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経済発展を維持しながらわが国はどこまでCO2を削減できるか

2008年07月07日 23時50分51秒 | Weblog
経済発展を維持しながらわが国はどこまでCO2を削減できるか

~IMエンドユース開発チーム

1. はじめに

最近、AIMエンドユースモデルが政策決定の過程で利用されたことについて新聞報道された際、このモデルやその利用方法について十分理解が得られていない部分があると感じた。このため、以下の諸点について取り急ぎ資料を用意した(資料編)。

(1)AIMエンドユースを用いた当チームの独自の推計結果

(2)最近の主要な争点についての研究の立場からの見解

(3)AIMエンドユースモデルの概要

 これらの資料をベースにしながら、以下ではまず、AIMモデルの政策決定過程での利用の実態とともに、なぜ推計結果が異なってくるかについて述べ、次いで、来世紀前半に向けたわが国の二酸化炭素排出量削減の見通し、その解釈、さらにこのようなモデルが有効に活用されるための条件を述べたい。

 

2. AIMモデルの開発と利用の分離

 

 AIMモデルは学術研究の一環として開発されているものであり、その利用について特に制限を設けていない。したがって今までに、環境庁、国土庁、国連本部、UNEP、IPCC、WWF、IEA等の機関によっていろいろな目的に利用されてきた。このような意味でAIMモデルは一種の公共財となってきている。

 このため、「学術としてのAIMモデルの開発」と「実践活動としてのAIMモデルの利用」とを分離している。即ち、当チームで開発したモデルはこのモデル開発に参加した民間のコンサルタントに移転し、当チーム以外の主体がモデルを利用する場合は、この民間コンサルタントと直接の契約を結んでいただき、自由な前提条件の下で各種の目的に利用いただいている。このことは今回の環境庁の推計においても例外ではない。したがって、これらの推計値やその前提については、当チームは責任を負っておらず、モデルの構造のみに責任があると考えている。

 なお、われわれのチームは開発したモデルを用いて別途、独自の推計を行っており、当然ながらこの推計値には責任を持っている。本年8月26日におこなわれた中央環境審議会で紹介した二酸化炭素排出量の削減可能性の推定結果は、この独自推計の結果であり、本報告ではこの推計結果に基づいて議論をすすめることにする。

 

3. 二酸化炭素の排出削減可能量の推定値が大きく異なる理由

 

 最近の二酸化炭素削減可能性に関する推計値は、通産省、環境庁、WWF等の間で大きく異なっている。この差は次の2つの理由による。

 第一は、技術レベルに関する仮定の違いである。通産省想定は前提を示していないため、はっきりはしないが、業界毎の合意を得るために省エネにおいて二番手や三番手の技術を前提としている可能性が高い。このため、削減可能性は非常に低く出てしまう。これに対してわれわれの推計は現状で一番進んだ技術を前提とし、WWFは今後開発されると予想される技術をも前提としているために、大変に高い削減率を推定している。

 実際にはどちらが現実に近いかという問いに対しては、過去のわが国の公害対策の歴史を見る限り、市場競争を通じて最も進んだ技術が一気に導入されていることから判断できる。即ち、市場競争においては常に一番手の技術が市場をリードし、シェアを拡大することによってコストをさげていくという図式があり、このことは何も省エネ技術のみに限ったものではない。通産省推計の前提は、この点が理解し難い。

 第二の理由は、社会経済の将来像が大きく違うためである。鉄鋼の生産量やオフィス床面積等にこれらの違いが現れる。この将来像については大きな不確実性があり、ある程度の前提の幅をもって想定し、この幅が推定結果にどの程度の影響を及ぼすかを明らかにすることが必要となる。少なくとも、「鉄鋼生産量は年間1億トンでなければならない」といった議論は、時間の無駄である。

 われわれの独自推計においては、以下のような方法でこの不確実性の問題に対応している。

 

4. 予想される構造的変化

 

