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【権力の内幕 検証・加計疑惑】第2部

2018年09月25日 14時18分55秒 | Weblog

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第2部(1)内閣改造機に官邸攻勢 強まる「早くしろ」

2016年5月、国家戦略特区の諮問会議であいさつする安倍首相(左)。内閣改造で石破地方創生相(右)が閣外へ出たのを機に、半世紀ぶりの獣医学部新設が加速した=東京・首相官邸で

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 二〇一六年八月三日、首相官邸。赤いじゅうたんが敷かれた階段に勢ぞろいした新閣僚の中に、特区制度を所管する地方創生担当相だった石破茂(61)の姿はなかった。首相安倍晋三(63)の内閣改造に文部科学省の担当者は身構えた。「いよいよ獣医学部開設の動きが本格化するかもしれない」

 学校法人「加計(かけ)学園」の計画に基づき、愛媛県と今治市が国家戦略特区で獣医学部を開設しようと国に申請してから一年余り。文科省は学部開設に慎重な姿勢を崩していなかった。

 「残念だが仕方ない」。日本獣医師会顧問の北村直人(71)は、石破が閣外に出たことに複雑な思いを抱いていた。「獣医師は足りている」と学部新設に否定的だった獣医師会にとって、石破はよき理解者だった。県と市が一五年六月に特区を申請した直後、獣医学部新設に必要な四つの条件を設けたのが石破だった。

 いわゆる「石破四条件」は、学部新設の際、既存の獣医学部では対応が困難なことや獣医師の新たな需要があることなど、その必要性の証明を求めるものだった。獣医師会の理事会では、北村が「石破大臣と折衝をし、一つの大きな壁を作っていただいている」と発言している。

 安倍はライバルの石破を別の閣僚ポストで引き留めようとしたが、石破はポスト安倍をにらんで閣外を選んだ。後任には安倍に近い衆院議員の山本幸三(69)が就いた。北村は「四条件がある限り、大臣が代わったぐらいで簡単に学部新設が認められるわけがないと思っていた」と振り返る。

 内閣改造から一週間後、山梨県内の別荘に滞在していた安倍は、加計学園理事長の加計孝太郎(67)らと夕食を共にし、翌朝はゴルフに興じた。加計はその後、大臣就任祝いとして山本と文科相の松野博一氏(55)、農林水産相の山本有二氏(66)を相次ぎ訪問する。三人とも学部開設に関係する所管庁のトップだった。

 時を同じくして官邸サイドは規制突破へ向け、文科省への圧力を強めていく。

昨年7月の国会で顔を合わせた和泉首相補佐官(左)と前川前文科次官(右)。「背後に官邸の圧力があった」と証言した前川氏に、和泉氏は真っ向から反論した

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◆迫る期限…首相側近 文科省に圧力

 首相安倍晋三(63)のブレーンの一人、内閣官房参与の木曽功(66)が、文部科学省事務次官室に、同省事務方トップの前川喜平(63)を訪ねてきた。二〇一六年八月下旬のことだった。

 木曽は同省で局長級の国際統括官を務めたOBで、前川の先輩に当たる。この年の四月、加計(かけ)学園傘下の千葉科学大の学長に就任、学園理事にもなっていた。

 たわいない話の後、木曽が最後に切り出した。「獣医学部新設の手続きを早く進めてもらいたい」。さらに「国家戦略特区の諮問会議で決定したことに、文科省は従えばいい」と畳み掛けた。

 木曽は働き掛けを否定するが、前川は学園からの要請と受け止めた。獣医師会が後ろ盾としていた地方創生担当相の石破茂(61)が閣外に去った内閣改造から三週間。木曽の来訪は、始まりにすぎなかった。

 その翌月九日、安倍が議長を務める特区諮問会議が官邸で開かれた。同会議は特区選定の最高機関。民間委員の八田達夫(75)は「獣医学部の新設は極めて重要だが、岩盤が立ちはだかっている。強力に解決を推進したい」と意気込んだ。

 その二時間前、前川は首相補佐官和泉洋人(ひろと)(65)から官邸に呼び出された。和泉は国土交通省の元技官。地方創生や国土強靱(きょうじん)化を担当する首相の側近だ。官邸で重要政策を企画立案する首相補佐官は、首相の威光を背景に各省の事務次官をしのぐ力を持つようになっていた。

 前川が四階の補佐官の執務室に入るなり、和泉は前置きもなく早口でまくしたてた。「総理は自分の口から言えないから私が代わって言う。獣医学部新設について文科省の対応を早く進めろ」。時間にして五分足らず。「総理は言えない」という和泉の言葉に、前川は圧力とともに政権の後ろめたさをかぎ取った。

 問題発覚後、和泉は国会で「次官として、しっかりフォローしてほしいと申し上げた」と述べたが、「総理は言えないから」というくだりは否定した。本紙は改めて和泉に質問状を送ったが、回答はない。

 和泉は民主党政権時から官邸に入り、三年余り構造改革特区に携わった。前川は和泉を「特区制度のエキスパート」と評し、「国家戦略特区で獣医学部を開設しようという知恵を付けられる人は彼しかいない。学部開設のキーパーソンだ」と指摘する。

 前川は一カ月後、再び和泉に呼び出され、進捗(しんちょく)状況の説明を求められた。「とにかく早く開学したいという焦りを感じた」

 学園を誘致する愛媛県今治市はこのとき、獣医学部の開学時期を一八年四月と見据えていた。開学の準備期間を逆算すれば、年度内の一七年三月末までに文科省に設置認可を申請しなければ間に合わない。

 タイムリミットが半年後に迫っていた。北里大以来、半世紀ぶりの獣医学部開学に向け、文科省にさらなる圧力がのしかかった。(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当します)

(2018年8月14日)

 

第2部(2)首相の威借る内閣府 真相… 官僚ら口閉ざす

獣医学部の早期開学を迫る内閣府とのやりとりを記録した文科省の内部文書。「官邸の最高レベルが言っている」と、官邸の関与をうかがわせる文言が記されていた

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 「平成30年4月開学を大前提に逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい。これは官邸の最高レベルが言っている」

 加計(かけ)学園の獣医学部開設を巡り、昨年五月に明るみに出た文部科学省の文書。日付は二〇一六年九月で、表題は「藤原内閣府審議官との打合せ概要」とある。

 発言の主とみられるのは内閣府で特区事業を取り仕切っていた審議官の藤原豊(55)。藤原は一五年四月、学園や愛媛県の幹部らに「国家戦略特区で突破口を開きたい」と開学に向けた支援を約束した人物だ。

 文書からは、獣医学部を今年四月に開学させる前提で、最短のスケジュールを作成するように文科省に迫ったことがうかがえる。その上で「これは官邸の最高レベルが言っている」と虎の威を借りて強く迫った様子が浮かび上がる。

 この文書は省内の関係部署で共有されており、ある職員は「官邸の最高レベルは総理のことかと当時、話題になった」と振り返る。

 大学や学部を新設する場合、国家戦略特区で規制を突破しても、開学には文科省の認可が必要となる。内閣府職員の一人は「藤原さんは省庁を押し切って規制緩和をしたという実績作りに躍起だった」と語る。

 問題発覚後、文書を作成した文科省の担当者は「こうした趣旨の発言があったのだと思う」と省内のヒアリングに答えた。だが、内閣府は発言を否定。藤原も国会で「獣医学部の新設で総理から指示を受けたことは一切ない」と答弁した。

 内閣府は記録も残していないというが、ある職員は「藤原さんは『省庁とのやり取りは必ず記録に残せ』と口うるさく言っていた。記録がないなんてありえない」と証言する。

 官邸の関与をうかがわせる記録は一六年十月、官房副長官の萩生田光一(54)が文科省の局長に伝えた内容を記したとみられる「萩生田副長官ご発言概要」にも残っていた。「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成三十年四月開学』とおしりを切っていた」

 安倍晋三(63)の側近で文教族の萩生田は加計学園の名誉客員教授も務める。萩生田は今月、取材に局長との面会は認めたが首相や官邸に関連した発言は否定した。「文科省が自分たちの都合で作ったメモ。局長からは『問題解決のために副長官の名前が省内で使われる傾向があり、私もその一員で申し訳なかった』とおわびがあった」と説明した。

 取材班は改めて関係者に接触したが、文科省との協議に同席した内閣府幹部は記者と顔を合わすなり、逃げ出した。萩生田と面会した文科省局長は「話すことはない」と口をつぐんだ。

 ある文科省職員は申し訳なさそうに、こう答えた。「すみません。誰が漏らしたか、すぐ分かるので」(敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 
 

第2部(3)ライバル出現に焦り 「加計ありき」に誤算

鳥インフルエンザが発生した鶏舎を消毒する自衛隊員。京都産業大はこのころから獣医学部新設の検討を始めていた=2004年3月、京都府内で(陸上自衛隊第3師団提供)

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 首相官邸サイドが文部科学省への圧力を強めていた二〇一六年秋。国家戦略特区で獣医学部の新設を目指していたもう一校、京都産業大は着々と準備を進めていた。「提案内容には自信があった。加計(かけ)学園は最初からライバルとは見ていなかった」。中心になって計画を進めた元教授の大槻公一(76)が振り返る。

 京産大は一九八九年に生物工学科を新設、獣医学部につながるライフサイエンス(生命科学)研究に早くから取り組んできた。加計学園の加計孝太郎(67)が理事長になる十年以上前で、はるかに先行していた。

 獣医学部の検討を始めたのは〇四年。国内で七十九年ぶりに発生した鳥インフルエンザの猛威が京都にも及んでいた。

 感染症リスクの研究を本格化させようと、〇六年には鳥インフルエンザ研究センターを開設。センター長に鳥インフルの研究で世界的権威の大槻を招いた。大槻は「大学幹部から『獣医学部をつくる作業も任せたい』と特命を受けた」と明かした。

 府は一五年、周辺四県と連名で、京産大の獣医学部設置を文科省や農林水産省に要請。綾部市に用地を確保し、一六年三月、京産大と共同で特区を申請した。加計学園が特区申請の際、愛媛県と今治市の陰に隠れたのとは対照的だ。

「獣医学部新設を巡る国の対応は不公平だ」と話す京都産業大の大槻公一元教授=鳥取市で

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 申請では加計学園に九カ月の後れを取ったものの、京産大は十月に開かれた特区ワーキンググループで、各委員に二十一枚の詳細な資料を提示。いかにライフサイエンス分野の獣医師が求められているか、創薬研究で京都にどれほど強みがあるかを熱心に説明した。府の担当者は「委員に評価してもらえた」と手応えを感じた。

 大槻は申請前に内閣府地方創生推進室次長の藤原豊(55)を訪ねたときのことを鮮明に覚えている。「今治はずっと前から努力している。今ごろ持ってくるなんて遅いんじゃないか」。京産大には批判的な藤原だったが、最後に「また説明してほしい。宿題です」と言ってつぶやいた。「(今治側にも)同じように宿題を出しているんだが」

 今になってみると、大槻は「藤原さんは焦っていたんじゃないか。今治の計画は十分でなかったのかもしれない」と思う。実際、今治市が準備した資料は京都の七分の一の三枚だった。

 大槻たちは特区認定に手応えを感じていたが、首相の安倍晋三(63)が議長を務める特区諮問会議は一六年十一月、獣医学部開設に新たな要件を追加した。それにより京産大は計画断念に追い込まれることになる。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第2部(4)ルール変更「友達」有利 「京産大外しの筋書き」

2016年11月1日、内閣府から文科省に送信されたメールの添付文書。特区認定の条件の原案に「広域的に」などと手書きで加筆していた。メールには、萩生田官房副長官(当時)から指示があったと記されていた

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 二〇一六年十一月九日、首相官邸。首相の安倍晋三(63)が議長を務める国家戦略特区諮問会議は、半世紀ぶりに獣医学部を新設する方針を決定した。焦点はどの地域を特区に認定するかだった。諮問会議は新たな条件として「広域的に獣医学部のない地域に限り認める」とつけ加えた。

 突然のルール変更に動揺したのが京都産業大だった。関西圏には大阪府立大の獣医系学部が既にあり、空白地帯の四国に開設しようとするライバルの加計(かけ)学園に有利な条件だったからだ。このとき学園は、まるで開学が決まっているかのように、建設予定地でボーリング調査を始めていた。

 水面下で行われたルール変更に官邸の関与をうかがわせるメールがある。

 メールは諮問会議の八日前に内閣府から文部科学省に送られたもので、学部開設の条件を記した文書が添付されていた。「獣医学部のない地域」としか書かれていなかった文科省作成の素案に、手書きで「広域的に」と加えてあった。

 この修正で、学部を新設できる地域は一気に狭められた。メールには「直すように指示がありました。指示は藤原審議官いわく、官邸の萩生田副長官からあったようです」とあった。「藤原」とは内閣府審議官藤原豊(55)、「萩生田」は安倍側近の官房副長官萩生田光一(54)のことだ。

 昨年六月に文科省でメールが見つかると、萩生田は指示を否定した。特区を所管する地方創生担当相山本幸三(69)は会見で「修正は自分が指示した」と説明。文科省にメールを送った内閣府職員を「文科省からの出向者で、陰に隠れて本省にご注進した」と非難した。

 だが、この職員がこぼすのを周囲は耳にしている。

 「萩生田副長官の指示は文科省の担当者も聞いていた話。自分はスケープゴートにされた」。萩生田は取材に「藤原から報告を受けたが、修正の指示はしていない」と改めて否定した。

 その後も「一八年度に開学」「一校に限る」という条件が追加され、京産大は断念に追い込まれた。

 文科省関係者は「京産大外しとしか考えられない。京産大は一九年度なら開学できると言っていましたから」と証言する。元京産大教授の大槻公一(76)は取材に「首相のお友達にしかやらせない。筋書き通りなんだと思った」と憤った。

 安倍はよく「規制の岩盤に穴を開けた」と自慢するが、その穴に加計学園だけを通すようなルール変更だった。内閣府は一七年一月、獣医学部を開設したい事業者を公募した。手を挙げたのは当然、加計学園だけ。まるで出来レースだった。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(5)新設4条件 置き去り 「議論せぬまま特区認定」

2017年1月20日、加計学園を獣医学部開設の事業者に選んだ国家戦略特区の諮問会議であいさつする安倍首相(中)。首相はこの日まで学園が学部開設を目指していたことを知らなかったと答弁している

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 二〇一七年一月二十日、首相官邸で開かれた国家戦略特区の諮問会議は、愛媛県今治市で獣医学部を開設する事業者に加計(かけ)学園を選んだ。後に首相の安倍晋三(63)が国会答弁で「学園の学部開設計画を初めて知った」としたのがこの日だ。

 「国家戦略特区に指定した今治市で、画期的な事業が実現します」。諮問会議の席上、議長の安倍は学園の構想を持ち上げた。

 そのころ、文部科学省関係者は顔をしかめていた。「中身はスカスカ。どこが特殊な獣医学部なんだ」

 愛媛県と今治市が一五年六月に特区を申請した後、内閣府は「既存の大学では対応できない」「新しい分野のニーズがある」など、学部の新設に必要な四つの条件を設けた。

 ところが、特区ワーキンググループで審議が始まっても、どこからも具体的な獣医師需要は示されぬままだった。

 それにもかかわらず、民間委員たちは規制緩和に前のめりだった。「四条件を満たすかどうかの立証責任は文科省にある」と主張する委員も。獣医学部の必要性がない根拠を示さなければ、新設を認めると言い出した。

 実は学部開設が現実味を帯びてきた一六年十月、文科省は市の担当者を内々に呼び出していた。「最悪の場合を想定し、四条件に見合う構想かどうかを確認するためだった」という。

 説明したのは同行した学園の担当者。文科省関係者は「内容は抽象的で、これでは四条件をクリアできないと思った」と証言する。省内では「開学を一年延期したほうがいい」との意見まで出たが、一八年四月の早期開学を実現したい内閣府に押し切られた。「四条件を満たしているのか、誰も議論しないまま特区に認定された」。関係者は今も釈然としない思いでいる。

 学園の構想が特区に認められると、後は文科省の審査を残すだけとなった。大学や学部を新設する場合、審査を申請する約一年前から文科省に相談するのが一般的だが、申請までに学園に残された時間は二カ月余りしかなかった。

 「あまりに出来が悪く、事前相談は通常の倍近い週二回ペース。一回の相談も四、五時間かかっていた」と文科省関係者は突貫工事ぶりを打ち明けた。「それでも他の大学並みのレベルにも届いていなかった」

 学園は一七年三月、文科省に獣医学部の設置を申請した。「審査で相当厳しいことを言われる可能性がありますよ」。担当者の指摘はその後、現実となる。(敬称略)

(2018年8月14日)

 

第2部(6)設置審も認可ありき 文科省「4条件議論しないで」

2017年11月、加計学園の獣医学部新設を「可」とした設置審専門委の最後の会合が開かれたビル。専門委の会合は非公開で、マスコミを避けるため都内の会場を転々とした=東京都千代田区で

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 安倍政権が創設した国家戦略特区で、獣医学部開学という長年の夢を実現しようとしていた加計(かけ)学園理事長の加計孝太郎(67)。開学へ最後のハードルとなったのが文部科学省の「大学設置・学校法人審議会(設置審)」の審査だった。

 設置審は大学新設にあたり、大学教授らが教育内容や設備・経営を審査する。獣医学部を審査する専門委員会の委員の一人は、二〇一七年四月に文科省内で開かれた最初の会議のことが今でも記憶に残っている。

 世界に冠たる獣医学部とうたいながら、学園が出してきた計画は「既存の大学にすら及ばない未成熟な内容だった」。公務員獣医師の確保が目的なのに公衆衛生の教授がいない。日帰りで実習するのに片道四時間かかる。委員は「不備が多すぎて細かい点は目をつぶるしかなかった」と話す。

 五月に入り「加計疑惑」が表面化すると、設置審も「いいかげんなことはできない」と慎重姿勢に。直後の一次意見では、計画を抜本的に改善しなければ新設は認めないとする「警告」を出した。学園は一学年の定員を百四十人に減らすなどしたが、八月に再び注文が付き、最終判断は十一月にずれ込んだ。

 その間、首相の安倍晋三(63)は、野党が真相解明のために開会を求めた臨時国会の冒頭、衆院を解散。選挙は自公が圧勝し、疑惑追及の機運はしぼんだ。

 十一月二日、都心のビルの一室。「学園の改善は付け焼き刃だ」「もう仕方ない」。七回目を数えた専門委の会議でも意見は割れていた。特区による獣医学部の開設は一八年四月と期限が切られており、もう結論を先に延ばせない。議論は三時間に及んだ。座長から「意見がまとまらないなら、委員会を解散して新メンバーで審査し直しますか」と投げかけられると、委員は皆、押し黙った。

 結局、忸怩(じくじ)たる思いを抱えながら「開設は可」という結論を出した。ある委員は「与党が選挙で圧勝しなければ結論は違ったかもしれない」と振り返る。

 半月後、設置審の答申を受け、文科相の林芳正(57)は学部新設を認可した。委員の一人は「認可ありき。文科省から『(学部新設に必要な)四条件を満たしているかは議論しないで』と何度もくぎを刺された。初めから仕組まれた審査だと思った」と明かした。

 なんとか今年四月の開学にこぎ着けた加計学園。獣医学部長の吉川泰弘(71)は学園幹部にこう愚痴をこぼしたという。「さんざん設置審でいじめられたよ」

 ただ、これで疑惑の幕引きとはならなかった。(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(7)「いいね」文書で窮地 政権に「不都合な真実」次々

愛媛県作成の「首相案件」文書について、4月11日の衆院予算委で「コメントする立場にない」と7回繰り返した安倍首相。直後の共同通信の世論調査で、首相の説明に「納得できない」との回答が79.4%に上った

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 吐く息が白い二月の早朝。東京都内の閑静な住宅街から、経済産業省ナンバー2の経産審議官の柳瀬唯夫(57)が姿を現した。

 首相秘書官当時の二〇一五年四月、加計(かけ)学園や愛媛県の幹部らと首相官邸で面会した人物。取材班は「本件は首相案件」という柳瀬の発言を記した県作成の文書を入手し、話を聞こうと外で待っていた。

 柳瀬は突然の来訪に驚くそぶりも見せず、「そんなこと言うとは思えないけど。会ったという記憶がないんだよ」と繰り返した。

 文書には首相の安倍晋三(63)と学園理事長の加計孝太郎(67)が会食し、獣医学部の話題が出たという記述もあった。事実なら「学園の学部開設計画を知ったのは一七年一月二十日」とする安倍の国会答弁がうそだったことになる。

 その確認を求めると、平静を保って歩いていた柳瀬が突然、声を上ずらせた。「本当、それ? 全くない、全くない」

 三月に入ると、安倍政権にとって「不都合な真実」が次々と明るみに出た。

 森友学園をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題や防衛省が「存在しない」としてきた陸上自衛隊のイラク派遣時の日報問題。さらに追い打ちを掛けたのが「首相案件」文書だった。

 四月初めに本紙などが文書の存在を報道すると、政権批判がさらに強まった。

 「うそをついているのは県の担当者か柳瀬さんか」。そう野党が攻め立てると、安倍は「県の文書に国はコメントする立場にない」と言い逃れた。そこへ新たな「加計ありき」を示す文書が突きつけられる。

 五月下旬、国会の要請で県が提出した二十七枚の新文書。学園側から受けた報告を記録した文書には、一五年二月二十五日に安倍と加計が面会し、安倍が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とコメントしたとあった。安倍の国会答弁と矛盾するだけでなく、直接関与をうかがわせる物証に国会に衝撃が走った。

