EG100の続きです。代名詞です。以下、見ましょう。
(1)Mary lost her glasses. (メアリーはメガネをなくした。)
(1)の文では、‘her glasses’に、‘her’「彼女の」が使われていますが、この‘her’は、誰のことを指しているのか、というと、普通は、‘Mary’「メアリー」だと思います。しかし、別に、メアリー以外の他の女性を指している場合もあります。例えば、メアリーがスーザンからメガネを借りた場合、その後で、(1)のような文が続けば、‘her’は、スーザンを指すと解釈するのが普通になりますね。
つまり、(1)の‘her’が誰を指すか、などといったことは、状況に応じて、どうとでも変わるものですから、代名詞が指すべき対象は、文法的に決定することは不可能である、ということになります。つまり、結局のところ、代名詞が何を指すかなんて、取り立てて、文法的に説明できることなんてないんだから、わざわざ、代名詞について語るなど、しなくてもいいんじゃないか、という話になるわけです。
これは、確かに、その通りなんですが、しかし、そこから、代名詞は文法による制限は全く受けない、とまで断定することはできない、と思われる現象があります。以下を見ましょう。
(2)John respects himself. (‘John’=‘himself’) (ジョンは自分を尊敬している。)
(3)John respects him. (‘John’≠‘him’) (ジョンは彼を尊敬している。)
(2)は、再帰代名詞‘himself’、一方、(3)は、代名詞‘him’を目的語にとっています。そして、直感的に、意味の違いとして、(2)では、‘John’=‘himself’の解釈がOKですが、しかし、一方、(3)では、‘John’=‘him’の解釈は、まず、ないのではないか、という判断になると思います。つまり、直感的に、(3)の‘him’は、‘John’以外の別の男性を指して言っているのだな、と思うわけですね。
そこで、(2)では、‘John’=‘himself’の解釈は、予め決定されているもので、他の男性を指していると解釈することは、(2)をいかなる文脈に置こうとも、不可能なわけですが、一方、(3)の場合、文脈によっては、‘John’=‘him’と解釈することは可能かどうか考えてみたいと思います。
(4)No one can work harder than John.
(ジョンよりも、せっせと働ける者など誰もいない。)
(4)の後に、(3)が続くと考えてみます。そこで、誰よりも働き者であるジョンは、故に、自分で自分のことを尊敬している、ということを表現した文 (つまり、(3)における、‘John’=‘him’の解釈) として、正しいかというと、そういった解釈は不可能で、やはり、‘him’を、(2)のように、‘himself’に変えない限り、アウトの解釈になります。
しかし、(3)の‘John’と、(4)の‘John’が、ただ単に名前が同じであるだけの別人として解釈し、(4)の‘John’と、(3)の‘him’を、イコール (=) 関係で結びつければ、OKの解釈になります。つまり、ジョン (A) は一番の働き者だから、それを見たジョン (B) は、ジョン (A) のことを尊敬する、という解釈は可能、ということです。
ですので、(3)は、(4)のような、かなり、もっともらしい文脈を与えても、なお、‘John’=‘him’と解釈することは不可能であることがわかります。つまり、文脈に左右されることなく、文そのものから、‘John’≠‘him’(‘John’=‘him’ではない) が決定できるということになります。
そこで、ここから言えることとして、代名詞の場合、「指すべき対象」は、文法による制限は受けないけれど、しかし、一方、「指してはならない対象」は、文法による制限を受けるのではないか、と思われます。
(5)He respects John. (‘he’≠‘John’) (彼はジョンを尊敬している。)
(5)は、(3)の主語と目的語が入れかわっているだけですが、やはり、どのような文脈を想像してみても、‘he’=‘John’とは、解釈できません。つまり、もともと、「文法」的に、‘he’≠‘John’は決定されている、とみてもよさそうです。そこで、(2)、(3)、(5)から、ハッキリ言えることは、「主語+動詞+目的語」のカタチでは、目的語が再帰代名詞でない場合、「主語 = 目的語」の解釈は不可能になる、ということです。
(6) a. John and Tom respect themselves. (〇)
(ジョンとトムは、自分たちを尊敬している。)
b. Themselves respect John and Tom. (×)
(自分自身、ジョンとトムを尊敬している。)
(7) a. John and Tom respect them. (〇) (ただし、‘John and Tom’≠‘them’)
(ジョンとトムは、彼らを尊敬している。)
b. They respect John and Tom. (〇) (ただし、‘they’≠‘John and Tom’)
(彼らは、ジョンとトムを尊敬している。)
