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15年2月 加計氏と面談

2018年05月22日 17時08分28秒 | Weblog

「安倍首相が『獣医大学はいいね』」愛媛県新文書に記録

2018年5月21日18時28分

https://www.asahicom.jp/articles/images/AS20180521004458_comm.jpg

https://www.asahicom.jp/articles/images/AS20180521004209_comm.jpg

 学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐり、2015年2月に学園の加計孝太郎理事長が安倍晋三首相と面会した、と学園側から報告を受けたとする内容を、愛媛県職員が文書に記録していたことがわかった。加計氏が学部新設を目指すことを説明し、首相が「新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたとの報告内容も記されている。愛媛県は21日、この文書を含む関連の文書計27枚を参院予算委員会に提出した。

 これまで安倍首相は、加計氏について「私の地位を利用して何かをなし遂げようとしたことは一度もなく、獣医学部の新設について相談や依頼があったことは一切ない」と答弁している。また、学園の学部新設計画を知ったのは、国家戦略特区諮問会議で学園が学部設置の事業者に決まった17年1月20日、とも説明していた。15年2月の段階で加計氏が話をしたとする文書の内容と、安倍首相の説明は矛盾しており、あらためて説明を求められそうだ。

 首相の発言が記録されている愛媛県の文書は「報告 獣医師養成系大学の設置に係る加計学園関係者との打合せ会等について」との題名で、「27.3.」と書かれている。15年3月に作成されたとみられる。

 文書では、学園側の報告として「2/25に理事長が首相と面談(15分程度)」し、加計氏が首相に「今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明」と記載。「首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記されていた。

 別の文書には、今治市からの報告として、加計氏が安倍首相と会う前の15年2月に、学園側が加藤勝信・元内閣官房副長官(現・厚生労働相)と面会した、との記述もあった。獣医師養成系大学の設置は「厳しい状況にある」とし、学園の動向として、国家戦略特区で獣医学部新設を目指す新潟市への危機感から「理事長が安倍総理と面談する動きもある」と書かれていた。

 当時の柳瀬唯夫・首相秘書官(現・経済産業審議官)に関して記述された文書もあった。今治市からの報告として、同年3月24日に柳瀬氏と学園側が面会した際、柳瀬氏が「獣医師会の反対が強い」と述べ、「この反対を乗り越えるため」として、「内閣府の藤原地方創生推進室次長に相談されたい」と述べた、と記載されていた。

 文書は参院予算委の要請に応じて県が再調査した結果、見つかったといい、今治市、加計学園の職員らと首相官邸などを訪れた15年4月2日の面会内容や、この面会に至るまでの経緯が主に記されている。愛媛県は公表していないが、朝日新聞は国会関係者から入手した。

     ◇

 加計学園は「理事長が2015年2月に総理とお会いしたことはございません。既に多くの新入生が大学で勉学をスタートしており、新学期の学務運営、また在学生の対応でとても取材等受けられる状態ではありません」などとするコメントを出した。






https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180521/k10011447081000.html

愛媛県新文書 “3年前 加計氏が安倍首相に獣医学部構想説明”5月21日 19時25分

 
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で、愛媛県は、3年前に柳瀬元総理大臣秘書官が官邸で学園側と面会したことに関連する県の新たな文書を21日に国会に提出しました。文書には、学園側からの報告内容として「3年前の2月末、加計理事長が安倍総理大臣と面談し、獣医学部の構想を説明した」などと記載されています。
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で、柳瀬元総理大臣秘書官は、今月行われた衆参両院の参考人質疑で、愛媛県今治市が国家戦略特区に提案する2か月前の平成27年4月2日に官邸で学園側と面会したことを認めました。

愛媛県は、担当者がこの面会に同行したと説明していて、参考人質疑を行った参議院予算委員会が、県に対して、面会の内容や経緯が把握できる文書を提出するよう求めていました。

これを受けて、愛媛県は、当時の資料を調べ直した結果、平成27年2月から3月にかけて作成した新たな文書が見つかったとして、21日午後、参議院事務局に提出しました。

愛媛県は内容を明らかにしていませんが、NHKが入手した文書には、当時、県が学園側から受けた報告の内容として、「平成27年2月25日、理事長が首相と15分程度面談。理事長から獣医師養成系大学空白地帯の今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明。首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記載されています。

さらに、同じ年の3月に、学園と今治市が協議した結果の報告として「加計理事長と安倍総理大臣の面談を受けて柳瀬氏から資料を提出するよう指示があった」と記載されています。

このほか、4月2日に総理大臣官邸で面会した際の柳瀬氏の発言をまとめたとするメモには、柳瀬氏が「獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えているので、今回内閣府にも話を聞きに行ってもらった」と発言したと記載されています。

今回、新たな文書を提出したことについて、中村知事は午後5時半すぎに取材に応じ、「国権の最高機関の国会から、与野党合意のうえ、関連文書を出してほしいと要請があったので提出した」と述べ、文書の今後の扱いは国会に委ねる考えを示しました。
 
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で、柳瀬元総理大臣秘書官は、今月行われた衆参両院の参考人質疑で、愛媛県今治市が国家戦略特区に提案する2か月前の平成27年4月2日に官邸で学園側と面会したことを認めました。

愛媛県は、担当者がこの面会に同行したと説明していて、参考人質疑を行った参議院予算委員会が、県に対して、面会の内容や経緯が把握できる文書を提出するよう求めていました。

これを受けて、愛媛県は、当時の資料を調べ直した結果、平成27年2月から3月にかけて作成した新たな文書が見つかったとして、21日午後、参議院事務局に提出しました。

愛媛県は内容を明らかにしていませんが、NHKが入手した文書には、当時、県が学園側から受けた報告の内容として、「平成27年2月25日、理事長が首相と15分程度面談。理事長から獣医師養成系大学空白地帯の今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明。首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記載されています。

さらに、同じ年の3月に、学園と今治市が協議した結果の報告として「加計理事長と安倍総理大臣の面談を受けて柳瀬氏から資料を提出するよう指示があった」と記載されています。

このほか、4月2日に総理大臣官邸で面会した際の柳瀬氏の発言をまとめたとするメモには、柳瀬氏が「獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えているので、今回内閣府にも話を聞きに行ってもらった」と発言したと記載されています。

今回、新たな文書を提出したことについて、中村知事は午後5時半すぎに取材に応じ、「国権の最高機関の国会から、与野党合意のうえ、関連文書を出してほしいと要請があったので提出した」と述べ、文書の今後の扱いは国会に委ねる考えを示しました。

安倍首相の説明

安倍総理大臣は、加計学園の獣医学部新設の計画について初めて知ったのは、学園が国家戦略特区の事業者に選定された去年1月20日だと国会で繰り返し説明してきました。

また、去年7月の衆議院の予算委員会で、加計学園の理事長が長年の友人であることを問われると、安倍総理大臣は「『時代のニーズにあわせて新しい学部や学科の新設に挑戦していきたい』という趣旨の話は聞いたことがあるが、『獣医学部をつくりたい』、さらには『今治市に』といった話は一切無かった」と述べました。

さらに、今月14日の衆参両院の予算委員会で、柳瀬氏が獣医学部新設をめぐり3年前に学園側と3回面会したことを問われると、「柳瀬氏から報告は受けていない」と述べました。

柳瀬元秘書官の説明

柳瀬元総理大臣秘書官は、今月10日に行われた衆参両院の参考人質疑で、3年前の4月2日に総理大臣官邸で加計学園の関係者と面会したことを認めました。

しかし、面会した一行の中に愛媛県と今治市の担当者がいたかについては、「会った記憶はない」、「10人近くの随行者の中にいたのかもしれない」と述べていました。

一方で、学園の関係者とは、詳しい日付は覚えていないとしたうえで、3年前の4月2日以外にも同じ年の2月か3月に1回と、今治市が国家戦略特区に提案する6月4日の前後に1回の合わせて3回、総理大臣官邸で面会したことを明らかにしました。

自民 二階幹事長「疑念残らないよう対応を」

自民党の二階幹事長は記者会見で、「機会を得て、報告を聞いてみたいと思っており、これからの国会審議でも、疑問や疑念が残らないようにしっかり対応していきたい。疑問があれば、しかるべき時に尋ねてもらえれば、安倍総理大臣が納得のいく答弁をすると思う」と述べました。

また、二階氏は、愛媛県の中村知事の国会招致について「それぞれの委員会が判断して、お越しを願いたい時には、そういう意見を言ってもらえばいい。われわれの側から直接、意見を申し述べるべきではない」と述べました。

立民 辻元国対委員長「柳瀬氏の証言がうその濃厚な証拠」

立憲民主党の辻元国会対策委員長は国会内で記者団に対し、「『柳瀬元総理大臣秘書官の証言がうそだった』という濃厚な証拠が出てきたと思うし、『1国の総理大臣が国会や国民に対し、うそをつき通してきたのではないか』ということにつながると思う。『うそをうそで上書きして、書き直そうとしても無理だ』ということだ」と述べました。

国民 玉木共同代表「核心的な疑惑出てきた」

国民民主党の玉木共同代表は国会内でNHKの取材に対し、「『加計ありき』がより鮮明になったし、『一連のストーリーは安倍総理大臣の指示から始まったのではないか』という極めて核心的な疑惑が出てきた。この疑惑を明らかにすることなく、ほかの重要法案の審議は到底できない。安倍総理大臣、加計理事長、愛媛県の中村知事ら関係者に一堂に予算委員会の集中審議に集まってもらい、真実をしっかり話してもらわなければならない」と述べました。

公明 石田政調会長「国会審議の中で議論に」

公明党の石田政務調査会長は記者団に対し、「詳しく把握していないので、これから精査をしないといけない。文書自体が、どういうものなのか、よくわからないので、国会審議の中で議論をしっかりしていくことになるのではないか。国民の中ではふに落ちていないと思うので、国会でしっかり説明していかなければならない」と述べました。

共産 小池書記局長「総理の進退に関わる重大な文書」

共産党の小池書記局長は国会内で記者団に対し、「安倍総理大臣の進退に関わる重大な文書だ。文書を見ると、安倍総理大臣と学園の加計孝太郎理事長の会談がすべてのスタート台で、安倍総理大臣が『いいね』と答えたことで、すべての話が始まった。『加計ありき』どころか『安倍ありき』だ。国会で虚偽答弁を続けてきた安倍総理大臣の責任は極めて重大で、解明なしでは何も進まない」と述べました。

維新 馬場幹事長「特別委で集中審議を」

日本維新の会の馬場幹事長は国会内でNHKの取材に対し、「資料の事実関係は確認していないが、事実であれば、今までの安倍総理大臣の説明が違っていることになる。説明の場を作り、きちんと真相究明していくことが必要で、国会に特別委員会を設置して集中的に審議すべきだ」と述べました。

加計学園 首相との面会否定

加計学園は「一部報道で伝えられているような、理事長が2015年2月に総理とお会いしたことはございません。今治市の国家戦略特区申請にかかる手続き及び、本学園の獣医学部開設設置認可手続きが適正に行われ、その結果、昨年11月14日に設置が認可され、今年4月3日に晴れて入学式を迎えることができました」とするコメントを出しました。



日本経済新聞


加計氏、15年に獣医学部を首相へ説明 愛媛県が新文書

2018/5/21 20:00 (2018/5/21 22:16更新)
日本経済新聞 電子版

 愛媛県の中村時広知事は21日、学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題で、新たな文書を参院事務局に提出したと発表した。日本経済新聞が入手した文書には、2015年2月に同学園の加計孝太郎理事長が安倍晋三首相と面談し、獣医学部新設について説明したとの記述がある。首相はこれまで国家戦略特区の事業者が決まった17年1月20日まで学部新設計画を知らなかったと国会で答弁していた。

 
記者団の取材に応じ、国会に加計学園問題を巡る新たな文書を提出したことを明らかにした愛媛県の中村時広知事(21日)=共同

記者団の取材に応じ、国会に加計学園問題を巡る新たな文書を提出したことを明らかにした愛媛県の中村時広知事(21日)=共同

 同県が作成した15年3月付の文書によると、加計理事長と首相が同年2月25日に15分程度面談した。「理事長から国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明」「首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記載している。

 この時、首相秘書官の柳瀬唯夫氏(現・経済産業審議官)から、学園側に資料を提出するよう指示があったとも明記。15年4月2日に首相官邸で柳瀬氏らと面談した結果を報告した文書では、柳瀬氏が「獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えている」と発言したことが書かれている。

 15年4月2日の面談は出席者名を記録した文書もある。柳瀬氏は今月10日の国会での答弁で、同学園が運営する岡山理科大獣医学部の吉川泰弘学部長が居たと説明したが、21日に愛媛県が示した文書には吉川氏の名前はなかった。

 文書には「安倍総理と加計学園理事長が先日会食した際に、獣医師養成系大学の設置について地元の動きが鈍いとの話が出た」との記述もある。

 愛媛県の中村知事は21日、伊予市内で記者団の取材に応じ「参院の与野党合意で国会から関連する文書やメモをすべて出してほしいと要請があった」と説明。その上で「関連部署や個人ファイルを含めて探し、出てきたものを国会の要請に基づいて21日午後に提出した」と語った。文書内容には言及しなかった。

 政府高官は21日夜「事実関係を調べている」と述べた。加計学園は、15年2月に首相と理事長が面会したとの愛媛県の文書の内容を否定するコメントを発表した。

 

加計問題で新文書、首相「獣医大学、いいね」 目立つ矛盾

2018/5/21 23:58
日本経済新聞 電子版

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画を巡り、愛媛県が21日に国会に提出した文書。安倍晋三首相や側近の国会答弁と食い違う記録が新たに示された。何が真実なのか。矛盾がまた広がった。

愛媛県が国会に提出した文書コピーの一部。「理事長が首相と面談」などの記載がある=共同

愛媛県が国会に提出した文書コピーの一部。「理事長が首相と面談」などの記載がある=共同

 愛媛県の新文書は政府関係者らとの面談のため、東京出張を命じる「旅行命令(依頼)簿」4枚、出張を報告する「復命書」3枚、「面談結果概要メモ」2枚、首相秘書官だった柳瀬唯夫・経済産業審議官への「説明内容を書き起こしたメモ」1枚、「個人メモ」6枚など。加計学園、愛媛県の動きが詳しく書かれている。

 これまでの政府側説明と最も食い違うのは、安倍首相が同学園の獣医学部新設計画を知った時期。首相は「2017年1月20日」との国会答弁を繰り返してきた。これに対し、新文書は加計学園関係者からの報告内容として、「15年2月25日」に同学園理事長と安倍首相が面談。首相が「新しい獣医大学の考えはいいね」と発言したとしている。

 新文書の内容が事実なら、国会答弁より2年近く前に計画を把握していたことになる。

 柳瀬氏は「(計画は)首相案件」と発言したことを再三にわたって否定。今月10日の参考人招致でも、同県職員が作成した文書に記載されていた「本件は、首相案件」との発言について「伝えたかった趣旨と違っている」「『首相』という言葉を使わないので、私の発言として、やや違和感がある」と説明していた。

 ところが、新文書では形式の異なる複数のメモに柳瀬氏の発言として「獣医学部新設の話は総理案件」「本件は、首相案件」などと記載がある。

 また柳瀬氏は15年4月2日の面会で加計学園関係者が主に話しており、約10人の随行者に愛媛県や今治市の職員が含まれていた可能性があるなどとしていた。ただ、新文書には部屋の大きさの都合で6人しか入れなかったとの記載があり、やりとりを記したメモは愛媛県職員の発言内容も記録している。

 

首相、加計氏との面会否定 野党は証人喚問要求

2018/5/22 8:44 (2018/5/22 13:10更新)
日本経済新聞 電子版

 安倍晋三首相は22日午前、学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、加計孝太郎理事長と2015年2月25日に面会したとする愛媛県文書に関して、面会を否定した。首相官邸で「指摘の日に加計氏と会ったことはない。念のために昨日、官邸の記録を調べたが確認できなかった」と語った。

報道陣の質問に答え、加計理事長との面会を否定する安倍首相(22日午前、首相官邸)

報道陣の質問に答え、加計理事長との面会を否定する安倍首相(22日午前、首相官邸)

 文書には15年2月の面会で加計氏が首相に同学園の獣医学部新設について説明したとの記載がある。首相は「今まで国会で話したように、獣医学部新設について加計氏から話を伺ったこともないし、私から話したこともない」と述べた。

 首相秘書官だった柳瀬唯夫経済産業審議官は22日午後、経済産業省で「同席した覚えはなく、その話を聞いた覚えもない。首相から指示を受けた覚えもない」と話した。

 加藤勝信厚生労働相は記者会見で、官房副長官だった15年2月に学園側の関係者と面会したことを認めた。「地元(岡山県)の事務所で加計学園の確か事務局長が来て、獣医学部についていろいろと努力しているが実現に至っていないと話をされた」と述べた。面会は首相に伝えていないと説明した。

 立憲民主、国民民主、共産、自由、社民の野党5党と衆院会派「無所属の会」の幹事長・書記局長は22日午前、国会内で会談した。「首相が虚偽答弁を繰り返してきた疑いが強まった」として、加計氏と柳瀬氏の証人喚問を求める方針で一致した。

 立憲民主党の福山哲郎幹事長は会談後、記者団に「首相の進退が問われる重大な局面を迎えた」と指摘した。

 立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は22日、自民党の森山裕国対委員長に会い、衆参両院の予算委員会で首相が出席する集中審議の開催や愛媛県の中村時広知事の参考人招致を求めた。森山氏は野党側の要求に難色を示した。

 

 

毎日新聞

岡山・加計学園

獣医学部「首相『いいね』」 愛媛新文書「15年2月、加計理事長に」 国会答弁揺らぐ

毎日新聞2018年5月22日 東京朝刊

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/05/22/20180522ddm001010015000p/9.jpg?1

 学校法人「加計学園」による国家戦略特区を利用した獣医学部新設を巡り、愛媛県は21日、安倍晋三首相が2015年2月に学園理事長と面会し、獣医学部新設の構想について説明を受けたなどと記載された県作成の文書を参院に提出した。文書には、面会は15分程度行われたとし、説明に対して首相が「新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたなどと記されていた。安倍首相は昨年7月の国会で「(理事長が)私に獣医学部を作りたいと話したことは一切ない」と答弁しているが、事実と異なる答弁をしていた可能性がある。

 獣医学部新設を巡っては、今月10日の衆参予算委員会に参考人として出席した柳瀬唯夫元首相秘書官(現経済産業審議官)が15年4月2日、首相官邸で学園関係者と面会したと認め、愛媛県や同県今治市の関係者が同席していた可能性も認めている。文書は、面会直前の15年3月、愛媛県職員が加計学園関係者らと交わしたやりとりを記録したもの。学園関係者が県に、学園の加計孝太郎理事長が安倍首相と15年2月25日に15分程度、面会したと報告したと記されていた。同じ内容は今治市長にも伝えられたとの記述もあった。

 公表された文書はほかにもあった。文書には、4月2日の面会時の柳瀬氏の発言を詳しくまとめたとする「概要メモ」もあり、柳瀬氏が「獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えている」と語ったと記述。概要メモにはさらに、学園側が柳瀬氏との面会で話した内容として、「懸案として、安倍総理が文科省からの宿題を返せていないという話があり、そのことを心配されていたと聞いたが」との記載もあった。また、別の文書には、加計学園が今治市を通じて県に報告した内容として、学園関係者が獣医学部新設について、当時官房副長官だった加藤勝信厚生労働相と面会していたとも記されていた。

 安倍首相は昨年7月24日の衆院予算委で、学園の獣医学部新設の計画を知った時期について問われ、計画が国家戦略特区諮問会議で認定された「今年(17年)1月20日」と答弁している。文書の記述が事実であれば、首相答弁は誤りだったことになる。

 愛媛県作成の新たな文書について、中村時広・同県知事は21日、文書は5月に入り、国会から関連資料の提出を求められ、調べたところ見つかった関係書類だと説明。報道陣に「国権の最高機関である国会による要請が来たので提出した。国会に判断していただけたら」と語った。【杉本修作】

加計側が否定

 加計学園は同日、「理事長が15年2月に総理とお会いしたことはございません」などとするコメントを出した。


愛媛県文書の主な内容 日付はいずれも2015年

・2月25日、加計学園理事長が首相と15分程度面談。理事長が今治市に設置予定の獣医学部は国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明。首相からは「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とのコメントあり

 (3月3日の学園関係者との打ち合わせ後、県地域政策課が作成)

・学園理事長と総理の面会を受け、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)から資料提出の指示あり

 (3月15日の学園関係者と今治市の協議内容について、報告を受けた県地域政策課が作成)

・総理と学園理事長の会食の際、獣医師養成系大学設置について地元の動きが鈍いとの話が出た

 (4月2日に予定された柳瀬氏への訪問に関連し、今治市から報告を受けた県地域政策課が作成)

・獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えているので、今回内閣府にも話を聞きに行ってもらった

 (4月2日に首相官邸で面談した柳瀬秘書官の発言内容について、県が概要メモとして作成

 

 

東京新聞 TOKYO Web

<検証「加計」疑惑>(1) 始まりは15年4月2日

2017年9月17日 朝刊

 

 急きょ東京出張の日程が変更になった。二〇一五年四月二日夕。帰りの航空機の便を遅らせて、愛媛県今治市の職員が首相官邸を訪れた。

 待っていたのは、柳瀬唯夫(やなせただお)首相秘書官(当時)。県職員と学校法人「加計学園」(岡山市)の幹部も同席した場で、県と市に学園の獣医学部新設を進めるよう対応を迫ったという。

 柳瀬氏は、安倍晋三首相が創設した国家戦略特区を担当。アベノミクスの恩恵を全国に波及させるとして、地方創生につながる特区提案を近く募ることになっていた。

 市の文書には、この日の午後三時~四時半、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」のため、市の担当者が官邸を訪問した出張記録が残る。

