不定冠詞‘a’、‘an’と、定冠詞‘the’のお話です。以下、見ましょう。
(1)I saw a dog. The dog was barking. (1匹のイヌを見た。そのイヌはワンワン吠えていた。)
(1)の‘a dog’「1匹のイヌ」は、初登場の「イヌ」です。しかし、一度、話題に上がったイヌならば、次に続く文では、‘the dog’「そのイヌ」というように、‘the’を付けて表現されます。これは、当たり前のことなんですが、では、初登場とは、どういうことを言うんでしょうか。
(2)This tastes thin. Pass me the salt. (これ、味薄いや。塩取ってよ。)
(2)は、よく使われる食事中の会話表現ですね。食べているものは、ラーメンでも何でもいいんですけど、とにかくハッキリしていることは、食べているものの味が薄い、と言っているだけで、最初から、「塩」のことなんて、話題にしてはいないから、「塩」は、初登場のはずなんですが、(2)にあるように、‘the salt’が使われるんですね。これはなぜなんでしょうか?
(3) a. I forgot to bring my pen. Give me a pen. (〇)
(ペン持ってくるの忘れちゃった。ペン貸してよ。)
b. I forgot to bring my pen. Give me the pen. (〇)
(ペン持ってくるの忘れちゃった。そのペン貸してよ。)
(3a)の‘a pen’と、(3b)の‘the pen’は両方ともOKです。ただし、発話される状況は、同じではありません。(3a)の場合、話者にとって、貸して欲しいペンが、どこにあるのかは、わかりません。ただ単に、相手に対して、ペンを持っていたら貸して欲しい、と言っているだけです。しかし、一方、(3b)では、話者の目の前に、ペンがあって、それを指して、「そのペン」を貸して、というように、指定しているんですね。
ですので、初登場の場合は、不定冠詞‘a’が付いて、そうでない場合は、定冠詞‘the’が付く、という説明は、あまりよく考えないで、さっと聞き流すと、ちょっとした誤解の原因となるようです。ここで、問題は、何をもって初登場とするのか、ですが、‘the’が付く対象となる名詞は、予め、文になって登場している必要などない、ということなんです。ただ、登場していることが、話題の中で、前提とされているような状況ならば、いきなり、‘the’を付けても、OKなんです。
(4)This is a dog [ which I was looking for _ ]. (これ、[ 私が探していた ] イヌなんです。)
(5)This is the dog [ which I was looking for _ ]. (これが [ 探していた ] イヌなんです。)
(4)と(5)も、違いは、‘a dog’か、‘the dog’か、でしかないんですが、それぞれ、違う状況で発話されるなら、両方ともOKです。日本語も微妙に訳し分けてあるんですが、ニュアンスの違いがわかるでしょうか。まず、(4)の状況を説明すると、あるとき、イヌがいきなり現れて、何だ、このイヌは?と相手が言った(思った)とします。そこで、話者が(4)のように言うのは、自然なんです。
一方、(5)は、「私」が聞き手に、飼いイヌが行方不明になってしまった、ということを、最初から伝えてあるような場合で、聞き手が、予め、「私」がイヌを探していることを知っていた場合ですね。そういった状況で、1匹のイヌがいきなり現れた場合に、(5)のように言うのは、自然なんですね。
というわけで、初登場の概念とは、聞き手に対して、対象とされているものの存在が、最初から前提とされているか否かが、ポイントになるんですね。(4)では、聞き手に対して、「探しているイヌ」のことは、全くの初登場となりますので、‘a dog’と表現するのが自然です。一方、(5)は、聞き手にとって、「探しているイヌ」のことは、既に知っていて、初登場ではないから、‘the dog’と表現するのが自然なんですね。
ここから、(4)と(5)では、それぞれ、全く同じ関係節が使われていることに注意して下さい。関係節は、かかる名詞に対して、意味的な「限定」を加えるはたらきがあるんですけど、あくまでも、それは、「限定」をしているに過ぎず、「特定」をしているわけではないんです。これを、もう少し詳しく言うと、関係節そのものには、「特定」をするはたらきはない、ということなんです。(EG72参照)
(6)This is a pen [ which was used in a conference ].
(これは [ ある会議で使われた ] ペンです。)
(7)This is the pen [ which was used in a conference ].
