共生の小路ーこの時代に生きる私たちの社会に、警鐘とひかりを見いだす人々の連帯の輪をここにつくりましょう。

社会福祉の思想は次第に成熟されつつあった。しかし、いつのまにか時は崩壊へと逆行しはじめた。

――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

2012年02月26日 00時21分01秒 | Weblog
日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(1) ――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

1990年代末から低線量被曝安全論の運動が世界的に起こっており、日本の放射線影響学・防護学の多くの専門家はそれに積極的に関わってきた。彼らの考え方は、「低線量被曝は健康に悪影響は少なく、むしろ善い影響が大きい。そしてICRPのLNT仮説は誤っており、低線量被曝にはしきい値がある、つまりある程度以下では健康影響が出ない」とするものだ。

このような安全論の旗振り役の1つが日本の電力中央研究所(電中研)である。電中研では1980年代から低線量の放射線被ばくはリスクがなく、むしろ健康によいということを示すための研究を進めてきた。これは『電中研レビュー』53号(2006年3月)、『電中研ニュース』401号(2004年9月)などに示されているとおりである。その研究動機等については後にふれるが、ここで重要なのは、それが世界的な低線量被ばく安全論運動の先駆けと理解されていたことである。

では、世界的な低線量被ばく安全論運動とはどのようなものか。これについては「放射線と健康を考える会」ホームページを見ることによって明らかになる。そこで、まず、この「放射線と健康を考える会」について見ておこう。そのホームページhttp://www.iips.co.jp/rah/ には次のように述べられている。

「最近の生命科学の急速な進歩により、少しの放射線での危険は心配しなくてもよいことがかなりわかってきています。

平成11年4月21日に、東京の新宿京王プラザホテルで「低線量放射線影響に関する公開シンポジウム―放射線と健康」が開催されました。この公開シンポ ジウムでは、国際放射線防護委員会(ICRP)が採用している、人への放射線防護の観点からどんなに少ない放射線でもリスクがあるとする「しきい値なし直線仮説」には科学的根拠がなく、逆にしきい値があること、また、少しの放射線はホルミシス効果で健康に有益であることなどについて、国内外の著名な科学者 10名による講演がありました。この種のシンポジウムとしては日本では初めてのもので、各方面の方々の関心が非常に高く、一般の方を含めて約900名の 方々が参加されました。

本会は、多くの方々に放射線の影響と安全性について考えていただくために、必要な情報を継続して提供することを主な目的として、放射線生物分野の科学者を中心に構成された会です」。

この動きはアメリカでの動きと密接に関連していた。これについては、「放射線と健康を考える会」HPに掲載さいれている「米国で開催された低線量放射線の健康影響についてのシンポジウム――経緯と概要」を見ることでおおよそがわかる。このシンポジウムは2000年11月に行われた米国放射線・科学・健康協会(Radiation, Science, & Health, Inc.、略称RSH)主催のもので”A Symposium: On the beneficial health effects of low-dose radiation; And on current and potential medical therapy applications”「低線量放射線の健康へのポジティブな影響、及びその現在の、また潜在的な医学的治療応用についてのシンポジウム」と題されている。この紹介記事の「補足」にあるようにRSHは「LNT(直線しきい値なし)仮説を支持しない科学的データの収集を行っており、”Low Level Radiation Health Effects: Compiling the Data” (Revision 3, March 30, 2000)としてまとめている」。

このシンポジウムの紹介のために、電中研低線量放射線研究センター副所長である石田健二氏が経緯を説明している文書を少し長いがそのまま引用する。

「米国の Pete Domenici 上院議員(ニューメキシコ州選出、共和党)は、最近の低線量放射線の有益効果を示すデータに注目し、現在の放射線(放射能)防護の基準には科学的な根拠が なく、いたずらに厳しい安全管理がなされており、無駄に予算が費やされているのではないかとの疑問を持った。

このため、米国エネルギー省(Department of Energy、以下DOE)に、1999年度から10年間にわたり高額の予算をつけて、細胞レベルにおける低線量放射線の生物効果を調べる研究を立ち上げ ると同時に、1999年の夏に、会計検査院(General Accounting Office、以下GAO)に、現在の放射線防護基準が拠り所とする科学的な根拠(データ)についての調査を指示した。

GAOは、2000年6月にDomenici上院議員に報告書を提出し、その中で、放射線はゼロに近いレベルでも有害とする仮説の当否を論ずるに足るデータが未だ十分でないと述べると共に、放射線防護の実務において問題なのは、原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Committee、以下NRC)と環境庁(Environment Protection Agency、以下EPA)が、それぞれ管理基準を異にしていることにあるとした。また、それぞれの基準で将来の高レベル廃棄物処分に係わる費用を算定 し、どの程度、予算に違いが生じるか対比して示した。

このGAOレポートを見て、Domenici上院議員は、低線量放射線の有益な効果(ホルミシス効果)を含め、放射線の生物影響に関わる問題提起がなされておらず、規制に係わる組織のあり方に焦点がすり替えられていると不満を持った。

今回のシンポジウムは、Domenici上院議員の秘書からRSHへの依頼によって開催されたものであり、「行政関連セミナー」との 色彩が強く、DOE、NRC、EPAのスタッフ、医学者、マスコミおよびRSH関係者など約60名の参加を得て、既に報告されている放射線ホルミシス研究 の成果((財)電力中央研究所が進めてきたプロジェクト研究の成果が多く引用されていた)を中心に紹介し、関係者の理解促進をはかる場であった」。

こうしたアメリカの動向もにらみつつ、2002年には電力中央研究所低線量放射線研究センターの主催で、東京・経団連ホールにおいて低線量放射線影響に関する国際シンポジウム「低線量生物影響研究と放射線防護の接点を求めて」が行われている。それに関する情報は、「放射線と健康を考える会」のHPhttp://www.iips.co.jp/rah/n&i/n&i_de31.htm にも、電中研のHP

http://www.denken.or.jp/jp/ldrc/information/event/symposium/symposium2002.html

にも掲載されている。プログラムは以下のとおりである。

プログラム

講演1  Roger Cox(国際放射線防護委員会(ICRP) 第1委員会委員長)「放射線防護における低線量放射線研究の位置付け -現状と将来-」

講演2 松原純子(原子力安全委員会委員長代理)「放射線防護における個体レベルの研究と重要性」

講演3 酒井一夫((財)電力中央研究所低線量放射線研究センター上席研究員)「わが国における低線量研究の最近の成果」

講演4 野村大成(大阪大学大学院医学系研究科・放射線基礎医学講座教授)「放射線発がんにおける線量・線量率効果」

講演5 渡邉正己(長崎大学副学長・薬学部教授)「放射線発がんへの遺伝子の不安定性のかかわり合い」

講演6  Ronald E.J. Mitchel(カナダ原子力公社チョークリバー研究所放射線生物学・保健物理学部門長)「低線量放射線に対するマウスの適応応答:放射線防護の中での位置づけ」