ここで、再帰代名詞、(6a-b)と、代名詞、(7a-b)を比較して、それらの性質をまとめてみます。まず、(6a-b) です。(6a)はOKですが、‘John and Tom’=‘themselves’の解釈でなければなりません。一方、(6b)は、‘themselves’=‘John and Tom’が成り立たない、と言うよりも、もともと、(6b)自体がアウトです。
これは、再帰代名詞は、それ自体、現れる位置に対して、文法上の制限がある上に、その相手となる表現に対しても、文法的な位置制限があるためです。この場合、‘themselves’が主語になっている (「主格」を与えられている) ことや、イコール (=) 関係になるべき相手、‘John and Tom’が、適切な場所に位置していない、といった複数の理由が原因となります。 (詳しくは、EG95、EG96、参照)
次に、(7a-b)です。まず、(7a)の文そのものは、文法的であり、OKとなります。しかし、‘John and Tom’=‘them’の解釈は不可能で、‘John and Tom’≠‘them’の解釈でなければなりません。そして、一方、(7b)も、それ自体は、OKです。しかし、やはり、‘they’=‘John and Tom’の解釈であってはならず、‘they’≠‘John and Tom’の解釈でなければなりません。
ですので、代名詞の場合、それ自体、文法的な位置制限もなければ、イコール (=) 関係になるべき相手を、同一文の中に求める条件もありませんので、その点、(6b)のように、文そのものがアウトになる、ということはありません。しかし、イコール (=) 関係になってはならない相手に関しては、文法上の条件がありますので、その解釈に関しては、制限が付いてしまう、という特徴があるのがわかります。
今回のポイントは、実は、代名詞も、「文法」による制限を受けるということです。EG100では、代名詞は、現れる位置や、「指すべき相手」に対して、文法による制限は受けない、と述べたので、その点、再帰代名詞とは違って、言うべきことなど何もない、という印象がありました。しかし、逆に、「指してはならない相手」、という違った観点から見ると、文法によって制限を受けている、というべき根拠がありました。
実は、こういった観点から代名詞を見ていくと、実に複雑で、かなりわかりにくい側面があるのですが、今後、少しずつ、その特徴を明らかにしていきたいと思います。
■注 :今回、「主語+動詞+目的語」のカタチでは、目的語が、再帰代名詞でない場合、「主語 = 目的語」の解釈は、不可能になる、と述べていますが、(1)の目的語、‘her glasses’の中で、所有格となっている代名詞‘her’の場合は、‘her’が、目的語そのものではなく、「目的語の一部」である点に注意して下さい。
●関連: EG95、EG96、EG100
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(1)Mary lost her glasses. (メアリーはメガネをなくした。)
(1)の文では、‘her glasses’に、‘her’「彼女の」が使われていますが、この‘her’は、誰のことを指しているのか、というと、普通は、‘Mary’「メアリー」だと思います。しかし、別に、メアリー以外の他の女性を指している場合もあります。例えば、メアリーがスーザンからメガネを借りた場合、その後で、(1)のような文が続けば、‘her’は、スーザンを指すと解釈するのが普通になりますね。
つまり、(1)の‘her’が誰を指すか、などといったことは、状況に応じて、どうとでも変わるものですから、代名詞が指すべき対象は、文法的に決定することは不可能である、ということになります。つまり、結局のところ、代名詞が何を指すかなんて、取り立てて、文法的に説明できることなんてないんだから、わざわざ、代名詞について語るなど、しなくてもいいんじゃないか、という話になるわけです。
これは、確かに、その通りなんですが、しかし、そこから、代名詞は文法による制限は全く受けない、とまで断定することはできない、と思われる現象があります。以下を見ましょう。
(2)John respects himself. (‘John’=‘himself’) (ジョンは自分を尊敬している。)
(3)John respects him. (‘John’≠‘him’) (ジョンは彼を尊敬している。)
(2)は、再帰代名詞‘himself’、一方、(3)は、代名詞‘him’を目的語にとっています。そして、直感的に、意味の違いとして、(2)では、‘John’=‘himself’の解釈がOKですが、しかし、一方、(3)では、‘John’=‘him’の解釈は、まず、ないのではないか、という判断になると思います。つまり、直感的に、(3)の‘him’は、‘John’以外の別の男性を指して言っているのだな、と思うわけですね。
そこで、(2)では、‘John’=‘himself’の解釈は、予め決定されているもので、他の男性を指していると解釈することは、(2)をいかなる文脈に置こうとも、不可能なわけですが、一方、(3)の場合、文脈によっては、‘John’=‘him’と解釈することは可能かどうか考えてみたいと思います。
(4)No one can work harder than John.