 安倍と学園側は面会を否定したが、県知事の中村時広(58)は提出した文書を「何も改ざんする必要がない。ありのままの報告書類」と信ぴょう性を強調した。

 窮地に立つ安倍。与党内からも説明責任を問う声が上がり、今秋の自民党総裁選に暗雲が立ち込めようとしていた。そんなとき、県の関係者はあるうわさを耳にした。「首相と加計理事長の面会を『事務局長のうそだった』ことにし、幕引きさせようとたくらんでいる」

 そんな話をいまさら誰が信じるのか-関係者は、このときはうわさを歯牙にもかけなかった。(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(8)「面会はウソ」と助け舟 官邸の圧力 疑念晴れぬまま

疑惑発覚後、初めて記者会見する加計学園の加計孝太郎理事長(右)。参加は地元記者クラブ限定で、30分足らずで切り上げた。首相答弁と食い違う説明に、取材班は再取材を申し込んだが、断られた=6月19日、岡山市で

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 五月下旬の土曜の昼下がり。普段より人がまばらな本紙編集局に、何の前触れもなく一枚のファクスが流れてきた。

 送り主は加計(かけ)学園。二〇一五年二月、首相の安倍晋三(63)が学園理事長の加計孝太郎(67)と面会し、「新しい獣医学部の考え方はいいね」とコメントしたという愛媛県文書について、次のように釈明していた。

 「当時の担当者が、実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、愛媛県と今治市に誤った情報を与えた」。二人の面会は学園側がでっち上げたものだと、報道各社に一斉に通告してきたのだった。

 二日後には国会で安倍出席のもと、加計・森友学園問題の集中審議が控えていただけに、関与が疑われた安倍に助け舟を出した格好となった。野党は「ウソの上塗り」と批判。与党のある副大臣も「何かを隠すためにウソを重ね、新しいウソをつかないといけなくなった。そう見られても致し方ない」と突き放した。

 学園の説明通りなら、安倍の名前を使って県や市をだまし、獣医学部をつくったことになる。それでも安倍は平静を保った。「なぜ怒らないのか」と追及されても「私は常に平然としている」とはぐらかした。

 学園に計九十三億円を補助する県と市に、学園事務局長の渡辺良人が謝罪に訪れたのは、ファクスから五日も後だった。記者たちの前でニヤつきながら「その場の雰囲気で、ふと思ったことを言った」「たぶん僕が言ったんだろう」とあいまいな発言に終始した。

 疑念が膨らむ中、沈黙を続けてきた加計が突然、記者会見を開いた。大阪が地震に襲われた六月十八日の翌朝。開始二時間ほど前、地元・岡山の記者クラブ加盟社だけに通告してきた。

 加計は「記憶にも記録にもない」と安倍との面会を否定。予定より早く会見を打ち切った。加計が県知事の中村時広(58)に謝罪する動きもあったが、県の関係者は「面会はオープンで、その後に会見してくださいと暗に伝えると、連絡が来なくなった」と明かした。

 同じころ、獣医学部を視察した愛媛県議福田剛(49)は驚いた。図書館の本棚はスカスカで専門書はほとんど見当たらなかった。「無理して開学にこぎ着けたのだろう。本当に先進的な教育ができるのだろうか」

 七月下旬、国会閉会。安倍は最大の窮地を脱した。

 一年以上にわたり政権を揺さぶり続ける疑惑は首相官邸に集中する権力の内幕をあぶり出した。首相の友人が官僚らから厚遇され、逡巡(しゅんじゅん)する行政の現場には、首相の威を借りたさまざまな圧力がのしかかった。

 「記憶にない」という言い逃れやうそがまかり通る国会で、疑惑の霧は晴れないままだ。権力の傲慢(ごうまん)を許さないためには、有権者の手で、真の言論の府を取り戻す必要がある。 =おわり

(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当しました)

(2018年8月14日)

 

 


 


【権力の内幕 検証・加計疑惑】

2018年09月25日 13時56分59秒 | Weblog

東京新聞 TOKYO Web

 安倍晋三首相の友人が経営する加計学園の獣医学部新設を巡り、「加計ありき」で行政がゆがめられた疑惑が浮上、「本件は首相案件」とする内部文書が発覚し、首相の関与が最大の焦点となった。「一強支配」の権力の内幕で何が行われたのか。徹底検証した連載15回(第1部2018年7月15日~21日付朝刊、第2部7月29日~8月5日付朝刊)を掲載する。

【権力の内幕 検証・加計疑惑】

第1部(1)悲願の裏に「首相案件」 腹心の友 蜜月40年

岡山理科大獣医学部の入学式であいさつする加計孝太郎理事長=愛媛県今治市で

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 「いろいろご心配をおかけしたが、予想をはるかに上回る志願者が集まった」

 瀬戸内海の潮風が穏やかな四月三日、愛媛県今治市の丘陵に開学した岡山理科大獣医学部の入学式があった。運営する学校法人「加計(かけ)学園」理事長・加計孝太郎(67)は壇上の金びょうぶの前で胸を張った。

 式を終えて出てきた百八十六人の新入生の中には、高揚と不安が入り交じった女子学生(18)もいた。

 「動物園で働くのが夢。でも、あの獣医学部なの?って言われるかも」

 この一カ月ほど前、本紙取材班は獣医学部開学にまつわる県作成の一通の内部文書を入手していた。

 「要請の内容は総理官邸から聞いている」

 「かなりチャンスがあると思っていただいてよい」

 開学三年前の二〇一五年四月二日、内閣府地方創生推進室。学園や県の幹部らが次長の藤原豊(54)=現経済産業省貿易経済協力局審議官=から、「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と獣医学部新設の秘策を聞いた様子が生々しく記されてあった。

 「本件は首相案件」。引き続き官邸で面会した首相秘書官の柳瀬唯夫(56)=現経済産業審議官=からも強力な後ろ盾を得ていた。

 「やはり加計ありきだったのか」。取材班は二人の出勤時などに疑問をぶつけたが、柳瀬は「覚えてない」と繰り返し、藤原は「内閣府に聞いて」の一点張りだった。

 加計には三月下旬、岡山市での岡山理科大の卒業式後に質問しようとしたが、職員に阻まれた。今治市での入学式の取材は、地元の記者クラブに限定され、質問の機会を得られなかった。

 加計が獣医学部新設に動きだしてから十年余り。悲願が実現する大きな要因となったのは、加計を「腹心の友」と呼ぶ首相の安倍晋三(63)が、政権に返り咲いてすぐに導入した国家戦略特区制度だった。

安倍晋三首相の妻昭恵氏が2015年12月に投稿した首相(右から2人目)と加計孝太郎氏(左端)、増岡聡一郎氏(右端)らの写真=一部画像処理

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◆米留学で出会い「晋ちゃん」「加計さん」

 ワイングラスを手に、男たちがソファでくつろぎ笑みを浮かべる。

 東京駅八重洲口にほど近い「鉄鋼ビルディング」四階の会員制ラウンジ。二〇一五年十二月二十四日夜、首相夫人の安倍昭恵(56)が自身のフェイスブックに一枚の写真を発信した。付けたコメントは「クリスマスイブ。男たちの悪巧み」。そこには夫で首相の安倍晋三(63)と三学年上の加計(かけ)学園理事長、加計孝太郎(67)らがいた。

 「二人は互いに『晋ちゃん、加計さん』と呼び合う仲。二人とも、よく駄じゃれを言うんですよ」。集まりを主催した同ビル専務の増岡聡一郎(55)は二人の親密ぶりを口にしながらも、「これはビルの竣工(しゅんこう)祝いの会。悪巧みどころか、加計学園の獣医学部の話は一度も出なかった」と話す。

 一二年のクリスマスイブも、二人は都内の飲食店で昭恵らとともにテーブルを囲んだ。この八日前に行われた衆院選で、自民党は三百近い議席を獲得して政権を奪還。党総裁の安倍の首相返り咲きが確実視され、店の前には大勢の報道陣が待っていた。参加者全員の飲食代を店に支払ったのは加計側だった。

 二人の出会いは約四十年前の米国留学時代にさかのぼる。安倍は成蹊大を卒業後、米ロサンゼルスにある南カリフォルニア大で学んだ。当時の日本人留学生は数十人。同じ頃、牛丼チェーン吉野家の社費留学生だった西洋フード・コンパスグループ会長の幸島武(64)が回想する。

 「国会議員や大企業の役員の子どもばかりで、外車で通学する人も多かった。日本人学生同士でゴルフをすることがはやり、安倍さんともラウンドを回った」。ロス近郊の語学学校で学んでいた加計も後年、安倍とゴルフを楽しんだ思い出を経済紙に寄稿している。

 二人は帰国後、先代の敷いたレールに乗る。

 祖父の岸信介は元首相、父晋太郎は元外相という安倍は、父の秘書を経て国政入りすると出世の階段を上り、五十一歳で小泉純一郎政権の官房長官に抜擢(ばってき)された。一方の加計は、一代で学園を中国・四国有数の私学グループに発展させた父、勉(〇八年死去)を支え、〇一年に理事長を引き継いだ。

 帰国後も二人の関係が途切れることはなかった。ゴルフ仲間にとどまらず、安倍は一時、学園の役員を務め、年十四万円の報酬を得ていた。学園関係者は「二人の仲は学内で半ば公然の事実だった」と話す。

 年に二度、留学経験者が集う同窓会「アメリカ会」に、安倍は今もお忍びで顔を出す。「異国で暮らした心細さもあり、あの時の学友は特別な存在だ」。幸島は安倍と加計の蜜月ぶりをそう推し量る。

 出会いから約三十年。五十二歳になった安倍は〇六年九月、戦後最年少で首相の座を射止めた。同じ年、加計は獣医学部開設という野心に火が付いた。(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当します)

(2018年8月14日)

 

第1部(2)経営者の顔 前面 加計氏「志願者20倍」に商機

岡山理科大獣医学部の建設現場(手前)。加計孝太郎氏が初めて訪れたのは2006年だった=2017年5月17日、愛媛県今治市で

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 今年四月、愛媛県今治市に開校した加計(かけ)学園グループの岡山理科大学獣医学部は、中心市街地から外れた丘陵地にある。理事長の加計孝太郎(67)が初めて、この地を訪れたのは二〇〇六年のことだ。

 高台の更地に立つと瀬戸内海が一望できた。「見晴らしもよくて、いい場所ですね」。加計は一目で気に入ったようだった。「少子化で大学の学生集めは大変だが、獣医学部ならば、どこも志願者は二十倍ぐらいある」。市長の越智忍(60)=現県議=に、自信たっぷりに持論を説いた。

 後日、岡山市の学園本部に招かれた越智は、大学から中高、専門学校まで傘下に収める一大私学グループを目の当たりにする。「学生のニーズをつかみ、学園を発展させてきた手腕に、教育者というより経営者の面を強く感じた」。加計にそんな印象を抱いた。

 〇一年に父から学園の経営を引き継いだ加計は事業を拡大し、大学や学部の新設を進めた。〇四年、千葉県銚子市に開校した千葉科学大学もその一つ。誘致した当時の銚子市長、野平匡邦(まさくに)(70)は加計のことを「国家資格に直結させた特定の理工系学部のみを選択するという経営哲学を持ち、大学経営をビジネスとしてとらえていた」と話す。

 若者人口の減少に悩む今治市にとって、大学誘致は長年の悲願だった。

 獣医学部が開校した一帯は、今治市などが一九八〇年代から計画を進めてきた大規模開発エリア。広島県尾道市と橋で結ぶ「しまなみ海道」の開通を見越し、住宅地や商業施設と共に大学開設が想定されていた。

 しかし、バブル崩壊後は開発は縮小し、大学誘致は難航した。タオルと造船の街だけに繊維や造船の学科を検討したこともある。市内の短大を四年制にする話も出た。ベテラン市議は「来てくれるなら、どこでもよかった」と振り返る。

 あきらめかけていた二〇〇六年ごろ、手を挙げたのが加計学園だった。

 今治市出身で、後に学園事務局長となった渡辺良人が、地元県議と高校の同級生だった縁で話が進んだが、市企画課長だった渡辺徹(62)は「獣医学部と言われ、最初はピンとこなかった」と語る。文部科学省の規制で、獣医大学の新設が認められないことさえ知らなかった。

 いかに規制の壁を越えるか。学園と市が目を付けたのが、規制緩和を目的に小泉政権が導入した構造改革特区制度だった。 (敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 

第1部(3)獣医師会に危機感 親しい政治家は「安倍晋三さんです」

2017年6月の日本獣医師会総会後、国家戦略特区による獣医学部開設に疑念を示す北村直人顧問(中)=東京都内で

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 愛媛県今治市に獣医学部を新設しようと、加計(かけ)学園や市が動きだしたのは二〇〇六年。動向に神経をとがらせていたのは獣医師でつくる「日本獣医師会」だった。

 〇七年二月、東京・赤坂の料亭。元衆院議員で獣医師会顧問の北村直人(71)は、加計学園理事長の加計孝太郎(67)と向かい合った。「今治市に獣医学部をつくりたいんです」。そう語る加計だったが、北村には獣医学教育への熱意は感じられなかったという。

 「親しい政治家はいるんですか」と水を向けると、予想外の答えが返ってきた。「安倍晋三さんです」。時の首相の名前だった。北村の脳裏に加計学園の名前が刻み込まれた。

 この頃、農林水産省では獣医学部開設の布石が打たれようとしていた。獣医師の需給見通しを探るため、有識者による検討会が発足。農水省関係者は「獣医師が足りないとの結論が出るよう上から指示されていた」と証言する。だが、「獣医師は足りている」と獣医師会が待ったを掛けた。検討会の報告書は明確な表現を避け、両論併記となった。

 学園と市が構造改革特区で学部開設に挑んだのは、報告書が出て半年後の〇七年十一月。以来、毎年のように特区を申請したが、大学の設置認可を握る文部科学省に阻まれた。元同省幹部は「真剣に取り合う雰囲気でもなかった」と話す。

 獣医学部開設の動きはいったん下火となったが、一二年末、獣医師会に再び危機感が高まる。安倍の二度目の首相就任だ。翌年三月の理事会では「安倍政権に代わり、文科相からの指示で担当局長、課長が規制緩和の方向に転換しつつある」と危ぶむ声が上がった。北村は「安倍さんが総理に返り咲き、再び加計側の動きが活発になった」と言う。

 「麻生会長へ相談し、文科省に抗議の声明文を提出していただいた」「麻生会長も総理と会談され、説明を尽くされている」。理事会の議事録からは、自民党の獣医師問題議員連盟会長で副総理の麻生太郎(77)の政治力で、対抗したことがうかがえる。

 北村は一四年三月、東京・南青山の日本獣医師会で、加計と再び対面した。うつむく加計に「安倍さんに言われて来たんですか」と尋ねると、加計は顔を上げた。「獣医学部をつくりたい」。面会は十五分足らずで終わった。北村は加計が「仁義を切りに来た」と感じた。

 加計はその後、政界への接近を強める。相手は安倍の側近の文科相、下村博文(64)だった。 (敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 

第1部(4)下村文科相に接近 パー券代取りまとめ

下村博文事務所の日報には、加計学園がたびたび登場する

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 首相の安倍晋三(63)が二〇一二年末に政権を取り戻すと、側近の下村博文(64)は大学の認可権限を持つ文部科学相に就いた。取材班が入手した一四年の下村事務所の日報からは、加計(かけ)学園が繰り返し接触してきたことが浮かび上がる。

 「ご留任おめでとうございます。お祝いをしたいと思います」。一四年九月、内閣改造で下村が文科相に再任されると、学園は下村事務所にお祝いを伝えた。学園からの陳情を事務所が文科省につないだ形跡もある。日報には「事務方を通じてお願いをいたしました」との報告がある。

 学園理事長の加計孝太郎(67)は下村夫人とも縁がある。広島加計学園が〇六年、米国の学校と提携した際、夫人は米国で調印式に参加。一三年からは学園の教育審議委員になっている。

 昨年六月には「加計マネー」の存在も明らかになった。下村を支援する政治団体「博友会」が一三年と一四年、加計学園からパーティー券の代金として百万円ずつ受けたのに、政治資金収支報告書に記載していなかったと週刊誌が報じた。

 政治団体は一回のパーティーで、個人や企業から二十万円を超える支払いを受けた場合、相手の名前や金額を収支報告書に記載しなければならない。博友会は一三年十月に九百八十四万円、一四年十月に千九百四十九万円のパーティー収入を計上しているが、学園の名前はなかった。

 下村は会見を開き、百万円は加計学園の秘書室長が「十一の個人と企業から預かったもの」で、いずれも二十万円以下だから記載の必要はないと説明した。学園も下村に呼応するように「当学園と関係のある個人や会社の合計十一名のパーティー券代」と報道機関にファクスを送った。

 本紙が入手した「パーティー入金状況」というリストには、両年とも加計学園の名前と百万円の入金が記されている。全体では学習塾や教材会社が一枚だけ買っているケースが多く、百万円は際立つ。

 文科省は〇三年の告示で獣医学部の新設を規制していた。構造改革特区で獣医学部を開設したいという愛媛県と今治市の申請にも厳しい意見を出し続けた。学園が下村に接近した一四年も省内の空気は冷ややかなままだった。

 「今治市側に何度言っても、規制に穴を開けるような説得力ある提案はされなかった」と当時の文科省幹部。それが一五年に入ると、実現に向け、大きく動きだすことになる。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(5)「首相と面談」後、一変 「何とか実現」秘書官動く

2015年4月2日に加計学園幹部らが柳瀬首相秘書官と面会した首相官邸。これを機に獣医学部開設の動きが加速する

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 加計(かけ)学園が愛媛県今治市に獣医学部を開学する三年余り前のこと。学園幹部らは焦りを募らせていた。

 二〇一五年二月十二日、学園と県、市の幹部が一堂に会した。学園幹部が学部新設の進捗(しんちょく)を報告したが、状況は芳しくなかった。

 「下村文部科学大臣が一歩引いたスタンスに変化している」。幹部はその理由に、自民党獣医師問題議員連盟会長で副総理の麻生太郎(77)の存在を挙げた。新設に反対する獣医師会に近い麻生への配慮から、文科相の下村博文(64)が後退しているという危機感だった。

 一連の協議内容を記した県の文書からは、学園の戦略が浮かび上がる。学園側は理事長の加計孝太郎(67)と首相の安倍晋三(63)の面会に期待をかけたが、なかなか実現しなかった。

 そこで「官邸への働きかけを進めるため」として学園の本拠がある地元・岡山選出の官房副長官加藤勝信(62)に会ったものの、「日本獣医師会の強力な反対運動がある」「既存大学の反発も大きく、文科大臣の対応にも影響」と後ろ向きな話ばかり聞かされた。

 すでに新潟市が国家戦略特区で獣医学部の設置を申請しており、新潟に決まるかもしれないという心配もあった。だが、その後、潮目が大きく変わる。

 「理事長と安倍首相が面談したので報告したい」。学園から連絡を受け、県は三月三日に打ち合わせをした。その際、学園幹部から「二月二十五日に理事長が首相と十五分程度面談し、首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントがあった」という報告があった-県文書にはそう記されてある。

 二人は面談を否定しているが、潮目が確実に変わったことを示す事実がある。首相秘書官の柳瀬唯夫(57)が学部実現に向け、動き始めたのだった。

 四月二日、首相官邸小会議室。学園や県、市の幹部ら六人が長いテーブルに横一列で並んだ。自治体の課長が官邸を訪れるのは異例中の異例であり、遅れて現れた柳瀬はまくし立てた。

 「本件は首相案件となっており、何とか実現したい」。もし安倍と加計の面談がなければ、柳瀬がなぜ精力的に動いたのか疑問が生じる。首相と秘書官は「一心同体の間柄」(秘書官経験者)だからだ。

 これを機に停滞していた計画が動きだした。県関係者が述懐する。「官邸に呼ばれたことで、国にオーソライズ(公認)されたと受け止めた。それまでなかった流れが生まれた」(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(6)官邸を後ろ盾に権勢 秘策を伝授 特区のプロ

国家戦略特区を取り仕切っていた藤原豊次長(当時)。愛媛県文書には藤原氏から「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と県や今治市に持ちかけたと記録されている=昨年6月、国会で

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 長年実現してこなかった加計(かけ)学園の獣医学部を開設するため、首相秘書官の柳瀬唯夫(57)らが推し進めた秘策、それが国家戦略特区だった。

 国家戦略特区は首相の安倍晋三(63)が二〇一三年に創設した肝いりの政策だ。「自らドリルになって岩盤規制に穴を開ける」。規制緩和による成長戦略をうたう安倍は、幾度となくこのフレーズを口にしてきた。

 小泉純一郎政権のときにできた従来の特区制度は、自治体などの提案の可否を規制官庁が判断するため、思うような成果が出なかった。そこで、国家戦略特区では、規制官庁を意思決定から排除することにした。

 規制緩和に積極的な有識者が提案された特区内容を審査。首相をトップとし、経済財政担当相などを務めた規制改革論者の竹中平蔵(67)らが名を連ねる「諮問会議」で認定する。同じ特区でも、規制に対する突破力は比べものにならない。

 その国家戦略特区を取り仕切っていたのが、内閣府地方創生推進室次長の藤原豊(55)だった。柳瀬と同じ経済産業省出身。構造改革特区の創設にかかわった特区の第一人者で、国家戦略特区でも、手腕をかわれて内閣府に呼び戻された。

 省庁の役職でいえば局長と課長の間だったが、内閣府関係者は「総理や官邸を後ろ盾に権勢を振るっていた」と言う。藤原周辺からは「上司の頭越しに官邸から指示が来た」「特区について官邸に説明に行くのは藤原さん」「総理が出席する特区諮問会議の原稿も書いていた」といった実力者ぶりが聞こえてくる。