講演7 丹羽大貫(京都大学放射線生物研究センター長・教授)「放射線発がん機構の解明と放射線防護における意義」

総合討論

このシンポジウムの登壇者のうち、酒井一夫氏はその後、2006年に放射線医学総合研究所の放射線防護研究センターのセンター長になり、福島原発事故以後、政府の命によりさまざまな大役を果たしている。同氏は事故発生直後から置かれた首相官邸の原子力災害専門家グループ8名のうちの1人であり,

http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka.html 、2011年8月に置かれた「放射性物質汚染対策顧問会議」http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/osen/komon-youryou.pdf の8名のメンバーの1人であり、この顧問会議の下に2011年11月に置かれた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/twg/111222a.pdf の9人のメンバーの1人である。

また、丹羽太貫氏は「放射性物質汚染対策顧問会議」と「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」のメンバーである。さらに丹羽氏は2012年2月現在、文部科学省の放射線審議会の会長を務めている。なお、酒井一夫氏はこの放射線審議会の委員でもある。この放射線審議会は、2月2日、厚労省の食品安全委員会に対して、放射線量に基づく規制をもっと緩めるように答申を行った。読売新聞は次のように伝えている。

「食品中の放射性物質の新しい規制値案について、文部科学省の放射線審議会は2日、厚生労働省に答申する案を示した。
答申案では、肉や野菜など一般食品で1キロ・グラムあたり100ベクレルなどとする新規制値は、放射線障害防止の観点では「差し支えない」とする一方、実態よりも過大に汚染を想定していると指摘するなど、規制値算出のあり方を疑問視する異例の内容となった。
これまでの審議で委員は、最近の調査では食品のセシウム濃度は十分に低いと指摘。規制値案はそれを踏まえず、食品全体の5割を占める国産品が全て汚染さ れていると仮定。日本人の平均的な食生活で、より多く被曝することになるとして、各食品群に割り振った規制値を厳しくした。この点を審議会は「安全側に立 ち過ぎた条件で規制値が導かれている」とした」。

また、内閣府原子力安全委員会委員長代理だった松原純子氏は「放射線防護の心――低線量放射線影響の実態と放射線管理とのギヤップ 」と題された文章で次のようにのべている。

http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/sub060120hobutsu2001_matsubata.html

「低線量の放射線影響に関する直線(LNT)仮説は国際的にも議論されている が、当面これを否定するべき強力な証拠はないということに繰り返し落ち着く。しかし、問題はそれを公衆や専門家や管理者がどう受け止め、また規制にどう使 われているかである。永年、環境有害因子と生体との相互作用の実態を解明しょうと努力してきた私は、放射線影響イコールICRPの勧告値ではなく、放射線 影響イコール放射線によるDNA傷害でもなく、放射線(ひとつの環境要因)と人間(生き物)とのかかわり(相互作用)の実態を、公衆のみならず関係者にも 知ってほしい、そして実態に基づく判断と実効性を念頭においた規制をと願ってきた。ここ10年来の放射線影響に関する新知見の蓄積を加味すれば、LNT仮 説に関しても専門家として議論すべき具体的課題が明示できるはずである。
一方、一昨年来、ICRPのR.Clarke委員長の提言をきっかけとして、国内でも放射線防護の枠組みにかかわる論議が活発に行われている。 放射線 防護の分野ではいくつかのキーワード(用語)があるが、この際、それらについてより的確な共通理解を進めたい。今こそ、新しい時代の要求に合わせて、放射 線防護の原則に立ち返って、その核心を議論する大変良いチャンスである」。

この記事には公表日時が記されていないが、URLには2001とあるし、世界的な動きにふれて「一昨年来」とあるのを見ても、2001年頃のものと見てよいだろう。

ここに見られるように、酒井一夫氏、丹羽太貫氏、松原純子氏らはICRPが採用してきたLNT仮説を超え、低線量被ばくについてしきい値ありとして安全であるとする方向での研究に積極的に関わってきた放射線影響学・防護学の専門家である。こうした傾向をもった専門家ばかりに福島原発災害の低線量被ばく対策についての審議や助言を求めてよいものだろうか?  2012年2月5日 日曜日 12:42 PM


日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(2) ――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

1999年4月21日に、東京の新宿京王プラザホテルで開催された「低線量放射線影響に関する公開シンポジウム―放射線と健康」は低線量被曝は安全でありむしろ健康に良いことを示そうとする意図のもとに行われ、放射線影響学・防護学をその方向に動かしていこうとする潮流を盛り上げるものだったことを示して来た。この会議の主催者は「低線量放射線影響に関する公開シンポジウム」実行委員会となっている。では、共催・後援・協賛団体はどうか。以下のとおりである。

共催 日本機械学会,米国機械学会、仏国原子力学会
後援 米国放射線・科学・健康協会、日本原子力学会,日本放射線影響学会、日本保健物理学会、原子力発電技術機構、電力中央研究所,日本電機工業会、放射線影響協会、日本原子力産業会議、原子力安全研究協会,日本原子力文化振興財団、体質研究会
協賛 電気事業連合会

この会議は国内の原子力関係の5団体、放射線・健康関係の4団体、電力・電気工業関係の4団体、それにアメリカ・フランスの関連領域の3団体が協力して行われていることが分かる。

低線量被曝では放射線の健康に対する悪影響は少なくむしろプラスの影響があるということを示そうとするシンポジウムに原子力推進の諸団体、電力関係の諸団体が応援し、放射線影響・防護学関係の専門家と彼らが中心メンバーである諸学会が会の企画・運営に関わっている様子がうかがえる。

一方、2002年に経団連ホールで行われた国際シンポジウム「低線量生物影響研究と放射線防護の接点を求めて」の主催者は電力中央研究所低線量放射線研究センターである。その内容要約が同センターのホームページに掲載されている。http://www.denken.or.jp/jp/ldrc/information/event/symposium/symposium2002.html

その末尾には次のように記されている。

「昨年度のシンポジウムは、これからの放射線防護のあり方についての議論でしたが、本年度は放射線生物影響研究の データがICRP勧告に反映されるためにはどのようにすればよいかという昨年度の議論を一歩進め、生物影響研究成果を放射線防護基準に取り込むための溝を埋めるための一助となるようなシンポジウムにしたつもりです。当センターでは、今後もこのような低線量放射線の理解のための様々な活動を展開していきたいと考えています。」

これはこのシンポジウムの背後に、低線量では健康影響が少ないので、ICRPの防護基準を緩和したいという強い意欲があることを示すものである。続いて共催団体の名前があげられているが、それは日本放射線影響学会、日本保健物理学会、日本原子力学会保健物理・環境科学部会である。

では、このシンポジウムの主催者である電力中央研究所(電中研)とはどのような組織か。1都4県に多くの施設をもち、2011年度で322.7億円の予算、840人の人員を擁する大組織である。主要なスポンサーが電力業界であることは言うまでもないだろう。「次世代電力需給基盤の構築」、「設備運用・保全技術の高度化」、「リスクの最適マネッジメントの確立」を「研究の3本柱」とする機関だが、原子力関係は主要部局の1つである原子力技術研究所で多くの研究がなされている。その中で放射線と健康に関わる研究は、長期にわたり低線量被曝の生物影響についての研究にほぼしぼられている。

