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死にたくなければ中国企業を切れ。それでも日本企業は中国を選ぶ

2020年08月17日 23時53分09秒 | Weblog

MAG2 NEWS  2020.07.28  495  by

米英をはじめ世界の主要国の間で、「中国回避網」ともいうべき動きが広がりを見せています。トランプ政権は先日、8月より中国特定5社の製品を使用する企業との取引の禁止を決定。日本企業も大きな方向転換を迫られています。このような状況下にあって、「日本政府も企業ももっと早く中国離れを加速させる必要がある」とするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その理由を詳述しています。

 

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年7月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】いよいよ日本企業も中国企業との取引が生死を分けるときがきた

中国5社製品使う企業排除 米政府調達、日本に影響

 

アメリカ政府は今年8月から、通信機器メーカ-のファーウェイ、ZTE、監視カメラ大手のハイクビジョンとダーファ・テクノロジー、無線機メーカーのハイテラの5社の製品を導入または使用している企業と、アメリカ政府機関が取引することを禁じることになると報じられています。

これにより、この5社の製品や部品を使っている約800社以上の日本企業が、アメリカの政府機関との仕事ができなくなるとされています。

もちろん、アメリカの政府機関との取引ができなくなるどころか、一般企業も、アメリカ政府機関から締め出されるような企業と関わることはリスクになりますから、どの企業とも取引を断られる可能性が出てくるということです。

これらの中国企業は中国の人民解放軍とのつながりも強く、また、情報を盗む仕組みを製品内に仕掛けており、アメリカ政府やオーストラリア政府は、以前から安全保障上の危険性を理由に、取引停止を訴えてきました。

そのため、アメリカは、同盟国にも同様のことを求めてくると思われます。軍事情報や機密情報が、この5社を導入している企業と取引している他国の政府機関から流出する恐れがあるからです。

今回の決定は、2018年8月にアメリカで成立した国防権限法2019を拡大したかたちのものです。この国防権限法2019によって、2019年8月から、上記の中国企業5社は、アメリカの政府調達から締め出されました。

このとき、日本も12月に、日本政府がファーウェイとZTEの製品を政府調達から排除する方針を決定したと報じられました。このとき、菅官房長官はコメントを差し控えていました。

日本政府、ファーウェイ・ZTE製品を省庁から排除へ 報道

しかし、今年の5月には、日本政府がすべての独立行政法人と個人情報を扱う政府指定の法人に対して、重要な通信機器を調達する際に安全保障上のリスクを考慮するよう求めることになったと、複数のメディアが報じました。

このとき、対象とされたのは、日本原子力研究開発機構など87独立行政法人と日本年金機構など政府が指定する9法人、合わせて96法人で、実質的にファーウェイなど中国企業の排除が進められつつあったわけです。

政府:通信機器調達に安全保障上リスク考慮、96法人も対象-NHK

 

そして、今回のアメリカの決定についても、日本政府は歩調を合わせるのは間違いないでしょう。つまり、先の5社の機器を導入している企業は、日本の政府調達からも外されるということです。

7月14日にはイギリス政府も、通信各社に対して、来年以降、ファーウェイの第5世代移動通信システム(5G)の購入を禁止すると発表し、すでに購入していた場合には、2027年までに撤去する必要があるとしました。

 

英政府、ファーウェイの5G設備の排除を指示 2027年までに

すでにオーストラリア政府は、ファーウェイの5Gからの締め出しを宣言しており、また、カナダやドイツでも同様のファーウェイ排除が進みつつあります。こうした西側諸国の動向からしても、日本だけがこの流れから外れるというのはありえないでしょう。

英国・カナダが脱ファーウェイ、容認から一転 NECらに好機

 

おそらく、今年の9月ごろにアメリカで開催されると思われるG7において、各国の中国排除の協調路線が打ち出されるのだと思います。

トランプ大統領はそのG7について、韓国やインド、ロシア、オーストラリア、ブラジルを招いてG12に拡大することを提案しています。これは明らかに中国包囲網の構築にほかなりません。

一方のイギリスは、G7に韓国、インド、オーストラリアを加えた10カ国の民主主義国からなる「D10クラブ」を結成し、次世代通信規格5Gにおいて、中国を除外したサプライチェーンを構築しようとしています。

英国がファーウェイ段階的禁止、10カ国の同盟形成へ

ことが安全保障に関することですから、いくら自国が中国企業の製品を使わないからといって、他国が使用していたら、そこから情報が漏れる可能性があるわけです。そう考えると、こうしたG12やD10の陣営に入るグループと、中国側の陣営に入るグループは、通信においても完全に分断されることになるでしょう。

G12やD10の陣営は、もう中国陣営の国とは通信網を繋げない、といったことも起こる可能性があります。つながっている限り、情報漏えいの危険性があるからです。そうなれば、世界は完全に分断され、両陣営が厚いカーテンで仕切られることになります。

問題は、中国のような一党独裁、情報統制、人権弾圧国家の側に行きたい国が本当にあるのかということです。

かつての東西冷戦の東側陣営には、たとえそれが欺瞞であったとしても、一応は、共産主義という大義名分がありました。

しかし、共産主義を捨てないといいながら、西側の資本主義や自由貿易の恩恵をタダ取りし、さらに人民の人権より共産党の安寧を最優先する国と、どのような大義名分を共有できるのか、きわめて疑問です。

これまで私がこのメルマガでも述べてきたように、習近平が掲げる「中国の夢」は「人類の悪夢」です。完全な監視社会、統制社会という点では、習近平や中国共産党はジョージ・オーウェルの小説『1984』に出てくる「ビッグブラザー」そのものです。

日本政府も日本企業も、もっと早く中国離れを加速させる必要があります。うかうかしていると、西側陣営から外される恐れがあります。今後の中国に、どのような夢があるというのでしょうか。その夢は、我々、民主主義国と共存できるものなのか。熟慮すべき時が来ているのだと思います。

 

新型肺炎 感染爆発と中国の真実 
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2020年6月配信分

  • 朝日新聞が「中国の宣伝機関」としてアメリカに認定される可能性/ゲームの中で展開される反中闘争(6/24)
  • もう歴史問題で韓国を相手にしても意味がない/ついにウイグル化がはじまった香港(6/18)
  • 中国に近づいてやっぱりバカを見たインドネシア/台湾で国民党独裁からの民主化を描いたドラマ解禁(6/10)
  • 中国のアメリカ暴動への関与疑惑が出はじめた/コロナで中国は旧ソ連と同じ道を辿るか(6/03)

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2020年5月配信分

  • 中国制定の「香港国家安全法」が日本の護憲派を殺す/親中カンボジアの「中国に近づきすぎたツケ」(5/27)
  • 中国の恫喝はもう台湾に通用しない/世界が注目する蔡英文の総統就任スピーチ全文(5/20)
  • 「元慰安婦」から反日利権を暴露された韓国慰安婦支援団体/中国から台湾に逃げてくる動きが加速(5/13)
  • アメリカが暴露した中国の悪質な本性/韓国瑜へのリコール投票に見る「コロナ後の台湾」の変化(5/06)

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2020年4月配信分

  • 世界からの賠償要求5500兆円!中国は破産するか/他国へも情報統制を求める中国の卑劣(4/30)
  • 「アベノマスク」も被害。今度は不良品マスクを世界に拡散する中国/フルーツ天国・台湾は日本人がつくった(4/22)
  • コロナ発生源の中国が今度は黒人に責任転嫁/台湾発「WHO can help?」が世界に問いかけること(4/16)
  • もう国民が国内旅行を楽しむ台湾と、緊急事態宣言の日本(4/08)
  • 台湾の民主化とともに歩んだ志村けんさん/死者数の嘘が暴かれ始めた中国(4/01)

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2020年3月配信分

  • 欧州の新型コロナ感染爆発は中国共産党員が原因だった/国内では隠蔽、海外では恩の押し売りを続ける中国(3/26)
  • 習近平の「救世主化」と天皇利用への警戒/小国発展のバロメーターとなる台湾(3/18)
  • 【台湾】新型コロナ対策で注目される台湾の若きIT大臣が日本に降臨!?(3/11)
  • 新型コロナへの対処法は「中国断ち」をした台湾に学べ/新型肺炎の責任を日本に押し付けはじめた中国(3/05)

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2020年2月配信分

  • 『韓非子』の時代から何も変わっていない中国(2/26)
  • 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(2/19)
  • 新型肺炎のどさくさで反体制派狩りをする習近平の姑息/戦後日本の軍事研究忌避が新型肺炎の感染拡大の一因(2/12)
  • 新型肺炎が世界にとって思わぬプラスとなる可能性/疫病のみならず他国に厄災をばら撒く中国(2/05)

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2020年1月配信分

  • WHOを操る疫病発生地・中国の魂胆(1/29)
  • 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(1/22)
  • 中国の目論見がことごとく外れた台湾総統選/ご都合主義の中国が民主主義と人類を危機に陥れる(1/15)
  • 黄文雄メルマガスタッフの台湾選挙レポート(1/13)
  • 文化が残らない中国の宿命/中華にはびこる黒道治国と台湾総統選挙を左右する「賭盤」(1/08)
  • 謹賀新年のご挨拶―激動の年の幕開け(1/01)

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黄文雄この著者の記事一覧

 

台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!