 来世紀前半という長期を展望する場合、まず忘れてはならないのは、人口等の社会構造の変化がもたらす大きな不確実性である。例えば、2010年頃にわが国の人口はピークに達し、その後は人口が減少に転ずる。また、この頃までに戦後のベビーブーム世代の大半が定年を迎える。これらの変化は国民のライフスタイルや経済発展の方向を大きく変える可能性がある。さらに、来世紀に入って経済のクローバル化がさらに進み、2030年までには中国などの経済活動が日本の1970年代の水準に達する。この結果、わが国の産業構造が大きく変化することも容易に予想される。一方、中国の石炭燃焼による酸性雨問題など、広域的な環境影響が東アジアで顕在化してくる時期は、われわれは来世紀初頭と予測している。これによって環境汚染対策への投資が一気に増し、対策技術のコストが急激に下がる可能性も大きい。

 このような構造的変化は二酸化炭素の排出量に大きな影響を及ぼす。しかもその変化の度合いには大きな不確実性がある。このため、この幅を見込んだ見通しが必要となる。

 いま、二つの日本の将来シナリオを想定してみよう。一つは、従来型の消費依存のライフスタイルや、既存の製造業の生産活動を可能な限り維持するという、構造的変化があまり起こらないシナリオである。「従来型経済大国シナリオ」とでも呼んでおこう。他の一つは、知的活動重視のライスフスタイルや生産システムに向けて日本の社会構造が大きくシフトするシナリオで、構造的変化が大規模に起こると想定する。われわれは「知立型生活大国シナリオ」と呼んでいる。

それぞれのケースについて、経済成長率、産業構成と出荷額、必要となるオフィス床面積や輸送量などのシナリオを想定した場合、どの位の二酸化炭素が排出されるのか。この推計にあたっての想定と結果が、今回の争点の中心であった。

 

5. 急がれる削減対策

 

 まず、二つのケースで必要となるエネルギー・サービス量を、個々のエネルギー利用のプロセス毎に詳細に積み上げ計算を行い、次いで、このサービス需要を満たすためにどの様な技術が市場において選択されるかを、シミュレーションにより求めた。対象としたプロセスは産業、民生、業務、運輸、転換の全部門で、二百種類にのぼるエネルギー関連技術を考慮した。そして、エネルギー・サービス需要量と技術により決定されるエネルギー利用効率を掛け合わせて、将来の燃料種別にエネルギー消費量を推定し、さらに二酸化炭素の排出量を求めた。

 この結果、消費者や企業が省エネによる燃費節約のメリットを十分に認識しなくて、新技術の普及が進まない場合(技術固定ケース)、「従来型経済大国シナリオ」では、2010年に二酸化炭素排出量が1990年比で26%以上増え、「知立型生活大国シナリオ」では24%増という結果を得た。

 市場原理で最も安い技術が普及する場合(市場選択ケース)では、13%から15%の増加にとどまる。少々コスト高の省エネ技術でも、燃費の節約によって短期間に元がとれるため、省エネ技術の普及が進む。ただし、使用したモデルでは市場における情報の不完全性や他の社会的要因を考慮していないため、エネルギー効率改善を実際よりも多めに見積もっている可能性がある。実際の二酸化炭素排出量は、この推定値よりも大きくなると想定しておかなければならない。

 いずれのシナリオにおいても、政府が介入をするなど特別の対策を行わない限り、二酸化炭素の排出量は着実に増えつづける。わが国からの二酸化炭素排出量を安定化し、さらに削減するためには、早急な対策が必要である。

 

6. どこまで二酸化炭素を減らせるか

 

 では、対策によってどこまで減らせるか。二つのシナリオで想定された生産活動や生活水準を落とさないで、より効率的な技術を導入することだけで、二酸化炭素がどこまで抑制できるかを同じモデルでシミュレートした。具体的には、予想されるエネルギー価格では市場性を持たない省エネ技術やリサイクル技術について、例えば炭素トンあたり3万円の炭素税の課税により導入を推進するケース(対策ケース)を考える。ただし、この税率は税収を還元しない場合であり、省エネ機器の導入やリサイクルを促進するために企業や家庭に還元することを想定するときには、炭素トンあたり3千円の税率でよい。これはガソリン1リットル当たりで2円程度の負担を意味する。これにより、多岐にわたる省エネ機器の導入に加速がつく。