 内閣府のある職員は「強引なやり方に反発もあったが、上司も他省庁も何も言えなかった」と明かす。「藤原さんの意向は官邸の意向」。それが内閣府内での共通認識となっていた。

 一五年四月二日、藤原は内閣府で学園や愛媛県、今治市の幹部らと面会し、「国家戦略特区を使って突破口を開きたい」と伝えた様子が県の内部文書に記されている。

 「既存の獣医学部とは異なる特徴を」「ペット獣医師を増やさないような卒業後の見通しをしっかり書き込んでほしい」と指示するなど、藤原のアドバイスはかなり具体的だ。まるで試験官が受験生に答えを教えるようなもの。内閣府の職員は「申請者に提案内容を細かく指示することはありえない」と証言する。

 事情に詳しい政府関係者が批判する。「加計ありきのストーリーを書いたのは官邸。官邸主導で特区の手続きがゆがめられた」(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(7)選定迫り消えた主役 学園の痕跡 議事から隠す

2017年8月、加計学園の出席者名や発言を特区WGの議事要旨に記載していなかったことが発覚し、記者会見で経緯を説明する八田達夫WG座長=東京都千代田区で

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 二〇一五年六月、愛媛県今治市に国家戦略特区を活用して獣医学部をつくりたいという申請が内閣府に出された。申請者に名を連ねたのは県と市だけで、加計(かけ)学園の名前はなかった。

 学園の幹部が県や市の担当者と一緒に首相秘書官の柳瀬唯夫(57)に面会したのは申請のわずか二カ月前。「官邸に県や市を連れてきたのは学園側。学部開設は加計学園が主導した」と政府関係者が言うように、そこまでの主役は学園だった。だが、計画が公の特区選定作業に入った途端、主役の存在は消えていた。

 国家戦略特区選定の第一段階として、申請者は特区ワーキンググループ(WG)のヒアリングを受ける。規制改革派の民間有識者で固めたWG委員のヒアリングは、認定を左右する重要な選定手続きだ。

 県と市が作成した獣医学部特区案に対するヒアリングは、申請翌日という異例の早さで実施された。東京・永田町の合同庁舎七階の会議室。長机を挟んで委員と向かい合った申請者の席には、県や市の担当者と並んで学園の幹部三人が座った。

 「獣医学部設置の相談を(県や市から)受けている。今治市には(学園傘下の)岡山理科大学獣医学部を設置したい」。そう発言したのは学園相談役の田丸憲二(70)だった。

 ところが、内閣府が公表したヒアリングの議事要旨には、田丸の発言はおろか学園の三人の出席者の名前すら載っていない。

 昨年八月、この「加計隠し」が発覚すると、WG座長で大阪大名誉教授の八田達夫(75)は「学園は説明補助者。公式な発言とは認めていない」と抗弁した。

 ヒアリングに同席した内閣府幹部はいずれも「説明補助者」という言葉を聞いたことも使ったこともないという。幹部の一人は「走りながら決めるような状況で、ルールもはっきりしなかった」と証言する。

 別の内閣府職員は特区を仕切っていた地方創生推進室次長の藤原豊(55)の秘密主義ぶりを批判する。「主に動くのは直属の部下。周りへの指示は細切れで、組織全体に情報が伝わるのを避けていた」と明かす。

 首相のトップダウンで規制の突破を狙う国家戦略特区。強権ゆえに権力の私物化を招く危険性をはらむ。首相の安倍晋三(63)が友人に便宜を図ったのではないか-学部開設を巡る疑惑で指摘されるのもその点だ。

 「すべてオープンになっている。一点の曇りもない」。安倍はそう強調するが、関係者の証言からは特区選定過程の不透明な内幕が浮かび上がる。 =おわり

 (敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当しました)

 (2018年8月14日)

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ハイパーインフレに対処できる最強のもの

2018年09月18日 20時33分57秒 | Weblog

日本人の大半が気づいてない財政危機の火種

17年度予算の中身と意味を知っていますか

岩崎 博充: 経済ジャーナリスト    2017/04/05 6:00  東洋経済 Copyright©Toyo Keizai Inc.All Rights Reserved.

 

2017年度の予算案が、3月27日の参院本会議で可決、成立した。

周知のように、今国会は国有地をめぐる森友学園騒動に揺れ続けて、どの予算委員会でも予算の中身を精査した質問や答弁の報道はほとんど目立っていない。ところが、実際に予算を精査してみると相変わらずの大盤振る舞いで、とても世界でも断トツの財政赤字国とは思えない中身といえる。

アベノミクスを背景にしたゼロ金利、量的緩和をいいことに、財政再建を忘れて国民の望む政策をあちこちにちりばめながら、国民のご機嫌取りのために予算を組んだと示唆されるものが多かった。国家予算の中身を見れば、安倍政権の抱える懸念とリスクが浮き彫りにされるような気がしてならない。

今国会では、「組織犯罪処罰法(共謀罪)」や「介護保険法改正」「労働基準法改正(同一労働同一賃金)」といった重要法案が審議中だが、森友学園騒動に隠れて何かもっと重要なことが見落とされつつある。

一般会計支出は5年連続で過去最大を更新?

今回の2017年度予算では、一般会計の歳出総額が97.4兆円で、5年連続で過去最大記録の更新を続けている。超高齢化社会の到来で医療費や介護費用などの社会保障費が膨らんでいるのは仕方がないにしても、社会保障費だけで32.7兆円、全体の3割を占める。

続いて多いのが、「国債費」と呼ばれる国債など公債の返済や利払いの費用。年間23.5兆円で全体の4分の1。次に多いのが「地方交付税(15.5兆円)」で補助金行政などで使われる予算だ。全体の16%に達する。

続いて「公共事業(5.9兆円)」「文教科学振興(5.3兆円)」そして「防衛(5.1兆円)」と続く。2017年度予算のポイントは、防衛費の伸びが過去最大となったこと。第2次安倍内閣発足以来、5年連続の拡大となる。ちなみに、周辺海域の警備を担当する海上保安庁の予算も、高性能の巡視船などの導入で2046億円と過去最高になった。

気になるのは、やはり政府が掲げている財政健全化へのプロセスだろう。すっかり忘れられたのではないかと思うような、過去最大の一般会計歳出予算だが、周知のように日本政府は2020年度までに財政の健全化を目指して「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の黒字化を目指している。

国債の返済費や利払いを別にした部分で税収入だけで賄うようにしましょう、というものだが現在の状況では実現まではまだ程遠い。

そもそも安倍政権というか自民党政権の大半は、行政の「節約」という選択肢は少ない。公務員の高すぎる賃金を減らそうとか、国会議員の数を減らすという発想は見受けられない。公共投資も「できればやりたい」ぐらいなのだろう。2017年度予算では、中高所得者の高齢者の医療・介護の負担を増やすことで予算を抑えるなどの微調整はしているものの、財政赤字の額の大きさに比べて行政府の「節約」は見えてこない。

あくまでも、経済成長をもたらすために積極的な財政政策や経済政策を打って、「税収増加」による財政健全化を目標としているのだろう。

とりわけ、アベノミクスは景気回復を前面に押し出して、「3本の矢」のひとつとして日本銀行が「異次元の金融緩和」を実行。さらには「マイナス金利」まで導入して、景気回復を推進してきた。デフレ脱却と称する景気対策であり、その結果として表れる税収増、財政再建を目指している。インフレ2%を達成することで、税収も増えていく、と思われていたのだが、残念ながら結果は裏目に出ている。

「ワニの口」が閉じることはない?

異次元の量的緩和、マイナス金利まで導入したアベノミクスだが、その兆候がはっきりと見えてきたのが2017年度予算の中身だったといっていいだろう。税収が増えて、財政再建化に道筋が見えてくるはずだったのだが、税収の伸びはここに来て大きく鈍化した。

2017年度予算の税収見積もりは57.7兆円にとどまり、その増加分は前年度比で1080億円にとどまっている。2016年度予算では3.1兆円の税収の伸びを予想していたことを考えると、かろうじて「プラスにした」という感じだ。

実際に、その中身を精査してみると、いわゆる「税外収入」の項目が増えていることがわかる。税外収入というのは、日銀や日本中央競馬会から上がってくる「国庫納付金」や国有地の売却収入などのことで、一時期話題になった「霞が関埋蔵金」と呼ばれる特別会計の積立金や剰余金、独立行政法人の基金返納分といったものも税外収入に含まれる。

2017年度予算の税外収入は、5.3兆円に達しており、2016年度予算よりも6871億円増えている。最近は、この税外収入が数多く活用されるようになってきた。潤沢にあったはずの霞が関埋蔵金も、積極的に手を付け始めてすでに10年近い歳月が流れている。

ちなみに、「外国為替資金特別会計」からの繰入額も8583億円増やしており、円安という追い風があったにせよ、税外収入の活用などと合わせて、何とか国債の発行額を前年より減らすという目標を達成した、と言っても過言ではないだろう。

実際に、2017年度予算では新規国債発行額(34.4兆円)を2016年度よりも622億円減らすことで「公債依存度」を35%に減らしている。公債依存度というのは、国債などの公債発行額を一般会計歳出総額で割ったものだが、かつては半分程度(48%、2010年度)を公債に頼っていた時期に比べると、数字だけは改善している。

これは、家庭でいえばへそくりを使って新しい借金を表面的に減らしているだけで、家計(財政)が火だるまであることに変わりはない。

財政赤字の健全化を占うグラフに「ワニの口」というのがある。一般会計歳出(上あご)と税収(下あご)との乖離を示した折れ線グラフだが、最悪なのは歳出がどんどん伸びて、その一方で税収が減る形で、ちょうどワニの口が開いていく状態だ。現在では、ワニの上あごはどんどん開いているが、下あごもかろうじて上がっているために、ワニの口の拡大は、ぎりぎりおさえているという状況だ。

問題は、このワニの口が将来的に閉じることがあるのかどうかだ。景気拡大による税収の増加をメインに財政再建を実施していく、という財政再建策で大丈夫なのか……。いま、事態は正念場に来ている。

世界は緩和縮小(テーパリング)へ

というのも、世界はここにきてトランプ政権が誕生して「トランプラリー」が始まるなど、景気はある程度の回復を見せている。その影響で、米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)は、今年3回から4回の金利引き上げを予定している。

日本とともにマイナス金利を導入して量的緩和を実施してきた「EU(欧州連合)」も、最近になって「テーパリング(緩和縮小)」を始めるのではないかと予想されている。EUを支えているドイツの景気が良く、インフレ率もすでに年2%程度を達成している。EUの金利を管轄する「ECB(欧州中央銀行)」も、近い将来のテーパリングをほのめかしている。

つまり、米国とEUがそろって金融緩和を脱出して金融引き締め策へとかじを取ろうとしているわけだ。米国が金利を継続的に引き上げ、EUも金融緩和から引き締めへと転換したときに、日本はどうするのか。

結論をいえば、現在の財政再建に道筋ができるまでは、日本はとても緩和縮小などできる状態ではない、と考えていいだろう。実際に、日銀の黒田総裁はこの3月24日の講演で「現時点で金融緩和の度合いを緩める理由はない」と述べて、今後もテーパリングはしないと断言している。

黒田総裁は「長短金利をコントロールすることで現在のイールドカーブを維持して、世界経済の好転を生かしていくべきだ」という趣旨の発言もしている。黒田総裁の任期はあと残すところ1年だが、当面は現在の体制が続くことになるわけだ。

しかし、現在市場が心配しているのは、次の2点だ。

(1)日銀は今後も国債を買い続けることができるのか
(2)長期金利は本当にコントロールできるのか

2017年度予算における新規国債発行額34.4兆円のほかには、過去に発行した国債などの借り換えに必要な「借換債」が発行される。財務省の「国債整理基金の資金繰り状況」によると、2017年度の借換債発行額は104兆8000億円になると試算されている。2016年度当初予算よりも4.3兆円少なくなるそうだ。

つまり、2017年度の国債マーケットでは、新規発行分と借換債で合計140兆円弱の日本国債が発行されることになる。むろん、既発のセカンダリーマーケットもあるが、2016年度より少なくなっている。

一方、日銀は毎年80兆円の国債を買い入れる量的緩和を継続しており、金融市場には実質的に60兆円程度の市場しかないことになる。このまま日銀が、国債を買い続けて金融緩和政策を続けて行ったらどうなるのか。

いずれは日銀が買う国債が枯渇して、長期金利のコントロールが制御不能になる可能性があるということだ。そうなったとき、日本経済はどうなるのか。

アベノミクス終了後は大きな後遺症で苦しむ?

最もわかりやすいのは、次のような事態に陥る可能性だ。

(1)長期金利が制御不能になって上昇する
(2)円相場が乱高下して円安に振れていく
(3)株価が暴落する

この先は、ハイパーインフレといったシナリオがあるのかもしれないが、日本の金融市場は流動性に優れているため、必ずどこかでストッパーが働く。問題は、こうした局面になったときに政府はどう対処するのか、という問題だ。

金利の上昇や円安に振れることで、景気が後退し、税収入が大きく落ち込めば、さらなる国債を発行することになる。さらに金利が上昇していくことになり、医療費や年金といった社会福祉もどうなるのか。その準備はできているのか。

日銀も、財務省もそろそろ「アベノミクス後」のシナリオを国民にオープンにしていく責務を負っているのではないか。財政赤字を最小限にすることを目指して来たEUが、ブレグジットで不安定化しつつあるのも皮肉な話だが、財政赤字に対して警戒心が希薄になる一方の日本政府も怖い。

アベノミクスは未来永劫続けられるものではない。就任当初、黒田日銀総裁もこうした異次元の量的緩和政策は「何年も続けられるものではない」と明言していた。アベノミクスが始まってすでに5年。安倍政権はスキャンダルに振り回されている場合ではないはずだ。5年を経過して失敗が明らかになってきたアベノミクスのリスクを、いまこそ直視すべき時なのかもしれない。

 



デフォルトやハイパーインフレになったら何が一番安全資産?

マネーの達人 by 2016/03/13 [投資信託・商品]

 

日本の借金が1000兆円を優に超えている現状から、近い将来日本はデフォルトやハイパーインフレになるのでは? という噂や意見が絶えません。

読者様からも、「デフォルトやハイパーインフレになったら何が一番安全資産?」という質問をいただきました。今回、その質問に回答いたします。


Q.「デフォルトやハイパーインフレになったら何が一番安全資産?」


質問者様:以下、Q様
回答者:以下、堀(執筆者)

Q様:ちょっと極端な話かもしれませんが、デフォルトやハイパーインフレになったら何が一番安全資産か教えてください。

:なるほど、日本が今すぐデフォルトやハイパーインフレになるとは考えにくいですが、一つの知識として記憶にとどめておくのは大切だと思います。質問、ありがとうございます。

初めに、デフォルトとハイパーインフレの定義を確認しておきましょう。

デフォルトとは、債務不履行のことです。

日本国は国債を発行しお金を借りているわけですが、借りたお金は償還期限(借りたお金を返す期限)までに返すことになります。

しかし、借りたお金を返せません! と宣言することがデフォルトです。

デフォルトになると、国債を発行した日本の信頼がなくなります。

お友達に1万円を貸して、「1週間後に返すね」と言われたものの「返せない」と言われたら、そのお友達に二度とお金を貸すもんか! と、思いますよね。お友達への信頼が失墜します。

同様のことが一国で生じるのがデフォルトです。

デフォルトになると、日本国の通貨も暴落します。国が信用できないなら、その国の通貨価値も信頼に値しなくなるからです。

すると次に起こるのが、ハイパーインフレです。通貨が暴落すると、たとえば、100円の価値が100分の1になるなら、今まで100円の商品は1万円出さないと買えなくなります。

通貨暴落により物価が暴騰することになる、つまり、ハイパーインフレが発生するのです。

Q様:はい。日本でデフォルトやハイパーインフレが起こるとは思いたくないのですが、もしそうなったとしたら、安全資産というものがあるのでしょうか?

:あります。そのヒントとなる事例を挙げてみますね。

1998年にロシアがデフォルトになったことは記憶に新しいですが、そのときに「オリガルヒ」と呼ばれる実業家たちは莫大な資産保有に成功しました。

なぜ莫大な資産保有に成功したか。彼らはロシアルーブルによる資産から海外資産へ移動し、デフォルト後、財政難に陥った石油企業などのロシア国営企業を買収したのです。

(関連書籍⇒オリガルヒ―ロシアを牛耳る163人 著:中澤孝之)

私たち一般市民が同じことをするのは無理ですが、この事例にヒントが隠されています。それは、“海外資産” です。日本円ではなく、海外の資産を保有することでデフォルトやハイパーインフレに対処可能です。

ただし、起こるか分からないデフォルトに備えて、今すぐ自己資金をすべて海外資産に移すのは違います。分散投資のポートフォリオに外貨を組み込むことで、“万が一” に備えることができるでしょう。

Q様:海外資産、外貨。これが対処法の一つなんですね。

気になるのが預金封鎖の噂です。デフォルトになると預金封鎖が起こりますよね。

2013年にキプロスで預金封鎖が行なわれましたし、日本バブル崩壊後の1990年代には大蔵省が預金封鎖を検討したという噂もあります。あくまでも噂ですが。

デフォルトによる預金封鎖への対処法はあるのでしょうか?

:するどい質問ですね。これも一例を挙げて、対処法を考えてみましょう。

Q様が仰っていたキプロスの預金封鎖ですが、戦後、日本も預金封鎖を行なっているんです。そのときにある日本人実業家は大実業家への変貌を遂げました。彼が保有していた資産は、不動産です。

預金封鎖の時点で、ホテルという不動産を保有していた小佐野賢治氏。預金封鎖になっても不動産の価値は変わらないので、その不動産を元に新たな事業経営への道を開拓することができました。

小佐野氏と違い、私たちがホテルを購入するのは見当違いですが、“不動産の価値は変動しない” というのは一つの着眼点です。通貨と全く違った資産、不動産はデフォルト時の安全資産と言えると思います。

今お持ちの家や土地には価値があります。ただただ住むことや現金に換えることを考えるのではなく、安全資産の一つとして、リスクヘッジという観点から見ると、今後の保有の可否を検討する上で参考になるでしょう。

Q様:なるほど、不動産は安全資産になるというのを覚えておきたいと思います。

:はい。また、これは資産運用における不変の真理と言えますが、金(ゴールド)は安全資産の代表的存在です。

景気が悪くなると金が買われる傾向にありますよね。2008年のリーマンショック後、金価格は暴騰しました。

金は「究極の通貨」とも言われており、ハイパーインフレになれば安全資産として最も需要が高くなるのが金でしょう。

いくらかの金を現物保有し家の金庫に入れておく。何だかとってもアナログな方法ですが、デフォルトになればこれ以上の安全資産はないかもしれませんよ。

Q様:やはり、金ですか。時代は変わりつつありますが、ゴールドの価値に変化はないようですね。外貨、不動産、ゴールド。今後の資産運用の参考にします。今回はありがとうございました!

:こちらこそありがとうございました。参考になれば幸いです。

(執筆者:堀 聖人)

 

 

 

ハイパーインフレから生活を守る「3つの資産」と一石二鳥の「隠し玉」=栫井駿介  2016年4月10日

最初に断っておきますが、私は決して不安を煽ろうとしているわけではありません。しかし、日本経済はハイパーインフレ、あるいはそれに匹敵する急激なインフレになるリスクを抱えています。この記事では、そのリスクにどう対処したら良いかについて考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

【関連】「年収1,000万円ビンボー」急増中!高所得者がハマりやすい3つの罠

急激なインフレになっても生活に困らない資産防衛の考え方

インフレは政府にとって都合がいい

ご存知の通り、日本政府の財政状況は良くありません。政府債務は1,000兆円を超え、GDP対比で2倍を上回ります。世界を見渡しても、これほどの借金を抱えている国はありません。

財政が良くない国には何が起きるのでしょうか。細かな経済的メカニズムについての議論は避けますが、歴史的に見れば財政的に困窮した多くの国がハイパーインフレを引き起こしています。逆に急激なデフレになった事例はありません。

インフレは、政府にとって都合がいいのです。

インフレとは物価が上昇することですが、裏を返せば貨幣の価値が低下することを意味します。インフレ率が10倍の場合、インフレ前の1,000円がインフレ後は100円分の価値しかなくなってしまいます。つまり、1,000兆円の借金は100兆円分の価値になるということです。こうすれば、デフォルトすることなく借金を減らすことができます。

しかし、インフレで政府債務が減ってみんなハッピーかというと、もちろんそんなことはありません。つけを払うのは国民です。

年金、貯金に大打撃

インフレになると、まず商品の値段が上がります。直感的にはそれは困ったということになりそうですが、売る側から見れば販売価格も上がり、結果チャラになります。働いている人の給与も上がるので、現役世代には致命的な影響はありません

最も困るのが、既に退職した年金生活者です。年金の金額は「マクロ経済スライド」でインフレ率の伸びを下回ることが決まっている上、政策次第で変えられるものです。つまり、物価は上がるのに、もらえる金額はそれほど増えないという事態になるのです。

貯金をあてにしている人も損をすることになります。上述したように、1,000円が100円の価値しかなくなってしまいますから、1億円の貯金があったとしても1,000万円に目減りしてしまいます。せっかくの貯金が水の泡になってしまうのです。

株式、不動産、外貨を持つ

ハイパーインフレに負けないためにはどうしたら良いでしょうか。

まず、働ける人は自分のスキルを磨くことです。仕事にありつくことができれば、物価に見合った給与を得ることができます。

資産運用という観点では、インフレに強い資産を持つことが重要です。インフレに強い資産とは、株式不動産外貨などです。株式や不動産は基本的に物価に合わせて上昇しますし、インフレは日本円の話なので、外貨を持っていれば巻き込まれずに済みます。

株式を選ぶ場合は、その特性に注意を払う必要があります。インフレの混乱で潰れてしまうような会社だったら元も子もないからです。代表的なものに以下があります。

●グローバルに事業を展開している多国籍企業

世界中で事業を展開していれば、日本国内のインフレの影響は小さくて済みます。むしろ、インフレは円安を引き起こすので、日本円換算ではかえって得をする可能性もあります。

●生活に必要不可欠なものを売っている内需企業

生活に欠かすことができない商品は、物価上昇をすぐに価格に転嫁することができます。消費者は購入せざるを得ないからです。この場合、市場の独占性が重要な要素となります。

また、隠し玉として「固定金利で借金をする」という方法があります。国と同じように、1,000万円の借金を100万円の価値に棒引きできるからです。インフレ時には金利も上昇するので、固定金利でなくてはいけません。

長期の固定金利を個人で行う代表的な方法に、フラット35があります。この場合、不動産も購入することになるので一石二鳥というわけです。

 

あなたの資産はあなた自身で守る

ハイパーインフレがいつ起こるのか。それは誰にも分かりませんし、起らないという主張も多くあります。

しかし、これは地震と同じようなもので、起らない理由を考えるのではなく、いつ起きてもいいように備えておくことが重要なのです。

ここで挙げた防衛手法は、ハイパーインフレが起きなかったとしても、「平時」の資産運用として十分に有効なものです。地震の時に自分の身は自分で守るしかないように、あなたの資産もあなた自身でしか守れません。そのことをよく肝に銘じておくことです。

つばめ投資顧問では、個人投資家の長期的な資産形成をサポートしています。記事についての疑問や資産運用のご相談があったら、お問い合わせよりお尋ねください。メールでの相談は無料です。..