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優雅で危険な「安倍のなつやすみ」臨時国 会から逃げツケは国⺠に︖

2020年08月17日 23時12分10秒 | Weblog


通常国会が6⽉18⽇に閉会して、約50⽇が経過しました。その間に、第2波ともいえる、新型コロ
ナウイルスの感染拡⼤が⽌まらなくなっています。野党が臨時国会の召集を要求するものの、安
倍⾸相は全くその気がないようで、官邸に閉じこもったままです。なぜ安倍⾸相はここまで頑な
なのでしょうか。元全国紙社会部記者で、メルマガ『国家権⼒&メディア⼀⼑両断』の著者・新
恭さんがその疑問に⾔及。⽚⼭前⿃取県知事vs⽥崎史郎&⼋代弁護⼠が、テレビ番組内で激しい
バトル繰り広げた様⼦を紹介しながら、国会を開きたがらない安倍⾸相の⼼の内を説いていきま
す。


解散で頭が⼀杯︖逃げる安倍⾸相に新型コロナの現場混乱


解散・総選挙が頭にあるのか、それとも、ただ単に野党の追及から逃れたいだけなのか。安倍⾸
相は今のところ、臨時国会を開く気がまったくないようだ。
野党は憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を内閣に求め、7⽉31⽇、要求書を衆院に提出した
が、与党側は「審議する法案がない」と⾔って取り合わない。「10⽉以降に召集する⽅向で調
整」(朝⽇新聞デジタル)という報道もあるが、なぜそうなるのか、さっぱりわからない。
国会は法案を通す場で、議論する場ではないというのが、安倍政権の奇妙な信念であるらしく、
いくら東京都医師会の尾崎治夫会⻑が「コロナウイルスに夏休みはない、⼀刻も早く国会を開い
て」と切⽻詰まった声で訴えようが、全国知事会から知事権限強化のための法改正を求める声が
出ようが、おかまいなしなのである。
そもそも、審議する法案がないからといって国会を開かない道理があるだろうか。国会は法を定
める機関であり、そのためにはしっかり議論をしなければならない。コロナ禍で国が未曾有の危
機に瀕しているときに、国会が閉じていることこそ異常であり、最低である。内閣総理⼤⾂たる
もの、⾔われなくとも、「おーい、みんな集まれ」と、召集をかけるのがあたりまえだ。
新型コロナウイルスに適⽤している新型インフルエンザ特措法がすこぶる評判が悪く、⼿直しを
求める声が強い。
知事会は「休業要請に罰則と補償の規定を加えるべき」と政府に要請し、都医師会の尾崎会⻑も
「このままお願いするかたちでは感染の⽕だるまに陥る。法的な拘束⼒のある対策を」と訴え
る。
現場でコロナ対応にあたる⼈たちの声には重みがある。営業の⾃由などの観点から、全く問題な
しとはいえないにしても、国⺠の⽣命と健康にかかわることであり、特措法改正についての議論
は急務であろう。⾃⺠党が憲法改正草案に盛り込んだ緊急事態条項のように拡⼤解釈で⼈権が脅
かされる恐れはないのではないか。


「GoTo」に「アベノマスク」…忘れてほしい失敗だらけ


4⽉の緊急事態宣⾔の発令直後から内閣官房や厚⽣労働省が、特措法改正にむけて内閣法制局と協
議に⼊った旨の報道もあったが、今はどうやら改正に後ろ向きのようである。
というのもやはり、安倍⾸相が国会開催を嫌がっているからに違いない。特措法の改正となれば
国会を開かないわけにはいかないが、「Go To トラベル」キャンペーンとか、今や誰もが欲しが
らぬ「アベノマスク」配布など、巨費を投じたズッコケ⼤事業をやってのけた安倍⾸相として
は、野党が⼿ぐすね引いている場に出て、批判のマトになりたくないのであろう。
しかし、それで済ませてもらっては困るのだ。このままでは、感染拡⼤防⽌と経済活動の両⽴ど
ころか、共倒れになる恐れさえある。この国は、国⺠は、いったいどうなるのか。


遅すぎるコロナ対応を“アベ友”がアクロバティック擁護

 

なぜコロナ対応の法改正できぬ︖ アベ友が苦しい⾔い訳


その意味から⾔うと、7⽉31⽇のTBS「ひるおび︕」における、⽚⼭善博早⼤教授(元⾃治官
僚、元⿃取県知事)の政府に対する怒りの声はうなずけるものであったが、これにジャーナリス
ト・⽥崎史郎⽒や、タレント弁護⼠・⼋代英輝⽒が⽇頃の与党的な視点を堅持して激しく反論し
た。しばし、この⼀幕を振り返ってみよう。
それは、⽚⼭⽒が「特別措置法はちょっと粗いところがあり、改正しなきゃいけないのに、国会
を開かないための理屈ばかりこねている」と発⾔したのをきっかけにはじまった。
⼋代⽒がこう反応した。「国会の本会議を開くと1⽇に3億円ずつかかる。その資⾦を別の⽤途に
まわしたほうがいい。特措法の改正をするとしたら、まず法案をつくって、法制局にかけて、委
員会にかけて本会議ですよね。いま本会議だけ開いても何もやることがないんですよ」
すかさず⽚⼭⽒がつぶやいた。「やりたくない⼈はみなそう⾔うんですよ」。
「別に僕、国会議員じゃないんで」とわめく⼋代⽒を横目に⽚⼭⽒は続ける。
「私はかつて霞が関で法律の改正を何回もやってきましたけども、この種の法律改正はあっとい
う間にできます。やりたくないときに、時間かかる、法制局がどうしたこうしたと⾔うんです。
そんなことウソです。信じちゃいけません」
ここで、やおら⽥崎⽒が⼝を開き、「僕は⽚⼭さん、⾃治⼤⾂の秘書官から存じ上げています
が、優秀な⾃治省の官僚であった」ときた。なにやら不穏な空気である。
「でも、その当時とは今は若⼲違っていて、特措法の改正という場合、論点がいくつもあるんで
す。多省庁にわたる。もう改正作業は始まってるんですよ。でも、かなり時間がかかる」「法案
をつくった後に国会に提出して審議していただくわけですね。いま国会開いても審議する法案が
ありませんよ」
実務を知らない⽥崎⽒が、実務を熟知する⽚⼭⽒にお説教する。知らないから、「違う」とは⾔
わず、「今は違う」と⾔って、条件付き否定するほか⼿がないのだ。
⽚⼭⽒は笑う。「こんなのね、すぐできますよ。そんな⼤それた改正要らないんですよ。やる気
がないからですよ、この期に及んでも時間がかかるのは。秋になって国会開いたとしても、これ
どうなりますか。それまで国会議員の皆さん、みんなステイホーム、ボーナスもらって、⻑期有
給休暇ですよ」
⽥崎⽒「国会はいま週に⼀回やっている」
⼋代⽒「⽚⼭さんのようにすぐできると⾔えば気持ちいいですよ。でも実際はそんな簡単なもん
じゃないと思いますよ僕は」
⽚⼭⽒「簡単です」
⽥崎⽒「いや簡単じゃないと思いますよ」


今あえて「臨時国会を開かない」理由はどこにもない


⼦供の喧嘩みたいだが、冷笑する⽚⼭⽒に他の⼆⼈が意地になって⾷ってかかるのが⾯⽩い。彼
ら⼆⼈が臨時国会開催など無意味だと考える理由は、「法案がないから」。⾃⺠党の⾔い分と寸
分違わない。
法案づくりが⽥崎⽒の⾔うように難しいのなら、国会で与野党をこえて必要な修正点をまとめれ
ばいいではないか。しかも、先述したように、国会で審議すべきは、何も特措法改正だけではな
い。外交、防衛、環境、エネルギーなど多⽅⾯にわたって議論を要する課題が出てきている。コ
ロナ対策だけでも、特措法のみならず、論点は⼭ほどあるはずだ。


