ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

小説伊勢物語 業平

2022年04月29日 | 本を読んだで

高樹のぶ子      日本経済新聞出版

 ワシは神戸は東灘の住民や。少し東に行くと芦屋川がある。その芦屋川にかかる国道2号線の橋を業平橋という。この小説の主人公在原業平の屋敷がこのあたりにあったとか。
 上方落語ファンの小生にとって、在原業平といえば「ちはやふる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは」という歌の作者という認識しかない。竜田川という相撲取りがちはやという太夫に惚れて相撲取りをやめて故郷の奈良で豆腐屋をやる。という解釈以外に竜田川に流れる紅葉の美さを詠んだという解釈があるから、いつ業平が奈良へ行くんやろと思って読んでいたが、伊勢には行くがいっこうに奈良へは行かない。これ、ほんまは業平は屏風の絵を見て詠んだ歌やねんて。初めて知ったわ。
 ワシは日本の古典はなじみがのうて「伊勢物語」は読んだことがない。在原業平が主人公の歌物語で、時系列がバラバラで読んでもよう判らんらしい。で、高樹さんがそれを整理して現代人でも判りやすく読める小説にしたのが本書だ。
 確かに読みやすいうえに、独特のですます調の文章で平安朝の雅な雰囲気がよく出ていた。もちろん業平の歌をはじめ業平以外の歌人の歌もでてくるが、その歌の解釈の文章が、古典の教科書的ではなく、自然に小説の流れを止めずに記述されている。高樹のぶ子さんはさすがに手練れの文章家だ。