 しかし、今年七月、国会の閉会中審査で、官邸での面会の事実を問われた柳瀬氏は「記憶にない」を連発。かたくなに面会を否定する政府に対し、県幹部も苦言を呈する。「何で国は隠すんですか」

 官邸訪問から二カ月後、県と市が国家戦略特区に提案すると、十年にわたって膠着(こうちゃく)していた獣医学部の計画が一気に動きだす。

 政府関係者は言う。「四月二日が『加計ありき』のキックオフだった」

 ◇ 

 おごりと慢心。「官邸主導」の政権運営にほころびが見え始めた。加計学園の獣医学部新設を巡っても、国民の疑念に答えようとしない安倍首相への不信感がくすぶる。「加計疑惑」の背景を検証する。

写真
 

◆もろ刃の「安倍特区」

 昨年十一月五日、愛媛県今治市の菅(かん)良二市長が地元の県議六人を市役所に呼び出した。

 「特区を使って獣医学部の話が前に進みそうだ」。菅市長は意気揚々と切り出した。市の担当者らが、首相官邸で柳瀬唯夫(やなせただお)首相秘書官(当時)と会ってから一年半後のことだった。政府は同九日、国家戦略特区で獣医学部新設の方針を決めた。

 市と県は二〇〇七年以降、構造改革特区に提案し続けたが、十年にわたって厚い壁に阻まれてきた。「四国新幹線と同じ。夢物語としか見ていなかった」。福田剛(つよし)県議は、配られた資料に「平成三十年四月開学」と明記されていたことに目を見張った。

 獣医学部新設が動きだすきっかけとなった国家戦略特区は、第二次安倍政権の目玉政策。これまでの構造改革特区は、自治体などの提案に対し、規制官庁も認定の可否に関わり、思うような成果が上がらなかった。そのため、規制官庁の関与は意見を聴くなどの調整にとどめ、首相のトップダウンで抵抗の強い岩盤規制の突破を図った。

 規制改革の実効性が高まる半面、権力の私物化を招きかねない。国会では導入を巡り「あらぬ国民の疑念を招くのでは」と制度の危うさが指摘されていた。

 その懸念が現実になった。「友人のために便宜を図り、行政手続きをゆがめたのでは」。特区で獣医学部新設が認められた学校法人「加計(かけ)学園」の加計孝太郎理事長と、特区選定の最高責任者である安倍晋三首相が昵懇(じっこん)だったことから、国民の間に疑念が膨らんだ。

 ◆    ◆ 

 米国留学時代に知り合ったという二人。安倍首相は「加計さんが私に対し、地位や立場を利用して、何かを成し遂げようとしたことはただの一度もない」と答弁している。しかし、周辺の人たちの証言から浮かび上がるのは、二人の公私にわたる蜜月ぶりだ。

 政権交代が起こった〇九年夏の衆院選直前。学園が、若手職員を出張命令で安倍陣営の選挙応援に動員させようとしているとの情報が流れた。学園の労働組合の元幹部によると、組合が文書で抗議した結果、学園は有給休暇を使って職員が自主的に選挙応援に参加した形にして送り出したという。学園は「出張命令で派遣した事実はない。有給休暇の利用は選挙運動への参加など職員によってさまざま」とし、安倍首相の事務所は「公職選挙法に則(のっと)り、適正に処理している」とコメントしている。

 獣医学部新設に関し、安倍首相は「国民から疑念の目が向けられるのはもっともなこと」と言葉足らずを釈明しているが、国民の疑問に答えたとは言い難い。

 「事業者が決まった今年一月二十日に加計学園の獣医学部計画を知った」。七月の国会の閉会中審査で、疑念を振り払おうと安倍首相が発した一言は、かえって不信感を高めた。

 第二次政権発足後、確認できるだけで二人は、十六回ものゴルフや会食を重ねている。「腹心の友」と公言する加計氏の計画を本当に知らなかったのか。

 首相に近い自民党議員は言う。「首相の説明は、説明になっていない。この問題を解決するには、正直に話すしかない」

<加計学園問題> 50年以上抑制してきた獣医学部の新設について、政府は1月、国家戦略特区で愛媛県今治市に限定して設置を認めた。公募の結果、「加計学園」(岡山市)が事業者に選ばれ現在、文部科学省の審議会で審査中。5月、特区担当の内閣府が文科省に「総理の意向」などと早期開学を迫る複数の文書が流出、特区選定の妥当性が疑われている。

 


2018年3月30日 金子 勝 :立教大学大学院特任教授・慶應義塾大学名誉教授 森友問題が象徴する「縁故資本主義」が日本を滅びに向かわせる

2018年05月16日 22時05分50秒 | Weblog

ダイヤモンド・オンライン

 森友学園に対する国有地の大幅値引き売却をめぐって、財務省による決済文書の改ざんが発覚した。27日、行われたキーマンの佐川宣寿・元理財局長の証人喚問では、佐川氏は改ざんの動機や自らがどう関わったかは、「刑事訴追の恐れがある」ことを理由に明らかにしなかった。その一方で、首相や昭恵夫人、官邸の「関与」については明確に否定した。根拠を何ら示さずに断言答弁する姿勢も変わっていない。

 政権が描く幕引きのシナリオ通り「トカゲのしっぽ切り」の「しっぽ」を忠実に演じようとしているような印象だ。

佐川氏喚問で「幕引き」狙い
真実を知る人物は「隔離」

 証人喚問では「刑事訴追の恐れがある」とした証言拒否は少なくとも46回を数える。「刑事訴追の恐れがある」が「文書は消去した」に取って代わっただけで、説明責任を果たそうとしない姿勢も相変わらずだ。

 だが国会証人喚問での「訴追の恐れ」で証言拒否できるのは、犯罪行為にかかわる事項だけでだ。そう考えると、証言からいくつもの疑問がわいてくる。

 たとえば、昨年3月15日の国会答弁について契約文書を見ていたかどうかを言えないということは、その時点で犯罪行為にかかわるという認識があったということだ。

 ならば、佐川氏の答弁に応じて文書が改ざんされたのではなく、2月17日の安倍総理の総理も国会議員も辞めるとの国会答弁を受けて、契約文書の改ざんが同時進行していた可能性を示唆していることにならないか。

 これまで「交渉記録も面談記録も消去した」を盾に事前の価格提示を否定してきたが、あの発言は「文書管理規則」を説明したものだという証言にも無理がある。

 さらに、国会答弁を大臣官房にもあげていたかと問われて、形式的には大臣官房にあげるが、実質的にはあげていない、という証言も無理がある。

 首相や昭恵夫人との「親交」を誇示する籠池夫妻が経営する森友学園に、「便宜供与」が行われたことはなかったのかどうか。

 国有地貸し付けから売却に至るまでに、定期借地権設定、「価格非公開」、そして大幅値引きという異例ばかりの「特例的」な案件について、誰が何を目的に指示をして決裁文書の改ざんが行われたのか、はっきりさせねばならない。

 その際、真実を知る者が実質「隔離」されていることが真相の解明を妨げている。

 与党は、佐川氏の証人喚問で収束を図ろうとしており、昭恵夫人の証人喚問には応じない構えだ。

 田村嘉啓国有財産審理室長に「口利き」のファックスを送った総理夫人付けの政府職員の谷査恵子氏は、事態が発覚するや、イタリア大使館一等書記官に異例の昇進をし、海外にいる。

 さらに、証拠隠滅や逃亡の恐れのないにもかかわらず、籠池夫妻は、詐欺罪を適用され「容疑者」のまま7ヵ月も拘留されている。

隠ぺい、恣意的データ作り
文書改ざんの横行

 政権の「隠ぺい体質」が浮き彫りになったのは森友疑惑だけではない。

 安倍政権になってから、証拠になる政府文書を隠す、都合のいいデータを作る、時には政府文書そのものを改ざんする、といった事態が横行している。

 安倍首相の「長年の友人」の加計孝太郎氏が理事長をする加計学園の獣医学部新設をめぐる疑惑問題でもそうだった。

 昨年7月に、獣医学部新設4条件を満たしているかどうか非常に疑わしいまま、加計学園を国家戦略特区(今治市)の事業者に決定した。この問題を追及されて、松野博一文科相は、2016年9?10月に行われた内閣府と文科省の会合記録文書の存在を否定した。その文書には「総理のご意向」と書かれた文言が含まれていた。

 ところが、前川喜平前事務次官が文書の存在を確認すると、文科省は「再調査」で文書があったことを認めた。それでも、「総理の意向」を文科省担当者に伝えたとされた萩生田光一官房副長官(当時)、和泉洋人首相補佐官らは「記憶にない」で押し切った。

 さらに、事業者決定を審議していた内閣府の国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の議事録でも、常識では理解できないことが起きていた。

 事業者決定の前の段階で、今治市職員と加計学園関係者がこの会議に参加していたが、この時の事前参加の記録は「未記載」だった。そして、国家戦略特区WGの「議事要旨」部分について、2016年12月に開示されたものは大半が黒塗りされ、その分量は約2頁ページ半あったが、17年8月の開示分では1ページに短縮されていた。ここでも文書改ざんの疑惑が浮上している。

 また安倍首相自身も、加計氏を長年の友人と認め、ゴルフや会食を繰り返していたにもかかわらず、加計学園が特区の事業者に決定したことを正式に決定した「17年1月20日に初めて知った」という。

 いかにも不自然な答弁を国会でしたが、それ以前に知っていれば、関係業者の供応接待や便宜供与を禁じた大臣の服務規定(国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範)に反することになる。

 同じ頃、南スーダンPKOの日報隠し問題も露見した。

 陸上自衛隊がPKOで派遣されている南スーダンが実質的に「戦闘状態」に陥っていることが書かれていた「日報」を、防衛省は当初「廃棄済み」としていた。

 しかし、その後、電子データが発見されたことを知りながら、稲田朋美防衛相と黒江哲郎防衛事務次官が隠蔽した。隠蔽が発覚して稲田防衛大臣は粘ったあげくに、世論の批判が強まり、ようやく辞任した。

 最近では、「働き方改革」で、質問事項の違うデータを“恣意的”に使って、政府は裁量労働の方が一般労働者より労働時間が短いと主張した。

 当初、加藤勝信厚労相は、国会などでの追及に対して「個票データはない」としていたが、これも、後日、本省内の地下室から大量のデータ資料が出てきた。

 そこには、残業時間の数値が勤務実態と矛盾するなどの「不適切データ」がたくさん含まれており、役に立たない調査であることが露呈した。

 このように見てくると、財務省だけ、あるいは佐川宣寿氏ひとりが改ざんをしたとは考えにくい。これは安倍政権の体質の問題だと考えざるを得ない。

 内閣府人事局を設置して600名もの霞ヶ関の幹部人事を握ることで、官邸の意向を推し量って、政権の都合のいいように使える「忖度官僚」を生み出し、本来は、中立公平であるべき官僚制そのものを壊した。

 国会に出てくるすべての資料は虚偽でできているとすれば、もはや国会審議は何の意味も持たなくなる。

 そして、いったん権力を握れば、どんな不正も腐敗行為も行うことができるようになってしまう。国の統治機構そのものが崩壊してしまう事態に直面していると言えよう。

「原発再稼働」でも
首相側近が官邸を仕切る

 こうした「崩壊」現象が顕著になったのは、福島原発事故の処理から始まっているように思える。

 3月17日付の朝日新聞によれば、福島原発事故が起き、1~4号機が次々に水素爆発を起こしていた2011年3月12日~15日に、松永和夫経産事務次官(当時)は寺坂信昭保安院長に「再稼働を考えるのが保安院の仕事だ」と言い放ったという。

 新潟県と東京電力ホールディングスとの合同検証委員会によれば、清水正孝東京電力社長(当時)が、事故を過小に見せるために、炉心溶融(メルトダウン)という言葉を使わないように社内に指示していたとされる。

 未曽有の原発事故という危機の状況で、情報の混乱や情報の開示自体が新たな不測の事態を招きかねないリスクを考えざるを得なかった面があったことは確かだ。

 だがこれ以降、情報を隠蔽し、内々で物事を進めるやり方に抵抗が薄れ、一部の首相側近が情報を管理し、さらには情報を統治に都合よく使って、ということがひどくなった。

 「原発再稼働」でも、今井尚哉政務秘書官を筆頭に、経産省(資源エネルギー庁)や電力会社などの「原子力ムラ」の面々が、公安警察出身の杉田和博官房副長官と戦前の特高警察を礼賛する論文(「外事警察史素描」(『講座警察法』第三巻)を書いた北村滋内閣情報官らと連携して、政権を動かしている。

 ちなみに、今井政務秘書官は、昭恵首相夫人付き政府職員で、財務省の田村国有財産審理室長に、森友学園の土地取引について「問い合わせ」をするファックスを送った谷査恵子氏の上司にあたる。

 国民に対しても、前言を翻し「嘘」をつくようなことも起きている。

 自民党が政権を奪回した2012年12月の総選挙では、安倍自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を掲げていた。

 ところが、第2次安倍内閣は発足早々、政府と国会の事故調査委員会の報告書を無視し、フォローアップする有識者会議も設けずに福島原発事故の原因究明を放り投げ、十分な避難計画も整備しないまま原発再稼働へ動いてきた。

 そして、2013年9月7日、東京オリンピック・パラリンピックを誘致するために出席したIOC総会では、安倍首相は、福島原発の状況を「アンダーコントロール」と述べ、公然と嘘をついた。

 その後も、政府のエネルギー計画策定で、原発を「ベースロード電源」とし、全電源に占める原発の比率を「20~22%」と、「脱原発」の流れを逆戻りさせ、再稼働に邁進していく。

 2016年12月9日に、経産省「東京電力改革・1F問題委員会」は福島第1原発の事故処理費用が11兆円から約22兆に倍増したと発表。東電幹部の経営責任や監督責任を問わないまま、処理費用のうち2兆円を税金でまかない、7~8兆円を託送料金に乗せる方針を出したのである。

長年の友人や近い関係者を“優遇”
異論や批判は封じ込める

 森友問題をはじめとした様々な疑惑や国民を欺くような背信行為を生み出した背後にあるのは、安倍政権の時代錯誤的なクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)にある。

 縁故資本主義とは、民主主義的チェックが働かず、権力者周辺に利益がばらまかれる経済体制をさす。

「アベ友」と呼ばれる一部の親しい関係にある人や逆らわない人に利益を誘導する一方で、異論や批判を力で封じ込めてしまうやり方だ。

 このことが典型的に現れているのが金融政策だろう。

 まず、日銀の政策委員の多くを「リフレ派(インフレターゲット派)」で固めることによって、「2年で」としていた2%の物価上昇目標実現時期が6回の延期を余儀なくされても、「政策的失敗」に対する根本的な批判を封じ込めてしまった。

 その結果、いまや日銀の金融緩和政策は出口のないネズミ講のようになっている。

 日銀が金融緩和を止めたとたん、株価が暴落し、金利が上昇して国債価格が下落して日銀を含む金融機関が大量の損失を抱え込んでしまう状況だ。

 産業政策もおかしな事例が続出している。

 新しい生命科学(ニューライフサイエンス)分野で、国家戦略特区の事業者に指定されたのは、鳥インフルエンザの研究実績のある京都産業大学を押しのけて、加計学園獣医学部だった。

 加計学園は高齢化した教員構成や設備の不備も指摘されていたが、モデル事業者として選ばれた。

 コンピュータ開発では、ペジー・コンピューティング社による補助金の不正受給、詐欺事件が起きた。

 スパコンにかかわって成立した国際特許がなく、高度な科学計算論文もなく、実用性がなく民間納入はない、ただベンチマークとなるコンピュータ速度だけを上げるスパコンに100億円近くの資金が注ぎ込まれてきた。

 とくに科学技術振興機構(JST)は2週間緊急募集でまともな審査を行ったかも疑わしく、しかも9割返還の必要のない52億円の融資を垂れ流した。

 社長の斉藤元章は自ら役員に収まっていくつも会社を作るという手法を使っていた。そして同社への助成金支給を媒介したのは、「準レイプ疑惑」の元TBS記者だと言われているが、この人物も、『総理』という著作で知られ、安倍首相と近い関係が指摘されている。

 原発でも、アメリカで相次ぐ原発の建設中止・中断によって東芝が経営危機に陥っているにもかかわらず、政府は、総額3兆円という日立のイギリスへの原発輸出プロジェクトを推進するために、政府系金融機関を使って出資させ、メガバンクの融資についても政府保証をする方針を出している。

 福島原発の事故処理・賠償費用を国民負担させている東京電力にも出資させる計画だ。

 原発はいまや採算がとりにくくリスクが高い事業で、へたをすれば事業の失敗は国民の税金で後始末を余儀なくされる可能性が高い。

 この時代錯誤的な原発輸出を担う日立会長の中西宏明氏も安倍首相と近い関係にあり、しばしば会食する間柄だ。

 大手建設会社4社の談合が表面化し逮捕者も出たリニア新幹線の場合も、JR東海の葛西敬之名誉会長が安倍首相の長年の友人として知られている。

 安倍首相と友人関係にある人物らが担う事業に多額の国家資金が注ぎ込まれている構図だ。

 すでに、日本の産業競争力は衰弱の道をたどっている。

 この“縁故資本主義”は、競争力を失った遅れた産業に巨額の資金を注ぎ込んで旧体制を支える一方で、新しい先端産業分野では不正・腐敗行為をもたらしている。

 だが公正なルールを失ったところに健全な競争はなく、やがて国際競争力を一層失わせていくことになるだろう。

「一強政治の弊害」は日本経済までも蝕む事態になっている。

(立教大特任教授・慶応大名誉教授 金子 勝)

 

 

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2018年4月18日 森田京平 :クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト

安倍政権の終焉を占う指標「首相プレミアム」とは

写真:首相官邸HPより

 ほんの2、3ヵ月前までは、2018年の焦点となる「出口」とは、日銀の異次元緩和策からの出口を指していた。しかし、今や、「出口論」の焦点は安倍政権そのものに移っている。

 金融政策の出口を“QQExit”と呼ぶとすれば、2018年の焦点は、もはや“QQExit”ではなく、安倍政権がいつ終わるかという“ABExit”だ。なぜ“QQExit”は2018年の焦点ではなくなったのか。また、何を見ることで、「安倍内閣の終焉」の可能性を客観的に見極めることができるだろうか。

金融政策の出口(“QQExit”)は遠のく
低迷する企業の予想インフレ率

 “QQExit”が現実味を持たなくなり焦点でなくなった背景の一つは、企業が予想する今後のインフレ率が低迷していることを示している。

 例えば、直近の3月の日銀短観における『企業の物価見通し』では、「1年後」、「3年後」、「5年後」の予想インフレ率はそれぞれ前年比+0.8%、+1.1%、+1.1%となった。これはこの1年ほど、ほとんど変わっていない(図表1参照)。

 つまり企業は、日銀の「物価安定の目標」である「CPI前年比2%」を、今から5年後においても視野に入れていない。

 本来、長短金利操作が導入された2016年9月以降は、企業の予想インフレ率が上振れしてもおかしくない時期だった。

 なぜならば、2016年9月以降、円安などで円建て原油価格が前年比マイナスから、一気に前年比プラスに転じ、足元にかけてもプラスが続いているからだ(図表2参照)。それにもかかわらず、企業の予想インフレ率は依然として低いままだ。

 大量の資金供給によって予想インフレ率の引き上げを狙う日銀にとって、このことは2018年の“QQExit”がいかに難しいかを考えさせる材料と言える。

2014年、15年に及びそうにない
2018年の春闘賃上げ率

 このように企業の予想インフレ率が低迷する中で迎えたのが2018年春闘だ。 しかし賃上げ率は、安倍首相が経済界に「要請」した「3%」にはほど遠い結果になろうとしている。

 連合による直近の第3回回答集計(4月6日時点)によると、2018年春闘賃上げ率は2.13%(集計組合員数による加重平均)となっている(図表3参照)。

 この状況では、最終的に2018年の春闘賃上げ率は、「3%」はもちろん2%台半ばにも届きそうにない。

 それどころかアベノミクス前半の2014、15年の春闘賃上げ率にも満たない可能性が出てきた。

 賃上げ率に影響すると考えられる(1)人手不足度合い、(2)企業の利益水準、(3)政府からの期待(ないしプレッシャー)は、いずれも2014、15年よりも2018年の方が強いはずだ。

 それにもかかわらず、なぜ2018年の賃上げ率は2014、15年と比べても冴えないのだろうか。

 その理由こそが、上述した企業の予想インフレ率の低迷だ。

 ベースアップなど固定費型の賃金上昇を企業が受け入れるためには、自らの製品やサービスの売値を引き上げられるという手応えが欠かせない。そのためには、他社も売値を上げるだろうと予想できることが前提となる。

 その前提がどの程度、満たされているかをはかるのが、企業の予想インフレ率である。

 その予想インフレ率が2014、15年よりも下がった(前出図表1参照)ことが、2018年賃上げ率の足を引っ張ったと推察される。

 こうしたことを踏まえると、異次元緩和からの「出口」の判断基準を物価上昇率にしている日銀にとって、2018年の“QQExit”は、現実味がなく市場の焦点でもなりにくい。

「安倍内閣の終焉」のリスクは
潜在的には存在していた

 これに対して、2018年の出口論として、にわかに注目され始めたのが、安倍内閣の出口(終焉)つまり“ABExit”だ。

 ごく最近まで「安倍一強」と形容されていた政治状況を思い起こせば、2018年の市場にとって、最も大きな環境変化の一つに政治を含めないわけにはいかない。

 ただし日本の政治は本当に「安倍一強」だったのだろうかという素朴な疑問をぬぐえない。筆者は“ABExit”が具体化するリスクは、もともと存在していたと考えている。

 その理由は安倍内閣の支持構造の特異性にある。

 日本初の電話による世論調査として1987年9月に始まった日経新聞の世論調査(したがって時系列データが最も長い世論調査)を見てみよう。

 具体的には、(1)内閣支持率、(2)自民党支持率、(3)立憲民主党支持率(過去の値は旧民主党および旧民進党で遡及)、(4)無党派層(「支持政党なし」および「分からない」の合計)に着目した(図表4参照)。