「コロナ重症者続出の冬は選挙に勝てぬ」から秋に解散︖

 

過去にもあった国会拒否。安倍⾸相の夏休みは永遠に続く


安倍⾸相は、過去2回、野党の憲法53条にもとづく臨時国会開催要求を拒否した前歴がある。
2015年が1回目。閣僚のスキャンダルや⽇⻭連の政治献⾦問題などで追及されるのを嫌がって、
野党の臨時国会召集要求を蹴り、結局この年は通常国会しか開かれなかった。
2回目は2017年。森友学園・加計学園問題を追及するため、野党が6⽉に臨時国会開会を要求し、
3か⽉以上を経た9⽉28⽇にようやく召集したかと思うと、その⽇のうちに解散した。国会論議は
⾏われずじまいで、安倍⾃⺠党は10⽉の総選挙で⼤勝した。形式上は開会されたことになるが、
これでは臨時国会開催要求に応じたとはいえないだろう。
安倍⾸相が早期の臨時国会を避ける背景として、取りざたされるのが、解散・総選挙をにらんだ
動きだ。⿇⽣財務相があからさまに「解散」をちらつかせているほか、安倍⾸相をめぐる風景も
2017年と似通ってきた。
今年6⽉19⽇、安倍⾸相、⿇⽣財務相、菅官房⻑官、⽢利明⽒らは都内で会⾷した。彼らは2017
年の7⽉にも、⼣⾷をともにしている。
すわ解散総選挙か、とマスコミが⾊めき⽴ったのも無理はない。⿇⽣財務相は6⽉だけで8回も安
倍⾸相に会って、なにごとか密談したといい、公明党の⻫藤幹事⻑に「衆院解散は今秋が望まし
い」と伝えたとされる。
安倍総裁の任期は来年9⽉いっぱい。来年は東京五輪や東京都議選が予定され、解散できるタイミ
ングはほとんどないので、今秋に、ということだろうか。かつて⾸相をつとめた⿇⽣⽒には、任
期切れが迫るまで解散できなかったため⺠主党に歴史的敗北を喫した苦い経験がある。


「コロナ重症者続出の冬は選挙に勝てぬ」から秋に解散︖


7⽉になって新型コロナウイルスが再び猛威をふるいはじめたため、解散への動きも影をひそめつ
つあるように⾒える。ふつうなら解散など、とんでもない状況ではあるのだが、安倍政権に常識
は通⽤しない。冬場には重症者が増えると⾒込めば、まだ重症者が少ないうちの解散チャンスを
狙うだろう。焚きつけ役の⿇⽣⽒もあきらめてはいまい。
それこそ2017年のような、解散のための臨時国会召集ということも、求⼼⼒維持こそ最優先事項
の安倍⾸相なら、やりかねない。議席がかなり減るのは覚悟のうえ、情勢調査で安定多数を確保
できると⾒込めば、国⺠⽣活などそっちのけで、解散に踏み切れる⾸相なのだ。
ただし、相変わらず、安倍⾸相の健康不安説も⾶び交っている。それなら、解散する元気もなけ
れば、国会を開いて答弁に⽴つエネルギーもないかもしれず、解散以前に進退問題となってしま
う。
さしあたり、安倍⾸相が野党の臨時国会召集要求を拒み続けるか、どこかで折り合うかが、今後
の政局を占うカギといえるだろう。

 

新恭(あらたきょう)この著者の記事⼀覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出
し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改⾰を提⾔した
い。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

https://www.mag2.com/p/news/461540

https://www.mag2.com/p/news/461540/2

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森友問題で自殺の赤木さん妻が明かす、責任者がつい漏らした本心

 

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学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当していた財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54)が自殺した問題を巡り、赤木さんの妻雅子さんが、佐川宣寿元国税庁長官と国に約1億1000万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が15日、大阪地裁で開かれました。「真実が知りたい」ただその一心で臨んだ雅子さん。第三者による客観公正な調査を求めるものの、安倍首相や麻生財務大臣に応じる気配は全くありません。元全国紙社会部記者で、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者である新 恭さんが、この口頭弁論の様子を詳細にレポート。文書を改ざんしてまで、責任を免れようとする不誠実な安倍官邸と保身官僚たちの裏を暴いていきます。

 

財務省森友報告書の責任者が明かした公文書改ざんの真相

公文書改ざんを押しつけられた夫は自殺し、財務省、官邸の関係者たちは、責任をとることなく、のうのうと生きている……

森友学園問題で自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫氏の妻、雅子さんは、7月15日、国と佐川宣寿・元財務省理財局長を訴えた裁判の第1回口頭弁論で陳述し、無念の思いをぶちまけた。

「夫は改ざんしたことを犯罪と受け止め、国民の皆さんに死んでお詫びすることにしたんだと思います。安倍首相は自分の発言と改ざんには関係があることを認め、真相解明に協力して欲しい。安倍首相、麻生大臣、私は真実が知りたいです」

 

いまだに明らかになっていない真相。国はすべてを知っているはずなのに、核心部分をぼかし、2018年6月4日「決裁文書改ざん調査報告書」なる財務省の内部調査結果を公表して、お茶を濁した。

報告書をまとめた責任者は、当時の財務省秘書課長、伊東豊氏(金融庁監督局審議官)だ。省内の職員や官邸出向組のほか、OBも含めてヒアリングをしており、事実関係を最も知り得る立場にあった。

赤木雅子さんは、裁判開始と時期を合わせて出版した「私は真実が知りたい」(相澤冬樹・元NHK記者との共著)において、伊東氏から直接聞いた証言を公開している。調査報告書では安倍首相の国会発言と文書改ざんの関係を明確にしていないが、雅子さんに対しては本心を漏らしていたのだ。

その内容にふれる前に、報告書ではどのように書かれていたかを確認しておこう。以下は、そのポイントとなる部分だ。

◇17年2月17日の衆議院予算委員会で内閣総理大臣から、本人や妻がこの国有地払い下げに一切関わっていないことは明確にしたい旨の答弁があった。

◇17年2月24日の衆院予算委員会で、本省理財局長は「売買契約に至るまでの近畿財務局と森友学園との交渉記録というのはございませんでした」「面会等の記録につきましては残っていないということでございます」と答弁した。

◇本省理財局の総務課長から国有財産審理室長および近畿財務局の管財部長に対し、総理夫人の名前が入った書類の存否について確認がなされた。…理財局長はそうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。具体的な指示はなかったものの、総務課長と国有財産審理室長は決裁文書の公表を求められる場合に備えて記載を直す必要があると認識した。

つまりこういうことだろう。「妻と私が関係していたら議員も総理もやめる」という安倍首相発言のあと、近畿財務局と森友学園との交渉記録などを野党に求められた佐川局長は「記録は一切残っていない」と答弁した。

 

総理夫人の名が記された書類があるかどうか確認したら、あることが判明した。佐川局長は「記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきである」と省内で語り、それを聞いた総務課長らは決裁文書の書き換えが必要だと認識した。

 

この報告書にカラクリがあるのは言うまでもない。安倍首相発言を佐川局長がどのように受けとめたのか。佐川局長の「記録はない」という国会答弁や、理財局の部下たちへの「記載のある文書を外に出すべきではない」発言は、安倍首相への忖度によるものか、それとも官邸から働きかけがあったのか。佐川局長は総務課長らに文書の書き換えを具体的には指示していないというが、指示していないのなら、「具体的には」は不要だろう。肝心なところが省かれたり、ボカされたりしている。

 

むろん、これで雅子さんが納得できるわけがない。著書「私は真実が知りたい」に、伊東氏が2018年10月28日、調査報告書について説明するため赤木さん宅を訪れたときの会話内容が書かれている。雅子さんがICレコーダーで録音していたものだ。雅子さんが、安倍首相の発言が文書改ざんに関係があるのかどうかを問いただすと、伊東氏はこう話した。

「国会が、まぁある意味延長したのは、あの発言があったから。野党は安倍さんの首を取りたくて…あれでまぁ炎上してしまって。で、理財局に対するいろんな野党の『あれ出せ、これ出せ』っていうのもですね、ワーって増えているので、そういう意味では関係があったとは思います。炎上しなければ別にそんなに、何か無理しなくても…」