 このような対策によって、「知立型生活大国シナリオ」では2010年で1990年レベルの排出量よりも7.6%程度二酸化炭素を低く抑えることが可能となる。「従来型経済大国シナリオ」においても6.1%程度の削減の可能性が示された。生産活動や生活水準を落とさなくても、二酸化炭素の削減は可能なのである。

 しかし、地球温暖化をくいとめるため、さらに大幅な削減を求められれば、わが国の生産活動や生活水準を下げざるを得なくなる。これを回避するには、共同実施の枠組みをとりいれることが必要となる。われわれの研究チームは現在、アジア地域の発展途上国の研究者と共同して、発展途上国の二酸化炭素の削減と国内の大気汚染物質の削減を同時に達成する方策を検討中である。

 

7. 示唆される環境立国へのチャンス

 

 わが国は、生産活動や生活水準を落とさなくても二酸化炭素の削減は可能である。しかし、市場にまかせていくだけではこの削減はできない。炭素税や補助金などの新しい仕組みの導入が不可欠である。このことが、われわれの分析から明らかとなった。

 さらに二酸化炭素を削減しようとすれば、必要なコストは確かに大きくなっていくと予想される。このコストは、二酸化炭素の削減を図る企業や家庭にとっては確かにコストであるが、省エネ機器を生産するメーカーにとっては有効需要の増加である。環境産業の活性化によって国全体の間接コストは非常に小さくなると推定される。さらに、今後、発展途上国と共同して二酸化炭素を減らすプロジェクトが活発化すると、環境産業のビジネスチャンスはますます拡大するだろう。

 来世紀にかけての社会構造の変化は、わが国を従来型経済大国から知立型生活大国へ移行する可能性が高い。これに伴って二酸化炭素の抑制等、地球環境問題への対応が相対的に容易になる。わが国は、環境政策の導入に有利な方向に社会システムが変化しているといってよい。

 このようなチャンスをとらえて日本が世界の環境政策のリーダーシップをとり、合わせてわが国の持続的発展のシナリオを描く。今、まさに求められている思考である。

 

8. モデル分析が役立つ条件

 

 以上のようなモデル分析が政策決定に役に立つには、政策決定が社会的に開かれていることが必要である。モデルは特定の利益団体の代弁者として使用されるものではなく、開かれた議論を支援してこそ有効性を発揮できるからである。即ち、モデルとは、意見が大きく異なった場合に、その意見の違いはどこにあるのか、その違いはどのような前提の違いによるものなのか、この違いは歩み寄れるものなのか、そして意見の違いを乗り越えて地球環境を保全していくためにはどのような道がありうるのか、といった一連の議論を支援していく一つの道具である。従って、特定の政策決定の参加者が開かれた議論をかたくなに拒絶した場合には、モデル分析は役にたたないばかりか、政策決定を誤らせる可能性もある。

 この点、今回の政策決定の過程は大変に失望するものであった。AIMモデルのわれわれの独自推定結果は、研究活動の一環として常に公表されてきたが、通産省の推定の詳細やその根拠は全く目にすることができなかった。これでは、推定結果をオープンにした側が一方的な批判を受け、密室での交渉プロセスになっていくことは自然のなりゆきである。

問題の本質は、日本のエネルギー政策の分野で用いられてきた「わが国固有」の閉ざされた政策決定の手法を、地球温暖化問題というグローバルな問題にそのまま適用したことにある。この手法自体、時代遅れの仕掛けであるが、これが「世界のひとびとの利益を考え、後世の世代に配慮しなければならない」地球温暖化問題に適用されたことは、残念としか言いようがない。日本のエネルギーの政策がこのような決定プロセスを改めない限り、適切な合意形成は不可能であり、その道具としてのモデル分析も無力化されてしまうのである。

               資料編 略

http://www.bnet.ne.jp/casa/reference/aim.htm

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