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年4月6日号)より一部抜粋

MONEY VOICE編集部

 






金、不動産、外貨……経済破綻でも一番強いのは

藤巻 健史(ふじまき・たけし)       PRESIDENT 2013年1月14日号

 フジマキ・ジャパン社長 1950年、東京都生まれ。一橋大学卒業後、三井信託銀行入行。MBA取得後、米モルガン銀行にてディーラーとして名を馳せる。その後、ジョージ・ソロス氏の助言役などを務める

ハイパーインフレか、財政破綻か

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悪化する日本の財政事情

かねてから私は日本が財政破綻に陥る危険性について指摘してきたけれど、もしも自民党の安倍総裁が選挙前におっしゃっていたことを本当に実施するなら、財政破綻は免れるでしょう。ただし、その代わりにハイパーインフレへの道まっしぐらです。その結果、国が抱えている976兆円の借金は紙クズ同然になってしまいます。ハイパーインフレとは、たとえば、極端ですが、タクシー初乗り運賃が9兆円になる場合をイメージしていただければわかりやすいと思います。ドイツでは、1923年1月に250マルクだったパン1個がその年末には3990億マルクになり、給料をもらっても1~2日目にパンを買うと3日目からはお金が尽きてしまうという状況になったのです。

もっとも、現実的には自民党もそこまで大胆な手は打てないと思います。間違いなく言えるのは、ハイパーインフレに見舞われようが財政破綻に陥ろうが、どっちに転んでも地獄だということです。

日本でも終戦直後にハイパーインフレが発生し、46年には預金封鎖が実施されたことがあります。預金封鎖とともに円紙幣の新券切り替えを行うことで、ハイパーインフレの抑制とともに国民財産の剥奪を行ったわけです。このようにハイパーインフレでは、財政破綻と同じような地獄が待っています。歴史を振り返ってみても、インフレ率を2~3%程度のほどよいところに抑え込むのは難しく、今まで各国の中央銀行がことごとく失敗しています。

ハイパーインフレが起こらなければ、日本の財政はまったく改善されないまま悪化が続いていきますから、破綻の日が刻一刻と迫ってきます。すでに赤字は極限まで達しているのに今後もどんどん増えていきますから、具体的にいつかはわからないものの、破綻する日は遠くないと私は思っています。80年代の株・不動産のバブル崩壊を予測できた人は皆無でしょう。バブルが極限まで拡大するとほんのささいなことでポンと破裂するのが常です。

ここまで財政状況が悪化すると、考えられる道筋としては財政破綻というガラガラポンが起き、昔の進駐軍と同じようにIMFが入ってきて、日本を変えるというものです。それで日本は再生します。オーストリアの経済学者シュンペーターの言うところの「創造的破壊」です。

だから今回、起こるのは第二次世界大戦と同じ敗戦。でも、戦争じゃないだけラッキーということでしょうね。

ガラガラポンが起きるとき、そんな国の通貨はだれも要らないので、かなり円が安くなってくるでしょう。ハイパーインフレとは、モノの値段が上がってお金の価値が下がることですから、こちらの場合でも円が安くなります。こうして円安が進めば、当然ながら長期金利は暴騰(国債価格は暴落)します。もともと日本の金融機関や年金は国債を大量に買い込んでいるので日本国民は間接的に大量に国債を保有していることになります。日本人の資産は極めて危険な状態にあるということです。

ですから、資産の一部をアメリカやオーストラリア、カナダ、スイス、イギリスなどといった先進国の外貨に替えておくことが重要だと私は訴え続けてきたわけです。円で持っていたら実質価値がゼロになりかねないが、外貨で持っていた部分はそれを免れます。つまり、そういった事態に備える保険という意味合いなのです。かつて資産分散といえば「株と土地と預金……」などと考えられてきましたが、今は他の先進国にお金を逃すことを第一に考えるべき。私自身、本当は日本から逃げ出すべきだけど、この国が大好きだから無理。せめて財産ぐらいは海外に避難させておこうという話です。

 

 

 



【第1回】 2011年8月30日 長嶋 修 :株式会社さくら事務所 代表取締役社長

「いまのうちに借金して不動産を買え!」
で泣く人、笑う人

これから書きつづる10回の連載で、あなたが「マイホームを買うか、買わないか?」「買うとしたら、どこで、どんな物件を、どのように選ぶのか?」を意思決定するための材料を提供したい。
これまで住宅の世界で常識とされてきたもののうち、おおよそ半分くらいは普遍的な常識として残るが、残りの半分は「過去の常識」として打ち捨てられる。変わって「新常識」が台頭し、それがスタンダードになる。

 それではまずはトピック的な話題から。「インフレ」について一緒に考えてみよう。

インフレで不動産は本当に上がるのか?

「インフレに備えるため、いまのうちに借金して不動産を買え!」

 そう唱える経済評論家もいる。

 ユーロもドルも大きく刷り散らかされ、ペーパーマネーの信任が揺らいでいる。スイスフランや円は相対的な安定感を理由に買われ上昇しているが、我が国の財政も危機が叫ばれている最中にある。実物である金や銀などの資産価格は上昇し、資源やエネルギー、食料価格も上昇が見込まれるなかで、やはり実物資産である不動産を買っておけというものだ。

 確かに、我が国が激しいインフレに見舞われた場合には、数千万円の借金はその価値が目減りすることになるだろう。むろんこのときには、大幅な金利上昇が見込まれるから、固定金利で住宅ローンを借りておくことが前提だ。

 しかし資産価格はどうか。すでに我が国は800万戸近い住宅が余剰しているし、今後は人口減少と少子化・高齢化が加速。新築持ち家偏重の住宅政策も実質的にはまだ続いており、空き家がさらに増加するのは確実だ。どの不動産も価値を上昇させるということは到底考えられない。

上がる可能性のある不動産とは?

 端的にいって、住宅として実需要のないもの、弱いものを買っても無意味だ。実需要とは「売りやすさ」「貸しやすさ」を指す。

 資産として流動性の高い物件、たとえばREITやファンドなど、海外のマネーが入る余地のある不動産、ないしはそれに影響を受けやすい、都心の一等立地にあるマンションなどは大きく上昇する可能性もあるだろう。都心でなくとも地域一番のランドマーク的なマンション、人気の住宅地にある一戸建てなどは価値を維持、ないしは上昇するかもしれない。だがその他大半の一般的な住宅は、インフレによる価格高騰などないものと見ておいたほうがいいだろう。

インフレで賃料はどうなる?

 一方で、買わずに賃貸に住んでいた場合はどうなるだろうか?日本の現行制度(借地借家法)では、賃料を上げるのは事実上なかなか難しい。それでなくとも、前述した通り、住宅余りが著しい我が国において「賃料を上げる。いやなら出て行ってくれ」といえるオーナーはそうそういるものではない。

 不動産投資の世界では「空室対策セミナー」が花盛り。いかに入居者にサービスするか、どうやって気に入ってもらうかということが主題になっているくらい、圧倒的な「借り手市場」である。賃料をインフレにあわせて切り上げることが出来るのは、ほんの一部の人気物件に限定されるだろう。つまり激しいインフレが起きても、容易に賃料を上げることが出来ず、相対感覚として安く借りていることが出来るだろうということだ。

 ところで筆者は激しいインフレ、ましてや「ハイパーインフレ」と呼ばれるものが日本を襲う可能性は低いと考えている。マイルドなインフレは政策の変更などによって起きる可能性はあるが、その場合でも、マイホームの価格は長期的に見て、一部を除いて上昇の余地はほとんどない。この理由は上述した以外にもいくつかあり、追って説明する。

 むしろ目先的にはインフレやハイパーインフレよりも、スタグフレーション(不況下の物価上昇)的な状況について留意する局面であり、万が一でも「生活コストが上昇して住宅ローン支払いが苦しい」などということのないようにしておかなければならないのだ。それにはいくつかの選択肢しかない。「マイホームは買わない」「住宅ローン支払額に十分なゆとりを持つ」「売りやすい、貸しやすい物件を選ぶ」など。

「立地」の概念はこんなふうに変わる

 いずれにせよ「インフレに備えるために借金して不動産を買え!」はあまりにも乱暴だ。拙著『マイホームはこうして選びなさい』では、購入を前提として「価値の落ちない、落ちづらい物件をどうやって選ぶか」というノウハウを詰め込んだ。

 例えば「立地」の概念。これまで立地といえば「駅からの距離」「通勤や買い物の利便性」など、距離感や快適性に重きが置かれていた。これからは、その前段として「災害対応力」が重視される。「地盤」や「地質」について、ネットで可能な限り調べる、地域の図書館で古地図を閲覧する、ハザードマップで洪水などの実績も確認するなどはマストだし、不動産業者にも説明を求めよう。人口減・世帯減、住宅余剰下では、災害対応力の低い立地の長期的な資産性は自明だ。

地震のゆれやすさ全国マップ(内閣府)
 http://www.bousai.go.jp/oshirase/h17/yureyasusa/


地形でみる軟弱地盤マップ(ジオダス)
 http://www.jiban.co.jp/geodas/guest/index.asp


東京の液状化予測図(東京都土木技術支援・人材育成センター)
 http://doboku.metro.tokyo.jp/start/03-jyouhou/ekijyouka/


ハザードマップポータルサイト(国土交通省)
 http://disapotal.gsi.go.jp/


 


2011.9.1

第2回「低金利はマイホームの買い時」の落とし穴

https://diamond.jp/articles/-/13791




総裁選の一断面。安倍首相「農産物輸出データ」水増し疑惑の真偽

2018年09月15日 20時59分18秒 | Weblog

2018.09.12                 by

 

takano20180911-e

 

安倍首相流「農産物輸出」にも粉飾・水増し疑惑──自民党総裁選の一断面を覗く

自民党総裁選の焦点の1つは全810票の半分を占める地方票の行方で、安倍晋三首相としてはその6割以上を獲得できなければ事実上の敗北」で、3選を果たしたとしても直ちに党運営に支障を来し、来年参院選に向けて「安倍首相では戦えない」という下からの圧力に晒され続けることになると言われている。

それだけに安倍首相は、地方尊重=農業重視の姿勢を盛んに強調し、8月26日に鹿児島で桜島を背に芝居がかった出馬表明を演じた際にも、「攻めの農政を展開した結果、農林水産物の輸出額は、毎年最高を記録し、2012年に4,500億円だった輸出額が8,100億円倍近くになっている」と演説した。これは彼の決まり文句で、アベノミクスの成果を示す実例としてもしばしば持ち出され、そうするとマスコミが海外での「和食」ブームや「ジャパン・クール」宣伝などとイメージ的に重ね合わせて「輸出額1兆円達成も近い」など、さも明るいニュースであるかに囃し立てることになっている。

そもそも彼が農業重視を口にするなどおこがましい限りで、竹中平蔵系列の規制緩和論者の妄言を鵜呑みにして農協叩きに血道をあげてきた張本人が安倍首相ではないか。しかもこの「攻めの農政の結果」として「農林水産物輸出が倍近く」になったという話は、都合のよい事実や数字の断片だけ掻き集めて人々をたぶらかす安倍首相(というより今井尚哉=首相秘書官)の常套手段である。元々の数字に当たって自分で吟味しないとコロリ騙されてしまうのでご注意を。

 

農水省輸出統計

 

輸出の品目を見ると……

まず第1に、これはあくまで「農林水産物輸出」である。

 
takano20180911-1

図表1 農林水産物・食品の輸出に関する統計情報 (農水省)より

2017年の統計を見ると、総額は8,071億円で、そのうち農産物は4,966億円=61.5%、林産物は355億円=4.4%、水産物は2,749億円=34.1%で、これだけを見ても農林水産物輸出の倍増が「攻めの農政の結果」だと言うのは短絡的というか、巧妙な言葉の繋ぎによる印象操作であることが分かる。

第2に、そこで輸出の中身を見るために、農林水の3分野にまたがって金額の大きい順に品目を拾うと、次のようになる(図表2、単位=億円)。

図表2-農林水産物輸出の金額順上位15品目

  1.  アルコール飲料  545.0
  2.  ホタテ貝     462.5
  3.  穀物等      367.5
  4.  真珠       323.3
  5.  ソース混合調味料 295.9
  6.  野菜・果実類   251.0
  7.  清涼飲料水    245.0
  8.  さば       218.8
  9.  なまこ(調整品) 207.4
  10.  牛肉       191.6
  11.  菓子(米菓以外) 182.2
  12.  ぶり       153.8
  13.  播種用の種    151.7
  14.  緑茶       143.6
  15.  かつお・まぐろ  142.6

このうち、01、03、05、06、07、10、11、13、14が農畜産物になる。【1.アルコール飲料】は、日本酒=186.8億円がトップで、ウィスキー=136.4、ビール=128.7がそれに続く。原料に米や麦を使うので農産物に分類されるのだろうが、米はともかく麦はほぼ全量輸入だろうから日本の農家の収入とは無関係の単なる工業製品である。

5.ソース混合調味料】は、ソース、たれ、マヨネーズ、ドレッシング、カレールー等の調味料のことをこのように括っている。これもその下の【7,清涼飲料水】【11.菓子】などと同様に工業製品だろう。

 

11.菓子】はチョコレート菓子=87.9億円、キャンデー類=68.2、チューインガム7.9 などで、ほとんど国内農産品とは無関係である。

さらにこの表にはないが、この統計には全くの工業製品であることがはっきりしている「メントール」も含まれている(金額は37.7億円)。9月5日付「日本農業新聞」によると、かつてはメントールは国内農産物のハッカから抽出される天然成分として製造され、盛んに輸出されたこともあったが、今はほとんど絶滅して、専ら工業的に合成された化学品しか出回っていない。が、統計上は単なる惰性で今なお農産物にカウントされているという。これは一種の水増しである。

他方、水産物は【2.ホタテ貝】【4.真珠】【8.さば】【9.なまこ】【12.ぶり】【15.かつお・まぐろ】だが、真珠が水産物だというのは、言われてみれば「そうか、養殖だからな」とは思うけれども、食とは無関係のものがこれほど上位に入っていることに違和感がある。ちなみに、ホタテ貝となまこはそれなしには中華料理が成り立たない重要な食材で、香港を中心として中国、台湾、東南アジアに広がった大中華圏がお得意様である。

そうしてみると、これら上位品目の中で農家に関わりがあるものは驚くほど少なくて、【6.野菜・果実等】(主力はりんごの台湾向け輸出)のほかは【14.緑茶】くらいなのである。

原料が輸入では話にならない

第3に、いくら輸出を誇っても、その原料を輸入に頼っているのでは話にならない。図表2の上位陣の中では、すでに述べたように、ビールをはじめ麦を使う酒はほとんど輸入原料に頼っているし、【3.穀物等】は小麦粉=72.3億円、即席麺=58.4、うどん・そうめん・そば=42.2などだが、ほとんどすべての原料が輸入である。

 

5.ソース混合調味料】【11.菓子】も同様。さらに、【13.播種用の種】は、今では国内種苗会社が広大な隔離圃場を確保して採種することが難しいため、9割以上を海外で採種して日本に持ち込み、加工・包装して輸出しているだけの、言わば加工貿易にすぎない。

この表以外でも、国内農産品と言える品目を見つけるのが難しい。味噌と醤油がそれぞれ71.5億円、33.3億円も輸出されているのを見れば、「おお、日本食の素晴らしさが世界に理解されつつあるのだな」と思いがちだけれども、前出「日本農業新聞」によれば、原料のほとんどは輸入された大豆や小麦。「国内製造する味噌に使われる大豆の9割は輸入品。輸出する味噌でも割合はほとんど同じ」と、全国味噌工業協同組合連合会も認めている。また醤油製造に使われる大豆は年間18万トン(16年)で、このうち国産はわずか6,000トン=3%(しょうゆ情報センター)。

ごま油=58.7億円も、ほとんどがナイジェリア、パラグアイなどからの輸入原料に頼っていて、自給率は0.1 %しかないので、やはり加工貿易で、日本農業の強化とは無関係である。

従って、農林水産物の輸出が増えることが農家の収入をアップし日本農業の体質を強化するというのは、物事の半分しか見ないようにしてデッチ上げられた虚構にすぎない。野党とマスコミがこういう嘘を1つ1つ潰してこなかったから、安倍首相がいつまでも大きな顔をすることになるのである。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

 

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年9月10日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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 高野孟のTHE JOURNAL Vol.177 2015.03.16
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《目次》

【1】《INSIDER No.776》
   一体何なのか、鳩山クリミア訪問を巡る狂騒
   ──異論を許さない嫌〜な国柄へ

【2】《FLASH No.090》
   「農協潰し」は安倍政権の政治的怨念
   ──日刊ゲンダイ2月26日付から転載

【3】《CONFAB No.175》
   閑中忙話(2015年03月08日〜14日)

【4】《SHASIN No.153》付属写真館

★ニコ動「UIチャンネル」は、16日20時、鳩山友紀夫×孫崎享×高野で
 「クリミアの現状と日本外交の在り方」をお送り致します。
→ニコニコチャンネル: http://ch.nicovideo.jp/eaci

《発売中の高野著書》
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■■■INSIDER No.776 2015/03/16■■■■■■■■■■■■■■■■

一体何なのか、鳩山クリミア訪問を巡る狂騒
──異論を許さない嫌〜な国柄になってきた

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 3月10日から12日まで、ウクライナから独立を遂げて1年目のクリミ
アを訪問した。前後にモスクワに一泊したので計5日間の久しぶりのロ
シアへの旅だった。

 発端は、新右翼団体「一水会」の木村三浩代表が昨年8月と9月にク
リミアを訪れて、現地幹部と親交を結んだことから、百聞は一見にしか
ずだから是非とも鳩山由紀夫に現地を訪れて実情を見て貰いたいと私に
働きかけてきたことにある。私はかねてより、一昨年11月以来のウクラ
イナにおける市民デモがたちまちにして武装反乱に発展して政変、そし
て内乱に至ったプロセスに、米国の表と裏の勢力が関与してきたという
大いなる疑念を抱いていて、以下の本誌各号でもそれを主張し続けてき
たので、この提案に賛同した。

▼14-03-31 No.725 「プーチン=悪者論で済ませていいのか?/ウクラ
イナ、クリミア争乱の深層」
▼14-08-11 No.744 「ウクライナ:膠着の下で続く米欧vs露の我慢競べ
/「ガス供給停止」カードを握るプーチンがやや優位に?」
▼14-10-20 No.754 「プーチン主導で進むウクライナ危機の収拾/「カ
ラー革命」をめぐる攻防」
▼15-02-16 No.772 「薄氷を踏むかのウクライナ停戦合意/その裏で忘
れ去られた?クリミア問題」

 これらのエッセンスは先週発売の「友愛ブックレット」第4弾『ウク
ライナ危機の実相と日露関係』(花伝社 http://amzn.to/1Lh3pEF )に
も収められているので、ご覧頂きたい。

 鳩山や木村にはそれぞれの思いがあったには違いない。が、ジャーナ
リストである私としては、昨年来のウクライナ危機をめぐる日本におけ
る報道や論評が、米欧の観点に無批判に追随するばかりで実相から余り
にもかけ離れてしまっていることに強い違和感を抱いてきた立場から、
実際にクリミア現地に行って実情を確かめつつ、過剰かつ不当と思われ
る西側の対露経済・個人制裁の妥当性を問い直し、その解除の条件を探
り、日露関係の改善のための方策を見出したいとの思惑があった。そし
て現実に現地を見て、クリミア共和国やロシア政府の幹部と懇談し、ま
た人びとの生の声にも接することを通じて、少なくとも複眼的に、西側
の言いぶりだけでなくロシアやクリミアの側の見方も斟酌して、この事
態の打開策を考えなければならないとの思いをますます強くした。

●クリミアに行くのは「国賊」?