 これを見ると、第2次、第3次、第4次安倍内閣のみに見られる1つの特徴が浮かび上がる。

 すなわち無党派層の多さである。

 安倍内閣(第2次~第4次)の下では無党派層が3~4割も存在する。このような内閣は、少なくともこの30年間には安倍内閣以外にはない。

 では、この無党派層はどこから来たのだろうか。その多くは野党支持をやめた人たちだと考えられる。

 つまり、確かに安倍内閣の下、野党は支持率を下げたが、野党の支持をやめた人が皆、与党支持に転じたわけではなく、「無党派層」となったと考えられるのだ。

 この無党派層の多さにこそ、安倍内閣に対する支持が崩れるリスク、すなわち“ABExit”のリスクが潜在的には存在していたと筆者が考える理由だ。

“ABExit”のシグナル指標
「首相プレミアム」に注目 

 “ABExit”のリスクが無視できないとすれば、政権末期を示唆するシグナル指標が求められる。

 そのような指標として、しばしば参照されるのが「青木の方程式」と言われているものだ。

 これは自民党の参院幹事長を務めるなど、党内に強い影響力を持っていたた青木幹雄氏が参照していたとされるシグナル指標だ。

 具体的には、「内閣支持率+与党第一党支持率(自民党が与党第一党の時は自民党支持率)≦50」という時に、政権末期が示唆される。

 同式に基づくのであれば、いまの安倍内閣については政権末期のシグナルは出ていないと結論付けられる(図表5参照)。

 また過去においても、小渕内閣と小泉内閣については、政権末期が近づいている時期でも、同式は終焉のシグナルを発していなかった(小渕内閣は小渕首相が亡くなったことで終わったという点でやや特殊であるが)。その意味で、「青木の方程式」のシグナル機能は高いとは言えない。

 さらに、より根本的な問題として、「内閣支持率+与党第一党支持率≦50」の左辺にある「+」が統計的な意味をなしていない、ということがある。

 本来、内閣を支持する人と与党第一党を支持する人の多くは同一人物だろう。その同一人物を足すことには「数遊び」としての意味はあっても、統計上の意味はない。

 一方で筆者が政権末期を示すシグナル指標として注目するのが「首相プレミアム≦0」だ。

 ここで首相プレミアムとは「内閣支持率-与党第一党支持率」と定義される。

 内閣支持率から与党第一党支持率を差し引くことで、首相自身に対する支持率を抽出することになる。

 この首相プレミアムがゼロ以下となる状況、つまり「首相プレミアム≦0」が政権末期のシグナル指標として注目される。

 実際、「青木の方程式」が終焉シグナルを発していなかった小渕内閣や小泉内閣についても、「首相プレミアム≦0」という指標で見れば、政権末期であるとのシグナルが発せられている(図表6参照)。

 しかもより注目されるべきは、現安倍内閣も「首相プレミアム≦0」という状況に近づいていることだ。

 この意味で、“ABExit”はすでに市場参加者が警戒するべき具体的なリスクとなってきている。

パワーバランスが
政府から与党に

「首相プレミアム≦0」という状況は、「内閣支持率≦与党第一党支持率」という状況に他ならない。

 つまり、政府と与党の間のパワーバランスが政府から与党に軸を移すことを意味する。

 したがって、安倍内閣の下で「首相プレミアム≦0」となれば、2019年に控える統一地方選挙(4月)や参院選(7月)という重要な政治イベントを、安倍内閣で戦うのは難しいという判断を与党がする可能性が高まる。

 つまり“ABExit”である。

 辛うじて「首相プレミアム>0」となっている現状では、“ABExit”はまだリスクシナリオの段階だ。

 しかし、「首相プレミアム≦0」となった時点でメインシナリオに格上げしなくてはならなくなる。

 その意味で、今後、「首相プレミアム≦0」のシグナル機能に注目したい。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)

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安倍首相のお友達人事と強権に、身内の自民党から「NO」噴出

森友・加計問題に加えて、財務事務次官のセクハラ辞任などの問題が続出。内閣支持率の急低下もあり、確実かのように思えた今年9月の自民党総裁選での「安倍3選」にも黄信号がともり始めている。政権の求心力の低下に伴って自民党でも、今後の政局を見据えた様々な地殻変動が起こっているという。自民党内で蠢動し始めた反安倍勢力の動向について、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。(取材・文/清談社)

安倍首相が連発する“お友達人事“に
入閣待機組の不満が爆発か?

安倍首相の敵は野党よりも、むしろ身内にいます。自民党内部には、お友達人事に反発する議員やポスト安倍を狙う大物議員、さらには大物OBたちなど「反安倍」勢力が不気味に蠢いています Photo:つのだよしお/アフロ

 第2次安倍内閣が発足して以降、自民党内からは表立って安倍政権への批判は、ほとんど出てこなかった。

「これまでは“安倍一強”の下で、表立って批判すると、人事で報復される場合もあり、反安倍の議員たちの多くは黙っていました。さらに安倍内閣の支持率も高かったために、声を上げることには躊躇もあったと思います。ですが、安倍政権に対して不満がたまっていないかといえば、そんなことはありません。例えば、初入閣を希望している、いわゆる入閣待機組の中堅以上の議員はざっと50人以上いると見ていい。彼らの多くは、安倍政権の人事に不満を持っています」(鈴木氏、以下同)

 第2次安倍政権が発足してから、閣僚として重用される議員は稲田朋美元防衛相に代表されるような、安倍首相に近いお友達議員ばかりだった。しかも、お友達議員は再任やスライドも多く、なにかと優遇されがちだ。菅義偉官房長官や麻生太郎財務相のように、発足以来ずっと同じポストに座っている議員もいるので、どうしても人事は停滞してしまう。

「党内には人事に対して怨嗟の声がたまっていきます。また人事だけでなく、政策全般を官邸主導で決めていく強権的な政治スタイルに対して、批判的な議員も少なくありません。元々、自民党にはイデオロギーではリベラルな考え方の議員も一定数いますし、政策でも成長戦略や経済政策など幅広い考えがありますから」

反旗を翻すポスト安倍候補たち
自民党大物OBたちも不気味に蠢く

 これまではおとなしかった自民党内だが、財務省の決算文書の改ざん問題が発覚して以降は、党内の空気も少しずつ変わり始め、政権を批判する声が増えてきたという。

「政権が揺らいできたこともあり、このまま“安倍一強”でいいのかという声が自民党内からも少しずつ上がってきています。不満の流れは2つあり、1つは現役の議員たち。代表的なのは、これまでも政権に節目節目で苦言を呈してきた石破茂元幹事長。財務省の改ざん問題でも、ハッキリと批判しています」

 ほかに、なんと閣内からも非難の声が上がっている。

「野田聖子総務相です。彼女も、セクハラ問題で麻生大臣に苦言を呈すなど活発です。9月の総裁選への出馬を視野に入れている石破、野田両氏の発言は、安倍首相からの禅譲を狙っている岸田文雄政調会長とは対照的です。小泉進次郎氏も批判的ですが、彼の場合は、これまでも政権批判が目立っていました。また、村上誠一郎氏や、逢沢一郎氏、伊吹文明氏などベテラン議員の発言も、注目され始めています」

 内閣の支持率低下に伴い、世論もこうした大物議員たちによる安倍批判に聞く耳を持ち始めている。今後、ますます安倍政権に対して厳しい空気が醸成されていく可能性は高い。

「それともう1つ重要なのは、党内にいまだに影響力を残すOB議員たちの動きです。公文書管理に熱心に取り組んでいた福田康夫元首相も現在の政権について批判をしていますが、かつて、参議院のドンといわれた青木幹雄元参議院議員会長や、山崎拓元幹事長、小泉純一郎元首相なども、活発に会合を行っています。当然、会合のテーマは、ポスト安倍。元々、安倍首相に対して批判的だった古賀誠宏池会名誉会長も含めて、各派のOBたちを中心に反安倍の動きが広がってきています」

新・竹下派結成の裏側は?
大物OBが反安倍に動く理由

 中でも注意すべきなのが青木幹雄元参議院議員会長の動向だ。4月19日には、青木氏がかつて所属した平成研究会の会長が額賀福志郎氏から青木氏に近い竹下亘総務会長へと代替わりし、新・竹下派が発足している。

 青木氏は、今でも竹下派に強い影響力を持ち、今回の交代劇も、青木氏の息のかかった吉田博美参議院幹事長を中心とした参議院議員たちが主導している。

「この交代劇は、単純なお家騒動ではありません。かつて小渕恵三首相や橋本龍太郎首相を輩出した名門派閥の平成研究会も、ここ最近は影が薄く、存在感を示せていません。そのため額賀前会長に対する不満が高まっていました。そして、このタイミングでの会長交代は、竹下新会長の下で、次の総裁選で派閥としての存在感を出そうという思惑があるからです」

「実際、竹下会長は総裁選について、『安倍3選を支持する場合もあれば石破氏や岸田氏の支持に回る可能性もある』とほのめかしています。これは総裁選キャスチングボートを握ることで、派閥の力を復活させる狙いがあるからでしょう」

 活発に動き始めた、青木氏をはじめとする自民党大物OBたちの目指すところは何なのか。

「元々、自民党は保守派からリベラルまで様々な立場の議員がいて、良くも悪くも、党内議論は自由闊達で激しかった。それが国民政党と呼ばれた自民党の強みでした。ですが、安倍政権になり、昔のような雰囲気は失われてしまいました。OBたちが反安倍に向けて動いているのは、“安倍一強”体制が続くことによって、これまでの自民党にあった活力が失われることに危機感を持っているからなんです」

 動き出したOBたちの安倍包囲網に対して、安倍首相はどのような手を打ち、3選を目指していくのだろうか。また菅官房長官を筆頭とする安倍周辺の思惑は…。野党が存在感を示せない今、自民党内の反安倍の動きから目が離せない。

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「可視化」を拒む公教育が、貧困連鎖を助長する DIAMOND / 「貧困による教育格差は幼少期から」日本初のデータでわかった学力・生活習慣格差 DIAMOND

2018年05月16日 20時56分36秒 | Weblog
2018年2月25日 加藤年紀 :株式会社ホルグ代表取締役社長

「可視化」を拒む公教育が、貧困連鎖を助長する

写真はイメージです

 大阪府箕面(みのお)市では、「公教育改革」が進んでいる。教育委員の過半数を公募することで注目を集める箕面市だが、特筆すべきは、教育現場で“タブー”となりがちな「数値」をもとにした改善だ。生徒の学力の経年変化を追い、校長が現場の教師を指導する際にも数値を根拠にする。こうした取り組みの結果として生徒の学力を引き上げている。この箕面市の取り組みは、公教育のクオリティを飛躍的に高める可能性がある。

 貧困家庭の子どもは貧困に陥りやすいという、いわゆる「貧困連鎖」が日本ならず世界的にも問題視されているが、これを断ち切るためにも公教育の果たす役割は非常に大きい。というのも、私立小中学校の生徒数は全国で31万人[*1]、それに対して、公立小中学校の生徒数は全国で約940万人[*1]と、公立小中学校の生徒数は全体の約97%にのぼるからだ。さらに言うと、貧困家庭の子どもの多くは公立学校に通うことになるため、この人数差以上に公教育にはその責任が問われる。

 ちなみに筆者自身は公立の小中学校に通ったが、率直に言うと、その教え方について懐疑的である。というのも、学力の高い生徒にとっては、難関校の受験に通用しない授業を受けることとなる一方で、授業について行くことができない生徒もいる。多様な生徒一人ひとりにきめ細かな対応ができていないことが懸念される。

学習塾で感じた合理性、講師の評価が生徒の成績推移と連動

 筆者の体験として、中学時代に通った学習塾では、生徒の学力レベルに応じてクラス分けが行われ、成績の上下に伴ってクラスも入れ替わっていた。

 改めて考えると、塾のシステムは非常に合理的だ。月に1度全国模試があり、主要3教科の成績が記録に残る。それによって、自分の強みや弱みを時系列で客観的に把握することができた。

 なにより、塾講師の教え方は極めて工夫・洗練されていたように思う。いま考えるに、学習塾では講師の評価が、生徒の成績推移によって行なわれている点が大きかったのかもしれない。

 正直に言って、もし筆者が塾に通うことができなければ、入学できた高校のレベルは大きく下がっていただろう。公立小中学校の授業だけでは合格のできない中高入試が無数に存在するという現実は、貧困格差を助長する要因の一つであることは間違いない。

文科省の「全国学力・学習状況調査」だけでは不十分

 公立小中学校には、塾のような検証や分析のできる仕組みが充分とは言えない。生徒一人ひとりの学力や学習環境に関するデータが継続的に管理・蓄積されていないためだ。

 近しい仕組みとして、文部科学省が実施する「全国学力・学習状況調査」がある。これは、国・公・私立学校の小学6年生(※小1~小5は含まれない)と、中学3年生(※中1~中2は含まれない)の全生徒を対象として毎年実施される。平成30年4月に予定されるテストでは、「国語」「算数/数学」「理科」の3教科、そして、学力テスト以外にも、「学習意欲」「生活の諸側面」などの質問紙調査も行う。

 この試験が存在することはプラスではある。しかし、これだけでは個別の生徒の状況変化を追うことは難しく、母集団の違う各年の小学6年生同士と、中学3年生同士それぞれの比較に終始せざるを得ない。それでは、この調査の目的として掲げられている「教育に関する継続的な検証改善サイクルの確立」に事足りるのかという疑問が残る。

独自に全学年で毎年調査をする箕面市「ステップアップ調査」

 じつは箕面市の公立小中学校では平成25年から「箕面子どもステップアップ調査(以下、ステップアップ調査)」という市独自の調査を行っている。これは毎年、全学年で「学力調査」、「体力調査」、「学習状況・生活状況調査」を行うものだ。

 年によって多少異なるが、学力調査の科目はおおむね以下のものである。小1~小2は「国語」「算数」の2教科、小3~小6は「国語」「算数」「理科」「社会」の4教科、中1~2は「国語」「数学」「理科」「社会」「英語」の5教科と、前述した文科省主宰の「全国学力・学習状況調査」と比較しても実施内容は充実している。

 箕面市ではこの「ステップアップ調査」を毎年行うことで、個々の生徒の「学力」「体力」「学習状況」「生活状況」など多岐にわたる項目の推移を毎年数値で把握し、分析していくことができる。

 この調査の価値はそれだけにとどまらない。各生徒の成績推移を担当教員に紐づければ、教師の授業の質についての検証・分析も可能となる。実際に、校長から教師に対しての指導が数値的な根拠をもとに行えるようになったという。

 毎年蓄積される数値データをもとに、生徒の経年変化を把握したり、教育の質の改善につなげている。

結果を出し始めた「ステップアップ調査」の箕面市、
他地域と教育格差はやむなし

「ステップアップ調査」は、既に様々な切り口で検証結果が出始めている。たとえば、数学の授業を成績別で2クラスに分けたところ、そうでないときに比べて成績の向上が認められた。現段階では次のステップに移り、2クラスに分けた場合と、3クラスに分けた場合の比較検証を行っているという。

 このような試行錯誤の積み重ねによって、文部科学省の「全国学力・学習状況調査」でも箕面市の成績は向上しつつあり、一方で、他地域との教育格差を生みつつある。

 しかし、それはやむなしだと筆者は考える。大きな格差が生まれるほど効果に違いが出るのであれば、取り組みを模倣し合い、格差解消を目指すことで、全体のレベルは底上げされていく。一時の格差を恐れて改善を望まないのは、教育の質の向上を自らが放棄することになる。

「ステップアップ調査」を全国で行うとしたら
予算は大学無償化の100分の1以下

「ステップアップ調査」のコストは、箕面市の財源と国の補助金によって賄われているが、一人あたり年間約3000円である。飲み会一回よりも安い費用で教育レベルが向上するならば、賢明な親は喜んで払うだろう。

 ところで、この「ステップアップ調査」を全国で行うことはできないのだろうか。全国の小中学生数は合計約978万人[*1]である。仮に、箕面市と同じく一人3000円として計算すると、総額で約293億円の財源が必要になる。

 ただし、全国の生徒数は箕面市の約1.1万人と比べて、およそ1000倍に及ぶ。規模の経済から考えると、一人あたりのコストは3000円から大幅に軽減できるだろう。

 ちなみに、大学無償化の話もちらつく昨今だが、全国の大学・短大・専修学校の授業料は年間約3.7兆円[*2]と、桁が2つ違う。そして、大学進学は義務ではないが、義務教育課程にある小中学生への投資は、平等で公平な税配分という観点から合理性がある。また、教育経済学の観点から、若い世代への投資がより大きな教育効果を生むことも期待される。

 大学無償化と異なり、「ステップアップ調査」はとても地味な取り組みである。そのため、これが国や地方の選挙を有利に働かせる目玉的な政策になるとは言い難い。さらに言うと、支持団体を敵に回す恐れもあるだろう。しかしながら、「ステップアップ調査」の費用対効果は箕面市の実績から、国・地方を問わず早急に進めることを筆者は強く進言したい。

「教員評価」と「情報公開」の在り方

 ちなみに、箕面市では「ステップアップ調査」をもとに校長からの「教員指導」などは行われているが、「教員評価」は行っていない。また、どの学校の成績が良かったのかを把握できるような、調査結果の公表も行っていない。その判断に影響を及ぼしているのか定かではないが、労働組合から市への要望書には以下の表記がある。

 “「箕面子どもステップアップ調査」については、成果主義に陥ることなく、結果分析をふまえて、条件・環境整備を行うとともに、教員評価につなげないこと。また、学校の序列化や、過度の競争につながらないよう、全国学力・学習状況調査も含め、学校別結果公表をしないこと。[*3]

 この要望書に対しては、いくつか疑問が浮かぶ。まず、「教員評価」にこの「ステップアップ調査」を利用しない場合、それ以上に妥当性のある教員評価の判断材料を、持ち合わせているのだろうか。むしろ、生徒への貢献度が可視化できていないため、貢献していても報われていない教師が既に存在しているとすれば、そのほうがより大きな問題のように見える。貢献度の高い教師にこそ大きな報酬と裁量を得てもらいたいと、サービス受益者である住民が考えるのは妥当だろう。

 2つ目の疑問は、学校ごとの調査結果の非公開についてである。これを知りたいという住民ニーズは当然に存在する。最近では、通学する学校を選べる地域も増えてきた。「成績や風紀が良い学校に、自分の子どもを入学させたい」と思うのは、親として当然の気持ちではないか。

 さらに大前提として、“公立学校は税金によって運営されている”という観点から、情報公開が進むことが望まれる。非公開とすることで、子どもたちが享受すべき“より良い学習環境の選択肢”が奪われる現状は、強く懸念されるべきではないだろうか。

合理的な公教育が貧困連鎖を断ち切るカギとなる

 最後に、冒頭で提起した問題について改めて述べたい。筆者は公教育の充実こそが、貧困連鎖を断ち切る重要なカギになると考える。そして、その実現のためには、全国の公教育が合理的に検証、分析されることが求められる。

 果たしてそれは、願うことすら許されないほど難しいことなのだろうか。少なくとも箕面市はその未踏の路を、先駆けて歩みつつある。

(株式会社ホルグ代表取締役社長 加藤年紀)

[*1]資料 平成29年度学校基本調査(確定値)の公表について(文部科学省)
[*2]資料 我が国の教育行財政について(文部科学省)
[*3]資料 箕面市への要望及び回答 (日本労働組合総連合会大阪府連合会)

 
 
 
2018年3月14日 小林庸平 :三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経済政策部 主任研究員,名取淳 :三菱UFJリサーチ&コンサルティング 組織人事戦略部 コンサルタント

「貧困による教育格差は幼少期から」日本初のデータでわかった学力・生活習慣格差

日本で問題視される「子どもの貧困」。このたび日本初のデータベースを用いて、家庭と子どもの教育格差に関する知られざる事実を探った(写真はイメージです)

驚くほど深刻化する子どもの貧困」
日本は先進国35ヵ中8番目

 日本では、社会の格差や貧困層の拡大が深刻化している。

 日本の相対的貧困率は先進国35ヵ国中8番目の15.6%(2015年)と高い水準にある。相対的貧困とは、必要最低限の衣食住は確保できるものの、その地域や社会において「普通」とされる平均的な生活を享受することができない状態のことである。世界第3位の経済大国である日本において意外に思えるかもしれないが、日本の格差の一面を端的に示している。

 そんななか、足もとでとりわけ問題視されているのが「子どもの貧困」である。厚労省の国民生活基礎調査によると、2015年の子どもの相対的貧困率は13.9%であり、子どものうち7人に1人は相対的貧困状態にある。この数値は景気回復によって直近でやや改善したものの、1985年以降断続的な増加トレンドにある。しかし貧困状態にある子どもがどのような状況に置かれているのかは、データの不足もあり十分に調査されてこなかった。

 貧困状態に置かれていると、家庭の経済状態に子どもの状況が大きく左右される可能性がある。経済的な制約によって高等教育機関への進学や通塾が難しくなってしまったり、家庭環境の悪化によって生活習慣や自己肯定感等に悪影響を与えてしまったりする可能性がある。子どもの貧困は当事者だけの問題ではなく、それを放置すると将来的に40兆円以上の所得が減少し、社会的な損失をもたらしてしまう可能性を筆者は指摘してきた(詳細は、『子供の貧困が日本を滅ぼす』(文春新書)参照)。

 折しも政府は、新たな経済政策の理念として「人づくり革命」を掲げている。後述する通り、そこでは子どもの教育の在り方の見直しも重点戦略の1つとされているが、そのためには、経済格差が子どもにどのような影響を及ぼし得るのかを把握しておくことが不可欠である。