電中研の低線量被曝の影響研究とはどのようなものか。『電中研ニュース』401号(2004年9月)、『電中研レビュー』53号(2006年3月)、『DEN-CHU-KEN TOPICS』8号(2011年10月)によっておおよそ知ることができる。『DEN-CHU-KEN TOPICS』8号には、「電力中央研究所では、1980年代後半から、低線量放射線の生物影響に関する研究に取り組んできました」とあり、『電中研レビュー』53号には次のように記されている。

「電力中央研究所では、低線量放射線の影響研究に取り組み始めた初期の段階から、外部研究機関との連携体制を取ってきた。1993 年には、本格的なプロジェクト研究を開始し、共同研究のプロモートと研究のコーディネートを進める体制を確立した。」p12

同誌の「電中研「低線量放射線の生物影響研究」のあゆみ」と題された簡易年表P4を見ると、1985年には第1回ホルミシス国際会議がオークランドで、86年には第2回ホルミシス国際会議がフランクフルトで行われており、それに合わせるように研究所内に85年に低線量効果研究会が発足している。

主な研究はマウスに低線量放射線を当ててその影響を調査するもので、その目的について、『電中研ニュース』53号では次のように要約している。

「短時間に多量の放射線を受けた場合に「がん」のリスクが高まることは、広島・長崎に投下された原子爆弾などを含め、過去の事例から、明らかになっています。/一方、放射線は、地球の誕生の時点から自然界に存在しています。その中で人類が生まれたことを考えると、日常受けている放射線の量は、生命の存続に悪い影響をもたらすとは考えられません。/しかしながら、微量放射線の生体への影響は、研究成果が少ないこともあり、放射線防護の立場では、“しきい値なしの直線仮説”(どんなに微量の放射線でも線量に比例してリスクが高まる)の考えが採用されています。

電力中央研究所では、微量の放射線が生体にどのような影響をもたらすかを明らかにするため、マウスを用いたさまざまな研究を行っています。/この研究の中で、受けた放射線の総量が同じでも、短時間で受けた場合と、長時間にわたってわずかずつ受けた場合の影響の違い(線量率効果)など、色々な条件での検討を行っています。/生体の機能と放射線の影響が明らかになれば、放射線被曝に対する不安を払拭でき、さらには放射線防護に対する基準の見直しにもつながるものと考えています。」

つまりは、低線量被曝が健康に害を及ぼすことはなく、むしろプラスの効果を及ぼすことを示し、LNT説を覆して放射線防護の基準をもっと緩やかにするための研究を進めようということだ。

どのような研究成果があげられたのか。『電中研ニュース』401号では、「従来の直線仮説はリスクを過大評価」と題して次のようにまとめられている。

「従来、総線量で評価してきた放射線被曝の考え方、そして、放射線はわずかでも生体に悪影響を及ぼすとの、放射線防護のための直線仮説は、必ずしも正しくないことがこれまでの研究結果から、明らかになりました。」

これはICRPが採用しているLNT説を正面から否定するものだ。続いて「ひとこと」と題して、原子力技術研究所低線量放射線研究センター上席研究員(1999年から2006年まで在籍)の酒井一夫氏が次のように述べている。

「どんなに微量であっても放射線は有害であるという誤解が放射線・放射能に関する恐怖感の原因となっています。/微量の放射線についてこれまで断片的に報告されてきた事例を、統一的に取りまとめることができないかと考える中で、「線量・線量率マップ」に思い至りました。これによって放射線に関する社会の不安を軽減するとともに、低線量・低線量率放射線の有効利用につながる議論ができればと期待しています。」

要するに酒井氏は低線量放射線被曝は危険がなく、むしろ健康にプラスの効果があることを示し、ICRPの基準を緩和することを主目的とする研究を続け、電中研ではその研究の先頭に立ってきた人物なのである。

電中研時代の酒井一夫氏には稲恭宏氏との共著論文が多数ある。その1つ「低線量率放射線による生体防御・免疫機構活性化」と題された論文(『電力中央研究所報告』(研究報告G03003)2003年5月)を見ると、その結論は以下のようなものだ。

「以上より低線量率の放射線は、高線量率の放射線とは異なり、炎症や自己免疫疾患様の症状、変異型細胞の生成等の放射線による傷害を引き起こすことなく、生体の免疫能を活性化し、感染症やがん、自己免疫疾患等に対する防御状態を効率的に誘導し得ることが初めて示された。」

酒井一夫氏は一貫してICRPの防護基準を緩和すべきだという立場を後押しする研究を進めてきた人物である。世界の放射線影響学・防護学の専門家の中でこれは平均的な立場だろうか。後から述べるように、ICRPに科学情報を提示する機関であるUNSCEARの立場から見ると一段と安全論に偏っており、ICRPの中で安全論の極を代表するフランス科学アカデミーの立場に近い。この考えに基づく研究を進めてきた人物が、ICRPの基準をできるだけ楽観的に解釈しようとする立場から防護のあり方について説明しようとしても、市民からいぶかられるのは当然だろう。

なお、この研究はマウスに放射線を当ててその生体機能を分析するものだが、内部被曝についてはまったく考慮されていない。原爆症認定集団訴訟で酒井氏は重松逸造氏らとともに国側(被告)証人として意見書を出している。内部被曝による健康影響を認めないという立場によるものだが、酒井氏が支えようとする国側は敗訴し続けている。裁判所は内部被曝を認めているからである。なお、この研究の謝辞は電中研の名誉研究顧問である田ノ岡宏氏(元国立がんセンター放射線部長)と放射線医学総合研究所の名誉研究員である佐渡敏彦氏に捧げられているが、電中研の研究が放医研等より国に近い機関と連携するものであることを示唆するものだろう。

その後、酒井一夫氏は2006年4月から放射線医学総合研究所の放射線防護研究センターのセンター長に赴任している。2011年3月11日の福島原発事故災害が起こると、酒井氏は政府の、あるいは政府の周辺のきわめて多くの審議会等に名前を連ねるようになった。単に学会の役職というのではなく、政治的な機能が大きいもので、私の目についた範囲のものを以下にあげておく。

文部科学省放射線審議会委員

原子力安全委員会専門委員

国連科学委員会(UNSCEAR)国内対応委員会委員長

日本保健物理学会国際対応委員会 (旧 ICRP等対応委員会)委員長

ICRP 第5専門委員会委員

首相官邸原子力災害専門家グループメンバー内閣官房低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループメンバー

原子力安全委員会放射線防護部会UNSCEAR原子力事故報告書国内対応検討ワーキンググループメンバー

日本学術会議放射線の健康への影響と防護分科会委員

そもそもこれほどたくさんの委員が務まるものかどうか。私ならもちろん音を上げてしまう。「すごい体力・能力ですね、まことにご苦労様」と皮肉を込めて言いたいところだ。だが、国としてこのように1人の人物が大きな力を行使するような事態が妥当であるかどうか。他に人材がいないのだろうか。国民の生活に関わる多くの事柄をこの1個人に委ねるべき、それほどの見識ある科学者として評価されているのか。大いに疑問がわく。2012年2月14日 火曜日 8:30 AM


