代名詞の基本的な性質についてです。以下、見ましょう。
(1)He fell down. (彼は倒れた。)
(2)She touched it. (彼女はそれに触った。)
(1)も(2)も、代名詞を含んだ文です。‘he’「彼」、‘she’「彼女」、‘it’「それ」は、何かを指しているということはご存知のとおりですが、具体的に、「彼」とは、「ジョン」なのか、「トム」なのか、「ジャック」なのか、(1)の文のみからは不明です。
同様に、「彼女」とは、「メアリー」なのか、「スーザン」なのか、「キャシー」なのか、そして、「それ」とは、「リンゴ」なのか、「机」なのか、「時計」なのか、といったことも、(2)の文からは不明です。
(3)John felt dizzy. (ジョンはめまいがした。)
(4)Mary found an apple. (メアリーはリンゴを見つけた。)
しかし、(3)に(1)が続くと、普通、‘he’は‘John’だな、と思うし、一方、(4)に(2)が続くと、‘she’は‘Mary’で、‘it’は‘apple’だな、と思うわけですね。つまり、代名詞は、それ自体では、何を指すのかが決定できず、他の情報を手がかりにして、指すものが決定されるという性質をもっていることがわかります。
(5)John kicked Tom because Mary hated him.
(ジョンはトムを蹴っ飛ばしたが、それはメアリーが彼を嫌っていたからだ。)
今度は(5)ですが、普通は、‘Tom’=‘him’かな、と思えます。と言うのも、メアリーに気に入ってもらうために、彼女が嫌いなトムをジョンが蹴っ飛ばす、という状況はありがちなことですからね。しかし、場合によっては、‘John’=‘him’であってもかまいません。メアリーに嫌われたジョンが、腹いせにトムを蹴っ飛ばした、ということもあり得るからです。
そして、さらによく考えると、(5)の‘him’は‘John’も‘Tom’もどちらも指さない、ということもあり得ます。例えば、ジャックがメアリーに好かれているか嫌われているか、という賭けをジョンとトムがしたとして、ペナルティーは勝った方が負けた方を蹴っ飛ばす、ということが前提になっている場合、(5)の文では、‘him’は、ジャックのことを言っているわけですから、‘John’も‘Tom’もどちらも指さない、という解釈が成り立ちます。
ですので、代名詞というのは、結局のところ、何を指すのかを単純に文法的な観点からは、決定することが不可能だということがわかります。ただ、状況的に考えると、ジョンを指すだろう、となったり、トムを指す方が適切かな、となったりするだけのことなので、あくまでも、指さすべき対象は、文脈などといった、文法以外の要因に求めるしかありません。
(6)Tom saw himself in the mirror (〇) (トムは、鏡で自分を見た。)
(7)Tom saw herself in the mirror (×) (トムは、鏡で彼女自身を見た。)
ここで思い出して欲しいのは、再帰代名詞の性質です。再帰代名詞も代名詞の一種であることに変わりありませんが、(6)では、明らかに、‘Tom’=‘himself’です。そして、それ以外に解釈の余地は許されていません。つまり、(6)にどのような文脈を与えようとも、それとは関係なく、‘Tom’=‘himself’の解釈は、予め決定されています。 (EG95、EG96、参照)
さらに、(7)のように、(6)の‘himself’を‘herself’に置きかえた文はアウトになります。つまり、これは、‘herself’が女性を指す再帰代名詞であるにもかかわらず、‘Tom’という男性の主語がきているからで、これは、‘Tom’という名前の女性にでも解釈しない限り、OKにはできないものです。
ですので、これを言いかえれば、再帰代名詞は、イコール (=) 関係になれる相手を文法的に位置指定する性質をもっている、と言えます。これは、(1)~(5)で見てきたような代名詞の性質とは大きく異なるものです。以下の例も、代名詞と再帰代名詞との違いを示しています。
