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死にたくなければ中国企業を切れ。それでも日本企業は中国を選ぶ

2020年08月17日 23時53分09秒 | Weblog

MAG2 NEWS  2020.07.28  495  by

米英をはじめ世界の主要国の間で、「中国回避網」ともいうべき動きが広がりを見せています。トランプ政権は先日、8月より中国特定5社の製品を使用する企業との取引の禁止を決定。日本企業も大きな方向転換を迫られています。このような状況下にあって、「日本政府も企業ももっと早く中国離れを加速させる必要がある」とするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その理由を詳述しています。

 

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年7月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】いよいよ日本企業も中国企業との取引が生死を分けるときがきた

中国5社製品使う企業排除 米政府調達、日本に影響

 

アメリカ政府は今年8月から、通信機器メーカ-のファーウェイ、ZTE、監視カメラ大手のハイクビジョンとダーファ・テクノロジー、無線機メーカーのハイテラの5社の製品を導入または使用している企業と、アメリカ政府機関が取引することを禁じることになると報じられています。

これにより、この5社の製品や部品を使っている約800社以上の日本企業が、アメリカの政府機関との仕事ができなくなるとされています。

もちろん、アメリカの政府機関との取引ができなくなるどころか、一般企業も、アメリカ政府機関から締め出されるような企業と関わることはリスクになりますから、どの企業とも取引を断られる可能性が出てくるということです。

これらの中国企業は中国の人民解放軍とのつながりも強く、また、情報を盗む仕組みを製品内に仕掛けており、アメリカ政府やオーストラリア政府は、以前から安全保障上の危険性を理由に、取引停止を訴えてきました。

そのため、アメリカは、同盟国にも同様のことを求めてくると思われます。軍事情報や機密情報が、この5社を導入している企業と取引している他国の政府機関から流出する恐れがあるからです。

今回の決定は、2018年8月にアメリカで成立した国防権限法2019を拡大したかたちのものです。この国防権限法2019によって、2019年8月から、上記の中国企業5社は、アメリカの政府調達から締め出されました。

このとき、日本も12月に、日本政府がファーウェイとZTEの製品を政府調達から排除する方針を決定したと報じられました。このとき、菅官房長官はコメントを差し控えていました。

日本政府、ファーウェイ・ZTE製品を省庁から排除へ 報道

しかし、今年の5月には、日本政府がすべての独立行政法人と個人情報を扱う政府指定の法人に対して、重要な通信機器を調達する際に安全保障上のリスクを考慮するよう求めることになったと、複数のメディアが報じました。

このとき、対象とされたのは、日本原子力研究開発機構など87独立行政法人と日本年金機構など政府が指定する9法人、合わせて96法人で、実質的にファーウェイなど中国企業の排除が進められつつあったわけです。

政府:通信機器調達に安全保障上リスク考慮、96法人も対象-NHK

 

そして、今回のアメリカの決定についても、日本政府は歩調を合わせるのは間違いないでしょう。つまり、先の5社の機器を導入している企業は、日本の政府調達からも外されるということです。

7月14日にはイギリス政府も、通信各社に対して、来年以降、ファーウェイの第5世代移動通信システム(5G)の購入を禁止すると発表し、すでに購入していた場合には、2027年までに撤去する必要があるとしました。

 

英政府、ファーウェイの5G設備の排除を指示 2027年までに

すでにオーストラリア政府は、ファーウェイの5Gからの締め出しを宣言しており、また、カナダやドイツでも同様のファーウェイ排除が進みつつあります。こうした西側諸国の動向からしても、日本だけがこの流れから外れるというのはありえないでしょう。

英国・カナダが脱ファーウェイ、容認から一転 NECらに好機

 

おそらく、今年の9月ごろにアメリカで開催されると思われるG7において、各国の中国排除の協調路線が打ち出されるのだと思います。

トランプ大統領はそのG7について、韓国やインド、ロシア、オーストラリア、ブラジルを招いてG12に拡大することを提案しています。これは明らかに中国包囲網の構築にほかなりません。

一方のイギリスは、G7に韓国、インド、オーストラリアを加えた10カ国の民主主義国からなる「D10クラブ」を結成し、次世代通信規格5Gにおいて、中国を除外したサプライチェーンを構築しようとしています。

英国がファーウェイ段階的禁止、10カ国の同盟形成へ

ことが安全保障に関することですから、いくら自国が中国企業の製品を使わないからといって、他国が使用していたら、そこから情報が漏れる可能性があるわけです。そう考えると、こうしたG12やD10の陣営に入るグループと、中国側の陣営に入るグループは、通信においても完全に分断されることになるでしょう。

G12やD10の陣営は、もう中国陣営の国とは通信網を繋げない、といったことも起こる可能性があります。つながっている限り、情報漏えいの危険性があるからです。そうなれば、世界は完全に分断され、両陣営が厚いカーテンで仕切られることになります。

問題は、中国のような一党独裁、情報統制、人権弾圧国家の側に行きたい国が本当にあるのかということです。

かつての東西冷戦の東側陣営には、たとえそれが欺瞞であったとしても、一応は、共産主義という大義名分がありました。

しかし、共産主義を捨てないといいながら、西側の資本主義や自由貿易の恩恵をタダ取りし、さらに人民の人権より共産党の安寧を最優先する国と、どのような大義名分を共有できるのか、きわめて疑問です。

これまで私がこのメルマガでも述べてきたように、習近平が掲げる「中国の夢」は「人類の悪夢」です。完全な監視社会、統制社会という点では、習近平や中国共産党はジョージ・オーウェルの小説『1984』に出てくる「ビッグブラザー」そのものです。

日本政府も日本企業も、もっと早く中国離れを加速させる必要があります。うかうかしていると、西側陣営から外される恐れがあります。今後の中国に、どのような夢があるというのでしょうか。その夢は、我々、民主主義国と共存できるものなのか。熟慮すべき時が来ているのだと思います。

 

新型肺炎 感染爆発と中国の真実 
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2020年6月配信分

  • 朝日新聞が「中国の宣伝機関」としてアメリカに認定される可能性/ゲームの中で展開される反中闘争(6/24)
  • もう歴史問題で韓国を相手にしても意味がない/ついにウイグル化がはじまった香港(6/18)
  • 中国に近づいてやっぱりバカを見たインドネシア/台湾で国民党独裁からの民主化を描いたドラマ解禁(6/10)
  • 中国のアメリカ暴動への関与疑惑が出はじめた/コロナで中国は旧ソ連と同じ道を辿るか(6/03)

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2020年5月配信分

  • 中国制定の「香港国家安全法」が日本の護憲派を殺す/親中カンボジアの「中国に近づきすぎたツケ」(5/27)
  • 中国の恫喝はもう台湾に通用しない/世界が注目する蔡英文の総統就任スピーチ全文(5/20)
  • 「元慰安婦」から反日利権を暴露された韓国慰安婦支援団体/中国から台湾に逃げてくる動きが加速(5/13)
  • アメリカが暴露した中国の悪質な本性/韓国瑜へのリコール投票に見る「コロナ後の台湾」の変化(5/06)

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2020年4月配信分

  • 世界からの賠償要求5500兆円!中国は破産するか/他国へも情報統制を求める中国の卑劣(4/30)
  • 「アベノマスク」も被害。今度は不良品マスクを世界に拡散する中国/フルーツ天国・台湾は日本人がつくった(4/22)
  • コロナ発生源の中国が今度は黒人に責任転嫁/台湾発「WHO can help?」が世界に問いかけること(4/16)
  • もう国民が国内旅行を楽しむ台湾と、緊急事態宣言の日本(4/08)
  • 台湾の民主化とともに歩んだ志村けんさん/死者数の嘘が暴かれ始めた中国(4/01)

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2020年3月配信分

  • 欧州の新型コロナ感染爆発は中国共産党員が原因だった/国内では隠蔽、海外では恩の押し売りを続ける中国(3/26)
  • 習近平の「救世主化」と天皇利用への警戒/小国発展のバロメーターとなる台湾(3/18)
  • 【台湾】新型コロナ対策で注目される台湾の若きIT大臣が日本に降臨!?(3/11)
  • 新型コロナへの対処法は「中国断ち」をした台湾に学べ/新型肺炎の責任を日本に押し付けはじめた中国(3/05)

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2020年2月配信分

  • 『韓非子』の時代から何も変わっていない中国(2/26)
  • 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(2/19)
  • 新型肺炎のどさくさで反体制派狩りをする習近平の姑息/戦後日本の軍事研究忌避が新型肺炎の感染拡大の一因(2/12)
  • 新型肺炎が世界にとって思わぬプラスとなる可能性/疫病のみならず他国に厄災をばら撒く中国(2/05)

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2020年1月配信分

  • WHOを操る疫病発生地・中国の魂胆(1/29)
  • 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(1/22)
  • 中国の目論見がことごとく外れた台湾総統選/ご都合主義の中国が民主主義と人類を危機に陥れる(1/15)
  • 黄文雄メルマガスタッフの台湾選挙レポート(1/13)
  • 文化が残らない中国の宿命/中華にはびこる黒道治国と台湾総統選挙を左右する「賭盤」(1/08)
  • 謹賀新年のご挨拶―激動の年の幕開け(1/01)

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黄文雄この著者の記事一覧

 

台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!

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優雅で危険な「安倍のなつやすみ」臨時国 会から逃げツケは国⺠に︖

2020年08月17日 23時12分10秒 | Weblog


通常国会が6⽉18⽇に閉会して、約50⽇が経過しました。その間に、第2波ともいえる、新型コロ
ナウイルスの感染拡⼤が⽌まらなくなっています。野党が臨時国会の召集を要求するものの、安
倍⾸相は全くその気がないようで、官邸に閉じこもったままです。なぜ安倍⾸相はここまで頑な
なのでしょうか。元全国紙社会部記者で、メルマガ『国家権⼒&メディア⼀⼑両断』の著者・新
恭さんがその疑問に⾔及。⽚⼭前⿃取県知事vs⽥崎史郎&⼋代弁護⼠が、テレビ番組内で激しい
バトル繰り広げた様⼦を紹介しながら、国会を開きたがらない安倍⾸相の⼼の内を説いていきま
す。


解散で頭が⼀杯︖逃げる安倍⾸相に新型コロナの現場混乱


解散・総選挙が頭にあるのか、それとも、ただ単に野党の追及から逃れたいだけなのか。安倍⾸
相は今のところ、臨時国会を開く気がまったくないようだ。
野党は憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を内閣に求め、7⽉31⽇、要求書を衆院に提出した
が、与党側は「審議する法案がない」と⾔って取り合わない。「10⽉以降に召集する⽅向で調
整」(朝⽇新聞デジタル)という報道もあるが、なぜそうなるのか、さっぱりわからない。
国会は法案を通す場で、議論する場ではないというのが、安倍政権の奇妙な信念であるらしく、
いくら東京都医師会の尾崎治夫会⻑が「コロナウイルスに夏休みはない、⼀刻も早く国会を開い
て」と切⽻詰まった声で訴えようが、全国知事会から知事権限強化のための法改正を求める声が
出ようが、おかまいなしなのである。
そもそも、審議する法案がないからといって国会を開かない道理があるだろうか。国会は法を定
める機関であり、そのためにはしっかり議論をしなければならない。コロナ禍で国が未曾有の危
機に瀕しているときに、国会が閉じていることこそ異常であり、最低である。内閣総理⼤⾂たる
もの、⾔われなくとも、「おーい、みんな集まれ」と、召集をかけるのがあたりまえだ。
新型コロナウイルスに適⽤している新型インフルエンザ特措法がすこぶる評判が悪く、⼿直しを
求める声が強い。
知事会は「休業要請に罰則と補償の規定を加えるべき」と政府に要請し、都医師会の尾崎会⻑も
「このままお願いするかたちでは感染の⽕だるまに陥る。法的な拘束⼒のある対策を」と訴え
る。
現場でコロナ対応にあたる⼈たちの声には重みがある。営業の⾃由などの観点から、全く問題な
しとはいえないにしても、国⺠の⽣命と健康にかかわることであり、特措法改正についての議論
は急務であろう。⾃⺠党が憲法改正草案に盛り込んだ緊急事態条項のように拡⼤解釈で⼈権が脅
かされる恐れはないのではないか。


「GoTo」に「アベノマスク」…忘れてほしい失敗だらけ


4⽉の緊急事態宣⾔の発令直後から内閣官房や厚⽣労働省が、特措法改正にむけて内閣法制局と協
議に⼊った旨の報道もあったが、今はどうやら改正に後ろ向きのようである。
というのもやはり、安倍⾸相が国会開催を嫌がっているからに違いない。特措法の改正となれば
国会を開かないわけにはいかないが、「Go To トラベル」キャンペーンとか、今や誰もが欲しが
らぬ「アベノマスク」配布など、巨費を投じたズッコケ⼤事業をやってのけた安倍⾸相として
は、野党が⼿ぐすね引いている場に出て、批判のマトになりたくないのであろう。
しかし、それで済ませてもらっては困るのだ。このままでは、感染拡⼤防⽌と経済活動の両⽴ど
ころか、共倒れになる恐れさえある。この国は、国⺠は、いったいどうなるのか。


遅すぎるコロナ対応を“アベ友”がアクロバティック擁護

 

なぜコロナ対応の法改正できぬ︖ アベ友が苦しい⾔い訳


その意味から⾔うと、7⽉31⽇のTBS「ひるおび︕」における、⽚⼭善博早⼤教授(元⾃治官
僚、元⿃取県知事)の政府に対する怒りの声はうなずけるものであったが、これにジャーナリス
ト・⽥崎史郎⽒や、タレント弁護⼠・⼋代英輝⽒が⽇頃の与党的な視点を堅持して激しく反論し
た。しばし、この⼀幕を振り返ってみよう。
それは、⽚⼭⽒が「特別措置法はちょっと粗いところがあり、改正しなきゃいけないのに、国会
を開かないための理屈ばかりこねている」と発⾔したのをきっかけにはじまった。
⼋代⽒がこう反応した。「国会の本会議を開くと1⽇に3億円ずつかかる。その資⾦を別の⽤途に
まわしたほうがいい。特措法の改正をするとしたら、まず法案をつくって、法制局にかけて、委
員会にかけて本会議ですよね。いま本会議だけ開いても何もやることがないんですよ」
すかさず⽚⼭⽒がつぶやいた。「やりたくない⼈はみなそう⾔うんですよ」。
「別に僕、国会議員じゃないんで」とわめく⼋代⽒を横目に⽚⼭⽒は続ける。
「私はかつて霞が関で法律の改正を何回もやってきましたけども、この種の法律改正はあっとい
う間にできます。やりたくないときに、時間かかる、法制局がどうしたこうしたと⾔うんです。
そんなことウソです。信じちゃいけません」
ここで、やおら⽥崎⽒が⼝を開き、「僕は⽚⼭さん、⾃治⼤⾂の秘書官から存じ上げています
が、優秀な⾃治省の官僚であった」ときた。なにやら不穏な空気である。
「でも、その当時とは今は若⼲違っていて、特措法の改正という場合、論点がいくつもあるんで
す。多省庁にわたる。もう改正作業は始まってるんですよ。でも、かなり時間がかかる」「法案
をつくった後に国会に提出して審議していただくわけですね。いま国会開いても審議する法案が
ありませんよ」
実務を知らない⽥崎⽒が、実務を熟知する⽚⼭⽒にお説教する。知らないから、「違う」とは⾔
わず、「今は違う」と⾔って、条件付き否定するほか⼿がないのだ。
⽚⼭⽒は笑う。「こんなのね、すぐできますよ。そんな⼤それた改正要らないんですよ。やる気
がないからですよ、この期に及んでも時間がかかるのは。秋になって国会開いたとしても、これ
どうなりますか。それまで国会議員の皆さん、みんなステイホーム、ボーナスもらって、⻑期有
給休暇ですよ」
⽥崎⽒「国会はいま週に⼀回やっている」
⼋代⽒「⽚⼭さんのようにすぐできると⾔えば気持ちいいですよ。でも実際はそんな簡単なもん
じゃないと思いますよ僕は」
⽚⼭⽒「簡単です」
⽥崎⽒「いや簡単じゃないと思いますよ」


今あえて「臨時国会を開かない」理由はどこにもない


⼦供の喧嘩みたいだが、冷笑する⽚⼭⽒に他の⼆⼈が意地になって⾷ってかかるのが⾯⽩い。彼
ら⼆⼈が臨時国会開催など無意味だと考える理由は、「法案がないから」。⾃⺠党の⾔い分と寸
分違わない。
法案づくりが⽥崎⽒の⾔うように難しいのなら、国会で与野党をこえて必要な修正点をまとめれ
ばいいではないか。しかも、先述したように、国会で審議すべきは、何も特措法改正だけではな
い。外交、防衛、環境、エネルギーなど多⽅⾯にわたって議論を要する課題が出てきている。コ
ロナ対策だけでも、特措法のみならず、論点は⼭ほどあるはずだ。


「コロナ重症者続出の冬は選挙に勝てぬ」から秋に解散︖

 

過去にもあった国会拒否。安倍⾸相の夏休みは永遠に続く


安倍⾸相は、過去2回、野党の憲法53条にもとづく臨時国会開催要求を拒否した前歴がある。
2015年が1回目。閣僚のスキャンダルや⽇⻭連の政治献⾦問題などで追及されるのを嫌がって、
野党の臨時国会召集要求を蹴り、結局この年は通常国会しか開かれなかった。
2回目は2017年。森友学園・加計学園問題を追及するため、野党が6⽉に臨時国会開会を要求し、
3か⽉以上を経た9⽉28⽇にようやく召集したかと思うと、その⽇のうちに解散した。国会論議は
⾏われずじまいで、安倍⾃⺠党は10⽉の総選挙で⼤勝した。形式上は開会されたことになるが、
これでは臨時国会開催要求に応じたとはいえないだろう。
安倍⾸相が早期の臨時国会を避ける背景として、取りざたされるのが、解散・総選挙をにらんだ
動きだ。⿇⽣財務相があからさまに「解散」をちらつかせているほか、安倍⾸相をめぐる風景も
2017年と似通ってきた。
今年6⽉19⽇、安倍⾸相、⿇⽣財務相、菅官房⻑官、⽢利明⽒らは都内で会⾷した。彼らは2017
年の7⽉にも、⼣⾷をともにしている。
すわ解散総選挙か、とマスコミが⾊めき⽴ったのも無理はない。⿇⽣財務相は6⽉だけで8回も安
倍⾸相に会って、なにごとか密談したといい、公明党の⻫藤幹事⻑に「衆院解散は今秋が望まし
い」と伝えたとされる。
安倍総裁の任期は来年9⽉いっぱい。来年は東京五輪や東京都議選が予定され、解散できるタイミ
ングはほとんどないので、今秋に、ということだろうか。かつて⾸相をつとめた⿇⽣⽒には、任
期切れが迫るまで解散できなかったため⺠主党に歴史的敗北を喫した苦い経験がある。


「コロナ重症者続出の冬は選挙に勝てぬ」から秋に解散︖


7⽉になって新型コロナウイルスが再び猛威をふるいはじめたため、解散への動きも影をひそめつ
つあるように⾒える。ふつうなら解散など、とんでもない状況ではあるのだが、安倍政権に常識
は通⽤しない。冬場には重症者が増えると⾒込めば、まだ重症者が少ないうちの解散チャンスを
狙うだろう。焚きつけ役の⿇⽣⽒もあきらめてはいまい。
それこそ2017年のような、解散のための臨時国会召集ということも、求⼼⼒維持こそ最優先事項
の安倍⾸相なら、やりかねない。議席がかなり減るのは覚悟のうえ、情勢調査で安定多数を確保
できると⾒込めば、国⺠⽣活などそっちのけで、解散に踏み切れる⾸相なのだ。
ただし、相変わらず、安倍⾸相の健康不安説も⾶び交っている。それなら、解散する元気もなけ
れば、国会を開いて答弁に⽴つエネルギーもないかもしれず、解散以前に進退問題となってしま
う。
さしあたり、安倍⾸相が野党の臨時国会召集要求を拒み続けるか、どこかで折り合うかが、今後
の政局を占うカギといえるだろう。

 

新恭(あらたきょう)この著者の記事⼀覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出
し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改⾰を提⾔した
い。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

https://www.mag2.com/p/news/461540

https://www.mag2.com/p/news/461540/2

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森友問題で自殺の赤木さん妻が明かす、責任者がつい漏らした本心

 

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学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当していた財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54)が自殺した問題を巡り、赤木さんの妻雅子さんが、佐川宣寿元国税庁長官と国に約1億1000万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が15日、大阪地裁で開かれました。「真実が知りたい」ただその一心で臨んだ雅子さん。第三者による客観公正な調査を求めるものの、安倍首相や麻生財務大臣に応じる気配は全くありません。元全国紙社会部記者で、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者である新 恭さんが、この口頭弁論の様子を詳細にレポート。文書を改ざんしてまで、責任を免れようとする不誠実な安倍官邸と保身官僚たちの裏を暴いていきます。

 

財務省森友報告書の責任者が明かした公文書改ざんの真相

公文書改ざんを押しつけられた夫は自殺し、財務省、官邸の関係者たちは、責任をとることなく、のうのうと生きている……

森友学園問題で自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫氏の妻、雅子さんは、7月15日、国と佐川宣寿・元財務省理財局長を訴えた裁判の第1回口頭弁論で陳述し、無念の思いをぶちまけた。

「夫は改ざんしたことを犯罪と受け止め、国民の皆さんに死んでお詫びすることにしたんだと思います。安倍首相は自分の発言と改ざんには関係があることを認め、真相解明に協力して欲しい。安倍首相、麻生大臣、私は真実が知りたいです」

 

いまだに明らかになっていない真相。国はすべてを知っているはずなのに、核心部分をぼかし、2018年6月4日「決裁文書改ざん調査報告書」なる財務省の内部調査結果を公表して、お茶を濁した。

報告書をまとめた責任者は、当時の財務省秘書課長、伊東豊氏(金融庁監督局審議官)だ。省内の職員や官邸出向組のほか、OBも含めてヒアリングをしており、事実関係を最も知り得る立場にあった。

赤木雅子さんは、裁判開始と時期を合わせて出版した「私は真実が知りたい」(相澤冬樹・元NHK記者との共著)において、伊東氏から直接聞いた証言を公開している。調査報告書では安倍首相の国会発言と文書改ざんの関係を明確にしていないが、雅子さんに対しては本心を漏らしていたのだ。

その内容にふれる前に、報告書ではどのように書かれていたかを確認しておこう。以下は、そのポイントとなる部分だ。

◇17年2月17日の衆議院予算委員会で内閣総理大臣から、本人や妻がこの国有地払い下げに一切関わっていないことは明確にしたい旨の答弁があった。

◇17年2月24日の衆院予算委員会で、本省理財局長は「売買契約に至るまでの近畿財務局と森友学園との交渉記録というのはございませんでした」「面会等の記録につきましては残っていないということでございます」と答弁した。

◇本省理財局の総務課長から国有財産審理室長および近畿財務局の管財部長に対し、総理夫人の名前が入った書類の存否について確認がなされた。…理財局長はそうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。具体的な指示はなかったものの、総務課長と国有財産審理室長は決裁文書の公表を求められる場合に備えて記載を直す必要があると認識した。

つまりこういうことだろう。「妻と私が関係していたら議員も総理もやめる」という安倍首相発言のあと、近畿財務局と森友学園との交渉記録などを野党に求められた佐川局長は「記録は一切残っていない」と答弁した。

 

総理夫人の名が記された書類があるかどうか確認したら、あることが判明した。佐川局長は「記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきである」と省内で語り、それを聞いた総務課長らは決裁文書の書き換えが必要だと認識した。

 

この報告書にカラクリがあるのは言うまでもない。安倍首相発言を佐川局長がどのように受けとめたのか。佐川局長の「記録はない」という国会答弁や、理財局の部下たちへの「記載のある文書を外に出すべきではない」発言は、安倍首相への忖度によるものか、それとも官邸から働きかけがあったのか。佐川局長は総務課長らに文書の書き換えを具体的には指示していないというが、指示していないのなら、「具体的には」は不要だろう。肝心なところが省かれたり、ボカされたりしている。

 

むろん、これで雅子さんが納得できるわけがない。著書「私は真実が知りたい」に、伊東氏が2018年10月28日、調査報告書について説明するため赤木さん宅を訪れたときの会話内容が書かれている。雅子さんがICレコーダーで録音していたものだ。雅子さんが、安倍首相の発言が文書改ざんに関係があるのかどうかを問いただすと、伊東氏はこう話した。

「国会が、まぁある意味延長したのは、あの発言があったから。野党は安倍さんの首を取りたくて…あれでまぁ炎上してしまって。で、理財局に対するいろんな野党の『あれ出せ、これ出せ』っていうのもですね、ワーって増えているので、そういう意味では関係があったとは思います。炎上しなければ別にそんなに、何か無理しなくても…」

安倍首相の国会発言があって、野党が財務省に資料を出すよう激しく騒ぎ立てた。佐川局長はひとまず「ない」と突っぱねたが、昭恵夫人の関与をうかがわせる記載があるなら、無理にでも書き換えさせておかねば、と考えた。そういう意味で、首相発言と文書改ざんは関係があったということなのだろう。

 

首相発言を受けて財務省理財局が改ざんに動いたというのは、もはや世間一般の見方ではあるが、この伊東発言によって初めて裏付けられたと言っていいのではないか。

だが、関係があることはわかったにせよ、どのように首相発言から改ざんに至ったのか具体的な経緯がいま一つはっきりしないのも確かだ。

首相発言のあとの一連の流れ。佐川氏が「記録はない」と答弁し、本省の指示で近畿財務局が改ざん作業を進める。これが、「阿吽の呼吸」や「忖度」のたぐいで、黙々と進められるようなことが果たしてありうるだろうか。

17年2月17日の衆院予算委員会。安倍首相の発言を聞いた佐川氏は驚愕したに違いない。佐川氏は鑑定価格9億円余の国有地を8億円以上値引きして森友学園に売却した件で、野党の質問攻勢を受け、国会対応に苦慮していた。そこに、「関係していたら辞める」と首相が言い放ったのである。野党の追及がさらに強まるのは火を見るよりも明らかだった。

たまたまこの日は首相発言に関する佐川氏への質問はなかったが、今後の国会対応を思うと、ほっとしているヒマはない。佐川氏は、すぐに部下に安倍首相夫妻の関与をうかがわせる文書があるかどうか、調べさせたのではないか。もし、そんな文書が流出したら大騒ぎになり、理財局長としての自分の立場も危うくなる。

案の定、不都合な文書があった。近畿財務局が作成した決裁文書だが、当然、本省も共有している。

◇平成26年4月28日 (森友学園との)打ち合わせの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。

これはマズイ、と佐川局長は思ったはずだ。同年2月24日の衆院予算委では、「交渉記録あるいは面会記録、全て残っておりますね」と共産党の宮本岳志議員から質問され、「交渉記録というのはございませんでした」と答弁してその場をしのいだ。「ある」と答えたら「出せ」と言われる。「ない」で通せればいいが、昭恵夫人の記載箇所をそのまま残しておくのは不安だっただろう。

とはいえ、公文書改ざんが佐川氏の独断だったというのは、いささか早計である。総理の不用意な発言をカバーするため、順調に出世してきた幹部官僚が自発的に違法行為を指示するとは思えない。

おそらく、不都合な決裁文書の存在を確認するや、佐川氏は当時の政務担当総理秘書官、今井尚哉氏(現・首相補佐官)に知らせ、取り扱いについて判断を仰いだのではないかと、筆者は疑っている。

 

今井氏は総理夫人付きの職員を通して昭恵夫人をサポートする立場だった。影の首相とまでいわれる凄腕の秘書官だ。首相に不利になる文書があると聞いたら、改ざんしろとは言わないまでも、「何とかしろ」と迫ったに違いない。そうなると、佐川局長は逆らえない。上昇志向の強い典型的高級官僚のサガである。

 

文書改ざんの指示は、理財局国有財産審理室の杉田補佐から近畿財務局に伝えられた。赤木俊夫氏が書き残した「手記」に以下の記述がある。

 

◇元は、すべて、佐川理財局長の指示です。局長の指示の内容は、野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました。…杉田補佐が過剰に修正箇所を決め、杉田氏の修正した文書を近畿局で差し替えしました。

近畿財務局で杉田氏から修正指示を受けたのは池田靖統括官である。池田統括官は森友学園に国有地を売却したさい、交渉の責任者だった。赤木氏は交渉当時は他の部門にいて、いきさつを知る立場にはなかったが、その後、異動して池田統括官の部下になっていた。

池田氏は改ざんの作業をほとんど赤木氏に押しつけたとみられる。赤木氏は抵抗したが、近畿財務局長はゴーサインを出した。「手記」に、ありありとその様子がうかがえる。

 

◇楠管財部長に報告し、当初は応じるなとの指示でしたが、本省理財局中村総務課長をはじめ田村国有財産審理室長などから楠部長に直接電話があり、美並近畿財務局長に報告…美並局長は、本件に関して全責任を負うとの発言があったと楠部長から聞きました。…本省からの出向組の小西次長は、「元の調書が書き過ぎているんだよ。」と、調書の修正を悪いこととも思わず…杉田補佐の指示に従い…

赤木氏の苦悩を見続けた雅子さんは、率直な思いをありのまま「私は真実が知りたい」に書き綴った。

◇トッちゃんは、自分が罪に問われることを恐れていた。ことあるごとに「大変なことをさせられた」「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」「最後は下っ端が責任を取らされる」「ぼくは検察に狙われている」とおびえていたことを、よく覚えてる。

2018年3月2日、朝日新聞が「森友文書 書き換えの疑い」とスクープ記事を掲載。スマホでこの記事を見た雅子さんは「この人のやらされたこと、これだったんや」とすぐわかった、という。

3月7日、赤木俊夫さんは「雅子へ これまで本当にありがとう ゴメンなさい 恐いよ、心身ともに滅いりました」との遺書を残し、自宅で首をつって亡くなった。若い二人の部下には改ざんを手伝わせず、一人で背負いこみ、苦し
みぬいた末の死だった。

雅子さんから見れば、俊夫さん一人を犠牲にして、財務省と近畿財務局は組織を守ることに汲々としてきた。上司たちが次々と弔問に訪れたが、遺書を雅子さんが世間に公開するのを心配したり、メディアを避けるべきというアドバイスをするばかりで、真実は何一つ語られなかった。

なぜ夫は死ななければならなかったのか。雅子さんは、財務省の内部調査ではなく、第三者による客観公正な調査を求めているが、安倍首相や麻生財務大臣に応じる気配は全くない。

だからこそ、政官の巨大権力に押しつぶされそうになりながらも、真相解明を求める35万人の賛同者に励まされ、雅子さんは勇気をふりしぼって、大阪地裁に損害賠償請求訴訟を提起したのだ。

 

冷淡で不誠実な安倍官邸と保身官僚たち。正しくありたいと願う一人の職員が自ら死を選んだというのに、素知らぬ顔でウソをつき、文書を改ざんしてまで、責任を免れようとする。権力の堕落は目を覆うばかりだ。

image by:安倍晋三公式Facebook

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小沢一郎が動いた。「民主主義を守る」立憲・国民の合流新党は日本を救うか?