日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(3) ――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

「低線量被曝は安全でありむしろ健康に良い」ことを示そうとする企てを原子力関係の諸組織や電力会社がバックアップして進めて来たことは、1999年4月21日に、東京の新宿京王プラザホテルで開催された「低線量放射線影響に関する公開シンポジウム―放射線と健康」を見ることでよく分かる。こうした動向の推進組織の1つとして電力中央研究所(電中研)があるが、2000年代に入って、電中研で「低線量被曝は安全でありむしろ健康に良い」ことを示すための研究の中心になって来たのが、1999年に上席研究員となった酒井一夫氏である。彼はその後、2006年に放医研の放射線防護研究センターのセンター長となり、福島原発事故以後は政府周辺のさまざまな委員会で大活躍している(以上、(1)(2)の要約)。

だが、電中研の「低線量被曝は安全でありむしろ健康に良い」ことを示そうとする研究は酒井氏が始めたものではなく、彼以前にそれを推進してきた科学者たちがいた。その一人に石田健二氏がいる。2000年代の電中研はこの分野の研究を石田健二放射線安全研究センター長、酒井 一夫副センター長という体制で進めていこうとしていた。

石田健二氏は名古屋大学原子核工学専攻を1971年に卒業後、電中研に入所。2000年低線量放射線研究センター長、放射線安全研究センター長を経て現在は顧問となっている。石田氏がホルミシス研究に深く関わっていく経緯は、『日経サイエンス』2008年4月号(4月25日発行)の「低線量放射線研究のパイオニアとして科学的知見を蓄積」(夢を技術に――CRIEPI SPIRIT)という記事を見るとおおよそが分かる。その書き出しは以下のようだ。

「「高線量の放射線は生物に害を及ぼすが、ごく微量ならば生命活動を活性化する」――1982年アメリカのラッキー博士は、毒物も少量であれば体に有益とするホルミシス(ギリシア語で「刺激する」)効果が放射線にもあては まることを発表した。/電中研ではこの研究に注目し、1988年わずか3名で低線量放射線の研究を開始、早くも1990年には、動物実験によって、低線量放射線照射が、免疫機能の亢進、老化を促す活性酵素を消去する酵素(Super Oxide Dismutase:SOD)の増加という、2つのホルミシス効果をもたらすことを突き止めた。」(中略)

「電中研では得られた成果の上に、医学研究者などを交えた研究で奥行きを持たせたいと思い、国内の研究機関に“オールジャパ ン”による連携を呼びかけた。1993年には、京都大学、東京大学など14機関の参加を得て、老化抑制効果、がん抑制効果、生体防御機構の活性化、遺伝子 損傷修復機構の活性化、原爆被災地の疫学調査などについて共同研究プロジェクトが開始された。現在は放射線安全研究センター所長である石田健二氏は、「放射線は悪いことばかりで、今さら研究すべきことはないと言われていた時代に、電中研が刺激を与えたことで日本の低線量研究が活性化した」と振り返る。」

なお、放射線影響・防護研究は医学者に人気がある領域ではない。生物学者、化学者、物理学者、工学者らが「保健物理」といった領域を作って結集しているが、医学者はあまり含まれていない。社会的に力をもつには医学者をも巻き込むことが必要なのだ。

実際、電中研はこの分野で全国の大学と共同研究を組織している。『電中研レビュー』第53号には連携パートナーとして以下の諸研究機関のリストが示されている(pp.13-14)。東大、京大、東北大、名大、大阪府立大、長崎大、岡山大、奈良県立医大、大阪市立大、愛媛大、京都教育 大、横浜市立大、東京歯科大、東邦大、産業医大などだが、医学系がおおかたを占めている。

そして目指すのは、ICRPに働きかかけて放射線防護基準を緩めることだ。この記事のリード文は以下のとおりだ。

「電中研は、日本における低線量放射線研究のパイオニアとして、1980年代から、放射線が生体へ与える影響の検証に取り組んでいる。2000年には理事長直轄の組織として狛江に低線量放射線研究センターを立ち上げ、国内の学術機関とも連携しつつ、主に生物影響について科学的根拠を求めるための研究に本格的に着手。2007年には工学系の研究者も加わって、放射線安全研究センターへと発展させ、生物影響についての研究成果を基に、より合理的な放射線防護体系の構築を目出した挑戦が続けられている。」

「より合理的な放射線防護体系」とはより緩やかな防護基準により、原発の安全のためにかける費用が引き下げられるので「合理的」という意味である。2つの研究領域がある。1つはヒト研究で、世界各地の自然放射線が高い地域のデータから悪い影響は出ていないことを示すことだ。

「……自然放射線レベルが世界平均の3倍以上という中国南部の揚江市の住民約9万人の疫学調査から、対照群との間にがん死亡の有意な増加はないこと、被ばく線量に依存して染色体異常の増加は見られたが、増加したのは不安定染色体異常であり、細胞は分裂前に死に至るため悪性疾患の増加には結びつかない、といった結果を得ている」。

もう1つの領域は動物実験だ。

「1999年には日本では初めてという、低線量X線を長期照射する本格的な設備が設置された。発がん物質を投与後、非照射の対照群では200日を過ぎると約90%に発がんが見られたが、連日1.2mGy/hrを照射した群では、発がんは有意に低下していた。また、トータルな線量は同じでも、極低線量を長期に照射した場合には、発がんが抑制されるとのデータも得られ、ヒトでの調査結果を裏付けるものとなった」。

また、糖尿病や重症自己免疫疾患をもつマウスへの照射実験でも寿命の延伸等のポジティブな効果が観察されたという。こうした研究成果は世界の放射線防護基準の再考に役立つものだと石田氏は言う。

「石田氏は、「線量率が低ければ生体に影響がないと解明できれば、より合理的な放射線管理につなげられる」と述べる。電中研の成果は論文としてまとめられ国際放射線防護委 員会(ICRP)や原子放射線に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が防護基準を改定する際の基礎データとして反映することも視野に入れている。「ヨーロッパ主導で過剰な防護基準に改定しようとの動きがあるが、それには科学的な根拠はないことを、将来的にはアジア諸国と連合していきたい」と意欲的だ」。

以上が『日経サイエンス』2008年4月号に掲載された、石田氏へのインタビューに基づく記事の概要だ。石田氏の研究目標を確認する傍証として、同氏の日本技術士会2008年7月例会レジュメhttp://www.engineer.or.jp/dept/nucrad/open/resume/200807kou… も参照しておこう。

「放射線は、微量でも人体に悪いというのが定説だが、生物には放射線の悪い影響を緩和する生体防護機能が備えられている。100~200mSvの低線量放射線においては、 講演者が知る限り、身体的な障害を示す事例の報告は見当たらない。それよりも、逆に、生理的に有益な効果(ホルミシス効果と呼ばれる)を生じる場合がある。本講演では、①発がん抑制、②老化抑制、③生体防御機構活性に注目して、ヒト、動物、および細胞・分子のそれぞれのレベルでこれまでに得られた研究の成果を紹介し、放射線の影響は量によって違うことを主張する」。

