ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

A-10奪還チーム出動せよ

2023年08月22日 | 本を読んだで

スティーブン・L・トンプスン 高見浩訳      早川書房

 小生は車の運転大好き人間である。リストラされ貧乏になって車を手放した。それから20年近くハンドルを握ってない。ペーパードライバーになってしまった。それでも「車を運転する」という快楽は忘れがたく、カーアクション小説を読んで禁断症状をおさえているというしだい。
 で、こたび読んだのが本書だ。いやあ出色のカーアクション小説である。少しはワシの車禁断症状も癒されたのである。
 いくらワシがカーアクションが好きだといっても、こっちからあっちへ車で移動するだけを書いた小説ではダメだ。どこで、だれが、なんのために、どのようにして走ったのか。これをしっかり書いて読者を満足させなければダメである。
 冷戦時代。ドイツは東西に分かれていた。そのような状況で東側にはアメリカの軍事連絡部が、西側にはソ連の軍事連絡部が置かれていた。双方の連絡部の要員はそれぞれの地域で自由に移動できるという取り決めがなされていた。
 攻撃機A-10。それの最新のモデルA-10F。パイロットの脳波を感知して搭載コンピュータとリンクできる装置シザーズボックス。極秘の軍事機密である。そのA-10Fがミグ25によって東ドイツ領内に不時着させられた。ソ連の目的はシザーズボックスの入手。とうぜんアメリカ側もだまっていない。ポツダムのアメリカ軍事連絡部の奪還チームが出動。実はこういうことがたびたび起こるので全軍の中から選りすぐりのドライバーが奪還チームを結成していた。
 マックス・モスとアイク・ウィルソンのコンビがフォード・フェアモントを駆ってA-10Fのパイロットとシザーズボックスの回収に向かう。パイロットは死んでいたがシザーズボックスは回収に成功する。相棒のアイクは重傷を負う。死体とけが人と秘密機器を積んでマックスはポツダムに走る。もちろん東側もだまって見ていない。東ドイツ人民警察軍事諜報部とソ連国防軍参謀本部情報部が追いかける。東ドイツ警察のBMWとベンツが陸から、ソ連のMi-24攻撃ヘリが空から襲ってくる。
 V8気筒5000CCターボチャージャー500馬力の化け物エンジンを搭載したフォード・フェアモント。ストックカーレースの経験を持つマックスは持てる限りのドライビングテクニックを駆使して逃げる。道案内は亡命希望者の女伯爵の娘。
 お宝を持って、美しき姫を守りつつ敵中を突破して味方の陣へ逃げる。冒険小説の黄金パターンをなぞりつつも超絶なカーアクションが展開する。この猛暑のウサも少しははれた。