MAG2 NEWS 国内   2020.08.14  306  by

 
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  安倍政権に批判的な有権者の受け皿として大合流が期待されていた立憲民主党と国民民主党ですが、蓋を開ければ国民側が分党した上で、賛成派のみが立憲と合流するという結果となりました。この「小規模合流」については期待外れとの論評も上がっていますが、「国民民主党代表の玉木氏の労を多としたい」と評価するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』にその理由を記すとともに、新党への国民の目線を刷新する必要性も訴えています。

 

立憲と国民の合流新党が、日本の「ラストチャンス」に?

党名をめぐって難航していた立憲民主党と国民民主党の合流がやっとのことで、実現しそうだ。

立憲民主党の福山哲郎幹事長が8月7日、国民民主党と合流する場合の新党名を「国会議員の投票で決める」と表明したからだが、国民民主党側はすんなり全員とはいかず、「分党」したうえ、となるらしい。

8月11日に「分党」の方針を表明した国民民主党の玉木雄一郎代表は「消費税減税など軸となる基本政策について一致が得られなかった」と理由を説明した。

 

政策の違いはもちろんある。消費税は、国民が5%へ減税、立憲は引き下げに慎重。原発は、立憲が即時ゼロ、国民は2030年代ゼロ。憲法改正については、国民が積極的に議論すべきとし、立憲は9条改正に断固として反対する。

しかし合流の目的は、野党勢力の大きな塊をつくるため政策の違いを超えて結束することにある。それは、誰もが分かっているはずのことだ。どうしても立憲と一緒になるのは嫌だというのは、政策よりむしろ、感情的なしこりがあるからとしか思えない、

立憲の枝野幸男代表と袂を分かったばかりの山尾志桜里議員などは、どういう考えなのだろうか。枝野代表が国民民主党に対し上から目線だと反発してきた面々はさて…。

玉木代表は立場上、残留組と行動をともにするようだが、誰が立憲と合流し、誰が別行動をとるのか、仔細が決まるのは、お盆休みが明けてからだろう。

立憲サイドには、意見対立でゴタゴタが続いた民主党時代と同じ轍を踏まないためにも「分党」は歓迎、という声もあるようだが、小さな規模の合流になってしまっては、野党結集のうえで物足りない。

「党名」をどうするかが問題のはずだった。立憲民主党がそのまま「立憲民主党」を提案したのに対し、政党支持率がかなり劣る国民民主党は「無記名投票による決定」を主張、合流目前のところで足踏みしていたのを、立憲が歩み寄り、これで万事うまくいくように見えた。

投票案受け入れを発表する前日の8月6日、立憲の枝野代表が国会内で小沢一郎氏(国民民主党)と会談している。

懸案となっている新党名の決め方について、小沢氏は枝野氏に対し、「党名を投票で決めると決断してほしい」と要請。枝野氏は「もうしばらく考えさせてもらいたい」と応じたという。(朝日新聞デジタル)

小沢氏は、党名にこだわるよりも、いま大切なことをやり遂げようと説得したに違いない。このままでは野党の弱体がいつまでも続き、堕落した安倍自民党政権を生き延びさせてしまう。野党の連合が必要だ。まずは立憲と国民が一つの党になって、野党連合の核をつくらねばならない、と。

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image by: kyouichi sato / CC BY

枝野氏が即答できなかった気持ちは、わからぬでもない。「週刊新潮」2020年8月6日号の記事における野党担当記者の解説がいい所をついている。

「両党が対等に解散して一緒になる新設合併方式や、新党の略称を『立民』ではなく『民主党』とすることで、すでに国民側に譲歩しているという思いがあるから。これ以上、玉木さんに歩み寄りたくないんですよ」(野党担当記者)

何も枝野氏だけの思いではないだろう。要は、立憲は国民民主党を“吸収合併”したかったのだ。国民の玉木代表があくまで“対等合併”を主張して譲らなかったため、枝野氏は党内の強硬派を説得し、両党とも解散のうえ新党を結成する案を提示した。それが、新設合併方式だ。

 

これで、吸収も対等もなくなったはずだが、枝野氏が提示した党名案に国民側としてはひっかかった。新党の名称を「立憲民主党」とし、通称・略称を「民主党」とする。「民主党」は国民民主党の略称だ、立憲は譲歩したのだと言われても、国民側とすれば、「立憲民主党」を正式名称とする以上、イメージとしてはいかにも吸収合併のようでイヤな感じは拭えない。

 

党名はどうなる?国民側が「投票による党名決定」にこだわる事情

そこで国民側が出してきたのが「投票による決定」だ。投票なら、たとえ結果として「立憲民主党」に落ち着こうとも、あくまで民主主義手続きで決まったのであって、立憲に吸収されたのではないと説明できる。

 

国会議員の投票となれば、数の多い立憲民主側の意向が反映され、新党名は「立憲民主党」になると予測はつくが、むしろそれゆえにこそ、国民側としては、決定過程が見える「投票」の手続きが欠かせない。

一方、合流協議を進めながらも、枝野代表の思いは複雑だ。立憲民主党の成り立ちからして、先祖返りのようなことをしたくないのは山々だったに違いない。

これまで国民民主党と意識的に距離を置こうとしてきた枝野氏の姿勢と、その転換過程を振り返っておこう。

 

2017年秋の衆院選を前に、前原民進党の合流先「希望の党」を率いた小池百合子氏のいわゆる“排除の論理”で誕生したのが立憲民主党だ。枝野氏が苦悩の中から一人で結党会見して立ち上げた新党だった。

カネも組織もない新党に、立候補者が続々と集まってきた奇跡を、我々は忘れることができない。永田町の権力闘争とは別次元の政治風景。安保法制や共謀罪などに反対する市民連合が後押しし、草の根の力がみなぎっていったのは、自然の流れだった。

捨てられた者たちの辛酸と再生のドラマが人々の瞼にいまだ焼き付いている現時点で、あたかも元の鞘におさまるかのような政治行動にまとわりつく無念さ、後ろめたさ。枝野氏の心の揺れは、新設合併方式と党名案を国民側に提示し、7月16日の記者会見に臨んだとき、明瞭な言葉で吐露された。

「今回、お示ししたパッケージとしての提案は、ゼロから立ち上げた立憲民主党をこれまで草の根から支えてきていただいた皆さんの信頼と期待に応えつつ、政権の選択肢として幅広い力を結集する責任を果たす、という両立困難ともいえる命題を解決する上での苦渋の判断に基づくものです」

両立困難な命題を解決する苦渋の判断。重い言葉である。国民との合流は、草の根から支援してくれた人々の思いに反するのではないかという自問自答。それは今でも枝野氏の胸から消えてはいない。しかし、野党結集という大局に立ち、政権奪取に向かわなければ、いつまでも万年野党に甘んじなければならない。立憲民主党が動かないと、野党結集などできるはずがないのだ。

立憲民主党が合流に向けて一歩を踏み出したのは、昨年夏の参議院選が終わってからだった。9月19日、立憲民主党、国民民主党、社会保障を立て直す国民会議の野党3党派の代表、幹事長6人が一堂に会したさい、衆・参両院で統一会派を組むことに合意したのである。

枝野氏が貫いてきた「永田町の数合わせにはくみしない」という姿勢が、これによって崩れた。「こうした戦い方が必要なフェーズに入った、ステージが変わったと思っている」と枝野氏は語った。

方針転換の背景には、参院選における「れいわ新選組」の躍進があった。立憲は議席こそ増やしたが、比例代表では、2017年の衆議院選挙より300万票以上も得票を減らした。一方、れいわ新選組が比例代表で228万票を獲得、安倍批判票の受け皿たらんと自負していた立憲に衝撃を与えた。

つねに野党結集を唱え、枝野氏の決起を促してきた小沢一郎氏は、こう語った。

「枝野さんは立憲民主党の将来に、かなり過大な見通しを持っていたが、山本太郎君が率いる『れいわ新選組』が参議院選挙で出した結果に、非常に影響を受けた」「この結果を見て大きく認識を改めたようだ。山本太郎君に表彰状を出さなくちゃいかん」(2019年10月2日、NHK政治マガジンより)

統一会派結成が決まると、枝野氏は小沢氏に会った。かつては反小沢の急先鋒だった枝野氏も、野党共闘については小沢氏を橋渡し役として頼りにするほかない。

小沢氏は統一会派結成にさいし、立憲との合流を嫌う国民の議員を説得して回った経緯がある。会派の結成だけでは不十分で、政権奪取には両党の合併が不可欠だと主張していた。

 

党の合流について小沢氏と話し合った枝野氏は2019年12月6日の野党党首懇談会で、国民民主党、社民党、野田佳彦元首相ら無所属議員に、会派だけではなく、党も合流しようと呼びかけた。立憲・国民両党の合流協議は、こうして今に至る。

息絶える寸前の「日本の民主主義」を守るためすべきこと

新党の党名を「代表選挙と合わせて国会議員による投票で決める」という立憲民主党が示した案は、国民民主党の主張に沿ったものだ。玉木代表が賛同しない道理はないはずだが、合流そのものに反対する人々が思いのほか多かったようだ。

 

政策の不揃いは明白である。連合の利害がからむような政策、たとえば立憲民主党の原発ゼロ政策は、電力総連が忌み嫌うものだ。電力総連は国民民主党の支持母体だし、同党の小林正夫総務会長は電力総連の出身である。

だが“しがらみ”に囚われていると、ロクなことはない。今は、利害とか人間関係の枠を飛び越える時だ。

「政策のすり合わせも必要」と玉木氏は言い、“船長”の責任において、合併反対派とともに党に残留する。不完全燃焼のようではあるが、とにもかくにも、合流を実現させたという意味で、玉木氏の労を多としたい。

 

間違いなく、新党は、あの民主党に先祖返りしただけとか、また失敗を繰り返すのかとか、人々を期待薄に誘う論評にさらされるだろう。

それでもいいではないか。民主党政権の失敗。その本質はどこにあったのかを総括し、多様な党内議論を一つにまとめる知恵をもって、再生のための壮大なチャレンジをしてもらいたい。

 

一度は実現するかと思われた二大政党制が民主党政権の失敗で崩壊し、安倍一強政治のもと、長い年月が流れた。もう一度、野党勢力の大きな塊をつくらねば、ほんとうにこの国の民主主義は息絶える。新党を見る国民の目線も刷新する必要があるのではないだろうか。

image by: 高井たかし - Home | Facebook

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日本終焉レベルの大問題。iPS細胞10億円支援打ち切りという愚行

2020年02月12日 00時30分10秒 | Weblog
 
 

日本が世界に誇るiPS細胞研究に暗雲が立ち込めています。先日、政府が京都大学に、iPS備蓄事業に対する年間10億円の予算を打ち切る可能性を伝えたことが報じられました。なぜ国は、自ら日本の未来を潰すような愚行に出るのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、今回の決定に至る背景には「生産性」ばかりを追求するという昨今の流れがあるとし、研究費打ち切りについては「人の命とカネを天秤にかけたようなもの」と厳しく批判しています。

 

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

科学の地盤沈下に拍車をかける政府の愚行

19日火曜日、拒絶反応が起きにくい再生医療をめざす京都大学のiPS細胞の備蓄事業について政府が年約10億円を投じてきた予算を打ち切る可能性を京大側に伝えたことがわかりました。

 

この一方が報じられる数日前、山中伸弥所長京都大学iPS細胞研究所)が記者会見を開き、予算打ち切りにふれ「いきなり支援をゼロにするのは相当に理不尽」と憤りを見せていたのですが、悲しくもそれが現実になってしまったかっこうです。

報道によれば企業ニーズとの違いが浮き彫りになったことが背景にあるとのこと。京大が進めている事業化への方針だと、多額の費用と試験の手間がかかると企業側が判断したというのです。

しかしながら、決定の通知は一方的。山中所長によれば、「国の決定には従う。だが公開の議論と別のところで話が決まってしまう。理由もよくわからない」とのことでした(11日の記者会見で)。

つまり、研究者サイドが「もうちょっとしっかり芽を育てた方が、事業が広がっていく」と訴えているのに対し、国は「今のままでいいじゃん。あとはキミたちでひとつよろしく!」と突き放した。「企業のニーズ」という体のいい言葉は、「このままじゃもうからない」と同義で。「どんどん儲かるように進めていかなきゃダメっしょ!」と、研究より商売を優先したのです。

…んったく。今までもさまざまな分野で、研究者の知見が最後の最後で捻じ曲げられ、研究者を軽視する姿勢に辟易していましたが、今回の決定は「人の命とカネを天秤にかけたようなもの。

このままでは日本に愛想を尽かし、優秀な頭脳はみな海外に流出してしまいます。既にそういった空気はあちこちで漂っていますし、このままでは山中教授だって日本に愛想を尽かしてしまうかもしれません。

いずれにせよ、今回の政府の決断は日本の科学力の衰退に拍車をかける愚行です。日本の世界における科学分野の相対的な地位が年々低下していることは、みなさんもご存知のとおりです。

2017年に英科学誌「ネイチャー」(3月23日号) に掲載された「Nature Index 2017 Japan」というタイトルの論文によれば、2005年~15年までの10年間で、日本からの論文がほぼすべての分野において減少傾向にあることがわかりました。

例えば、ネイチャー・インデックスという高品質の自然科学系学術ジャーナルのデータベースに含まれている日本人の論文数は5年間で8.3%も減少。この期間に世界全体では論文数が80%増加したのに対して、日本からの論文はたったの14%しか増えてないこともわかっています。

しかも、日本の若手研究者は研究室主催者(PI: principal investigator)になる意欲が低く、「研究者の育成も期待できない」という有り難くない指摘まで海外の研究者にされてしまったのです。

もっとも、研究費は少ない非正規雇用で短期間で成果をださなきゃいけない――。そんな状況で「研究者魂の火」を燃やし続けることなどできるわけがありません。

ノーベル賞を日本人が取ると、国はまるで自分たの手柄のように振舞いますが、それは先人たちが教育を大切にしてきたからこそ。明治時代に日本に来た外国人は、日本人の識字率の高さや学校における教育の質の高さに感銘をうけたといいます。

 

大学にもたくさんのカネをつぎ込み、研究者が育つ土壌を作ってきたことが、何年もの歳月をかけてやっと今花開いている。なのに…カネは出さない、でも成果は欲しい。そんな日本のお偉い人たちは自分たちがやっていることが日本を弱体化させていることに気が付いていないのです。

 

そもそも「生産性」という、研究と全く相容れないものを、大学という学問の場に持ち込んだのが衰退の始まりです。大学に競争原理を持ち込み、「選択と集中」だのとカネを稼ぐことに躍起になったことが、「日本の土台を崩壊させたのです。

 

おそらく「生産性命」の方たちは、勉強と学問の違いがわかっていないのだと思います。

勉強とは誰かが作った野菜を集め、売れるように盛り付け、世に出すこと。一方の学問は、どこの土地に、どんなタネをまくか?を考えることから始まります。どんな肥料を使えばいいのか?嵐が来た時にはどうすればいいのか?と様々な可能性を考え、試行錯誤し、失敗を繰り返しながらも、オリジナルの野菜を育て上げます。

そして、野菜が収穫できるようになったら、今度はその持ち味を最大限に活かせるサラダはどういうものかを考え、オリジナルの器にいれ、きれいに盛り付ける。

 

こういったすべてのプロセスをきちんと丁寧に繰り返し行うことで、世の中に役立つものを創りだしていく。これが学問です。

当然ながら時間もコストもかかります。途中でめげそうになることだってあります。それでも自分を信じ、どこから突かれても崩れないだけの知見とスキルを磨き続ける。学問に終わりはないし研究にも終わりはないのです。

それを成し遂げるには国の支援は必要不可欠です。お金がなければ大学の研究は成り立たないし、研究者も育たない。

にもかかわらず、大学の研究費を減らし続け、やっと芽が出てこれからだ!と熟成させているところで、「企業のニーズに合わない」と突き放しているのですから全くもって理解できません。

政府には地盤沈下に拍車をかける愚行を早急に是正してほしいです。心から願います。

みなさんのご意見もお聞かせください。

 

image by: Flickr

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

 

安倍官邸にハシゴを外された山中教授iPS事業は米国に潰される

著者: 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

 

以前掲載の「日本終焉レベルの大問題。iPS細胞10億円支援打ち切りという愚行」でもお伝えした通り、一時は国に見限られかけた山中伸弥教授らが進めるiPS細胞ストック事業。幸いその「暴挙」は見送られることとなりましたが、そもそも安倍官邸はなぜ日本がリードするiPS研究のサポートを取りやめようとしたのでしょうか。そしてiPS事業は今後、どのような道を辿ることになるのでしょう。元全国紙社会部記者の新 恭さんが今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で探っています。

 

一度は官邸に見限られた山中教授iPS事業の将来はどうなる?

日本が誇るノーベル賞受賞者、山中伸弥教授のiPS細胞研究はこの先、どうなっていくのだろうか。

ゲノム編集などの遺伝子技術が進歩し、再生医療でも新たな潮流に注目が集まる昨今、週刊誌や一部ネットメディアでiPS細胞研究の厳しい現状にふれた記事が散見されるが、1月29日の参議院予算委員会でかわされた質疑応答を見ていて、いっそう不安が募ってきた。

その委員会に、昨年末、「不倫出張」とやらで週刊文春のネタにされた内閣官房健康医療戦略室、大坪寛子次長の姿があった。委員会に呼んだのは立憲民主党の杉尾秀哉議員である。

 

杉尾議員は問題の出来事について、大坪氏の認識をたしかめた。

「去年の8月9日、京都大学iPS研究所(CiRA)を和泉総理補佐官とともにたずねて所長の山中伸弥教授と面会された。その時は、あなたと補佐官と山中教授だけでしたか」

和泉総理補佐官とは、「総理は自分の口から言えないから私が代わって言う」と、加計学園の獣医学部新設を早く認めるよう前川喜平・元文科事務次官に圧力をかけた、あの和泉洋人氏のことである。和泉補佐官は健康医療戦略室の室長も兼ねているのだ。

大坪氏は「3名だけで、意見交換をしました」と言い、その内容を問う杉尾氏に、こう答えた。

「iPS細胞ストック事業の着実な実用化のためにどういった支援の在り方があるかということで、現在取り組んでいる事業の状況、今後の見通しなどについてのご意見をうかがった」

ノーベル賞で騒がれたのはだいぶ前なので軽くおさらいすると、iPS細胞は患者自身の皮膚や血液からつくる万能細胞(多能性幹細胞)のこと。目や心臓、神経細胞など身体を構成するほぼすべての種類の細胞に分化する能力がある。しかも、他人の細胞を材料にするわけではないため、拒絶反応が起きにくい。

ということで、夢の再生医療への期待が高まった。だが、ご多聞に漏れず実用化には困難がつきまとう。患者自身の皮膚などから細胞をつくって、それをガン化することなく移植できるほどにするには数千万円ものコストと長い時間がかかる。

そこで始めたのが「iPS細胞ストック事業」というもの。免疫作用も人によって様々なようで、ごくまれに他人に細胞を移植しても拒絶反応が起きにくい免疫タイプの持ち主がいるらしい。そういう人からiPS細胞をつくって備蓄しておこうというのがこの事業の目的である。

京都の物見遊山はともかく、和泉補佐官と大坪次長が、山中教授を訪ねたのには深いわけがあった。杉尾議員の質疑を続けよう。

杉尾 「この話し合いの中で、iPSストック事業を法人化するという合意が山中教授との間でできたという認識でいいですか」

大坪 「それ以前に山中教授のほうからストック事業を法人化したいとご提案があったと承知している。合意というか、提案を了承しています」

杉尾 「法人化に当たっては国費を充当しないと言いましたか」

大坪 「内閣官房からストック事業に対して国費の充当をゼロにするといったことはありません」

iPS細胞ストック事業に対し、国は13億円ほどを助成している。各府省の概算要求を前に、和泉補佐官と大坪次長はそれをゼロにすると告げる密命を帯びて京に向かい、たしかにその役割を果たした。

昨年11月11日、日本記者クラブの会見における山中教授の次の発言がそれを物語っている。

「一部の官僚の方の考えで国のお金を出さないという意見が入ってきた。いきなりゼロになるというのが本当だとしたら、相当理不尽だなという思いがあった」

 

実名こそ出さないが、山中教授の思いは明らかに、和泉補佐官、大坪次長に対して向けられていた。「官僚の方に十分説明が届いていない」と、自己反省を含めた柔らかな言い回をしたところも、山中教授らしい憤りの表明だった。

 

その後、山中教授が大臣たちと面会したり、議員の会合に出席したりして、国の支援の継続を訴えたのが功を奏したのか、結局、政府はiPS細胞ストック事業への助成を継続することに方針を戻したが、いったん官邸サイドが山中教授を見限ったのは間違いない。

 

杉尾議員は官僚が書いたらしい令和元年8月9日付けのメモを取り出した。

「iPS細胞ストック事業法人化の進め方というタイトルのペーパーで、機密性情報と書いてある。いまのCiRAを二つに分割する。一つは狭義での基礎研究を引き続きCiRAで実施する。もう一つはiPSストック事業を推進する公益財団法人を新設する。3番目には、新設の法人には国費を充当しない、と書いてある…問題のストック事業に昨年、国から投じられたのは13億円。これをやめるということではないんですか」

それでも、大坪次長は「ストック事業に対して国費の充当をゼロにすると言ったことはない」とシラを切り通した。

 

筆者はこのやり取りを見ていて、不思議に思った。そもそも、iPS細胞はアベノミクス成長戦略の目玉だったはずではないか。2012年に山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞し、iPS細胞への世間の関心が一気に高まり、その流れに乗るように翌13年1月、政府は再生医療に10年で約1,100億円の研究支援を決定した。

再生医療には、ES細胞や体性幹細胞を使うものもある。だが、安倍政権はiPS細胞に偏った資金投入を続け、山中教授は少なからず他の研究者たちの妬みと反感を買ったかもしれない。不満の声を受けて、自民党内に見直しの議論が起こったのも事実だ。

だからといって、一度は国を挙げて応援しようとした研究や実用化事業に見切りをつけ、官邸主導で、そこに投じてきた資金を打ち切ろうとしたのは、ただごとではない。その背景に何があるのだろうか。

それを考えるうえで、参考になるのはネットメディアNewsPicksの連載記事「iPSの失敗」だ。

「iPSバンクの細胞は品質が安定せず、治療にはまだ到底使えない」専門家たちはそう評価を下す。…世界市場を見ている医療産業界は、このバンクの使用を敬遠している。あまり知られていないことだが、iPS細胞をつくる際に使う遺伝子など6つの因子のうち、当初は一部の特許がアメリカ製だった。これをメード・イン・ジャパンにせよという政府の号令がかかり、1因子を日本製の別のものに変更している。これにより作製の効率が悪化していったというのが実態だ。莫大な資金投入が無駄になる可能性が見えているし、この国のiPS細胞は、いつの間にかガラパゴスと化していたのだ。

このような文章で問題提起をしたうえで、14年まで京大に在籍し、iPS細胞の大量生産技術の開発に長らく関わってきた仙石慎太郎・東京工業大学准教授らへの取材と、下記の5人の専門家へのインタビューで、記事を構成している。

  • 2014年に世界で初めてヒトにiPS細胞を移植した高橋政代・元理化学研究所プロジェクトリーダー
  • iPS研のバンクの細胞を使用しない意向を明らかにしているアステラス製薬執行役員、志鷹義嗣氏
  • iPS研設立当時の京大総長、松本紘・理化学研究所理事長
  • 山中の才能に目をつけ、京大再生医科学研究所に受け入れた当時の所長、中辻憲夫氏
  • 2018年まで京大iPS細胞研究所にいた神奈川県立保健福祉大学教授、八代嘉美氏

全員のインタビューを紹介することは、どだい無理なので、八代嘉美教授の見解に注目してみたい。以下はその一部だ。

「iPSは結果的に、再生医療の産業化に偏重した。有用性を訴えた方が、お金を出してもらいやすいというのは、どうしてもあります」

「本来、基礎研究をじっくりやる場として、京大iPS研はあったと思います。山中先生に限らず、他のノーベル賞受賞者もみな、基礎研究の重要性については、首相や文科相に対し、事あるごとに訴えています。しかし、『何々の分野への重点的な投資を支持した』という話しか出てきません。そういう中にiPS細胞もはまり込んでしまった」

 

どうやら、安倍成長戦略との一見、有利な結びつきが、やたら実利を追わねばならぬプレッシャーとなり、かえってiPS研究の進展を阻害したようである。

 

かつて官僚と族議員に支配されてきたこの国の統治機構は、7年余りに及ぶ安倍長期政権の間に、政治主導の名のもと、いびつな首相官邸独裁に変貌を遂げた。

 

仰々しいスローガンを乱発する安倍首相の大好きな言葉の一つが「国家戦略」である。縦割り発想、省益優先の省庁に横串を通し国家戦略を実行するというふれこみで官邸に設けられている「〇〇戦略室」「〇〇推進室」「〇〇本部」はどこまで役に立っているのだろうか。

首相、官房長官に直結する「健康・医療戦略室」の昨今のふるまいから見えるのは、山中教授が安倍首相ら政権首脳に実利的成果を急がされた挙句、ハシゴを外されかけている構図だ。

アベノミクスにかかわりなく、基礎研究に十分な投資を政府がしてくれていればいまのiPS研をとりまく風景はずいぶん、違ったものになっていたのではないだろうか。

 

AERA19年12月16日号によると、山中教授は「iPS細胞を使った臨床研究では、日本が世界をリードしてきた」としながらも、「アメリカの怖さ」を切実に感じているという。

米バイオベンチャー企業ブルーロック・セラピューティクスはパーキンソン病患者に移植する臨床試験、iPSから作った心筋細胞による心不全治療、重い腸疾患治療の研究開発などを豊富な資金で進めるらしい。

山中教授は「私たちがやってることと完全に競合する。超大国アメリカがiPSにどんどん乗りだし、本気になってきた」と危機感を強めている。

 

安倍政権は日本のiPS研究開発が壁にぶち当たっている今こそ、実利を急がず、強力な支援体制を構築すべきではないか。やらしてみたけど、ゼニにならぬからさっさとやめるというのでは、いつまで経っても米国の後塵を拝するしかない。

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新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

 

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

 

 

安倍総理「桜を見る会」前夜祭問題の「生贄」にされた政治家たち

著者: 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

 
 

先日掲載の「安倍首相の珍回答に国民『答えているけど答弁ではない』と嘲笑」でもお伝えした通り、未だ何一つ真実が語られていないとも言われる、桜を見る会を巡る数々の疑惑。首相を公選法違反などで刑事告発する動きも見られますが、今後、どのような展開を見せるのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、「桜を見る会前夜祭の支払い補てん」に焦点を絞り、老舗ホテルの元関係者の見立て等を紹介し、「バカを見るのは常に庶民」と結んでいます。

 

桜を見る会前夜祭の支払い補てんに税金が使われたのか?