 ところが、我々がクリミアに行くのを察知した外務省からは、出発当
日の午前3時までロシア課長が芳賀秘書に電話をかけて「行くな」と制
止しようとする異様なまでの圧力がかかった。日本政府としては、ちょ
うど1年前のクリミアのウクライナからの独立とロシアへの編入は、武
力による領土の変更であり到底許容することができないという、米欧の
立場を支持して対露制裁に加わっているので、そのクリミアに足を踏み
入れることはその政府方針を妨げ、ロシアの立場を支持することに繋が
ると言うのである。

 そんなことはなくて、その対露制裁そのものがどれほどの根拠があっ
てなされたものであるのかをこの時点で検証し、どのような条件が整え
ばそれを解除できるかを模索することは、まことに「国益」に沿うこと
である。本来は政府としても、建前では制裁を続けつつも、裏では日露
関係を解きほぐして正常化するための工作を積み重ねなければならない
正念場であるはずで、それが外交というものだが、日本は建前だけで突
っ張らかって、ロシアが膝を屈して詫びを入れて来るまでいつまででも
制裁を続けるかの態度をとっている。そのような時に、鳩山が元総理で
あり日ソ共同宣言を成した一郎の孫でありながら今は一民間人であると
いう利点を活かして、この膠着をほぐす糸口を探ろうとするのはごく当
たり前の「民間外交」である。

 ところが、日本政府・外務省の立場に屈従するばかりの日本のメディ
アは、鳩山は「日本人ではない」「国賊」「パスポートを取り上げろ」
といった口汚いキャンペーンを繰り広げ、これを一個のスキャンダルに
仕立て上げた。つい先々週まで、ウクライナ危機の本質にも、クリミア
併合問題の実体にも、日露関係の行方にも、何ら興味を持つことすらな
かったメディアが、モスクワの街中や空港で彼を追い回し、成田の空港
でも待ち構えて「元総理としてどう責任を取るんですか」「クリミアに
亡命するって本当ですか」「ひと言お願いします」と絶叫してマイクを
突き付ける有様は、亡国的としか言いようがない悲惨さである。こうい
うメディアのはしたない幼稚さを通じて、政府方針に逆らって異論を唱
える者は「国賊」であるという社会的な雰囲気が深まって行くのが恐ろ
しい。

 もちろん、このような挙国一致=大政翼賛的な風潮に対する反発は湧
き出ている。3月15日付東京新聞の「こちら特報部」は「痛い文化」と
いう面白いテーマを取り上げていて、「痛い」とは「他人の的外れな言
動や勘違い・場違いな発言を批判的に評する若者言葉」なのだそうだが、
それはともかく、その特集の末尾に「牧」署名のデスクメモがありこう
書いている。

「ネットを見ると、鳩山由紀夫さんが『痛い人』になっていた。理由は
先のクリミア訪問だ。ウクライナの極右の所業などを考えると、同国と
ロシアのどちらが善で、どちらが悪かは決め難い。そんな場合、双方に
パイプがあることが肝要だ。米国のカーター外交の例もある。むしろ、
非難の理由が痛くないか」

 これが正常な感覚である。あるいは、……(47%表示/全文4,775文字
中2,245文字)

■■■ CONFAB No.176■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

閑中忙話(15年03月08日〜14日)

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

3月8日(日)

 10時から釜沼北の棚田クラブの新年度説明会。この一帯では、中心と
なる大山千枚田で130 組余りの棚田保存会員を毎年募集するが、参加希
望者が溢れてしまうので、近辺のいくつかの棚田に支部を作って数十組
ずつを受け入れている。ここはその1つで、始まって8年目の今年は25
組定員のところ初めて満員となった。3月から4月にかけてクロ塗り、
代掻きなどの準備作業を行い、5月2日に全員参加で田植え。途中に田
の草取りや畦道の草刈りが何度かあって、予定では9月5日に稲刈り、
9月26日に収穫祭という年間日程となった。

3月9日(月)

 成田発13時10分のエアロフロートでモスクワへ。新右翼団体「一水
会」の木村三浩代表の先導で、鳩山由紀夫さん、秘書で研究所事務局長
でもある芳賀大輔さん、木村さんの友人のIさん、それに私でクリミア
を訪問する旅なのだが、まあ外務省が「行くな、行くな」と五月蠅くて
今朝3時まで芳賀さんの携帯に電話をしてくるという狂態には呆れてし
まった。モスクワ時間の夕方にシェレメチョヴォ空港について、待ち構
える日本メディアを捲いて空港近くのホテルに辿り着くのに一苦労。機
内食が2回出たので、軽く一杯飲んで休む。

3月10日(火)

 モスクワ発9時20分でクリミアの首都シンフェローポリまで3時間弱
で着く。そのままヤルタ市に向かい、70年前に歴史的なヤルタ会談が行
われたリヴァディア宮殿と、帝政時代の市政官ヴォロンツォフ伯爵が19
世紀半ばにイギリス人建築家に建てさせたヴォロンツォフ宮殿を見学し
た(写真 http://bit.ly/1GJQvZ9 )。その後に同市のロステンコ市長、
コーサレフ市議会議長らと会食した。小アジの唐揚げが美味しくて、
「何と言う魚か」と聞くと「王様の魚」だと。1時間半かけてシンフェ
ローポリに戻り、22時30分ホテルにチェックイン。「ウクライナ・ホテ
ル」というクラシックな名門ホテルで、名前が「ウクライナ」のままで
あるのに加えて、その表記もウクライナ語のスペルのままなのが面白か
った(写真 http://bit.ly/1GJQvZ9 )。この名前で世界の顧客にも知
られているので、改名するつもりはないとのこと。この地が1954年から
2014年までの50年間、ウクライナ領であったことのモニュメントなのか
もしれない。レストランは24時間オープンなので、みんなで軽く飲んで
寝ることにしたが、何せエレベーターがないので、私は3階の部屋だっ
たのでまだしも、4階の人はウォッカを飲んだ後では部屋に辿り着くの
がなかなか大変だ。

3月11日(水)

 9時半から……(25%表示/全文4,325文字中1,086文字)

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                   2011年11月7日 高野孟

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 06年からの旧《ざ・こもんず》も、その発展形態として08年に始まった
《THE JOURNAL》も、私が自力で開設したネット上の情報共有空間を多く
のブロガーや読者に広く開放し、その自由闊達な双方向的なやりとりを通
じてこの世の中を少しでもマシなものにしていく新しい社会的な力を創り
出したいという狙いを込めたもので、小沢一郎元代表に対する検察の不当
弾圧への反撃キャンペーンや民主党政権誕生の後押しなど、いくつかのテ
ーマとタイミングでは大いに盛り上がって大変なアクセス数を記録し、1
つの実験としては狙い通りの成功を収めたと言えるでしょう。

 しかし、これを1つの事業として持続可能なものとしていくという点で
は、私はいかにも力不足であり、去る7月にポータルサイトへの記事配信
の契約が打ち切られた後は、ベンチャー型投資の受け入れの可能性を含め
ていろいろ模索しましたがそれも成らず、結局、かつてのINSIDERと同様、
まずは私がひたすら書き続け、それに多くの友人・知人たちが直接・間接
に協力してくれて、その私を中心とする心あるジャーナリストはじめ発言
者たちの共同の努力をよしとする読者の皆様に有料メルマガ購読という形
で支えて頂くという、言わば“原点”に回帰することになりました。これ
こそが《THE JOURNAL》を敢えてINSIDERと統合し、メルマガのタイトルを
「高野孟のTHE JOURNAL」と名乗ることにした意味にほかなりません。

 私も、普通なら定年退職という年頃もだいぶ過ぎて、もうそろそろ切っ
た張ったのジャーナリスト人生もいい加減にしようかという心境に近づき
つつあったのですが、3・11の凄惨とそれへの政治やメディアの無様な対
応ぶりを見て、改めて「こんな世の中を子や孫たちに残して死ねるか!」
という痛切な思いが嘔吐のように身体の底から湧き起こってきて、一念発
起、本当にこれが最後の一仕事と思い定めて「高野孟のTHE JOURNAL」を
やり遂げようと覚悟するに至りました。

 これまでのINSIDERのメルマガ読者や《THE JOURNAL》の閲覧者の皆様に
は、長い間のご支援に改めて心より感謝を申し述べたいと思います。その
上でさらなるお願いとなりますが、皆様には是非とも「高野孟の
THE JOURNAL」メルマガにご登録頂くとともに、周りの友人・知人の皆様
にもこれを大いに広めて頂いて、新しい経営基盤を1日も早く確立できる
ようご協力頂きたく、何とぞよろしくお願い申し上げます。▲

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著者プロフィール
 

高野孟

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

 


福祉避難所が機能せぬ日本に「超高齢化社会対策」など出来るのか

2018年09月15日 18時20分25秒 | Weblog

福祉避難所が機能せぬ日本に「超高齢化社会対策」など出来るのか

2018.08.03   by

介護は介護の問題にあらず。「福祉避難所」とは何か?

みなさん、福祉避難所って知ってますか?

これは災害などで避難する際に、高齢者や障害者を受け入れることができる避難所で、一般避難所に避難したのち、必要に応じて移る二次的な避難所です。

福祉避難所設置のきっかけは、1995年1月の阪神淡路大震災でした。

 

当時、体調の悪化や周囲となじめないなどの理由で避難所から出て行ってしまう高齢者や障害者が相次ぎ、「災害弱者を守る避難所を作ろう!」と気運が広がりました。

しかし、「うまく機能させる」難しさは、実際に災害にあわないとわかりません

例えば、東日本大震災で被災した高齢者や障害者は、施設から施設へ、地域から施設へと移送され、たらい回しにあいました。環境の変化は被災した人たちにとって最大のストレスです。

そのストレスが引き金となり、せっかく災害で守られた命が奪われる。いわゆる「震災関連死」が後を立たず大きな問題となってしまったのです。

そこで東北の教訓を生かそうと、全国の地方自治体が福祉避難所設置を積極的に進め、2014年10月時点で全国の7,647施設まで増加しました。

「福祉避難所が近くにあれば震災関連死を減らすことができる」

そう多くの自治体は考えていたのです。

しかしながら、2016年に起きた熊本地震では、地震発生から1週間後、福祉避難所に避難できた高齢者はわずか70人要支援者は1,700人と予想されていた)。

理由は施設も施設で働く人たちも被災し、「受け入れたくても受け入れられない」という厳しい現実でした。

福祉避難所に入れない人たちは一般の避難所での生活を余儀なくされ、学校の先生たちがケア。その負担は大きく、介護経験のない先生たちにとっても、また介護を受ける高齢者たちにとってもストレスになってしまったのです。

当時は「1週間後にわずか70人」という衝撃的な数字であったため、新聞やテレビも報道。話題となりました。

私自身、出演していた番組で「福祉避難所の実態」を取り上げ、問題提起。反響も大きかった。誰もが「そうだよね。どうにかしなきゃ」と“その時は共感したのです。

 

そして、今回。西日本豪雨では、岡山、広島、愛媛の3県の「福祉避難所」は46カ所で開設され計253人が利用。熊本地震より増えたとはいえ、避難をあきらめ、在宅で生活している人も多いのでは? と懸念されています。

 

つまり、相当数の災害弱者が孤立している可能性」があると指摘されているのです。

ところが、この大切なニュースを報じたのは一部の新聞のみ(毎日新聞)。私が知る限りテレビではあまり取り上げられなかった

数年後に待ち受ける超高齢化社会と、いつ、どこで、災害が起きてもおかしくない災害大国であるにもかかわらず、です。

こういう時こそ、もっともっと大々的に報じる必要があるのに、残念です。本当に残念です。

介護の問題って介護だけの問題にしておいてはダメだと思うんです。

 

一般の人たちがどうやって助けるか?が大切で、普通の人たちでも介護ができるようにする。介護の専門家が一人いれば、すべての人たちがそのヘルプをできるくらい介護の知識と経験が国民全員にあればいいんじゃないかと。

介護といっても、身の回りのお掃除もあれば、食事を出す、話すということも介護だしトイレのタイミングやトイレに行きたがらない高齢者の促し方をみんなが「当たり前」に知ってるようにする。そんな「超高齢化社会対策ができてる国」にするにはどうしたらいいのか?

それを「議論する必要があると思うのです。

参考になるのが北海道の当別町です。

当別町では平成14年から地域福祉計画で「北海道医療大学との連携促進」が掲げられ、地域の大学・学生とともに地域福祉に取り組む方針が示されました。

学生たちが高齢者と触れ合い、ボランティアが日常的に高齢者を支える。そうすれば必然的に介護を経験できます。

また、高齢者自身もボランティアに参加するなど、地域のメンバーの一人として活動する。そこで暮らす全ての人たちが年齢や障害に関係なくつながる取り組みを進めているのです。

昔から「村祭りの多い地域は災害に強い」と言われてきましたが、これからは「介護を軸に地域で繋がっていく地域が災害に強い地域になっていくと思います。

みなさんの町は? 市は? どうですか? みなさんのマンションはどうですか?

この機会にぜひ、確認してみてください。

 

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年8月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

https://www.mag2.com/p/news/366889/2



学歴や収入よりも「幸福感」を左右する要素が判明、意外な調査結果に..

2018.09.06   .by

 

収入や学歴などよりも、「自己決定度」が幸福感に大きな影響を与えていることが、神戸大学の研究により明らかになりました。健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中でこの研究結果を詳しく紹介するとともに、誰にも忖度せず、また押し付けられもしない選択がしづらい状況に置かれている我々現代人が、自分を信じて本来の意味での「選択の自由」を取り戻せば、ギスギスした社会の空気も和らぐのではないかと記しています。

 

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年9月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

選択の自由と幸福感

「所得、学歴よりも『自己決定が幸福感に強い影響を与えている」ことが神戸大学の西村和雄特命教授らが実施した、2万人に対するアンケート調査で明らかになりました。

かなり昔から所得水準と幸福度が必ずしも関係しないことは、国内外の調査で分かっていましたが、「何が」「どの程度」影響しているかは未だ明確ではありませんでした。

そこで神戸大のチームは、「所得」「学歴」「進学や就職などにおける選択の自由を示す自己決定」「健康」「人間関係」──の5項目に関する選択式の質問を設けて、統計的に分析したのです。

 

その結果、

  • 自己決定は健康や人間関係に次いで幸福感に影響を与えていた
  • 自己決定は所得と比較すると、約1.4倍強い影響があった
  • 学歴は統計的に有意な結果が出なかった

などがわかりました。さらに、調査では「35~40歳の幸福感が他の年齢比べて低いこともわかったそうです。

研究チームは結果について、

自己決定で進路を決定した人は、自らの判断で努力し、目的を達成する可能性が高くなる。また、成果に対しても責任と誇りを持ちやすくなる。こういった達成感や自尊心が、幸福感を高めることにつながっていると考えられる。

とコメントしています。

自己決定――。すなわち「選択の自由」は、健康社会学では「裁量権」、あるいは「ローカスオブコントロール」と呼ばれています。

これは「選択の自由がある自分が思えることを意味し、どんなに選択肢があっても「正解」が暗黙裡に決められていたり、「忖度しなければならない環境」では意味をなしません。あくまでも「私が決めていい。自分に決める自由がある」と思えることが肝心なのです。

こういった感覚を持つことができると、それだけでやる気が高まります。職務満足感や人生の満足度を高め、寿命にまで影響することがこれまで多くの調査で示されてきました。

たとえば、英ロンドン大学が1967年から継続して行っている疫学研究、通称「ホワイト・ホール・スタディ」では、裁量権のあるトップは、裁量権のない一般社員と比べて死亡率が4倍も低いことがわかりました。喫煙率、高血圧、血清コレステロール値、血糖値など、寿命に影響するリスク因子のすべて加味しても、結果は変わりませんでした。

また、一説には動物園の動物の寿命が野生の動物より短いのも、「選択の自由」がないからだという指摘もあります(この件には賛否両論あり)。

 

さて、私たちの社会ではどうでしょうか?

 

人生における選択肢は増えているはずなのに、「これが正解!」が溢れている。正解から外れると「負け組」と排除されたり、ちょっとでも失敗すると「自己責任」が問われてしまったり。「選択の自由」はあるはずなのに、それを実感できない。とっても息苦しい社会になっている。そう思えてなりません。

その一方で、「失敗したくない」「責任を取りたくないから」という不安から「選択の自由を自ら放棄している人も増えてきました。

そして、その自由を自ら放棄した時「言われたことだけやっていた方が楽」などという言葉で、自分を納得させる。それが身も心もビショ濡れにするストレスの雨になってしまうにもかかわらず、です。

私がこれまでインタビューしたビジネスマンの中には、他人からなんと言われようとも失敗をおそれずに「自分の選択で一歩踏み出していた人たちがいました。

彼らは「人生、思い通りにはいきません」と苦笑いしながらもキラキラ輝いていました

 

選択の自由。あなたはありますか? 自分で決めることをあきらめていませんか? どうか自分を信じて、「あなたの正解」を見つけてください。

そんな「自由人」が1人でも増えれば、今のギスギスした空気も和らぐのではないでしょうか。

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年9月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。


河合 薫この著者の記事一覧

 米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。



1日4時間労働に変えたら2年でボロ儲け、ドイツ式働き方改革

 2018.05.03   by

 

人手不足だからこそ「休もう!」。夢の週28時間労働

 

1日いつでも4時間だけ働けばいい――。こんな夢のような労働条件で、生産性を上げている企業があります。「ebm パプスト社」。従業員1万4,000人が働く、ドイツ南部の工業用通気システムを製造する世界的企業です。

 

今から4年前のこと。人手不足に悩んでいたパプスト社は、「働き方を変えよう。会社にいる文化から、結果の文化に変えよう。若い世代を呼び込むにはもっと自由が必要だ」と一念発起。手始めとしてシフト制を廃止し、「最低4時間出社してればオッケー!」と従業員に自由を与えたのです。

 

8時間労働は厳守ですが、いつ働くかは自由・残業した場合は「時間口座」に貯められるようにしました。「時間口座」とは、フランスなどで取り入れられている制度で、働く人たちは口座から残業時間をおろし有給休暇として使うことが可能です。

中略

そこで同社は、2年後の2016年、なんと「1日の最低出社時間までも廃止したのです!「最低週28時間は必ず働いてくれればいい。それと1日働いた時間を必ず記録する。それさえ守ってくれれば、あとは自由だ! 君たちの自由だ!」こうトップは社員たちに伝えました。

 

企業には労働者の健康を守る上で、労働時間を管理する義務があるので、それを果たすために労働者に協力してもらったのです。

こういった取り組みの結果、生産性も向上し、売上高は19億ユーロ、日本円で約2,520億。ひとりあたり1億8,000万円売り上げている計算になります。さらに、若者の人気企業になり、ドイツではパプスト社を真似る企業が増えているのです。

パプスト社のトップはこう断言します。「僕が社員に言い続けたのはキミたちを信じているってことだけだ」と。そして、「自由に慣れ、堕落した働き方をする社員も出てくるかもしれない。大切なのはそのことを常に意識し、働く人たちと向き合うことだ」と。

そうです。彼は「人間の力を信じた経営をしよう」と、覚悟したのです。これこそが、真の経営なんじゃないでしょうか。

方や、ドイツと同じく高齢化と人手不足に悩む日本はどうでしょうか? 人間の力を信じているのでしょうか? 社員たちひとりひとりに「期待」をしているのでしょうか?

 

人手不足で深刻なサービス業では、軒並み残業が増え賃金も上がらず若い人たちが次々と辞めています

「もっと働け!」ではなく、「もっと休め!」

こう覚悟できるトップこそが、これからは勝つ。信頼の上に信頼は築かれ、期待の先に結果がある。人を信頼できない経営が働く人たちを苦しめている。そう思えてなりません。


プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。


2018.08.09

不気味な傾向。日本に上陸する台風は年々大型化し、速度も遅くなっている

温暖化で変わる台風の姿

みなさま、台風は大丈夫でしたでしょうか?