(8) a. これは [ 会議で使われた ] 唯一のペンです。 (×)
b. (以前にも、話しましたが) これが、[ ある会議で使われた ] ペンです。 (〇)
(6)は、‘a pen’を使っていますが、極めて自然な文で、聞き手に、いきなり、あるペンを差し出して言うような状況です。このとき、差し出された「ペン」のことは、聞き手にとって、全くの初登場となります。
しかし、一方で、‘the pen’を使った(7)は、ちょっと不自然で、無理に解釈すると、(8a)のように、会議で使われた、唯一のペンと言っている解釈がありますが、そんなことは常識的にあり得ません。会議でペンを使うことなど、どこででもあるようなことですからね。ですので、そのような状況が自然になるような世界での発話でない限り、アウトになる解釈です。また、(8b)のような解釈もありますが、この解釈ならば、(8a)よりも、使われる確率は、はるかに高いと言えますが、(6)の自然さには及びません。
(9)This is a pen [ which was used in yesterday's conference ].
(10)a. これは [ 昨日の会議で使われた ] ペン (の中の1本)です。 (〇)
b. これは [ 昨日会議があったんですが、そこで使われた ] ペンです。 (×)
(11)This is the pen [ which was used in yesterday's conference ].
(これが [ 昨日の会議で使われた ] ペンなのです。)
(9)と(11)は、関係節内の表現を、「ある会議」ではなく、「昨日の会議」としてみましたが、そうすると、今度は、‘the pen’とした(11)の方が、‘a pen ’とした(9)よりも、はるかに自然になります。このとき、注意しなければならないのは、関係節内に、‘yesterday's conference ’「昨日の会議」というような表現があると、話者と聞き手の間に、昨日、会議があった、ということが、既に了解済みであることを、強制するような解釈になる、ということです。
そこで、(9)のように、‘a pen’とすると、(10a)のような、昨日の会議で使われたペンが他にもある、ということを強調しているか、もしくは、昨日、会議があったということ自体、聞き手は知らされていない、という(10b)のような、極めて変な (通常は、あり得ない) 解釈になります。というより、何よりも、例え、(10a)の解釈がOKであったところで、(9)のような文自体が、かろうじてOKにできる、という程度のもので、普通、以下のようにするのが自然です。
(12)This is one of the pens [ which were used in yesterday's conference ]. (訳同(10a))
というわけで、(6)と(11)が、関係節の普通の使い方ということになるんですが、まず、ハッキリと言えるのは、関係節は、意味的に、「限定」をする機能はもっているんですが、「特定」をする機能まではもっていなくて、関係節がかかっている名詞が、意味的に「特定」されるか否かは、(6)と(11)のように、関係節内が表す意味によって、どうとでも変わる、ということですね。
それは、関係節の表す意味自体が、文脈をつくる、と言ってもよく、その関係節がつくった文脈に照らし合わせて、関係節がかかっている名詞も、初登場と解釈されるか否かが決まる、ということです。
さらに、(4)と(5)のような例からは、関係節は、全く文脈をつくらず、かかっている名詞が初登場か否かの決定に関与していない、ということもあるわけです。この場合は、それ以前の状況にたよる、ということになりますので、広い視野で考えると、初登場の可否は、構文的な文法の問題とは一線を画す問題であることがわかると思います。
そして、この延長線上の問題として、(2)のような例があり、なぜ、‘the salt’というように、定冠詞‘the’が使われるのか、という問題があります。もちろん、もう既に、お分かりのように、食卓の上には、塩が置いてあることが多いので、塩は聞き手に取って、既に、その存在が了解済み、と見なされているからですよね。ですので、文として見ると、いきなり、‘the’が使われていて、ギョッとしてしまうんですが、状況としては、塩のことは了解済み、ということで、初登場ではない、ということになるんですね。
今回のポイントは、初登場か否かで、よく問題となる、不定冠詞‘a’と、定冠詞‘the’の使い分けです。定冠詞‘the’を、中学校などで初めて習うときに、わかりやすく理解させるために、どうしても、(1)のような例を使った説明から入っていくので、そこが同時に、誤解を与える原因でもある、という、危うい側面をもっています。
日本語を母語としている人からすれば、こいうった誤解は、ある意味、仕方がない、とも言えるものですが、これは、本質的には、英文法そのものの問題ではない、ということを予め了解していれば、何とか、最低限の理解には達することができますので、ここは、アタマを一度リセットするつもりで、1回も前の文に出てきていないからどう、とか、関係節がどう、とかいった問題からは、スッパリ切り離して、考え直してみることを、是非とも、お薦めします。
●関連: EG72
★みんなの英会話奮闘記★ ★元祖ブログランキング★ ★人気blogランキング★
(1)I saw a dog. The dog was barking. (1匹のイヌを見た。そのイヌはワンワン吠えていた。)
(1)の‘a dog’「1匹のイヌ」は、初登場の「イヌ」です。しかし、一度、話題に上がったイヌならば、次に続く文では、‘the dog’「そのイヌ」というように、‘the’を付けて表現されます。これは、当たり前のことなんですが、では、初登場とは、どういうことを言うんでしょうか。
(2)This tastes thin. Pass me the salt. (これ、味薄いや。塩取ってよ。)
(2)は、よく使われる食事中の会話表現ですね。食べているものは、ラーメンでも何でもいいんですけど、とにかくハッキリしていることは、食べているものの味が薄い、と言っているだけで、最初から、「塩」のことなんて、話題にしてはいないから、「塩」は、初登場のはずなんですが、(2)にあるように、‘the salt’が使われるんですね。これはなぜなんでしょうか?