公的なイベントであるはずの「桜を見る会」を、安倍首相があたかも支持者集会のごとく私物化してきたさまは、醜悪な権力者の姿そのものである。

どのように野党やメディアに追及されようと、決して真実を語らず、意図的論点ずらしの答弁を延々と続け、官邸や内閣府の官僚にも暗黙のうちに虚言を強いる。その徹底ぶりは驚嘆に値する。

まれにみる狡猾な政権であることは認めよう。そのために野党が攻めあぐねていることも確かだ。

 

そのかわり、首相をお手本に、政治家のモラルは音を立てて崩れつつある。雲隠れしていた菅原一秀前経産相、河井克行前法相と河井案里参院議員が国会に舞い戻ってきてからも「捜査の支障になる」とかなんとか、白々しいウソをついてまで説明を拒絶するのは、安倍内閣でまかり通ってきた「逃げるが勝ち」の成功法則を信じ込んでいるからにほかならない。

しかし、安倍首相はもはや、菅原氏や河井夫妻を検察から守る意思はないかもしれない。検察になにがしかの手柄を立てさせておかないと、自らの身が危ういからだ。

IR(カジノ)誘致という目玉政策に影響することもかまわず、東京地検特捜部が秋元司元IR担当副大臣への強制捜査に踏み切ることを容認したのも、安倍首相自身が「桜を見る会」で刑事責任を問われかねない客観的状況を自覚していたからだろう。

事実、安倍首相を公職選挙法違反、政治資金規正法違反で刑事告発する市民や弁護士の動きが活発化している。立件されれば、現職総理の犯罪に斬り込む前代未聞の事件に発展する可能性がある。

ジャーナリストの浅野健一氏や弁護士ら約50人でつくる「税金私物化を許さない市民の会」が昨年11月20日、東京地検に告発状を提出したのが、第一弾だ。

東京地検はどう対処するか、態度を決めかねている。法務大臣の指揮権発動で捜査をつぶされる可能性も視野に入れなければならないし、なにより現職総理を相手にすることへのためらいがある。

煮え切らない東京地検の姿勢に業を煮やした別のグループの動きも出てきた。

宮城県の弁護士10人が「桜を見る会を追及する弁護士の会」を立ち上げ、2月には全国規模の組織にしたうえで、3月にも、刑事告発をするというのだ。

同会共同代表の小野寺義象弁護士が1月23日、第28回目の「桜を見る会」野党追及本部ヒアリングに出席して、告発の理由を詳しく説明した。そこで小野寺弁護士が強調したのは、「桜を見る会」の本質は、単なる政治的、道義的責任の問題ではなく、総理の「犯罪」であるということだ。

犯罪性を隠すため、紙も電子データも廃棄したとウソをついて「桜を見る会」招待者名簿の公開を拒み、不合理な理屈を編み出して、違法性を否定する。それが現在の安倍官邸と内閣府の姿ではないか。

昨年4月12日午後7時からホテルニューオータニで開かれた「桜を見る会」前夜祭のパーティーに関し、1月22日の衆院本会議で安倍首相はこう語っている。

 

「夕食会の価格設定は、出席者の大多数がホテル宿泊者という事情を踏まえ、800人規模、一人当たり5,000円とホテル側が設定した…明細書について、ホテル側は、営業の秘密にかかわり資料提供には応じかねるとのこと。夕食会の費用は…受付でホテル側職員の立ち合いのもと、私の事務所の職員が一人5,000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金したすべての現金をその場でホテル側に渡すという形で参加者からホテル側への支払いがなされた。主催者である安倍晋三後援会としての収支は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識している」

 

これに対して、小野寺弁護士はこう言う。

 

「前夜祭はホテルの企画ではなく、あくまで後援会主催の企画だ。会場、役務の提供に関しホテルと後援会との間で契約が結ばれていて、それに基づいて運営されたと解するしか法律的にはない。ホテルへの代金支払いは契約上の債務であり、その負債の履行は後援会が責務を負っている。ホテルは後援会の債務の履行として代金を受け取っている、というのが一般的な契約の観点だ」

パーティー会費は、参加者がホテルに直接支払ったと主張する安倍首相に対し、小野寺弁護士はあくまで後援会とホテルの取引と解釈するのが法律家の観点だと反論する。

ホテル側の見解が聞きたいところだが、安倍首相への忖度からか、ニューオータニ側は口をつぐんでいる。しからばと、筆者は老舗ホテル元営業部長、A氏に安倍首相の主張について感想を聞いた。

 

A氏はまず「一人当たり5,000円とホテル側が設定した」という安倍首相の説明に疑問を投げかける。

「見積書と元請求書は、安部事務所・後援会あてに出されているはず。一人5,000円では、ホテルニューオータニ『鶴の間』で800人規模の立食パーティーをするのは不可能だ。最低一人1万5,000円以上かかるが、総理事務所なので特別に配慮して料理発注人数を600人分くらいに調整したり、酒類や山口県の物産の持ち込みや、宴会場使用料の大幅割引などによって、たぶん8,000円~1万2,000円で受注したのでしょう」

A氏は、一人当たり5,000円では、800人として180万円~400万円が不足し、その分を誰かが補てんして支払ったはずだというのである。

後援会、あるいは安倍事務所が差額を負担したのなら公選法違反の寄付にあたり、ホテルが負担した場合は贈収賄になる。

A氏は「想像だが」と断ったうえで、後援会、ホテルのどちらでもない可能性を指摘する。

「後援者の企業か、パトロン個人、領収書の要らない官房機密費から出ている可能性がある。桜を見る会の経費内に組み入れて吸収したことも考えられるが、その場合だと税金なので一番ヤバイですね」

政治資金を動かさないですませるため、ひそかに税金を使う仕掛けにしたということだろうか。

それにしても、たとえ総理とはいえ一議員のパーティーに税金が多少なりとも横流しされたとしたら、政治資金を使うより、よほどタチが悪い。

だが、不思議なのは、参加者個々に、ホテルから領収書が手渡されたというのに、いまだ1枚の領収書の現物、あるいは画像が、メディアや野党議員の手に渡っていないということだ。安倍首相の証言を裏付ける領収書なのである。それを後援会員が持っていたら、すぐにSNSに投稿するのが当世流だろう。

ただし、A氏によると、ホテルがホテル名義の領収書を用意したとしても、さほど不思議ではないようである。

「安倍晋三後援会または安倍事務所の領収書を使用すれば収支報告に記載する必要があるので、ホテル側との合意に基づき、ホテル名義の領収書を準備したのでしょう。ホテル側からすると請求総額に含まれる一部入金分に該当するので何ら問題はありません」

ホテルというのは、政治家とか有力者のためなら、よほど融通をきかせるものらしい。

 

ならば、安倍事務所が後援会員に頼んで領収書を探し出してもらえばいいのに、なぜそれをしないのか。領収書と請求明細書の辻褄が合っていないのだろうか。

 

小野寺弁護士は翌日の「桜を見る会」において、安倍首相が後援会員ら850人を招待したことについても次のように語る。

 

「功績者に該当しない地元の人も招待し、無料で飲食などのサービスを供与している。これは寄付罪と買収行為に該当する。一人一人に対するものなので、場合によってはすさまじい件数の犯罪が起こっていることになる。安倍首相サイドとしては、事実が先にあるのではなく、犯罪構成要件に該当しないよう法律に詳しい人の助言で事実を組み立てている。だから収入支出が全くないと言ったり、告発状の文が書けないよう招待者名簿を出さないということが起きてくる」

小野寺弁護士とA氏の見解が共通するのはニューオータニで開かれた前夜祭で、一人5,000円の会費では足りない金額を誰かが補てんしたであろうということだ。

小野寺弁護士は安倍後援会を疑い、A氏は官房機密費の使用や「桜を見る会」の経費に組み入れて補てんした可能性にまで言及した。

 
 

A氏の見立ての通りだとすれば、安倍首相は少なくとも前夜祭に関する限り、まんまと法の網をくぐり抜けることになるのかもしれない。最高権力者ならではの芸当に欺かれ、バカを見るのは常に庶民である。

image by: 首相官邸

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「米韓同盟消滅」にようやく気づいた韓国人

2019年07月20日 18時19分54秒 | Weblog

文在寅は米国に「縁切り」を言わせたい

鈴置 高史

2018年12月7日

 

全6227文字
20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ、11月30日に開催された米韓首脳会談は「非公式」に格下げされた(写真:White House/ZUMA Press/アフロ)

前回から読む)

 駐韓米国大使が「米韓同盟はいつまであるか分からない」と語った。

米大使が警告

鈴置:韓国に駐在するハリス(Harry Harris Jr.)米国大使が「米韓同盟がいつまでもあると思うな」と韓国に警告しました。文在寅(ムン・ジェイン)政権が制裁緩和を唱えるばかりで、北朝鮮の非核化に不熱心――はっきり言えば非核化を妨害しているからです。

 ハリス大使は「2018年統一貢献大賞」を受賞。11月26日にソウル市内で開いた授賞式での発言でした。

 朝鮮日報社の発行する月刊朝鮮が独自ダネ「ハリー・ハリス駐韓米大使、『米韓同盟を当然視してはいけない』」(韓国語、11月27日)で報じました。大使の発言を記事から拾います。式の参加者が同誌に伝えたものです。

  • (米朝首脳会談により)北朝鮮に肯定的な変化が生まれる可能性が無限にあると考えている。しかしこれは金正恩(キム・ジョンウン)委員長が非核化に関する自身の約束を守る時にのみ可能になる。
  • 北朝鮮が非核化に関する具体的な措置をとるまで、現在の制裁が維持されるということだ。文大統領が語ったように、南北対話は非核化の進展と必ず連携されることだろう。

 「南北対話は非核化の進展と必ず連携される」とは外交的な修辞です。「北朝鮮が非核化しない限り、米国は制裁緩和を認めない」と韓国にクギを刺したのです。

金正恩の使い走り

 9月下旬に訪米した際、文在寅大統領はあちこちで「北朝鮮は平和に向け動き出した」「金正恩委員長は信頼できる」などと強調しました。

 このため米メディアが「文在寅は金正恩の首席報道官」と揶揄するなど「韓国は北朝鮮の別働隊」との見方が広がったのです(「『北朝鮮の使い走り』と米国で見切られた文在寅」参照)。

 10月10日、トランプ(Donald Trump)大統領はホワイトハウスで「韓国は米国の承認なしに何もできない」と3度も繰り返し語りました。韓国が対北援助の再開に動くことに関し、記者から聞かれての答えです。

 もちろん「勝手に動くな」と叱責したのです(「『言うことを聞け』と文在寅を叱ったトランプ」参照)。

 それでも文在寅政権はめげませんでした。10月中旬の欧州歴訪では、仏、英、独の首脳と会談し対北制裁をやめさせようと画策しました。

 ローマ法王まで利用する徹底ぶりでした。欧州を味方に付け、米国を孤立させようとしたのです。もちろん、そんな試みは失敗しました(「北朝鮮と心中する韓国」参照)。

 

同盟を当然と思うな

露骨になる一方の「韓国の裏切り」。それに対しハリス大使は警告したのですね。

鈴置:その通りです。そうした文脈の中で「米韓同盟消滅」に言及したのです。記事からその部分を引用します。

  • 最後に一言申し上げたい。我々の同盟は確固として維持されているが、我々はこれを当然視してはいけない。

 韓国がこんなに同盟をないがしろにするのなら、打ち切ってもいいのだぞ――と匂わせたのです。月刊朝鮮も前文で、以下のように解説しました。

  • 非核化もしないのに韓国政府が南北対話や対北制裁解除を推進する場合、同盟が揺れることもあり得ると暗示した。

 私の記憶する限り、米政府高官が公開の席で「同盟破棄」に言及して韓国を脅したのは初めてです。韓国の親米保守は驚愕しました。

フィリピンを思い出せ

 朝鮮日報の元・主筆の柳根一(ユ・グンイル)氏がこの発言に直ちに反応し、保守系サイトの趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムに記事を載せました。

ハリス米大使『韓米同盟を当然視するな』」(11月28日、韓国語)です。柳根一氏はまず「米国は韓国を見捨てない」との思い込みに警告を発しました。

  • ハリス大使の発言は韓国に対する米国の断固とした警告に聞こえる。米国は卑屈に同盟を求める国ではない。
  • 一部の人は言う。米国は自分の利益のために韓国に軍隊を置いているのであって、韓国のためではないと。バカも休み休み言うべきだ。
  • 在韓米軍基地がたとえ、米国の戦略的な利益のために必要であったとしても、韓国人たちが望まなければいつでも離れる用意があると見なければならない。
  • フィリピンの政治家たちが「民族主義」を掲げて米軍撤収を言いだすと、米国はピナツボ火山噴火を口実にクラーク基地をある朝に捨て、去った。米軍が離れるや否や、比海域には中国海軍が忍び寄った。

 韓国では左派に限らず普通の人も、そして多くの保守派までも「米国は自分の利益のために軍を韓国に駐屯させている」「だから少々我がまま言っても同盟は打ち切られない」と信じています。

 柳根一氏はハリス大使の発言を聞いて「単なる脅しではなく本気で韓国を捨てるハラを固めたな」と焦った。そしてこの記事を書くことで韓国人に、状況が大きく変わった。幻想を捨てよ、と訴えたのです。

 

左派の陰謀

「状況が変わった」とは?

鈴置:次のくだりを読むと分かります。ポイントを翻訳します。

  • 韓国の運動圏(左派)は内心、米国が韓国に愛想を尽かして自ら離れて行くことを望んでいるのかもしれない。だから米国が愛想尽かしするようなことばかり選ぶ手法をとっているとも言える。
  • 「我々がいつ、出て行けと言ったか。我々はただ、自主的であろうとしただけなのに、あなたたちが公然と怒って出て行ったのだ」というわけだ。
  • この方式はすでにある程度、実行に移されている。米国は今や十分に怒っている。少し前、韓国外交部を担当する記者らがワシントンに行った時、あるシンクタンクの研究員が米国の官僚らが韓国のやり方に猛烈に怒っていると伝えたのではなかったか?
  • そうなのだ。韓国人は韓米同盟を当然視してはいけない。いったいどの国が、自尊心を傷付けられてまで同盟という見せかけに縛られると言うのか?

 文在寅政権は米国から「縁切り」を言わせたい。そこで米国が怒るよう仕向けている。「そんな卑怯なやり方をすれば、米国は本当に怒って出て行くぞ」と、柳根一氏は「左派が演出した危い状況」に警鐘を鳴らしたのです。

その見方は正しいのですか?

鈴置:私もそう見ます。文在寅大統領はじめ、政権中枢の運動圏出身者は、米韓同盟こそが民族を分断する諸悪の根源と考えているからです(「『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 ただ、文在寅政権が同盟破棄を言い出せば、韓国の保守や普通の人、あるいは左派の一部も反対するでしょう。米国を分断の元凶となじる韓国人にも、米国に守ってもらいたい人が多い。

 だから文在寅政権は米国から同盟破棄を言わせるよう仕向けているのです(「『言うだけ番長』文在寅の仮面を剥がせ」)。

なぜイライラさせるのか

米国もそれに気付いているのでしょうか。

鈴置:もちろんです。米国人は韓国人が考えるほどバカではありません。文在寅大統領の9月の訪米で、韓国が北朝鮮の使い走りに堕ちたことは天下に知れ渡りました。当然、米国は韓国の裏切りを監視する体制を強化しました。

 米政府は日本にも安保・外交専門家を送り込み、「文在寅政権は何を考えているのか」を聞いて回りました。10月、そんな1人からヒアリングを受けました。何と、最初の質問が「韓国はなぜ、我々をイライラさせるのか」でした。

どう答えたのですか?

鈴置:「米国側から同盟解消を言わせたいのだろう。もし文在寅政権が先に言い出せば、青瓦台(大統領府)は保守派のデモで取り囲まれるであろうから」と答えました。

 すると相手は大きくうなずいてメモを取りました。新しい知見に感動して、というよりも「日本の専門家もそう見ているのか」といった感じでした。

 米政府も、同盟廃棄に向けた韓国のやり口はすっかり見抜いています。ヒアリングの対象になったのは、10月に『米韓同盟消滅』というタイトルの本を出したこともあったようです。

 

「韓国疲れ」とこぼす米高官

 『米韓同盟消滅』の第1章「離婚する米韓」で説いたように、トランプ大統領は北朝鮮の非核化が実現するなら、米韓同盟を廃棄してもいいと考えている。

 注目すべきは、米政府や米軍の高官たちもそう考え始めたことです。日本のカウンターパートに対し「韓国疲れ(Korea fatigue)」とこぼす軍出身の高官が増えたそうです。大統領と同様に、非核化と同盟廃棄の取引を進めるハラを米軍も固めた可能性があります。

 12月に実施予定だった米韓空軍の合同演習「ヴィジラント・エース(Vigilant Ace)」が10月に中止が決まりましたが、米国側の発案でした。

 ハンギョレの「韓米ビジラントエース演習の猶予は米国から先に提案した」(10月21日、日本語版)など、韓国各紙が一斉に報じました。

 CNNは「国防総省、米韓軍事演習の中止を発表 米朝交渉に配慮」(10月21日、日本語版)で「トランプ大統領が高額の出費を強いられる演習を嫌う」「米朝関係に配慮した」などの理由を挙げました。

 ただ、日本の専門家によると米軍の現場からは「韓国軍と肩を並べて戦うことはもうない。である以上、合同演習などは無駄だ」との声が漏れてくるそうです。

 米軍内にも「米韓同盟は長くは持たない」との意識が広がった。米海軍大将で、太平洋軍司令官だったハリス大使が「米韓同盟を当然視するな」と韓国人に警告したのも別段、不思議ではないのです。

 

日韓関係も破壊

韓国が日本を「イライラさせる」のも……。

鈴置:米韓同盟破棄の伏線を敷いているつもりでしょう。10月30日、戦時の朝鮮人労働者に賠償するよう、韓国大法院(最高裁判所)が新日鉄住金に命じました(「新日鉄住金が敗訴、韓国で戦時中の徴用工裁判」参照)。

 日韓国交正常化の際に取り交わした請求権協定を完全に否定する判決でした。これにより日韓両国は国交の基本的あり方を確認した条約を失いました。無条約時代とも言うべき状況に突入したのです(「文在寅政権は『現状を打ち壊す』革命政府だ」)。

 11月21日には韓国政府は、従軍慰安婦問題に関する「和解・癒やし財団」――いわゆる「慰安婦財団」の解散を発表しました 。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年末の日韓合意を踏みにじりました。

 日本を怒らせ日韓関係を破壊すれば、米韓同盟にもヒビが入ります。日本では「韓国防衛のために日本が戦争に巻き込まれる危険性を冒すべきではない」との主張が高まり、朝鮮半島有事の際の在日米軍基地の使用が難しくなるのは間違いありません。

 在韓米軍は日本という強力な兵站基地があって十分に機能します。米国はますます在韓米軍を維持する意欲を失うでしょう。

日米からのけ者にされた

 11月30日、12月1日の両日にアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が象徴的でした。この場を利用し、各国は相次いで2国間の首脳会談を持ちました。

 最高裁判決などで無茶苦茶なことをして来る韓国に怒った日本は、いつもなら開く日韓首脳会談を実施しませんでした。

 トランプ大統領は11月30日に文在寅大統領と会いましたが、ホワイトハウスはわざわざ「会談はpull asideである」と断りました。「pull aside」とはイベント会場の片隅で実施する立ち話のような、非公式の会談を意味するのだそうです。米国は韓国をはっきりと「格下げ」して見せたのです。

 「米国と日本から見捨てられた」と、もっと大きなショックを韓国人に与えたのが、日米がインドを安全保障上のパートナーに引きこもうと開いた初の3カ国首脳会談(11月30日)でした。

 中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)ワシントン総局長は「『外交だけ質問せよ』は自信感、ですよね?」(12月5日、韓国語版)で以下のように書きました。

  • インドのモディ首相は「日本(Japan)、米国(America)、インド(India)の頭文字を足した「JAI」なる新語を創り出し「民主主義の価値を象徴するJAIが平和と繁栄を共に創ろう」と語った。すると安倍首相が待っていたかのように相槌を打った。「自由で開放されたインド太平洋に向けこの3カ国で進もう」。
  • 昨年7月のG20首脳会議と9月の国連総会では韓米日の3カ国首脳会談が行われた。だがそれ以降途絶えた。北朝鮮にオールインし、米中間でどちらにつこうかとうろうろする韓国は除かれ、代わりにインドが入ったのだ。

 

保守に期待できるか

米国はどうするつもりでしょうか?

鈴置:保守派に期待しているフシがあります。彼らをして、文在寅政権の対北支援を阻止させたいと考えているようです。米国の専門家からのヒアリングでも「保守派に期待できるか」との質問がありました。

何と答えたのですか?

鈴置:「保守勢力は分裂しており力がない。左派の対北傾斜をどこまで防げるかは不透明だ、と韓国の友人は言っている」と答えました。ついでに「ご質問が『クーデターは可能か』ということなら、それは不可能と見られている」と言っておきましたが。

「クーデターに期待できない」米国はどう出ますか?

鈴置:過去、韓国が逆らった時は「通貨」で脅しました。1997年の通貨危機も米韓関係が悪化した状況下で起きました。

米韓同盟消滅』の第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」で、米国の手口を詳しく説明しています。

 現在、韓国は資本逃避が起きやすい状況に陥っています。米国の今後予想される利上げで米韓金利差が広がるというのに、韓国は個人負債の膨張のため金利を上げにくい。半導体市況の低迷で貿易黒字も減ると見込まれています。いずれも通貨危機の危険信号です。

日米共同で対韓制裁?

 「通貨」で韓国を脅すやり方には大きな副作用があります。韓国の反米感情を育てるからです。1997年の通貨危機は米韓関係悪化の大きな引き金となりました。

 ただ、同盟を長く続けるつもりがないのなら、米国は反米感情に神経を払う必要はなくなる。それは日本も同じです。韓国が米国の同盟国から外れるのなら、これまでのように遠慮しなくてよいのです。

 ちょうど今、日本も韓国に対し経済制裁を検討し始めたところです。朝鮮人労働者の判決の是正を求めているのに、韓国政府は馬耳東風。このまま放っておけば、韓国の無法を認めることになります。日本は何らかの形で韓国に対抗措置を取らざるを得ません。

 一方、米国も北朝鮮の核武装を助ける韓国をここで叩いておきたい。日米が一緒になって韓国の弱点たる「金融」を攻める可能性が出てきました。

次回に続く)

【著者最新刊】『米韓同盟消滅』

 米朝首脳会談だけでなく、南北朝鮮の首脳が会談を重ねるなど、東アジア情勢は現在、大きく動きつつある。著者はこうした動きの本質を、「米韓同盟が破棄され、朝鮮半島全体が中立化することによって実質的に中国の属国へと『回帰』していく過程」と読み解く。韓国が中国の属国へと回帰すれば、日本は日清戦争以前の「大陸と直接対峙する」国際環境に身を置くことになる。朝鮮半島情勢「先読みのプロ」が描き出す冷徹な現実。

第1章 離婚する米韓
第2章 「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章 中二病にかかった韓国人
第4章 「妄想外交」は止まらない

2018年10月17日発売 新潮社刊

 


2019年 M&A大予測 電力会社の再編が始まる M&A業界インタビュー

2019年07月20日 18時11分00秒 | Weblog
他 1名
日経ビジネス記者

2019年1月21日

 

 日経ビジネスの1月21日号特集「2019年M&A大予測」では、独自の取材に基づき、大型M&Aを巡る様々なシナリオを紹介した。業界関係者へのインタビューでは「電力会社の再編が始まる」「アクティビストは沈静化する」など、激変の2019年を予想するコメントが相次いだ。M&A助言、レコフの稲田洋一社長、さわかみ投信の澤上篤人会長、東京理科大学大学院の橘川武郎教授、シティグループ証券の江沢厚太マネジングディレクターの4氏へのインタビューを掲載する。

中小型M&Aの隆盛続く レコフ・稲田洋一社長

稲田洋一(いなだ・よういち) 1959年生まれ。84年東京大学法学部卒、93年米ダートマス大学経営学修士(MBA)取得。山一證券株式会社を経て94年にレコフ入社。国内流通、総合商社、外食・フードサービス業界を担当し、2016年より現職。(写真:北山 宏一)

 2019年の国内M&A市場は一層活性化し、今後10年で最盛期を迎えるはずだ。70歳前後を迎えた団塊の世代の経営者が引退を考える時期に入っている。一方、後継者不足は深刻だ。同業や関連企業による事業承継をテーマにした買収が顕著に増えてきている。財務省のデータによると、再編や廃業などを通じて、15年末~25年末までに国内企業が83万社減るという予測もある。

 最近では、赤字企業だけでなく黒字経営の中小企業も買収の対象となってきている。業種別で多いのは建設関連。足元では、20年の東京オリンピック・パラリンピックや首都圏でのオフィスビル建設などで建設需要が旺盛だ。技術者不足が深刻となっており、人材確保を目的とした買収が多い。

 中小規模の病院や診療所の案件も増えている。最新の医療機器は性能が優れているが非常に高額で、多くの病院では設備投資が経営の負担となっている。医師や看護師はしっかり労務管理をしないと他の病院へ簡単に移ってしまう。難しい経営の舵取りを負担と感じる院長は多く、他の医療グループなどに事業を譲るケースが増えてきた。

 地域別では、九州での案件がより活発化するとみている。九州新幹線の開業に伴い、地域内でも交通アクセスが格段に向上し、鹿児島と熊本や、佐賀と長崎など、県をまたいだM&Aが増えている。昨年九州で開催したグループのセミナーでは3000人が集まった。新幹線の整備は今後も続き、更なる越境案件が増えると見ている。

 

「アクティビスト」が沈静化する さわかみ投信・澤上篤人会長

澤上篤人(さわかみ・あつと) 1947年、愛知県名古屋市生まれ。ピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を務めた後、96年にさわかみ投資顧問(現 さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。同ファンドの純資産総額は約3000億円。(写真:北山 宏一)

 金融市場では、凄まじい変化が今まさに始まりつつある。リーマンショックへの応急対処として始まった史上空前の金融緩和が金余りバブルをもたらし、世界中の株価や不動産価格の上昇を引き起こした。だが、米国の利上げなどを通じて、先進国を中心に逆転現象が始まりつつある。金融市場は既に不安定化しだしているが、2019年はこの流れがより明確化する一年となるだろう。

 M&A関連では、物言う株主「アクティビスト」の発言力が低下すると予想する。これまで低金利による運用難を背景に、世界中の年金基金などが、少しでも運用リターンを引き上げようとアクティビストファンドに資金を振り向けてきた。おかげでファンドは、豊富な資金を元に積極的に企業の株を買い集め、経営に注文をつけることができた。

 アクティビストは利益を回収するために、短期的な株価上昇につながるM&Aや、企業の成長率に見合わない配当の拡大などを要求してきた。しかし、金融市場での金余りは終焉を迎え始めている。アクティビストファンドへ流れていた資金がすっと引く可能性は高い。市場が正常化すると言ったほうが良いかも知れない。

 先進国で利上げが進むと、銀行からの巨額借り入れを通じた超大型M&Aも鳴りを潜めるだろう。一方、企業のコア事業を成長させるためのM&Aは、国内外で引き続き活発に行われると見ている。

 

電力会社は6社になる 東京理科大学大学院・橘川武郎教授

橘川武郎(きつかわ・たけお) 国のエネルギー政策の基本方針である「エネルギー基本計画」を議論する「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」の委員などを歴任(写真:的野 弘路)