(8)She shouted. (〇) (彼女は叫んだ。)
(9)Herself shouted. (×) (彼女自身、叫んだ。)
代名詞は、指すものが、文脈などといった、文法以外の他の要因から決定できればよいので、(8)にあるように、文の中で独立して使用することが可能ですが、一方、再帰代名詞は、(9)にあるように、文の中で独立して使用することが不可能です。これは、同時に、(7)についても言えることで、つまり、独立して使用することが不可能だからこそ、‘Tom’という男性が主語であっては困る (女性の相手を主語に要求する)、ということになるわけですね。
(10)Mary thinks [ that she is beautiful ]. (〇) (メアリーは [ 自分が美人だと ] 思っている。)
(11)Mary thinks [ that herself is beautiful ]. (×) (訳同上)
さらに、もっと考えると、(10)の代名詞‘she’が‘Mary’とイコール (=) 関係になれるのとは違って、(11)の再帰代名詞‘herself’は、潜在的には、‘Mary’とイコール (=) 関係になる解釈であるはずなのに、実際はアウトであることから、そもそも、主語位置に生じてはならない、という位置制限まであることがわかります。
以上、見たように再帰代名詞は、現れる位置に対しても、イコール (=) 関係になるべき相手に対しても、「文法」によって制限される性質をもっていますが、一方、代名詞は、現れる位置的な制限もなければ、イコール (=) 関係になるべき相手に対しても、「文法」の制限は受けないことがわかります。
今回のポイントは、代名詞の基本的な性質です。特に、同じ代名詞として扱われている再帰代名詞との具体的な比較によって明らかになった違いは、代名詞の場合、指すべき相手は文法によって決定することができず、そして、使用環境を選ばずに文の中で独立して使用することが可能である、ということです。
こういった、代名詞と再帰代名詞、似たもの同士の実質的な相異点は、普段、あまり意識して考えることがないせいか、言われずとももわかっているつもりでいても、実は、どこがどう違うか、ハッキリとわかっていなかったりするものです。代名詞に関しては、また、別の視点から、その性質を考察する必要がありますが、またの機会です。
■注 :今回、再帰代名詞の生じる位置は、「主語」位置であってはならない、と述べていますが、本来、もう少し、詳しく定義すると、「主格」を与えられる位置に生じてはならない、ということになります。詳しくは、EG95を参照して下さい。
●関連: EG95、EG96
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(1)He fell down. (彼は倒れた。)
(2)She touched it. (彼女はそれに触った。)
(1)も(2)も、代名詞を含んだ文です。‘he’「彼」、‘she’「彼女」、‘it’「それ」は、何かを指しているということはご存知のとおりですが、具体的に、「彼」とは、「ジョン」なのか、「トム」なのか、「ジャック」なのか、(1)の文のみからは不明です。
同様に、「彼女」とは、「メアリー」なのか、「スーザン」なのか、「キャシー」なのか、そして、「それ」とは、「リンゴ」なのか、「机」なのか、「時計」なのか、といったことも、(2)の文からは不明です。
(3)John felt dizzy. (ジョンはめまいがした。)
(4)Mary found an apple. (メアリーはリンゴを見つけた。)
しかし、(3)に(1)が続くと、普通、‘he’は‘John’だな、と思うし、一方、(4)に(2)が続くと、‘she’は‘Mary’で、‘it’は‘apple’だな、と思うわけですね。つまり、代名詞は、それ自体では、何を指すのかが決定できず、他の情報を手がかりにして、指すものが決定されるという性質をもっていることがわかります。
(5)John kicked Tom because Mary hated him.