 本稿では、家庭の経済格差と子どもの教育格差に関する日本初のデータを用いた分析結果の興味深いポイントを紹介しながら、子どもの格差解消を目指すために必要だと考えられる方向性を議論したい。

 なお今回の分析は、日本財団から委託を受けてとりまとめた「家庭の経済格差と子どもの認知能力・非認知能力格差の関係分析-2.5万人のビッグデータから見えてきたもの-」をもとにしており、詳細にご関心のある方はぜひそちらもご覧いただきたい。

日本初のシステムを使った
「子どもと学力」追跡調査でわかったこと

 今回の分析では、大阪府箕面市が構築した「子ども成長見守りシステム」のデータを用いた。これは、教育や福祉などの施策分野をまたいで子どもに関する情報が統合されたパネルデータ(子ども一人ひとりを追跡可能なデータ)になっている。

 これは日本初のシステムであり、多くの優れた特徴を有している。

 第一に、生活保護や就学援助といった経済状況と子どものアウトカム(学力や生活習慣など)の関係性を分析できることや、行政施策効果の測定などに利用することができることである。多くの自治体では、データの利用・共有が部局内に限定されている場合も多いが、本システムは教育と福祉などの部門の壁を乗り越え、連携されたものになっている。

 第二に、対象者のカバレッジが広いことも特徴の1つである。箕面市に居住するすべての子どもが対象となっているため、カバーしている年齢・対象の幅が広い(注1)

 第3に、学校や行政が保有するデータ(ストック)を最大限活用して整備されたシステムであるため、調査のための追加的な費用を要していない。一般に、パネルデータを整備するためには、調査費用を継続的に確保していくと共に、一人ひとりの個人を追跡調査していかなければならない。同システムは、学校・行政が保有するデータを活用することによって、これらの壁を乗り越えている。

(注1)正確には、「子ども成長見守りシステム」は生活困窮者の子どものみを対象とものだが、そのもとになっている学力調査等の情報はすべての子どもが対象になっている。

 それでは、箕面市子ども成長見守りシステムの分析から明らかになった「3つの発見」を紹介していきたい。

【発見1】
貧困世帯の子どもの学力は10歳頃から低下し、
その後固定化してしまう

 発見1は、経済的に困窮している世帯の子どもの学力は、そうでない世帯(注2)の子どもと比較して10歳頃から急激に差が開くことである。図表1は、生活保護世帯の子どもと経済的に困窮していない世帯の子どもについて、国語の偏差値(注3) の推移を見たものである。

 7~9歳の時点においても、生活保護世帯の子どもの偏差値は経済的に困窮していない世帯の子どもよりも低くなっているが、その差は統計的に有意ではない(差が誤差である可能性を否定できない)。

 しかし、10歳になると偏差値の格差が拡大し、統計的に有意な差が生まれてくる。その差は年齢が上がっても縮小せず、維持されてしまう傾向がある。

 生活保護世帯と経済的に困窮していない世帯では、年齢が上がるにつれて偏差値の平均値に差が生まれてくるだけでなく、固定化していく傾向も見えてくる。図表2は、7~9歳および13~14歳について偏差値の分布を描いたものである。黒い線が経済的に困窮していない世帯の偏差値分布であり、赤い線が生活保護世帯の分布である。

(注2)生活保護、就学援助、児童扶養手当、子ども医療費助成の非課税世帯、のいずれにも該当しない世帯を「経済的に困窮していない世帯」と定義している。
(注3)図表中の「経済状況別の偏差値の平均値」とは、経済的に困窮していない世帯と生活保護世帯の子どもの国語の偏差値の平均値である。東京書籍の「標準学力調査」を用いており、箕面市以外も偏差値集計の対象となるため箕面市の偏差値の平均は50にならない場合がある。

 いずれの年齢について見ても生活保護世帯の方が偏差値は平均的に低いが、7~9歳では経済的に困窮していない世帯とかなり重なりがあることが分かる。例えば、偏差値の平均値はいずれのグループでも50前後であり、かつ偏差値が60を超えるような子どもの割合は両グループでほとんど差はない。つまり小学校低学年の頃は、生活保護世帯であっても高い学力を獲得することは難しくないのである。

 一方、13~14歳になると、両グループの分布がかなり分かれてしまうことがわかる。経済的に困窮していない世帯の場合、偏差値の分布が右に移動している。一方で生活保護世帯の場合、偏差値の分布が左に移動する共に、分散(散らばり)が小さくなり、学力の低い部分で固定化してしまっていることがわかる。

 一定の仮定を置いて、経済状況・年齢別に偏差値が65以上の子どもの割合を算出してみると、7~9歳の子どもの場合、経済的に困窮してない世帯の子どもであっても生活保護世帯の子どもであっても、偏差値が65以上の子どもは5%程度である。しかし13~14歳になると、経済的に困窮していない子どものうち10%程度が偏差値65以上になるのに対して、生活保護世帯の子どもでは3%程度に低下してしまう。

 つまり、小学校低学年までであれば、家庭の経済状況が厳しい子どもであっても高い学力を獲得できる割合は低くないが、年齢が上がるにつれて経済状況が足かせとなって、高い学力を獲得できる確率がどんどん低下していくことになる。

【発見2】
学力の基礎となる基本的な生活習慣は
小学校入学当初から差が大きい

 学力は10歳頃から大きな差が生まれてくることが分かったが、小学校入学当初から既に差が生じている要素がある。それは基本的な生活習慣である。図表3は生活保護世帯とそれ以外の世帯について、「勉強、スポーツ、習い事、趣味などで頑張っていることがあるか」 (注4)という質問と、「朝ごはんを、毎日食べているか」(注5) という質問について、学年別に集計したものである。

(注4)東京書籍の総合質問紙調査「i-check」を用いており、自己肯定感やソーシャルスキル等の非認知能力として挙げられることの多い能力のほか、生活習慣やいじめのサインなど、幅広く子どもの生活の実態を把握することができる。
(注5)脚注4と同様。

 小学校1・2年生について見ると、「勉強、スポーツ、習い事、趣味などで頑張っていることがある」と回答した子どもの割合は、生活保護非受給世帯では92%であるのに対して、生活保護世帯では73%となっており、20pt近い開きがある。「朝ごはんを、毎日食べている」という回答についても、生活保護非受給世帯では97%であるのに対して、生活保護世帯では78%となっており、こちらも20pt近い開きがある。

 つまり、学力には表れてきていないものの、こうした基本的な生活習慣については、小学校入学当初の段階からすでに大きな差が生まれてきてしまっているのである。

【発見3】
基本的な生活習慣が
良いと学力も上昇しやすい

 それでは貧困世帯で学力の低い子どもが、学力を向上させるためにはどういった要素が必要になるのだろうか。ここでの分析は因果関係を示したものではなく、あくまでも相関関係を示したものに過ぎないが、ひとつの分析結果をご紹介したい。

 図表4は、貧困状態でかつ偏差値が45以下だった子どもが、翌年に偏差値が45超になる確率を示したものである。その確率は平均的には23.5%である。つまり貧困状態で偏差値が45以下だと、翌年に45超になれるのは4人に1人程度に過ぎないことになる。

 しかし、そうした子どもであっても、生活習慣や思いを伝える力(「自分の意見を積極的に発言するか」や「友達に元気がない時に声をかけるか」などから測定した指標)が平均以上に高い場合は、翌年に偏差値が45超になれる確率が35.8%(=23.5%+5.9%+6.4%)上昇するのである。つまり、貧困状態で偏差値が45以下であっても、生活習慣や思いを伝える力を身に付ける機会をつくれれば、3人に1人程度は偏差値45超になれる可能性がある。

分析結果からわかった
「今、必要なこと」

 以上、大阪府箕面市が構築した「子ども成長見守りシステム」のデータを用いた分析結果を紹介してきた。そこから読みとれる、子どもたちにとって「今、必要なこと」とは何だろうか。

 第一に、早期支援の重要性である。学力の推移で見たように、貧困世帯の子どもの学力は経済的に困窮していない世帯と比較して10歳頃から急速に低下し、その後は低い水準で固定化されてしまう。このことから、学力が固定化されてしまう前の段階からの早期支援の重要性が示唆される。

 第二に、生活習慣等の改善を支援していくことの重要性である。基本的な生活習慣については、小学校入学当初の段階から貧困世帯と非貧困世帯で大きな差が生まれていると共に、生活習慣が良い子どもは貧困状態であっても学力を上昇させられる確率が高い。つまり、基本的な生活習慣などは低年齢児から格差が生じているが、それらを支援できれば貧困世帯の子どもであっても学力を高められる可能性が非常に高い。

 2017年12月に政府が発表した「新しい経済政策パッケージ」の中で、「人づくり革命」が「生産性革命」と並ぶ基本方針として強く打ち出されたが、子どもたちに対する支援策として、国として求められることは何だろうか。

 第一に、学力や生活習慣等のリスクが高いのは貧困層であり、そうした世帯に対して支援を重点化していく必要性があるだろう。例えば、教育の無償化の議論で幼児教育分野における施策の特徴の1つは、3歳から5歳までの子どもについては親の所得に関わらず全ての子どもを無償化の対象としている点である。現行の制度では親の所得に応じた負担となっているため、この点において制度改定の追加的な便益は高所得者ほど大きいと言える。

 第二に、現在の政策論議の焦点は、幼児教育や高等教育の無償化に置かれているが、教育プログラムの中身についても検討が不可欠である。本稿の分析結果から、生活習慣や、いわゆる「非認知能力」と呼ばれる要素の重要性が浮き上がってきているが、早期の段階からそうしたものに対する支援が重要になるだろう。

様々な地域での「子どもの貧困」
実態把握・効果検証が急務に

 東京大学の山口慎太郎准教授ら研究 では、保育園利用によって子どもの問題行動が減少するだけでなく、母親の子育てストレスや幸福感なども改善することを明らかにしている。そしてその効果は、恵まれない家庭ほど大きいとしている。つまり日本においても、貧困世帯などを中心とした支援策は、大きな効果を持ちうる可能性が高いのである。

 そして最後に重要なのが、可能な限り客観的なデータを用いながら、子どもが置かれた状況を把握しながら、施策の有効性を絶え間なく検証していくことである。今回こうした分析が出来たのは、箕面市が子どものデータを統合し、質の高いデータベースを構築したことによる。データの統合によって子どもの状況を客観的に把握することが可能になるだけでなく、将来的には政策効果の検証にも活用することができる。今後は様々な地域でそうした実態把握・効果検証のインフラを整えていくことが重要である。

Yamaguchi, Shintaro and Asai, Yukiko and Kambayashi, Ryo (2017) “How Does Early Childcare Enrollment Affect Children, Parents, and Their Interactions?” https://ssrn.com/abstract=2932875

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経済政策部 主任研究員 小林庸平、組織人事戦略部 コンサルタント 名取 淳)

 


医者も食べている「がんリスクを減らして若返る」3つの食材

2018年05月16日 20時45分41秒 | Weblog
2018年2月7日 夏目幸明 :経済ジャーナリスト

医者も食べている「がんリスクを減らして若返る」3つの食材

論文を読むのが日課という「めんどくさいお医者さん」、東京大学病院・地域医療連携部の循環器専門医、稲島司先生。彼は医学的な調査、科学的な証明を論拠に「健康」を考え、逆に、論拠なき「健康イメージ」を撲滅せんとする人物だ。今回は彼自身の食習慣を教えてもらった。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)

食事改善はまず朝食から
夕食は比較的自由でもOK

さまざまな「健康にいい食べ物」情報が世にあふれるなか、論文マニアの現役医師が伝授する「エビデンスのある食事法」とは...?

夏目 というわけで先生の提唱してる食習慣を取り入れたいんですよ。私、生活が不規則で、夜も飲みが多くて、しかも独身でしょ?なんかの調査で、独身男性は既婚男性に比べ早死にするって読んだこともあるんですよね…(※大阪大学、2007年。40~79歳の男女9万64人について、10年間にわたり婚姻状況とその後の死亡との関係を追跡調査。独身男性は既婚男性に比べて循環器疾患で3.1倍、呼吸器疾患で2.4倍、外因死〈事故や自殺〉で2.2倍の死亡率となる)。

 先生は最近、「医師が実践する 超・食事術」という本を出版されましたが、健康になれる食生活って結局、どんなもんなんでしょう?

稲島 健康的に長生きできる食事を続けると、なんと見た目の改善も期待できそうなんです。私はまず「無理せず朝食だけ変える」ことをお勧めします。食事は楽しむことも大切だから、夕食は比較的自由に、でも朝食は習慣化しやすいから改善してみましょうという提案です。そして、まず摂ってほしい食品その1は「ナッツ」なんですね。

夏目 あ、ピーナッツとか?

稲島 素晴らしい間違いです。私は以前から、ピーナッツは「ピービーンズ」と呼ぶことを推奨しています。名前に「ナッツ」とあるから紛らわしいんですが、ピーナッツはナッツではなくマメ科です。ただ、「ピー」は豆の意味らしいので、ピービーンズだと豆豆になってしまいますが…。

夏目 相変わらず細かいところにこだわりますね。

稲島 一方、ナッツは主に木の実のことで、よく見かけるものだとアーモンド、くるみ、ヘーゼルナッツなどを指します。長生きしたいなら、これを毎朝食べてほしいんですよ。ちょっと見てください。直腸癌、子宮体癌、そして星野仙一氏の訃報でも話題になった膵臓癌もリスクが減るようです。

 そしてコレステロール値も改善して、心臓病による死のリスクも減少しています。(参考論文:Public Health Nutrition2009;13,1581、JAMA Intern Med. 2015;175:755 )

血管年齢の若返りは
がん予防効果も期待できる

夏目 たかがナッツで、がんも心臓病も減るんですか!なんでなんですか?

稲島 不飽和脂肪酸といって、血液中のいわゆる善玉コレステロールを増やす要素が多い成分を多めに含んでいることが理由と考えられます。

 以前お話ししましたが、牛や豚や羊の肉など「赤肉」とか「畜肉」と言われる肉は、飽和脂肪酸、いわゆる悪玉コレステロールを増やして動脈硬化を進める要素をたくさん含んでいます。牛や豚の煮物が冷めると脂が白く固まりますよね。あくまでイメージですが、「常温で固体」のアブラが血管に多く含まれると、そこで固まって動脈硬化や心臓疾患の原因と想像してはいかがでしょう。

 一方、ナッツは固体ですが、そこに多く含まれる不飽和脂肪酸を絞り出したりすると「常温で液体」です。植物油は液体ですね。これらは善玉コレステロール値を上げて動脈硬化を防いでくれるんです。

稲島先生の最新刊「医師が実践する超・食事術」(サンクチュアリ出版)は、医学的エビデンスのある正しい食事術を紹介している

夏目 摂るアブラの種類によって、カラダに良かったり悪かったり…?。

稲島 そうなんです。善玉コレステロールというのは、ちょっとややこしいのですが…密度の高いリポタンパクに含まれるコレステロールのことで、この密度の高いリポタンパク(High density lipoprotein: HDL)が、血管の壁にへばりつくコレステロールを回収してくれるんです。そして動脈硬化が抑えられる。

 病気と老化というのは密接に関係していることは以前お話ししましたが、かなり雑に言えば「動脈硬化を防ぐ」=「血管年齢が若返る」んですね。そして不思議なことに、動脈硬化を予防する食生活と、がんを予防する食生活は、大きく共通点があるんです。そのメカニズムはいろいろ提唱されていますが、機序はさておき、実際の生活の上ではさっきお伝えした直腸癌・子宮体癌・膵臓癌を減らすということも納得できると思います。

夏目 食べなきゃ損ですね。

稲島 ですね。少し前までナッツというと「油分を含んでいるから」と敬遠する方が多かったんです。確かにカロリー量は多くなってしまう懸念はあります。しかし、これまでの臨床研究からは、「アブラは避けるものでなく、選ぶもの」と言えます。ちなみに、オリーブオイルにも同様の効果が確認されてきていて、あとアマニ油やエゴマ油にも期待が持たれています(詳しくは過去記事「マーガリンやコーヒーフレッシュはなぜ体に悪いのか」を参照)。もちろんこれらのカロリーも注意すべきですが。

チョコ×ナッツのおやつが
最強である理由

夏目 じゃあ、スーパーで売っているナッツをポリポリかじればいいんですか?

稲島 それもいいんですが、市販の加工品の場合は塩分が問題になります。また、たいていは炒ったり揚げてあるから、余計な(ナッツに含まれる以外の)油分があることも気になりますね。私は炒っていない生ナッツを水でふやかし、フードプロセッサーでペースト状にして、アスパラやブロッコリーと食べたりしています。

 料理が面倒なら、おやつの時に、例えば「カカオ95%」などと書いてある、ブラックチョコレートに近いような市販のチョコを買って、ナッツと一緒に食べる、なんてのは手軽かもしれません。ちなみにチョコレートも、英ケンブリッジ大学が11万人以上の解析によって、心臓発作や 脳卒中などの心血管病のリスクが低くなると発表しました(参考論文:BMJ 2011 ;343:d4488)。チョコとナッツ、いい組み合わせです。

夏目 フツーのチョコじゃだめなんですか?

稲島 フツーの甘いチョコも美味しいですが、たくさん摂ると糖分が多く、現代人にとって脅威でもある体重増加や糖尿病などのリスクが懸念されます。少し前から流行っている糖質制限にも逆行しますしね。カカオ95%のチョコを1日数かけとナッツ1日30グラム程度なんて、いいと思いますよ(詳しくは過去記事「糖質制限は本当に危険なのか!?」を参照)。

 これに加えて、食べてほしいのが豆類です。

夏目 豆腐とか、納豆とか?

稲島 ええ。さっき「ナッツじゃない」といったピーナッツも豆類ですね。こちらもナッツ同様、人類にとっての福音と言っていいほど健康的な食品なんです。まず、植物なのにタンパク質が多い。これは例外的な存在なんです。

夏目 肉や魚もタンパク質が多いんじゃないですか?

稲島 そうですね。確かにざっくり成分だけを見るとタンパク質が多い食材としては、豆の他に肉や魚が挙げられます。でも大事なことは、昔からよく使われるフレーズ「この成分を含んでいるからカラダに良い」ではなく、「この食品・食材を多く摂っていると病気になりにくい・なりやすい」といった直接的な証明なんです。

サプリではなく食事を見直すことが
重要である理由

稲島 先ほどナッツでも説明しましたが、不飽和脂肪酸が良いというのは説明のための理屈であって、人々の健康に資する情報は「ナッツを多く摂っている人たちに病気が少なかった」という調査結果です。そして豆類に加えて魚も多く摂ると良いことが示されてきています。私は肉が好きなので、夏目さんとも何度となく焼肉トークしてきましたが、多くの現代日本人はタンパク質を十分に摂れていますから、高齢者を除き、肉を積極的に食べた方が健康に良いということはなさそうです。

 また、大豆はホルモンに関わるがんの発症も抑えます。例えば、男性なら前立腺がんの発症リスクです。日本国内での調査でも確認されています(こちらを参照)。

夏目 なぜこういった作用があるんですか?

稲島 それが特定できないのが難しいところで、面白いところでもあります。大豆のイソフラボンやサポニンに何かいい効果があるんじゃないか、と考えられますが、それだけを抜き出して摂取しても目立った効果は期待できないようです。

 何でもそうで、以前「コーヒーをブラックで飲む方は糖尿病や肝臓がんになる割合が下がっていく」と話したことがありますよね(詳しくは過去記事「βカロテン摂取で肺がんが増える!データで読み解く食品のウソホント」を参照)。クロロゲン酸やカフェインなど、コーヒーに含まれるどの物質が有効なのか気になるところですが、動物実験や細胞実験などでは効果が出るものの、ヒトではエビデンスを言えるほどの結果は得られていません。最近の予防医学では「コーヒーにはこんな力がある、成分はともかく、それでいいじゃないか」という風潮になりつつあります。同様にナッツや大豆の「この物質が体にこう影響するから…」、というのは忘れちゃってもいいです。

夏目 医者がそんなこと言っちゃっていいんですか?テレビとかに出てくるお医者さんたちは、「○○という成分が入ってるからこれ食べましょう」みたいなこと言ってるじゃないですか。

稲島 その成分とやらが良いなら、市販のサプリは良いものだらけということになります。そう言って売ってる商品はたくさんありますが、本来はきちんと臨床試験を経て宣伝すべきです。以前お話ししたβカロテンやビタミンEは効果がないどころか、一部有害事象が多いという結果も出ています。

 病院で処方される薬は厳密な臨床試験で評価されたものが採用されることになっていますので、それを除けば、口にするのはサプリや健康食品ではなく、結局ふつうの食事が良いということを最近の研究は証明してきています。その中で今回はナッツと豆を紹介してみました。

病気予防に効く食事は
若返りにも大きな効果が!

夏目 ちなみにコーヒーも豆ですよね?

稲島 コーヒーは、「豆」とは言いますが、実はコーヒーノキになる「種子」なんです。ざっくり言うとマメ科は草(1年草)、ナッツは木の実なので、コーヒーはどちらかというとナッツに近いです。

夏目 (どうでもいい…)…で、大豆をはじめとしたマメは実際にはどう食べるのがいいんですかね。例のごとく、あんまり辛くしちゃいけないから、生のままむしゃむしゃ食べろってことですかね?

稲島 「辛い」と一言でいいますが、要は塩分の摂りすぎがよくないんです。いろんな工夫がありますが、たとえば、大豆製品の代表選手である豆腐なら、ポン酢なんていかがでしょう。茶色い醤油が入った「ポン酢醤油」の製品は塩分に加えて糖分を多く含むの商品が多いので、薄緑色の、塩分や糖分をほぼ含まない「ポン酢」を買ってきて、少量の醤油を加える方法を勧めています。

 料理が得意な方なら、ご自宅で酢や柑橘類、香辛料から作られると、なお良いと思います。大豆自体も良い効果がありそうですが、大豆を加工した豆腐を調べた調査もあって、乳がんのリスクが低下することが示唆されています。(参考論文:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1996 Nov;5(11):901-6.)

