ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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守護天使/上村佑

2007-11-28 06:26:11 | 
第2回日本ラブストーリー大賞の受賞作。

しかし、ラブストーリーというにはあまりに異色のというか、ありえない組み合わせのラブストーリーだ。
清楚で可憐な女子高校生とチビでハゲでデブ、おまけに会社をリストラされて財布には500円玉しかないような中年の男。
この男がこの女子高生に恋をする。しかも純愛。このシチュエーションだけでもこの物語がかなりドタバタな展開になることを読者は予想してしまう。

須賀啓一はただ太っているという理不尽な理由だけで親族の経営する会社をクビになり、職を求めて家族を伴って仙台から東京へ移住してきた。
何とか職にはありつけたが、収入は半分以下になってしまった。
そして家庭内での地位も収入に応じて下落した。妻の勝子は腕のいい美容師でパートでも啓一の倍は稼ぐ。
家庭内では勝子が絶対的な権力を握り、啓一の日々の小遣いもこの鬼嫁によって2日で1500円と決められている。

・・・という具合にまったくどうにもうだつの上がらない主人公像なわけだが、啓一がたまたま通勤電車の車内で見かけた女子高生。
この女子高生に一目惚れをした啓一がこの子の「守護天使」になろうと決心するのだ。

一方でこの女子高生が開設したというブログが静かにネット上を一人歩きし始める。
ネット社会の見えない闇と今の日本に巣くう病巣みたいなものがこのブログを通して描かれている。
いささか誇張気味ではあるけれども、著者としてはネット社会のネガティブな世界をアンチテーゼとして示している、と言えなくもない。

ヴァーチャルなブログ上の人物たちがやがて表に出てきて、現実の女子高生に静かに忍び寄り、そこから物語は急展開していく。
啓一と幼馴染のヤクザの村岡、啓一が仕事でカウンセリングをしている引きこもりの少年ヤマトという、
これまたありえない組み合わせの3人が、犯罪に巻き込まれようとする女子高生を救うべく動き始める。
後半の"お笑いダイハード"な展開はスピード感があって面白い。村岡の傑出したキャラクターが物語を引っ張っていく。

サイドストーリーして家出した啓一を勝子が探し求めるのだが、勝子の心境の変化がいまひとつ描ききれていないと思う。
勝子の啓一への感情の揺れ動きがもう少し描かれていれば、物語の中にもうひとつのラブストーリーが存在したのだろう。

映画化が決定しているそうだが、登場人物それぞれの個性が際立っており、誰がどんな役を演じるのかが楽しみでもある。