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スズキはなぜアメリカで売れなかったのか?

2012-11-09 20:09:17 | 日記
スズキは2012年11月6日、アメリカの四輪販売事業から撤退し、二輪車・ATV(All Terrain Vehicle/4輪バギー)、船外機に事業集約すると発表した。これに伴い、同社の米国子会社ASMC(アメリカンスズキモーター社)は現地時間の11月5日夕刻、カリフォルニア州サンタアナ市の裁判所に米国倒産法第11条の適用を申請した。負債総額は、346百万ドル(1ドル80円換算で277億円/平成24年9月30日現在)。

 同社は1985年に設立され、小型オフロード車「サムライ(日本のジムニー)」の販売を始めた。90年代後半から2000年代、販売台数は年間6万台程度で安定。2003年から2007年にかけて、米国内の好景気に後押しされ、同10万台を突破。だがリーマンショック後、2009年には4万台まで急落。その後も販売低迷が続き、2011年は同2万6919台にまで落ち込んだ。

 この台数は、アメリカで人気の高い、トヨタ「カムリ」やホンダ「アコード」の月販台数を下回る。また、ASMCの直近2012年10月販売台数は2023台。これは、同月の販売トップGMの「97分の1」、同2位トヨタの「77分の1」という悲惨な結果だ。

 こうした状況のなか、米国自動車系マスコミ業界内では最近「スズキは一体、いつまでもつのか?」と同社の北米事業継続性を疑問視する声が増えていた。

 今回、スズキ本社が日本語で発表した、ASMCの米国四輪販売事業撤退の理由は、以下の通りだ。

「~ASMC社は、同社の長期計画を検討する中で、為替を含む経済環境、市場動向、小型車中心の自社のモデルラインアップ、達成可能な販売規模、環境や安全面での法規制の強化などを考慮すると、四輪車販売事業の採算性を確保・維持していくことは極めて困難であると認識する一方、二輪車・ATV、船外機については引き続き販売増加と収益拡大が可能であると判断に至り、将来有望な分野で効率よく事業拡大と収益改善を進めるために、採算の見込めない四輪車販売事業から撤退して、全ての経営資源を二輪車・ATV、船外機に振り向けることを決定しました」

 では、どうしてアメリカで、スズキは売れなかったのか?

商品構成で大胆な
「次の一手」が打てず…
 ASMC、最後の商品ラインアップは、大きく4車種だった。

 トップカテゴリーは、C/Dセグメントセダンの「キザシ」。2011年の同社全車種内で占める販売割合は26%。小型車の「SX4」はセダンを中心に、5ドアスポーツハッチバックと四輪駆動クロスオーバーの3モデル。同販売割合は、3モデル合計で47%。SUVは「グランドヴィターラ(日本のエスクード)」で、同19%。残りは、ミッドサイズピックアップトラックの「エクイター」が通常版と4ドアタイプのクルーキャブの2モデルだ。


スズキ「エクイター」。日産「フロンティア」のOEM Photo:SUZUKI 生産面で見ると、日本への依存度が高かった。スズキは2009年9月、北米向け生産をしていたカナダでのGM合弁生産拠点、CAMI(Canadian Automotive Manufacturing Inc.)での提携を解消。北米での四輪車生産から手を引いた。そのため、超円高が日本からの完成車輸入と部品の調達コストを直撃した。尚、「エクイター」は、日産の北米向けミッドサイズピックアップトラック「パスファインダー」のOEM(相手先ブランド製造)で、テネシー州スマーナ工場で生産されている。

 日系メーカーは近年、北米市場向けの生産拠点として、メキシコに注目。日産、ホンダ、そしてマツダが施設増産や新規設立を進めている。対するスズキは、メキシコ進出のメリットがなかった。ラインアップのなかで最も売価が低い、小型車「SX4」のメキシコ生産移管も可能性はあったとは思うが、同車の販売量が伸びず、量産効果が得にくかったと思われる。

 商品企画の視点でも、アメリカでの弱さが目立った。トヨタ、日産、ホンダは近年、北米専用車、または北米仕様の充実を図っている。そのなかにあってスズキは2000年代中盤、小型車では「スイフト」、「SX4」、「スプラッシュ」というワールドカー構想を打ち出し、日欧での互換性を重視。その一部をアメリカに当てはめるカタチとなった。

だが、アメリカでは、業界全体の思惑に反してBセグメント小型車市場が拡大せず。「フィット」、「ヤリス(日本のヴィッツ)」ですら苦戦を強いらる状況で「SX4」の居場所はなかった。また最近では、北米発売から6年が経ち、商品の存在にやや古さが感じられていた。