安倍首相の国会発言があって、野党が財務省に資料を出すよう激しく騒ぎ立てた。佐川局長はひとまず「ない」と突っぱねたが、昭恵夫人の関与をうかがわせる記載があるなら、無理にでも書き換えさせておかねば、と考えた。そういう意味で、首相発言と文書改ざんは関係があったということなのだろう。

 

首相発言を受けて財務省理財局が改ざんに動いたというのは、もはや世間一般の見方ではあるが、この伊東発言によって初めて裏付けられたと言っていいのではないか。

だが、関係があることはわかったにせよ、どのように首相発言から改ざんに至ったのか具体的な経緯がいま一つはっきりしないのも確かだ。

首相発言のあとの一連の流れ。佐川氏が「記録はない」と答弁し、本省の指示で近畿財務局が改ざん作業を進める。これが、「阿吽の呼吸」や「忖度」のたぐいで、黙々と進められるようなことが果たしてありうるだろうか。

17年2月17日の衆院予算委員会。安倍首相の発言を聞いた佐川氏は驚愕したに違いない。佐川氏は鑑定価格9億円余の国有地を8億円以上値引きして森友学園に売却した件で、野党の質問攻勢を受け、国会対応に苦慮していた。そこに、「関係していたら辞める」と首相が言い放ったのである。野党の追及がさらに強まるのは火を見るよりも明らかだった。

たまたまこの日は首相発言に関する佐川氏への質問はなかったが、今後の国会対応を思うと、ほっとしているヒマはない。佐川氏は、すぐに部下に安倍首相夫妻の関与をうかがわせる文書があるかどうか、調べさせたのではないか。もし、そんな文書が流出したら大騒ぎになり、理財局長としての自分の立場も危うくなる。

案の定、不都合な文書があった。近畿財務局が作成した決裁文書だが、当然、本省も共有している。

◇平成26年4月28日 (森友学園との)打ち合わせの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。

これはマズイ、と佐川局長は思ったはずだ。同年2月24日の衆院予算委では、「交渉記録あるいは面会記録、全て残っておりますね」と共産党の宮本岳志議員から質問され、「交渉記録というのはございませんでした」と答弁してその場をしのいだ。「ある」と答えたら「出せ」と言われる。「ない」で通せればいいが、昭恵夫人の記載箇所をそのまま残しておくのは不安だっただろう。

とはいえ、公文書改ざんが佐川氏の独断だったというのは、いささか早計である。総理の不用意な発言をカバーするため、順調に出世してきた幹部官僚が自発的に違法行為を指示するとは思えない。

おそらく、不都合な決裁文書の存在を確認するや、佐川氏は当時の政務担当総理秘書官、今井尚哉氏(現・首相補佐官)に知らせ、取り扱いについて判断を仰いだのではないかと、筆者は疑っている。

 

今井氏は総理夫人付きの職員を通して昭恵夫人をサポートする立場だった。影の首相とまでいわれる凄腕の秘書官だ。首相に不利になる文書があると聞いたら、改ざんしろとは言わないまでも、「何とかしろ」と迫ったに違いない。そうなると、佐川局長は逆らえない。上昇志向の強い典型的高級官僚のサガである。

 

文書改ざんの指示は、理財局国有財産審理室の杉田補佐から近畿財務局に伝えられた。赤木俊夫氏が書き残した「手記」に以下の記述がある。

 

◇元は、すべて、佐川理財局長の指示です。局長の指示の内容は、野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました。…杉田補佐が過剰に修正箇所を決め、杉田氏の修正した文書を近畿局で差し替えしました。

近畿財務局で杉田氏から修正指示を受けたのは池田靖統括官である。池田統括官は森友学園に国有地を売却したさい、交渉の責任者だった。赤木氏は交渉当時は他の部門にいて、いきさつを知る立場にはなかったが、その後、異動して池田統括官の部下になっていた。

池田氏は改ざんの作業をほとんど赤木氏に押しつけたとみられる。赤木氏は抵抗したが、近畿財務局長はゴーサインを出した。「手記」に、ありありとその様子がうかがえる。

 

◇楠管財部長に報告し、当初は応じるなとの指示でしたが、本省理財局中村総務課長をはじめ田村国有財産審理室長などから楠部長に直接電話があり、美並近畿財務局長に報告…美並局長は、本件に関して全責任を負うとの発言があったと楠部長から聞きました。…本省からの出向組の小西次長は、「元の調書が書き過ぎているんだよ。」と、調書の修正を悪いこととも思わず…杉田補佐の指示に従い…

赤木氏の苦悩を見続けた雅子さんは、率直な思いをありのまま「私は真実が知りたい」に書き綴った。

◇トッちゃんは、自分が罪に問われることを恐れていた。ことあるごとに「大変なことをさせられた」「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」「最後は下っ端が責任を取らされる」「ぼくは検察に狙われている」とおびえていたことを、よく覚えてる。

2018年3月2日、朝日新聞が「森友文書 書き換えの疑い」とスクープ記事を掲載。スマホでこの記事を見た雅子さんは「この人のやらされたこと、これだったんや」とすぐわかった、という。

3月7日、赤木俊夫さんは「雅子へ これまで本当にありがとう ゴメンなさい 恐いよ、心身ともに滅いりました」との遺書を残し、自宅で首をつって亡くなった。若い二人の部下には改ざんを手伝わせず、一人で背負いこみ、苦し
みぬいた末の死だった。

雅子さんから見れば、俊夫さん一人を犠牲にして、財務省と近畿財務局は組織を守ることに汲々としてきた。上司たちが次々と弔問に訪れたが、遺書を雅子さんが世間に公開するのを心配したり、メディアを避けるべきというアドバイスをするばかりで、真実は何一つ語られなかった。

なぜ夫は死ななければならなかったのか。雅子さんは、財務省の内部調査ではなく、第三者による客観公正な調査を求めているが、安倍首相や麻生財務大臣に応じる気配は全くない。

だからこそ、政官の巨大権力に押しつぶされそうになりながらも、真相解明を求める35万人の賛同者に励まされ、雅子さんは勇気をふりしぼって、大阪地裁に損害賠償請求訴訟を提起したのだ。

 

冷淡で不誠実な安倍官邸と保身官僚たち。正しくありたいと願う一人の職員が自ら死を選んだというのに、素知らぬ顔でウソをつき、文書を改ざんしてまで、責任を免れようとする。権力の堕落は目を覆うばかりだ。

image by:安倍晋三公式Facebook

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小沢一郎が動いた。「民主主義を守る」立憲・国民の合流新党は日本を救うか?

MAG2 NEWS 国内   2020.08.14  306  by

 
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  安倍政権に批判的な有権者の受け皿として大合流が期待されていた立憲民主党と国民民主党ですが、蓋を開ければ国民側が分党した上で、賛成派のみが立憲と合流するという結果となりました。この「小規模合流」については期待外れとの論評も上がっていますが、「国民民主党代表の玉木氏の労を多としたい」と評価するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』にその理由を記すとともに、新党への国民の目線を刷新する必要性も訴えています。

 

立憲と国民の合流新党が、日本の「ラストチャンス」に?

党名をめぐって難航していた立憲民主党と国民民主党の合流がやっとのことで、実現しそうだ。

立憲民主党の福山哲郎幹事長が8月7日、国民民主党と合流する場合の新党名を「国会議員の投票で決める」と表明したからだが、国民民主党側はすんなり全員とはいかず、「分党」したうえ、となるらしい。

8月11日に「分党」の方針を表明した国民民主党の玉木雄一郎代表は「消費税減税など軸となる基本政策について一致が得られなかった」と理由を説明した。

 

政策の違いはもちろんある。消費税は、国民が5%へ減税、立憲は引き下げに慎重。原発は、立憲が即時ゼロ、国民は2030年代ゼロ。憲法改正については、国民が積極的に議論すべきとし、立憲は9条改正に断固として反対する。

しかし合流の目的は、野党勢力の大きな塊をつくるため政策の違いを超えて結束することにある。それは、誰もが分かっているはずのことだ。どうしても立憲と一緒になるのは嫌だというのは、政策よりむしろ、感情的なしこりがあるからとしか思えない、

立憲の枝野幸男代表と袂を分かったばかりの山尾志桜里議員などは、どういう考えなのだろうか。枝野代表が国民民主党に対し上から目線だと反発してきた面々はさて…。

玉木代表は立場上、残留組と行動をともにするようだが、誰が立憲と合流し、誰が別行動をとるのか、仔細が決まるのは、お盆休みが明けてからだろう。

立憲サイドには、意見対立でゴタゴタが続いた民主党時代と同じ轍を踏まないためにも「分党」は歓迎、という声もあるようだが、小さな規模の合流になってしまっては、野党結集のうえで物足りない。