 電力会社の再編の起点は2つ。西日本は中国電力が台風の目だ。関西電力、四国電力、九州電力に囲まれている。この3社の共通点は原発問題が大体片付いたこと。中国電は石炭火力に強い。石炭に弱い関電は、大飯原発(福井県おおい町)が再稼働してキャッシュが回り出した今、発電ポートフォリオを充実させたいと考える。原発と石炭をそろえれば盤石という観点から、石炭に強い中国電を狙うのは自然だろう。四国電、九電も同様だ。

 中国電にとって石炭に強いのは弱点でもある。電力会社は2030年度までにkWhあたりの二酸化炭素排出量を0.37kgにしないといけないからだ。島根原発(松江市)を動かしても達成できない。だからこそ、上関原発(山口県上関町)の新設にこだわるわけだが、新規立地は誰が考えても無理だ。中国電から見ても合併しかない。関電に飲み込まれるのが嫌ならば、自社より小さい四国電と一緒になる可能性がある。中国と四国が一緒になれば九電が乗ってくるかもしれない。

 北陸電力も石炭が強い。だが、北陸電は関電に飲み込まれるのを食い止めてきた歴史があるので関電と一緒になることは考えづらい。中部電に頼る可能性はある。中部電は原発に弱いので、志賀第二原発(石川県志賀町)が動けば中部電にとって北陸電は魅力的だ。

 原発については、日本原子力発電を中心とした原発運営企業ができる可能性がある。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、設備が優れている。6、7号機は動かすべきだと思う。だが、持ち主が東電のままでは動かない。福島の復興費は必ず国民負担になるから、東電が優良な原発である柏崎刈羽を持ち、動かすのは世論が許さない。柏崎刈羽は売却すべきという議論になる。

 買い手の候補として新潟がおひざ元である東北電力があがるだろうが、キャッシュがないので、国は日本原子力発電を使うと思われる。原電は(直下に活断層があるとされる)敦賀原発も、東海第二も稼働は難しい。原発なき原電が生き残る道は、オペレーションの会社という道だけだ。

 10年先になるかもしれないが、東京電力と東北電力が一緒になる可能性はある。北海道は地理的にそのままだろう。東北・東京、中部・北陸、中国・四国・九州という組み合わせが考えられる。関電、北海道、沖縄で計6電力になる。競争を突き詰めるとこうなると予測している。

 

電機業界、売却続く可能性 シティグループ証券・江沢厚太マネジングディレクター

江沢厚太(えざわ・こうた) 電機業界の証券アナリストを17年間務める(写真:竹井 俊晴)

 電機業界の全体像をみると、多くの企業が企業買収をする計画や予算を持っている。2019年、20年もM&Aが起きる可能性はかつてないほど高い状態が続くと思う。

 蓋然性や論理的には可能性があるという前提で考えると、買収に積極的と考えられるのは、まずNECだ。海外事業を拡大させる計画があるので、監視カメラやサイバーセキュリティ関連で何かが出てくると思う。パナソニックは、(BtoB事業の)コネクティッドソリューションズと、自動車分野は買収する可能性がある。どちらもソフトウエア会社が考えられる。

 東芝は上場連結子会社を完全子会社化する可能性がある。東芝テック、東芝プラントシステム、ニューフレアテクノロジーと西芝電機があるが、このうちいくつかを完全子会社にする可能性があると思う。

 東芝はメモリ事業を売却し、キャッシュはあるが業績の水準が低い。最終損益で安定して黒字を維持することを担保できない状況だ。連結子会社の少数株主持ち分を買い取ることで当期利益の増加が期待できる。

 売却側は結構たくさん候補がある。日立製作所はABBの送配電事業を買収するが、連結上場子会社をまだ持っている。親会社のコントロールがきかないので、最終的には長く続いた親子上場は完全な解消に向かうと思っている。

 ソニーはスマホ事業のうち海外の事業を売却する可能性がある。国内は黒字で海外は赤字だ。ソニーは通信の技術開発は社内で継続したい考えとみられ、一部の事業は残しておいた方が研究開発費を吸収してくれるのでメリットがあると考える。残すなら国内事業だろう。


キレる、スネる、自己中「モンスター部下」の猛威

2019年07月20日 17時39分33秒 | Weblog
河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学
健康社会学者(Ph.D.)
2019年7月16日
 
 

 知人が、またウツになった。これで3人目。いずれも40代後半の管理職の男性である。

 1990年代以降、管理職の死亡率が急増している実態は先日書いたが(「中間管理職がヤバい!死亡率急増と身代わり残業」)、40代のメンタル不全者は2010年以降、急増している(日本生産性本部の企業アンケート調査)。

 長時間労働、睡眠不足に加え、仕事の要求度の高さ、さらには時間切迫度などで、ストレスの雨にびしょぬれになってしまうのだ。

 が、今回のケースは、それ以外のストレス雲が豪雨を降らせた。
「ここまで自尊心が低下したのは初めて」と語る知人を苦しめたのは、部下。

 いわゆる“モンスター部下”だ。

 2014年12月に50代の静岡市職員の男性が自殺したのも、モンスター部下が原因の1つだった。

 男性は14年4月に市の外部機関に異動となり、計6人の部下を持ったが、部下から業務の指示を巡り「いいかげんにしろ」「うそを言わないでください」などと強い口調で叱責されていたと複数の職場関係者が証言している。

これまで職場のストレスのもとは上司だったが

 本人の手帳には「部下から逆パワハラを受けている。バトウやシッセキがあり、席にいてもおちついていられない」と書き残され、異動から約8カ月後の12月24日、職場で自殺するというショッキングな事態となってしまったのだ。

 遺族は「長時間労働と部下からのパワーハラスメント(逆パワハラ)」が原因として15年5月に、公務災害認定を申請。男性は1カ月で最長約82時間の時間外勤務をしており、「異常ともいえる職場環境で繰り返し叱責・罵倒され、精神疾患を発症させる強度の精神的負荷だった」と判断。19年6月、地方公務員災害補償基金静岡市支部は自殺を公務災害に認定したという。

 これまで職場のストレスを考える上で「最大のリスクは上司」だった。それを象徴するようにキャリア研究や職場組織研究は「上司との関係性」をフォーカスし、上司=パワーある存在としてあの手この手で上司の問題を扱ってきた歴史がある。

 が、今や組織内でパワーは上司にあっても、社会的にパワーを持つのは部下だ。
時代は以前にも増して「部下オリエンテッド」。飲み会に誘うだけでパワハラと言われ、その是非がSNSで飛び交うご時世である。

 

 厚生労働省が実施した2016年度パワハラ調査でも、「上司から部下」によるパワハラが76.9%と最も多いものの、「部下から上司」によるパワハラも1.4%報告されている。

 たった1.4%と思われるかもしれないが、実態はこれ以上に存在しているのではあるまいか。

 実際、冒頭の知人は「会社には部下のことは話していない」そうだ。

 現在彼は3カ月の休養を得て、「完全復帰とは言えないけど普通に仕事ができている」状態まで回復した。そこで今回は、彼がメンタル不全に至るまでの経緯を話してくれた内容から「モンスター部下」についてあれこれ考えてみようと思う。

 「海外展開の部署に異動になって出張も多かったし、月100時間残業当たり前になっていたのが、かなり疲弊していたことは確かです。

 でも、部下のことが一番しんどかった。もうね、いちいちムカつくんです」

自己中心的でビジネスマナーに欠ける部下

 お客さんにシワシワの資料を平気で出す。注意すると突然、幽体離脱したみたいに無表情になって聞こえないふりをする。自信家さんで自分の意見が通らないと感情的になる。社内評論家のように、偉そうなことばかり言う。

 自分がやりたくないことは絶対にやらない。どんなに突然の仕事が入って、周りが残業していても視界に入らないのか見向きもしないで、とっとと帰る。地味な仕事は「それ、なんの意味があるんですか?」とやたらと聞いてくる。

 そのくせ結構ナイーブで、すぐに自信喪失する。そのたびに周りが慰め、褒めなきゃならない。それをしないと貝になり、誰かに優しく声を掛けてもらえるまでスネ続ける」

 

「1つひとつのことは、大きな問題じゃないし、余裕があれば対処できることなのかもしれない。でも、毎日毎日こうしたミニ事件が起こるわけです。ついこっちもカッとなる。でも、そこで大きな声でも出そうもんなら、パワハラになってしまうから我慢するしかない。

 すると、次第に自分を責めるようになるんです。自分に能力がないんじゃないかって。消えてくれればいいのに、とか思うようになってしまってね。

 家でもストレスを引きずっていたみたいで、妻からあるとき病院に行った方がいいって言われたんです。自分でもなんか俺おかしいって自覚もあったから、妻のアドバイスを素直に聞くことができたし、医者にすぐに会社を休まないと、取り返しのつかないことになるって診断されたときは『これであいつらから逃れられる』ってホッとしました。

 でも、心身が回復していくのと並行して、自尊心が著しく低下するんです。部下を教育できない自分が嫌で嫌で。この先、部下を持つのが怖いというか、二度と持ちたくないのが本音です」

ストレスにはライフイベントとデイリーハッスルの2種類

 おそらくここまで読んだ人の中には、「これってただ単に、知人くんの方に部下マネジメントの能力がないのだよ」だの、「メンタル低下したのは長時間労働が問題であって、モンスター部下は関係ないんじゃない」だのと思われた人もいるかもしれない。

 だが、人間の感情は複雑に交差し、感情は割れる。だからこそしんどい。第三者の目には「大したことじゃない」と映っても、当事者にとっては土砂降りのストレス豪雨となったりもする。

 私たちが感じるストレスは、ライフイベントとデイリーハッスルという、2つのシーンに分けられ、前者は人生上で起こる節目の出来事で、転勤や異動、転職、結婚、離婚、あるいは大切な人の死などが相当する。想定していなかった突然の出来事であればあるほど衝撃が強く、誰にとってもストレスフルで、ダメージも大きい。そのため周りからの共感も得られやすい。

 一方、デイリーハッスルは、日常的に遭遇するイライラ事で、人間関係のもつれや悩み、仕事上の失敗、忙しさからくる不満や怒りなど、誰もが普通に生活していれば遭遇するストレスである。

 が、何がデイリーハッスルになるかは個人により異なり、ストレス対処力の高い人は、そもそもストレスに感じない、あるいはストレスと感じてもうまく対処できるので、個人の性格の問題や能力の問題にされがちなのだ。

 

 ストレス研究の専門家の中にも、「日常イライラしたり、悩んだりするのは、この世の中に生きていれば当たり前だ」として、デイリーハッスルをストレッサー(ストレスの原因)として扱わない人も少なくない。

 とはいえ、リアルの世界は学問じゃ語りきれない問題だらけで、デイリーハッスルの慢性化ほど、つらいことはないのである。

 とりわけ上司と部下の関係のように毎日顔を合わさなくてはならない、相手を避けることも逃げることもできない状況では、地獄の苦しみとなる。上司がリスクなら「そうそうその通り!」と満場一致の賛成票を集められても、部下の場合はそうはいかない。知人が言うように自責の念も強まるため、余計にタチが悪い。

 私は講演会などで大抵質疑応答の時間を設けるのだが、最近のトレンドはもっぱら「ゆとりモンスター部下」だ。

「ゆとり‥‥という言葉は禁句らしいのですが‥‥」
「ゆとり‥‥と呼ぶこと自体、パワハラらしいのですが‥‥」
「自分たちの時代もそうだったのかもしれないけど、やはりゆとりは‥‥」

 といった具合に相当に気遣った前置きをした上で、心情を吐露する。

少子化がコミュニケーション下手を助長した

 ゆとり世代=モンスター部下では決してなく、モンスター部下にゆとり世代が多いと感じられているだけなのだが(と、ここでも気を遣わなきゃならないわけでして)、仕事のアドバイスをすれば「上から目線」と批判され、ちょっとでも厳しく指導すると「パワハラ」って騒がれてしまう上司たちは、「新しきが良きこと」という極めて短絡的な価値観を最優先し、「評価されない」とまるで子供のように機嫌をそこねる「ゆとりモンスター」に手を焼いているのである。

 いったいなぜ、モンスター部下なんて言葉が生まれるような時代になってしまったのか?

 個人的には少子化、SNSによるコミュニケーションスタイルの違い、大学のキャリア教育が影響していると考えている。

 今の若者たちの多くは「一人っ子」だ。1970年代前後から30年以上、兄弟の数は2.2人前後で安定していたが、2005年で2.09人に減少し、2010年には1.96人とついに2人を割り込んだ。

 そういった少子化に加え「子供の個性を伸ばせ!」だの、「褒めて育てろ!」だのといった“英才教育本”が普及し、親たちの「子への期待」は加熱。昭和時代はお父さんの指定席だった家庭の“主役”を子供が取って代わり、親からチヤホヤされて育ったのが平成生まれの若者である。

 彼らは「今日、学校はどうだった?」「勉強は?」「お友達は?」などと常に、親が先回りし、気持ちを察してあれこれ言ってくれるから、ゼロから話を組み立てる必要がない。いつも「自分」を気にしてくれるオトナがいれば、「はい」「いいえ」だけでコミュニケーションは成立するし、「今日はこんなことがあって、誰々ちゃんがこんなことをやって、僕はあれをやって」とひたすら言いたいことを発信すれば、伝わったとか、わかったかな?とか案じる必要はゼロ。

 

 その結果、相手に伝えるための言葉を持たない、伝わったかどうかも気にならない子供が量産される。それは「受け止める力」の弱い子供が量産されることでもある。

 自分の伝えたいことを必死で伝える努力を経験して初めて、相手の言わんとしているメッセージを「受け止める力」が育まれるため、その経験がない若者には、そもそも上司の言っていることが伝わりづらい。

 さらに、SNSがメインのコミュニケーションツールとなり、顔と顔を突き合わせてのぶつかり合いが激減した。それはコミュニケーションの神髄が身体に染み込む経験の喪失である。

 Twitter、facebook、Instagram、YouTubeなどでは、いいねの数やツイートの数、フォロワーの数など他者評価が溢れるため他人の評価にも過敏になる。

 親にチヤホヤされて育ったのに、会社にチヤホヤしてくれる上司はいない。そのため余計に他者評価への関心が過剰になり、ささいなことで自信過剰になったり、自信喪失してしまったり。時には「本当の自分はこんなもんじゃない」という気持ちが、モンスターの芽になってしまうのだ。

 極め付きは大学のキャリア教育だ。ただ、この件については長くなるので簡単に要点だけを書くことにする。

 つまるところ、私はキャリア教育の必要性と重要性は重んじているが「自分に合った仕事を見つけましょう!」「自分の能力を発揮できるやりがいのある仕事を見つけましょう!」的教育は大反対。そういった誤ったキャリア教育が「自分のやりたいことしかやらない若者」を量産し、彼らの伸びしろを狭めているのではあるまいか。

モンスター化を防ぐには組織で腰を据えた教育を

 と、あれこれモンスター化の原因を書いてきたけど、モンスター部下を量産しないためには、彼らの教育には手間がかかるという共通理解のもと、彼らの力を生かす方法をとるしかない。

 具体的には、部下にチャレンジする機会を与え、役立つ情報をきちんと伝達し、彼らができている点、できていない点を客観的にフィードバックし、彼らの心を周りが支える仕組みが必要不可欠。「上司1人=点」に任せるのではなく、「組織=面」で彼らを教育する。

 繰り返すが、それはとてもとても手間がかかる作業だ。

 だが、いつの時代もそうであるように、上司や先輩の真摯な気持ちは必ずや部下の心に響く。時には上司や先輩が若いときの失敗した経験を話してあげれば、部下たちは「自分と同じなんだ」という気持ちになり安堵する。上司への共感が、部下たちのモンスター化を防ぎ、そのエネルギーを成長に転嫁させるのだ。

 学生や20代の社員と話をすると、彼らが本質的には私たちの若い頃となんら変わらないと感じたりもする。むしろ今の若い世代は、私たちが若い頃になかったような優しさを持っている。ボランティアに参加する腰の軽さ、人に役立ちたいという気持ち。さらには様々なITスキルや新しい世代ならではの価値観は「私」の学びにもなると思うのだ。

 そして、どうか会社は、モンスターが部下であるが故に、その苦しみを打ち明けられない上司たちを救う仕組みもきっちりと検討してほしい。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中の表記に誤りがありました。本文は修正済みです [2019/07/16 10:25]

 

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、 日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が 原因だった? “ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。 “ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。

 

 

キレる中高年に従業員が潰される!増えるカスハラ問題

 「カスハラ」問題が深刻化している。

 カスハラとは、カスタマーハラスメント。明確な定義はないが、「顧客や取引先からの自己中心的で理不尽かつ悪質なクレームや要求」のことで、先週ILO(国際労働機関)の定時総会で採択された「ハラスメント禁止条約」でも対象になっている。

 で、いつもどおり“遅ればせながら”ではあるが、厚労省もガイドラインの作成に乗り出す方針だそうだ。

 そんな中、民間の調査で「カスハラが最近3年間で増えた」と感じる人が6割近くいて、約7割がカスハラを経験していることがわかった。

 「カスハラの対応で、どんな影響があるか?」との問いには(複数回答)、「ストレスが増加」93.1%、「仕事の意欲が低下」82.1%、「体調不良」73.2% 、「退職」59.6%「休職」54.2"など、カスハラに対応した人に過剰な負担がかかることも明らかになっている。

 「せっかく大卒を積極的に採用して1年間コストをかけて育成しても、お客に潰されるんです。職業差別がひどくなってませんかね」

  つい先日タクシーに乗ったときも、運転手の方がこう嘆いていた。

 どう考えても「このコースしかないでしょ」というときでさえ、「ご希望のコースはございますか?」だの、「●●通りから△△に入る道でよろしいですか?」と聞いたり、「お話してもいいですか?」と断ってから雑談を始めたりするるのも、運転手さんによればすべてカスハラ対策だという。

若い社員が早々に辞める一因にも

 というわけで今回は、「カスハラ」についてアレコレ考えてみようと思う。

 「私も40年くらい運転手やってますけど、“普通のお客さん”に怒られるようになるなんて想像したこともなかったですよ。つい先日もね、『さっき確かめた金額と違う!』って怒りだしちゃって。

 こちらの都合で指定の場所を過ぎたときは、メーターを止めます。ほら、交差点とかで止められなかったり、危なかったりするときがあるでしょ。でも、その時は私が止まろうとしたら『もっと先まで行け!』って言われたんです。参りますよね。

 ホントね、大人しそうに見える人が突然怒りだすから、怖いですよ。
 まぁ、私くらいになれば、言われてもなんとか対処したり、あまりにひどいことを言われたら車止めて『会社に電話しますので』とか言ったりできるけど、若い人はそんなことはできない。

 だから、メンタルやられて辞めちゃうんです。会社はタクシー業界のイメージをよくしようと賃金上げたり、福利厚生充実させたり、いろいろやってるのに。お客さんに潰されちゃうんだもん。やってられないよね」

 

「え? どんなこと言われるのかって? まぁ、いろいろありますよ。

 ‥‥そうね、ほとんどは言葉の暴力だけど、あれは結構、あとからこたえるんですよね。トラウマっていうのかな。アホだの、ボケだの、すごい怒鳴り方されて。今の若い子たちはそんなに怒られた経験がないし、年上と話すのも下手。1回でもやられるとお客さんとコミュニケーション取れなくなって、完全に悪循環ですわ。

 特にね、理不尽なこと言うのは年配の男性に多いんです。命令口調でね。自分の運転手だと勘違いするんですかね。殴られたら、警察呼べばいいけど、言葉の暴力じゃあ通報もできませんから。いやな世の中になってしまいましたね」

 ‥‥せっかく育てた社員が辞めてしまうほど怒鳴り散らすとは。事態は想像以上に深刻である。しかも、年配の男性。ふむ、確かに。

 コンビニでアルバイトをしている学生が、意味不明の横暴な態度を取るのは、決まってダーク系のスーツをきちんと着たビジネスマンとぼやいていたことがあった。社会的に強い立場にいる人たちの特権意識が高まっている傾向は確かにあるのだと思う。

 だが、女性であれ、おばさんであれ、若者であれ、カスハラ加害者はいるし、今回は「どんな人が加害者になりやすい」ということがテーマではないので、「あくまでもこういう話を私が聞いた」というレベルにとどめておいていただきたい。

カスハラは心に深く長く傷を残す

 昨今のカスハラはエスカレートの一途をたどっていて、暴言や恫喝だけではなく、土下座を強要したり、SNSで広めるぞと脅しをかけたり、数時間にもわたりクレームを言い続けたり、賠償金を求めるケースも存在する。

 カスハラは介護の現場でも横行している。「介護職員への暴行、杖(つえ)を股に当てるセクハラも」に書いたとおり、利用者の家族からの迷惑行為も「カスハラ」である(以下、抜粋)。

・“挨拶ができていない”、“太っているナースは来るな”など、訪問する度に暴言をはく
・“おまえなんかクビにしてやる!”と激高。杖を振り回してたたこうとした
・料金請求時“カネカネばっかり言いやがって”“ボランティアって気持ちがないのか”と言われた。

 カスハラを受けた人が「10年以上前のことだが、思い出すだけで涙が出る」「言われるだけで何もできなかった」と告白しているように、心が引き裂かれるほどの深い傷を負うことになる。

 被害者の心情を慮れば「ガイドラインを作成する」などと悠長なことを言っている場合じゃない。早急になんらかの防止策に乗り出して欲しい。というか、これこそ「働き方改革」だと思うのだが・・・。

 

 いずれにせよ、運転手さんが“普通のお客さん”と表現したように、ひと昔前であれば、堅気の人はやらないようなクレームを、ごくごく普通の人が「お客様」の立場を利用して、従業員を追い詰めているというのだから困ったものである。

 が、これは裏を返せば、なんらかのスイッチが入った途端、誰もが「カスハラ加害者」になる可能性があるとも言える。人のふり見てわがふり直せ、ではないけど、自分や家族が加害者にならないよう気をつけねばならない。

 そもそも、この数年社会にまん延している「カネさえ払えば何をやっても許される」「客の要求を満足させるのは当然」という歪んだ“お客様”意識はどこから生まれたのか。
 個人的には大きく2つの要因が引き金になっていると考えている。

 まず、1つ目は「お客様第一主義」という理念の下、モノを作ることに専念してきたメーカーまでもが、「モノ」の付加価値を高めるために顧客サービスを強化し、競争に打ち勝とうとしたことである。

 その結果、本来であれば顧客サービスとは無縁の職業についた従業員にまで、顧客サービスが課せられ、それが従業員の資質の問題として処理されるようになった。

顧客の声とカスハラを明確に区別する企業は少ない

 例えば、システムエンジニア(SE)だ。
 数年前に行ったヒアリングでは(河合らの研究グループ)、多くのSEさんたちが顧客のところに出向いて要求を聞きながら作業を進める“サービス”を課せられていた。もともと「人と接するのが苦手だから、プログラマーの道を選んだ」という人が少なくないにもかかわらず、だ。

 システムの不具合の原因が顧客の側にある場合でも、途方もない要求を突きつけられる。「顧客が不機嫌というだけで、怒鳴られたり罵倒されたりした」と語る人たちもいた。

 企業側からすれば、現場で社員が耳にする「お客様のクレーム」は商品改善の大切な声かもしれない。だが、「大切な声」と「カスハラ」を明確に区別する企業は少ない。

 ただただ「お客様を満足させよう!」を合言葉に、ときにゲキを飛ばし、従業員たちに丸投げする。銃も防護服も身につけずに、丸裸で従業員は“危険なサバンナ”に放り出されているのだ。

 

 実際、冒頭で紹介した調査では、顧客対応マニュアルを作成している会社は31.4%だった。そのうち、カスハラに対応していないマニュアルが約4割で、全体の半数以上は「作成予定もない」という。

 で、ここからが2つ目の要因になるのだが、そもそもサービスとは“感情”を提供することであり、サービスを提供する労働は「感情労働(emotional labor)」と呼ばれ、それなりのスキルなくしてできるものではない。

 つまり、本来であれば従業員のサービスの教育や感情コントロールの訓練を行ったり、感情労働分の賃金を上乗せしたりするなど、お客様を満足させるためのコストが必要不可欠。付加価値を高めるためのサービスは、タダじゃないのだ。そんな認識もないままに、対人サービスを当たり前としていることが問題なのだ。

 2012年にスカイマークが、[スカイマーク・サービスコンセプト]という冊子を座席のシートポケットに入れ、顧客からのクレームで回収するという事態に至ったことがあった。

「感情労働」を切り分けてみせたスカイマーク

・荷物の収容はしない
・従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けていない
・安全管理のために時には厳しい口調で注意をすることもある
・メイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」
・服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレーカーの着用だけで、それ以外は「自由」
・客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なもの
・幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません
・地上係員の説明と異なる内容をお願いする際は、客室乗務員の指示に従うこと
・機内での苦情は一切受け付けません
・ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます
・ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします

 私はこの問題が発覚し、大バッシングが起きた時に、スカイマークを褒めた。「オ~、よくぞここまで言い切った!」と。このサービスコンセプトこそが搭乗料金の値下げにつながっているというロジックが成立するからである。

 [スカイマーク・サービスコンセプト]は、「我が社の飛行機に乗っているのは、客室乗務員ではなく、保安員です。ですから、他の航空会社さんとは違うのです」というお客さんへのメッセージであると同時に、「我が社はあなたたちに、乗客を感情的に満足させることを求めていない。あなたたちは、安全に乗客を届ける仕事に専念してください」という社員へのメッセージでもある。

 

 誤解のないように言っておくが、社会人の当たり前の振る舞いとして、お客さんに感謝したり、仕事をスムーズに進めるためにお客さんとコミュニケーションを取ったり、自分がお客さんを喜ばせたくてサービスすることと、「何が何でもお客さんを満足させる!」ことは別。

 お客様を「大切」に思って丁重に接することと、感情を売り払ってまでお客様を満足させることは、決して同じではないのである。

 「感情労働」は働く人の資質でも自主性に任せる問題でもない。「企業がコストを払う労働」である。「顧客を満足させるのは、タダじゃない」という当たり前を、一体どれだけの企業が理解しているのだろうか。

 企業は本当に「サービス」が最後の切り札なのか?を、きちんと考えた方がいい。

 その上で「『お客様を満足させる』ために我が社が従業員に求めるものは何か?」をとことん突き詰めてほしい。“顧客を満足させる”ことに疲弊しきって、しまいには金属疲労のように心がポキリと折れることがないように働く人を守ってほしい。

 これ以上、お客さんのモンスター化が進行しないためにも。

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、
日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が
原因だった?“ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。
“ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。

 

 


自民党本部が配布した「トンデモ野党」冊子を作成した黒幕は誰か

2019年07月20日 16時11分28秒 | Weblog

まぐまぐニュース!