(3) a. I forgot to bring my pen. Give me a pen. (〇)
(ペン持ってくるの忘れちゃった。ペン貸してよ。)
b. I forgot to bring my pen. Give me the pen. (〇)
(ペン持ってくるの忘れちゃった。そのペン貸してよ。)
(3a)の‘a pen’と、(3b)の‘the pen’は両方ともOKです。ただし、発話される状況は、同じではありません。(3a)の場合、話者にとって、貸して欲しいペンが、どこにあるのかは、わかりません。ただ単に、相手に対して、ペンを持っていたら貸して欲しい、と言っているだけです。しかし、一方、(3b)では、話者の目の前に、ペンがあって、それを指して、「そのペン」を貸して、というように、指定しているんですね。
ですので、初登場の場合は、不定冠詞‘a’が付いて、そうでない場合は、定冠詞‘the’が付く、という説明は、あまりよく考えないで、さっと聞き流すと、ちょっとした誤解の原因となるようです。ここで、問題は、何をもって初登場とするのか、ですが、‘the’が付く対象となる名詞は、予め、文になって登場している必要などない、ということなんです。ただ、登場していることが、話題の中で、前提とされているような状況ならば、いきなり、‘the’を付けても、OKなんです。
(4)This is a dog [ which I was looking for _ ]. (これ、[ 私が探していた ] イヌなんです。)
(5)This is the dog [ which I was looking for _ ]. (これが [ 探していた ] イヌなんです。)
(4)と(5)も、違いは、‘a dog’か、‘the dog’か、でしかないんですが、それぞれ、違う状況で発話されるなら、両方ともOKです。日本語も微妙に訳し分けてあるんですが、ニュアンスの違いがわかるでしょうか。まず、(4)の状況を説明すると、あるとき、イヌがいきなり現れて、何だ、このイヌは?と相手が言った(思った)とします。そこで、話者が(4)のように言うのは、自然なんです。
一方、(5)は、「私」が聞き手に、飼いイヌが行方不明になってしまった、ということを、最初から伝えてあるような場合で、聞き手が、予め、「私」がイヌを探していることを知っていた場合ですね。そういった状況で、1匹のイヌがいきなり現れた場合に、(5)のように言うのは、自然なんですね。
というわけで、初登場の概念とは、聞き手に対して、対象とされているものの存在が、最初から前提とされているか否かが、ポイントになるんですね。(4)では、聞き手に対して、「探しているイヌ」のことは、全くの初登場となりますので、‘a dog’と表現するのが自然です。一方、(5)は、聞き手にとって、「探しているイヌ」のことは、既に知っていて、初登場ではないから、‘the dog’と表現するのが自然なんですね。
ここから、(4)と(5)では、それぞれ、全く同じ関係節が使われていることに注意して下さい。関係節は、かかる名詞に対して、意味的な「限定」を加えるはたらきがあるんですけど、あくまでも、それは、「限定」をしているに過ぎず、「特定」をしているわけではないんです。これを、もう少し詳しく言うと、関係節そのものには、「特定」をするはたらきはない、ということなんです。(EG72参照)
(6)This is a pen [ which was used in a conference ].
(これは [ ある会議で使われた ] ペンです。)
(7)This is the pen [ which was used in a conference ].