「党名」をどうするかが問題のはずだった。立憲民主党がそのまま「立憲民主党」を提案したのに対し、政党支持率がかなり劣る国民民主党は「無記名投票による決定」を主張、合流目前のところで足踏みしていたのを、立憲が歩み寄り、これで万事うまくいくように見えた。

投票案受け入れを発表する前日の8月6日、立憲の枝野代表が国会内で小沢一郎氏(国民民主党)と会談している。

懸案となっている新党名の決め方について、小沢氏は枝野氏に対し、「党名を投票で決めると決断してほしい」と要請。枝野氏は「もうしばらく考えさせてもらいたい」と応じたという。(朝日新聞デジタル)

小沢氏は、党名にこだわるよりも、いま大切なことをやり遂げようと説得したに違いない。このままでは野党の弱体がいつまでも続き、堕落した安倍自民党政権を生き延びさせてしまう。野党の連合が必要だ。まずは立憲と国民が一つの党になって、野党連合の核をつくらねばならない、と。

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image by: kyouichi sato / CC BY

枝野氏が即答できなかった気持ちは、わからぬでもない。「週刊新潮」2020年8月6日号の記事における野党担当記者の解説がいい所をついている。

「両党が対等に解散して一緒になる新設合併方式や、新党の略称を『立民』ではなく『民主党』とすることで、すでに国民側に譲歩しているという思いがあるから。これ以上、玉木さんに歩み寄りたくないんですよ」(野党担当記者)

何も枝野氏だけの思いではないだろう。要は、立憲は国民民主党を“吸収合併”したかったのだ。国民の玉木代表があくまで“対等合併”を主張して譲らなかったため、枝野氏は党内の強硬派を説得し、両党とも解散のうえ新党を結成する案を提示した。それが、新設合併方式だ。

 

これで、吸収も対等もなくなったはずだが、枝野氏が提示した党名案に国民側としてはひっかかった。新党の名称を「立憲民主党」とし、通称・略称を「民主党」とする。「民主党」は国民民主党の略称だ、立憲は譲歩したのだと言われても、国民側とすれば、「立憲民主党」を正式名称とする以上、イメージとしてはいかにも吸収合併のようでイヤな感じは拭えない。

 

党名はどうなる?国民側が「投票による党名決定」にこだわる事情

そこで国民側が出してきたのが「投票による決定」だ。投票なら、たとえ結果として「立憲民主党」に落ち着こうとも、あくまで民主主義手続きで決まったのであって、立憲に吸収されたのではないと説明できる。

 

国会議員の投票となれば、数の多い立憲民主側の意向が反映され、新党名は「立憲民主党」になると予測はつくが、むしろそれゆえにこそ、国民側としては、決定過程が見える「投票」の手続きが欠かせない。

一方、合流協議を進めながらも、枝野代表の思いは複雑だ。立憲民主党の成り立ちからして、先祖返りのようなことをしたくないのは山々だったに違いない。

これまで国民民主党と意識的に距離を置こうとしてきた枝野氏の姿勢と、その転換過程を振り返っておこう。

 

2017年秋の衆院選を前に、前原民進党の合流先「希望の党」を率いた小池百合子氏のいわゆる“排除の論理”で誕生したのが立憲民主党だ。枝野氏が苦悩の中から一人で結党会見して立ち上げた新党だった。

カネも組織もない新党に、立候補者が続々と集まってきた奇跡を、我々は忘れることができない。永田町の権力闘争とは別次元の政治風景。安保法制や共謀罪などに反対する市民連合が後押しし、草の根の力がみなぎっていったのは、自然の流れだった。

捨てられた者たちの辛酸と再生のドラマが人々の瞼にいまだ焼き付いている現時点で、あたかも元の鞘におさまるかのような政治行動にまとわりつく無念さ、後ろめたさ。枝野氏の心の揺れは、新設合併方式と党名案を国民側に提示し、7月16日の記者会見に臨んだとき、明瞭な言葉で吐露された。

「今回、お示ししたパッケージとしての提案は、ゼロから立ち上げた立憲民主党をこれまで草の根から支えてきていただいた皆さんの信頼と期待に応えつつ、政権の選択肢として幅広い力を結集する責任を果たす、という両立困難ともいえる命題を解決する上での苦渋の判断に基づくものです」

両立困難な命題を解決する苦渋の判断。重い言葉である。国民との合流は、草の根から支援してくれた人々の思いに反するのではないかという自問自答。それは今でも枝野氏の胸から消えてはいない。しかし、野党結集という大局に立ち、政権奪取に向かわなければ、いつまでも万年野党に甘んじなければならない。立憲民主党が動かないと、野党結集などできるはずがないのだ。

立憲民主党が合流に向けて一歩を踏み出したのは、昨年夏の参議院選が終わってからだった。9月19日、立憲民主党、国民民主党、社会保障を立て直す国民会議の野党3党派の代表、幹事長6人が一堂に会したさい、衆・参両院で統一会派を組むことに合意したのである。

枝野氏が貫いてきた「永田町の数合わせにはくみしない」という姿勢が、これによって崩れた。「こうした戦い方が必要なフェーズに入った、ステージが変わったと思っている」と枝野氏は語った。

方針転換の背景には、参院選における「れいわ新選組」の躍進があった。立憲は議席こそ増やしたが、比例代表では、2017年の衆議院選挙より300万票以上も得票を減らした。一方、れいわ新選組が比例代表で228万票を獲得、安倍批判票の受け皿たらんと自負していた立憲に衝撃を与えた。

つねに野党結集を唱え、枝野氏の決起を促してきた小沢一郎氏は、こう語った。

「枝野さんは立憲民主党の将来に、かなり過大な見通しを持っていたが、山本太郎君が率いる『れいわ新選組』が参議院選挙で出した結果に、非常に影響を受けた」「この結果を見て大きく認識を改めたようだ。山本太郎君に表彰状を出さなくちゃいかん」(2019年10月2日、NHK政治マガジンより)

統一会派結成が決まると、枝野氏は小沢氏に会った。かつては反小沢の急先鋒だった枝野氏も、野党共闘については小沢氏を橋渡し役として頼りにするほかない。

小沢氏は統一会派結成にさいし、立憲との合流を嫌う国民の議員を説得して回った経緯がある。会派の結成だけでは不十分で、政権奪取には両党の合併が不可欠だと主張していた。

 

党の合流について小沢氏と話し合った枝野氏は2019年12月6日の野党党首懇談会で、国民民主党、社民党、野田佳彦元首相ら無所属議員に、会派だけではなく、党も合流しようと呼びかけた。立憲・国民両党の合流協議は、こうして今に至る。

息絶える寸前の「日本の民主主義」を守るためすべきこと

新党の党名を「代表選挙と合わせて国会議員による投票で決める」という立憲民主党が示した案は、国民民主党の主張に沿ったものだ。玉木代表が賛同しない道理はないはずだが、合流そのものに反対する人々が思いのほか多かったようだ。

 

政策の不揃いは明白である。連合の利害がからむような政策、たとえば立憲民主党の原発ゼロ政策は、電力総連が忌み嫌うものだ。電力総連は国民民主党の支持母体だし、同党の小林正夫総務会長は電力総連の出身である。

だが“しがらみ”に囚われていると、ロクなことはない。今は、利害とか人間関係の枠を飛び越える時だ。

「政策のすり合わせも必要」と玉木氏は言い、“船長”の責任において、合併反対派とともに党に残留する。不完全燃焼のようではあるが、とにもかくにも、合流を実現させたという意味で、玉木氏の労を多としたい。

 

間違いなく、新党は、あの民主党に先祖返りしただけとか、また失敗を繰り返すのかとか、人々を期待薄に誘う論評にさらされるだろう。

それでもいいではないか。民主党政権の失敗。その本質はどこにあったのかを総括し、多様な党内議論を一つにまとめる知恵をもって、再生のための壮大なチャレンジをしてもらいたい。

 

一度は実現するかと思われた二大政党制が民主党政権の失敗で崩壊し、安倍一強政治のもと、長い年月が流れた。もう一度、野党勢力の大きな塊をつくらねば、ほんとうにこの国の民主主義は息絶える。新党を見る国民の目線も刷新する必要があるのではないだろうか。

image by: 高井たかし - Home | Facebook

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日本終焉レベルの大問題。iPS細胞10億円支援打ち切りという愚行

2020年02月12日 00時30分10秒 | Weblog
 
 