関東地方では雨風共に強くなりますし、高潮の被害も予想されています。できればこんな日は会社も臨時休業にしてもらいたいです。それほどまでに最近の気象現象は「過去の経験が通じなくなっていることはみなさんも「肌」で感じているのではないでしょうか。

最新の研究では、「ハリケーンや台風などの熱帯低気圧の移動速度が数十年前より遅くなっている」ことがわかりました。Natureの6月号に寄稿された論文の筆者、米海洋大気局(NOAA)気象気候センターのジェームズ・コーシン氏によれば、

 

「熱帯低気圧は1949~2016年に、全体の移動速度が平均で10%低下している。上陸後に速度がより低下する地域もあった。特に、太平洋北西部では上陸後の台風の速度が30%も低下していた」

とのこと。その理由について、

極地の方がほかの地域より温暖化が速く進んでいるせいで、気圧の勾配に変化が生じ熱帯低気圧を移動させる風が弱まっている」

としています。

台風は偏西風などの大きな風の力で流されます。日本に上陸すると途端に速度を増すのも、日本上空の偏西風に台風が乗るためです。ところが温暖化の影響で偏西風が極端に弱くなったり日本列島の上空に吹いていないなどの状況が頻発しているのです。

台風の移動速度が遅くなれば、同じ場所に長時間雨が降り続けることになり、土砂崩れや河川の氾濫の危険性が高まります。特に日本列島は「ジェットコースター並」と言われるほど、急勾配の河川が多く、河川の氾濫は避けて通ることはできません。西日本豪雨のときと同様の被害が、あちこちで頻発する可能性が高まっているのです。

今から20年ほど前。温暖化による気候変動に関心が高まっている頃、「台風の変化」を予測する試みを世界中の気象学者たちが行いました。発生数に関しては「増える」「減る」「変わらない」と意見は分かれましたが、強さは関してはほとんどの研究者が強まる」としました。

 

実際、2000年後は台風が来るたびに「戦後最大級の台風接近!」というフレーズが繰り返されましたし、私自身、台風の雨雲をレーダーで見たときに、「うわぁ、こんなにきれいなスパイラルバンド見たことない!」と驚いた記憶があります。確か2004年頃だったと思います(記憶が曖昧でごめんなさい)。

スパイラルバンドとは「台風の周囲の渦巻き状の雲」のことで、この雲がかかると突然強い雨が降ります。台風の目の周りを取り囲むように、クルクルと雲ができあがるのです。

ただ、クルッと目の周りを雲が取り囲むにはよほど強い風が吹いていないと無理。半分に切れたり、バラけてしまったり、「スパイラル」というより「カンマ」型になった雲しかそれまでは見たことがありませんでした。

ところがそのとき(2004年)レーダーに映っていたのは、台風の目の周りを「クルクル」っときれいな渦巻き状になった雨雲でした。災害をもたらす危険な雲なので不謹慎ではありますが、実に美しく。一方で「台風が変ってきているというリアルを突きつけられ抱いた「恐怖感」は今も心の奥底に残っています。

最近は「気候変動はこれまでの予想をはるかに超えるレベルで、ハリケーンや台風の危険をすでに増幅させている」との意見も増えてきました。

 

琉球大学や名古屋大学などが、飛行機で台風の目に近づいて内部を直接観測する技術を確立したことで、進路予測の精度は最大で16%向上しました。

先人たちが台風から人々を守るために、富士山頂でレーダー観測を始めたように今後も「人を守る技術」はより詳しく、より丁寧な予測を可能にすることでしょう。

でも、それを生かすも殺すも私たち」自身です。




 

 

 

 

 

 


トランプの暴走は「中東大戦争・世界経済危機」を起こしかねない

2018年09月11日 02時46分38秒 | Weblog

ダイヤモンド・オンライン

2018年7月31日 北野幸伯 :国際関係アナリスト

日本人は、欧州と米国を「いつも一緒」「ほとんど同じ」という意味で、「欧米」とまとめた言葉を使う。しかし、「アメリカファースト」を掲げるトランプが、米国と欧州の関係をボロボロにしている。そして、トランプに嫌気がさした欧州は、米国のライバル・中国に急接近している。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

トランプが欧州を激しく批判!
嵐のNATO首脳会議

トランプの「アメリカファースト」が世界に大混乱を巻き起こしているトランプの「アメリカファースト」のゴリ押しは欧州と中国を接近させ、中東大戦争と世界経済危機の危険性を高めている Photo:AP/AFLO

 ベルギーの首都ブリュッセルで7月11日、NATO首脳会議が開催された。ここでトランプは、2つの問題で欧州を激しく批判した。

 まずは、米国以外のNATO加盟国の防衛費負担が少なすぎること。毎日新聞7月11日付から(太線筆者、以下同じ)。

<NATOは2014年、対ロシア関係の緊張高まりを受け、24年までにすべての加盟国が国防費をGDP比で2%以上に引き上げる目標を設定した。
 しかし18年中に達成が見込まれるのは、加盟29ヵ国のうち米英やロシアに近い東欧中心の計8ヵ国のみだ。
 これに対し、米国はNATO全加盟国の国防支出の7割近くを占める。

 NATOは、29ヵ国からなる「反ロシア軍事ブロック」である。加盟国の中には、GDP世界4位のドイツ、5位のイギリス、7位のフランス、9位のイタリア、そして10位のカナダなど、経済大国もある。トランプは、「欧州をロシアの脅威から守っているのに、なぜ米国が7割も負担しなくてはならないのだ」と憤っているのだ。

 彼は、米国と欧州の間に対立があることを隠さない。それどころか、世界に向けて情報を発信している。

<こうした点に不満を持つトランプ氏は首脳会議前日の10日、「NATO加盟国はもっと多く、米国はより少なく払うべきだ。とても不公平だ」と主張するなど、通商問題も絡めながら欧州の加盟国を批判するツイートを繰り返した。>(同上)

 彼は、問題をツイートすることで、米国民に「公約を守っている。国のために働いている」とアピールしたいのだろう。米国民、特にトランプに投票した人々は、喜んでいるに違いない。

EUの盟主・ドイツが
トランプのターゲットに

 欧州の中で、トランプが特にターゲットにしているのは、ドイツだ。

 <とりわけトランプ氏が標的とするのは欧州最大の経済大国ドイツだ。ドイツの国防費はGDP比約1.2%で、24年までの引き上げ目標も1.5%にとどまる。>(同前)

 欧州最大の経済大国ドイツ。既述のように同国のGDPは、世界4位である。しかも、EUにおけるドイツのパワーは圧倒的で、「EU=ドイツ帝国」と主張する人もいる。名実共に「EUの盟主」と言える存在だ。

 フランスの人類学者エマニュエル・トッドは、「ソ連崩壊」「米国発金融危機」「アラブの春」などを予言したことで知られている。そんな彼も、「EU=ドイツ帝国」という意見の持ち主で、『「ドイツ帝国』が世界を破滅させる」(文春新書)という本まで出版している。

「EU=ドイツ帝国」という視点で見ると、そのGDPは世界の22%にもなり、「米国と並ぶ大国」ということになる(EUのGDPには、英国も含む)。こんな強大な国が、「安保にタダ乗りしている」と、トランプは不満なのだ。

 トランプが欧州を批判するもう1つの理由は、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインプロジェクトだ。

<トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2(Nord Stream II)」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。
続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。>
(AFP=時事 7月11日)

ドイツとロシアが
天然ガスを巡って接近



「ドイツはロシアに完全に支配されている」という、過激な発言が飛び出した。

 欧州がロシアのガスに依存していることは、よく知られた事実である(総輸入量の約4割、総消費量の約3割)。ところで、ロシアのガスは、どうやって欧州まで届くのだろうか?

 これまで、主なルートはウクライナ経由のパイプラインだった。その後、ロシアとウクライナは、しばしばガス料金問題で対立。「ロシアがウクライナへのガス供給を止めた」というニュースを覚えている方も多いだろう。

 ロシアは、「反ロのウクライナを迂回して、直接欧州にガスを届ける方法」を模索しはじめた。そしてできたのが、ロシアとドイツを直接結ぶ海底パイプライン「ノルド・ストリーム」だ(2011年稼働)。


 その後、ロシア―ウクライナ関係は、さらに複雑になっていく。2014年2月、ウクライナで再び革命が起こり、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚(親ロ・ヤヌコビッチは、2010年の大統領選で、親欧米派の候補に勝利していた)。

 同年3月、ロシアは、クリミアを併合。同4月、ウクライナ親欧米新政権と、東部親ロシア派ドネツク、ルガンスク州の間で内戦が勃発した。そして現在に至るまで、ロシア―ウクライナ関係は最悪な状態が続いている。

 当然ロシアは、「ウクライナを経由しないルート構築」をますます望むようになり、「ガスの安定供給」を願う西欧と利害が一致した。そして現在、進められているのが「ノルド・ストリーム2」プロジェクトだ。(2019年稼働予定)

EUと中国が事実上の
「反米声明」を発表

 トランプは、これに反対しているのだ。彼は「ドイツはロシアに完全に支配されている」と批判する。「欧州のロシア依存度が高すぎるのは、安保面で問題」というのだ。これは、その通りかもしれないが、米国には「ノルド・ストリーム2」計画に反対する理由がほかにも2つある。

 1つは、親米のウクライナ・ポロシェンコ政権を守ること。「ノルド・ストリーム2」が完成すれば、ウクライナは自国領を通過するガスパイプラインの「トランジット料」を得ることができなくなり、経済的に困窮する。

 もう1つの理由は、米国自身が欧州に液化天然ガスを売りたいから。米国は、シェール革命の恩恵で、世界一の石油・ガス大国に浮上した。それで、石油・ガスの売り込み先を探している。米国は、欧州への輸出を狙っていて、ロシアを排除したいのだ。

 トランプは、「欧州のロシア依存が高くなりすぎるのは危険」というが、要は「米国のガスを買いなさい」ということなのだ。

 トランプはNATO首脳会議を終えた7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで、プーチンと会談した。「軍縮」「ウクライナ問題」「シリア問題」「イラン問題」など、さまざまなテーマが話し合われたが、具体的合意はなかった。それでも、トランプとプーチンは、最悪になっている米ロ関係を改善させる意志を示した。

 同日、EUと中国の首脳会談が北京で行われている。そして、なんとEUと中国が、事実上「反米の共同声明」を出した。

<<中国EU首脳会議>共同声明に「反保護主義」明記
毎日新聞 7/16(月) 23:43配信 
【北京・河津啓介】中国と欧州連合(EU)は16日、北京で首脳会議を開いた。
 会議後に発表した共同声明には「反保護主義」が明記された。
 共に米国との通商問題を抱える中国と欧州が連携強化を確認した形だ。>

 <会議には中国の李克強首相とEUのトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)、ユンケル欧州委員長が出席。会議後の共同会見で、トゥスク氏は同じ日に米露首脳会談も開かれることに言及し、欧州と米露中が
「国際秩序の破壊や貿易戦争の開始を避ける義務がある」
と訴えた。>(同上)

「トランプ外交」が
中東大戦争を引き起こす可能性

 トゥスクは、「欧州と米露中が」という表現を使った。しかし、「貿易戦争」を開始したのは、米国である。そして、国際秩序を破壊している件についても、「クリミアを併合した」ロシアというよりは、「パリ協定」「イラン核合意」から離脱した米国のことを指しているのだろう。

「孫子の国」中国は、米国と欧州の亀裂を巧みに利用する。

中国は米中関係の悪化を見据え、欧州との関係を重視している。>(同前)


<李首相は今月ドイツを公式訪問して経済連携の強化で一致。10日には、ノーベル平和賞を受賞した民主活動家で昨年7月に事実上の獄中死をした劉暁波氏の妻、劉霞さん(57)を解放し、人権問題に関心の高い欧州諸国に配慮を示していた。>(同前)


 劉暁波氏の妻、劉霞さんも、中国にとっては「政治の道具」に過ぎない(それでも、ドイツに脱出できてよかったが)。

「アメリカファースト」を掲げるトランプは、これまで「有言実行」を貫いてきた。「公約を守ること」は、もちろん美徳だろう。しかし、その「公約」自体に問題があれば、約束を守ることで危機が起こることもある。

 「トランプ外交」の結果、起こる可能性のある「大きな災い」が2つある。

 1つは中東戦争だ。トランプ米国は、「イラン核合意」から離脱した。ところが、この合意に参加した他の国々、具体的には、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは「合意維持」を求めている。しかも、国際原子力機関(IAEA)は「イランは、合意を守っている」と宣言しているのだ。

 この件に関しては、「米国が正しい」と考える国は、イランと敵対するイスラエル、サウジアラビアくらいしかない。にもかかわらず、トランプは世界中の国々に「イランからの原油輸入をやめろ」「やめなければ制裁を科す」と脅している。

 これに反発したイランのロウハニ大統領は7月22日、「イランとの戦争が究極の戦争になることを(米国は)理解しなくてはならない!」と、米国を威嚇した。

トランプが仕掛ける貿易戦争が
世界経済危機を招く恐れも

 トランプも早速反撃。「イランのロウハニ大統領へ。米国を二度と脅すな。さもなければ、これまでの歴史でほとんど誰も被ったことのないような結末に見舞われるだろう。米国はもはやイランが発する暴力と死の狂気の言葉を我慢する国ではない。気を付けろ!」とツイートした。

 これを読んで、トランプと金正恩のやり取りを思い出したのは、筆者だけではないだろう。

 しかし、北朝鮮とイランには決定的な違いがある。そう、北朝鮮には核兵器があるが、イランにはないのだ。つまり、トランプにとってイランは、「北朝鮮よりは戦争しやすい相手」ということになる(もちろん、人口8000万人の大国イランと戦争することは、容易ではないが)。

 もう1つの「大きな災い」は、貿易戦争だ。米国は、中国、欧州と貿易戦争を開始したが、エスカレートすれば、世界GDPの6割を占める国々の貿易量が減ることになる(2017年の世界GDPに占める割合は米国24%、欧州22%、中国15%だった)。

 当然、米欧中の企業は生産を減らす。売り上げと利益が減ることで投資、消費も減少。その結果さらに生産が減るという、「縮小スパイラル」に突入していく。この貿易戦争が、容易に「世界的危機」に転化し得ることは、多くの専門家が指摘している。

 例えば、ノーベル賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン氏は、以下のようなツイートをした。

<「トランプ大統領が貿易戦争に向かって行進する中、私は市場の慢心に驚いている」と、クルーグマン教授はツイッターに投稿。
「トランプ氏が行くところまで行って、世界経済を壊すのかは分からない。しかし、相当な可能性があるのは確かだ。50%?30%?」と続けた。>
(ブルームバーグ 6月20日)

 そうでなくても、日本経済には、2つの「危機要因」が存在している。

 1つは、来年10月の「消費税再引き上げ」だ。これで、消費は落ち込むだろう。もう1つは、「東京五輪バブルの終焉」。すでに、銀行は不動産への融資を渋るようになり、価格が下がり始めている。日本経済には現在、「暗雲」が漂いはじめている。これに、トランプの貿易戦争が追い討ちをかけるような事態になれば最悪だ。

 当事者たちもさすがにマズいと思ったのか、7月25日、トランプと欧州委員会のユンケル委員長がホワイトハウスで会談。貿易戦争を回避するための協議を開始することで合意した。協議が進展し、世界に不幸をもたらす米欧貿易戦争が回避されることを願う。

 

 
 
 
2018年9月10日 倉都康行 :RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役

リーマン後10年「次なるリスク」、債務膨張に経済ナショナリズム…

リーマンショックから今月で10年Photo:PIXTA

 世界経済を襲った「2008年9月15日」は、誤解を恐れずに言えば、日本列島を驚愕させた「2011年3月11日」と同じくらいに忘れられない特別な日だ。

 あの日、全米第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが、当時最大の6390億ドルという巨額の負債総額を抱えて経営破綻した。それ以降世界に広がった銀行不信、株価暴落、景気後退、失業急増などの「悪夢の連続」から10年がたった。

回復した世界経済が抱える
「3つのリスク」

 主要国における銀行支援策や積極的な金融緩和、そして中国の大胆な財政政策出動などが奏功し、世界経済はすっかり立ち直った。

 日本も、当時は需要蒸発、就職氷河期といった暗鬱な言葉が飛び交う経済状況に陥ったが、堅調な海外経済に恵まれて、潜在成長率を上回る経済拡大ペースを維持している。

 深刻な金融危機の温床となった米国の金融システムは規制強化によって健全化し、主要国のGDPは危機以前の水準を上回って、世界各国の株価指数も大幅に上昇している。ゼロ金利や量的緩和といった危機対応の金融政策は、米国を筆頭に修正が進んでいる。

 この回復過程で、欧州でのギリシャ不安や中国からの資本流出懸念など、危機再来への懸念が強まる局面も何度かあったが、世界経済はその都度、難局を乗り越えてきた。そして2017年には「世界同時好況」といったムードに包まれるようになり、少なくとも金融危機の記憶はすっかり風化してしまった、といってよい。

 だが安心していていいのだろうか。

 各国経済をより深く眺めれば、危機が残した爪痕は完全には消えていない。 リーマンショックの「置き土産」として、世界は、債務の膨張、金融政策の迷走、地政学の変貌という3つの潜在的リスクを抱えている。

記録的に膨張した債務
政府の赤字や中国の民間借り入れ

 まず目立つのは、世界各国で増加する負債額だ。

 世界経済が成長軌道に戻ったのと、世界の負債規模が大幅に増大しているのは、コインの裏表のようなものだ。美しい片面のもう一方に、将来のリスクが隠れている。100年に一度といわれた金融危機からの脱却が、経済の自律的回復力だけで達成されたものでないことは明らかだ。

 成長の代償として、世界各国は大規模な債務増を背負った。IIF(国際金融協会)によれば、世界の債務額は2007年の142兆ドルから2008年3月には247兆ドルにまで増加、GDP比で見ると269%から320%にまで拡大している。

 その中枢を占めるのが、政府など公的機関と非金融民間企業の借り入れだ。

 前者は銀行支援や景気対策で各国政府の財政赤字が拡大した結果だ。後者は中国企業を中心とした不動産・建設・資源開発などの投資のための借金である。

 いずれもプラス効果とマイナス効果を併せ持つ負債だが、今後、金利上昇が続くとすれば、変動金利ベースでの借り入れ負担はかなり厳しくなるだろう。

 この負債の増加の中で、イタリアやギリシャなど南欧諸国や日本の慢性的な財政赤字構造や、減税・歳出拡大へ邁進する米国の財政赤字が拡大した。だが公的債務の増加も気がかりだが、昨今の市場がより警戒しているのは、ハイペースで膨らんでいる中国の民間企業の負債残高だ。

 同国の負債水準はさまざまな国際機関や民間金融が推計しているが、現時点で、中国の非金融民間企業の負債水準はGDP比ほぼ200%のレベルにまで達した、との見方が強まっている。

 日本のバブル期でも100%程度だったことを思えば、空恐ろしい水準である。さらにドル建て債務のシェアが高まっていることは、昨今のドル高・人民元安で返済負担が増大していることを意味している。

 これは、リーマンショック後、2008年に中国政府が金融危機対策として発動した財政出動と平仄を合わせて急増した民間負債であり、その中の怪しげな負債が銀行のバランスシートから外されて「理財商品」として個人を含む投資家に転売されていたことも話題になった。

 現在、中国政府は「金融システムの健全化」を掲げて取引の透明化を急いでいるが、過剰投資・過剰生産が常態化している中国経済で、金融問題の是正は容易ではない。

 米国との貿易摩擦が貿易戦争へと転じていく過程で、成長ペースに下押し圧力が強まれば、国有企業といえどもデフォルトリスクに直面する。そんなリスクを回避すべく、いま中国政府は鉄道などインフラ投資増を含めた景気対策を打ち出している。負債額が一段と増加しかねない状況に向かい始めているのである。

金融危機対策の後遺症
正常化に遠い金融政策

 金融危機対策の後遺症として中国経済に現れたのが民間負債の急増だとすれば、低成長の長期化という「難病」に悩まされる日米欧など先進国には、金融政策へのしわ寄せが表面化している。

 その「症状」をなかなか克服できないのが日本であることは、ここであらためて述べる必要もあるまいが、ようやく軌道修正に向かい始めたユーロ圏だけでなく、金利正常化へとかじを切った米国さえも、本来の金融政策の姿を取り戻しているとは言い難い。

 ECB(欧州中央銀行)は10月以降、資産買い入れ額を半減させ、年内に量的緩和策を打ち切る方針を決めた。来年夏以降には利上げも視野に入れており、FRB(米連邦準備制度理事会)に続いて正常化への道を歩むと見られている。

 だが昨年の高成長の反動やユーロ高の影響、そして米国との貿易摩擦などの逆風を受けて、実体経済や物価動向には強い不透明感が漂っている。

 EU内を見ても、ギリシャは支援のプログラムから脱したとはいえ経済・財政の再建には程遠く、ポピュリズム政権が誕生したイタリアは再び財政赤字拡大へ向かう公算が高い。同国の反ユーロ機運はいずれ復活するだろう。

 そして政治経済の中核を担うドイツではメルケル首相の存在感の低下が甚だしく、域内をまとめ上げる政治力が弱まっていることもユーロ圏経済と金融政策を揺さぶる要因になっている。

 欧州には、まだ危機の余韻が漂っているのだ。

 そして量的緩和から脱却して利上げと保有債券減少の「正常化路線」を歩むFRBも、自信満々という印象からは程遠い。

 米国の潜在成長率は戦後で最も低い1%未満の状況にあり、就業を希望しながら仕事に就けないでいる潜在的労働力も、まだ相当存在すると見られている。

 トランプ大統領の減税策や歳出拡大策によって景気拡大期が延びているが、債券市場の利回り曲線は来年後半にも景気が失速する可能性を示唆している。景気後退となれば、FRBはゼロ金利・量的緩和などの再出動や、日本と同様のマイナス金利導入あるいは長期金利の低水準での固定化といった「奇策」を余儀なくされる可能性が高い。

 つまり日本だけでなく欧州も、そして米国さえも、金融政策では、リーマンショック以降の異常な政策からの「本物の出口」を見いだせていないのである。

「異形の大統領」を生み出した
経済ナショナリズムの高揚

 そしていま為替市場では、トルコをはじめとしてアルゼンチン、ブラジル、ロシア、インドそして中国などに至るまで、新興国通貨安の嵐が吹き荒れている。

 これは各国における政治経済情勢への懸念にドル高や金利上昇が加わったうえ、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争を契機とする投資家心理の悪化が重なったものだ。

 関税引き上げという反自由貿易政策への傾斜をトランプ大統領流の脅しと見る向きも多いが、これは10年前の危機と全く無縁の産物ではない。

 1930年代の世界大恐慌が保護貿易の嵐を呼び、それが第二次世界大戦の呼び水になったことは周知の通りだが、2008年の世界的大不況を機に、成長機会が他国に奪われたとの不満が各国の国民の間で強まり、米国内でも保護主義が生まれる下地を形成した、と言ってよい。

 しかも結局、この10年間のリーマンショックからの回復の過程でも、恩恵を受けたのは株や不動産の値上がりを享受した富裕層や、公的支援を受けた金融業界の経営者、デジタル社会の波に乗ったハイテク企業の経営者といった少数の人々だった。