夏目 そういえば、稲島先生って写真を載せたいくらい肌がプルップルですよね。

稲島 ナッツや大豆やオリーブオイルや魚を食べ、塩分を取り過ぎず、もちろんタバコも吸わず…という生活をしていると、いろいろな病気のリスクが減ります。すると、肌も若さを保っていられる、とも言えそうなのです。 

夏目 以前、一卵性双生児の見た目の年齢と寿命を比べた論文がありましたよね(詳しくは過去記事「見た目年齢や歩く速度が寿命に影響!データで読み解く健康情報のウソホント」を参照)。まったく同じDNAを持っているのに、老けて見えた人は若く見えたほうより先に死んでしまう割合が高い、という内容でした。

稲島 その通りで、逆から解釈すると、長生きする確率が高い人は見た目も若く見えるわけです。だから、長生きする食事と若さを保つ食事は同じかもしれません。モテる食事になるかもしれませんね。

夏目 わかりました!長生きでモテるなら今日からやるしかないですね!でも、いきなり3食すべてをナッツやオリーブオイル、魚、大豆にするってのはちょっと辛いかな…。

稲島 そう、だから冒頭でもお伝えしたように「まずは朝食から」を試していただきたいんです。一朝一夕に若返るとは言いませんが、継続すれば、必ず目に見える効果が出てきますよ!

2018年3月9日 木原洋美 :医療ジャーナリスト

東北大が復興策に「ゲノム医療のデータ蓄積」を選んだ理由

バイオバンクで復興?
最初はピンとこなかった

写真はイメージです

 東日本大震災から7年。被災地沿岸部は依然、土木工事やら建設工事が続き、地域住民の生活再建はあまりが進んでいるようには見えない。

 人口流出への歯止めはかからず、特に被害が甚大だった南三陸町(宮城県)では、震災前の2011年2月末には1万7666人だった人口が2018年2月末には1万3207人にまで減ってしまった(データは南三陸町公式HPより)。

 このままだと、あと20年くらいで誰もいなくなる計算だ。

 そんなわけで「復興政策は大失敗だったのでは」という声も方々から聞こえてくるが、なかには着々と前進し、成果をあげている復興事業もある。

 東北大学が中心となり、東日本大震災被災地の復興に取り組むために作られた『東北大学 東北メディカル・メガバンク機構』だ。文科省・復興庁が推進する国家プロジェクトでもある。

 国家プロジェクトと聞くと、「被災地のことを何も知らない役人が、復興支援を口実に、予算を使うために企てた計画なのでは」と、疑わしく感じる人も多いだろう。

 実は筆者も、疑いの目を向けていた。

 プロジェクトの中心は、住民への長期間健康調査(血液・尿の採取あり)をもとにバイオバンクを作り、遺伝子研究等を行い、未来の医療に役立てようというものなのだが、バイオバンクがどうして復興に役立つのかが、まるでピンとこなかったからだ。

 だがある取材で、同機構の機構長、山本雅之氏の話を聞いて、認識はガラリと変わった。そもそもこのプロジェクトは、中央官庁の発案ではなく、震災直後の現場で奮闘する、医療関係者たちの思いから誕生したものだったのだ。

新幹線内で震災を知り
大量の寝具とともに帰還

 2011年3月11日、山本氏は東海道新幹線の車中で、大震災の発生を知った。大気汚染物質関連の研究が米国の学会で高く評価され、『最先端の基礎科学賞』を授与された翌々日。帰国した足で京都大学に向かい、講演を済ませた帰り道だった。

「京大を出たのは昼頃でしたが、震災の影響で新幹線はなかなか動かず、最終的に東京駅に着いたのは夜の10時過ぎでした。駅の周辺はものすごい数の帰宅難民で、あふれかえっていました。

 機中泊からの京大講演と長時間の移動でフラフラでしたが、当時、私は東北大医学部の部長兼副学長でしたので、日本橋口にある東北大の出先機関に直行しました。一息ついて、大学関係者でいっぱいの室内で雑魚寝していると、深夜になってようやく東北大と電話がつながりました。

『寒い、雪が降っています。崩壊の危険があり、建物には入れない。ものすごい被害です』

 現地の様子を聞き、もう一瞬でも早く帰りたいと思いました。気持ちはみんな一緒です。

『布団を持って帰ろう』という話になり、貸布団会社に電話して、あるだけの布団、4tトラック、運転手を借りて、翌日の土曜日の夕方に準備が整い、赤羽の倉庫を出発しました。途中、検問があり、「自衛隊か災害支援の車しか通さない」と止められましたが、「私は東北大学の医学部部長です。救援物質を積んでいます」と交渉し、その場で、1ヵ月有効の通行許可証をもらい、なんとか仙台にたどり着きました」

 倒れた電柱、ひび割れてぐにゃぐにゃになった道路、信号も照明も消えた街で、山本氏らは東北大学に設けられた3ヵ所の避難所に布団や毛布を配って回った。

被災者を長期間見守り
若手医師も惹きつける

 キャンパスも大きな被害を受けた。コンクリートの建物は全て入館禁止。体育館に避難し、雪をしのいだ。通行許可証をフル活用し、東京の拠点に全国から届いた救援物資を持ち帰り、2週間を生き延びた。

「東北大学は災害対策本部になっておりましたので、3月25日に、『さあ、これからどうしようか』という話し合いをしました。その時に出たのが、元に戻すだけでは大きく変わらないだろうと。私たちに必要なのは、元を上回るような、東北地方の発展につながるような創造的な復興だ、それをやろうという意見でした。東北大の医学部は研究に力を入れています。医学系の研究者がどういった方法で、創造的復興に貢献できるだろうかと考え、出てきたのが『メディカル・メガバンク』だったのです。

 それまでの2週間、被災地各地への医師の派遣はもとより、布団を持ち帰ったり、全国から物資を調達して配ったり、目いっぱい動いていましたが、それは一時的な支援です。

 中長期スケールの支援をするには、どういうことが望ましいのか。必死に考えました」

 東北大学の医学研究科に、世界をリードするようなライフサイエンスのイノベーションに繋がるセンターを創り、東北地方を求心力にして、創造的な復興を実現しようという方向性で、意見が固まった。

 それが「メガバンク」になったのには3つの理由があった。

「第1は、何十万人という人が津波で家をなくし、仮設住宅に入ったり、避難をしたりという未曽有の事態が起きていましたので、そういう方々の健康を、長く見守って行くような医療をやるため。

 第2は、沿岸部で6つの公立病院が流されたのですが、その際、カルテも流されてしまい、継続した診療ができなくなっておりましたので、もう2度とカルテを失くさないような医療システムを作りたいと考えたこと。

 第3は、優秀な若手医師が腰を据えて、災害からの復興に貢献してくれるような体制を作りたいと思ったことでした。

 というのも、沿岸部は、そもそも若手の医師が行かないようなところなんですね。仙台までならみんな行きたいと思うけど。やはり自分の将来のキャリアを考えると、医師としての訓練や研究ができないようなところへは行けない。

 この3つを、連立方程式を解くように考えた結果、『コホート調査』とバイオバンクを軸にする事業を行おう、ということになりました」

 ちなみにコホート調査とは、一人ひとりの体質と生活習慣・環境がいかに病気の発症と関連するかを明らかにするための研究方法の一つだ。

病人の遺伝子だけでは
どれが怪しいかは分からない

 こうして、2012年、『東北大学 東北メディカル・メガバンク機構』が誕生。翌年から、血液や尿等生体試料の採取をともなう、地域住民に対する「コホート調査」と、妊婦を中心とする「三世代コホート調査」を実施してきた。

 調査の目標人数は15万人。対象地域と定めた宮城県と岩手県の全人口のおよそ4%にあたる。バスに乗ったら1人か2人は、コホート調査に協力した人がいる計算だという。2016年11月、開始から3年半で、目標は達成された。

 さらに調査と並行して2013年11月には日本で初めて1000人分の全ゲノム解析を完了。現在は、すでに2000人以上の全ゲノムデータをもとにした情報をネット上で公開している。

 同機構が構築しようとしているのは「日本人の全ゲノムリファレンスパネル」。病気を発症した人ではなく、健康な人たちを調べた全遺伝子情報のデータベースだ。

 ある病気の原因が特定の遺伝子の変異によるものか否かを調べる場合、患者の遺伝子だけでは、どの遺伝子が怪しいのかを調べることはできない。患者と健康な人、両方の遺伝子情報を比較することで初めて見当がつく。全ゲノムリファレンスパネルは、健康状態や病気に遺伝子がどう関係しているのかを研究するための非常に有益な情報なのである。

 同機構のデータは、公開されているものとしては、質・量ともに世界トップレベル。筆者の周囲の医療関係者には「世界一」と称賛する声もあり、日本のゲノム医療に画期的な発展をもたらすことが期待されている。

「例えばがんの薬には、あるタイプの人には非常に効果があるけれど、別のタイプの人には効果がないものがあります。不思議なことではありません。人間はひとり一人が違っているからです。これからは、そうした各自の体質・遺伝子に則した医療を行う時代。我々は、メディカル・メガバンクによって、そうした未来型医療の実現に貢献したいと考えています」

 同機構のHPには以下の通り、着々と、研究成果を報告するプレスリリースがアップされている。今後もすごい勢いで増えていくだろう。

 ・2018.02.08 震災による家屋被害が生活習慣・検査データに影響を与えている可能性 ‐東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査の解析から
 ・2018.02.01 東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査‐世界初の三世代の家系情報付き出生コホート調査が7.3万人のリクルート完了。初期的な解析結果‐
 ・2017.12.28 日本人一般住民が持つ疾患の原因遺伝子の変異の頻度がわかる?
 ・2017.12.28 緑内障の個別化医療への第一歩 – 緑内障の遺伝要因と臨床的特徴の関連を同定 –
 ・2017.10.18 国立長寿医療研究センターとToMMoが共同研究契約を締結~超高齢社会における健康寿命の延伸に向けた研究を、バイオバンク間連携で~
 ・2017.10.03 日本人多層オミックス参照パネル、更に高精度に-メタボロームの解析人数がこれまでの5倍の5,093人に。年齢別の代謝物濃度分布・ネットワーク解析結果を追加-
 ・2017.09.12 肥満に影響する遺伝マーカーを解明 ~日本人17万人の解析により肥満に関わる病気や細胞を同定~

日本では同機構だけ
個別化医療・予防の取り組み

 いいことだらけに見えるメガバンク事業だが、「莫大な復興資金を費やすなら、まずは病院再建等にお金をかけるべきではないか」「判断能力のない子どもの遺伝子を検査するのは人権上問題がある」「ゲノムと病歴という重大な個人情報を取り扱うためのセキュリティは万全なのか」など、法整備や倫理、セキュリティについての問題を指摘し、不安視する声もある。

 そこは注意深く、真摯に取り組まなくてはならない。

 

 ただ、リスクはあるとしても、補って余りある可能性が同機構の事業にはある。プロジェクトの未来に見えている個別化医療も個別化予防も新しい医療であり、日本で本格的に取り組んでいるのは同機構だけ。創造的復興策として、世界に誇れるプロジェクトだ。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)

2018年4月2日 仲正昌樹 :金沢大学法学類教授

医薬の臨床データ不正を防ぐ新法施行に早くも「抜け穴」の懸念

 神戸製鋼所や東レ、日産自動車、スバルなど、日本を代表する大手メーカーで品質や試験データの改ざんが行われ、森友問題での財務省の公文書改ざんまでが明らかになった。「日本」に対する信用が根底から揺らぎそうな様相だが、人の命に直接、関わる医療や医薬品業界でも、2013年3月に、ノバルティスファーマ社の高血圧治療薬ディオバンのデータ改ざん・捏造が発覚して、大きな話題になった。

 その教訓から医薬品の臨床研究を規制する「臨床研究法」が4月から施行されるが、いくつかの「抜け穴」が早くも懸念される。

相次ぐデータ改ざんの背景
近視眼性と蛸壺的体質が共通

 ノバルティス事件では、製薬会社・ノバルティスの都合のいいように、京都府立医科大や東京慈恵会医科大での臨床研究のデータが操作されていたことが発覚した。

 ほかにも研究を担当した教授等の論文に実験画像の捏造など多数の不正があったこと、ノバルティスの社員が社員であることを隠して、統計解析スタッフとして参加していたことが明らかになった。

 製薬業界では、翌14年にも、武田製薬の降圧剤ブロプレスについて、データ改ざんとそれに基づく誇大広告が発覚。昨年4月にも、バイエル社の経口抗凝固薬イグザレルトに関して、製薬会社の社員による患者のカルテの不正閲覧とその“データ”に基づく医学論文の代筆などの問題が報道された。

 ライバル会社の先を越して、治験をクリアし商品化して利益を上げたい製薬会社と、研究費を獲得して“すぐれた成果”をあげたい研究者のそれぞれの思惑が重なって、健康や人命という最も大事なことが後ろに回される。

 これらの問題の背景には、自らが属する組織が当面取り組んでいる業務で“成果”を挙げることしか考えられなくなる近視眼性や、違う職場で働く同僚の過ちに気づいても見て見ぬふりをし、場合によっては“組織を守る”ため間接的に隠蔽に加担してしまう蛸壺的な体質があると思われる。

 このことは、大手メーカーの品質データなどの改ざんや財務省の公文書書き換えでも共通するように思う。

 ただ、さらに言えば、治療の基礎になる研究成果の捏造は、多くの被害者を生み出す危険がある。しかも、被害と思われる事例が報告されても、当該医薬品の副作用によるのか、病気自体に起因するのか判定しにくいことが多い。

 それを分かっている“プロ”が不正に手を染めるのは、かなり悪質と言える。

臨床研究法、4月施行
資金提供の情報公開などを規定

 こうした事態を受け、医薬品の臨床研究を規制する「臨床研究法」が昨年4月に制定され、今年4月から施行される。

 法律の第1条では、臨床研究の実施の手続きを定め、資金提供等に関する情報公開の制度を作ることで、被験者を始め国民一般の臨床研究に対する信頼を確保することが目的として謳われている。

 その中で、製薬会社から資金提供を受けたり、未承認の医薬品を研究したりする「特定臨床研究」の場合は、「実施計画」を厚生労働大臣に提出したうえで、「認定臨床研究審査委員会」に実施状況を報告して審査を受け、その意見を尊重しながら進めることが義務付けられた。

 さらに19条では、研究による健康被害の発生が予想される場合、厚生労働大臣が中止を命じるなど、必要な措置を取ることができると規定される。違反すれば、懲役刑を含む刑事罰が科せられることもある(19条違反の場合は、三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金)。

 これまでも薬機法で臨床試験に関する製薬会社の義務は規定されていたし、「臨床研究に関する倫理指針」をはじめ、人の生命に関わる研究については各種の指針が定められていたが、臨床研究のやり方を罰則込みで直接的に規制する法律はなかった。

 臨床研究法は、製薬会社と研究機関が臨床研究をめぐって本来は「利益相反関係」にあることを明確にし、それゆえに製薬会社による恣意的な介入を防ぐことに主眼があると見られる。

「利益相反」というのは、こういうことだ。

 大学病院など研究機関で行われる臨床試験は、製薬会社が生産しようとする医薬品の有効性や副作用を厳密に検証して安全性を確保し、臨床研究の対象者や潜在的な利用者である国民一般の利益に寄与することを本来の目的としているはずだ。

 しかし、研究を、当事者である製薬会社から資金提供を受けて行うと、研究費を継続的に得るため、患者よりも企業にとって都合の良い“結果”を出したくなる。そこに利益相反が生じるわけだ。

 どの業種でも新製品の開発には相当の人手と時間をかけるので、少々の欠陥には目を瞑って早く商品化したいと思う。製薬会社の場合、そこに薬機法に基づく新薬の承認や外部の研究機関による検証というさらなるハードルが加わる。

 ライバル会社より少しでも早く治験をクリアできるかに社運がかかってくるので、データ捏造への誘惑が生じやすい。半面、その分野の権威が在籍する有力な大学病院が事情を察して“黙認”してくれれば、不正は判明しにくい。

 薬が本当に効いているかどうか素人にはなかなか分からない。この点は、製品の品質がある程度素人である使用者にも分かる自動車などと違うところだ。

 他方、企業から研究費を獲得して“すぐれた成果”をあげたい研究者の側にも捏造への動機が働く。双方の思惑が一致すると、ノバルティスのような大問題に発展することになるわけだ。

いくつかの「抜け穴」
対象になる研究の範囲が曖昧

 しかし、臨床研究法にはいくつかの「抜け穴」があり、またこの法律ではカバーされていない臨床研究上の問題がある。

 具体的に言えば、次のようなことだ。

 法律では、「特定臨床研究」の第一の定義として、「医薬品等製造販売業者及びその特殊関係者」によって「資金等」を提供された研究であることを挙げているが、この「特殊関係者」というのが、曖昧なことだ。

 この規定では、せいぜい子会社までしか含まないと解される可能性がある。

 従って、製薬会社が財団などを設立して、その財団から迂回する形で資金提供をしたり、あるいは、目的を特定しない「奨学寄附金」といった形で資金提供したりする場合、「特定臨床研究」と見なされず、規制の対象外となるかもしれない。

 法律では、「特定臨床研究」以外の一般的な臨床研究に関する記述もあるが、この研究については、厚労省の定める「臨床研究実施基準」に従って実施すべく努めるとする努力義務しか課されていない。

「特定臨床研究」の第二の定義で、未承認の医薬品は、製薬会社の直接の資金提供がなくても、「特定臨床研究」と見なされる。

 だが既に承認され、一般的に使用されている既成の医薬品については規制がない。

 既成のものは安全性が一応、確認されているからと、臨床試験を厳密に実施しなくてもいいというわけにはいかないはずだ。その薬の効果を他のものと比較したり、副作用の程度を測ったりすることが必要になることもある。 武田製薬やバイエル社の例がまさにこれに当たる。

 ほかにも「臨床研究法」は、規制の対象として想定していないものがある。

 経験のほとんどない医師が腹腔鏡手術を試みて患者を死亡させた、2002年の慈恵医大青戸病院事件のように、医師が先端医療の技術を身に付けるため独自に行う臨床研究もある。

 手術でなくても、抗がん剤のような重大な副作用を伴う薬品を使用する場合、未経験の医師が実施すると、“危険な人体実験”になってしまう。

 こうしたケースでは、被害の範囲は限定されるものの、(ほとんどの場合、医師の技能については十分なインフォームドコンセントもなく)被験者にされる個々の患者の被るリスクは極めて高い。

 さらに言えば寄附講座のような形で、針灸、温熱療法、ハーブ療法、食事療法、アロマセラピーなど、必ずしも医薬品としての承認を目指しているわけでもない、「補完代替医療」の臨床研究を行っている場合も、法的規制から外れる可能性がある。

「補完代替医療」を取り入れることは、いろんな方法を試してみたいという患者の個別のニーズに応えていると見ることもでき、現在でも金沢大や阪大、徳島大など、いくつかの大学で行われている。

 だが一方で、大学病院の権威を使って、効果の不確かなものを患者に売りつけることに加担することになる恐れがある。

 国から認定された研究機関でもある大学病院が、そうした医薬品なのか、単なる健康商品なのかさえ曖昧なものを扱う領域に手を出していいのか、何らかのガイドラインが必要ではないか。

 こうした疑問はかねてから提起されているが、厚労省は本格的にこの問題に手を付けてない。

監視の審査会、機能するか
委員を身内で固める懸念

「特定臨床研究」では、監視体制についても問題がある。

「特定臨床研究」を監視する「認定臨床研究審査委員会」がきちんと機能するのか、あてにならない心配がある。

 審査委員会は厚労省が「認定」することになっているが、設置主体は臨床研究を行っている大学医学部などの研究機関であり、委員もそこが任命する。

 この委員にはどういう人が選ばれるのか。大学医学部などの都合のいい人選が行われる恐れはないのか。

 たまたま私自身も、この問題を考えさせられる経験をした。

 私の勤務する金沢大学には、認定臨床研究審査委員会の他に、一般の臨床研究を扱う医学倫理審査委員会がある。委員会のメンバーの専門分野や所属部局、運営の仕方などは、臨床研究審査委員会とほぼ同じだ。

 最近、私は法学系の責任者から、医学倫理審査委員会の委員を引き受けてくれないかと打診を受けたので、承諾した。

 ところがその直後、医薬保健研究域の責任者や事務部は私が委員になることを拒んだので、推薦を見送りたいとの連絡を受けたのだ。

 学内業務の負担が増えなかったので内心、ほっとしたが、一方で、腑に落ちないので、医薬保健学類に理由を問い合わせたが、回答はなかった。

 しかし、どういうことか大よその推測はつく。

 というのは、98年に、金沢大医学部(当時)の産婦人科で、卵巣がんの(承認済みの)抗がん剤の比較臨床試験を患者の同意を取らずに行っていたことが、同婦人科に勤める医師の内部告発で明らかになり、私は当時、その医師たちに協力して事件の概要と法的問題点を調べ、書籍にして出版したことがあったからだ。

 この問題は、患者の遺族が訴訟を起こした。この臨床試験は、抗がん剤の副作用で減少する白血球を回復させるためのノイトロジンという中外製薬の薬の市販後臨床試験とセットになっていたと思われる。

 既に末期癌の段階だったので、臨床試験と死亡との因果関係ははっきりしていないが、既に承認ずみで保険適用の薬なので、臨床試験であることを告げる必要はないとする病院側に対し、遺族側は、承認薬であるか否かにかかわらず、臨床試験を製薬会社と連携しながら計画的に行う以上、そのことを告げる義務があると主張した。

 この裁判で、金沢地裁は、臨床試験であることを告げずに症例登録を行うことは患者の人格権の侵害に当たるとして、大学と国に損害賠償を命じた。高裁の判決では、賠償額は減額されたが、人格権に関する基本線は維持された。

 今回の委員任命の件では、病院事務部が、そのことを根に持つ医学系教授等の意向を「忖度」したものと思われる。

 金沢大ではその後も、2010年に骨肉腫に対する治療で抗がん剤にカフェインを併用する療法を、国の定める指針に違反するずさんなやり方で実施して、患者が死亡し、整形外科教授等が書類送検される事件が起こっている。産婦人科の抗がん剤の臨床試験問題の教訓が全く生かされていないと言わざるを得ない。

 こうしたことが繰り返されてきたにもかかわらず、“無害な人”だけで委員会を構成しようとするのは、いかに閉鎖的、組織を守ることが優先される志向が根強いかを感じざるを得ない。

 果たしてこういう体質の大学病院の「認定臨床研究審査委員会」がきちんと機能するだろうか? 臨床試験を適切にコントロールすることができるだろうか?

