ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

音楽・本・映画・サッカーなど興味の趣くままに書いていきます。

さらば愛しき女よ/レイモンド・チャンドラー

2007-11-14 05:28:26 | 
秋の夜長はハードボイルド(笑)。
前に読んだジェイムズ・クラムリーが今ひとつぴんと来なかったので、フィリップ・マーロウで溜飲を下げることにした。

マーロウってヒーロー像としてはあまり完璧ではない。そのあたりは長谷川平蔵とも通底するものがある。
それでも、平蔵が部下を持っているのでなかなか素のままを出さないのに対して、フリーランスのマーロウはほろっとなってしまう時がある。
マーロウが女にもてるのは実はこのあたりの強さの裏にある弱さとうか、優しさがあるとき不意に顔をのぞかせるからではないか。

現実に起こる刺激的な事件や凝ったプロットのミステリーに麻痺されているのか、
古典的なこの作品における事件そのものは今となってはさほどの意外感はない。
大鹿マロイという人物もいろんなところで語られているほど、私には魅力的な人物像には思えない。
なんと言うか大男のくせに女々しいなあ、というのが率直な感想。
「愛しき女」ヴェルマもキャラクターとしてはステレオタイプで薄い印象。
そのなかでもマーロウを助けるアン・リアードンだけは一筋縄ではいきそうにないところに惹かれたりする。
こういうクールな女性っていいよなあ。キム・ノヴァクあたりが演じたらいいかも。(古すぎか)

マーロウの登場作品としては「大いなる眠り」に続いてまだ2作目ということもあり
マーロウ自体もキャラクターとしてこなれていない、ということはあるのかもしれない。
全体に登場人物のキャラクターをうまくつかめないままに終わってしまったというのが正直なところだ。

とにかくこの作品の白眉はやはり最後のマーロウのセリフと、最後の最後のセンテンスだろう。
チャンドラーにとっての男のロマンティシズムというものの一端を感じることができる。