日本が世界に誇るiPS細胞研究に暗雲が立ち込めています。先日、政府が京都大学に、iPS備蓄事業に対する年間10億円の予算を打ち切る可能性を伝えたことが報じられました。なぜ国は、自ら日本の未来を潰すような愚行に出るのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、今回の決定に至る背景には「生産性」ばかりを追求するという昨今の流れがあるとし、研究費打ち切りについては「人の命とカネを天秤にかけたようなもの」と厳しく批判しています。

 

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

科学の地盤沈下に拍車をかける政府の愚行

19日火曜日、拒絶反応が起きにくい再生医療をめざす京都大学のiPS細胞の備蓄事業について政府が年約10億円を投じてきた予算を打ち切る可能性を京大側に伝えたことがわかりました。

 

この一方が報じられる数日前、山中伸弥所長京都大学iPS細胞研究所)が記者会見を開き、予算打ち切りにふれ「いきなり支援をゼロにするのは相当に理不尽」と憤りを見せていたのですが、悲しくもそれが現実になってしまったかっこうです。

報道によれば企業ニーズとの違いが浮き彫りになったことが背景にあるとのこと。京大が進めている事業化への方針だと、多額の費用と試験の手間がかかると企業側が判断したというのです。

しかしながら、決定の通知は一方的。山中所長によれば、「国の決定には従う。だが公開の議論と別のところで話が決まってしまう。理由もよくわからない」とのことでした(11日の記者会見で)。

つまり、研究者サイドが「もうちょっとしっかり芽を育てた方が、事業が広がっていく」と訴えているのに対し、国は「今のままでいいじゃん。あとはキミたちでひとつよろしく!」と突き放した。「企業のニーズ」という体のいい言葉は、「このままじゃもうからない」と同義で。「どんどん儲かるように進めていかなきゃダメっしょ!」と、研究より商売を優先したのです。

…んったく。今までもさまざまな分野で、研究者の知見が最後の最後で捻じ曲げられ、研究者を軽視する姿勢に辟易していましたが、今回の決定は「人の命とカネを天秤にかけたようなもの。

このままでは日本に愛想を尽かし、優秀な頭脳はみな海外に流出してしまいます。既にそういった空気はあちこちで漂っていますし、このままでは山中教授だって日本に愛想を尽かしてしまうかもしれません。

いずれにせよ、今回の政府の決断は日本の科学力の衰退に拍車をかける愚行です。日本の世界における科学分野の相対的な地位が年々低下していることは、みなさんもご存知のとおりです。

2017年に英科学誌「ネイチャー」(3月23日号) に掲載された「Nature Index 2017 Japan」というタイトルの論文によれば、2005年~15年までの10年間で、日本からの論文がほぼすべての分野において減少傾向にあることがわかりました。

例えば、ネイチャー・インデックスという高品質の自然科学系学術ジャーナルのデータベースに含まれている日本人の論文数は5年間で8.3%も減少。この期間に世界全体では論文数が80%増加したのに対して、日本からの論文はたったの14%しか増えてないこともわかっています。

しかも、日本の若手研究者は研究室主催者(PI: principal investigator)になる意欲が低く、「研究者の育成も期待できない」という有り難くない指摘まで海外の研究者にされてしまったのです。

もっとも、研究費は少ない非正規雇用で短期間で成果をださなきゃいけない――。そんな状況で「研究者魂の火」を燃やし続けることなどできるわけがありません。

ノーベル賞を日本人が取ると、国はまるで自分たの手柄のように振舞いますが、それは先人たちが教育を大切にしてきたからこそ。明治時代に日本に来た外国人は、日本人の識字率の高さや学校における教育の質の高さに感銘をうけたといいます。

 

大学にもたくさんのカネをつぎ込み、研究者が育つ土壌を作ってきたことが、何年もの歳月をかけてやっと今花開いている。なのに…カネは出さない、でも成果は欲しい。そんな日本のお偉い人たちは自分たちがやっていることが日本を弱体化させていることに気が付いていないのです。

 

そもそも「生産性」という、研究と全く相容れないものを、大学という学問の場に持ち込んだのが衰退の始まりです。大学に競争原理を持ち込み、「選択と集中」だのとカネを稼ぐことに躍起になったことが、「日本の土台を崩壊させたのです。

 

おそらく「生産性命」の方たちは、勉強と学問の違いがわかっていないのだと思います。

勉強とは誰かが作った野菜を集め、売れるように盛り付け、世に出すこと。一方の学問は、どこの土地に、どんなタネをまくか?を考えることから始まります。どんな肥料を使えばいいのか?嵐が来た時にはどうすればいいのか?と様々な可能性を考え、試行錯誤し、失敗を繰り返しながらも、オリジナルの野菜を育て上げます。

そして、野菜が収穫できるようになったら、今度はその持ち味を最大限に活かせるサラダはどういうものかを考え、オリジナルの器にいれ、きれいに盛り付ける。

 

こういったすべてのプロセスをきちんと丁寧に繰り返し行うことで、世の中に役立つものを創りだしていく。これが学問です。

当然ながら時間もコストもかかります。途中でめげそうになることだってあります。それでも自分を信じ、どこから突かれても崩れないだけの知見とスキルを磨き続ける。学問に終わりはないし研究にも終わりはないのです。

それを成し遂げるには国の支援は必要不可欠です。お金がなければ大学の研究は成り立たないし、研究者も育たない。

にもかかわらず、大学の研究費を減らし続け、やっと芽が出てこれからだ!と熟成させているところで、「企業のニーズに合わない」と突き放しているのですから全くもって理解できません。

政府には地盤沈下に拍車をかける愚行を早急に是正してほしいです。心から願います。

みなさんのご意見もお聞かせください。

 

image by: Flickr

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

 

安倍官邸にハシゴを外された山中教授iPS事業は米国に潰される

著者: 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

 

以前掲載の「日本終焉レベルの大問題。iPS細胞10億円支援打ち切りという愚行」でもお伝えした通り、一時は国に見限られかけた山中伸弥教授らが進めるiPS細胞ストック事業。幸いその「暴挙」は見送られることとなりましたが、そもそも安倍官邸はなぜ日本がリードするiPS研究のサポートを取りやめようとしたのでしょうか。そしてiPS事業は今後、どのような道を辿ることになるのでしょう。元全国紙社会部記者の新 恭さんが今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で探っています。

 

一度は官邸に見限られた山中教授iPS事業の将来はどうなる?

日本が誇るノーベル賞受賞者、山中伸弥教授のiPS細胞研究はこの先、どうなっていくのだろうか。

ゲノム編集などの遺伝子技術が進歩し、再生医療でも新たな潮流に注目が集まる昨今、週刊誌や一部ネットメディアでiPS細胞研究の厳しい現状にふれた記事が散見されるが、1月29日の参議院予算委員会でかわされた質疑応答を見ていて、いっそう不安が募ってきた。

その委員会に、昨年末、「不倫出張」とやらで週刊文春のネタにされた内閣官房健康医療戦略室、大坪寛子次長の姿があった。委員会に呼んだのは立憲民主党の杉尾秀哉議員である。

 

杉尾議員は問題の出来事について、大坪氏の認識をたしかめた。

「去年の8月9日、京都大学iPS研究所(CiRA)を和泉総理補佐官とともにたずねて所長の山中伸弥教授と面会された。その時は、あなたと補佐官と山中教授だけでしたか」

和泉総理補佐官とは、「総理は自分の口から言えないから私が代わって言う」と、加計学園の獣医学部新設を早く認めるよう前川喜平・元文科事務次官に圧力をかけた、あの和泉洋人氏のことである。和泉補佐官は健康医療戦略室の室長も兼ねているのだ。

大坪氏は「3名だけで、意見交換をしました」と言い、その内容を問う杉尾氏に、こう答えた。

「iPS細胞ストック事業の着実な実用化のためにどういった支援の在り方があるかということで、現在取り組んでいる事業の状況、今後の見通しなどについてのご意見をうかがった」

ノーベル賞で騒がれたのはだいぶ前なので軽くおさらいすると、iPS細胞は患者自身の皮膚や血液からつくる万能細胞(多能性幹細胞)のこと。目や心臓、神経細胞など身体を構成するほぼすべての種類の細胞に分化する能力がある。しかも、他人の細胞を材料にするわけではないため、拒絶反応が起きにくい。

ということで、夢の再生医療への期待が高まった。だが、ご多聞に漏れず実用化には困難がつきまとう。患者自身の皮膚などから細胞をつくって、それをガン化することなく移植できるほどにするには数千万円ものコストと長い時間がかかる。