 臨床試験を本格的に監査し、安全性を確保するつもりがあるのなら、少なくとも個別の研究機関とは独立の、立ち入り監査の権限を持った審査・監督機関を設置することが検討されるべきだろう。

(金沢大学法学類教授 仲正昌樹)

2018年4月3日 木原洋美 :医療ジャーナリスト

突然死を招く「高血圧」の真実、普段元気な人が危ない!?

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年齢が50~60歳にもなれば、脳卒中や心臓病で突然死してしまうリスクが高くなる。特に高血圧の人はそのリスクが高い。普段は元気だからと言って油断ならない。その実態や予防法などについて、常喜医院院長・慈恵医大新橋健診センター非常勤診療医長の常喜眞理医師に聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

意外なことに高血圧患者は
上250下150でも元気ハツラツ

 今年2月、66歳で亡くなった俳優・大杉漣氏の死因は急性心不全。急性心不全は病名だと思っている人が少なくないが、実は病名ではなく、心臓の働きが「急激に低下」することによって不十分となり、結果起きた体の状態のことを指す。

 原因として最も多いのは突発的に発症する急性心筋梗塞などの虚血性心疾患で、これらの疾患を引き起こす最大の危険因子が心臓に余分な負担がかかる「高血圧症」である。

 大杉氏が亡くなった詳しい経緯は公表されていないが、訃報を耳にした人たちは皆、「自前のサッカーチームで、還暦超えても月2回はプレーするほど元気だった人がなぜ」と驚いたのではないだろうか。

 だが、仮に高血圧が絡んでいたとしたら、基本的に自覚症状はないので、前兆を感じなかったことに不思議はない。悪化すると動悸や頭痛、めまいはあるようだが、血圧との直接の因果関係を判断することはできない。

 それどころか、「高血圧の人ほど元気です。元気と血管リスクは逆ですよ」と警鐘を鳴らすのは、「家庭医」として自らのクリニックで日々患者たちの健康管理に取り組み、かつ慈恵医大新橋健診センターの診療医長として、日常的に大勢の健康診断(人間ドック)に関わっている常喜眞理医師だ。

 常喜医師は言う。

常喜医院院長の常喜眞理医師

「この間も50歳の男性で、血圧が上は250の下が150もあるのに、非常に元気な方がおられました。自覚症状が全然ないとのことでしたが治療に取り組んでいただき、2ヵ月目には180の120ぐらいに下がったんですけどね。『先生、俺低血圧なんじゃないでしょうか。立ちくらみがする』って(笑)。『お願いですから、もうちょっと下げましょう』と伝えました。

 高血圧の方は、低血圧より元気があるんですね。

 この患者さんも、放置していたら近い将来、心筋梗塞や脳卒中でいつ突然死しても不思議じゃない状態だったので『ふらふらして元気がなくなっても、死ななかっただけよかったんですよ』と言ったんですけど。『自分はまだすごく元気で、小学生に野球を教えてあげて、走り回ってもぜんぜん大丈夫です』っておっしゃる。

『ぷっつり逝くからいいんです』と、元気な高血圧患者さんたちは皆さん言うんですが、そう上手くぷっつり逝ける人は少ないですからね。潔いのもいいですが、気を付けてほしいです」

「朝は低血圧」は間違い
実は一番高くなる

 男性の場合、血管年齢は女性よりも10歳老けていると言われている。

 女性の場合は、血中のコレステロールを制御し、血管をしなやかに保つ役割を持つ女性ホルモンによって守られているが、男性はそうではないからだ。よって男性は、実年齢が50歳なら血管は60歳のつもりで、大切にメンテナンスするのが望ましい。

 また、女性でも、女性ホルモンの量が低下する50代になったら、血管の劣化に気を付けなくてはならない。10代の頃からずうっと低血圧だった女性でも、50代になって閉経した途端、高血圧になる人は少なくない。

「男性も女性も、50代にもなると加齢によって血管は硬く、詰まりやすくなります。50年使った水道管を想像してみてください。この状態で高血圧を放置することは極めて危険です。脳卒中、心不全、腎障害、動脈瘤など、いずれも高血圧が原因で起こります」

 常喜医師のお勧めは、男性も女性も、50代になったら家庭に血圧計を備え、日常的にチェックすることだ。

「家庭で血圧を測るベストのタイミングは、起床直後です。起床して、排尿を済ませた直後に、椅子に座って測定しましょう。朝起きてすぐというと、頭がぼんやりしていて血圧も低そうですが、実は安静状態に限って言えば、この時間帯が一日のうちで一番血圧が高くなります」

 ということは、この時点で、血圧が基準値である上135の下85の範囲内に収まっていれば、一安心というわけだ。

 ちなみに血圧は生きている限り、刻一刻と変化する。深呼吸を一つするだけで、上の血圧が10ぐらい下がるのは当たり前。逆に、前日に飲み過ぎた場合や塩分摂取量が多かった時、寝不足や体調不良でも上がるという。

起床時の口腔内菌数は大便と一緒
心筋梗塞や脳梗塞と歯周病の関係

 この10年ぐらいの間に知られるようになった事柄に、心筋梗塞、脳梗塞等の血管病と、歯周病の関係がある。

 通常、歯周病と聞くと、イコール歯槽膿漏と思われがちだが、ことは口の中だけでは納まらず、歯周病菌は体中で悪さをしていることが分ってきた。

 心筋梗塞も、脳梗塞も、糖尿病も、どうやら歯周病菌が血管に炎症を起こすことが、原因の一つになっているようなのだ。

「歯周病菌が口腔内の血管に入り込むことで、全身を駆け巡る際、血管に炎症を起こし、血流を詰まらせて、これらの疾患を生じさせてしまうのです」

 常喜医師にも、忘れられない出来事があった。

「私が勤めていた病院に、若い男性の患者さんがくも膜下出血で搬送されてきたことがありました。その時は原因不明だったのですが、のちに、発症前に抜歯をしていたことが分りました。その方は、抜歯後に処方された抗生物質をきちんと飲まず、熱が出てもかぜと思って放置していたようなのです。

 結果、歯周病菌が原因と思われる細菌性の脳動脈瘤ができて、破裂してしまったというわけです」

 歯周病は、30代を過ぎたあたりから増え始め、高齢者はほぼ100%、歯周病持ちになる。50代、60代ともなれば、加齢の影響で唾液の分泌量が減り、口腔内の自浄能力も低下、歯周病菌が繁殖しやすくなるからだ。

「お休み前のケアは、特に念入りにしていただきたいですね。それでも起床時の口腔内の菌数は、大便とほぼ同じくらいの量と言われています。びっくりですよね。起床直後も口をよくすすぎ、軽く歯磨きすることを心がけてください」

最善の対策は
ホームドクターの確保

 高血圧の予防・改善には、減塩と適正体重の維持を心がけ、腎臓を守ることが重要。もちろん、運動、快適な睡眠も欠かせない。加えて、口腔内のケアに努め、歯周病を予防することも大切…ということは分ったが、常喜医師の一番のお勧め対策は、40代ぐらいのうちに、気の合うホームドクター(家庭医/かかりつけ医)を見つけることだ。

「早いうちに、ホームドクターを見つけて、高血圧はもちろん、今後の体調管理やがん検診などの相談相手になってもらうとよいでしょう」

 極めてポピュラーな疾患である高血圧でさえ、あまり周知されていない知識がある。がん等はさらに分からない。健康に気を付けているはずの著名人が、手遅れで亡くなってしまったニュースを知ると、自分は大丈夫だろうかと心配になる人は多いはず。

「たとえば背中に痛みを感じたとします。みなさん、どの医者に診てもらいますか。大変な病気かもと心配し、大きい病院の内科や整形外科を受診するでしょうか。とにかく、いくつもの科を受診しないと安心できませんよね。そんなとき、信頼できるホームドクターがいれば、自分の専門や、看板に掲げている診療科目を超えて、診断から治療方法まで、一緒に考えてくれます。自分のクリニックで手におえない場合は、大学病院等も紹介してもらえます。

 職場や自治体の健診を受けて、要注意項目が出た場合も、検査結果を持って相談してみてはいかがでしょう。体質や生活習慣など、あなたをトータルな視点で診て、より突っ込んだ改善策を考えてくれるはずです」

 確かに、そんな頼れる医師が身近にいたら、相当安心だ。長く住み続けている住民が多い地域では、親子3代に渡って子どもの頃から診てもらっているクリニックがある人は少なくないので、そういう患者がいるクリニックに行ってみるのもお勧めだ。

 新しいところを開拓したいのなら、インターネットを活用しよう。今やたいがいのクリニックはホームページを開設しており、院長の考え方や姿勢が書いてある。ホームドクターになりたい旨もアピールしている医師は多い。参考にして、元気なうちに、ホームドクターを見つけよう。

◎常喜眞理(じょうき・まり)
常喜医院院長、慈恵医大新橋健診センター非常勤診療医長、日本医師会認定産業医。1963年生まれ 東京慈恵会医科大学卒業。消化器内視鏡学会専門医・指導医、 消化器病学会専門医、内科学会認定医。著書:『マリ先生の健康教室 オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎/2018)
 
2018年3月16日 王青 :日中福祉プランニング代表

中国医療の過酷な現実、エリート中間層でも一寸先は医療費破産

写真はイメージです

中国のSNSで爆発的に拡散した投稿がある。北京在住の中年男性が投稿した家族の闘病記である。なぜ、その投稿が多くの中国人の共感を呼んだのか。経済が発展し、人々が豊かになった今でも、中国の医療や社会保障の状況は厳しく、中間層の立場は脆弱であるという「現実」を象徴していたからだ。(日中福祉プランニング代表 王青)

中国のネットで拡散した
「家族の死」に関する投稿

 先月、中国のSNSでは、ある投稿が燎原の火のように拡散した。閲覧数はうなぎのぼりに上がり、シェアの連続とおびただしいコメントの数。

 その投稿者は北京在住の中年男性だった。

 今年1月に義理の父が、風邪を患って、病院を受診したが、病状が一向に改善せずに悪化したため、病院を転々とした。

 最後にはICU(集中治療室)に入れられて、ECMO(体外式膜型人工肺)の使用に伴う大量の輸血、そして全身チューブ管だらけとなって、生死をさまよったあげくこの世を去った。

 投稿は29日間に渡る病との凄絶な戦い、病院への奔走、医師との会話、病院内の人間模様、お金の工面などを日記のように詳細に記録したもので、文字数は2万6000字にも及んだ。

 多くの人がそれを読み、その内容に自分自身を当てはめ、「自分がそうなったら、どうなるのだろう」と想像した。似たような経験を持つ人もいろいろな思いが湧き上がってきて、それらはコメントとして折り重なっていった。

 その投稿の内容をかいつまんで説明すれば、下記のような状況であった。

 義理の父がICUに入っている数日間は、毎日の入院費と治療費は2万元(約32万円)かかり、長期入院となれば、手持ちの現金財産では1ヵ月しか持たないとの計算になった。その他、輸血用の血液を闇で高額なお金を支払って入手したほか、入院や薬の円滑な調達のためのコネ、お世話になった人々への「謝礼」など、想定外の出費が多かった。

 「過剰な延命治療」という問題も取り上げられていた。

 義理の父は、全身をスパゲッティのように管で埋め尽くされ、傷から血を流しながら最後の数日を過ごしたという。これらの医療行為には患者本人の意志を確認するプロセスがなく、家族は助けたい一心で、医師に提案されるままに受け入れるしかなかった。

 結局、散財したあげく、身内の命とお金の両方を失ってしまった。そして、患者は苦痛から開放されず、患者の尊厳には一瞥も与えられなかった。

投稿者は裕福なエリート中間層だったが
一瞬にして家計は破綻しかかった

 この投稿は、なぜそこまで多くの人々の共感を呼び、大きな反響があったのか。

 その理由は明らかだ。多くの中国人にとって、その中年男性が直面した「現実」が他人事ではなかったからである。

 将来自分が突然、その「中年男性」と同じ身となったら、「果たして彼のようにできるのか」と誰もが自問自答し、多くの中国人は自分自身の不安定な境遇を悟り、凍りついた。

 実は、冒頭の投稿者である中年男性は、中国ではかなり恵まれた存在だった。

 高学歴で金融関係の仕事をし、これまで本人の努力で事業にも成功して一財産を築いてきた人である。マイホームやマイカーを持ち、金融資産があり、一般の人より裕福な生活をしている、典型的なエリート中間層のビジネスマンである。

 また、途轍もなく高い治療費を支える経済力に加え、良い病院と良い医師の情報を取得でき、入院できるコネもあり、献血してくれる友人たち、さまざまな場面で奔走してくれる多数の親戚たち、セカンドオピニオンを提示してくれる友人の医師などもいた。

 それにもかかわらず、家族の1人が病気となった途端、一瞬にして家計が破綻しかかった。その実態を見て、「中間層の現実はなんと脆弱であろう」と、読者は深いため息を漏らし、嘆いたのだ。

大病院には患者が殺到
多額な医療費負担という現実

 最近の中国の経済発展は目覚ましい。生活は豊かになった。しかし、医療や社会保障の面を見ると、まだまだ厳しい現実がある。

 まず、都会と地方の医療格差が大きい。そのため地方の人々が都会の病院へ殺到し、都会の大病院は、いつも人でごった返し大変混雑している(ただでさえ、経験豊かな医師が多く、最新設備が整っている都会の大病院は患者が殺到しがちである)。医師が1日平均80人の患者を診察しているとの統計もある。巷では「待つ3時間、診察3分間」言われていて、これは中国では「常識」だ。

 医師は電子カルテを見るだけで、患者の顔をまともに見ない、話をゆっくり聞かないのが当たり前。「後ろがいっぱい待っているから仕方がない」と言われて、もうそれまでだ。患者と医師の間でコミュニケーションが取れるのは、コネを通じての紹介か、運よく人柄の良い医師に当たった場合に限られる、といった具合だ。

 医療費の負担も大きい。

 中国では、国民皆保険である日本の医療保険の仕組みとは違って、患者の年齢、退職した年、受診する病院の種類により、自己負担率が違ってくる。

 保険対象外の薬や手術時の医療器具など、医療保険ではカバーできない項目が非常に多い。言い換えれば、お金がなければきちんとした治療を受けることができず、最終的には「死を待つ」しかないという厳しい現実がある。

医師と患者の関係は「険悪」
ヘルメットを被って勤務する医師も

 病院と医薬品関連業者の癒着も度々指摘されている。

 病院側がなるべく高い薬や、輸入ものの医療用品を患者に勧めるのは日常茶飯事だ。実際に昨年、筆者が出張先の上海で腕を骨折をしてしまった際には、上海の病院では「これはもう手術だ。輸入の人工骨がお勧めですよ」と言われた。翌日、慌てて日本に戻り病院へ駆け込んだら、「手術する必要はない。保存療法で治せます」とのことだった。

 このように、医師から充分な説明をしてもらえないまま、お金ばかり取られる患者は、病院との間に「信頼」関係を築くどころか、「険悪」関係に陥っている。

 診察室に入るまで長時間待ったあげく、医師とのやりとりでは言葉に気をつけながら、頭も下げる。その上、手術となった場合、執刀医や看護師たちにお金を包むケースは当たり前だ。

 その結果、病気が治らないとなれば、怒りと失望はすべて病院や医師にぶつけられる。

 ここ数年、病院を破壊したり、医師に暴力を振るったりする事件が後を絶たない。数人の医師が命を落とす事態まで発生している。日本では考えられないかもしれないが、数年前にある病院の院長室が窓や机など鉄の棒で叩き壊され、院長自身も大怪我を負った事件があった。

 また、ある病院では医師と看護師がヘルメットを被って勤務していたことが中国で大きな話題となった。襲われた病院には警察が駐在することも報道された。国はこのような事態を何とか改善しようと動き出して、メディアを通じて「救死扶傷(命を救い負傷者を助ける)は医師の使命であり、患者第一に思う医師が大多数で、彼らは我々の天使だ」と大々的に訴える。

 ある医師が手術台に十数時間も立ち続けて、疲労で倒れたのをたたえる内容のドラマまで、わざわざ作られ放送された。

「医者も人間だ、お互いに理解し合おう」と主張しつつ政府は、必死に「医患(医者と患者)関係」を良くしょうとする。そしてついに、政府は正式に今年から毎年の8月19日を「中国医師の日」として設定すると発表。「聖賢を尊重するように医師を尊重しましょう」と呼びかけた。

 中国では、かつて医師は人が羨む職業の一つであった。

 だが、大学進学試験の首席が医学部に進む時代は、今はもう過去の話となっている。「きつい、責任重大、理解されない、リスク大きい」というのが現在の医師の境遇だからだ。いつから医師はこのように弱い立場に、そして命の危険を感じる羽目になったのか。ある統計では8割の現役医師が自分の子どもを医学部に行かせない、という結果が出ている。

医師の友人は作っても
子どもは医師にしたくないという矛盾

 経済が発展し、人々が豊かになった今でも、個人のセーフティネットは置き去りとなっている現実。

 社会保障制度が追い付かない状況下で、「結局、幸せは何らかの不意なことで砂の器のように崩れていくこともあるのだ」と人々は悟った。

 これまで思っていても口に出さなかったさまざまな問題に関して、この実録日記の記事は改めて警鐘を鳴らす存在となって現れた。そして、将来に対して常に不安の気持ちを内面に押し込めていたものが、爆発したように表面化し、投稿が大きな反響を呼んだのだろう。

 投稿した男性は最後に、今回のことを教訓に、自分に言い聞かせるように、次のようにアドバイスをしていた。

「医者の友達を作ろう、お金を稼ごう、子どもに医学の勉強させない」

 中国の病院では長い列を作って受診する。あまりに長く待たされるからその不満を医師にぶつける。医師が身の安全に危険を感じる、そして自分の子どもに医師の道を選ばせない。そうすると、医師は人手不足になる、病院での待つ時間がより長くなる、不満がさらに高まる……このような悪循環が続く。

「中年男性」が医師の友達を作ろうとしながらも、子どもには「医師になってほしくない」という矛盾。

 こうした数多くの矛盾、理不尽を抱え込みながら、中国は経済発展してきた。そして経済一辺倒から、国民の生活や心の豊かさを優先した社会に舵を切る時代に突入しつつある。

 

 


加計疑惑で京産大に獣医学部応募を断念するよう担当大臣が説得? 同席の自民党議員を直撃

2018年05月16日 19時13分51秒 | Weblog
 
西岡千史2018.5.14 20:00dot.#安倍政権#森友学園問題
 
 またもや新文書の存在が明らかになった。

 加計学園の獣医学部新設問題などをめぐり14日、衆参予算委員会で集中審議が開かれた。

 議場が騒然としたのは、午後に開かれた参院での田村智子議員(共産党)の質疑だ。

 田村氏は、国家戦略特区による獣医学部新設で加計学園のライバルだった京都産業大の計画について、2016年10月24日、京都府の副知事が当時の担当大臣だった山本幸三・前地方創生相と面会していた事実を明らかにした。

 だが、その面会は事実上のゼロ回答だったという。田村氏によると、副知事が獣医学部新設の陳情をしたことに対して山本氏は、「経過もあり、1校しか認められない。難しい状況なので理解してほしい」と求めたという。田村氏は、面会の内容が記されたメモが残っていると説明している。

 山本氏の後任である梶山弘志・地方創生相は、事実関係について問われると「承知していない」と答弁した。

 これまで明らかになった経緯では、国家戦略特区で獣医学部の新設を「1校限り」と政府が決めたのは16年12月22日。田村氏の指摘では、その2カ月も前に「1校限り」の方針がすでに決まっており、京都府に「断念するよう説得していたことになる」(田村氏)。梶山氏は「そのやりとりは承知していない」と否定、山本氏と副知事の面会記録は存在しないという。両氏の主張は平行線だ。
 
 この面会には京都府選出の西田昌司参院議員(自民党)も同席。同事務所スタッフは、面会のあった日に自身のブログに<本日、西田さんと京都府副知事さんと共に、京都産業大学獣医学部設置構想に向けて、山本幸三国家戦略特区担当大臣に要望に行ってきました>と投稿。副知事の陳情に同行していたことを明らかにしていた。

 AERA dot.編集部は西田議員を直撃した。

「山本大臣に陳情した時、渋い反応だった。その後、加計学園に決まり、国会で問題化した。その理由を山本大臣に直接、聞いたところ、獣医師会が2校は無理だと言っていることがわかった。加計疑惑がその後も騒がれ、このままだと”加計ありき”と疑われるので、京産大にもチャレンジしてもらった方がいいと私が安倍首相に進言した。すると、首相は獣医学部の新設について『2校でも3校でもどんどん認めていく』と発言。京産大にも改めて応募を促したが、同年(2017年)7月に京産大が記者会見し、応募を断念したことを発表した。その理由を尋ねると、準備不足で教員が集められていない、とのことだった。京産大、京都府も納得してのことだった」

(AERA dot.編集部・西岡千史)
 
 

浜矩子「役所に全責任を押し付けるやり方の限界を、二階氏が認知し始めた」連載「eyes 浜矩子」

浜矩子2018.4.26 07:00AERA#浜矩子

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

*  *  *
 おやと思う発言がテレビの中から聞こえてきた。自民党の二階俊博幹事長が「国民の皆さんに自民党の立ち直った姿を見ていただけるよう、全力を尽くす」という趣旨のことを言っていた。テレビの前を通りすがりながらで、メモをしそこねたから、正確な引用ではない。だが、「自民党の立ち直った姿」のくだりが強く印象に残った。他にも、耳にされた方がおいでだろうと思う。

 二階氏は、少し前に、このところの国会の状況に「うんざり」だとも言っていた。あの時も少しほぉー、と思った。あの言い方の中にも、自分の政党の体たらくに関する嘆き節が感じられた。かなり参っているのだろう。

 ついにはセクハラ問題まで飛び出した財務省。そして文部科学省に厚生労働省に防衛省。メルトダウンが極まってきた中央官庁の世界。二階発言は、この有り様を自民党問題として受け止めている。これが面白い。本気なのかもしれないし、芝居なのかもしれない。どっちであっても、面白い。

 何でもかんでも役所の不始末で片づけようとする。政府と自民党のこの姿勢が、国民のひんしゅくを買っている。さすがに、このことに気づいてきたのだろう。本気なら、深い反省が「立ち直った姿」という表現となってにじみ出てきたと考えられる。芝居なら、深く反省しております、というアリバイづくりだ。いずれにせよ、役所に全責任を押し付けるやり方の限界を、二階氏が認知し始めたということだ。自分たちは、役所の腐敗の犠牲者だ。そんな構えは、もはや通用しなくなっている。ついに、この現実と向き合わざるを得なくなってきた。

 瓦解(がかい)はアリの一穴から始まって全体に及ぶ。この構図をここまではっきり示してくれる場面というのも、そうめったにあるものではない。アリの一穴というには、森友問題も加計問題も大きすぎる穴だった。そもそも、あんなに大きな穴が二つもぽっかり開くまで、自ら掘ってきた墓穴の深さに気づかなかったのが驚きだ。それだけ、今の政府と自民党の内なる病弊もまた深いということだ。もはや、アメリカにゴルフをしに逃げていけばなんとかなる。というような段階ではない。

AERA 2018年4月30日-5月7日合併号


「首相案件備忘録」よりスゴい安倍内閣がひた隠す決定的文書 公開の可能性

西岡千史2018.4.13 19:58dot.
 