2019.07.12 by

arata20190711

自民党本部が先月、所属議員に配布した冊子の内容が話題となっています。安倍首相を礼賛し自党に批判的なメディアや野党をひたすら叩く同冊子、ネットサイト「テラスプレス」掲載の記事をまとめたものとされますが、肝心のそのサイトの作成者が不明とあって、様々な憶測を呼ぶ事態に。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、映画『新聞記者』にも登場する内閣情報調査室が関係している可能性を指摘し、その根拠を記しています。

 

自民党本部が配布した冊子は何者が作成したのか

東都新聞の女性記者のもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた…安倍政権を思わせる疑惑を描いた政治サスペンス映画『新聞記者』が上映中だ。

映画の原案になったのは東京新聞社会部望月衣塑子記者の同名著書新聞記者』である。モリ・カケ問題が世間をにぎわしていたころ、社会部記者ながら菅官房長官の定例記者会見に乗り込み、“シャンシャン会見”の空気を破って、何度もしつこく菅長官に質問をぶつけていた望月記者について、当メルマガでも二度ほど取り上げた。思い出していただくために2017年6月15日の記事「怪文書はホンモノだった。強行採決後の出来すぎたタイミングで発表」のなかのワンシーンを再掲する。

加計学園の獣医学部新設をめぐる「総理のご意向文書の有無について、「確認できない」と言い張っていた松野文科大臣が、前川喜平前事務次官や現役官僚からの証言を受け「追加調査すると姿勢を転換した後の官房長官記者会見

 

望月記者 「公文書管理についての告発が相次いでいます。前川さんだけでなく複数の方の告発が出ています。もう一度真摯にお考えになって文書の公開、あるいは第三者による調査をお考えになりませんか」

 

菅官房長官 「わが国は法治国家ですから法律に基づいて適切に対応している」

 

望月記者 「匿名で出所がハッキリしない文書は調べないということですが、公益通報者保護法のガイドラインに匿名の通報についても可能な限り同様な取り扱いを行うとなっています。法治国家であればこのガイドラインに沿って文書があるかないかを真摯に政府の方で調べるべきではないですか」

 

望月記者は司会者の「同じ質問を繰り返さないで」「質問は簡潔に」という声にもひるまず続けた。官房長官の記者会見では異例なことだ。窮すると菅官房長官は同じ答えを繰り返す。

映画『新聞記者』や望月記者の著書に触発されたのか、米国でも菅官房長官のメディア対応を批判する声が出始めた。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、菅義偉官房長官が記者会見で東京新聞記者の質問に対する回答を拒むなど、そのメディア対応を指摘したうえで、「日本は憲法で報道の自由が記された現代的民主国家だ。それでも日本政府はときに独裁政権をほうふつとさせる振る舞いをしている」と批判した。
(朝日新聞デジタル2019年7月6日)

独裁政権をほうふつとさせる振る舞い」は、枚挙にいとまがない。気に入らない官僚には容赦なく人事で報復し、官僚はそれを恐れて官邸の意向に忍従する。政権に批判的なコメンテーターはテレビ番組から降板させるよう圧力をかける。秘密保護法や共謀罪の創設で自由、人権を脅かす…。

望月記者の著書は、真実を隠そうとする菅官房長官との記者会見でのせめぎ合いに重点がおかれているが、映画でクローズアップされているのは「内閣情報調査室」(内調)の存在だ。

内調は、公安警察、公安調査庁などと並ぶ情報機関だが、ありていに言えば、官邸内のスパイ組織”である。そのトップ、北村滋・内閣情報官は、かれこれ7年半もそのポストに在任し、何かと安倍首相に頼りにされている。

たとえば、“アベ友”ジャーナリストとして名をはせた山口敬之氏が、準強姦容疑で警察に逮捕されかけたさい、もみ消しの相談を引き受けていたのが北村氏だとされている。

安倍首相の親友が経営する加計学園の獣医学部新設疑惑をめぐり、重要な証言者、前川喜平氏が出会い系バーに出入りしていたと報じた読売新聞のネタモトは、前川氏の行動を以前からチェックしていた内調のリークであるらしいこともわかっている。

 

映画『新聞記者』では、職員たちがパソコンに向かう内閣情報調査室の場面がたびたび出てくる。政権の都合のいい情報を書き込み情報操作に励んでいるシーンだ。

 

こういうのを見ると、安倍政権の応援サイトのなかには内調がからんでいるものもあるのではないかと、つい想像してしまう。

 

昨今話題の「テラスプレス」もそうだ。このサイトに掲載されている記事をまとめた冊子が自民党本部から党所属国会議員の事務所に大量に配られている

冊子の標題は『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』。選挙演説用の参考書としての利用を勧めているらしい。

中身はというと、「トンデモ野党のご乱心」「フェイクこそが本流のメディア」「安倍政権の真実は?」の三章からなり、立憲民主党や共産党朝日新聞や東京新聞をこっぴどく叩く一方で安倍政権のやることなすことすべてを持ち上げている

 

記事はテラスプレスのものとほぼ同じであり、野党党首をバカにしたような顔漫画をそえて、一冊にまとめている。

TBS「ニュース23」の党首討論でこの冊子の件が取り上げられ、キャスターが「立憲民主枝野代表の無責任を嗤う」と書かれていることを示して考えを求めた時、安倍首相は「党本部でいろいろな冊子を配っていますが、いちいち見ていない」と断ったうえでこう言った。

無責任といえば無責任だと思いますよ。統一候補を選んでいるにもかかわらず、共産党は自衛隊違憲だと言い、立憲の枝野さんは合憲だといっている」。

いつもの話のすり替えだが、安倍首相のこの言いぶりから、冊子が配られていることはもちろん野党批判の中身についても知っていることがうかがえる。

ところで、「テラスプレス」なるサイトが奇妙なのは、その名で検索してもページが出てこないことだ。つまり運営者はアクセス数にまったく興味がないようなのである。その点では、映画に描かれたようなネットによる情報操作とは多少趣が異なる

運営主体や執筆者は不明だが、昨年7月以来150本近くも記事が投稿されており、内容は安倍応援団そのものであっても、文章は分かりやすい。いわば新聞記者が書いたような感じである。

他に、はっきりしていることがある。同じ自民党なのに、石破茂氏には敵対的なのだ。

このサイトへの投稿が始まったのは昨年7月13日ごろだが、8月6日の記事では、総裁選への出馬意向を固めた石破氏について、加計学園問題とからめ「獣医師の既得権益を守るために動いたと批判している。

総裁選を安倍氏が有利に戦えるように意図した記事であるのは明白だ。だから、口が裂けても自民党本部がからんでいるとは言えないだろう。

あえて運営主体をわからないようにし、当然、連絡もとれないようにしている。この奇怪なサイトの正体は何者なのか。

その点、総裁選で内閣情報調査室が安倍氏のために活動していたという情報があるのは、気になるところだ。

総裁選から遡ること5ヶ月前、内調スパイたちは石破氏に関する情報収集に動き出していた。
(今井良著『内閣情報調査室』より)

 

サイトの実質的運営者が誰であれ、官邸か党の安倍側近が何らかの形で関与していたと考えるほうが自然だ。スタート段階ではURLを知る特定の仲間内で情報を共有するためのサイトだったかもしれないが、記事が時系列的に増えるにつれ、選挙演説の参考資料としてうってつけになってきたのは確かだろう。

 

メディアの問い合わせに対し、自民党本部は「テラスプレスの許可を得て、参考資料として配布した」と説明している。テラスプレスとの関係については、次のように書面で回答したという。

 

「テラスプレスは、1年ほど前から広く一般にネット上で閲覧されており…説得力のある内容であることから、これらの記事をまとめた冊子があるということで、通常の政治活動の一環として、参考資料として配布したものであり、テラスプレスの運営等には関与しておりません」(ハフポスト日本版より)

そうだとすると、テラスプレスが冊子にして発行したものを、自民党が買い取ったか、無償でもらったことになる。党所属の国会議員の事務所に各20冊以上配っているらしいから、相当な部数だ。

だが結局、テラスプレスの運営、執筆者などについてはいっさい語らない。おかしな話だ。自民党のような大政党がまったく知らないところから選挙にかかわる大事な資料を受け取るはずがないではないか。

 

あくまで政権とは無関係の外部ネットメディアが存在する形にしその内容が自民党の主張に沿っているから使わせてもらったのだという装いに仕立てたとしか思えない。

ニュースサイト「BUZZAP!」によると、このアカウントの位置情報から、皇居国会議事堂首相官邸霞ヶ関官庁街自民党本部の周辺に発信源があるらしい。

万が一、政府機関である内調が、特定の政党の選挙対策に一役買っているとすれば大問題である。

前川喜平氏のスキャンダルでっち上げや山口敬之氏の事件もみ消しに動き、さながら安倍首相の私的秘密工作機関に成り下がっているように見える現況からは、残念ながら、その疑いを拭いきれないのではないか。

内調には情報操作世論工作部門があるとされている。新聞、出版、テレビ、ネットなどのメディアごとに分かれてマスコミ担当の特命班が存在するとも聞く。

職務の性質上、われわれ一般人がその活動内容を知ることはできず、すべては推測の域を出ないが、逆に言うなら、内調が何をやっていても不思議ではないということになる。

公私の別をわきまえない不心得な政治権力者と、その忖度に余念のない側近たちが、年に何億円もの調査費を使う秘密機関を、思うがままに操ることができるなら、これほど恐ろしいことはない。

この件について、官邸は何も語るはずがない。冊子を配布した自民党本部が唯一の手がかりだ。

 

自民党本部は、疑惑を晴らすためにも、「テラスプレス」の実体を明らかにするべきである。

image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

 

 

 

東京新聞 TOKYO Web

<参院選 くらしデモクラシー> 自民、物議醸す 演説参考資料

自民党が議員に配布した冊子

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 7月の参院選を前に、自民党本部が党所属の全国会議員に政治活動の「参考資料」として配布した冊子が物議を醸している。野党やメディアを厳しく非難するネット上のニュースサイトのコラムをまとめたものだが、サイトの運営組織や執筆者は不明。出どころ不明の無責任な言説に政権与党がお墨付きを与えている格好で、党内からもいぶかる声が出ている。 (小倉貞俊、宮尾幹成)

冊子に掲載された野党党首のイラスト

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 「フェイク情報が蝕(むしば)むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識」と題した冊子はA5判百四十二ページ。編集・発行は「テラスプレス」とあり、前書きによると、同名のインターネットサイトにアップした記事を掲載した。

 関係者によると、党本部が十一日、「報道では語られていない真実を伝える内容。参院選に向けた演説用資料として活用下さい」と記した文書とともに、各議員事務所に二十五部ずつ配った。十部ほどの事務所もあった。

 その直後から話題になり、同党の武井俊輔衆院議員もツイッターで「妙な本(中略)ひいきの引き倒しもいいところです。扱いに困ります」とコメント。

 党職員が事務所に直接届けに来たという自民党の若手議員の一人も「こんな荒唐無稽なもの、選挙には使えないよね」と戸惑いの表情。ページをめくりながら「ほとんど読んでない。このまま捨てるつもり」と話した。

 波紋を広げている内容は「トンデモ野党のご乱心」と題した野党批判、「フェイクこそが本流のメディア」とした新聞批判に、安倍政権をたたえる三部構成。野党党首らを下品に描いたイラストを添え、立憲民主党と国民民主党を「さもしい政党」、共産党を「壮大な虚偽」、社民党を「オワコン(終わったコンテンツ)」と攻撃。安倍政権に批判的な新聞は「事実をねじ曲げた報道」、沖縄・辺野古の米軍新基地建設を問う沖縄の地元紙も「視野狭窄(きょうさく)」などとおとしめる一方、「安倍首相に代わる政治家がいるとは思えない」などと首相を礼賛するコラムを列挙している。

 版元とするテラスプレスのサイトには運営者や所在地などの情報がなく、これらのコラムは誰が何のために発信しているかはまったく明かされていない。

安倍首相のイラスト=いずれも冊子より

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◆党内からも疑問「荒唐無稽、使えない」

 自民党本部は取材に、サイトの運営には「関与していない」と回答。「(サイトは)一年ほど前から、すでに広くネット上で閲覧されている。時々の時局テーマを分かりやすく具体的に数字を示しながら解説し、説得力のある内容」「これらの記事をまとめた冊子があるということで、通常の政治活動の一環として、参考資料として配布した」と説明した。冊子の入手の経緯や、費用などについては「答えられない」とした。

<沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)の話> 素性の分からないネット上の発信者の言説であり、いわば怪文書の類い。それに価値を見いだし、平然とお墨付きを与えるなど、政権与党として嘆かわしい。政党の通常の活動として度を越している。出所不明の言説を国民が受け入れると考えているのなら、問題だ。

<NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長でジャーナリストの立岩陽一郎さんの話> 政権への批判をフェイクニュースと決めつける姿勢は、米国トランプ大統領の手法さながらで問題。メディアへの信頼を失わせようとの態度が先鋭化している。メディアの役割が弱まれば、民主主義が危うくなる。

 
 

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2010年に東北大学の出澤真理教授のグループによってはじめて発見・報告されたミューズ細胞

2019年07月02日 11時46分19秒 | Weblog

 

http://www.stemcells.med.tohoku.ac.jp/common/files/dezawa_publication_201904.pdf

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20180306_01web.pdf

http://www.lsii.co.jp/pdf/20180903-1.pdf

細胞組織学分野 研究概要

生体に内在する新しいタイプの多能性幹細胞:Muse細胞

私たちの研究室では成人ヒトの間葉系組織に多様な細胞に分化する能力を有する新たなタイプの多能性幹細胞 Multilineage-differentiateing Stress Enduring (Muse)細胞を発見しました(Kuroda et al., 2010, PNAS;Wakao et al., 2011, PNAS; Kuroda et al., Nature Protocol, 2013)。
この細胞は

  • 骨髄、皮膚、脂肪などの間葉系組織にメインに存在し、また様々な臓器の結合組織にも内在する。市販の間葉系の培養細胞からも得られ、アクセスしやすい。
  • 1細胞から体中の様々なタイプの細胞に分化可能。自己複製能も有する。
  • そもそも体内に自然に存在する細胞であり、腫瘍化の危険が極めて低い。
  • すでに施行されている骨髄移植 (0.03%)や間葉系幹細胞移植 (~1%)の一部の細胞に相当し、安全性の実績がある。
  • 線維芽細胞と同程度の増殖力を持つ。

などの特徴を有します。

一般に体性幹細胞(組織幹細胞とも言う)は、その幹細胞の存在する組織を構成する細胞群を分化させることの出来る細胞と考えられております。例えば神経幹細胞であれば神経とグリアが、造血幹細胞では血球系の細胞が作られるのがその例です。しかし間葉系幹細胞では骨、軟骨、脂肪などの間葉系細胞の他に、神経(外胚葉)、肝細胞(内胚葉)など胚葉を超えた分化が報告されてきました。このことから間葉系幹細胞には多能性の細胞が内在するのではないかと議論されてきましたが、間葉系幹細胞はもともと均質な細胞によって構成されているわけではなく、複数種の接着性細胞の集団ですので、仮に多能性幹細胞が存在するとして、その実態はどのような細胞なのか、ということが長らく議論となっていました。

当教室では成人ヒトの皮膚や骨髄などの間葉系組織から多能性幹細胞を同定することに成功し、この細胞をMuse細胞と命名しました(Kuroda et al., 2010, PNAS)。Muse細胞は1細胞から3胚葉性の細胞に分化可能で、またストレス耐性能、多能性幹細胞マーカーの発現、自己複製能などを有します。そもそも生体に存在することからも腫瘍性増殖を示さないという大きな利点があります。間葉系幹細胞と多能性幹細胞の両方の特徴を備えており、間葉系マーカーCD105とヒトES細胞マーカーSSEA-3の二重陽性細胞として組織や間葉系の培養細胞から単離可能です。

多能性を備えながら腫瘍性が無いので再生医療への応用が期待されているわけですが、Muse細胞の持つ最大の利点は

  • 誘導もせずそのまま血中に投与するだけで組織修復をもたらす。

ということです。すなわち

  • 腫瘍を作らないという安全面だけでなく、分化誘導もせずにそのまま生体内に投与するだけで組織修復細胞として働く簡便性にある。

ということです。例えばES細胞やiPS細胞を再生医療に用いる場合には、目的とする細胞に分化誘導し、さらに腫瘍化の危険を持つ未分化な細胞を除去するという2つの要件が前提となります。しかしMuse細胞の場合、採取してきて体内に投与すれば障害部位を認識し、そこに生着して組織に応じた細胞に自発的に分化します。ですからCell Processing Center (CPC)での分化誘導などの操作を必ずしも前提とはしません。さらにMuse細胞の母集団となる間葉系幹細胞は現在世界中で数多くの臨床試験が展開されており安全性が担保されています。従ってMuse細胞以外の間葉系細胞が残存したとしても腫瘍化の危険は極めて低く、再生医療への応用が現実的であると考えられます。

現在、我々の研究室では

  • Muse細胞の発生学的な起源
  • 生体内での機能とMuse細胞動態の制御因子の開発
  • microRNA発現系の制御
  • Muse細胞の増殖能の制御因子
  • 組織間Muse細胞の比較検討

などの基礎的研究だけでなく、心筋梗塞、肝疾患、脳梗塞、神経損傷、糖尿病、感覚器障害などの多様な疾患をターゲットとした再生医療への応用に向けて国内外で研究を展開しております。

Muse細胞由来のクラスター/ES細胞由来の胚葉体

中枢神経系に存在する神経前駆細胞の探索

中枢神経系には多種の神経前駆細胞が存在すると考えられています。代表的な例が神経幹細胞ですが、神経幹細胞以外の前駆細胞の生体内での動態はあまり研究がされていません。こうした観点から、神経幹細胞の存在が同定されている脳室下帯や海馬以外の部位に注目し研究を行い、脈絡叢および第3脳室、脊髄中心管周囲の上衣細胞が、神経前駆細胞としての活性を有することを明らかとしてきました。現在、それら前駆細胞の正常および損傷時における性質や動態について解析を行い、発生・再生過程における動態の分子機構の解明を目指し研究を進めています。これらの知見を集積し、真の目的である内在性神経前駆細胞の賦活化による神経疾患治療法の開発につなげたいと考えています。

研究に関する詳細は下記までお問合せください。
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町2-1
東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野
教授 出澤真理
FAX:022-717-8030
 
 
メールアドレスは「*」を「@」に変換してください。
出澤 真理

出澤 真理

細胞組織学分野
教授
mdezawa*med.tohoku.ac.jp
若尾 昌平

若尾 昌平

細胞組織学分野
講師
wakao*med.tohoku.ac.jp
串田 良祐

串田 良祐

細胞組織学分野
助教
y-kushida*med.tohoku.ac.jp
黒田 康勝

黒田 康勝

細胞組織学分野
助教
y-kuroda*med.tohoku.ac.jp
廣原 ゆかり

廣原 ゆかり

細胞組織学分野
研究員
y-hirohara*med.tohoku.ac.jp
李 根

李 根

細胞組織学分野
大学院生 D4
li.gen.t6*dc.tohoku.ac.jp
山口 理奈

山口 理奈

細胞組織学分野
大学院生 D3
r-yamaguchi*med.tohoku.ac.jp
アダム マテヨビッチ

アダム マテヨビッチ

細胞組織学分野
大学院生 D2
a.matejovic*gmail.com
ハーリド ハタビー

ハーリド ハタビー

細胞組織学分野
大学院生 D1
hatabi.khaled.s4*dc.tohoku.ac.jp
大川 香奈

大川 香奈

細胞組織学分野
大学院生 M1
kokawa*med.tohoku.ac.jp
菖野 佳浩

菖野 佳浩

大学院生(先進外科学分野 D4)
shono*med.tohoku.ac.jp
鷹谷 紘樹

鷹谷 紘樹

大学院生(心臓血管外科 D4)
takaya*med.tohoku.ac.jp
海野 裕一郎

海野 裕一郎

大学院生(肝胆膵外科 D3)
yumino68*surg.med.tohoku.ac.jp
高橋 誠

高橋 誠

大学院生(心臓血管外科 D3)
makoto.t*med.tohoku.ac.jp
南方 邦彦

南方 邦彦

特別研究学生(和歌山県医大)
kunihikominakata1178*gmail.com
梶原 千絵

梶原 千絵

細胞組織学分野
技術補佐員
c-kajiwara*med.tohoku.ac.jp
佐藤 美菜香

佐藤 美菜香

細胞組織学分野
技術補佐員
m.sato*med.tohoku.ac.jp
佐々木百合香

佐々木 百合香

細胞組織学分野
技術補佐員
yurika.sasaki.d8*tohoku.ac.jp
屋代智恵

屋代 智恵

細胞組織学分野
技術補佐員
t-yashiro*med.tohoku.ac.jp

TPP交渉の焦点「ISD条項」 海外投資トラブル回避 2013年3月1日

2019年05月31日 19時43分14秒 | Weblog

東京新聞 TOKYO Web

2013年3月1日

 
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 安倍政権が近く参加表明するTPP(環太平洋連携協定)は「ヒト・モノ・カネ」の行き来を活発にするため、関税の引き下げに加えて企業の投資や知的財産の保護などのルールづくりも協議している。中でも参加国の交渉では「ISD条項」の扱いが焦点となっていて、日本国内でも注目度が高まっている。どんな仕組みなのか。 (岸本拓也)

 Q ISD条項って何。

 A 英語の「Investor(投資家) State(国家) Dispute(紛争) Settlement(解決)」の頭文字の略称で、「国家と投資家の間の紛争解決」という意味になる。要するに企業などの投資家を保護するためのルールだ。

 具体的には外国企業が投資先の国の対応によって損害を受けた場合、国連の仲裁機関などを通じてその国を訴えることができる。

 制度が利用されるケースで想定されるのは、日本企業が新興国で建てた工場などに対し、その国が急に法律を変えて没収(国有化)する場合など。企業はその国に対し賠償金を求めることができる。

 Q 外資企業が差別されないための仕組みなのかな。

 A ISDがないと企業は投資先の国で不利益を被っても「泣き寝入り」の恐れがある。だから日本が経済連携協定(EPA)や投資協定を結んだ二十四カ国との間にはISDがある。例外はフィリピンとのEPAだけだ。これまで日本政府が訴えられた例はないが、世界各国での訴訟件数は二〇一一年末時点で四百五十件に上る。

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 Q そのISDが、なぜTPPでは問題視されるの。

 A 訴訟大国の米国の存在が大きい。日本の「TPP反対派」は「米国企業が、日本政府を次々と訴えるのでは」と心配している。「訴訟乱発によって日本独自の厳しい環境規制や食品安全規制が脅かされる」との見方もあり、ISDを「米国の毒まんじゅう」と批判する有識者もいるよ。

 Q 心配しすぎでは。

 A 「反対派」は米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を結ぶカナダ、メキシコの例を挙げている。これまでにISDを使って四十六件の提訴があったが三十件が米国企業が原告。中には米国企業がカナダとメキシコから多額の賠償金を勝ち取った例がいくつかあった。逆に米国政府が負けた訴訟はなく「ISDは米国優位」と指摘されている。ただ、米国企業の敗訴は十一件あり一概に米国有利の仕組みとも言えない。

 Q TPPでのISDの交渉はどうなっているの。

 A 豪州はTPPにISDを盛り込むことに反対しまだ決着していない。安倍晋三首相は「国の主権を損なうようなISDは合意しない」と主張しているが、日本が交渉に参加した場合、主張がどこまで通るかは見通せないのが現実だ。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2013030102000124.html

 

 

 
 
 

TPP 隠された真実 第1回「多国籍企業の企てを許さない」内田聖子

 
https://www.youtube.com/watch?v=pCKZbzKjo8s
 
 
 

TPP 隠された真実 第2回「ISDS条項という毒薬」孫崎享

https://youtu.be/p9i0Wy1kc8I

 

 

 

「国の主権を損なうような ISDS 条項」になっていないか

http://www.nohken.net/isoda1212.pdf

 

 

 

 

世界を支配するグローバルな裁判所の秘密 BuzzFeedの調査報道で明らかに

https://www.buzzfeed.com/jp/chrishamby/super-court-jp

 

 

 

ISDS条項って何だ - 京都府職員労働組合

http://www.k-fusyoku.jp/merumaga/16melmaga/tppix/5.6gatu/ins.html

 

 

https://www.cas.go.jp/jp/tpp/q&a.html

https://www.cas.go.jp/jp/tpp/qanda/pdf/170601_tpp_qanda_hayawakari.pdf

 


中国の遠吠え。「元号は中国の影響」が大嘘であるこれだけの証拠

2019年04月05日 01時30分32秒 | Weblog
まぐまぐニュース!
まぐまぐニュース!
第一線の専門家たちがニッポンに「なぜ?」を問いかける
 
2019.04.04
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4月1日、新元号を各国に一斉通知した日本政府。もちろんその中に台湾も含まれていたわけですが、中国は快しとしなかったようです。伝えられているように「令和」の出典は国書である万葉集なのですが、早速「万葉集は中国の影響を受けている」と横やり。これを受けた台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、現在中国で使われている漢語の7割近くが日本生まれのもので、「日本の影響を消し去ることができないのは中国」としています。

 

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年4月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【日本】新元号を台湾に通知した日本に対し、中国は「中国の影響から逃れられない」

日本の対台湾窓口機関、新元号を駐日代表処に通知=外交部

 

4月1日、新しい元号が「令和」に決定しました。早くも「令和」をモチーフにしたお菓子やTシャツ、歌まで登場するなど、日本では大フィーバーが起こっています。また、諸外国でも元号決定について大きく報じられているようです。

日本政府は新元号について一斉に各国に通知しましたが、一部の台湾メディアでは、日本が承認する195カ国に台湾は含まれないため台湾には通知されないと報じていました。しかし、台湾外交部は、日本の新元号が日本の対台湾窓口機関である日本台湾交流協会から台北駐日経済文化代表処大使館に相当に通知されたと発表しました。

「自由時報」によると、台湾側に通知されたのは台湾時間で10時45分つまり日本では11時45分であり菅官房長官が新元号を発表した時間とほぼ同じです。日本は即座に台湾にも通知していたわけです。しかも通知内容も各国と完全に一致しており、日本政府は台湾を他国と分け隔てなく接していたことがわかります。

打臉假新聞!日本同歩通知台灣新年號 日網友讚:台灣是國家

このことを知った日本のネット民からは、「台湾にも告知されて嬉しい」「台湾は独立国家だ」「台湾の皆さん、平成時代のご厚誼を感謝しています。日台の互助関係が続きますように」といったメッセージが次々と発されました。

もちろん面白くないのは中国です。しかも、新元号はこれまでの中国の漢籍ではなく、初めて万葉集という国書から取られたわけです。

中国共産党系の「環球時報」は当初、新元号が万葉集から取られたことについて、「初めての脱中国」と速報しました。しかし、午後になって「万葉集は中国の古典文学の影響を受けている」ということで、「『令和』は中国の影響を消し去ることができない」と記事の内容を修正しました。

新元号「令和」 中国メディアが報道内容を修正

 

いかにも中国は「いまだ日本は中国の影響下にある」ことを強調しようとしているわけで、非常に滑稽です。いわゆる「中国のおかげ論」であり、文化すべてを中国が日本に下賜したというフィクションを語り、新たな「天朝朝貢冊封体制」を構築しようとしているわけです。また、日本政府が台湾に通知したことも中国は気に食わないのでしょう。「日本は勝手に台湾に新元号を通知したけれど、その元号は中国のお陰で生まれたものだ」と釘を刺したわけです。

 

たしかに漢字は中国から入りましたが、日本では音読み・訓読みに分け、さらに仮名を創出して独自の使用法を展開してきました。9~11世紀ごろは、アジア諸国で独自の文字を創作することがブームになり、日本では仮名がつくられて、国風文化が花開きました。要するに、中国離れの末に独自文化が隆盛したわけです。894年に遣唐使が廃止になったのも無関係ではありません

 

新元号の「令和」は、8世紀前半に大宰府の大友旅人の邸宅で開かれた「梅花の宴」で詠まれた32首の歌の序文から取られたものです。大宰府といえば、京の都から左遷された菅原道真(845~903年)が祀られている太宰府天満宮が同地のシンボルとなっています。

道真は京の邸宅の梅の花を非常に大切にしていて、太宰府赴任にあたり「東風(こち)吹かば にほひをこせよ 梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ(忘れるな)」という歌を呼んでいます。そして、道真によって可愛がられていた梅の木は、大宰府に赴任した道真を慕って、京の邸宅から梅が飛んで来たという「飛梅」が有名です。

そして、894年に遣唐使を廃止したのはまさに菅原道真であり中国からの影響を排除したわけです。そのような由来からすると、漢籍ではなく、万葉集から「令和」という新元号が生まれたのも、ある意味で歴史的転換なのかもしれません。

 

とはいえ、漢字については、多くの人が勘違いしています。確かに中国からもたらされたものですが、その表現の創造性には限界があり、約10世紀の唐末には、造語力のみならず拡散力も衰えました

その結果、日本の仮名文字創出のように、アジア諸国で独自の文字創出が進み、東南アジアを中心に、インドサンスクリット系の表音文字だけでも60前後が創出されています。

 

漢の天下崩壊によって、中華文化史は歴史の没落を迎えました。10世紀以後の文字史からすると、仮名文字が主役となったわけです。

また、現在の中国で使われる漢語にしても、近代用語の7割近くが和製漢語となりました。加えて、中華人民共和国の憲法は75%以上も和製漢語が使われています。中国では和製漢語を「新辞・新語」と称していますが、科学、哲学、経済、革命から、共産主義、共和国などに至るまで、日本人が西洋の言葉を漢語に翻訳したものであり、現代中国もこの用語なしでは近代の概念を説明できないのです。

 

中国政府が日本の新元号制定にあたり「中国の影響を消し去ることはできない」というなら、今年で建国70周年を迎える「中華人民共和国の名称こそ日本の影響を消し去ることができない」ものであり、「中国共産党」にしてもそれは同様なのです。

今や元号を使っている国は日本のみですが、それは「万世一系が続いているからです。宋の太宗は日本からの留学僧・奝然に謁見し、日本では皇統が途切れずに続いていることを知って驚き、「これ蓋(けだ)し古の道なり」「これ朕の心なり」と羨ましがりました。