(ジョンよりも、せっせと働ける者など誰もいない。)
(4)の後に、(3)が続くと考えてみます。そこで、誰よりも働き者であるジョンは、故に、自分で自分のことを尊敬している、ということを表現した文 (つまり、(3)における、‘John’=‘him’の解釈) として、正しいかというと、そういった解釈は不可能で、やはり、‘him’を、(2)のように、‘himself’に変えない限り、アウトの解釈になります。
しかし、(3)の‘John’と、(4)の‘John’が、ただ単に名前が同じであるだけの別人として解釈し、(4)の‘John’と、(3)の‘him’を、イコール (=) 関係で結びつければ、OKの解釈になります。つまり、ジョン (A) は一番の働き者だから、それを見たジョン (B) は、ジョン (A) のことを尊敬する、という解釈は可能、ということです。
ですので、(3)は、(4)のような、かなり、もっともらしい文脈を与えても、なお、‘John’=‘him’と解釈することは不可能であることがわかります。つまり、文脈に左右されることなく、文そのものから、‘John’≠‘him’(‘John’=‘him’ではない) が決定できるということになります。
そこで、ここから言えることとして、代名詞の場合、「指すべき対象」は、文法による制限は受けないけれど、しかし、一方、「指してはならない対象」は、文法による制限を受けるのではないか、と思われます。
(5)He respects John. (‘he’≠‘John’) (彼はジョンを尊敬している。)
(5)は、(3)の主語と目的語が入れかわっているだけですが、やはり、どのような文脈を想像してみても、‘he’=‘John’とは、解釈できません。つまり、もともと、「文法」的に、‘he’≠‘John’は決定されている、とみてもよさそうです。そこで、(2)、(3)、(5)から、ハッキリ言えることは、「主語+動詞+目的語」のカタチでは、目的語が再帰代名詞でない場合、「主語 = 目的語」の解釈は不可能になる、ということです。
(6) a. John and Tom respect themselves. (〇)
(ジョンとトムは、自分たちを尊敬している。)
b. Themselves respect John and Tom. (×)
(自分自身、ジョンとトムを尊敬している。)
(7) a. John and Tom respect them. (〇) (ただし、‘John and Tom’≠‘them’)
(ジョンとトムは、彼らを尊敬している。)
b. They respect John and Tom. (〇) (ただし、‘they’≠‘John and Tom’)
(彼らは、ジョンとトムを尊敬している。)
ここで、再帰代名詞、(6a-b)と、代名詞、(7a-b)を比較して、それらの性質をまとめてみます。まず、(6a-b) です。(6a)はOKですが、‘John and Tom’=‘themselves’の解釈でなければなりません。一方、(6b)は、‘themselves’=‘John and Tom’が成り立たない、と言うよりも、もともと、(6b)自体がアウトです。
これは、再帰代名詞は、それ自体、現れる位置に対して、文法上の制限がある上に、その相手となる表現に対しても、文法的な位置制限があるためです。この場合、‘themselves’が主語になっている (「主格」を与えられている) ことや、イコール (=) 関係になるべき相手、‘John and Tom’が、適切な場所に位置していない、といった複数の理由が原因となります。 (詳しくは、EG95、EG96、参照)
次に、(7a-b)です。まず、(7a)の文そのものは、文法的であり、OKとなります。しかし、‘John and Tom’=‘them’の解釈は不可能で、‘John and Tom’≠‘them’の解釈でなければなりません。そして、一方、(7b)も、それ自体は、OKです。しかし、やはり、‘they’=‘John and Tom’の解釈であってはならず、‘they’≠‘John and Tom’の解釈でなければなりません。
ですので、代名詞の場合、それ自体、文法的な位置制限もなければ、イコール (=) 関係になるべき相手を、同一文の中に求める条件もありませんので、その点、(6b)のように、文そのものがアウトになる、ということはありません。しかし、イコール (=) 関係になってはならない相手に関しては、文法上の条件がありますので、その解釈に関しては、制限が付いてしまう、という特徴があるのがわかります。
今回のポイントは、実は、代名詞も、「文法」による制限を受けるということです。EG100では、代名詞は、現れる位置や、「指すべき相手」に対して、文法による制限は受けない、と述べたので、その点、再帰代名詞とは違って、言うべきことなど何もない、という印象がありました。しかし、逆に、「指してはならない相手」、という違った観点から見ると、文法によって制限を受けている、というべき根拠がありました。
実は、こういった観点から代名詞を見ていくと、実に複雑で、かなりわかりにくい側面があるのですが、今後、少しずつ、その特徴を明らかにしていきたいと思います。
■注 :今回、「主語+動詞+目的語」のカタチでは、目的語が、再帰代名詞でない場合、「主語 = 目的語」の解釈は、不可能になる、と述べていますが、(1)の目的語、‘her glasses’の中で、所有格となっている代名詞‘her’の場合は、‘her’が、目的語そのものではなく、「目的語の一部」である点に注意して下さい。
●関連: EG95、EG96、EG100
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