 誰がウソをついているかは、すでに明らかではないか。

 斎藤健農水相は13日、学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画について、愛媛県の職員が首相官邸で首相秘書官と面会した後に作成した「備忘録」が、農水省内で見つかったことを発表した。斎藤農水相は記者会見で、「調査の結果、職員1名が文書を保有していました」と説明した。

【資料公開】安倍政権がひた隠す「決定的文書」はこちら

 備忘録には、当時の首相秘書官である柳瀬唯夫経済産業審議官が「本件は、首相案件」などと述べたことが記録されている。柳瀬氏は面会の事実について「自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません」と否定している。

 備忘録の存在が発覚したことで、国会は大荒れだ。安倍首相は衆院予算委員会で野党から繰り返し追及を受けたが、「愛媛県が作成した文書については、コメントを差し控えたい」などと答弁を拒否。面会の事実を否定する柳瀬氏の資質について問われると、「信頼している」と述べ、一貫してかばい続けた。

 だが、こういった“ゴマカシ”は、もう限界かもしれない。実は、15年4月2日の面会については、今治市にも職員が書いた「復命書」という名の出張報告書が残されているからだ。

 復命書の存在は、市民団体「今治市民ネットワーク」の村上治共同代表による情報公開請求によって明らかになった。ただ、政府側の出席者の名前や面会の内容は黒色で塗りつぶされていて、全文は判明していない。村上氏は、その中身についてこう推測する。

「復命書には、愛媛県職員が作成した備忘録と同様のことが書かれている可能性が高い。出席者の名前には柳瀬氏の名前もあるでしょう。復命書は公文書なので公開が当然で、そうなれば柳瀬氏のウソも明らかになるはずです」

 だが、復命書の全文公開は今治市が拒否している。むしろ、以前よりも情報公開に消極的な姿勢になっているという。村上氏は言う。

「昨年11月14日に林芳正文科相が獣医学部の新設を認可したことで、16年12月に国が審議中であることを理由に文書のほとんどの部分を非開示にした根拠が消滅しました。そこで、あらためて情報公開請求をしたのですが、昨年12月に今度は全文が非開示になったのです。黒塗りの文書すら出てきませんでした」
 
 今治市だけではない。復命書の公開に神経をとがらせているのは、安倍政権も同じだ。

 農水省で備忘録の存在が明らかになった13日、国会内で野党合同ヒアリングが開かれた。野党議員は内閣府の担当者に対し、今治市の職員に15年4月2日の面会の内容を詳しく聞き取るよう繰り返し要求。ところが、内閣府の担当者は「相手方(今治市の職員)に聞くかについては、考えさせていただきます」など、ヒアリングの実施について明言を避けた。

 だが、このまま逃げ切るのは容易ではない。

 村上氏は今年3月28日、復命書が非開示となったことを不服として、全面開示を求めて行政不服審査請求を出した。今後は、民間人の学識経験者などで構成される第三者審査会で、今治市が「非開示」とした理由が正しいかについて議論される。復命書の中身は「首相案件」と書かれた備忘録が公表されたことで非開示とする理由が薄れており、審査会が「開示」の答申を出す可能性もある。

 今治市の担当者によると、審査会の結論が出るまでは「3カ月から半年程度」が多いという。全文開示となれば、安倍首相はこれまで以上の打撃を受けることになる。村上氏は言う。

「いま、日本の政治の問題点を示している文書が、今治市という小さな街に保管されている。だからこそ、復命書は国民に必ず公開されなければならない」

 今治市に、復命書を非開示にした理由を書面でたずねたところ、「2015年4月2日に愛媛県職員と本市職員が官邸を訪問したことは事実」と認めながらも、「今治市情報公開条例に基づき非開示文書としておりますので、具体的な内容等は差し控えている」との回答だった。

 安倍内閣が恐れるもう一つの決定的文書が公開される日は来るのか。(AERA dot.編集部・西岡千史)

※(編集部注)今治市から回答が届いたため、その内容を4月16日に追記した。
 
 
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小泉進次郎は出番なし?元法務相が「大臣いじめ」訴え、自民党の野党弾圧強まる

村上新太郎,小泉耕平2017.11.25 10:36週刊朝日#小泉進次郎
 
 今国会では、野党の質問時間を削減するという自民党の意向によって、与野党の質問時間の割合がこれまでの『与党2:野党8』から『与党36%対野党64%』に変更された。勢いづく自民党はさらに、国会での“野党弾圧”を強めようとしている。

【山尾志桜里議員の大臣いじめを訴えた閣僚経験者はこちら】

 その兆候が顕著に見られたのは、11月21日に行われた副幹事長会議だ。出席者たちは、野党側の質問の事前通告の時間を問題視したという。自民党関係者がこう語る。

「会議では『野党の質問通告が遅くて、不誠実だ。霞ヶ関の役人の負担を増やすことになる』などの意見が飛び交った。委員会での質問通告は前日午後5時までという申し合わせが過去にあったのに、今国会での野党側の質問通告が当日の朝になる例が続いたことが原因のようです」

 質問時間の制限に続き、今度は、質問の事前通告をより早く出せということのようだ。事前通告について、国会で野党につるし上げられた大臣経験者から“泣き”が入ったという。

「共謀罪法案の審議で答弁が迷走して野党にやり込められた金田勝年元法相は、『大臣をいじめることは簡単だ。共謀罪について聞くと抽象的に通告し、山ほど質問して、通告したのに、答えられないのはなんだ!とやられる』などと、過去の“被害”を訴えていた。『名前は出したくないが、山尾(志桜里)、階(猛)などはベテランだ』など、個別の野党議員の名前も挙げていました。野党の質問の通告内容をより詳しくするよう国対で話し合うべきだ、という意見だったようです」(前出の自民党関係者)
 
 圧倒的な数の力を背景に、野党への圧力を強める自民党。会議では「野党は混乱している」「野党が筆頭理事を決められない。希望の党が対抗心を持っている」と、立憲民主党と希望の党の勢力争いでまとまらない野党の現状を分析する声もあがった。その一方で、よほど自信があるのか、「やりすぎ」を諌めるこんな声まで上がったという。 
「『野党をあまりギリギリ締め上げると、通告時間を過ぎて通告そのものが出来ないので、開催は無理だと言われる。両刃の剣だ』という声もありました」(同)

 小泉進次郎筆頭副幹事長が国会改革の実行性を訴えていたが、「国会運営をスムーズにするために国民にすべてを出すのはどうかと思って公表してないだけだ」などの意見も出ていた。

 国会はこのまま、自民党の独壇場となってしまうのだろうか。(本誌 村上新太郎 小泉耕平)

※週刊朝日オンライン限定
 

加計・獣医学部が認可へ 前川前文科次官が叱る

大平誠2017.11.11 10:35AERA#加計学園
 
 噴出したさまざまな疑惑が払拭されず、火種だけが膨らんでいく加計学園問題。国家のあり方が問われている。

 学校法人加計学園(岡山市、加計孝太郎理事長)が申請していた獣医学部新設について、大学設置・学校法人審議会(設置審)が、認可するよう答申した。11月10日にこれを発表した林芳正文部科学大臣は、近く設置を認可する見通し。

 安倍晋三首相が「腹心の友」と呼ぶ、加計理事長の悲願である岡山理科大学獣医学部が来春、愛媛県今治市に開学することに大きく近づいた。しかし、「国家戦略特区」で認められた例外的申請を文科相の判断に委ねることが妥当なのか。さらにいえば、申請の前提であるはずの閣議決定4条件をクリアしているのか。原点へとさかのぼるほどに、不自然さが募る。

「これは規制緩和ではない。特権の付与です」

 同獣医学部の国家戦略特区指定について、前文科事務次官の前川喜平氏はそう言い切った。官邸からの働きかけで、公平公正であるべき行政がゆがめられたと記者会見で告発した前川氏は、国会の閉会中審査でも一貫した主張を繰り返した。追い詰められた安倍首相は「謙虚に丁寧に説明責任を果たす」と低姿勢を装いながら、9月28日の臨時国会冒頭で衆院を解散。不透明な国有地売却疑惑の解明が進まない森友学園問題とともに「疑惑隠しだ」と批判を浴びた。

 しかし総選挙では小池百合子都知事の「排除」発言などで「希望の党」を含めた野党が自民党批判票の受け皿になりえず、自民は単独過半数超えの大勝を収めた。ほとぼりが冷めるころを見計らってか、この答申。国会でも疑惑は何一つ解明されていないのにである。

●これは特権の付与だ

 そもそも今治市に同獣医学部を新設する計画は、加計学園の幹部職員と親しい同市選出の県議が「新しい学部を一つ作りたいと言っている」と2006年ごろに市に持ち込んだことに端を発する。30年以上前に都市開発事業で造成した塩漬けの土地の活用に困っていた市には渡りに船だった。そこで構造改革特区制度に目をつけ、「四国初の獣医学部を誘致する」と07年から愛媛県と共同で特区申請を始めたが、日本獣医師会などの反対もあり、14年11月までに計15回提案して全敗していた。
 
「18歳人口が減り続けていく中で、獣医師養成は量より質の充実を目指す方向で文科省でもずっと検討を続けてきた。実際に農学部獣医学科を持っていた山口大学と鹿児島大学が教員交流や設備の共有などによる『共同獣医学部』を12年にスタートさせている。最大規模の獣医学部を新設するというのは方向性が正反対です」(前川氏)

 しかも、構造改革特区とは地域限定でやってみてうまくいったらその事業を全国展開するというものだから、これとも趣旨が合致しない。故に、必敗だった。そこで、誰かが知恵をつけたのか、国家戦略特区での申請に切り替えた。「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成の推進」が基本方針で、構造改革特区よりもさらに獣医学部の新設とは趣旨が噛み合わないはずだ。大きく異なるのは所管が内閣府であり、認可に文科省の拒否権が及ばないことである。

 15年4月2日に加計学園と愛媛県、今治市の担当者が官邸で顔を合わせ、6月に提案。しかし同月末の閣議で既存の獣医師養成でない構想が具体化されていることや、既存の大学・学部では対応が困難であることなどの4条件を満たさない限り、国家戦略特区での獣医学部新設は認めないとする決定がされたが、結局は官邸が力で押し切った格好になった。

 前川氏は言う。

「例えば薬学部は新設に規制がないから乱立して定員割れも続出している。しかし、志願者数が安定している獣医学部を1校に限って新設を認めるのは、特権の付与にほかならない。4条件の精査だけでなく、あらゆる角度から再検証が必要なのです」

(編集部・大平誠)

AERA 2017年11月20日号
 

加計学園の獣医学部がついに認可 疑惑の設計会社の取締役は理事長の美人妻だった

西岡千史2017.11.10 11:39dot.#加計学園
 
 文部科学省の大学設置・学校法人審議会は10日、加計学園が新設を求めていた愛媛県今治市の獣医学部について、来年4月の開学を認める答申を林芳正文科相に出した。

【写真】加計孝太郎理事長と美人妻のツーショット写真はこちら

 獣医学部の校舎建設費は、今治市が加計学園に用地を無償譲渡し、県の支援も含めて最大96億円の補助金を出すことになっている。だが、安倍晋三首相の“お友達”である加計孝太郎理事長は数々の疑惑に沈黙したままで、これまで何の説明もしていない。

 それどころか、新たな問題も浮上している。獣医学部新設問題を追及する「今治市民ネットワーク」共同代表の村上治氏は言う。

「獣医学部校舎の設計は、大建設計と加計学園グループのSID創研が受注しているのですが、SID創研は加計孝太郎氏の妻である泰代夫人が取締役を務めています。夫から妻の会社に校舎建設の補助金が流れる仕組みです」

 SID創研などが今年3月に作成したとされる設計図では、獣医学部棟の最上階である7階にワインセラーやビールディスペンサーが設置されていることがわかり、野党議員から「学校教育機関上、何も関係ない」と批判されたこともある。

 加計学園は、後にワインセラーなどは設置しないことを発表したが、他大学の獣医学部に比べて建設費用が高すぎるなど、設計がずさんではないかとの批判も相次いだ。

 そもそも、SID創研は学校建設の設計を専門にした企業ではない。加計学園グループの学校で使われる図書類や卒業式衣装のレンタル、オフィスで使う事務用品の販売など、幅広い事業を手がけている。前出の村上氏は言う。

「加計学園が、設計が専門ではないSID創研に設計費用をいくら支出する契約なのかさえわからず、ブラックボックスの状態です。これでは、加計孝太郎氏が今治市民の税金をSID創研を通じてマネーロンダリング(資金洗浄)して、妻に流す装置なのではとの批判は残ります」

 獣医学部新設で重要な役割を担ったSID創研の取締役を務める泰代夫人だが、実は加計学園関係者の間でその存在が広く知られるようになったのはそれほど昔のことではない。加計学園の関係者はこう語る。
 
「孝太郎さんは離婚した前妻との間に3人の子供がいました。それが、2010年頃に『20歳ぐらい年下の女性と再婚したらしい』との話が学園の中で流れるようになった。うわさ話ばかり流れるのもよくないので、教職員を集めて泰代さんのお披露目パーティーを正式に開くことになったのです」

 加計夫妻のツーショット(写真参照)も、加計学園グループである千葉科学大の関係者を集め、2011年夏に千葉県銚子市のホテルで撮影されたものだ。ただ、孝太郎氏の再婚はすべての人から祝福されたわけではなかったという。

「孝太郎さんの家族は再婚に反対したそうで、一部の親戚とは今では会話もしていない状態だそうです」(別の加計学園関係者)

 SID創研で取締役を務める泰代夫人は、どのような仕事をしているのか。加計学園に泰代夫人の業務内容や年間の報酬をたずねたが「(回答は)控えさせていただきます」とのことだった。SID創研にも同様に質問をしたが、期日までに回答はなかった。

 加計夫妻は疑惑が発覚してからは公の場から姿を消し、沈黙したままだ。数々の疑惑に対し、説明をすべきではないか。(AERA dot.編集部・西岡千史)
 
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緊急寄稿! 加計疑惑の“戦犯”は責任を取れ

 
 加計学園の獣医学部新設を審査している文部科学省の大学設置・学校法人審議会(設置審)が11月上旬にも文科相に答申を出す見込みだ。疑惑が解消されないまま「認可」されていいのか。気鋭の教育学者・藤田英典氏(共栄大教授、東大名誉教授)が斬り込む。

「森友・加計問題隠し」「小池新党対策」という党利党略による衆議院解散・総選挙で自民党が圧勝した。安倍首相は7月の衆参両院での閉会中審査以降、「真摯に」「謙虚に」「丁寧に」と繰り返してきた。実に空々しい光景だった。

 安倍首相夫人が関与していた森友問題では、国有地払い下げで8億円もの税金をドブに捨てるような近畿財務局の値引きをめぐり、「記録はない」との国会答弁で疑惑隠しに徹した佐川宣寿・財務省理財局長が国税庁長官に栄転した。加計問題では、安倍首相の「腹心の友」加計孝太郎理事長の加計学園獣医学部新設計画が特別扱いされ、国家戦略特区として認定された。

 両問題とも、首相夫人の関与や首相の「ご意向」と首相側近政治家や関係行政官の関与を示唆する文書や指示発言の隠蔽が繰り返されてきた。こうした不当な行政がまかり通ってよいのか。
 
 朝日新聞は8月、愛媛県と今治市(以下、今治市)の獣医学部新設提案についてのヒアリングの議事要旨に〈加計学園幹部が出席し、教員確保の見通し等について答弁したにもかかわらず、その出席も答弁も記載していなかった〉と報じた。議事要旨が偽装されていたというのである。

 この事実は、【1】「加計隠し」が当初から周到に行われた可能性がある【2】特区WGの八田達夫座長や特区諮問会議の竹中平蔵有識者議員による要旨偽装・虚偽発言【3】安倍首相らの「加計隠し」と不当かつ不公平な特区審査、及び大学設置認可行政への不当介入──という3点で極めて重大だ。

 今治市特区提案が特別扱いされたことは、次の4点からも明らかである。

 第一は今治市提案の取り扱いの異常さである。今治市が「国際水準の獣医学教育特区」提案をしたのは2015年6月4日。翌5日には市に対する特区WGのヒアリングがあり、8日には文科省と農水省へのヒアリングがあった。さらに半年後の12月10日には市への2回目のヒアリングが実施された。この1回目は「国際水準の獣医学教育特区」というだけの提案だったのに、2回目は国家戦略特区の趣旨に適合するように〈「しまなみ海道」と「今治新都市」を中核とした「国際観光・スポーツ拠点」の形成〉との提案に発展的に変更され、その中に獣医学部新設も位置づけられた。
 
 第二は、3回実施された関係省庁ヒアリングの内容の違いである。14年8月の1回目は新潟市の提案を受けて開催されたが、議題は「獣医師養成系大学・学部の新設」で、門前払いを前提とするかのような通り一遍の質疑に終始した。翌年6月の2回目は、議題「国際水準の獣医学教育特区(今治市)」が示すように、今治提案が対象で、文科省は獣医学部一般を想定して返答したが、質疑は今治提案を通すべく執拗であった。昨年9月16日の3回目は、今治市提案の認定を前提にした質疑応答が中心。藤原豊内閣府地方創生推進事務局審議官から、翌週に「今治市分科会」(第1回)が開催されるので出席してほしいとの発言もあった。

 第三は、愛媛県・今治市と、京都府・京都産業大学の提案資料等の違いである。今治市の場合、1回目ヒアリングの審査資料は、A4判1枚の提案書とPPTスライド3枚の添付資料のみ。2回目もPPTスライド1枚でしかない。これに対し、京都府・京産大の資料はA4判21枚。獣医学部新設4条件を満たす内容で、質疑でも「全面的に賛同」「非常に説得的なお話」と高く評価された。

 第四として、次の2点も見落とせない。

 一つは昨年9月16日の3回目のヒアリングでの藤原審議官の冒頭発言である。

「WGをスタートさせていただきます。文科省、農水省にお越しいただきまして、獣医学部の新設の問題ということでございます。学部、大学を問わず、これは去年の成長戦略の中で(中略)政府決定をしておりまして、当時、本年度中に検討ということなので少し時期をもう越えておるのですが、関係省庁とともに政府として宿題を負った形になっているというのがポイントでございます。(略)総理からもそういった提案課題について検討を深めようというお話もいただいております」

 もう一つは、同年9月9日開催の第23回諮問会議で「獣医学部の新設」が「残された岩盤規制改革」の典型例として「加速的・集中的に」進めることが確認されていたことである。
 
 このように、今治提案は特別扱いされたうえ、議事要旨が偽装された。当初から「加計隠し」が周到に行われたと見た方が自然だ。

 特区WGの八田座長は閉会中審査やマスコミ取材で「一点の曇りもない」と述べ、竹中有識者議員も取材に対して同様の発言をしたが、議事要旨偽装も容認したのであるから、虚偽発言と言うほかない。

 八田座長は閉会中審査で、文科省へのヒアリングについて「今治市についてやったのではありません」と断言したが、これも、前述の通り2回目ヒアリングの議題は「国際水準の獣医学教育特区(今治市)」であるから虚偽発言である。

 加計学園の事業者認定についても、閉会中審査で「この4条件については(中略)満たされていることは明らかになっています」と答弁しているが、今治市へのヒアリングで審査した市の提出資料も口頭説明も簡単な概要でしかなく、「満たされている」などと言える代物ではなかった。
 