以上、主として電力会社が出資する電力中央研究所(電中研)が主軸となり、1980年代末からアメリカの動向などもにらみつつ、低線量放射線の健康への悪影響は少なく、むしろ良い影響が大きいということを示そうとする研究が精力的に行われてきたことを見てきた。この動きを代表する2000年代の研究者は、電中研の石田健二放射線安全研究センター長、酒井 一夫副センター長だった。

では、主に理学部、工学部の出身者が構成する保健物理とよばれる分野の学者たちのこうした努力と、医学者が主体の放射線総合医学研究所(放医研)の研究動向とはどう関わりあうのだろうか。

酒井一夫氏が電中研から放医研に移り、放射線防護研究センター長となったことからも知れるように密接な関係がある。放医研にも「ICRP厳しすぎる」説を積極的に説き、それを裏付けるための研究に力を入れてきた研究者群がいる。その多くは、保健物理の専門家で生物学的な研究を行ってきた人々である。1969年から93年まで放医研に在籍した佐渡敏彦氏や、1989年から放医研に在籍する島田義也氏が、その中でも外部に向けて発言する声の大きな人たちである。この両氏の研究分野や発言内容については次回(「日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯」(4))以降で述べるつもりだ。

では、放医研のその他の専門家、とりわけ医学者はどうか。たとえば、現在の放医研理事長である米倉義晴氏はどうか。福島原発事故以降、低線量被ばく問題で政府周辺で度々発言している米倉氏だが、この分野は同氏の研究領域ではない。同氏は放射線画像診断の専門家で、医療被曝には大いに関心を抱いていたはずだが、原爆や原発に関わる放射線被ばくについては放医研理事長に関わる前後から関心をもたざるをえなくなったと考えられる。そしてそこには、原子力関係者や電力会社の関与があったようだ。

『サンデー毎日』2012年2月26日号によれば、米倉氏は1995年に京都大学から福井医科大(現福井大)に移り、同大高エネルギー医学研究センター長として、放射線画像診断装置PETによる研究に尽力した。そうした経緯から2004年4月には「関西PET研究会」が大阪市で開かれ、医師、技師ら約150人が集まっている。主催は関電病院であり、講演者として阪大教授のほか、関電とその子会社の担当者が登壇した。薬品会社がスポンサーとなっている医学系の研究会と同様にやり方だ。この会は2005年まで5回の会合を開いている。米倉氏が放医研理事長となるのは2006年である。

『サンデー毎日』2012年2月26日号は、福井医大(福井大)在任中に米倉氏は若狭湾エネルギー研究センターとも共同研究を行っていたことを報じている。「米倉氏が指摘するように、同センターの理事15人には、日本原子力発電の関連会社「原電事業」社長、日本原子力研究開発機構理事、元経産相中部経済局部長、北陸電力役員らが名を連ね、事務を取り仕切るのは、原発施策を強力に推し進めた県の」元原子力安全対策課長」だという。

以上のような経緯が放医研理事長就任以後の米倉氏の言動とどう関わっているかはよく分からない。しかし、2011年8月3日第177回国会の文部科学委員会第16号http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/177/0096/1770803009… で米倉氏が参考人として述べた見解は大いに注目すべきものだ。

そこで米倉氏はICRPが是としているLNTモデルにふれている。氏は「一般に、百ミリシーベルト以上の線量では、線量に比例してがんのリスクが増加するというふうに考えられています。ところが、百ミリシーベルト以下の低い線量では、この関係は明らかではありませ ん。そこで、閾値なし直線モデルという考え方が提唱されました」とした上で、次のように述べている。

「現在の放射線影響に関する国民の方々の漠然とした不安は、この直線モデルの立場に立って、どんなに低い放射線の被曝を受けてもがんなどの生物影響のリス クがあるという立場の情報と、低線量領域での一定水準での生体防御機能を認める立場からの情報が入り乱れて社会に発信されていることから来ているというふうに考えております。
それでは、この低い線量領域における生物影響の有無とそのメカニズムをどうすればいいのかということが大事な問題ですが、残念ながら、先ほども言いまし たように、このメカニズムはまだ解明されていないということで、私ども放医研が継続的に取り組むべき難しい課題の一つだと認識しています。
実際に、チェルノブイリ事故の際に、非常に低い線量まで考えて予測された膨大ながん死亡率というのがマスコミ等に出ました。ところが、現実にはこれが観察されていないということは、直線モデルが必ずしも実際の健康影響を反映するものではないということを示す状況証拠の一つでもあるかなとも考えられます。」

要するに、ICRPが掲げているLNTモデル(直線しきい値あり)を否定する方向の安全論を示唆しているのだ。「メカニズム」云々は佐渡俊彦氏や島田義也氏の研究領域に関わる。次回は、まず、これら放医研の発がん研究分野の研究者について述べていきたい。2012年2月22日 水曜日


日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(4) ――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

電力中央研究所(電中研)では1980年代から石田健二氏が中心になってホルミシス効果の研究が行われ、ICRPのLNTモデルに基づく防護基準は厳しすぎるとして、それを緩和するために国際的に働きかけることを目標とする研究が行われてきた。1999年からは酒井一夫氏が中心的な研究スタッフとなり、石田氏をひきついでこの研究を押し進めてきた。同氏が放射線医学総合研究所(放医研)に移るのは2006年だが、では、それ以前、放医研では低線量被ばくの健康影響に関する研究はどのように進められてきたのか。

実は放医研でも、低線量被ばくによる放射線の影響に注目し、LNTモデルを克服することを目指した研究を進めてきた人々がいる。そのあたりの事情は、佐渡敏彦・福島昭治・甲斐倫明編『放射線および環境化学物質による発がん――本当に微量でも危険なのか?』(医療科学社、2005年)を見ることで見えてくるものが多い。

編者3人の筆頭であり、巻末の「執筆者プロフィール」でも最初に名前が出ている佐渡敏彦氏は九州大大学院農学研究科を出て、アメリカのエネルギー省に所属し原子力研究の中心的施設の一つであるオークリッジ国立研究所で学び、放射線医学総合研究所、大分県立看護大学などで研究を進めてきた人物だ。放医研には1969年から93年まで在籍し、後、名誉研究員となっている。プロフィールには「最近は、放射線発がんのリスク評価の基礎となる線量反応の生物学的意味について考え続けている」とある。

このテーマに近い研究をしている研究者で、本書の中でも佐渡氏と共著の章が多いのは島田義也氏と大津山彰氏である。佐渡氏を引き継いで放医研でこの分野の研究を進めてきた島田義也氏については後で述べるとして、ここでは大津山彰氏のプロフィールを紹介する。1983年、酪農学園大学獣医学の大学院を終え、2005年現在、産業医科大学放射線衛生学講座の助教授。「国立がんセンター研究所放射線研究部で、放射線誘発カウス皮膚がんのしきい値線量存在の研究に従事。現在は、p53遺伝子の放射線発がん抑制作用や放射線誘発突然変異の機能細胞における経時的動態について調べている」。発がん、また発がんを抑える機構(メカニズム)の研究を通して低線量の放射線の健康影響にしきい値があるということを示すことをねらった研究だ。