ちなみに元号の歴史ですが、東洋史の大家、宮崎市定博士の説によれば、それは漢の武帝からであり、秦始皇帝の天下統一からではなかったそうです。そのため、真の中国統一は漢の武帝だと宮崎博士は説いていますが、私もそれに賛成します。

 

中国の制度は秦から始まったものが多いですが、秦はわずか3世で滅びてしまい、万世一系はできなかったのです。漢の時代に王莽が「新」という王朝をつくり、孔子が理想としたユートピアをつくろうとしましたが、これも一代で滅びました。

日本の最初の元号は「大化」ですが、独自の元号をつくったのは、日本が中華王朝とは別の存在であることを示すためであり、その意義は非常に大きいのです。

易姓革命によって王朝がころころ代わった中国では不可能だったことを、日本では現在に至るまで続けているわけです。こうして考えると日本が「中国の影響下」にあるどころか、中国が日本を羨み続けていることがわかります。

清末の戊戌維新にしても、明治維新をモデルに行おうとしたものですし、孫文を始めとする革命の志士も、日本からの多大の援助があったことはよく知られています。中華人民共和国になってからも、日本からの巨額のODAが中国の近代化経済大国化を支えました

まさに近代中国は日本がつくった」と言っていいほどなのです。中国が自慢する高速鉄道からして、日本の新幹線の技術提供をそのまま「自国の独自技術だとパクっているわけです。

 

そもそも中国は地名を国名にし、他国に「中国」の使用を禁止しました。日本に対しても中国地方などの名称を変更するようにクレームをつけてきたことがありました。それは「中国という表記の独占を狙ったからです。黄河流域の中原で王朝が樹立されるたびに、それらの王朝は「中国」を自称してきました。

 

アメリカ政府は最近、「台湾旅行法」「国防権限法」のみならず、北京にある大使館の土地面積の10倍以上、99年の土地租借契約で台湾にAIT米国在台湾協会を設置しました。

 

日本政府も2017年の1月早々に、日本の駐台湾の外交機構である「交流協会」を「日本台湾交流協会」に名称変更しました。

台湾が対日機関の名称変更、中国が「強烈な不満」

「台北駐日経済文化代表処」の名称も、「台北ではなく台湾に早く変更すべきであり、日台の有志に働きかけていくことが必要でしょう。そのことにもどかしさを感じている台湾人も少なくありません。

 

もしアメリカが突如として台湾を国家承認した場合、日本はどうするでしょうか。また、もし中国軍が台湾を占領して太平洋進出の基地とした場合、日本のシーラインはどうなるでしょうか。

いまだ代表処の名称が「台北」のままなのは、外務省のチャイナスクールの妨害があるのか、または総理府に問題があるのかはわかりません。しかし、「令和」を他国同様に台湾に告知したということで、日本の姿勢が確実に変わってきたことを信じたいと思います。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年4月2日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込648円)。

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2019年3月配信分

  • なぜ中国は経済減速でも軍事・治安維持費の増大が不可避なのか/社会主義の中国で愛人文化が流行る理由(3/5)
  • 蔡英文「日本との安全保障対話を進めたい」日米台印連携で中国は軍拡で潰れる(3/12)
  • ひまわり学生運動から5年、台湾・香港・ウイグルで起きた大きな差/米中貿易戦争以後の日本・中国・台湾の未来(3/20)
  • 中国への警戒感高まる欧州、それでもカネで歓心を買う中国/美談をでっち上げても誰も信じない中国(3/26)

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2019年2月配信分

  • 中国で最先端科学が発展する恐ろしい理由/外国を知っても中国人は中国を変えられない(2/6)
  • 「日本に国王を奪われた」と嘘の歴史で天皇侮辱を正当化する韓国/国民監視と同化政策の中国は確かに「人類の恥」(2/12)
  • 中国でまたもや発覚した日本人拘束(2/20)
  • 中国が喜び、台湾に懸念が広がった沖縄県民投票/習近平の失態で支持率回復した蔡英文と台湾の行方(2/26)

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2019年1月配信分

  • 武帝時代に広がった貧富の格差(1/1)
  • 文在寅政権と対決することは必然だった日本/「一国二制度」を台湾が受け入れられない理由(1/8)
  • 中国が世界一の科学国となることは人類の不幸/「日本語世代」が減少しても台湾人の日本好きは変わらない(1/16)
  • GDP成長率低迷、動揺から強気に振る舞う中国(1/22)
  • 中国は歴史的に「人質外交」の国/台湾政界の風雲児「フレディ・リム」の描く台湾の未来(1/29)

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2018年12月配信分

  • 中南米で行われている米中の代理戦争(12/5)
  • 欧米で進む中国企業排除、アリペイと組むpaypayは本当に大丈夫か/スポーツですら侵略主義をむき出しにする中国(12/11)
  • 世界の分断が進む中で中国の独善が明らかになった1年/統一地方選挙から読む2020年の台湾とアジア情勢(12/18)
  • レーダー照射は「ムクゲの花を咲かせたい」韓国の野心を表している(12/25)
  • 【年末特別号】中国の嘘がばれた2018年(12/30)

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中国は覇権国家になれず。世界的経済学者が予言する習政権の末路

2019.04.04
67
 

世界的な経済減速懸念の広がる2019年は、世界覇権を競う米中にとって改めて重要な年となりそうです。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、通貨ユーロの創設に深く関わったことでも知られる著名経済学者の言葉をひきながら、2大覇権国家のうち中国が近い将来に、国として大変革を迎えることが避けられない理由を解説しています。

 

ジャック・アタリ、中国は覇権国家になれるか?

皆さん、ジャック・アタリさんをご存知でしょうか?フランスの著名な経済学者です。ミッテラン大統領の側近。1981年から91年まで大統領補佐官をつとめた。その後、欧州復興開発銀行の総裁をされていました。

この方、何が有名かというと、「EUを東欧やトルコに拡大し、共通通貨ユーロをつくれば、欧州は、アメリカに匹敵する超大国になれる」といった。

アメリカとソ連の時代が来る前、欧州は約400年にわたって世界の中心でした。ところが、第1次大戦、第2次大戦で、没落した。世界の中心は、欧州人が「田舎者」「野蛮人」と考えるアメリカロシア(ソ連)に移った

 

1991年12月、ソ連が崩壊した。世界から欧州の脅威は消滅し、アメリカの保護も必要なくなった。それで、アタリさんは、「もう一度欧州が覇権を握るチャンスが到来した!」と考えた。しかし、イギリス一国、フランス一国、ドイツ一国で覇権をとるのは難しい。だったら、西欧東欧を一つにしてドルに匹敵する共通通貨をつくればアメリカに対抗できる。そんな風に、彼は考えたのです。そして、EUは東欧を飲み込み、ユーロができ、リーマンショック前、ものすごい「ドル離れトレンド」が起きていました。

 

ジャック・アタリさんというのは、とても影響力のある人なのです(大昔に活躍していたので、もう90歳ぐらいだと思っていたのですが、まだ73歳だそうです)。そんなアタリさん、中国の未来についてどう考えているのでしょうか

歴史が示す中国独裁の末路

プレジデントオンライン3月28日から転載します。

 

【アタリ】しかし私は、中国のポテンシャルを過剰に評価してはいけないと思っています。第1の理由は、中国人の生活水準がアメリカ人の生活水準の15%にも満たないこと。西欧人や日本人に比べても、中国人の生活水準はかなり低い。この先も、低いままでいくと思います。金持ちになってから人口が減少し始めた日本と比べればよくわかりますが、中国は人民が豊かにならないうちに人口減少社会に突入したからです。

皆さんご存知のように、中国のGDPは世界2位です。しかし、国民の豊かさを表す一人当たりGDPはどうでしょうか?IMFによるとアメリカは2017年、世界8位で5万9,792ドル。日本は同年、3万8,448ドルで世界25位。中国は、8,643ドルで世界74位。つまり、中国の一人当たりGDPは、アメリカの約7分の1。日本の4.4分の1。

もちろん、中国はこれからも少しずつ順位をあげていくでしょう。しかし、この国のGDP成長率は、年々鈍化しています。成長期が終わりに近づいている中国は、もはや高成長できない。日本よりはるかにひどい少子化問題が起こる一人っ子政策の反動)。

人民が豊かにならないために内需が拡大しなければ、これから先の経済成長も大いなる輸出で賄っていくしかありません。これはそう簡単ではないというのが、第2の理由です。
(同上)

国民が貧しくて内需が拡大しない。それで、成長は、輸出で賄う。そうはいっても中国の価格競争力はもはやなくなっています。中国国民は、全体で見るといまだ貧しい。その一方で、人件費は、外国企業から見ると魅力がないほどあがっている。それで、日本企業も、中国からベトナム、インドネシアなどに生産拠点を移しています。これから中国が輸出を激増させることは難しいでしょう。

 

2つ目は、独裁であること。習近平主席は憲法を改正して、国家主席の任期を撤廃しました。共産党の指導部がどれほど優秀だとしても、やはり全体主義的な体制には脆弱な部分があります。独裁の中に市場経済を取り入れていくとブルジョワジーが台頭して、結果的に独裁を追い詰めることは、今までの歴史が示してきた通りです。10年後か20年後か、あるいは50年後なのかもしれませんが、独裁体制が続かないことを中国の指導者は、完璧にわかっているはずです。
(同上)

同感です。

独裁は、意志決定が迅速だという長所はあります。その一方で、「政権交代のシステムがないのは致命的。民主主義国家、たとえば日本であれば、自民党がおかしくなれば、「民主党に試しにやらせてみようか」となる。その結果さらにひどくなったので、「やっぱり自民党にもどそう」となる。その時、自民党は、「もう少し真面目にやろう」となるでしょう。このプロセスは、選挙によって革命なしで行われます。

 

しかし、中国では、こういうことができない。国家主席の任期を撤廃した習近平を倒すためには、党内でクーデターを起こす?共産党政権を交代させるためには革命しかない。これ、脆弱ですね。

一党独裁ソ連は崩壊したが…

【アタリ】これからの中国には、どういった社会モデルがつくられていくのか。独裁モデルは長続きするのか、一種の革命のようなことが起こりうるのか、体制への反逆者が出てくるのか。ソ連の体制は1世紀は続くだろうと誰もが信じていたのに崩壊したわけですからね。

 

私は、中国人の心理をあまりよく知りません。車やマンションさえ手に入れば自由がなくてもいいと諦められるのか、物質的な豊かさだけでは満足できなくなるのかどうか。しかしパンだけでは満足できなくなってペンを欲する日が、必ずくると確信しています。
(同上)

私もそう思います。これは、「きれいごと」に聞こえるかもしれませんが。「自由」というのは大事です。自分で自分の人生を決めることができる自由。いいたいことをいっても捕まらない自由。一度体験したら、元には戻れないですね。

 

今、欧米に留学していた中国人たちが、大挙して中国に戻っています。一度自由な空気を吸った彼らが中国で自由を抑圧されて生きていけるとは思いません。

 

中国、共産党の一党独裁。そんなに長くは続かないでしょう。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

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金子勝氏(立教大学特任教授)スピーチ『嘘つきが国を滅ぼす

2019年03月20日 16時33分01秒 | Weblog

【設楽ダムより緑のダム】 政権交代は市民と野党の本気の共闘で実現 全国の知事を 脱ダム 脱原発 護憲知事に

戦争法廃止運動の再結集を呼び掛けます! 参議院議員定数248 2019年選挙で過半数125以上 知事選挙も野党共闘実現

金子勝氏(立教大学特任教授)スピーチ『嘘つきが国を滅ぼす 公文書と政府統計の改ざん問題の本質』「安倍政治を終わらせよう!2.19院内集会」 2.19 参議院議員会館講堂 動画

2019-02-28 21:29:35 | YouTube

金子勝氏(立教大学特任教授)スピーチ『嘘つきが国を滅ぼす 公文書と政府統計の改ざん問題の本質』「安倍政治を終わらせよう!2.19院内集会」2019.2.19 @参議院議員会館講堂

2019/02/19 に公開
2019/02/19 17:00から参議院議員会館講堂に於いて「戦争をさせない1000人委員会」と「立憲フォーラム」の共催により行われた[安倍政治を終わらせよう!2.19院内集会]での金子勝氏(立教大学大学院特任教授)による講演『嘘つきが国を滅ぼす 公文書と政府統計の改ざん問題の本質』の様子です。

【関連過去動画】
■金子勝氏(立教大学大学院特任教授) スピーチ「安倍政権は退陣を!あたりまえの政治を市民の手で!0414国会前大行動」2018.4.14 @国会正門前
https://youtu.be/2bNgxRT6tTU
■金子勝氏 スピーチ「未来のための公共:共謀罪法案に反対する金曜国会前抗議行動」2017.6.10 @国会正門前
https://youtu.be/Sg3iqPSWC_E
■金子勝氏 スピーチ[戦争法案廃案!9.18国会正門前大集会]2015.9.18 @国会正門前
https://www.youtube.com/watch?v=sIV6L...
■金子勝氏 スピーチ + コール SEALDs【戦争法案に反対する国会前抗議行動】2015.7.31 @国会正門前
https://www.youtube.com/watch?v=afZ74...


拝啓、安倍晋三様。「本当に中国の脅威を理解されていますか?」

2019年02月26日 19時04分09秒 | Weblog
 

2月6日、献金制度を利用し政府へ浸透工作を働いたとされる中国人実業家の永住権を剝脱し、毅然とした中国への対応を世界へ示した豪当局。翻って日本を見ると、中国へのすり寄りとも取れる政財界の動きが目に付きます。今回、AJCN Inc.代表で公益財団法人モラロジー研究所研究員の山岡鉄秀さんは無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』で、この時期に「中国友好」を進める我が国の政策を大いに懸念する理由を、安倍首相宛ての書簡を紹介する形で詳細に記しています。

 

安倍首相への手紙―総理の真意はどこに?

最近、安倍首相に近い方にお会いする度に、「総理は本当に中国の脅威を理解されていらっしゃいますか?」と聞いています。正確に言うと、聞かずにはいられない、という感じです。

中国からのサイレント・インベージョンに晒されているオーストラリアから新しいニュースが入りました。大富豪の中国人実業家の黄向墨(Huang Xiangmo)氏が豪州を離れている間に、豪当局が永住権を無効とし、市民権申請を却下したとのことです。

黄氏はまさに中国共産党が仕掛ける浸透工作の先兵として、その財力で豪州政界に深く入り込み政治的影響力を行使してきた人です。この人との不適切な関係を問われて有力な国会議員が辞職に追い込まれたケースがありました。

開かれた移民国家オーストラリアのやられっぷりも凄いものがありましたが、やっと危機感に目覚めて思い切った処置を取ったことに拍手を送りたいと思います。

日本政府にこんなことができるでしょうか

中国を喜ばせるために東京タワーを真っ赤にライトアップし、中国の外相に「日本人の対中感情が改善していない」と苦言を呈されれば、「交流計画を進めます」と媚びる日本

実際、日本政府は中国に一方的に資するだけの交流事業をいくつも進めています。近く、番組で詳しく論じる予定ですが、私が把握していたよりもずっと多くの交流事業が存在することがわかってショックを受けました。

交流といっても中国から人を招待するだけの一方通行になっていることもわかりました。中国が世界中で進め、西側同盟国が警戒を強めるサイレント・インベージョンの脅威を理解していたら、とてもこのような事業をやっている場合ではないはずです。

それどころか、安倍総理は習近平主席を国賓として日本に迎えようとしています。新天皇に会わせるつもりなのでしょうか。

さて、私が質問した方々は皆、口をそろえておっしゃいました。

「中国の脅威を総理ははっきり認識しています」

でも、それならなぜすり寄る態度を示すのでしょう。党内親中派や財界の圧力だけで説明できるでしょうか?安倍総理には深慮遠謀がある?

中国の脅威以外にも、外国人労働者受け入れや消費増税など、看過できない大問題が山積しています。

 

そこで、先月安倍総理あてに手紙を書いて永田町の信頼できる議員の方々に手渡して来ました。前回の番組中でも触れましたが、ここに公開いたします。10年後、「警告した民間人もいた」という記録のひとつになってしまうのでしょうか?

 

安倍総理あての書簡 全内容

平成31年1月24日

 

日本国内閣総理大臣
安倍 晋三 殿

有権者が憂慮する政策上の重大懸念について

日夜、日本国の内政・外交に尽力しておられるお姿に敬意を表します。

私共は日々動画発信などを通じて視聴者と意見交換をしておりますが、最近の安倍政権の政策には非常に強い憂慮を示す方が多くなっています。以下、主な懸念点を記しますので、視聴者と共有できるご回答を頂けますとまことに幸甚です。

日中関係について

総理は「Silent Invasion(静かなる侵略)」という言葉をご存知でしょうか?

開かれた移民国家であるオーストラリアが中国共産党による中華系移民を利用した浸透工作を受け、危機感を持った学者(Dr Clive Hamilton)が上梓したベストセラーのタイトルです。この、武器を使わない侵略は現在世界中で進行しており、トランプ政権が対決を決意したことはご存じの通りです。

中華系の留学生やビジネスマン一般移民があらゆる分野でスパイ行為や工作活動を実行しており、それを一元的に統括する部局が共産党本部に存在します。

危機感を抱いた米国が中国系留学生の排除や中華系通信企業幹部の逮捕に動いたことから、代わりに日本への浸透工作が激しさを増していると言われています。

かかる事態において、これから中国市場に進出しようとする日本企業は自己責任において行うべきであり、政府が後押しすべきではないことは自明の理ですが、特に下記の政策は中国の浸透工作に自ら迎合するものであり、常軌を逸しています。即時中止を強く要望致します。

  • 先般の日中首脳会談で合意された「日中青少年3万人交換計画」
  • 外務省による中国若手行政官等長期育成支援事業

米国では中国人の留学を制限しようとしている時に、わざわざ工作員を国費で招き入れ、日本の青少年を洗脳教育に差し出すのはまるで中国共産党の工作に協力しているかのようです。

まして、多くの日本国民が奨学金の返済に苦慮しているときに中国の役人を国費で留学させ、同窓会まで作ってあげるとは、これも浸透工作の成果かと思わずにはいられず、とても自民党支持者を含む有権者が納得できるものではございません。

当然ながら、そのようなスキームに選ばれてくる中国青年は、日本政府ではなく、中国政府に選ばれてくるのであって、感謝の対象は日本政府ではなく中国政府です。

中国共産党に忠誠を誓い、とことん指令に従おうとするでしょう。豪州やニュージーランドの例になぜ学ばないのか不可思議としか言いようがありません。

同じ理由で、現行の中国人国費留学制度も廃止すべきです。これは極めて重要な、安全保障上の問題です。

外国人労働者受け入れについて

日本企業はバブル崩壊後、世界のグローバル化にもついていけず、業績悪化のしわ寄せを労働者に押し付けました。政府もそれを後押しした結果、不安定な派遣労働者があふれ、特に若者の貧困化が進みました。これはさらなるデフレ要因となり、少子高齢化を加速させました。

現在、企業の内部留保がGDP総額に匹敵すると言われており、本来ならば賃上げをして労働者の購買力を高めるべきところ、政府はまたもや外国人労働者を導入して労働コスト上昇を防ぎたい経済界の要望に迎合しようとしています。

入国在留管理庁を新設しても、すでに行方不明になっている外国人も多数にのぼり、蓄積した問題の処置から始めなくてはなりません。常識的に言って、新しい組織が稼働して効果的に仕事ができるようになるには一定の時間が必要です。その猶予を与えずに外国人労働者を大量に導入すれば取り返しのつかない事態を招くことになるでしょう。

基本的に外国人労働者の大量受け入れには反対ですが、少なくとも、入国在留管理庁に一年間の移行期間を与え、外国人労働者の受け入れを延期することを要望致します。

消費税増税について

周知のとおり、米国と中国の対決が世界経済に影響を与えるのは必然です。リーマンショック級のインパクトも想定しなくてはなりません。このタイミングでの消費税増税は中止されることを強く要望いたします。

中国に擦り寄ることの危険性について

昨年の総理の訪中後も尖閣への中国船の侵入は減らず、「中華帝国再興の夢を実現するための静かなる侵略圧力」は世界的に全く弱まっていません。

したがって、日中関係が正常化したとは全く見做せず、この状態で習近平主席を日本に招いて歓待すれば、米国の意思に反して中国に擦り寄っているようにしか見えません。安全保障は米国に頼りながら中国で経済的利益を得ようとするのは無謀です。

中国は尖閣や沖縄への領土的野望を諦めていません。米国は有事の際、たとえ日米安保条約が存在しても、同盟国と呼ぶにふさわしい国しか助けようとしないでしょう。米国民が納得しないからです。

現在の安倍政権は客観的に見て、明らかに経産省と財界の意向を汲んで中国に擦り寄っていると認識されています。

その証拠が前述の中国の工作を幇助するだけの政策です。この流動的で危機的な状況にあっては、米国の同盟国としての重要性を高めることに専念し中国の静かなる侵略に迎合しないことを重ねて切に要望致します。

以上、全国数万人の視聴者、読者、有権者の要望の一部を代わってお伝えいたします。ご考慮の程よろしくお願い申し上げます。

Australia-Japan Community Network (AJCN) Inc. 代表 山岡鉄秀

株式会社On The Board 社長 和田憲治

 

(山岡鉄秀:Twitter:https://twitter.com/jcn92977110

image by: 首相官邸

奥山真司この著者の記事一覧

国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。情報・戦略の観点から、また、リアリズムの視点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。

 

 

 

日刊ゲンダイDIGITAL

安倍首相の“妄想”に露外相激怒 平和条約締結は決裂一直線

公開日:2019/02/26 14:50 更新日:2019/02/26 14:50

 どうやらカンカンのようだ――。安倍首相が「領土問題を解決して平和条約を締結する」と表明していることに、ロシアのラブロフ外相がブチ切れている。

 もはや“牽制”というレベルを超え、ほとんど安倍首相のことを“ウソつき”呼ばわりだ。

 ラブロフ外相は、ベトナムと中国の歴訪前に、両国メディアのインタビューに答え、24日にロシア外務省が公表した。

 安倍首相は6月に平和条約の枠組み合意を目指しているが、ラブロフ外相は「誰も一度も、枠組み案など見たことがない。日本側が何を考えているか、私には分からない」と一蹴。安倍首相が北方領土を含む平和条約締結問題に「必ず終止符を打つ」と意気込んでいることについて、こうこき下ろした。

「正直言って、その確信がどこから来ているのか分からない。プーチン大統領も私も、他の誰も、そうした発言につながる根拠は与えていない」

 

 要するに、「何も決まっていないのに、なに勝手なこと言ってんだ!」ということだ。

■「勝手に話を作るな」と言っているに等しい

 筑波大の中村逸郎教授(ロシア政治)が言う。

「ラブロフ外相は、これまでも4島の主権や北方領土という呼称について発言してきましたが、今回は質が違います。『勝手に話を作るな』と言っているに等しい。ロシア側が一切根拠を与えていないのに、平和条約締結について、確信に満ちて語る安倍首相の姿勢と人格を批判しているのです。安倍首相があまりにも話を盛り、しかも繰り返して口にするので、さすがに堪忍袋の緒が切れたのでしょう」

 さらにラブロフ外相は畳みかけた。

「日本は米国主導の反ロ的な国連決議には賛成するのに、ロシアの提案には反対か棄権ばかり」

 

「5月のトランプ大統領訪日時、ロシアとの平和条約もテーマだという。日本にそこまで独立性がないとは、(呆れて)何も言えない」

 中村教授が続ける。

「日本では、ラブロフ外相に“強硬論”を言わせて、最後はプーチン大統領がうまくまとめるという見方がありますが、違うと思います。日本人は自分たちに都合よく解釈しすぎです。2人のスタンスは同じでしょう」

 安倍首相は25日、ラブロフ発言について「いちいち反応するつもりはない」とダンマリ。国民は現実を直視した方がいい。

 

 

 

 産経新聞

外務省報道官、NYタイムズの元慰安婦問題の記述に「誤り」と反論


またアベ友…経団連会長人事は安倍政権の新スキャンダル

2019年01月16日 23時26分41秒 | Weblog

 

 永田町の裏を読む

公開日:2018/03/08 06:00

 日立製作所の中西宏明会長が日本経団連の次期会長に内定したというのは、それ自体、安倍政権の新しいスキャンダルである。

 中西は安倍のお友達。葛西敬之JR東海名誉会長や古森重隆富士フイルム会長らと共に「さくら会」というインナーサークルに入って、銀座で会食をするなどしてきた。

 日立は本来、偉大なる田舎企業で、経団連に副会長は出しても、会長を出したことはないし、政治とのニアミスを侵したこともなく、それがある意味、健全さの証しであった。

 ところが、中西が社長・会長を務めた2010年代前半からおかしくなった。①古川一夫元社長が経産省主管の「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の理事長に②入れ替わるように、経産省の原子力マフィアの望月晴文元次官が日立の社外取締役に③川村隆元社長が経産省のたっての頼みで東京電力の会長に――という、あからさまにベッタベタの官民人事交流に染まっていって、その揚げ句がこの経団連会長内定である。

 

 裏側で働いているのは、安倍晋三首相が最も信頼する側近の今井尚哉総理秘書官を管制塔とする「原発を何としても生き残らせよう」という陰険な戦略である。

 今井ら経産省の原発ルネッサンス派の官僚は、東芝には米ウェスチングハウス社の買収をけしかけて、結果的に東芝滅亡の原因をつくったのだが、同じ時期、日立に対しては英ホライズン社を買収して英国での原発ビジネスに参入するよう促していた。ビジネス的には成り立たないことが分かっていても、「日英両政府が官民で3兆円を投融資し、日立は実質1500億円の負担で済むからやってくれ」という国賊的なプランを描いたのは今井だといわれている。

 なぜこんなバカバカしい話がまかり通ったのかといえば、今井らは、3・11にもかかわらず原発推進路線は間違っておらず、その証拠に日本の原発技術は、こんなに世界各国に歓迎されていて巨大な利益を生む可能性があるのだという「幻覚」を日本国民に植え付けたかったからに違いない。

 

 理論的にも現実的にも先行きがないことが分かり切っている原発ビジネスに、東芝はダメでも日立をのめり込ませようというこの今井路線は一体何なのかと、某参院議員に問うと「役人は国が滅んでも企業が潰れても自分のメンツだけは救いたいという下劣なやつらです」と、にべもない答えだった。

 

 

経団連会長が転換 「原発どんどん再稼働」に飛び交う憶測

公開日:2019/01/16 14:50

 何があったのか――。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長=72)の発言に臆測が飛んでいる。15日の記者会見で、原発について「再稼働をどんどんやるべきだと思う」と語り、原発の「新設」や「増設」も認めるべきだと発言した。さらに、「自治体が再稼働にイエスと言わない。これで動かせない」「公開で討論しないといけない」と、原発推進を全面的に打ち出した。

 臆測が飛んでいるのは、ほんの数週間前、正反対の発言をしていたからだ。年初の報道各社とのインタビューでは、3.11以降、東日本の原発が1基も再稼働していないことを例にあげてこう語っていた。

「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」

「国民が反対するものはつくれない」と口にしていたのに、「どんどん再稼働すべきだ」とは、ここまで意見を変えるのは普通じゃない。そのため「なにがあったのか」といわれているのだ。

 

「安倍官邸から怒られたのではないか、という見方が流れています。原発推進は安倍政権の基本政策なのに、『国民が反対するものはつくれない』と異を唱えた。安倍官邸から激怒されておかしくありません。世論調査では反対が多数ですからね。それで慌てて官邸に聞こえるように“原発推進”を叫んだのではないか、とみられています」(財界関係者)

■安倍官邸に怒られたか?