(ジョンはトムを蹴っ飛ばしたが、それはメアリーが彼を嫌っていたからだ。)
今度は(5)ですが、普通は、‘Tom’=‘him’かな、と思えます。と言うのも、メアリーに気に入ってもらうために、彼女が嫌いなトムをジョンが蹴っ飛ばす、という状況はありがちなことですからね。しかし、場合によっては、‘John’=‘him’であってもかまいません。メアリーに嫌われたジョンが、腹いせにトムを蹴っ飛ばした、ということもあり得るからです。
そして、さらによく考えると、(5)の‘him’は‘John’も‘Tom’もどちらも指さない、ということもあり得ます。例えば、ジャックがメアリーに好かれているか嫌われているか、という賭けをジョンとトムがしたとして、ペナルティーは勝った方が負けた方を蹴っ飛ばす、ということが前提になっている場合、(5)の文では、‘him’は、ジャックのことを言っているわけですから、‘John’も‘Tom’もどちらも指さない、という解釈が成り立ちます。
ですので、代名詞というのは、結局のところ、何を指すのかを単純に文法的な観点からは、決定することが不可能だということがわかります。ただ、状況的に考えると、ジョンを指すだろう、となったり、トムを指す方が適切かな、となったりするだけのことなので、あくまでも、指さすべき対象は、文脈などといった、文法以外の要因に求めるしかありません。
(6)Tom saw himself in the mirror (〇) (トムは、鏡で自分を見た。)
(7)Tom saw herself in the mirror (×) (トムは、鏡で彼女自身を見た。)
ここで思い出して欲しいのは、再帰代名詞の性質です。再帰代名詞も代名詞の一種であることに変わりありませんが、(6)では、明らかに、‘Tom’=‘himself’です。そして、それ以外に解釈の余地は許されていません。つまり、(6)にどのような文脈を与えようとも、それとは関係なく、‘Tom’=‘himself’の解釈は、予め決定されています。 (EG95、EG96、参照)
さらに、(7)のように、(6)の‘himself’を‘herself’に置きかえた文はアウトになります。つまり、これは、‘herself’が女性を指す再帰代名詞であるにもかかわらず、‘Tom’という男性の主語がきているからで、これは、‘Tom’という名前の女性にでも解釈しない限り、OKにはできないものです。
ですので、これを言いかえれば、再帰代名詞は、イコール (=) 関係になれる相手を文法的に位置指定する性質をもっている、と言えます。これは、(1)~(5)で見てきたような代名詞の性質とは大きく異なるものです。以下の例も、代名詞と再帰代名詞との違いを示しています。
(8)She shouted. (〇) (彼女は叫んだ。)
(9)Herself shouted. (×) (彼女自身、叫んだ。)
代名詞は、指すものが、文脈などといった、文法以外の他の要因から決定できればよいので、(8)にあるように、文の中で独立して使用することが可能ですが、一方、再帰代名詞は、(9)にあるように、文の中で独立して使用することが不可能です。これは、同時に、(7)についても言えることで、つまり、独立して使用することが不可能だからこそ、‘Tom’という男性が主語であっては困る (女性の相手を主語に要求する)、ということになるわけですね。
(10)Mary thinks [ that she is beautiful ]. (〇) (メアリーは [ 自分が美人だと ] 思っている。)
(11)Mary thinks [ that herself is beautiful ]. (×) (訳同上)
さらに、もっと考えると、(10)の代名詞‘she’が‘Mary’とイコール (=) 関係になれるのとは違って、(11)の再帰代名詞‘herself’は、潜在的には、‘Mary’とイコール (=) 関係になる解釈であるはずなのに、実際はアウトであることから、そもそも、主語位置に生じてはならない、という位置制限まであることがわかります。
以上、見たように再帰代名詞は、現れる位置に対しても、イコール (=) 関係になるべき相手に対しても、「文法」によって制限される性質をもっていますが、一方、代名詞は、現れる位置的な制限もなければ、イコール (=) 関係になるべき相手に対しても、「文法」の制限は受けないことがわかります。
今回のポイントは、代名詞の基本的な性質です。特に、同じ代名詞として扱われている再帰代名詞との具体的な比較によって明らかになった違いは、代名詞の場合、指すべき相手は文法によって決定することができず、そして、使用環境を選ばずに文の中で独立して使用することが可能である、ということです。
こういった、代名詞と再帰代名詞、似たもの同士の実質的な相異点は、普段、あまり意識して考えることがないせいか、言われずとももわかっているつもりでいても、実は、どこがどう違うか、ハッキリとわかっていなかったりするものです。代名詞に関しては、また、別の視点から、その性質を考察する必要がありますが、またの機会です。
■注 :今回、再帰代名詞の生じる位置は、「主語」位置であってはならない、と述べていますが、本来、もう少し、詳しく定義すると、「主格」を与えられる位置に生じてはならない、ということになります。詳しくは、EG95を参照して下さい。
●関連: EG95、EG96
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