発がん機構の研究を通してLNTモデルを見直すという研究を進めてきた研究者には、上記3者の他に『放射線および環境化学物質による発がん――本当に微量でも危険なのか?』の共著者では渡邉正己氏(京大原子炉実験所教授)、この本に「推薦のことば」を寄せている菅原努氏(京都大学名誉教授、2010年死亡、公益財団法人体質研究会元理事長)、田ノ岡宏氏(元国立がんセンター研究所放射線研究部長)らがいる。これらの研究者は医学畑ではない。放射線生物学の研究者で放射線の健康影響を「恐がりすぎない」ようにするための研究を進め社会的発現を続けてきた人々である。

佐渡敏彦氏について述べる前に、菅原氏、田ノ岡氏、渡邉氏の低線量放射線の生物影響への関与について瞥見しておきたい。まず、菅原努氏が理事長を務めた公益財団法人体質研究会のホームページhttp://www.taishitsu.or.jp/ を見ると、トップに「高自然放射線地域住民の疫学調査研究」が掲げられ、「放射線はどんな微量でも人体に 悪影響を与えるのでしょうか? 放射線の健康への影響については、従来、原爆被曝の例がその基礎にされていましたが、それが一回の急性照射であることから、日常的に放射線被曝を受けている人々に関する疫学調査が重視されるようになってきました。/本財団では、中国、インドなどの自然放射線の高い地域に何世代にもわたって住み続けている人々を対象に疫学調査を行なっています」とあり、これは電中研の放射線分野の2大研究プロジェクトの1つと一致する。続いて「放射線のリスク評価に関する調査」「放射線照射利用の促進」があげられている。

田ノ岡宏氏は「最近の放射線生物影響研究から」(『保健物理』32(1)1997)」という論文の中で、「ラジウム内部被ばくによる骨肉腫の発生率には集積線量10Gy 【注10Gy=約10000mSv!】でシャープなしきい値が存在することは旧知の事実である。要するに、低線量連続被ばくの場合は、人体はこの程度の線量まで耐えることができ」ると述べているという。美浜原発のJCO説明会(2000年4月9日)で、「自分は30mSvこれまで被曝している。あなたたちの中で最高でも21mSvでしょう。大したことはない。あなたたちへの体の影響は絶対ない。以上の説明で納得されない方は、今ここで血液を調べてあげます。それでも納得しないなら、墓石を削って分析してあげます」と伝えられている。http://www.jca.apc.org/mihama/News/news57_bougen.htm

渡邉正己氏は『電中研レビュー』53号(2006年)「低線量放射線生体影響の評価」に「巻頭言」「低線量放射線生体影響研究に懸ける夢」を寄せている権威者で、2011年秋に設けられた原子力安全委員会UNSCEAR原子力事故報告書国内対応検討WGの外部協力者でもある。その渡邉氏は財団法人電子科学研究所から出ている『ESI-NEWS』Vol.25 No.5 2007で次のように述べている。

「高線量放射線を受けバランスが大きく崩れると生命に危険が及ぶようになる。この状態になると救命的な様々な損傷修復機構……が活性化される。放射線ストレ スの場合、数100mSV程度の線量がその境目ではないだろうか?この予想が正しければ、100mSV以下の放射線量で誘導される酸化ラジカルは、内的ストレスによるラジカルと区別されることなく通常の生体生理活動で処理される。これを『生物学的閾値』と捉えることはできないだろうか?少なくとも低線量放射線の発がんのリスクをDNA標的説に基盤を置く『閾値なし直線仮説』で評価することはできないとするのが妥当ではないか?」

さて、では放医研での放射線発がん機構研究を先導してきた佐渡敏彦氏自身は、LNTモデルについて、またLNTモデルと深い関係があるとされる放射線発がん機構の解明についてどのようなことを述べているのだろうか。

『放射線および環境化学物質による発がん――本当に微量でも危険なのか?』の「はじめに」は3人の編者の連名によるものだが、内容的に見てこれは佐渡氏の筆になるものと見てよいと思う(本書で医学畑を代表する福島昭治氏の立場が異なることについてはこのブログの別の記事で述べる予定)。そこでは、LNT仮説と「しきい値」問題について長々と述べられている。

「UNSCEARやICRPは確率論的な影響に関しては、「しきい値」となるような線量は存在しないという立場をとっている。このような立場に立てば、放射線はどんなに微量であっても、集団全体として見れば被ばく線量に比例してがんの発生リスクが増大するということになる。この仮説が正しいかどうかについては、これまで数十年間にわたって専門家の間でさまざまな議論がまされてきたが、いまだに決着をみていない厄介な問題である。」

しかし、原爆被爆者の疫学調査からは「この仮説は排除できない」し、発がんと遺伝子の異常の関係、被ばく線量と遺伝子異常の直線的比例関係も生物実験で「繰り返し立証されている」。そこでLNT仮説が妥当ということになっている。

「そういう意味で、LNT仮説は、放射線の防護基準を決めるための理論的根拠を提供するうえで、最も「実用的な」仮説であるといえる。しかし、それは決してこの仮説が正しいことを意味するものではない。」

これは環境化学物質の発がんリスク評価についても言える。

「このような立場に立つかぎり、それらの作用原の人体への影響に関して、「安全量」は存在しないことになる。そして、そのことが一般の人々に放射線や環境化学物質はどんなに微量であっても危険であるという過剰の不安を抱かせる原因にもなっており、そのような不安が過剰になると、それ自体がストレスになって新たな健康障害をつくり出す原因にもなりかねない。そういう意味で、LNT仮説は単に放射線や環境化学物質に対する安全防護のためのガイドラインである以上のインパクトを社会に与えているゆに思われる。」p.4-5

最後にこの共同研究の経緯について述べられている。

「本書の共同執筆者の多くは……ごく低レベルの放射線被ばくによる人の発がんリスクをどのように考えるのがいいのかを独自の立場から検討するためのグループを、1994年に財団法人原子力安全研究協会の協力を得て発足させた。このグループには、環境化学物質による発がんリスクの専門家にも加わっていただき、年に2回程度の会合を持ちながら「放射線発がんに関するしきい値」問題を検討する作業を続けた。」

同書第10章は「〈総合討論〉発がんリスクをめぐる諸問題」が置かれ、執筆者一同による討議がなされている。そこで、佐渡氏は「現段階では、原爆被爆者の疫学データに基づくLNT仮説を採用する以外に現実的な方法はないだろう」と認めはするが、何とかそれを覆すのだという意欲を強く示して討議をしめくくっている。

「これまでの議論で、LNT仮説はあくまでも放射線あるいは環境化学物質に対する基準の策定に必要な防護の具体的数値を算出するための仮説として提出されたもので、メカニズムの面からは必ずしも支持されるわけではないことについては皆さんの合意が得られたと思います。」

とにかく防護基準を緩めたいという人々から支持されるような方向で研究を進めていこうという意欲がひしひしと感じ取れる。何とか「しきい値あり」説を強化し、原発推進のための「原子力安全研究」に貢献するためのプロジェクトに放医研の放射線発がん研究グループが取り組んできたことが明かだろう。研究内容がそれを達成できているとはとても思えないのだが、たくさんの生物発がん研究の専門家がこれに関わってきたことは確かであり、それは原発推進勢力をバックとしていることも疑えないところである。

