棒の問題がある。この電磁誘導の場合は
運動する導体棒の上に回路を取るが、固定した位置に回路を取れば起電力が0となるのは当然で、
この法則と何の矛盾も無いが、「発生している起電力は求められない」というだけの話となる。
この他、単極誘導などでは座標系を変えた場合、電磁誘導の説明が困難になるが(そのため、重
要な課題なのにほぼ避けられている。パノフスキーでも詳しく分類・説明しているのに理由が無
い)、上の要因①~③を正しく理解していると可能となり、電磁誘導の理解が深まる。
5.あとがき
なお、私が読んだのは電磁気の、それもごく一部に過ぎない。しかし、その中でさえ、感銘
を受けたことを述べたい。
一般に、導体の中には電界が無いことはよく知られている。私も深く信じていた。ところが、
ファインマンは「磁界中を運動する導体の中には電界が存在する場合がある」ということを
「くどく」説明していた。私はこのことによって、電磁誘導の矛盾の一部を説明できた(その
他、電磁誘導には、さらなる闇があるのだが・・・)。
[追記]1ページ前に ∲E・ds=-(∂/∂t)∫B・nda という記述があった。このような記法は時
折見かける。積分内は時間のみの関数になるため、計算上は誤りではないが、本来
∲E・ds=-(d/dt)∫B・nda=-∫(∂B/∂t)・nda と書くべきであり、微分と偏微分の意味を
理解していない。
これを理解していないため、磁界や導体が運動する場合、電磁誘導の誤った言明を見かける
(ファインマンも嘆息しているように、違う原因でも結果は同じとなる)。
と思ったが、念のため原文を確認したらちゃんと(d/dt)を使っていた。旧版だったのか、訳
の誤りか?
[追記2] 2019/4/19
下記の昔の書籍に、「ファインマンは考えが足りない」と同様の指摘があった。少しホッとす
る。
電磁誘導・交流・電磁波(初等物理シリーズ 7)、近角聰信、培風館
以上