 しかし、「どんどん再稼働すべきだ」などと乱暴な発言は、逆効果になるのではないか。ただでさえ、国民の多くは「原発反対」なのに、「新設」や「増設」まで持ち出されたら、身構えるだけだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

「好意的に見れば、国民に一石を投じようとしたのかも知れません。コソコソと再稼働を進めるのではなくて、正面から“原発賛成か”“原発反対か”を公開討論すればいいと考えたのかも知れない。ひょっとして原発村の住民である本人は、“原発賛成”の方が多いと思っているのかも。しかし、これは自爆行為ですよ。恐らく、正面から賛否を問うたら“原発反対”“自然エネルギー推進”が多いはずです」

 やっぱり、国民投票で白黒つけた方がいいのではないか。

 

 

安倍政権が進める原発30基体制 伊方の次に再稼働するのは

公開日:2018/09/27 06:00

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分決定について、25日、同じ広島高裁の別の裁判長が四国電の異議を認め、再稼働を容認する決定を出した。またしても、原発再稼働に積極的な国の姿勢を追認する司法判断が下された形だ。

 安倍首相は23日の英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で「経済成長の確保と化石燃料の削減は、共に重要な課題だ。それは再生可能エネルギーのコスト削減と再生可能エネルギーの信頼性向上を意味する」と再生可能エネルギー推進に前向きな発言をしているが、疑わしい。

 というのも、今年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、原発は「重要なベースロード電源」と位置づけられ、経産省は2030年度の電源構成に占める原発比率を20~22%と明記。この数値は原発約30基の稼働を意味している。現在日本で稼働中の原発は5基だが、停止している原発の再稼働や、新しい原発の増設を想定しているということだ。

 

 気になるのは、次にどの原発が再稼働するのかということ。「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武氏はこう言う。

「可能性が高いのは、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)です。原子力規制委員会から原子炉設置許可と工事計画認可が下りると、運転期間延長認可が取得できるので、早ければ2年後に再稼働する可能性もあります。もうひとつは東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)で、昨年12月に規制委員会の審査に合格し、地元の検証委員会の判断を待つ段階となっています」

 全国の原発で運転差し止めの仮処分が係争中だが、国民の不安をよそにこのまま再稼働がどんどん進んでしまうのか。

 

 

 

大阪北部地震で注目…活断層“直撃リスク”のある「17原発」

公開日:2018/06/20 06:00
 17日の震度5弱(M4.6)の群馬・渋川の地震に続いて、18日は震度6弱(M6.1)の地震が大阪北部を揺らした。ともに、内陸部の活断層で発生する直下型地震だが、日本列島には、なんと2000以上の活断層が走っている。東西で起きた連日の直下型地震は、一刻も早い脱原発を促しているようだ。ところが、九電は16日、玄海原発4号機を再稼働。新潟県の花角知事は、選挙中の姿勢を一転させ、柏崎刈羽原発の再稼働容認の姿勢に転じている。

 群馬の地震は、内陸直下で断層が押されて上下にずれた。大阪の震源地付近には大阪府内を南北に走る断層帯や、兵庫県から大阪府へ東西に走る断層帯が集中。有馬―高槻断層帯の水平ずれと、生駒断層帯の上下ずれが同時に起きたとみられている。

 日刊ゲンダイが、全国の原発と断層帯を調べたところ、原発近くに大きな断層帯が走っていたり、敷地内にも断層が確認されていることが分かった(別表)。
川内原発(上)(C)日刊ゲンダイ
 

 原子力規制委の新規制基準では、活断層の真上に原発の重要施設を建設することは禁じられている。

「電力会社は、大きな断層帯は真上ではなく原発の周辺だと言い、敷地内の断層は活断層ではないという理屈で、規制委も追認しています。安全は横に置き“再稼働ありき”で進めてきているのです」(反原発の市民団体関係者)

 佐賀県・玄海原発の周辺には、川久保断層など8本も断層帯があるが、九電の「敷地内には活断層がない」という主張がまかり通り、今年3月に3号機、先週16日には4号機が再稼働した。

 花角新知事が、任期中の再稼働を示唆した柏崎刈羽原発の敷地内には23本もの断層があり、一部は6、7号機の真下を通る。東電は「20万年前以降は動いておらず活動性はない」と言い張るが、立命館大教授の高橋学氏(災害リスクマネジメント)が、あきれてこう言う。

 

「そんなの詭弁ですよ。断層になっている以上、いつ動いてもおかしくありません。現在、日本列島は、太平洋プレートが北米プレートを、フィリピン海プレートがユーラシアプレートを押していて活発化しています。マグマだまりを押し出すので、火山の噴火が頻発していますが、内陸部の断層のズレも引き起こします。これが直下型地震です。今後も各地で頻繁に起こることは間違いありません」

 高橋教授によると、2000本以上の活断層というが、無名の断層も含めれば、実際には数万本以上はあるという。すべての断層がいつズレてもおかしくない。それなのに、原発再稼働に邁進とは愚の骨頂である。

「1973年のオイルショック以来、クリーンなエネルギーとして原発が語られてきましたが、政府も国民もプレートや活断層などの問題からは目をそらしてきました。地震の脅威を目のあたりに、大きなお荷物がようやく見えてきたと言えます。仮に、全原発の稼働を止めても、原発に放射性廃棄物が残っている以上、地震や津波が襲えばおしまいです。廃炉と簡単に言いますが、廃棄物を取り出す方法も、持っていく場所も決まっていません。放射能が緩和されるには、200年以上かかるといわれています。日本列島には、1基の原発も建ててはいけなかったのです」(高橋学教授)

 一刻も早く、脱原発に舵を切って、知恵を出し合うしかない。今も、プレートは活断層をグイグイ刺激している。

 

国連が原発作業員の被ばく危惧も…安倍政権またもガン無視

公開日:2018/08/18 14:50  更新日:2018/08/18 15:02

「日本政府は即刻対応しなければならない」――。国連人権理事会に各国の人権状況などを報告する特別報告者が16日、東京電力福島第1原発事故の除染作業員ら数万人が被ばくの危険にさらされている、として「深刻なリスク」を懸念する声明を発表した。

 声明では〈作業員には外国人労働者やホームレスが含まれているとの情報がある〉とし、これらの作業員は〈被ばくのリスクを十分に知らされず、経済的な苦境から危険な作業を強制されるなど搾取されている恐れがある〉と指摘。さらに、人材派遣会社を通じて作業員を雇用していることも〈労働者の権利侵害が起きやすい状況〉を招いている可能性があると警鐘を鳴らし、日本政府に対応を求めた。

 人権理事会は47カ国の人権理事国から構成されていて、現在、日本も人権理事国だ。その人権理事会の特別報告者が福島原発作業員の健康被害に疑義を唱えているのだから、政府としては「早急に対応する」と答えるのが当たり前。だが、外務省は「声明はいたずらに不安をあおり混乱を招く。風評被害に苦しむ被災地の人々をさらに苦しめかねず遺憾」とガン無視するつもりだ。

 

 安倍政権は「共謀罪」法の時も、同法がプライバシーや表現の自由を制約する恐れがあると指摘した人権理事会のケナタッチ特別報告者に対して「指摘、批判は全くあたらない」と真っ向から反論していた。ところが、今年3月にスイス・ジュネーブで開催された人権理事会で、日本やEUが共同提出した北朝鮮の人権侵害についての決議が採択されると、一転して〈歓迎します〉だ。自分たちの提案なら「OK」だが、自分たち以外の指摘は「NO」とは、ご都合主義にもホドがある。一体、どのツラ下げて人権理事国なんて言っているのか。

 福島原発では先月、2号機の原子炉建屋最上階の床面の放射線量を計測したところ、排水口付近でガンマ線とベータ線の合算値で最大毎時630ミリシーベルトが確認されたばかり。事故から7年経っても高線量の場所はあちこちに点在しているのだ。人権理事会が作業員の健康状態を不安視するのは当然だろう。安倍政権が人権など屁とも思っちゃいないことがよく分かる。

 

党内からも驚き 安倍陣営が血道上げる地方議員“接待攻勢”

公開日:2018/08/15 06:00

 9月に行われる自民党総裁選。国会議員票の8割を固めた安倍陣営は、地方票でも石破茂氏(61)に大差をつけようとシャカリキになっている。ただ、もともと安倍首相(63)は人気がないだけに支持を得るのは簡単じゃない。地方票を稼ぐために、露骨な接待攻勢をかけている。

「現職の総理総裁でここまで総裁選に血道を上げる人は見たことがない」――。多くの自民党議員は驚いているらしい。

 実際、安倍首相は、国会会期中から国政より総裁選を優先。「西日本豪雨」の時、被災者を見捨てて自民党議員50人と「赤坂自民亭」と称する酒宴で酒盛りをつづけていたのも、総裁選対策だった。

 歴代の総理総裁と大きく違うのは、“首相官邸”や“総理公邸”に地方議員を頻繁に招いていることだ。1日に2組、3組と招待することもある。7月25日には、愛知県議と山口県議を公邸に、岡山県議を官邸に招いている。信じられないのは、「西日本豪雨」の被災者が苦しんでいた7月9日と10日にも、総裁選の票固めのために、地方議員を官邸と公邸に招待していることだ。“被災者”よりも“総裁選”という考えは、「赤坂自民亭」でドンチャン騒ぎしていた時だけではなかった、ということだ。

官邸、公邸に連日ご招待(C)日刊ゲンダイ

 この官邸と公邸での接待攻勢、実は、安倍首相の不人気が原因だという。

「もともと、安倍首相は、地方票を固めるために全国各地に足を運ぶつもりでした。4月以降、大阪、北海道、滋賀、埼玉……と、全国を行脚していた。ところが、この地方回りに、受け入れ先は内心、大ブーイングだったといいます。もともと、安倍首相に対して不信感を持っているうえ、受け入れの準備が大変ですからね。さすがに、首相周辺も気づいたのではないか。7月以降は、安倍首相が現地に行くのではなく、官邸や公邸に招待するようになった。これなら、地方議員も、普段は入れない官邸や公邸に行けて喜ぶし、お客さまとしてオモテナシできる、というわけです。地方議員のなかには、官邸詣での後、銀座や赤坂に繰り出すことを期待している者もいるかも知れませんね」(自民党関係者)

 どうやら安倍陣営は、9月の総裁選まで、官邸や公邸への招待をつづけるつもりらしい。しかし、県議や市議への接待が、はたしてどこまで有効なのか。

 

「たとえ地元の国会議員や県議、市議が命じても、党員が『はい、わかりました』という時代じゃありませんよ。なにしろ、地方にはアベノミクスの恩恵はまったく及んでいない。人口減と衰退が加速しているだけです。格差がどんどん開いている。しかも、西日本豪雨で分かったように、安倍首相は地方を見捨てている。どこまで、安倍首相に党員票が集まるのか疑問です」(政治評論家・本澤二郎氏)

 ここまで「地方票対策」をやりながら、もし石破茂氏が地方票の4割、5割を奪ったら、たとえ“総裁3選”を果たしても、安倍政権はそう長く持たないのではないか。

 

日刊ゲンダイDIGITAL


【権力の内幕 検証・加計疑惑】第2部

2018年09月25日 14時18分55秒 | Weblog

東京新聞 TOKYO Web

 

第2部(1)内閣改造機に官邸攻勢 強まる「早くしろ」

2016年5月、国家戦略特区の諮問会議であいさつする安倍首相(左)。内閣改造で石破地方創生相(右)が閣外へ出たのを機に、半世紀ぶりの獣医学部新設が加速した=東京・首相官邸で

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 二〇一六年八月三日、首相官邸。赤いじゅうたんが敷かれた階段に勢ぞろいした新閣僚の中に、特区制度を所管する地方創生担当相だった石破茂(61)の姿はなかった。首相安倍晋三(63)の内閣改造に文部科学省の担当者は身構えた。「いよいよ獣医学部開設の動きが本格化するかもしれない」

 学校法人「加計(かけ)学園」の計画に基づき、愛媛県と今治市が国家戦略特区で獣医学部を開設しようと国に申請してから一年余り。文科省は学部開設に慎重な姿勢を崩していなかった。

 「残念だが仕方ない」。日本獣医師会顧問の北村直人(71)は、石破が閣外に出たことに複雑な思いを抱いていた。「獣医師は足りている」と学部新設に否定的だった獣医師会にとって、石破はよき理解者だった。県と市が一五年六月に特区を申請した直後、獣医学部新設に必要な四つの条件を設けたのが石破だった。

 いわゆる「石破四条件」は、学部新設の際、既存の獣医学部では対応が困難なことや獣医師の新たな需要があることなど、その必要性の証明を求めるものだった。獣医師会の理事会では、北村が「石破大臣と折衝をし、一つの大きな壁を作っていただいている」と発言している。

 安倍はライバルの石破を別の閣僚ポストで引き留めようとしたが、石破はポスト安倍をにらんで閣外を選んだ。後任には安倍に近い衆院議員の山本幸三(69)が就いた。北村は「四条件がある限り、大臣が代わったぐらいで簡単に学部新設が認められるわけがないと思っていた」と振り返る。

 内閣改造から一週間後、山梨県内の別荘に滞在していた安倍は、加計学園理事長の加計孝太郎(67)らと夕食を共にし、翌朝はゴルフに興じた。加計はその後、大臣就任祝いとして山本と文科相の松野博一氏(55)、農林水産相の山本有二氏(66)を相次ぎ訪問する。三人とも学部開設に関係する所管庁のトップだった。

 時を同じくして官邸サイドは規制突破へ向け、文科省への圧力を強めていく。

昨年7月の国会で顔を合わせた和泉首相補佐官(左)と前川前文科次官(右)。「背後に官邸の圧力があった」と証言した前川氏に、和泉氏は真っ向から反論した

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◆迫る期限…首相側近 文科省に圧力

 首相安倍晋三(63)のブレーンの一人、内閣官房参与の木曽功(66)が、文部科学省事務次官室に、同省事務方トップの前川喜平(63)を訪ねてきた。二〇一六年八月下旬のことだった。

 木曽は同省で局長級の国際統括官を務めたOBで、前川の先輩に当たる。この年の四月、加計(かけ)学園傘下の千葉科学大の学長に就任、学園理事にもなっていた。

 たわいない話の後、木曽が最後に切り出した。「獣医学部新設の手続きを早く進めてもらいたい」。さらに「国家戦略特区の諮問会議で決定したことに、文科省は従えばいい」と畳み掛けた。

 木曽は働き掛けを否定するが、前川は学園からの要請と受け止めた。獣医師会が後ろ盾としていた地方創生担当相の石破茂(61)が閣外に去った内閣改造から三週間。木曽の来訪は、始まりにすぎなかった。

 その翌月九日、安倍が議長を務める特区諮問会議が官邸で開かれた。同会議は特区選定の最高機関。民間委員の八田達夫(75)は「獣医学部の新設は極めて重要だが、岩盤が立ちはだかっている。強力に解決を推進したい」と意気込んだ。

 その二時間前、前川は首相補佐官和泉洋人(ひろと)(65)から官邸に呼び出された。和泉は国土交通省の元技官。地方創生や国土強靱(きょうじん)化を担当する首相の側近だ。官邸で重要政策を企画立案する首相補佐官は、首相の威光を背景に各省の事務次官をしのぐ力を持つようになっていた。

 前川が四階の補佐官の執務室に入るなり、和泉は前置きもなく早口でまくしたてた。「総理は自分の口から言えないから私が代わって言う。獣医学部新設について文科省の対応を早く進めろ」。時間にして五分足らず。「総理は言えない」という和泉の言葉に、前川は圧力とともに政権の後ろめたさをかぎ取った。

 問題発覚後、和泉は国会で「次官として、しっかりフォローしてほしいと申し上げた」と述べたが、「総理は言えないから」というくだりは否定した。本紙は改めて和泉に質問状を送ったが、回答はない。

 和泉は民主党政権時から官邸に入り、三年余り構造改革特区に携わった。前川は和泉を「特区制度のエキスパート」と評し、「国家戦略特区で獣医学部を開設しようという知恵を付けられる人は彼しかいない。学部開設のキーパーソンだ」と指摘する。

 前川は一カ月後、再び和泉に呼び出され、進捗(しんちょく)状況の説明を求められた。「とにかく早く開学したいという焦りを感じた」

 学園を誘致する愛媛県今治市はこのとき、獣医学部の開学時期を一八年四月と見据えていた。開学の準備期間を逆算すれば、年度内の一七年三月末までに文科省に設置認可を申請しなければ間に合わない。

 タイムリミットが半年後に迫っていた。北里大以来、半世紀ぶりの獣医学部開学に向け、文科省にさらなる圧力がのしかかった。(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当します)

(2018年8月14日)

 

第2部(2)首相の威借る内閣府 真相… 官僚ら口閉ざす

獣医学部の早期開学を迫る内閣府とのやりとりを記録した文科省の内部文書。「官邸の最高レベルが言っている」と、官邸の関与をうかがわせる文言が記されていた

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 「平成30年4月開学を大前提に逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい。これは官邸の最高レベルが言っている」

 加計(かけ)学園の獣医学部開設を巡り、昨年五月に明るみに出た文部科学省の文書。日付は二〇一六年九月で、表題は「藤原内閣府審議官との打合せ概要」とある。

 発言の主とみられるのは内閣府で特区事業を取り仕切っていた審議官の藤原豊(55)。藤原は一五年四月、学園や愛媛県の幹部らに「国家戦略特区で突破口を開きたい」と開学に向けた支援を約束した人物だ。

 文書からは、獣医学部を今年四月に開学させる前提で、最短のスケジュールを作成するように文科省に迫ったことがうかがえる。その上で「これは官邸の最高レベルが言っている」と虎の威を借りて強く迫った様子が浮かび上がる。

 この文書は省内の関係部署で共有されており、ある職員は「官邸の最高レベルは総理のことかと当時、話題になった」と振り返る。

 大学や学部を新設する場合、国家戦略特区で規制を突破しても、開学には文科省の認可が必要となる。内閣府職員の一人は「藤原さんは省庁を押し切って規制緩和をしたという実績作りに躍起だった」と語る。

 問題発覚後、文書を作成した文科省の担当者は「こうした趣旨の発言があったのだと思う」と省内のヒアリングに答えた。だが、内閣府は発言を否定。藤原も国会で「獣医学部の新設で総理から指示を受けたことは一切ない」と答弁した。

 内閣府は記録も残していないというが、ある職員は「藤原さんは『省庁とのやり取りは必ず記録に残せ』と口うるさく言っていた。記録がないなんてありえない」と証言する。

 官邸の関与をうかがわせる記録は一六年十月、官房副長官の萩生田光一(54)が文科省の局長に伝えた内容を記したとみられる「萩生田副長官ご発言概要」にも残っていた。「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成三十年四月開学』とおしりを切っていた」

 安倍晋三(63)の側近で文教族の萩生田は加計学園の名誉客員教授も務める。萩生田は今月、取材に局長との面会は認めたが首相や官邸に関連した発言は否定した。「文科省が自分たちの都合で作ったメモ。局長からは『問題解決のために副長官の名前が省内で使われる傾向があり、私もその一員で申し訳なかった』とおわびがあった」と説明した。

 取材班は改めて関係者に接触したが、文科省との協議に同席した内閣府幹部は記者と顔を合わすなり、逃げ出した。萩生田と面会した文科省局長は「話すことはない」と口をつぐんだ。

 ある文科省職員は申し訳なさそうに、こう答えた。「すみません。誰が漏らしたか、すぐ分かるので」(敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 
 

第2部(3)ライバル出現に焦り 「加計ありき」に誤算

鳥インフルエンザが発生した鶏舎を消毒する自衛隊員。京都産業大はこのころから獣医学部新設の検討を始めていた=2004年3月、京都府内で(陸上自衛隊第3師団提供)

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 首相官邸サイドが文部科学省への圧力を強めていた二〇一六年秋。国家戦略特区で獣医学部の新設を目指していたもう一校、京都産業大は着々と準備を進めていた。「提案内容には自信があった。加計(かけ)学園は最初からライバルとは見ていなかった」。中心になって計画を進めた元教授の大槻公一(76)が振り返る。

 京産大は一九八九年に生物工学科を新設、獣医学部につながるライフサイエンス(生命科学)研究に早くから取り組んできた。加計学園の加計孝太郎(67)が理事長になる十年以上前で、はるかに先行していた。

 獣医学部の検討を始めたのは〇四年。国内で七十九年ぶりに発生した鳥インフルエンザの猛威が京都にも及んでいた。

 感染症リスクの研究を本格化させようと、〇六年には鳥インフルエンザ研究センターを開設。センター長に鳥インフルの研究で世界的権威の大槻を招いた。大槻は「大学幹部から『獣医学部をつくる作業も任せたい』と特命を受けた」と明かした。

 府は一五年、周辺四県と連名で、京産大の獣医学部設置を文科省や農林水産省に要請。綾部市に用地を確保し、一六年三月、京産大と共同で特区を申請した。加計学園が特区申請の際、愛媛県と今治市の陰に隠れたのとは対照的だ。

「獣医学部新設を巡る国の対応は不公平だ」と話す京都産業大の大槻公一元教授=鳥取市で

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 申請では加計学園に九カ月の後れを取ったものの、京産大は十月に開かれた特区ワーキンググループで、各委員に二十一枚の詳細な資料を提示。いかにライフサイエンス分野の獣医師が求められているか、創薬研究で京都にどれほど強みがあるかを熱心に説明した。府の担当者は「委員に評価してもらえた」と手応えを感じた。

 大槻は申請前に内閣府地方創生推進室次長の藤原豊(55)を訪ねたときのことを鮮明に覚えている。「今治はずっと前から努力している。今ごろ持ってくるなんて遅いんじゃないか」。京産大には批判的な藤原だったが、最後に「また説明してほしい。宿題です」と言ってつぶやいた。「(今治側にも)同じように宿題を出しているんだが」

 今になってみると、大槻は「藤原さんは焦っていたんじゃないか。今治の計画は十分でなかったのかもしれない」と思う。実際、今治市が準備した資料は京都の七分の一の三枚だった。

 大槻たちは特区認定に手応えを感じていたが、首相の安倍晋三(63)が議長を務める特区諮問会議は一六年十一月、獣医学部開設に新たな要件を追加した。それにより京産大は計画断念に追い込まれることになる。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第2部(4)ルール変更「友達」有利 「京産大外しの筋書き」

2016年11月1日、内閣府から文科省に送信されたメールの添付文書。特区認定の条件の原案に「広域的に」などと手書きで加筆していた。メールには、萩生田官房副長官(当時)から指示があったと記されていた

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 二〇一六年十一月九日、首相官邸。首相の安倍晋三(63)が議長を務める国家戦略特区諮問会議は、半世紀ぶりに獣医学部を新設する方針を決定した。焦点はどの地域を特区に認定するかだった。諮問会議は新たな条件として「広域的に獣医学部のない地域に限り認める」とつけ加えた。

 突然のルール変更に動揺したのが京都産業大だった。関西圏には大阪府立大の獣医系学部が既にあり、空白地帯の四国に開設しようとするライバルの加計(かけ)学園に有利な条件だったからだ。このとき学園は、まるで開学が決まっているかのように、建設予定地でボーリング調査を始めていた。

 水面下で行われたルール変更に官邸の関与をうかがわせるメールがある。

 メールは諮問会議の八日前に内閣府から文部科学省に送られたもので、学部開設の条件を記した文書が添付されていた。「獣医学部のない地域」としか書かれていなかった文科省作成の素案に、手書きで「広域的に」と加えてあった。

 この修正で、学部を新設できる地域は一気に狭められた。メールには「直すように指示がありました。指示は藤原審議官いわく、官邸の萩生田副長官からあったようです」とあった。「藤原」とは内閣府審議官藤原豊(55)、「萩生田」は安倍側近の官房副長官萩生田光一(54)のことだ。

 昨年六月に文科省でメールが見つかると、萩生田は指示を否定した。特区を所管する地方創生担当相山本幸三(69)は会見で「修正は自分が指示した」と説明。文科省にメールを送った内閣府職員を「文科省からの出向者で、陰に隠れて本省にご注進した」と非難した。

 だが、この職員がこぼすのを周囲は耳にしている。

 「萩生田副長官の指示は文科省の担当者も聞いていた話。自分はスケープゴートにされた」。萩生田は取材に「藤原から報告を受けたが、修正の指示はしていない」と改めて否定した。

 その後も「一八年度に開学」「一校に限る」という条件が追加され、京産大は断念に追い込まれた。

 文科省関係者は「京産大外しとしか考えられない。京産大は一九年度なら開学できると言っていましたから」と証言する。元京産大教授の大槻公一(76)は取材に「首相のお友達にしかやらせない。筋書き通りなんだと思った」と憤った。

 安倍はよく「規制の岩盤に穴を開けた」と自慢するが、その穴に加計学園だけを通すようなルール変更だった。内閣府は一七年一月、獣医学部を開設したい事業者を公募した。手を挙げたのは当然、加計学園だけ。まるで出来レースだった。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(5)新設4条件 置き去り 「議論せぬまま特区認定」

2017年1月20日、加計学園を獣医学部開設の事業者に選んだ国家戦略特区の諮問会議であいさつする安倍首相(中)。首相はこの日まで学園が学部開設を目指していたことを知らなかったと答弁している

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 二〇一七年一月二十日、首相官邸で開かれた国家戦略特区の諮問会議は、愛媛県今治市で獣医学部を開設する事業者に加計(かけ)学園を選んだ。後に首相の安倍晋三(63)が国会答弁で「学園の学部開設計画を初めて知った」としたのがこの日だ。

 「国家戦略特区に指定した今治市で、画期的な事業が実現します」。諮問会議の席上、議長の安倍は学園の構想を持ち上げた。

 そのころ、文部科学省関係者は顔をしかめていた。「中身はスカスカ。どこが特殊な獣医学部なんだ」

 愛媛県と今治市が一五年六月に特区を申請した後、内閣府は「既存の大学では対応できない」「新しい分野のニーズがある」など、学部の新設に必要な四つの条件を設けた。

 ところが、特区ワーキンググループで審議が始まっても、どこからも具体的な獣医師需要は示されぬままだった。

 それにもかかわらず、民間委員たちは規制緩和に前のめりだった。「四条件を満たすかどうかの立証責任は文科省にある」と主張する委員も。獣医学部の必要性がない根拠を示さなければ、新設を認めると言い出した。

 実は学部開設が現実味を帯びてきた一六年十月、文科省は市の担当者を内々に呼び出していた。「最悪の場合を想定し、四条件に見合う構想かどうかを確認するためだった」という。

 説明したのは同行した学園の担当者。文科省関係者は「内容は抽象的で、これでは四条件をクリアできないと思った」と証言する。省内では「開学を一年延期したほうがいい」との意見まで出たが、一八年四月の早期開学を実現したい内閣府に押し切られた。「四条件を満たしているのか、誰も議論しないまま特区に認定された」。関係者は今も釈然としない思いでいる。

 学園の構想が特区に認められると、後は文科省の審査を残すだけとなった。大学や学部を新設する場合、審査を申請する約一年前から文科省に相談するのが一般的だが、申請までに学園に残された時間は二カ月余りしかなかった。

 「あまりに出来が悪く、事前相談は通常の倍近い週二回ペース。一回の相談も四、五時間かかっていた」と文科省関係者は突貫工事ぶりを打ち明けた。「それでも他の大学並みのレベルにも届いていなかった」

 学園は一七年三月、文科省に獣医学部の設置を申請した。「審査で相当厳しいことを言われる可能性がありますよ」。担当者の指摘はその後、現実となる。(敬称略)

(2018年8月14日)

 

第2部(6)設置審も認可ありき 文科省「4条件議論しないで」

2017年11月、加計学園の獣医学部新設を「可」とした設置審専門委の最後の会合が開かれたビル。専門委の会合は非公開で、マスコミを避けるため都内の会場を転々とした=東京都千代田区で

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 安倍政権が創設した国家戦略特区で、獣医学部開学という長年の夢を実現しようとしていた加計(かけ)学園理事長の加計孝太郎(67)。開学へ最後のハードルとなったのが文部科学省の「大学設置・学校法人審議会(設置審)」の審査だった。

 設置審は大学新設にあたり、大学教授らが教育内容や設備・経営を審査する。獣医学部を審査する専門委員会の委員の一人は、二〇一七年四月に文科省内で開かれた最初の会議のことが今でも記憶に残っている。

 世界に冠たる獣医学部とうたいながら、学園が出してきた計画は「既存の大学にすら及ばない未成熟な内容だった」。公務員獣医師の確保が目的なのに公衆衛生の教授がいない。日帰りで実習するのに片道四時間かかる。委員は「不備が多すぎて細かい点は目をつぶるしかなかった」と話す。

 五月に入り「加計疑惑」が表面化すると、設置審も「いいかげんなことはできない」と慎重姿勢に。直後の一次意見では、計画を抜本的に改善しなければ新設は認めないとする「警告」を出した。学園は一学年の定員を百四十人に減らすなどしたが、八月に再び注文が付き、最終判断は十一月にずれ込んだ。

 その間、首相の安倍晋三(63)は、野党が真相解明のために開会を求めた臨時国会の冒頭、衆院を解散。選挙は自公が圧勝し、疑惑追及の機運はしぼんだ。

 十一月二日、都心のビルの一室。「学園の改善は付け焼き刃だ」「もう仕方ない」。七回目を数えた専門委の会議でも意見は割れていた。特区による獣医学部の開設は一八年四月と期限が切られており、もう結論を先に延ばせない。議論は三時間に及んだ。座長から「意見がまとまらないなら、委員会を解散して新メンバーで審査し直しますか」と投げかけられると、委員は皆、押し黙った。