佐渡氏の考え方を確認するために、「平成15年度緊急被ばく医療全国拡大フォーラム」(2003年8月23日、仙台市復興記念会館)での佐渡氏の「発がんメカニズム」と題する講演の内容も見ておこう。http://www.remnet.jp/kakudai/07/panel4.html

「突然変異の頻度が線量とともに直線的に増加することは確かで、これはどのような実験系でも確認されています。しかし放射線発がんの場合には突然変異だけでなく、細胞死とそれに続く組織再生の過程が深く関わっていると私は考えております。したがって、この部分の線量反応は決して直線にはならず、多分線形二次曲線、あるいはごく低レベルの線領域にしきい値があるのではないかというのが現在の私の考えであります」。

この佐渡敏彦氏を引き続いて放医研の放射線による生物発がんの研究を行い、同氏との共著論文が多く、しきい値問題に強い関心を示してきたのが低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループの際3回会合(2011年11月18日)で「子どもや妊婦に対しての配慮」に関する報告を行った放射線医学総合研究所発達期被ばく影響研究グループグループリーダー、島田義也氏である。

この投稿は 2012年3月1日 木曜日 11:22 AM


http://shimazono.spinavi.net/?itemid=76
http://shimazono.spinavi.net/


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
宗教学とその周辺 (日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(5) )
2012-03-17 11:17:59
――ICRPの低線量被ばく基準を緩和しようという動きの担い手は誰か?――

島薗進  

1980年代から電中研や放医研の研究者たちは、ICRPの防護基準を緩和するために、放射線低線量被ばくは健康への悪影響は小さく、むしろ良い影響が大きいということを示そうとする研究を重ねてきた。電中研では石田健二氏から酒井一夫氏に引き継がれた研究動向に注目してきたが、放医研では佐渡敏彦氏から島田義也氏に引き継がれている研究動向に注目している。

島田義也氏は1957年生まれ、84年に東大理学部博士課程を修了、88年から放射線医学総合研究所(放医研)の研究員となり、現在は発達期被ばく影響研究グループリーダーである。専門は佐渡敏彦氏や渡辺正己と同様、放射線発がんの研究である。文科省の「平成21年度原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」審査委員会の28人の委員のうち、酒井一夫氏とともに放医研から出ている2人の委員の内の1人であり、放医研の非医学畑の放射線健康影響研究者の中心的存在の1人である。

島田義也氏は佐渡敏彦氏の退任の4年ほど前から放医研に所属。同氏との共著が多い。事故後、「がんの罹患率など、将来的な影響についても、10万μSvの被ばく量では医学的に意味のある違いは見られないと説明」、 「がんの危険性は、10万μSvの被ばくより、たばこの方が高い」と指摘」(『公明新聞』2011年3月19日)などの発言で注目された。
では、島田義也氏は学術的な著述ではどのようなことを述べているか。佐渡氏他編『放射線および環境化学物質 による発がん――本当に微量でも危険なのか?』、第5章「放射線および化学物質の生物作用」では、同氏はW.L.ラッセルらによる動物の生殖細胞の突然変異についての大規模な実験を紹介している。そして、

①「雄マウスの精原細胞の突然変異率は、高線量率(72~90cGy/分)でも低線量率(0.8cGy/分~0.0007cGy/分)でも、線量とともに直線的に増加する」ことを確認しているp141(1cGyは10mGy/分)。また、

②「……この実験で……明らかになった最も重要なことは、低線量率(0.0001cGy/分~0.001cGy/分)の照射では放射線によって誘発される単位線量あたりの突然変異率が、高線量率(80~90cGy/分)の照射の場合の約4分の1に減少するという「線量率効果」の発見であった」と述べている。p141

ラッセルの研究の①の内容はLNTモデルを支持する過去の生物実験研究のもっとも有力なものとされているが、②の内容は、ラッセルらの研究のうち、LNTモデルを批判する立場から何とか拡充していきたい成果として叙述され、その意義が大いに強調されている。

一方、同書第7章「発がんと突然変異」では、論理の飛躍を覚悟の上だろうが、自説の楽観論を大胆に述べている。P185-6

「これ(自然発生[内因性]の DNA損傷の量)は…(自然環境)放射線によって生じるDNA損傷の量と比べて2億倍…も大きい値である。また、DNAの二重鎖切断だけに注目すると、1000倍の違いがあると計算されている」。

「第5章で、生殖細胞における自然発生 突然変異率を2倍にするのに必要な倍加線量は約1Gyであることを述べた。いま仮に、この数値をがんの原因となる体細胞での突然変異に適用すれば、生体内 では自然に1Gy被ばくに相当するほどの突然変異が発生しているということになる。1Gyは自然環境における年間被ばく線量あるいはICRP勧告にある一般公衆の年間被ばく線量の上限値の1000倍であることを考慮すると、自然突然変異の発生における複製エラーや活性酸素など内因性の原因の寄与がいかに大きいかが理解できるであろう」p186

そして、内因性の原因の寄与が多いので、放射線による突然変異は発がんの大きな影響要因ではないということを強調している。

「それらのDNA損傷の約99.9%は DNA修復機構によって修復されると考えられるが、それでもなお1mGy/年の20万倍 のDNA損傷が残るという計算になる。これらの数値を見ると、現在の放射線防護基準は、生物学の視点からはかなり低いレベルに設定されるように思われる」。

これはICRP基準緩和の意図を含んだ主張である。

「したがって、過剰の放射線や化学物質への曝露はできるだけ避けなければならないのは当然であるが、万一の事故により、年間許容量を何倍か凌駕する程度の放射線や化学物質への曝露があった場合でも、そのことによる発がんリスクの増加を過剰に心配する必要はまったくないといってよい」p188

これは、福島原発事故を予感していたかの如くだが、おそらく東海村JCO臨界事故(1999年)の経験を踏まえている。いずれにしろ、福島原発事故後の発言は強い信念に基づいたものである事が分かる。だがその推論は、ICRP基準緩和を志向したもので、自らの研究による根拠としては、DNA修復機構が働くからDNA損傷を恐れる必要はないという大雑把な議論にすぎない。

島田氏はまた、放射線の健康影響を論じる際にも、日常の生活慣習が発がんに及ぼす影響が大きいので、そちらを努力することに注意を向けるべきだと述べることが多い。2003年3月14日に原子力安全委員会の主催で行われた討論会「私たちの健康と放射線被ばく――低線量の放射線影響を考える」(於全国町村会館)の「講演要旨集」では次のように述べている。島田氏の研究関心や安全論発言の背景がうかがわれるので、少し長くなるが引用する。