そこで始めたのが「iPS細胞ストック事業」というもの。免疫作用も人によって様々なようで、ごくまれに他人に細胞を移植しても拒絶反応が起きにくい免疫タイプの持ち主がいるらしい。そういう人からiPS細胞をつくって備蓄しておこうというのがこの事業の目的である。

京都の物見遊山はともかく、和泉補佐官と大坪次長が、山中教授を訪ねたのには深いわけがあった。杉尾議員の質疑を続けよう。

杉尾 「この話し合いの中で、iPSストック事業を法人化するという合意が山中教授との間でできたという認識でいいですか」

大坪 「それ以前に山中教授のほうからストック事業を法人化したいとご提案があったと承知している。合意というか、提案を了承しています」

杉尾 「法人化に当たっては国費を充当しないと言いましたか」

大坪 「内閣官房からストック事業に対して国費の充当をゼロにするといったことはありません」

iPS細胞ストック事業に対し、国は13億円ほどを助成している。各府省の概算要求を前に、和泉補佐官と大坪次長はそれをゼロにすると告げる密命を帯びて京に向かい、たしかにその役割を果たした。

昨年11月11日、日本記者クラブの会見における山中教授の次の発言がそれを物語っている。

「一部の官僚の方の考えで国のお金を出さないという意見が入ってきた。いきなりゼロになるというのが本当だとしたら、相当理不尽だなという思いがあった」

 

実名こそ出さないが、山中教授の思いは明らかに、和泉補佐官、大坪次長に対して向けられていた。「官僚の方に十分説明が届いていない」と、自己反省を含めた柔らかな言い回をしたところも、山中教授らしい憤りの表明だった。

 

その後、山中教授が大臣たちと面会したり、議員の会合に出席したりして、国の支援の継続を訴えたのが功を奏したのか、結局、政府はiPS細胞ストック事業への助成を継続することに方針を戻したが、いったん官邸サイドが山中教授を見限ったのは間違いない。

 

杉尾議員は官僚が書いたらしい令和元年8月9日付けのメモを取り出した。

「iPS細胞ストック事業法人化の進め方というタイトルのペーパーで、機密性情報と書いてある。いまのCiRAを二つに分割する。一つは狭義での基礎研究を引き続きCiRAで実施する。もう一つはiPSストック事業を推進する公益財団法人を新設する。3番目には、新設の法人には国費を充当しない、と書いてある…問題のストック事業に昨年、国から投じられたのは13億円。これをやめるということではないんですか」

それでも、大坪次長は「ストック事業に対して国費の充当をゼロにすると言ったことはない」とシラを切り通した。

 

筆者はこのやり取りを見ていて、不思議に思った。そもそも、iPS細胞はアベノミクス成長戦略の目玉だったはずではないか。2012年に山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞し、iPS細胞への世間の関心が一気に高まり、その流れに乗るように翌13年1月、政府は再生医療に10年で約1,100億円の研究支援を決定した。

再生医療には、ES細胞や体性幹細胞を使うものもある。だが、安倍政権はiPS細胞に偏った資金投入を続け、山中教授は少なからず他の研究者たちの妬みと反感を買ったかもしれない。不満の声を受けて、自民党内に見直しの議論が起こったのも事実だ。

だからといって、一度は国を挙げて応援しようとした研究や実用化事業に見切りをつけ、官邸主導で、そこに投じてきた資金を打ち切ろうとしたのは、ただごとではない。その背景に何があるのだろうか。

それを考えるうえで、参考になるのはネットメディアNewsPicksの連載記事「iPSの失敗」だ。

「iPSバンクの細胞は品質が安定せず、治療にはまだ到底使えない」専門家たちはそう評価を下す。…世界市場を見ている医療産業界は、このバンクの使用を敬遠している。あまり知られていないことだが、iPS細胞をつくる際に使う遺伝子など6つの因子のうち、当初は一部の特許がアメリカ製だった。これをメード・イン・ジャパンにせよという政府の号令がかかり、1因子を日本製の別のものに変更している。これにより作製の効率が悪化していったというのが実態だ。莫大な資金投入が無駄になる可能性が見えているし、この国のiPS細胞は、いつの間にかガラパゴスと化していたのだ。

このような文章で問題提起をしたうえで、14年まで京大に在籍し、iPS細胞の大量生産技術の開発に長らく関わってきた仙石慎太郎・東京工業大学准教授らへの取材と、下記の5人の専門家へのインタビューで、記事を構成している。

  • 2014年に世界で初めてヒトにiPS細胞を移植した高橋政代・元理化学研究所プロジェクトリーダー
  • iPS研のバンクの細胞を使用しない意向を明らかにしているアステラス製薬執行役員、志鷹義嗣氏
  • iPS研設立当時の京大総長、松本紘・理化学研究所理事長
  • 山中の才能に目をつけ、京大再生医科学研究所に受け入れた当時の所長、中辻憲夫氏
  • 2018年まで京大iPS細胞研究所にいた神奈川県立保健福祉大学教授、八代嘉美氏

全員のインタビューを紹介することは、どだい無理なので、八代嘉美教授の見解に注目してみたい。以下はその一部だ。

「iPSは結果的に、再生医療の産業化に偏重した。有用性を訴えた方が、お金を出してもらいやすいというのは、どうしてもあります」

「本来、基礎研究をじっくりやる場として、京大iPS研はあったと思います。山中先生に限らず、他のノーベル賞受賞者もみな、基礎研究の重要性については、首相や文科相に対し、事あるごとに訴えています。しかし、『何々の分野への重点的な投資を支持した』という話しか出てきません。そういう中にiPS細胞もはまり込んでしまった」

 

どうやら、安倍成長戦略との一見、有利な結びつきが、やたら実利を追わねばならぬプレッシャーとなり、かえってiPS研究の進展を阻害したようである。

 

かつて官僚と族議員に支配されてきたこの国の統治機構は、7年余りに及ぶ安倍長期政権の間に、政治主導の名のもと、いびつな首相官邸独裁に変貌を遂げた。

 

仰々しいスローガンを乱発する安倍首相の大好きな言葉の一つが「国家戦略」である。縦割り発想、省益優先の省庁に横串を通し国家戦略を実行するというふれこみで官邸に設けられている「〇〇戦略室」「〇〇推進室」「〇〇本部」はどこまで役に立っているのだろうか。

首相、官房長官に直結する「健康・医療戦略室」の昨今のふるまいから見えるのは、山中教授が安倍首相ら政権首脳に実利的成果を急がされた挙句、ハシゴを外されかけている構図だ。

アベノミクスにかかわりなく、基礎研究に十分な投資を政府がしてくれていればいまのiPS研をとりまく風景はずいぶん、違ったものになっていたのではないだろうか。

 

AERA19年12月16日号によると、山中教授は「iPS細胞を使った臨床研究では、日本が世界をリードしてきた」としながらも、「アメリカの怖さ」を切実に感じているという。

米バイオベンチャー企業ブルーロック・セラピューティクスはパーキンソン病患者に移植する臨床試験、iPSから作った心筋細胞による心不全治療、重い腸疾患治療の研究開発などを豊富な資金で進めるらしい。

山中教授は「私たちがやってることと完全に競合する。超大国アメリカがiPSにどんどん乗りだし、本気になってきた」と危機感を強めている。

 

安倍政権は日本のiPS研究開発が壁にぶち当たっている今こそ、実利を急がず、強力な支援体制を構築すべきではないか。やらしてみたけど、ゼニにならぬからさっさとやめるというのでは、いつまで経っても米国の後塵を拝するしかない。

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新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

 

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

 

 

安倍総理「桜を見る会」前夜祭問題の「生贄」にされた政治家たち

著者: 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

 
 

先日掲載の「安倍首相の珍回答に国民『答えているけど答弁ではない』と嘲笑」でもお伝えした通り、未だ何一つ真実が語られていないとも言われる、桜を見る会を巡る数々の疑惑。首相を公選法違反などで刑事告発する動きも見られますが、今後、どのような展開を見せるのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、「桜を見る会前夜祭の支払い補てん」に焦点を絞り、老舗ホテルの元関係者の見立て等を紹介し、「バカを見るのは常に庶民」と結んでいます。

 

桜を見る会前夜祭の支払い補てんに税金が使われたのか?