「エスクード」は伸び悩み
切り札の「キザシ」も不発
「グランドヴィターラ(エスクード)」は本来、SUV大国アメリカにおいて、スズキの稼ぎ頭になるべきクルマだった。同車のセールスプロモーションの一環として、コロラド州内の標高4300mの頂を目指す自動車レース「パイクスピークヒルクライム」に、専用レースカーを仕立てて活躍。だが、北米内での量産車販売が大きく伸びることはなかった。日系競合の「RAV4」、「CR-V」の他、韓国のヒュンダイ、キアが大胆な外観デザイン、低燃費、低価格をバランスさせ、「グランドヴィターラ」の存在感を弱めた。また近年進行する、小型SUVの大柄化、エンジン排気量の超小型化といった流れにも乗れなかった。

 そして、スズキの北米戦略の切り札とした「キザシ」は、不発に終わった。


「キザシ」量産前ファイナルコンセプトモデル。2008年、米NYモーターショーにて Photo by Kenji Momota
拡大画像表示 同車について筆者は、世界各所で公開されたコンセプトモデルの時期から、詳細を追っていた。商品企画とデザインが熟成される経緯を見てきた。アメリカ市場を強く意識した商品であることも承知している。それゆえ、リーマンショックを受けて、当初の販売計画を大幅に見直したことも、一時は企画凍結の危機にあったことも知っている。

 そして2009年、満を持して日米市場に投入された「キザシ」。量産開始初期、両国内で試乗した感想は、「走りもデザインでも、ドイツ車のような丹念な造り込みは見事」。だが換言すれば、ドイツ車っぽいのだ。スズキ開発陣は「スズキがここまでできるということを、知らせしめたかった」というが、そこに「スズキしかできないと言い切れる、わかりやすいオリジナリティ」が見えなかった。

 こうした筆者の思いと、米国人消費者の思いは近いはずだ。

さらに、ASMCにとって大きな課題は、CAFE(企業平均燃費)対策だった。

 米ホワイトハウスは2012年8月28日、2025年のCAFEについて、乗用車とSUVなどライトトラック部門で、平均54.5マイル/ガロン(約23.2km/リッター)にすると正式発表した。これは現在の約2倍に相当する。これをクリアするため、日米欧韓の各メーカーは、ハイブリッド車の強化、ディーゼル車の投入、ガソリンエンジンの超小型化などの方針を打ち出している。

 スズキの世界戦略上、インドを中心に欧州、そしてASEAN、アフリカなど新興地域での事業拡大を狙っている。さらには日本国内軽市場シェアNo.1の座を、ダイハツ、そして急伸するホンダから守らねばならない。そうしたなかで、米国単独向けでCAFE対応のためだけに、パワーユニットへの巨額開発投資をすることは得策ではない。

 以上のような各種ファクターが、今回の北米四輪事業撤退に深く関与したと考えられる。

商品企画の遅れと
二輪イメージとの齟齬
 アメリカ市場の全需は、リーマンショック後の2009年の1040万台を底に、2010年1100万台、2011年1280万台、今年は1500万台近くまで上昇と、回復基調にある。にもかわらず、スズキは販売を伸ばせなかったのだ。

 90年代に同市場のセグメント図式は大きく変化した。乗用車は「B、C、C/D」、SUVは「コンパクト、ミッドサイズ、フルサイズ」、ピックアップトラックは「ミッドサイズ、フルサイズ」、さらにはクロスオーバーなど、モデル種としては出尽くした感がある。そうした硬直感がある市場のなかで、売るための条件は、MPG(マイルパーガロン/燃費値)の良さ、インセンティブ(販売奨励金)による実売価格の低減、さらには斬新な外観デザイン等になった。

 こうした点で、スズキの商品企画は他社の半周遅れが続いた。アメリカ人は気に入ったクルマがあれば、それまで一度も縁のなかったブランドのディーラーに買いに来る、と言われている。スズキには、そうした人々を飛び抜けて数多く集めるクルマがなかったのだ。

最後に、抽象的な表現になるが、筆者のアメリカでの、スズキに対するイメージを書く。

 四輪事業撤退後、スズキは別事業体として、二輪車・ATV、船外機の事業を継続する。「結局、アメリカのスズキは二輪イメージから、脱却できなかったのかもしれない」。今、そんなふうに思う。

 いわゆるスポーツバイク分野では、全米にスズキ信者が大勢いる。一般的にその数は、ホンダ、ヤマハを大きく凌ぐと言われている。ハーレーダビッドソンの愛好家でも、「スズキのバイクの凄さ」に惚れ込む人が多い。

 日本の消費者は、「あれだけコストパフォーマンスが高い軽自動車を造るスズキ。その乗用車も良いはずだ」と思う。だが、軽自動車がないアメリカで、スズキがバイクを極めれば極めるほど、「大衆向け乗用車メーカー」との記号性のズレが大きくなっていったのではないか。

 スズキの乗用車とアメリカ、結局、相性が悪かったのではないだろうか。




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