「以上のように、ヒトの生活環境には、放射線以外のたくさんの発がん要因が存在して、それぞれがお互いに作用し合って、がんの発生を促進したり、抑制したりしています。ですから、低線量になればなるほど放射線の影響が隠れてしまい、放射線によってがんがどれくらい発生するかそのリスクを推定するのはむずかしくなります。そのため、母集団の大きなコホート調査(例えば、原爆被爆者:約8万人)や大規模な動物実験が必要になるわけですが、それでも、100mSv以下(日本人は通常の生活で自然界から年間1.5mSvの被ばく)の影響ははっきりしません。現在、がんの原因をがんの遺伝子の傷(爪痕)から推定できないかという研究が進んでいます。最も研究されているのは、ヒトのがんの半数に突然変異が見られるp53という癌抑制遺伝子です。」(中略)

「私たちの周りには、たばこ、食事、飲酒などの生活慣習が発がんと大きくかかわっています。放射線も発がん因子であるますが、その他の発がん要因やそれぞれの要因の相互作用にも目を向けて、広い視点から発がんリスクを考えていくことが大切です。生活慣習を個人的にそして社会的に改善していくことが放射線の発がんリスクを低減化する近道だと思います」。

この議論の分かりにくい点は、放射線の発がん作用がありうるのにそれをどう減らすかということには触れずに、ひたすら生活慣習を改善するよう促すことである。これが放射線防護を軽減したい電力会社や原子力関係者のような原発推進側に都合がよい議論であることは言うまでもない。

以上、酒井一夫、佐渡敏彦、島田義也の3人の放医研の放射線生物影響研究者(医学者)について述べてきたが、彼らが放射線の健康影響はさほど心配しなくてよい、またICRPのLNTモデルは厳しすぎるので緩和すべきではないかとの方向で、研究を進めようとしてきたのはいったいなぜだろうか。この問いに答えるための参考になる資料として、2004年7月付けの原子力安全委員会 「原子力の重点安全研究計画」という文書を見てみよう。東海村JCO臨界事故後、省庁再編後の新体制での「安全研究」に向けてまとめられた文書だ。「はじめに」に、

「近年、原子力安全の確保や安全規制に係る状況が変化し、また、平成13年度の放射線医学総合研究所の独立行政法人化、平成15年度の原子力安全基盤機構の設立、さらには、平成17年度の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の廃止・統合による日本原子力開発機構の設立等、安全研究の実施を担う期間の体制も変化している。このため、原子力安全委員会原子力安全研究専門部会は、原子力安全に関し解決すべき課題により確実に取り組めるよう、今後、重点的に実施すべき安全研究の内容や実施体制について明確な基本方針を打ち出すことを目的として……」

とあるとおりである。ここでは放医研の放射線影響研究に高い地位が与えられている。もちろん事故が起こらないようにするための研究が重要だ。だが、「さらに、原子力利用活動に伴う安全確保は、「人の安全」が基本であることから、科学的な根拠に裏付けられた放射線の生体影響・環境影響等の放射線影響分野の安全研究の充実を図る必要がある」p4。そしてその(「放射線影響に関する安全研究の推進」の) 第1目標は放射線の健康影響は小さいことを示すという。

「放射線影響に関する安全研究については、「人の安全」を守るという国の責任を果たす面でも非常に重要な分野であり、研究の着実な進展が求められている。

具体的には、国民の関心の高い、放射線の人体への健康影響に関するしきい値問題を含めた低線量 (率)放射線の生体影響に関する研究、放射性核種の体内取 込みによる内部被ばくに関する研究、被ばく線量の測定・評価に関する研究等、放射線の健康影響をより詳細に評価するための取組みや高線量被ばくを伴う事故等の際の緊急時被ばく医療への対応が求められる」p6。

4つの課題があげられているが、そのトップに位置づけられているのが低線量放射線の生体影響研究で、とくに「しきい値問題」が焦点として取りあげられている。また4つの課題のうち3つは放射線の被ばく影響の評価に関わるものである。なかに内部被ばくが取りあげられているが、その内容がどのようなものであるかについては、別に取りあげたい。

別添資料2は「主要な研究機関に期待する重点安全研究の内容」だが、そこの「放射線医学総合研究所」の記述は「放射線影響分野」と「原子力防災分野」に分かれている。そして前者については、今後拡充される可能性がある領域についても述べられているが、まず最初に現在、重点的に取り組まれている研究があげられている。

「低線量(率)放射線の生体影響に関する研究を実施し、これらのデータを解析評価すること、さらに、その成果に基づき、より合理的な防護基準の設定や被ばく者の健康リスクの実態的な評価を可能とするとともに、国民の信頼の醸成に寄与することを期待する。

具体的には、以下のような研究の実施を期待する。

・各種の放射線(中性子線を含む)及び生物指標を用いての線量・線量率・反応関係の解析と生体防御因子との解明

・放射線障害と修復・防御に関わる分子・細胞・個体レベルの研究 等」

これらは、酒井一夫氏、荻生俊昭氏、島田義也氏らの研究分野を示唆するものだ。ここで「合理的な防護基準の設定」というのは、ICRPのLNTモデルに基づく防護基準を緩和するような方向性を示唆するものとも読める。

傍証として、『LRI Annual Report 2006』(日本化学工業協会研究支援自主活動 Annual Report 2006 Long-range Research Initiative長期自主研究)(社団法人日本化学工業協会、2007年3月)を見ておこう。そこでは、「放射線医学総合研究所低線量プロジェクト・島田義也研究グループ」の「研究概要と成果」次のように記されている。

返信する
宗教学とその周辺 ( 日本の放射線影響・防護専門家がICRP以上の安全論に傾いてきた経緯(5)ー2)
2012-03-17 11:21:59
続き

「体内に入った化学物質はその量に応じて何らかの生体反応を引き起こします。これを用量相関性といいます。また、ある量以下では全く反応を示さなくなった場合、その量を「しきい値」と呼びます。動物実験では、発がん物質の量が多くなるに従って発がん率が上昇するので、用量相関性があることが分かっています。しかし、しきい値があるかどうかについては議論が分かれています。このテーマでは「発がん物質にしきい値が存在するか否か」を研究します。第6期はこれまでに続き、極低線量の放射線と極微量の発がん物質を複合的に動物に投与して、しきい値が観察されるか、またどのような発がんのメカニズムがしきい値に影響するかという研究を行いました」p11。

このような研究によって「国民の信頼の醸成に寄与する」とは何を意味するのか。事故が起こった場合にも、放射線の影響は小さいのでそれほど不安にならなくてもよいことを示すことなのだろうか。

他方、これはできるだけ原発のコストを下げたい電力会社や原子炉製造関連企業にとっては、大いに歓迎すべき研究プロジェクトだろう。

いずれにしろ、この「原子力の重点安全研究計画」という文書は、放医研が放射線健康影響に関する国の主要な研究機関として捉えられ、〈ICRP防護基準の緩和を陰に陽に目指しつつ原発推進のための「安全研究」を担う〉という位置付けを与えられていたことを明らかに示している。

この投稿は 2012年3月7日 水曜日 11:22 AM
返信する
Levitra Bei Erkaltung MatDrUsty (DenFlose)
2020-02-10 16:28:45
Elocon Elocom http://buyciallisonline.com/# - Cialis Macrobid 100mg Tablets Mastercard Alaska cialis without prescription Cialis Et Ordonnance
返信する

コメントを投稿