 結局、忸怩(じくじ)たる思いを抱えながら「開設は可」という結論を出した。ある委員は「与党が選挙で圧勝しなければ結論は違ったかもしれない」と振り返る。

 半月後、設置審の答申を受け、文科相の林芳正(57)は学部新設を認可した。委員の一人は「認可ありき。文科省から『(学部新設に必要な)四条件を満たしているかは議論しないで』と何度もくぎを刺された。初めから仕組まれた審査だと思った」と明かした。

 なんとか今年四月の開学にこぎ着けた加計学園。獣医学部長の吉川泰弘(71)は学園幹部にこう愚痴をこぼしたという。「さんざん設置審でいじめられたよ」

 ただ、これで疑惑の幕引きとはならなかった。(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(7)「いいね」文書で窮地 政権に「不都合な真実」次々

愛媛県作成の「首相案件」文書について、4月11日の衆院予算委で「コメントする立場にない」と7回繰り返した安倍首相。直後の共同通信の世論調査で、首相の説明に「納得できない」との回答が79.4%に上った

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 吐く息が白い二月の早朝。東京都内の閑静な住宅街から、経済産業省ナンバー2の経産審議官の柳瀬唯夫(57)が姿を現した。

 首相秘書官当時の二〇一五年四月、加計(かけ)学園や愛媛県の幹部らと首相官邸で面会した人物。取材班は「本件は首相案件」という柳瀬の発言を記した県作成の文書を入手し、話を聞こうと外で待っていた。

 柳瀬は突然の来訪に驚くそぶりも見せず、「そんなこと言うとは思えないけど。会ったという記憶がないんだよ」と繰り返した。

 文書には首相の安倍晋三(63)と学園理事長の加計孝太郎(67)が会食し、獣医学部の話題が出たという記述もあった。事実なら「学園の学部開設計画を知ったのは一七年一月二十日」とする安倍の国会答弁がうそだったことになる。

 その確認を求めると、平静を保って歩いていた柳瀬が突然、声を上ずらせた。「本当、それ? 全くない、全くない」

 三月に入ると、安倍政権にとって「不都合な真実」が次々と明るみに出た。

 森友学園をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題や防衛省が「存在しない」としてきた陸上自衛隊のイラク派遣時の日報問題。さらに追い打ちを掛けたのが「首相案件」文書だった。

 四月初めに本紙などが文書の存在を報道すると、政権批判がさらに強まった。

 「うそをついているのは県の担当者か柳瀬さんか」。そう野党が攻め立てると、安倍は「県の文書に国はコメントする立場にない」と言い逃れた。そこへ新たな「加計ありき」を示す文書が突きつけられる。

 五月下旬、国会の要請で県が提出した二十七枚の新文書。学園側から受けた報告を記録した文書には、一五年二月二十五日に安倍と加計が面会し、安倍が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とコメントしたとあった。安倍の国会答弁と矛盾するだけでなく、直接関与をうかがわせる物証に国会に衝撃が走った。

 安倍と学園側は面会を否定したが、県知事の中村時広(58)は提出した文書を「何も改ざんする必要がない。ありのままの報告書類」と信ぴょう性を強調した。

 窮地に立つ安倍。与党内からも説明責任を問う声が上がり、今秋の自民党総裁選に暗雲が立ち込めようとしていた。そんなとき、県の関係者はあるうわさを耳にした。「首相と加計理事長の面会を『事務局長のうそだった』ことにし、幕引きさせようとたくらんでいる」

 そんな話をいまさら誰が信じるのか-関係者は、このときはうわさを歯牙にもかけなかった。(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 
 

第2部(8)「面会はウソ」と助け舟 官邸の圧力 疑念晴れぬまま

疑惑発覚後、初めて記者会見する加計学園の加計孝太郎理事長(右)。参加は地元記者クラブ限定で、30分足らずで切り上げた。首相答弁と食い違う説明に、取材班は再取材を申し込んだが、断られた=6月19日、岡山市で

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 五月下旬の土曜の昼下がり。普段より人がまばらな本紙編集局に、何の前触れもなく一枚のファクスが流れてきた。

 送り主は加計(かけ)学園。二〇一五年二月、首相の安倍晋三(63)が学園理事長の加計孝太郎(67)と面会し、「新しい獣医学部の考え方はいいね」とコメントしたという愛媛県文書について、次のように釈明していた。

 「当時の担当者が、実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、愛媛県と今治市に誤った情報を与えた」。二人の面会は学園側がでっち上げたものだと、報道各社に一斉に通告してきたのだった。

 二日後には国会で安倍出席のもと、加計・森友学園問題の集中審議が控えていただけに、関与が疑われた安倍に助け舟を出した格好となった。野党は「ウソの上塗り」と批判。与党のある副大臣も「何かを隠すためにウソを重ね、新しいウソをつかないといけなくなった。そう見られても致し方ない」と突き放した。

 学園の説明通りなら、安倍の名前を使って県や市をだまし、獣医学部をつくったことになる。それでも安倍は平静を保った。「なぜ怒らないのか」と追及されても「私は常に平然としている」とはぐらかした。

 学園に計九十三億円を補助する県と市に、学園事務局長の渡辺良人が謝罪に訪れたのは、ファクスから五日も後だった。記者たちの前でニヤつきながら「その場の雰囲気で、ふと思ったことを言った」「たぶん僕が言ったんだろう」とあいまいな発言に終始した。

 疑念が膨らむ中、沈黙を続けてきた加計が突然、記者会見を開いた。大阪が地震に襲われた六月十八日の翌朝。開始二時間ほど前、地元・岡山の記者クラブ加盟社だけに通告してきた。

 加計は「記憶にも記録にもない」と安倍との面会を否定。予定より早く会見を打ち切った。加計が県知事の中村時広(58)に謝罪する動きもあったが、県の関係者は「面会はオープンで、その後に会見してくださいと暗に伝えると、連絡が来なくなった」と明かした。

 同じころ、獣医学部を視察した愛媛県議福田剛(49)は驚いた。図書館の本棚はスカスカで専門書はほとんど見当たらなかった。「無理して開学にこぎ着けたのだろう。本当に先進的な教育ができるのだろうか」

 七月下旬、国会閉会。安倍は最大の窮地を脱した。

 一年以上にわたり政権を揺さぶり続ける疑惑は首相官邸に集中する権力の内幕をあぶり出した。首相の友人が官僚らから厚遇され、逡巡(しゅんじゅん)する行政の現場には、首相の威を借りたさまざまな圧力がのしかかった。

 「記憶にない」という言い逃れやうそがまかり通る国会で、疑惑の霧は晴れないままだ。権力の傲慢(ごうまん)を許さないためには、有権者の手で、真の言論の府を取り戻す必要がある。 =おわり

(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当しました)

(2018年8月14日)

 

 


 


【権力の内幕 検証・加計疑惑】

2018年09月25日 13時56分59秒 | Weblog

東京新聞 TOKYO Web

 安倍晋三首相の友人が経営する加計学園の獣医学部新設を巡り、「加計ありき」で行政がゆがめられた疑惑が浮上、「本件は首相案件」とする内部文書が発覚し、首相の関与が最大の焦点となった。「一強支配」の権力の内幕で何が行われたのか。徹底検証した連載15回(第1部2018年7月15日~21日付朝刊、第2部7月29日~8月5日付朝刊)を掲載する。

【権力の内幕 検証・加計疑惑】

第1部(1)悲願の裏に「首相案件」 腹心の友 蜜月40年

岡山理科大獣医学部の入学式であいさつする加計孝太郎理事長=愛媛県今治市で

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 「いろいろご心配をおかけしたが、予想をはるかに上回る志願者が集まった」

 瀬戸内海の潮風が穏やかな四月三日、愛媛県今治市の丘陵に開学した岡山理科大獣医学部の入学式があった。運営する学校法人「加計(かけ)学園」理事長・加計孝太郎(67)は壇上の金びょうぶの前で胸を張った。

 式を終えて出てきた百八十六人の新入生の中には、高揚と不安が入り交じった女子学生(18)もいた。

 「動物園で働くのが夢。でも、あの獣医学部なの?って言われるかも」

 この一カ月ほど前、本紙取材班は獣医学部開学にまつわる県作成の一通の内部文書を入手していた。

 「要請の内容は総理官邸から聞いている」

 「かなりチャンスがあると思っていただいてよい」

 開学三年前の二〇一五年四月二日、内閣府地方創生推進室。学園や県の幹部らが次長の藤原豊(54)=現経済産業省貿易経済協力局審議官=から、「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と獣医学部新設の秘策を聞いた様子が生々しく記されてあった。

 「本件は首相案件」。引き続き官邸で面会した首相秘書官の柳瀬唯夫(56)=現経済産業審議官=からも強力な後ろ盾を得ていた。

 「やはり加計ありきだったのか」。取材班は二人の出勤時などに疑問をぶつけたが、柳瀬は「覚えてない」と繰り返し、藤原は「内閣府に聞いて」の一点張りだった。

 加計には三月下旬、岡山市での岡山理科大の卒業式後に質問しようとしたが、職員に阻まれた。今治市での入学式の取材は、地元の記者クラブに限定され、質問の機会を得られなかった。

 加計が獣医学部新設に動きだしてから十年余り。悲願が実現する大きな要因となったのは、加計を「腹心の友」と呼ぶ首相の安倍晋三(63)が、政権に返り咲いてすぐに導入した国家戦略特区制度だった。

安倍晋三首相の妻昭恵氏が2015年12月に投稿した首相(右から2人目)と加計孝太郎氏(左端)、増岡聡一郎氏(右端)らの写真=一部画像処理

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◆米留学で出会い「晋ちゃん」「加計さん」

 ワイングラスを手に、男たちがソファでくつろぎ笑みを浮かべる。

 東京駅八重洲口にほど近い「鉄鋼ビルディング」四階の会員制ラウンジ。二〇一五年十二月二十四日夜、首相夫人の安倍昭恵(56)が自身のフェイスブックに一枚の写真を発信した。付けたコメントは「クリスマスイブ。男たちの悪巧み」。そこには夫で首相の安倍晋三(63)と三学年上の加計(かけ)学園理事長、加計孝太郎(67)らがいた。

 「二人は互いに『晋ちゃん、加計さん』と呼び合う仲。二人とも、よく駄じゃれを言うんですよ」。集まりを主催した同ビル専務の増岡聡一郎(55)は二人の親密ぶりを口にしながらも、「これはビルの竣工(しゅんこう)祝いの会。悪巧みどころか、加計学園の獣医学部の話は一度も出なかった」と話す。

 一二年のクリスマスイブも、二人は都内の飲食店で昭恵らとともにテーブルを囲んだ。この八日前に行われた衆院選で、自民党は三百近い議席を獲得して政権を奪還。党総裁の安倍の首相返り咲きが確実視され、店の前には大勢の報道陣が待っていた。参加者全員の飲食代を店に支払ったのは加計側だった。

 二人の出会いは約四十年前の米国留学時代にさかのぼる。安倍は成蹊大を卒業後、米ロサンゼルスにある南カリフォルニア大で学んだ。当時の日本人留学生は数十人。同じ頃、牛丼チェーン吉野家の社費留学生だった西洋フード・コンパスグループ会長の幸島武(64)が回想する。

 「国会議員や大企業の役員の子どもばかりで、外車で通学する人も多かった。日本人学生同士でゴルフをすることがはやり、安倍さんともラウンドを回った」。ロス近郊の語学学校で学んでいた加計も後年、安倍とゴルフを楽しんだ思い出を経済紙に寄稿している。

 二人は帰国後、先代の敷いたレールに乗る。

 祖父の岸信介は元首相、父晋太郎は元外相という安倍は、父の秘書を経て国政入りすると出世の階段を上り、五十一歳で小泉純一郎政権の官房長官に抜擢(ばってき)された。一方の加計は、一代で学園を中国・四国有数の私学グループに発展させた父、勉(〇八年死去)を支え、〇一年に理事長を引き継いだ。

 帰国後も二人の関係が途切れることはなかった。ゴルフ仲間にとどまらず、安倍は一時、学園の役員を務め、年十四万円の報酬を得ていた。学園関係者は「二人の仲は学内で半ば公然の事実だった」と話す。

 年に二度、留学経験者が集う同窓会「アメリカ会」に、安倍は今もお忍びで顔を出す。「異国で暮らした心細さもあり、あの時の学友は特別な存在だ」。幸島は安倍と加計の蜜月ぶりをそう推し量る。

 出会いから約三十年。五十二歳になった安倍は〇六年九月、戦後最年少で首相の座を射止めた。同じ年、加計は獣医学部開設という野心に火が付いた。(敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当します)

(2018年8月14日)

 

第1部(2)経営者の顔 前面 加計氏「志願者20倍」に商機

岡山理科大獣医学部の建設現場(手前)。加計孝太郎氏が初めて訪れたのは2006年だった=2017年5月17日、愛媛県今治市で

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 今年四月、愛媛県今治市に開校した加計(かけ)学園グループの岡山理科大学獣医学部は、中心市街地から外れた丘陵地にある。理事長の加計孝太郎(67)が初めて、この地を訪れたのは二〇〇六年のことだ。

 高台の更地に立つと瀬戸内海が一望できた。「見晴らしもよくて、いい場所ですね」。加計は一目で気に入ったようだった。「少子化で大学の学生集めは大変だが、獣医学部ならば、どこも志願者は二十倍ぐらいある」。市長の越智忍(60)=現県議=に、自信たっぷりに持論を説いた。

 後日、岡山市の学園本部に招かれた越智は、大学から中高、専門学校まで傘下に収める一大私学グループを目の当たりにする。「学生のニーズをつかみ、学園を発展させてきた手腕に、教育者というより経営者の面を強く感じた」。加計にそんな印象を抱いた。

 〇一年に父から学園の経営を引き継いだ加計は事業を拡大し、大学や学部の新設を進めた。〇四年、千葉県銚子市に開校した千葉科学大学もその一つ。誘致した当時の銚子市長、野平匡邦(まさくに)(70)は加計のことを「国家資格に直結させた特定の理工系学部のみを選択するという経営哲学を持ち、大学経営をビジネスとしてとらえていた」と話す。

 若者人口の減少に悩む今治市にとって、大学誘致は長年の悲願だった。

 獣医学部が開校した一帯は、今治市などが一九八〇年代から計画を進めてきた大規模開発エリア。広島県尾道市と橋で結ぶ「しまなみ海道」の開通を見越し、住宅地や商業施設と共に大学開設が想定されていた。

 しかし、バブル崩壊後は開発は縮小し、大学誘致は難航した。タオルと造船の街だけに繊維や造船の学科を検討したこともある。市内の短大を四年制にする話も出た。ベテラン市議は「来てくれるなら、どこでもよかった」と振り返る。

 あきらめかけていた二〇〇六年ごろ、手を挙げたのが加計学園だった。

 今治市出身で、後に学園事務局長となった渡辺良人が、地元県議と高校の同級生だった縁で話が進んだが、市企画課長だった渡辺徹(62)は「獣医学部と言われ、最初はピンとこなかった」と語る。文部科学省の規制で、獣医大学の新設が認められないことさえ知らなかった。

 いかに規制の壁を越えるか。学園と市が目を付けたのが、規制緩和を目的に小泉政権が導入した構造改革特区制度だった。 (敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 

第1部(3)獣医師会に危機感 親しい政治家は「安倍晋三さんです」

2017年6月の日本獣医師会総会後、国家戦略特区による獣医学部開設に疑念を示す北村直人顧問(中)=東京都内で

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 愛媛県今治市に獣医学部を新設しようと、加計(かけ)学園や市が動きだしたのは二〇〇六年。動向に神経をとがらせていたのは獣医師でつくる「日本獣医師会」だった。

 〇七年二月、東京・赤坂の料亭。元衆院議員で獣医師会顧問の北村直人(71)は、加計学園理事長の加計孝太郎(67)と向かい合った。「今治市に獣医学部をつくりたいんです」。そう語る加計だったが、北村には獣医学教育への熱意は感じられなかったという。

 「親しい政治家はいるんですか」と水を向けると、予想外の答えが返ってきた。「安倍晋三さんです」。時の首相の名前だった。北村の脳裏に加計学園の名前が刻み込まれた。

 この頃、農林水産省では獣医学部開設の布石が打たれようとしていた。獣医師の需給見通しを探るため、有識者による検討会が発足。農水省関係者は「獣医師が足りないとの結論が出るよう上から指示されていた」と証言する。だが、「獣医師は足りている」と獣医師会が待ったを掛けた。検討会の報告書は明確な表現を避け、両論併記となった。

 学園と市が構造改革特区で学部開設に挑んだのは、報告書が出て半年後の〇七年十一月。以来、毎年のように特区を申請したが、大学の設置認可を握る文部科学省に阻まれた。元同省幹部は「真剣に取り合う雰囲気でもなかった」と話す。

 獣医学部開設の動きはいったん下火となったが、一二年末、獣医師会に再び危機感が高まる。安倍の二度目の首相就任だ。翌年三月の理事会では「安倍政権に代わり、文科相からの指示で担当局長、課長が規制緩和の方向に転換しつつある」と危ぶむ声が上がった。北村は「安倍さんが総理に返り咲き、再び加計側の動きが活発になった」と言う。

 「麻生会長へ相談し、文科省に抗議の声明文を提出していただいた」「麻生会長も総理と会談され、説明を尽くされている」。理事会の議事録からは、自民党の獣医師問題議員連盟会長で副総理の麻生太郎(77)の政治力で、対抗したことがうかがえる。

 北村は一四年三月、東京・南青山の日本獣医師会で、加計と再び対面した。うつむく加計に「安倍さんに言われて来たんですか」と尋ねると、加計は顔を上げた。「獣医学部をつくりたい」。面会は十五分足らずで終わった。北村は加計が「仁義を切りに来た」と感じた。

 加計はその後、政界への接近を強める。相手は安倍の側近の文科相、下村博文(64)だった。 (敬称略、肩書は当時)

 
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(2018年8月14日)

 

第1部(4)下村文科相に接近 パー券代取りまとめ

下村博文事務所の日報には、加計学園がたびたび登場する

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 首相の安倍晋三(63)が二〇一二年末に政権を取り戻すと、側近の下村博文(64)は大学の認可権限を持つ文部科学相に就いた。取材班が入手した一四年の下村事務所の日報からは、加計(かけ)学園が繰り返し接触してきたことが浮かび上がる。

 「ご留任おめでとうございます。お祝いをしたいと思います」。一四年九月、内閣改造で下村が文科相に再任されると、学園は下村事務所にお祝いを伝えた。学園からの陳情を事務所が文科省につないだ形跡もある。日報には「事務方を通じてお願いをいたしました」との報告がある。

 学園理事長の加計孝太郎(67)は下村夫人とも縁がある。広島加計学園が〇六年、米国の学校と提携した際、夫人は米国で調印式に参加。一三年からは学園の教育審議委員になっている。

 昨年六月には「加計マネー」の存在も明らかになった。下村を支援する政治団体「博友会」が一三年と一四年、加計学園からパーティー券の代金として百万円ずつ受けたのに、政治資金収支報告書に記載していなかったと週刊誌が報じた。

 政治団体は一回のパーティーで、個人や企業から二十万円を超える支払いを受けた場合、相手の名前や金額を収支報告書に記載しなければならない。博友会は一三年十月に九百八十四万円、一四年十月に千九百四十九万円のパーティー収入を計上しているが、学園の名前はなかった。

 下村は会見を開き、百万円は加計学園の秘書室長が「十一の個人と企業から預かったもの」で、いずれも二十万円以下だから記載の必要はないと説明した。学園も下村に呼応するように「当学園と関係のある個人や会社の合計十一名のパーティー券代」と報道機関にファクスを送った。

 本紙が入手した「パーティー入金状況」というリストには、両年とも加計学園の名前と百万円の入金が記されている。全体では学習塾や教材会社が一枚だけ買っているケースが多く、百万円は際立つ。

 文科省は〇三年の告示で獣医学部の新設を規制していた。構造改革特区で獣医学部を開設したいという愛媛県と今治市の申請にも厳しい意見を出し続けた。学園が下村に接近した一四年も省内の空気は冷ややかなままだった。

 「今治市側に何度言っても、規制に穴を開けるような説得力ある提案はされなかった」と当時の文科省幹部。それが一五年に入ると、実現に向け、大きく動きだすことになる。 (敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(5)「首相と面談」後、一変 「何とか実現」秘書官動く

2015年4月2日に加計学園幹部らが柳瀬首相秘書官と面会した首相官邸。これを機に獣医学部開設の動きが加速する

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 加計(かけ)学園が愛媛県今治市に獣医学部を開学する三年余り前のこと。学園幹部らは焦りを募らせていた。

 二〇一五年二月十二日、学園と県、市の幹部が一堂に会した。学園幹部が学部新設の進捗(しんちょく)を報告したが、状況は芳しくなかった。

 「下村文部科学大臣が一歩引いたスタンスに変化している」。幹部はその理由に、自民党獣医師問題議員連盟会長で副総理の麻生太郎(77)の存在を挙げた。新設に反対する獣医師会に近い麻生への配慮から、文科相の下村博文(64)が後退しているという危機感だった。

 一連の協議内容を記した県の文書からは、学園の戦略が浮かび上がる。学園側は理事長の加計孝太郎(67)と首相の安倍晋三(63)の面会に期待をかけたが、なかなか実現しなかった。

 そこで「官邸への働きかけを進めるため」として学園の本拠がある地元・岡山選出の官房副長官加藤勝信(62)に会ったものの、「日本獣医師会の強力な反対運動がある」「既存大学の反発も大きく、文科大臣の対応にも影響」と後ろ向きな話ばかり聞かされた。

 すでに新潟市が国家戦略特区で獣医学部の設置を申請しており、新潟に決まるかもしれないという心配もあった。だが、その後、潮目が大きく変わる。

 「理事長と安倍首相が面談したので報告したい」。学園から連絡を受け、県は三月三日に打ち合わせをした。その際、学園幹部から「二月二十五日に理事長が首相と十五分程度面談し、首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントがあった」という報告があった-県文書にはそう記されてある。

 二人は面談を否定しているが、潮目が確実に変わったことを示す事実がある。首相秘書官の柳瀬唯夫(57)が学部実現に向け、動き始めたのだった。

 四月二日、首相官邸小会議室。学園や県、市の幹部ら六人が長いテーブルに横一列で並んだ。自治体の課長が官邸を訪れるのは異例中の異例であり、遅れて現れた柳瀬はまくし立てた。

 「本件は首相案件となっており、何とか実現したい」。もし安倍と加計の面談がなければ、柳瀬がなぜ精力的に動いたのか疑問が生じる。首相と秘書官は「一心同体の間柄」(秘書官経験者)だからだ。

 これを機に停滞していた計画が動きだした。県関係者が述懐する。「官邸に呼ばれたことで、国にオーソライズ(公認)されたと受け止めた。それまでなかった流れが生まれた」(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(6)官邸を後ろ盾に権勢 秘策を伝授 特区のプロ

国家戦略特区を取り仕切っていた藤原豊次長(当時)。愛媛県文書には藤原氏から「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と県や今治市に持ちかけたと記録されている=昨年6月、国会で

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 長年実現してこなかった加計(かけ)学園の獣医学部を開設するため、首相秘書官の柳瀬唯夫(57)らが推し進めた秘策、それが国家戦略特区だった。

 国家戦略特区は首相の安倍晋三(63)が二〇一三年に創設した肝いりの政策だ。「自らドリルになって岩盤規制に穴を開ける」。規制緩和による成長戦略をうたう安倍は、幾度となくこのフレーズを口にしてきた。

 小泉純一郎政権のときにできた従来の特区制度は、自治体などの提案の可否を規制官庁が判断するため、思うような成果が出なかった。そこで、国家戦略特区では、規制官庁を意思決定から排除することにした。

 規制緩和に積極的な有識者が提案された特区内容を審査。首相をトップとし、経済財政担当相などを務めた規制改革論者の竹中平蔵(67)らが名を連ねる「諮問会議」で認定する。同じ特区でも、規制に対する突破力は比べものにならない。

 その国家戦略特区を取り仕切っていたのが、内閣府地方創生推進室次長の藤原豊(55)だった。柳瀬と同じ経済産業省出身。構造改革特区の創設にかかわった特区の第一人者で、国家戦略特区でも、手腕をかわれて内閣府に呼び戻された。

 省庁の役職でいえば局長と課長の間だったが、内閣府関係者は「総理や官邸を後ろ盾に権勢を振るっていた」と言う。藤原周辺からは「上司の頭越しに官邸から指示が来た」「特区について官邸に説明に行くのは藤原さん」「総理が出席する特区諮問会議の原稿も書いていた」といった実力者ぶりが聞こえてくる。

 内閣府のある職員は「強引なやり方に反発もあったが、上司も他省庁も何も言えなかった」と明かす。「藤原さんの意向は官邸の意向」。それが内閣府内での共通認識となっていた。

 一五年四月二日、藤原は内閣府で学園や愛媛県、今治市の幹部らと面会し、「国家戦略特区を使って突破口を開きたい」と伝えた様子が県の内部文書に記されている。

 「既存の獣医学部とは異なる特徴を」「ペット獣医師を増やさないような卒業後の見通しをしっかり書き込んでほしい」と指示するなど、藤原のアドバイスはかなり具体的だ。まるで試験官が受験生に答えを教えるようなもの。内閣府の職員は「申請者に提案内容を細かく指示することはありえない」と証言する。

 事情に詳しい政府関係者が批判する。「加計ありきのストーリーを書いたのは官邸。官邸主導で特区の手続きがゆがめられた」(敬称略、肩書は当時)

(2018年8月14日)

 

第1部(7)選定迫り消えた主役 学園の痕跡 議事から隠す

2017年8月、加計学園の出席者名や発言を特区WGの議事要旨に記載していなかったことが発覚し、記者会見で経緯を説明する八田達夫WG座長=東京都千代田区で

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 二〇一五年六月、愛媛県今治市に国家戦略特区を活用して獣医学部をつくりたいという申請が内閣府に出された。申請者に名を連ねたのは県と市だけで、加計(かけ)学園の名前はなかった。

 学園の幹部が県や市の担当者と一緒に首相秘書官の柳瀬唯夫(57)に面会したのは申請のわずか二カ月前。「官邸に県や市を連れてきたのは学園側。学部開設は加計学園が主導した」と政府関係者が言うように、そこまでの主役は学園だった。だが、計画が公の特区選定作業に入った途端、主役の存在は消えていた。

 国家戦略特区選定の第一段階として、申請者は特区ワーキンググループ(WG)のヒアリングを受ける。規制改革派の民間有識者で固めたWG委員のヒアリングは、認定を左右する重要な選定手続きだ。

 県と市が作成した獣医学部特区案に対するヒアリングは、申請翌日という異例の早さで実施された。東京・永田町の合同庁舎七階の会議室。長机を挟んで委員と向かい合った申請者の席には、県や市の担当者と並んで学園の幹部三人が座った。

 「獣医学部設置の相談を(県や市から)受けている。今治市には(学園傘下の)岡山理科大学獣医学部を設置したい」。そう発言したのは学園相談役の田丸憲二(70)だった。

 ところが、内閣府が公表したヒアリングの議事要旨には、田丸の発言はおろか学園の三人の出席者の名前すら載っていない。

 昨年八月、この「加計隠し」が発覚すると、WG座長で大阪大名誉教授の八田達夫(75)は「学園は説明補助者。公式な発言とは認めていない」と抗弁した。

 ヒアリングに同席した内閣府幹部はいずれも「説明補助者」という言葉を聞いたことも使ったこともないという。幹部の一人は「走りながら決めるような状況で、ルールもはっきりしなかった」と証言する。

 別の内閣府職員は特区を仕切っていた地方創生推進室次長の藤原豊(55)の秘密主義ぶりを批判する。「主に動くのは直属の部下。周りへの指示は細切れで、組織全体に情報が伝わるのを避けていた」と明かす。

 首相のトップダウンで規制の突破を狙う国家戦略特区。強権ゆえに権力の私物化を招く危険性をはらむ。首相の安倍晋三(63)が友人に便宜を図ったのではないか-学部開設を巡る疑惑で指摘されるのもその点だ。

 「すべてオープンになっている。一点の曇りもない」。安倍はそう強調するが、関係者の証言からは特区選定過程の不透明な内幕が浮かび上がる。 =おわり

 (敬称略、肩書は当時。この連載は、中沢誠、池田悌一、池内琢、井上靖史、中野祐紀、伊藤隆平、小坂亮太が担当しました)

 (2018年8月14日)

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