 労働分配率が低下する中で、一般家計の実質所得は低迷したままであり、そんな大衆の不満をうまく吸い上げたのが、2016年の米国大統領選挙で勝利したトランプ氏だった。

「異形の大統領」の出現は、決して偶然ではなく金融史が生んだ1つのドラマなのである。

 その「経済ナショナリズムの高揚」は、地政学の面でも重要な意味を含んでいる。

 20世紀初頭は英国の国際的覇権が大きく低下する世界秩序の転換点だったが、トランプ政権の誕生もまた、米国が戦後に築いてきた世界秩序が崩れる予兆を示唆しているからだ。

 同大統領はカナダや欧州、日本など伝統的な友好国にも背を向け、NATO同盟国のトルコを冷たくあしらい、中国やイランへの敵意をむき出しにする一方で、ロシアには秋波を送りつつ中東ではサウジに極度の肩入れをするなど、世界の安定的な政治経済基盤を揺るがせている。

地政学リスクは
戦後システムの転換につながる

 地政学リスクは、単に目先の株式市場や為替相場を左右するだけの存在ではない。

 歴史的に見れば、地政学の変貌は金融センターの変遷や基軸通貨の代替、通貨制度の変革、資本市場の激変など、経済システムに大振動をもたらしてきた。

 リーマンショックから10年が経過して世界経済は安定したかに見えるが、大局的にいえば我々は「単に余震に気付いていないだけ」という可能性もあるのだ。

 例えば、今日の米中の泥沼の覇権争いは、IMF、世銀、WTOなどの国際機関の存在意義を消失させてしまうことも考えられる。

 深刻な危機を脱して経済成長軌道を取り戻したかに見える米国は、実は危機の残滓を引きずりながら保護主義へ向かい、世界秩序の乱れを引き起こそうとしているかのようだ。

 世界的な債務の記録的膨張、出口なき主要国の金融政策、そしてトランプ大統領の独善的な振る舞いとその「米国第一主義」に厚い支持を寄せる人々の存在は、「次なる危機」への潜在的リスクを示す「炭鉱のカナリア」なのかもしれない。

(RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役 倉都康行)

 
2018年9月10日 福田晃広 :清談社

20代で「脳の病気予備軍」も!医師が語る「脳ドック」の必要性

将来的に超高齢化社会を迎えることが確実な日本。医療費の増大が危惧される中、注目されているのが病気になる前に予防するという“未病改善”の重要性だ。2018年1月、「IT×予防医学×検診」をコンセプトに掲げ、“脳ドック”に特化したメディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックを開院した知久正明院長に、未病改善について詳しい話を聞いた。(清談社 福田晃広)

短時間&低価格で受診できる
「スマート脳ドック」

若い世代であっても、脳ドックで「未病」状態を発見し、改善することが重要ですストレスや睡眠不足を抱えやすい職種の場合、20~40代であっても、脳に病変が見られる人が少なからずいます(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 日本医師会によれば、未病とは「発病には至らないものの軽い症状がある状態」のこと。大病に進行する前に異常を早期発見し、病気を予防することが重要とされる。

 とはいえ、それなりの症状が出ない限り、病院まで出向いて検査をしようとする人は少ないだろう。一般的には会社などで行われる健康診断が早期発見の役割を担っているが、特に「脳」に関しては、そこまで精密な検査が行われるわけではないため、早期の段階で病気の兆候を発見することはなかなか難しいのが実情だ。

 そんな中、「スマート脳ドック」で未病改善を実現という理念を掲げているのが、メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックだ。

「スマート脳ドック」とは、スマートフォンやPCを活用し、予約から問診、検査結果の通知、管理まで一貫して行うことができるシステムと、放射線科医師と脳神経外科医師のダブルチェック体制、AI画像解析補助(研究開発中)を活用したクラウド画像診断によって、脳血管疾患の予防と早期発見が目的の新しい検診方法だ。

 こうした検査は保険がきかないため、かつてはそれなりの費用がかかっており、一般消費者にとってハードルが高いと思われてきた。しかし、現在は技術の進化や医療機関間の競争もあって、低価格で検査を提供するところが増えてきている。たとえばメディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックでは、短時間(検査時間約10分)かつ低価格(税別1万7500円)を実現し、脳ドックをリーズナブルに提供している。

自覚症状のない脳の病気は
早期発見することが重要

 知久院長によれば、脳ドックを受けたいと思っていても、実際に受けられる人はそれほど多くないのだという。

「メディカルチェックスタジオが独自で行った20代から70代男女600人のアンケートによると『健康診断以外で受診したい検診』の1位が脳ドック(39%)だったものの、『知っているが、受診したことがない』人は全体の53%でした。また、脳ドックについては、80%以上が『費用がかかる、料金が高そう』と答えていました。確かに、これまでの脳ドックは病院によって千差万別とはいえ、安くても3万円から高いところでは8万円が相場。値段がネックになっている人が多かったのです」(知久院長、以下同)

 ハードルが高かった脳ドックではあるが、知久院長は脳ドックの必要性についてこう語る。

「2017年の厚生労働省の発表によると、『脳血管疾患』は死因の4位に入っていますが、この病気は、寝たきりなどの後遺症に悩まされたり、長期の治療が必要だったりするなど、多大な負担がかかるケースも珍しくありません。しかし、普段の健康診断では、リスクの層別化はできても実際の脳の状態はわからないのが現状です。これでは、多くの人が脳に関する病気の早期発見ができず、取り返しのつかない段階まで発展しまう可能性があります。まずはMRI検査など脳ドックを受けることが、とても大事なのです」

 特に脳に関する病気は、自覚症状がないため、検査によって初期病状を発見することが未病改善には、とても重要だという。

ストレスフルな職種では
20代でも脳に異変が!

 これまで数千人の働き世代を診断してきた知久院長だが、そのデータからある傾向が読み取れるという。

「『脳白質病変』といって、脳内の血の巡りが悪いと出現する所見は50歳以上で出てくると考えられていましたが、ストレスや睡眠不足を抱えやすい職種だと20~40代でも状態の人が少なからず見られることがわかりました。病変が進行すると脳梗塞や認知症を起こしやすくなるので、早期に発見して、適度な運動や質の良い睡眠、喫煙者には禁煙を促すことで予防することが重要だと考えています」

 程度にもよるが、脳梗塞にかかると完治は難しく、その後は再発予防をするだけという、取り返しのつかない状態になってしまう。

 高齢者が増え続ける社会となり、この先は医療費が国家財政を圧迫することが予想される。国としても専門家の医師による未病講座を開催するなど、対策には動いている。

 また、メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックでは、脳ドックのほかにも、被ばくの少ない低線量による「肺・心血管ドック」(脳ドックとセットで受診でき、税別2万5000円)や、超音波を利用した頸動脈、心臓エコー検査など画像診断機器を取り揃え、未病発見に努めている。

「これから増えてくると思われる病気は、肺炎、脳梗塞、心臓病。しかし一般の人間ドックでは、肺や心臓の血管検査をやるところもごくわずか。遅くとも働き盛りの40代に一度、脳ドックや肺・心血管ドックを受診するのは、未病対策としてぜひ多くの人にやっていただきたいと思っています」

 検査以外にも日頃からの食事、運動、睡眠、喫煙、ストレスなどに気をつかうことが、あらゆる病気予防につながることは言うまでもない。そこに定期的な検査を加えることで、健康寿命を大きく延ばすことができるだろう。

 

前川喜平氏が危惧 「安倍政権があと3年も続投したら…

2018年09月11日 02時03分02秒 | Weblog

日刊ゲンダイDIGITAL                                                  2018年9月10日

 

   安倍首相が3選を狙う自民党総裁選が7日、告示された。投開票は20日だ。安倍が続投すれば、世論の7割以上が不信感を抱き続けるモリカケ問題の再燃は避けられない。その一方で、教育行政への介入が一層強まる懸念もある。加計学園問題を巡る決定的な証言で安倍を追い込み、目の敵にされる前川喜平氏(63)はどう見ているのか。

■「石破4条件」は下村元文科相が作らさせた

  ――「あったことをなかったことにはできない」と告発した加計問題の真相はいまだ藪の中です。

 当事者の安倍首相や加計孝太郎理事長は事実を認めていませんが、学園が国家戦略特区を利用して獣医学部を新設するに至ったプロセスの全貌は、ほぼ明らかになったと言っていい。私が直接見聞きしたのは2016年8月から11月にかけてですが、一連の文科省文書や愛媛県文書や証言によってすべて浮き彫りになっています。

 

  ――愛媛県文書では「加計ありき」でコトが始まり、「加計隠し」で進んだのが鮮明です。

 衝撃的なのは柳瀬唯夫首相秘書官(当時)の発言です。15年4月2日に学園関係者、愛媛県と今治市の職員と官邸で面会した際に「本件は首相案件である」と口にした。首相から直接言われなければ、そういう言い回しには絶対にならない。首相秘書官はいわば側用人。首相の言葉を秘書官に伝達する人間は存在しません。愛媛県文書によって、15年2月から4月にかけての出来事はよく分かる。今治市が特区に提案する前のこの時期に、安倍首相と加計理事長は少なくとも2回会っている。そのうちの1回は15年2月25日に15分程度。おそらく官邸でしょう。

  ――面会で安倍首相は獣医学部構想について「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたと記載がありますが、「首相動静を見る限り、お目にかかっていない」と否定しています。

 

 首相動静に書いていないという言い訳はひどい。首相の面会記録は秘書官が必ず持っていますよ。首相動静は番記者が首相の動向をチェックしてまとめたものですが、官邸の正面玄関で来訪者に「総理に会うんですか?」と確認しているんです。官邸には裏口がある。私自身、記者に気付かれないで官邸に入ったことがあります。

  ――どのような形で?

 文科省の天下り問題で杉田和博官房副長官に何度か説明に行きました。記者の目につくのはよくない状況だったので、文科省の出向者に業務用車両の通用口で待機してもらいました。そういうルートを使えば、記者の目に触れずに官邸内のどこまでも行けるんです。

  ――獣医学部新設の壁となる「石破4条件」は「下村4条件」だったといわれている。下村博文元文科相は安倍首相の側近で、学園からの闇献金疑惑が浮上しています。

 

 下村元文科相はもともと学園と関係があった。愛媛県文書からは、安倍首相と加計理事長が会食する以前に下村元文科相が学園に「課題」を出していたことが分かります。「課題」は後に閣議決定された「石破4条件」のもとになったもの。石破茂氏が特区を担当する地方創生相時代に閣議決定したため「石破4条件」と呼ばれるようになりましたが、その原型は下村元文科相が高等教育局に指示して作らせたものなのです。獣医師増加につながる獣医学部新設は認めないという原則のもとで例外を認めるには、従来の獣医師がやっていない新しい分野の人材ニーズがあり、そうした獣医師の養成は既存の大学ではできない、という条件が必要になる。これは非常に高いハードルで、条件を満たすのは極めて難しい。下村元文科相は安易に考えたのかもしれませんが、学園はその「課題」をこなせなかった。

  ――安倍首相と加計理事長の会食の席で、安倍首相が「課題への回答もなくけしからん」という下村元文科相の発言を伝えたとされます。しかし、4月2日の面会以降はトントン拍子に進んだ。

 

 愛媛県文書によると、その「回答」について学園は、柳瀬氏から〈今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取組状況を整理して、文科省に説明するのがよい〉と非常に的確なアドバイスを受けています。特区認定事業は国際競争力の強化、国際経済拠点の形成といったものに限られる。逆に言うと、その説明さえできれば通る。役人言葉で言う「作文」です。中身がなくてもそれらしい言葉が並んでいればいい。特区の提案書は、その道のスペシャリストの藤原豊地方創生推進室次長(当時)が指南する手はずになっていた。試験官が模範解答を教えるようなものです。

  ――まさに手取り足取り。文科省の私大支援事業を巡る汚職事件では、前科学技術・学術政策局長の佐野太被告も東京医科大に申請書類の書き方を指南したとされます。

「要はどうやってだますかですよ」という音声データが流れていましたね。「一番の殺し文句は、新しい学問の領域をつくる。これが最終目的ですと」とも。

安倍政権の危うさはこれまでの比ではない

  ――愛国心を養う教育改革に熱を入れる安倍政権は文科省に対する圧力を強めてきた。相次ぐ不祥事発覚は“文科省潰し”との見方もあります。

 この事件の裏で一体何が起きているのか、全体像がつかみきれない不可解さはある。ただ、文科省の信用がまた落ちてしまったのは極めて残念です。私自身が天下り問題で信用を失墜させた責めを負ったわけですから。

  ――教育行政への政治介入はどうですか。安倍シンパの国会議員が文科省と名古屋市教育委員会を通じて前川さんが授業をした中学校に圧力をかけました。

 第1次安倍政権の06年に教育基本法が改正された影響は大きいですね。教育の自主性が非常に弱められた。教育と教育行政の関係について定めた旧教育基本法第10条はとりわけ重要な条文だったのですが、大きく改変されてしまいました。

 

  ――〈教育は(中略)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの〉とのくだりですね。

 政治権力は教育に介入しないという趣旨でした。この文言と入れ替わったのが、〈この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの〉。法律に根拠があれば、政治権力が教育に介入してもいいと解釈される余地が生まれた。

■教育基本法改正で教育行政介入にお墨付き

  ――与党勢力が国会の3分の2を占める状況では、教育に介入する法律の制定は難しくない。

 作ろうと思えばなんぼでも作れるんです。教育への政治介入にお墨付きを得たと思っている政治家も多いでしょう。国を愛する態度を養え、家庭教育はこうせい、とも書き加えられた。政治の力で教育を変えようとする動きは非常に強まっている。安倍首相を支援する日本会議の思想と連動しています。日本会議は憲法改正と同時に教育を根本的に変えようとしている。教育を国家のための人間づくりととらえ、国家に奉仕する人間をつくろうとしている。憲法も教育も戦前回帰の危険が強まっていると思います。

  ――物議を醸している道徳の教科化は今年度から小学校、来年度から中学校で実施されます。

 道徳教育は特に危険ですね。政治圧力に忖度する、迎合する、屈する。そういう教育委が出てくる可能性がある。日本会議は地方議会にも根を張っている。僕に言わせると、彼らはファシストですよ。気の弱い教育長や校長が顔色をうかがうようであれば、現場の先生たちの自由が縛られかねない。これが心配ですが、都立七生養護学校の性教育を巡る11年の東京高裁判決が参考になります。

  ――どんな内容か?

 都議3人が授業を非難し、都教委を動かして学習指導要領違反で教員を処分させたのです。教員や保護者が教育への不当介入だとして都議らを相手取って損害賠償などを求める訴訟を起こし、1審、2審とも原告側勝訴でした。

 

  ――心強い判例ですね。

 ただ、最近は司法も危うくなってきている印象です。高校無償化を巡る朝鮮学校の訴訟に原告側で関わっているのですが、1審判決の原告側勝訴は大阪地裁だけ。東京、広島地裁は国が勝ち、政治に忖度しているとしか思えないような判決内容でした。警察も検察も信用できない。安倍首相と昵懇で、「総理」などの著書がある(元TBSワシントン支局長の)山口敬之氏に対する準強姦容疑の逮捕状が執行停止になり、検察も不起訴にした。警察、検察に官邸の支配が及んでいるとしか考えられない。安倍首相があと3年も続投したら、最高裁は安倍政権が任命した裁判官だらけになってしまう。安倍政権の危険さはこれまでの比ではない。このままでは本当に危ないと思います。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽まえかわ・きへい 1955年、奈良県御所市生まれ。東大法学部卒業後、文部省入省。宮城県教育委員会行政課長、ユネスコ常駐代表部1等書記官、文部相秘書官などを経て、2012年に官房長。13年に初等中等教育局長、14年に文科審議官、16年に文科事務次官に就任し、17年1月に退官。現在は自主夜間中学のスタッフとして活動。単著「面従腹背」(毎日新聞出版)を上梓

 

利権政権に国民を守れるのか ミサイル防衛よりも原発停止

2018年9月8日

 最大震度7の強烈な揺れを引き起こした北海道胆振東部地震による大混乱は、収束の気配が見えない。台風21号の大雨の影響で道内の地盤は緩み、そこにとんでもない揺れが襲った。各地で大規模な土砂崩れが発生し、死者は18人、安否不明が19人に上り、負傷者は390人を数えている。余震は100回を超え、8日の明け方にかけて1時間に最大25ミリの強い雨が降る厳しい気象条件も重なり、2次災害、3次災害の懸念が高まっている。

 市民生活をズタズタにし、交通網を寸断して経済活動をマヒさせた大きな要因が「ブラックアウト」だ。地震発生から17分後に北海道電力の火力発電所がダウン。道全域の295万戸が停電になった。全国で電力の需要調整を行う認可法人「電力広域的運営推進機関」によると、大手電力会社の管轄エリア全域で停電するのは初めてのケースだという。地震発生から2日経っても完全復旧はほど遠く、経産省や北海道電力によると、1週間以上かかるという。

 

 そこで持ち上がっているのが、「北電の電源構成に問題があった」という議論だ。3・11後に運転停止した泊原発が再稼働していれば、ブラックアウトは避けられたというのである。

 この時期の道内の電力需要ピークは約380万キロワット。その半分を供給しているのが、震源地に近い苫東厚真火力発電所だ。

 この基幹電源が失われたことを引き金に、数分以内に他の火力発電所も次から次へとストップ。さながらドミノ倒しのように運転を停止した。泊原発の3基が稼働していれば、供給力は200万キロワット超。原発停止で電力の安定供給がおろそかになっている――というのである。

■再稼働浮上は原子力ムラの倒錯

 東京電力の福島第1原発を7日視察した日本商工会議所の三村明夫会頭は、「ひとつの大きな発電所に依存するのではなく、原子力発電も含めて安定した電源を確保することが大事だ」と言及。「前々からそう思っている」として、基幹電源における原発の必要性を強調した。

 

 6月には最大震度6弱を観測した大阪北部地震が発生した。

 大きな地震に直面した市民の反応は果たしてそうだろうか。福島の原発事故が頭をよぎらなかったか。ブラックアウトを理由にした原発再稼働推進は原子力ムラの倒錯でしかない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。

「泊原発が停止していたのはむしろ幸運でした。震度2程度の揺れで外部電源を喪失し、非常用電源に頼る綱渡り。非常に危うい施設だということが浮き彫りになり、リスクの高さが証明されたと言っていい。今年だけでも、日本列島は西日本豪雨や台風21号などの記録的な自然災害にさらされている。大災害のたびに〈原発は大丈夫か〉と不安になる市民は少なくありません。胆振東部地震で得られた教訓は、一日も早い脱原発です。北電は巨大火力発電所に頼む電源構成を見直し、自然エネルギーを活用して構成を分散させる好機とすべきです。原発が存在する限り、いつか必ず福島の事故は繰り返される。今夏の異常猛暑でも電力不足は起きず、需給は安定していた。原発を再稼働させなければならない理由はない。推進論者の主張は論理のすり替えでしかありません」

 

発生1分後に対策室設置、2分後に首相指示のしらじらしさ

 安倍政権は地震発生から1分後に官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置。さらに1分後に安倍首相が被害状況の把握や被害者の救助徹底を指示したと報じられている。およそ2時間半後に安倍は官邸入り。報道陣のブラ下がり取材に「人命第一で、政府一丸となって災害応急対応にあたる。危機管理のため、しっかりと対応していきたい」と応じたが、心中は疑わしい。赤坂自民亭騒動の汚名をすすぐ絶好のチャンスとばかりに腕まくりで“やってる感”を演出しているのはミエミエだ。

「安倍首相の危機意識は極めて歪んでいます。自然災害が頻発する日本のトップでありながら、防災に対する感覚は貧弱で未然防止に関心が薄い。災害を軽視しているのです。一方で、いつ来るとも分からない軍事的脅威には過剰なほど備え、約2400億円を投じて(陸上配備型迎撃ミサイル)イージス・アショアを導入するなど、米国製装備品を盛んに購入し、国防力を肥大化させている。防衛費は4年連続で最大を更新し、5.3兆円に迫ります」(五十嵐仁氏=前出)


 一進一退しているが、6月の米朝首脳会談以降、国際情勢は着実に変化している。日本を取り巻く環境、置かれた状況を冷静に見れば、誰がどう考えてもミサイル防衛よりも原発停止が先だろう。

 台風21号の猛威による過去最高潮位に見舞われた関西国際空港は冠水。暴風雨で漂流したタンカーが連絡橋に衝突するアクシデントも重なり、陸の孤島となった関空には7800人が取り残された。関空の運営会社は「想定外」を連発したが、災害のたびに想定外の事態は起きている。振り返れば安倍は、そのたびに「懸命に取り組む」という舌先三寸を繰り返すだけなのだ。

■被災者は踏み台、国民はないがしろ

 コスト至上主義で原発再稼働を求める財界、原発輸出推進を掲げる経産省に牛耳られた官邸。オトモダチに踊らされ、「日本の原発技術は世界一安全」とうそぶく安倍は世界の嘲笑の的である。

 

 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)は言う。

「例えば、欧州でも原発は利用されていますが、事情が大きく異なります。西欧が経験した大地震は1755年のリスボン大地震までさかのぼる。1980年にマグニチュード6.9の地震に襲われた火山国のイタリアは、90年までに原発施設を閉鎖しました。国際社会は3・11で日本が被った壊滅的ダメージを鮮明に記憶している。地震列島の日本が原発再稼働に突き進むのは自殺行為と見られています」