 八田、竹中両氏の言動は、有識者議員として「失格」と言われても致し方ないものであろう。

 安倍首相についても類似の問題がある。閉会中審査で〈今治市提案の獣医学部新設主体が加計学園であることを知ったのはいつか〉と問われ、今年1月20日だと答弁したが、5月の参院予算委員会や6月の決算委員会での返答と違っていた。それを指摘されると、「知り得る立場にあったが、具体的な説明はなかったので知らなかった」という趣旨の答弁を繰り返した。

 閉会中審査では、国会の内外で混乱と応酬を招いた「獣医学部新設に係る内閣府からの伝達事項」文書、「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」文書、「10/21萩生田(光一)副長官ご発言概要」文書についても、萩生田氏や和泉洋人首相補佐官などが答弁しているが、「一点の曇りもない」とはとても言えない。

 森友・加計疑惑については、先の総選挙で自民党が圧勝した結果、真相究明・疑惑解消の見通しは暗く、誰も責任を取ることなく済まされてしまいかねない。

 とくに加計疑惑には、議員や行政官、有識者議員の公務上の行為によるアンフェアで歪んだ特区行政・大学設置認可行政が絡んでいる。隠蔽・偽装や虚偽発言は法令を含む倫理基準にも反する。それにもかかわらず、当事者の解任や辞職・辞任も謝罪もなく、その他の制裁対象にもならないとしたら、政治不信・行政不信とモラル破壊を助長しかねない。関係者の誠実かつ適切な対応を期待したい。

週刊朝日  2017年11月17日号
 

安倍政権さらに窮地 加計学園の獣医学部新設「設計関連文書」全文を入手

 
 加計学園の岡山理科大学獣医学部の新設をめぐる問題で、本誌は計52ページに及ぶ設計関連文書を入手した。

<(仮称)岡山理科大学 獣医学部 今治キャンパス 新築工事及び周辺工事 獣医学部棟>というタイトルの図面の作成者は、加計学園関連グループ会社のSID創研と大建設計。平成29年3月という日付が記されている。

【画像】入手した資料はこちら

 開校予定地、愛媛県今治市は、加計学園に対し、最大96億円(愛媛県負担分も含む)の補助金拠出をたった1日の審議で決めた(3月31日)。その巨額補助金の積算根拠の一つが、この文書だったわけだが、これまでその存在は一切、表に出てこなかった。今治市で加計学園問題を追及している「今治加計獣医学部問題を考える会」の黒川敦彦共同代表はこう話す。

「これまで補助金積算の根拠となるものを今治市は情報公開でも明かさず、拒んできた。それがはっきりすれば、市議会のデタラメな議決、水面下でくすぶっていた加計学園の不透明な補助金請求が白日の下にさらされます」 

 国家戦略特区を利用した加計学園の獣医学部新設は8月末にも認可される見込みだったが、文部科学省の大学設置・学校法人審議会は8月9日、結論を出せず、保留する方針を固めた。

「教員数、生徒の定員数が足りない上、教育カリキュラムなどが十分に整備されていないという判断で、保留という結論になった」(文科省関係者)

 本誌は安倍官邸が国会で頑なに詳細を隠していた今治市職員の「謎の官邸訪問」の詳細をスクープ。

 国家戦略特区を使った獣医学部の新設を今治市が国に提案するより2カ月も前の2015年4月2日、官邸で加計学園、柳瀬唯夫首相補佐官(当時)、今治市、愛媛県の4者が“密会”していた事実を報じた(17年8月16日)。市町村の課長クラスが官邸を訪問することは異例中の異例だ。

「週刊朝日のスクープ直後から、獣医学部の設計文書が外部に流出するのではないのかと話題になっていた。文科省周辺からは、設計が出れば認可がさらに遅れると危惧する声が出ていた」(同前)
 
 国家戦略特区で加計学園の獣医学部の新設がOKとなったのは、最先端のライフサイエンス研究ができる施設、設備を設置することが条件だった。

 加計学園は、これまでの獣医学部にはない、最先端のライフサイエンス研究のために「バイオセーフティーレベル3」の施設をつくるとしている。これは、細菌やウイルス、微生物などを厳重な管理下で研究するものだ。専門家によれば、

「鳥インフルエンザ、HIVウイルスなどが研究対象です。最高のレベル4だとエボラ出血熱のウイルスなどになります。レベル3や4は非常に高度でかつ厳重な管理が必要で、それに対応できる施設でなければいけません」

 本誌が入手した文書の11ページにバイオセーフティーレベル3の研究施設が記されている。だが、それを見た研究者はこう指摘する。

「隔離性が低く、危害性の高い病原微生物等を取り扱う教育、研究、病性鑑定には不向き。これでは高病原性鳥インフルエンザの検査、診断、実験、研究は難しいと思う。施設全体でみても、動物実験を理解していない人が設計しているんじゃないか」

 前出の文科省関係者はこう指摘する。

「目玉であるはずの、バイオセーフティーレベル3の施設の内容がはっきりしないのです。それもあって認可が保留となっている」

 さらにバイオセーフティーレベル3の施設の内容いかんによっては、建築費用が大きく変動するという。加計学園は、建築坪数9857坪、その建築費192億円と見積もっている。逆算すると建築費の坪単価は150万円だ。

 建築費のうち半額の96億円の補助金を今治市と愛媛県から得ることになっている。だが、設計図を見た建築エコノミスト、森山高至さんはこう指摘する。

「獣医学部なので特殊な建物かと思っていたら、ごく普通の商業施設と同じレベル。なんらかの獣医学部の施設がプラスされるのでしょうが、坪単価で80万円から、高くとも100万円でしょうね。とても150万円するとは思えない」
 
 
 こうした専門家の指摘を鑑みると、加計学園が、見積もり価格を大幅にアップさせ、補助金を請求したのではないかという疑惑が浮上する。

 森友学園の籠池前理事長らが逮捕されたのも、国交省に小学校の建築費を過大に見積もって、補助金を多く受け取ったとされる詐欺容疑。それと同じ構図が浮かぶ。民進党幹部がいう。

「文書の全容を国会で審議すれば、疑惑がより鮮明になる。すぐにでも国会で安倍首相に問いただす機会をつくるべきだ」

 前出の黒川氏はこう話す。

「私もその文書を見たが、とても坪単価150万円はあり得ないとの専門家の話を聞いた。市民の税金を投入するなら、きちんとしたデータを公開することが必要だ。だが、今治市は住民説明会でもきちんと釈明できないのに、加計学園に96億円もの税金投入を即日で決めている。その真相が流出した設計図でわかってきた」

 今治市民の63%が加計学園の獣医学部新設に反対しているというデータもある。

 今治市に取材を申し込むと、「各社からの問い合わせに順番に対応している」と期限までに回答はなかった。

 加計学園は取材に対し、「担当者が夏季休業中なので対応できない」と話した。

 今後、黒川氏らは法的手段を視野に、この疑惑を追及していくという。

(ジャーナリスト・今西憲之)

週刊朝日オンライン限定記事
 
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日本獣医師連盟委員長が激白「総理出席の閉会中審査前に“加計ありき”伝えるべき」

澤田晃宏2017.7.22 09:25AERA#加計学園#安倍政権
 
 安倍晋三首相が7月24、25日に出席する国会の閉会中審査を前に、これまでの政府答弁を覆す新たな文書の存在が明らかになった。日本獣医師会が作成した面会記録で、昨年11月17日に日本獣医師会を訪れた山本幸三地方創生相は、会談の冒頭でこう話したとされる。

「獣医師が不足している地域に限って獣医学部を新設することになった。財政的に大丈夫か、待ったをかけていたが、(愛媛県)今治市が土地で36億円のほか積立金から50億円、愛媛県が25億円を負担し、残りは加計学園の負担となった」

 山本氏はこれまで「加計学園ありきということは全くない。最終的には公募で決まるということで、そこでしか決まらないと重々申し上げてきた」(6月13日、参院内閣委員会)などと発言してきた。内閣府と文部科学省が特例で獣医学部設置を認める共同告示を出し、公募を開始したのは今年1月4日。日本獣医師会が作成した面会記録は山本氏の発言を覆すものになる。

 7月20日、面会記録の存在を朝日新聞や週刊文春が報じると、山本氏は同日午前、内閣府で記者団の取材に応じ、11月17日の獣医師会幹部との面会について、「獣医師会側の思い込みと私の発言を混同したものであり、正確ではない」と述べた。

 同日、獣医師会の面会記録に名前のある日本獣医師連盟委員長の北村直人さんが本誌の取材に応じた。北村さんは面会記録の存在と内容を認め、こう話した。

「山本大臣サイドから面会の申し入れがあった。11月17日は内閣府が獣医学部新設のパブリックコメントの募集を始める前日のことだ。それにもかかわらず、予算配分まで決まっている。これを加計ありきと言わずして何と言えばいいのか」

 北村さんは過去に2度、加計学園の加計孝太郎理事長と会っている。加計理事長の口から獣医学部新設にかける熱い思いは聞けなかった。冒頭の加計学園という言葉が出た際、北村さんが山本氏に「加計学園が全額負担すべきではないか」と問うと、ただ、黙っていたという。

 北村さんは「私の腹は決まっている」とした上で、こう語気を荒らげた。
 
「もともと面会記録を公開するつもりはなかったが、19日に地方獣医師連盟の各委員長宛てに報道されている面会記録を送っている。獣医師会を抵抗勢力と言い、安倍総理に至っては『全国に展開』と発言された。1校に限るというのは、同じく国家戦略特区で(医学部を)新設した(千葉県)成田の国際医療福祉大学の前例にならい、きちんとやってほしいということだ。獣医師連盟の会員にも経緯をきちんと説明する必要があるし、総理が出席する閉会中審査の前に、現実を伝えるべきだと会員に声明を出した」

 山本氏が面会記録を「獣医師会側の思い込み」とコメントしたことについては、「私が現職の衆議院議員時代に同じ政策グループに所属した先輩としては、コメントをしないで、見守りたい」と北村さんは話した。

 新たな文書の存在が明らかになり、加計学園の獣医学部新設に疑惑が深まる一方、今治市では建設工事が進み、来春の開校に向け、学校のPRも始まっている。

 3連休中日の7月16日、私立獣医学部受験専門予備校「ジュイク」が主催する大学説明会が京都であった。会場は個別の進路相談スペースと、各大学担当者による学校説明会場に分かれていた。当日参加した3校のうちの一つが、来春、加計学園が今治市に開校する岡山理科大学獣医学部だった。

 準備された岡山理科大学獣医学部の資料にはいずれも「設置認可申請中」の記載があり、獣医学部専用のパンフレットもあった。同大学獣医学部は文科省の設置認可の審査中だが、PR活動などに制限はないのだろうか。同省高等教育局高等教育企画課大学設置室の担当者はこう話す。

「認可前の段階では募集要項の配布や、推薦入試などの学生募集そのものは行えないが、『設置審査中』と明確に資料などに記載していれば、説明会などでのPR活動は可能です」

 岡山理科大の説明会で、加計学園の担当者は冒頭、「新聞等で世間を騒がせております」と話し、こう続けた。
 
「我々は予定通り、認可が得られるであろうと思っており、本日参加させて頂いております」

 パワーポイントの資料をスライドに上映しながら、学校所在地や入試スケジュールの説明があった。ほかの2校の学校説明会は予定通り20分で終了したが、岡山理科大の説明は45分と大幅に予定時間を超えた。

 説明会後に、大阪から参加した女性に話を聞いた。

「新しくできる学校ということで熱意は感じた。関西に私立の獣医学部がなく、親としては少しでも近いところに学校ができるのは歓迎だ。ただ、報道などを見て、本当にきちんとした教育が行われるのか、特に、優秀な教員が確保できているのかは不安です」

 説明会終了後、加計学園の担当者を直撃した。

「遠方から来ている学校関係者もおり、注目の高さを感じた」

 そう手ごたえを語る一方、「PR活動を積極的に行っているのか」という記者の問いには「招待されて参加しています」と答えた。

 主催団体の関係者に確認すると、

「岡山理科大さんのほうから出たいと話を受けました」

 両者の意見は食い違うが、学校のPR活動がすでに始まっているのは確かだ。7月22、23日には岡山理科大学(岡山市)でオープンキャンパスが行われ、獣医学部の専用ブースも設置されるという。予備校関係者はこう話す。

「現役生を対象に推薦入試を実施する学校が多いなか、浪人生も対象とするなど、一人でも多くの受験生を集めようとしている。私立獣医学部の受験倍率が5倍を超えるなか、学生は集められると考えるが、受験者数にこだわっているのだろう。期待されているということを世の中にアピールしたいのではないか」

 安倍首相や国政を大きく巻き込んだ愛媛県今治市の獣医学部新設問題。認可に向けた審査の結論は8月末にも出される。(編集部・澤田晃宏)

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小泉純一郎氏独白全文公開 「安倍さん、とっくに辞めてなきゃいけないはず」

 
 自民党の二階俊博幹事長、山崎拓元副総裁、小池百合子東京都知事らと18日夜、東京都内で会食した小泉純一郎元首相。森友、加計疑惑疑惑、財務事務次官セクハラ問題などで火だるまになっている安倍晋三首相の政権運営、9月の総裁選について意見が交わされたという。小泉氏は11日、週刊朝日の独占取材に応じ、安倍首相について「もう引き際」、「3選はないね」「バレてる嘘をぬけぬけと…」「国民はあきれてんだよ」と言及。ついに引導を渡した。55分に及んだ独白の全文を掲載する。

【資料公開】安倍政権がひた隠す「決定的文書」はこちら

──森友学園への国有地売却問題をどうお考えですか。

 根本の嘘の始まりは、国会で「私や妻が関わっていたのなら、総理大臣も国会議員も辞めます」だね。昭恵さんは森友学園の元名誉校長でしょう。森友学園へ行き、挨拶までし、関係しているのに、なぜ、あんな嘘を言い続けるのか、わかんないね。「私たちが関係していた」って正直に言えばいいのに。おかしなことをしてないなら、嘘つく必要ないんだから。嘘の上塗りをするからおかしくなる。総理も国会議員も辞めると言ったので、本当ならとっくに辞めてなきゃいけないはず。なのに、バレている嘘をぬけぬけと今も言ってるなぁとあきれているんだよ、国民は。

──昭恵夫人と面識はありますか?

 安倍さんが幹事長の時代かな。山口県へ行ったとき、昭恵さんとも一緒に食事をしました。昭恵さんからは「首相って、そんなに大変なんですか」と質問されたので、「なってみればわかるから」と答えた。いま、本当に大変だ(笑)。

──森友問題では財務省の決裁文書改ざんが発覚し、近畿財務局では自殺者も出ました。「記録はない」と言い続けた佐川宣寿前国税庁長官は、国会の証人喚問で改ざんを認めたものの、「刑事訴追の恐れがある」と証言を拒否しました。

 あきれたね。彼は書類や記録がないと国会で嘘を言ってバレた。改ざんまでして嘘をついた。安倍首相、麻生(太郎)財務相は国会で「(佐川氏は)適材適所」と言い切ったが、それならどうして懲戒処分にするのか。どうしてこういう嘘を全員で言い続けるのかね。おかしいんじゃないか。
 
──森友問題の発覚直後の昨年2月、8億円の値引きの根拠となった地下ゴミの撤去費をめぐり、財務省理財局が学園側に口裏合わせを要請したり、虚偽を記した文書に署名を求めたものの、拒否されたことを、太田充財務省理財局長が国会で白状しました。

 嘘を重ね、隠しきれなくなり、疑問はますます深まっている。

──沈静化していた安倍首相の友人、加計孝太郎氏が理事長の「加計学園」の獣医学部新設問題が再び国会で議論されています。2015年4月2日、官邸で愛媛県、今治市、加計学園の職員らが柳瀬唯夫・首相秘書官(当時)と面会した際、首相秘書官が「本件は首相案件」と伝えたとされる記録(備忘録)が出てきました。

(首相案件は)安倍さんは否定しているけどね。首相が一生懸命になっているのがわかったから、官邸、官僚らみんなが協力したんでしょう。

──首相は愛媛県の記録より柳瀬元首相秘書官の記憶を信じると明言しました。

 逃げ切れると思っているからいろいろ言っているんだろうね。

──小泉氏の首相時代、「首相案件」というものは存在しましたか?

「郵政民営化」かな。首相の私がやると言ったからできた。自民党も野党もほとんど反対だったのを押し切った。参議院で否決され、万歳やって衆院を解散した。いま思うと非常識だったが、衆院選で勝って法案を通した。それだけ首相の権限というのは大きい。だからもし、安倍さんが「原発ゼロ」をやろうと言えば、できたはず。原発ゼロは与野党で協力できる政策で歴史的な偉業だったのに。原発ゼロは首相任期中にできるけど、安倍さんが目指す憲法改正はできない。国会で3分の2、そして国民投票で過半数を取らないと、そもそも無理だもの。できることをどうしてやらなかったのか。

──安倍首相に直接、話したことはありますか?

 去年、山梨県の笹川(陽平・日本財団会長)さんの別荘であった懇親会で会ったときにも忠告した。経済産業省が掲げる原発推進の三つのスローガン、「安全」「コストが安い」「クリーンエネルギー」は全部、嘘だとね。それで「経産省に騙されるなよ」と言うと安倍さん、黙って苦笑いしていたけどね。

──安倍政権はこの先、どうなりますか。
 
 危なくなってきたね。安倍さんの引き際、今国会が終わる頃(6月20日)じゃないか。(9月の)総裁選で3選はないね。これだけ、森友・加計問題に深入りしちゃったんだから。来年の参議院選挙への影響が出る。国会が終わると、1年前から選挙運動の準備をするのでそろそろ公認を決めなきゃいけない。参院候補者が浮足立つ。安倍さんで選挙はまずいなと。

──総裁選となれば、誰がふさわしいですか?

 原発ゼロというのは、河野太郎外務相が私より先に言いだした。もし、河野さんが原発ゼロを主張して総裁選に出たら、どうなるかわかりませんよ。外相としての仕事を乗り切って、実績を上げていけば、大化けする可能性はなきにしもあらず。(次の総理に名前が挙がっている)岸田(文雄)政調会長、石破(茂)元幹事長は原発には言及していないね。

──ただ河野外相は入閣後、脱原発は封印しています。

(第2次橋本内閣で1996年に)3度目の厚生大臣に就任する前、橋本龍太郎首相(当時)から内示があったとき、私は「郵政民営化を主張してますから、党内反発がありますよ」と話した。橋本さんは「内閣の方針に従ってもらえば、持論として言ってもらっていい。だから受けてくれ」と言っていた。河野さんだって原発ゼロは内閣の方針ではなくても、持論は持論。その立場でいればいい。

──小泉氏らが1月に発表した「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」をたたき台に、野党の立憲民主、自由など4党が3月9日、「原発ゼロ基本法案」を衆院に共同提出しました。

 私は政党と連携するつもりはない。国会で議論してもらうことに意義がある。法案を出したって、国会で通りっこないのはわかっている。(最大勢力の)自民党が反対してるんだから。原発再稼働を推進する安倍首相が交代しないと原発ゼロに舵は切れないだろう。

──東日本大震災で、福島第一原発で事故があったとき、近海を通りかかっていたアメリカ軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の乗組員、兵士たちが、救援物資の輸送や被災者の救助など、「トモダチ作戦」に参加。終了後、兵士らの一部が健康状態の悪化を訴え、福島県沖で放射線に被曝したと主張し、東京電力などに対して損害賠償を求めて米カリフォルニア州の連邦地裁などに裁判を起こしました。小泉氏は16年5月15日から17日の3日間、訪米し、被曝した元兵士ら10人と面会されました。
 
 元兵士たちは、足を切断したり、目が見えなくなったり、下血をしたりと被曝の後遺症が出ている。福島原発のメルトダウンが起こっているのに、上官から放射性物質の危険性が伝えられなかった。兵士たちは防護服もなしで作業させられたり、海水を飲んだり、空母に積んであるヨウ素剤も足りず、飲んでいない元兵士もいた。

──元兵士らは裁判で「ヨウ素剤を飲んでいないのに、上官から『飲んだことにしてサインしてくれ』と命令された」と証言しています。

 米国にとっても不都合な真実が多い、難しい裁判だ。でも、助けてもらった米国兵にこれだけの症状が出ている事実は当初、わからなかった。数年経過し、おかしいなとだんだんと症状が出てきたんだ。甲状腺がんにもなった。それでも、裁判では被曝が原因とは断定できないとなってしまう。私も何かできないかと思った。

──細川護煕氏、吉原毅・城南信用金庫顧問らと16年、「トモダチ作戦被害者支援基金」を設立し、当初の目標額は1億円だったが、今では3億円も集まったそうですね。しかし、安倍政権下で原発ゼロを訴えると、風当たりが強いのではないですか?

 米国の元兵士たちを取材した民放のドキュメンタリー番組(昨年10月放送)は、私の登場シーンをすべてカットした。「トモダチ作戦」を追いかけているエィミ・ツジモト氏に紹介され、元兵士らに会いに米国へ行き、取材も現地で受けたが、放送直前、ツジモト氏から連絡があり、「小泉さんの場面は全部カットされた。上層部の意向でやむを得ず、現場スタッフが指示に従った」と聞かされた。米兵の被曝のことが放送されたことはよかったけど、ひどいなと思ったね。

──安倍政権に対するメディアの忖度でしょうか?

 別の民放で今年3月にインタビューを受けたときも約束を破られた。収録は50分ぐらいで「全部放送するんですか」と聞いたら、「15分ぐらいに編集する」と説明された。「経産省が訴える原発の3大スローガンである安全、コストが安い、クリーンエネルギーは全部嘘だ、と話した部分だけはカットしないでね」とお願いすると、「わかりました」とスタッフらは言っていたのに、放送された番組を見たら、カットされていたよ。