(8) a. これは [ 会議で使われた ] 唯一のペンです。 (×)
b. (以前にも、話しましたが) これが、[ ある会議で使われた ] ペンです。 (〇)
(6)は、‘a pen’を使っていますが、極めて自然な文で、聞き手に、いきなり、あるペンを差し出して言うような状況です。このとき、差し出された「ペン」のことは、聞き手にとって、全くの初登場となります。
しかし、一方で、‘the pen’を使った(7)は、ちょっと不自然で、無理に解釈すると、(8a)のように、会議で使われた、唯一のペンと言っている解釈がありますが、そんなことは常識的にあり得ません。会議でペンを使うことなど、どこででもあるようなことですからね。ですので、そのような状況が自然になるような世界での発話でない限り、アウトになる解釈です。また、(8b)のような解釈もありますが、この解釈ならば、(8a)よりも、使われる確率は、はるかに高いと言えますが、(6)の自然さには及びません。
(9)This is a pen [ which was used in yesterday's conference ].
(10)a. これは [ 昨日の会議で使われた ] ペン (の中の1本)です。 (〇)
b. これは [ 昨日会議があったんですが、そこで使われた ] ペンです。 (×)
(11)This is the pen [ which was used in yesterday's conference ].
(これが [ 昨日の会議で使われた ] ペンなのです。)
(9)と(11)は、関係節内の表現を、「ある会議」ではなく、「昨日の会議」としてみましたが、そうすると、今度は、‘the pen’とした(11)の方が、‘a pen ’とした(9)よりも、はるかに自然になります。このとき、注意しなければならないのは、関係節内に、‘yesterday's conference ’「昨日の会議」というような表現があると、話者と聞き手の間に、昨日、会議があった、ということが、既に了解済みであることを、強制するような解釈になる、ということです。
そこで、(9)のように、‘a pen’とすると、(10a)のような、昨日の会議で使われたペンが他にもある、ということを強調しているか、もしくは、昨日、会議があったということ自体、聞き手は知らされていない、という(10b)のような、極めて変な (通常は、あり得ない) 解釈になります。というより、何よりも、例え、(10a)の解釈がOKであったところで、(9)のような文自体が、かろうじてOKにできる、という程度のもので、普通、以下のようにするのが自然です。
(12)This is one of the pens [ which were used in yesterday's conference ]. (訳同(10a))
というわけで、(6)と(11)が、関係節の普通の使い方ということになるんですが、まず、ハッキリと言えるのは、関係節は、意味的に、「限定」をする機能はもっているんですが、「特定」をする機能まではもっていなくて、関係節がかかっている名詞が、意味的に「特定」されるか否かは、(6)と(11)のように、関係節内が表す意味によって、どうとでも変わる、ということですね。
それは、関係節の表す意味自体が、文脈をつくる、と言ってもよく、その関係節がつくった文脈に照らし合わせて、関係節がかかっている名詞も、初登場と解釈されるか否かが決まる、ということです。
さらに、(4)と(5)のような例からは、関係節は、全く文脈をつくらず、かかっている名詞が初登場か否かの決定に関与していない、ということもあるわけです。この場合は、それ以前の状況にたよる、ということになりますので、広い視野で考えると、初登場の可否は、構文的な文法の問題とは一線を画す問題であることがわかると思います。
そして、この延長線上の問題として、(2)のような例があり、なぜ、‘the salt’というように、定冠詞‘the’が使われるのか、という問題があります。もちろん、もう既に、お分かりのように、食卓の上には、塩が置いてあることが多いので、塩は聞き手に取って、既に、その存在が了解済み、と見なされているからですよね。ですので、文として見ると、いきなり、‘the’が使われていて、ギョッとしてしまうんですが、状況としては、塩のことは了解済み、ということで、初登場ではない、ということになるんですね。
今回のポイントは、初登場か否かで、よく問題となる、不定冠詞‘a’と、定冠詞‘the’の使い分けです。定冠詞‘the’を、中学校などで初めて習うときに、わかりやすく理解させるために、どうしても、(1)のような例を使った説明から入っていくので、そこが同時に、誤解を与える原因でもある、という、危うい側面をもっています。
日本語を母語としている人からすれば、こいうった誤解は、ある意味、仕方がない、とも言えるものですが、これは、本質的には、英文法そのものの問題ではない、ということを予め了解していれば、何とか、最低限の理解には達することができますので、ここは、アタマを一度リセットするつもりで、1回も前の文に出てきていないからどう、とか、関係節がどう、とかいった問題からは、スッパリ切り離して、考え直してみることを、是非とも、お薦めします。
●関連: EG72
★みんなの英会話奮闘記★ ★元祖ブログランキング★ ★人気blogランキング★