 安倍は外交や災害対応でリーダーシップを見せつけたがるが、原子力規制委員会の新規制基準を振りかざし、机上の安全神話を見直さない狂気じみたご都合主義に、国際社会は呆れ返っているのだ。

 7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、2030年までに電源構成に占める原発の比率を「20~22%」とする数値目標が新たに設けられた。何が何でも原発を維持しようとしている。脱原発の政治勢力を結集させ、利権癒着政権を倒さなければ、この国はもう、どうにもならない。

 

 安倍が3選を狙う自民党総裁選(20日投開票)は石破茂元幹事長との一騎打ちだ。

 石破は「脱炭素化・再生可能エネルギーを原動力に地方創生を実現」を掲げ、出馬会見でも「安心・安全を最大限に確保しながら、原発の割合を減らしていくことが必要」と訴えていた。オトモダチ優遇しか頭にない安倍よりは、脱原発に向けた動きが前進する可能性はある。

 日本世論調査協会が実施した3・11と福島原発事故に関する全国面接世論調査では、「原発の安全性は向上したと思うが、深刻な事故の懸念は残る」との回答が過半数の56%に上った。原発の在り方を巡っては64%が「段階的に減らして将来的にゼロ」、11%が「いますぐゼロ」と回答。「新基準で安全性が向上し、深刻な事故も起きない」は5%にとどまった。

「国民の声を無視して原発再稼働を推し進めるのか。脱原発に向かうのか。将来のエネルギー政策をどう描くのか。相次ぐ自然災害で原発の在り方が再びクローズアップされる中、次の首相を決める総裁選で国民的テーマを議論しないなんてあり得ません。そもそも無投票3選を目指していた安倍首相は、石破氏との議論から逃げ回り、胆振東部地震の対応を選挙活動自粛の口実にしている。政治的野心の実現に災害を利用して被災者をふみにじり、その一方でオープンな議論を求める国民をないがしろにしているのです。二重の不誠実を働く安倍首相を続投させていいのか」(五野井郁夫氏=前出)

 安倍の常套句「国民の生命と財産を守る」は嘘っぱちなのは、明々白々だ。

 

 

脇雅史氏が自民批判「政党さえ勝てばいいでは国が終わる

日刊ゲンダイDIGITAL                      2018年7月23日

 

「1票の格差」是正に向けた参院選挙制度改革をめぐる自民党提出の公職選挙法改正案が18日、衆院で可決、成立した。「埼玉選挙区の定数2増」「比例代表定数4増」「比例名簿に特定枠を設ける」という自民党案に対し、参考人として出席した9日の参院政治倫理確立・選挙制度特別委員会(倫選特委)で「選挙制度は国民のためにある。自民党のためではない」とバッサリ切り捨てたのが、元自民党参院幹事長・脇雅史氏だ。2013~14年に与野党でつくる参院選挙制度協議会の座長を務め、22府県の選挙区を11に再編する独自案を示した参院選挙制度の“専門家”の目に古巣の改正案はどう映ったのか。

■抜本策を作るという法律を作らない自民党

  ―――まずは参院選の「1票の格差」問題をどう見ていますか。

「1票の格差」問題については、以前から国会で問題視する声が出ていたけれども、あまり本気で対応してきませんでした。ところが、2012年10月、最高裁が10年の参院選の「1票の格差」を「違憲状態」と判断した。これを受け、さすがに制度を変えないといけないという空気が国会で強まったわけですが、次の参院選(13年7月)までは8~9カ月しかなかったため、抜本改革は無理だろう、と。そこで当面の是正策として「4増4減」という、ほんのちょっとの格差是正をした。そして改正公選法の付則で、16年の参院選までには「制度の抜本的な見直し」「結論を得る」と明記したのです。つまり、国会にとって参院選挙制度の抜本的改革は「責務」となったわけです。

  ――国会は「1票の格差」是正に必ず取り組まなければならないとなったわけですね。

 そうです。ところが自民党は相変わらず、「そんな必要はない」「最高裁なんか関係ない」という姿勢でした。しかし、15年の法改正に向けて公明党や当時の民主党が10カ所の「合区」を提案すると、このままだと「10合区案」が成立するかもしれないと慌てたのでしょう。自民党は少数野党と組んで現行の「2合区10増10減」という案を出して押し切ってしまった。筆頭与党のリーダーシップを発揮したわけではありません。自分たちにとって都合の悪い案が出てきたので、場当たり的に対応したに過ぎません。そして、抜本的な見直しについては先送りして、付則の「結論を得る」に「必ず」を付け加えただけ。倫選特委でも指摘しましたが、抜本的な解決策を出す、という法律を自ら作っておきながら、それを守らなかったのです。まったくひどい話で、私から見れば(自民党議員は)国会議員の資格がないと思いますね。

  ――参院選挙制度協議会の座長時代、改革に後ろ向きな参院自民党を「死んだも同然」と批判していました。

 自分たちで作った法律を守らないことに対する罪の意識もなければ、恥とも感じていない。だから、まともに生きてる人間ではないだろうという意味を込めて言ったのですが、それでも生きているのだから、ゾンビです。ゾンビになってよりひどいことをやっている。

  ――今回の自民党案のことですね。

 ドサクサ紛れで作った現行法は付則に「制度の抜本的見直し」が明記されていて、それ自体が抜本策ではないと認めているわけですが、(前回の法改正の時と)今回は少し状況が変わりました。昨年9月に最高裁が(合区が導入された)16年7月の参院選を「合憲」と判断したためです。要するに、ドサクサの現行法が「合憲」になったわけで、そうであれば今、慌てて法律を変える必要はありません。変えるのであれば、どう抜本改革に取り組むのかという国の基本的な理念、考え方を国民に示した上で行うべきです。

  ――しかし、今回の自民党案はそうではない。

 提案理由で行政監視のために比例代表を増やす、などとありましたが、国会議員を4人増やせば、今よりも行政監視の機能が高まると言いたいのでしょうか。人数を増やさなくても行政監視は与党がきちんと対応すれば済む話です。例えば森友問題で国会答弁に立った佐川宣寿理財局長(当時)に対し、与党議員が「いい加減な答弁をするな」と厳しく迫った場面がありましたか。皆、官邸の顔色をうかがい、追及するどころか「何もしていませんよね」と同意を求める追従発言ばかりでした。与党がしっかりしていれば、ああいうふざけた答弁にならなかったはず。今の与党議員に本気で行政を監視する気があるとは到底、思えません。

 

国権の最高機関である立法府がムチャクチャに

  ――地域代表が大事だとも自民党は説明しています。

 好き勝手言っているとしか思えません。大体、国会議員が地域代表だけでよいはずがない。その(選挙区の)地域のことだけ考えるなんて本質的に考えておかしいでしょう。国会議員は国のために尽くすのです。地域で抱えている問題があれば、全国共通の問題として引き上げて解決しなければならない。自分の地域さえ良くなればいいということではないのです。

  ――あらためて抜本改革に程遠い内容だと強く感じたわけですね。

 自民党が国家や国民のためになると真剣に考えた上で提案したのであれば理解できますが、何らスジが通っていない。そもそも「抜本改革」と言いながら、一方では、安倍首相が6月の党首討論で(自民党案は)「臨時的措置」と説明しているのです。全く整合性が取れていません。法律を作る立法府が、そんないい加減なことで許されるのか。もうムチャクチャです。

 

  ――世論や野党の批判を無視して改正法成立を急いだ自民党の本音はどこにあると思いますか。

 来年の参院選を乗り切るため。合区の「島根・鳥取」「徳島・高知」で立候補できない現職の救済策以外の何物でもないでしょう。本来は候補者調整すれば済む話なのに、それをしないし、できない。そのために比例を用意します、しかも順番をつけて特定枠も設けますと。とんでもない発想です。自分の政党さえ勝てばいい。多数議席を持ってるからいいという考え方では、国が終わってしまいます。この方法だと、例えば自民党に対する世論批判が全国で高まり、選挙区で自民党候補が全滅しても、特定枠の候補者だけは必ず当選することになる。選挙というのは民意を反映するために行うのであって、民意によらない結果が出ることになるのです。一体、何のための法改正なのか。国民はもっと怒らなくてはいけないと思います。

■責任が「ある」と「取る」を勘違いしている安倍政権

  ――小選挙区で落選しながら比例復活する衆院議員と同じですね。

 衆院の重複立候補は、小選挙区制を導入する際の臨時措置だったはずですが、まだ続いている。小選挙区、比例の並立立候補を禁止し、それぞれの選挙をきちんと通った議員が当選していれば、国会の姿も今とは違っていたかもしれません。しかし、現実は(比例復活の)ゾンビ議員を許している。こんなバカな制度をいつまで続けているかと思いますね。今の国会議員は与野党問わず、国民にとってどんな選挙制度がいいのかということを本気で考えていない。自分たちにとって使い勝手がいい互助会制度と考えているのではないか。今ほど国会議員の質が悪くなったことは過去に例がないと思います。

  ――確かに今の安倍政権下では国会議員の劣化が目立ちます。

 

 その安倍首相自身が物事の意味をきちんと理解した上で発言していない。言葉を大事にしていないとも言えますね。衆議院の選挙制度についても、かつて安倍首相は「合憲になると思う」と発言していました。本当に合憲になるのかと問われると、3回も「合憲になる」と言ったのです。ところが、その直後に裁判所で「違憲判決」が出ました。ふつうは、こういう理由で合憲と思っていたが、結果として間違えたのだから責任を取る、というのが当然でしょう。しかし、一言もありませんでした。彼は責任は私にありますとよく言うが、責任が「ある」と「取る」の意味はまったく違います。ところが、彼は責任があると言った途端、なぜか責任を取ったと勘違いしている。国権の最高機関である立法府がそんな格好でむちゃくちゃやってるから、日本全体の道徳観念が衰えるのも当然かもしれません。

(聞き手=本紙・遠山嘉之)

 

▽わき・まさし 1945年、東京都生まれ。東大工学部卒。建設省道路局国道第二課課長、同河川局河川計画課課長、近畿地方建設局局長などを経て、98年の参院選に自民党から比例代表で出馬して初当選。党参院幹事長、国対委員長、参院政治倫理審査会会長などを歴任した。2015年、参院選挙制度改革をめぐり自民会派を離脱。16年参院選には出馬せず引退(当選3回)。

 

作家・中村文則氏が警鐘 「全体主義に入ったら戻れない」日刊ゲンダイDIGITAL                          2018年6月18日

 

 ウソとデタラメにまみれた安倍政権のもと、この国はどんどん右傾化し、全体主義へ向かおうとしている――。そんな危機感を抱く芥川賞作家、中村文則氏の発言は正鵠を射るものばかりだ。「国家というものが私物化されていく、めったに見られない歴史的現象を目の当たりにしている」「今の日本の状況は、首相主権の国と思えてならない」。批判勢力への圧力をいとわない政権に対し、声を上げ続ける原動力は何なのか、どこから湧き上がるのか。

  ――国会ではモリカケ問題の追及が1年以上も続いています。

 このところの僕の一日は、目を覚ましてから新聞などで内閣が総辞職したかを見るところから始まるんですよね。安倍首相は昨年7月、加計学園の獣医学部新設計画について「今年1月20日に初めて知った」と国会答弁した。国家戦略特区諮問会議で加計学園が事業者に選ばれた時に知ったと。これはもう、首相を辞めるんだと思いました。知らなかったはずがない。誰がどう考えてもおかしい。ついにこの政権が終わるんだと思ったんですけど、そこから長いですね。

 

  ――「現憲法の国民主権を、脳内で首相主権に改ざんすれば全て説明がつく」とも指摘されました。

 首相が言うことが絶対で、首相が何かを言えばそれに合わせる。首相答弁や政権の都合に沿って周りが答弁するだけでなく、公文書も改ざんされ、法案の根拠とする立法事実のデータまで捏造してしまうことが分かりました。この国では何かを調べようとすると、公文書や調査データが廃棄されたり、捏造されている可能性がある。何も信用できないですよね。信用できるのはもう、天気予報だけですよ。後から答え合わせができますから。安倍首相の言動とあれば、何でもかんでも肯定する“有識者”といわれる人たちも、いい大人なのにみっともないと思う。

  ――熱烈な支持者ほど、その傾向が強い。

 普通に考えれば、明らかにおかしいことまで擁護する。しかもメチャクチャな論理で。この状況はかなり特殊ですよ。この年まで生きてきて、経験がありません。

■安倍政権が知的エリート集団だったらとっくに全体主義

  ――第2次安倍政権の発足以降、「この数年で日本の未来が決まる」と警鐘を鳴らされていましたね。

 これほどの不条理がまかり通るのであれば、何でも許されてしまう。「ポイント・オブ・ノーリターン」という言葉がありますが、歴史には後戻りができない段階がある。そこを過ぎてしまったら、何が起きても戻れないですよ。今ですら、いろいろ恐れて怖くて政権批判はできないという人がたくさんいるくらいですから、全体主義に入ってしまったら、もう無理です。誰も声を上げられなくなる。だから、始まる手前、予兆の時が大事なんです。

  ――そう考える人は少なくありません。総辞職の山がいくつもあったのに、政権は延命しています。

 安倍政権が知的なエリート集団だったら、とっくに全体主義っぽくなっていたと思うんです。反知性主義だから、ここまで来たともいえますが、さすがにこれ以上の政権継続は無理がある。森友問題にしろ、加計問題にしろ、正直言って、やり方がヘタすぎる。絵を描いた人がヘタクソすぎる。こんなデタラメが通ると思っていたことが稚拙すぎる。根底にはメディアを黙らせればいける、という発想もあったのでしょう。

  ――メディアへの圧力は政権の常套手段です。

 実際、森友問題は木村真豊中市議が問題視しなかったら誰も知らなかったかもしれないし、昨年6月に(社民党の)福島瑞穂参院議員が安倍首相から「構造改革特区で申請されたことについては承知していた」という答弁を引き出さず、朝日新聞が腹をくくって公文書改ざんなどを報じて局面を突き破らなかったら、ここまで大事になっていなかった。一連の疑惑はきっと、メディアを黙らせればいい、という発想とセットの企画のように思う。本当に頭の良い、悪いヤツだったら、もっとうまくやりますよ。頭脳集団だったら、もっと景色が違ったと思う。

 だいたい、メディアに対する圧力は、権力が一番やってはいけないこと。でも、圧力に日和るメディアって何なんですかね。プライドとかないのでしょうか。政治的公平性を理由にした電波停止が議論になっていますが、止められるものなら、止めてみればいいじゃないですか。国際社会からどう見られるか。先進国としてどうなのか。できるわけがない。

モリカケ問題は犯人が自白しない二流ミステリー

  ――安倍首相は9月の自民党総裁選で3選を狙っています。

 これで3選なんてことになれば、モリカケ問題は永遠に続くでしょうね。安倍首相がウソをつき続けているのだとしたら、国民は犯人が自白しない二流ミステリーを延々と見せられるようなものですね。

  ――北朝鮮問題で“蚊帳の外”と揶揄される安倍首相は外遊を詰め込み、外交で政権浮揚を狙っているといいます。

 “外交の安倍”って一体なんですか? 誰かが意図的につくった言葉でしょうが、現実と乖離している。安倍首相が生出演したテレビ番組を見てビックリしました。南北首脳会談で日本人拉致問題について北朝鮮の金正恩(朝鮮労働党)委員長が「なぜ日本は直接言ってこないのか」と発言した件をふられると口ごもって、「われわれは北京ルートなどを通じてあらゆる努力をしています」とシドロモドロだった。あれを聞いた時、度肝を抜かれました。この政権には水面下の直接ルートもないのか。国防意識ゼロなんだ、って。

 

  ――中国と韓国が北朝鮮とトップ会談し、米朝首脳会談が調整される中、日本は在北京の大使館を通じてアプローチしているだけだった。

 ミサイルを向ける隣国に圧力一辺倒で、あれだけ挑発的に非難していたのに、ちゃんとしたルートもなかったことは恐ろしいですよ。それでミサイル避難訓練をあちこちでやって、国民に頭を抱えてうずくまれって指示していたんですから。安倍首相は北朝鮮の軟化をどうも喜んでいない気がする。拉致問題にしても、アピールだけで、本当に解決したいとは思っていないのではないか、と見えてしまう。拉致問題で何か隠していることがあり、そのフタが開くのが怖いのか。北朝鮮情勢が安定してしまうと、憲法改正が遠のくからか。

■萎縮して口をつぐむ作家ほどみっともないものはない

  ――内閣支持率はいまだに3割を維持しています。

 

 要因のひとつは、安倍首相が長く政権の座にいるからだと思います。あまり変えたくない、変えると怖いなという心理が働いたりして、消極的支持が増えてくる。政権に批判めいた話題をするときに、喫茶店とかで声を小さくする人がいるんですよね。森友学園の籠池(泰典)前理事長の置かれた状況なんかを見て、政権に盾突くと悪いことが起こりそうだ、なんだか怖い……という人もいるのではないでしょうか。マスコミの世論調査のやり方もありますよね。電話での聞き取りが主体でしょう。電話番号を知られているから、何となくイヤな感じがして、ハッキリ答えない、あるいは支持すると言ってしまう。ようやく、不支持率が支持率を上回るようになってきましたが、正味の支持率は今はもう、3~5%ぐらいではないでしょうか。

  ――政権批判に躊躇はありませんか。

 政権批判をして得はありません。ハッキリ言って、ロクなことがない。でも社会に対して、これはおかしいと思うことってありますよね。僕の場合、今の状況で言えば、そのひとつが政権なんです。この国はこのままだとかなりマズイことになると思っている。それなのに、萎縮して口をつぐむのは読者への裏切りだし、萎縮した作家ほどみっともないものはない。

 

 歴史を振り返れば、満足に表現できない時代もあった。今ですら萎縮が蔓延している状況ですが、後の世代には自分の文学を好きなように書いてもらいたい。それには今、全体主義の手前にいる段階で僕らが声を上げる必要がある。これは作家としての責任であって、おかしいことにおかしいと声を上げるのは、人間としてのプライドでしょう? それに、今の情勢に絶望している人たちが「この人も同じように考えているんだ」と思うだけでも、救いになるかなと思うんです。いろんな立場があるでしょうが、僕は「普通のこと」をしているだけです。

(聞き手=本紙・坂本千晶)

▽なかむら・ふみのり 1977年、愛知県東海市生まれ。福島大行政社会学部卒業後、フリーターを経て02年、「銃」でデビュー。05年、「土の中の子供」で芥川賞、10年、「掏摸〈スリ〉」で大江健三郎賞。14年、ノワール小説に貢献したとして米国デイビッド・グーディス賞を日本人で初めて受賞。16年、「私の消滅」でドゥマゴ文学賞。近未来の全体主義国家を生々しく描いた近著「R帝国」が「キノベス!2018」で首位


 

 

 

もう利用価値なし 安倍首相がトランプにクビ宣告される日

ゲンダイDIGITAL                          2018年9月9日

蜜月時代もついに終わり(C)共同通信社

 カネの切れ目は縁の切れ目。「揺るぎない絆」なんてしょせん、こんなものである。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が6日、トランプ大統領が巨額の対日貿易赤字を問題視し、安倍首相との友好関係が「終わる」と語った――と報じた。

 コラムニストのジェームス・フリーマン氏がトランプに電話取材した内容をまとめた記事で、同紙は〈トランプ氏はなお、日本との貿易の条件で悩んでいる〉と指摘。トランプは安倍との良好な関係に触れつつも、貿易赤字の解消のために〈日本がどれだけ(米国に)払わなければならないかを伝えた瞬間、(良好な関係は)終わる〉と語ったという。

 2017年の対日貿易赤字は689億ドル(約7兆6000億円)。赤字幅の国別順位では中国、メキシコに次ぐ3位だ。トランプは6月の日米首脳会談の際も、日本の通商政策に対して「真珠湾を忘れていない」と不快感を示した、と米紙ワシントン・ポストが報道。日本政府は事実関係の否定に躍起になっていたが、今回はコラムニストの電話取材を踏まえた記事だから信憑性は高い。

 

■最大の理由は拉致問題

 11月の中間選挙を控えたトランプにとって貿易赤字の解消は喫緊の課題だ。中国、メキシコに続き、次の標的は日本、ドイツだろう。対日貿易赤字の大部分は自動車産業だが、これを解消するには農産物の大幅な市場開放ぐらいしか手がないが、ここに手を付けたら地方の猛反発は必至。日本政府も到底、受け入れられない話だ。さらに今、トランプにとって最大のネックになっているのが北朝鮮の拉致問題だという。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。

「中間選挙に向けて北朝鮮問題を進めたいと考えていたトランプ大統領は、非核化と経済支援を同時進行させるため、日本と韓国に費用を負担させようと考えていたが、日本は拉致問題の解決なしには金を出さないスタンスで、北も強硬路線一辺倒の安倍政権との日朝首脳会談は断固拒否です。つまり、安倍政権では北朝鮮問題は1ミリも進まない。となれば、トランプ大統領にとって、もはや安倍首相の利用価値はないと考えても不思議ではないでしょう。総裁選の最中のタイミングで“三くだり半”のような報道が出ること自体、安倍首相に対する何らかのメッセージではないかと勘繰ってしまいます」

 

 安倍首相はこれまで散々、拉致問題を政治利用して地位を築いてきたが、今度は逆に拉致問題が足元を揺さぶり始めたのだ。安倍首相は総裁選で勝っても、直後に予定されている日米首脳会談でトランプから2国間の自由貿易協定(FTA)の締結などを強く求められる可能性が高い。トランプから「シンゾウ、You’re fired!(おまえはクビだ!)」と宣告される安倍首相のひきつった顔が今から容易に想像できる。