1.はじめに
パノフスキーの電磁気学に起電力に関する記述がある。これを鵜呑みにした説明が日本では広
く拡散している(外国は?)。しかし、元の説明も分かりにくく、誤っているため、同様に意
味不明である。
2.起電力について
元々、起電力の定義は、ほとんど無いか明確さに欠ける説明しかない(なにしろ、電磁気学で
は原初の電荷の定義すら、説明でしかない)。その中で、電気学会のものは「定義」として1
ページに渡る正しい「説明」(電磁誘導以外のとき)をしている。ただし、パノフスキーの記
号を使っているため、起電力と電界の区別がハッキリせず、明確さに欠ける。
マクグロウヒルの事典には、起電力は力で無いと書いてあり、これを鵜呑みにしたと思われる
日本の教授もそう断言する。しかし、起電力の元は電荷を分離させる力である。悩んでいたと
ころ、あるサイトでドストライクの定義を見つけた。
これによると、起電力によって電荷qにかかる力をFとしたとき、その単位電荷当たりの仕事
e=(1/q)∫F・ds ・・・・・①
を起電力(の大きさ)という。しかし、電池の場合は、一般にFを求めることは難しいが電磁
気学ではその詳細は不要である。つまり、起電力によって、電荷が両端に分離して、その電荷
による電界が起電力の力と逆方向に発生して、釣り合っている(この場合、起電力は電界でな
いから電池の内部(外部も)には電界が現れるていることが、明示されておらず理解を難しく
している)。
そして、その発生した電界の電圧によって起電力を表せる。釣合いにより F=q(-E) 、①は
e=(1/q)∫F・ds=(1/q)∫q(-E)・ds=-∫E・ds ・・・・②
となる。これはどのような電池でも適用できる。ただ、抵抗内の電荷にも力は働くが、これを
起電力とは言わず、多少の斟酌は必要となる。
つぎに、電磁誘導の場合の起電力は勿論、ローレンツ力 F=q(E+v×B) しか無く①から
e=∲(E+v×B)・ds ・・・・③
となる。ただし、電磁誘導の場合、一般に静止導体内部では電界が0となるように電荷が分離
して、起電力の電界は打ち消されて、別の場所に移動する場合があるため、周回積分とした。
つまり、電磁誘導以外の起電力は電磁現象ではないから、直接、電磁界では表せないことに注
意する必要がある。パノフスキーのように E' やEexなどの記号を使うと訳が分からなくなる。
なお、起電力の記号は普通、e、ε、Vemf などを使うが、V、v(V=-dΦ/dt , v=-Ldi/dt)と
書いたものを見かけることがある。これらの著者は起電力意味や電圧・電位差との違いを理解
していないと疑ってよい。
3.パノフスキーの誤り
定常電流(電磁誘導が無視でき、静電界に準ずる)の場合として「7.2」項で
[言明1]エネルギー消費 j・Eは回転(rot E?)が0であるような場では供給できないから、
純粋に回転が0であるような電場では定常電流が存在しない。
電荷が分布した静電界のことを指すのかよくわからないが、下の抵抗と電池をつないだ簡単な
回路では、上に述べたように、電池の内部に電界が在り、線積分の方向に対して、抵抗と電池
では反対だから ∲E・ds=0 となり、電磁気学の数式上、何の問題も無く、抵抗でジュール熱が
消費することは周知である。つまり、電流の原因が何であれ、E' を電磁気学の方程式に入れず
とも普通の電磁界で現象を説明できる。
[言明2]このような起電力の場が存在するものと仮定して、これをE' で表す。またEをポテン
シャルから導き出せる電場とすると、伝導方程式(?)は
j=σ(E+E') (7.4)
となる。
これもよくわからないが、電界をポテンシャルの成分Eと非静電場の成分E'に分けているようだ
が(E=-∇φ-∂A/∂t と関係ある・・・?)、その後の議論は静電場でもE'を使用しており意味
が不明である。電気学会の本はうまく説明しているが、分かりづらい(記号Eeは電界ではない。
だから安易に E+Eeなどと書いてはいけない)。そして、砂川氏は完全に間違っている(この
認識がほとんどだと思う)。
大体、オームの法則は i=σE であって、抵抗導体が運動しても i=σ(E+v×B) である。勿論、
磁界の純粋な時間変化による電磁誘導の要因は電界 Eに含まれている。
パノフスキーは電界を2つの成分に分けているが、具体的な対象や分ける方法がはっきりせず、
何の議論をしているかわからない。
例えば、電池の起電力は電磁界以外の力によるものだから、電磁界の方程式に含めてはいけな
い。電磁気はあくまでも電磁界によって、電荷に加わる力の関係式である。
もう一つ不明なのは、その後の9章の電磁誘導の式
JR-ε=-dΦ/dt (9.2)
であり、「(9.2)は、既に使われてきたどのような関係からも導きだし得ない独立な実験法則で
あることに注意しておこう」という。
まじですか? 電磁気学には、まだ法則があったのか? 聞いたことがありませんよ!!
具体的な説明も無いので、もはやコメントのしようもない。
4.最後に
定年になってから、パノフスキーの電磁気学を知った。みると学生時代の座右の書の元ネタの
1つだった(回路が運動するときの電磁誘導の解析に感動した)。
電気回路においては、起電力、電圧、電位差の区別や電磁誘導については未だ不明確な記述が
多い。だからキルヒホッフの電圧則がマクスウェルの式から明確に導かれていない原因なのだ
が、いずれ述べてみたい。
文献
電磁気学上、パノフスキー、丸善
電気磁気学、山田・桂井、電気学会
理論電磁気学、砂川、紀伊国屋書店
物理学大辞典 第2版、丸善㈱、P291 起電力、McGraw-Hill
以上