公的なイベントであるはずの「桜を見る会」を、安倍首相があたかも支持者集会のごとく私物化してきたさまは、醜悪な権力者の姿そのものである。

どのように野党やメディアに追及されようと、決して真実を語らず、意図的論点ずらしの答弁を延々と続け、官邸や内閣府の官僚にも暗黙のうちに虚言を強いる。その徹底ぶりは驚嘆に値する。

まれにみる狡猾な政権であることは認めよう。そのために野党が攻めあぐねていることも確かだ。

 

そのかわり、首相をお手本に、政治家のモラルは音を立てて崩れつつある。雲隠れしていた菅原一秀前経産相、河井克行前法相と河井案里参院議員が国会に舞い戻ってきてからも「捜査の支障になる」とかなんとか、白々しいウソをついてまで説明を拒絶するのは、安倍内閣でまかり通ってきた「逃げるが勝ち」の成功法則を信じ込んでいるからにほかならない。

しかし、安倍首相はもはや、菅原氏や河井夫妻を検察から守る意思はないかもしれない。検察になにがしかの手柄を立てさせておかないと、自らの身が危ういからだ。

IR(カジノ)誘致という目玉政策に影響することもかまわず、東京地検特捜部が秋元司元IR担当副大臣への強制捜査に踏み切ることを容認したのも、安倍首相自身が「桜を見る会」で刑事責任を問われかねない客観的状況を自覚していたからだろう。

事実、安倍首相を公職選挙法違反、政治資金規正法違反で刑事告発する市民や弁護士の動きが活発化している。立件されれば、現職総理の犯罪に斬り込む前代未聞の事件に発展する可能性がある。

ジャーナリストの浅野健一氏や弁護士ら約50人でつくる「税金私物化を許さない市民の会」が昨年11月20日、東京地検に告発状を提出したのが、第一弾だ。

東京地検はどう対処するか、態度を決めかねている。法務大臣の指揮権発動で捜査をつぶされる可能性も視野に入れなければならないし、なにより現職総理を相手にすることへのためらいがある。

煮え切らない東京地検の姿勢に業を煮やした別のグループの動きも出てきた。

宮城県の弁護士10人が「桜を見る会を追及する弁護士の会」を立ち上げ、2月には全国規模の組織にしたうえで、3月にも、刑事告発をするというのだ。

同会共同代表の小野寺義象弁護士が1月23日、第28回目の「桜を見る会」野党追及本部ヒアリングに出席して、告発の理由を詳しく説明した。そこで小野寺弁護士が強調したのは、「桜を見る会」の本質は、単なる政治的、道義的責任の問題ではなく、総理の「犯罪」であるということだ。

犯罪性を隠すため、紙も電子データも廃棄したとウソをついて「桜を見る会」招待者名簿の公開を拒み、不合理な理屈を編み出して、違法性を否定する。それが現在の安倍官邸と内閣府の姿ではないか。

昨年4月12日午後7時からホテルニューオータニで開かれた「桜を見る会」前夜祭のパーティーに関し、1月22日の衆院本会議で安倍首相はこう語っている。

 

「夕食会の価格設定は、出席者の大多数がホテル宿泊者という事情を踏まえ、800人規模、一人当たり5,000円とホテル側が設定した…明細書について、ホテル側は、営業の秘密にかかわり資料提供には応じかねるとのこと。夕食会の費用は…受付でホテル側職員の立ち合いのもと、私の事務所の職員が一人5,000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金したすべての現金をその場でホテル側に渡すという形で参加者からホテル側への支払いがなされた。主催者である安倍晋三後援会としての収支は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識している」

 

これに対して、小野寺弁護士はこう言う。

 

「前夜祭はホテルの企画ではなく、あくまで後援会主催の企画だ。会場、役務の提供に関しホテルと後援会との間で契約が結ばれていて、それに基づいて運営されたと解するしか法律的にはない。ホテルへの代金支払いは契約上の債務であり、その負債の履行は後援会が責務を負っている。ホテルは後援会の債務の履行として代金を受け取っている、というのが一般的な契約の観点だ」

パーティー会費は、参加者がホテルに直接支払ったと主張する安倍首相に対し、小野寺弁護士はあくまで後援会とホテルの取引と解釈するのが法律家の観点だと反論する。

ホテル側の見解が聞きたいところだが、安倍首相への忖度からか、ニューオータニ側は口をつぐんでいる。しからばと、筆者は老舗ホテル元営業部長、A氏に安倍首相の主張について感想を聞いた。

 

A氏はまず「一人当たり5,000円とホテル側が設定した」という安倍首相の説明に疑問を投げかける。

「見積書と元請求書は、安部事務所・後援会あてに出されているはず。一人5,000円では、ホテルニューオータニ『鶴の間』で800人規模の立食パーティーをするのは不可能だ。最低一人1万5,000円以上かかるが、総理事務所なので特別に配慮して料理発注人数を600人分くらいに調整したり、酒類や山口県の物産の持ち込みや、宴会場使用料の大幅割引などによって、たぶん8,000円~1万2,000円で受注したのでしょう」

A氏は、一人当たり5,000円では、800人として180万円~400万円が不足し、その分を誰かが補てんして支払ったはずだというのである。

後援会、あるいは安倍事務所が差額を負担したのなら公選法違反の寄付にあたり、ホテルが負担した場合は贈収賄になる。

A氏は「想像だが」と断ったうえで、後援会、ホテルのどちらでもない可能性を指摘する。

「後援者の企業か、パトロン個人、領収書の要らない官房機密費から出ている可能性がある。桜を見る会の経費内に組み入れて吸収したことも考えられるが、その場合だと税金なので一番ヤバイですね」

政治資金を動かさないですませるため、ひそかに税金を使う仕掛けにしたということだろうか。

それにしても、たとえ総理とはいえ一議員のパーティーに税金が多少なりとも横流しされたとしたら、政治資金を使うより、よほどタチが悪い。

だが、不思議なのは、参加者個々に、ホテルから領収書が手渡されたというのに、いまだ1枚の領収書の現物、あるいは画像が、メディアや野党議員の手に渡っていないということだ。安倍首相の証言を裏付ける領収書なのである。それを後援会員が持っていたら、すぐにSNSに投稿するのが当世流だろう。

ただし、A氏によると、ホテルがホテル名義の領収書を用意したとしても、さほど不思議ではないようである。

「安倍晋三後援会または安倍事務所の領収書を使用すれば収支報告に記載する必要があるので、ホテル側との合意に基づき、ホテル名義の領収書を準備したのでしょう。ホテル側からすると請求総額に含まれる一部入金分に該当するので何ら問題はありません」

ホテルというのは、政治家とか有力者のためなら、よほど融通をきかせるものらしい。

 

ならば、安倍事務所が後援会員に頼んで領収書を探し出してもらえばいいのに、なぜそれをしないのか。領収書と請求明細書の辻褄が合っていないのだろうか。

 

小野寺弁護士は翌日の「桜を見る会」において、安倍首相が後援会員ら850人を招待したことについても次のように語る。

 

「功績者に該当しない地元の人も招待し、無料で飲食などのサービスを供与している。これは寄付罪と買収行為に該当する。一人一人に対するものなので、場合によってはすさまじい件数の犯罪が起こっていることになる。安倍首相サイドとしては、事実が先にあるのではなく、犯罪構成要件に該当しないよう法律に詳しい人の助言で事実を組み立てている。だから収入支出が全くないと言ったり、告発状の文が書けないよう招待者名簿を出さないということが起きてくる」

小野寺弁護士とA氏の見解が共通するのはニューオータニで開かれた前夜祭で、一人5,000円の会費では足りない金額を誰かが補てんしたであろうということだ。

小野寺弁護士は安倍後援会を疑い、A氏は官房機密費の使用や「桜を見る会」の経費に組み入れて補てんした可能性にまで言及した。

 
 

A氏の見立ての通りだとすれば、安倍首相は少なくとも前夜祭に関する限り、まんまと法の網をくぐり抜けることになるのかもしれない。最高権力者ならではの芸当に欺かれ、バカを見るのは常に庶民である。

image by: 首相官邸

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「米韓同盟消滅」にようやく気づいた韓国人

2019年07月20日 18時19分54秒 | Weblog

文在寅は米国に「縁切り」を言わせたい

鈴置 高史

2018年12月7日

 

全6227文字
20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ、11月30日に開催された米韓首脳会談は「非公式」に格下げされた(写真:White House/ZUMA Press/アフロ)

前回から読む)

 駐韓米国大使が「米韓同盟はいつまであるか分からない」と語った。

米大使が警告

鈴置:韓国に駐在するハリス(Harry Harris Jr.)米国大使が「米韓同盟がいつまでもあると思うな」と韓国に警告しました。文在寅(ムン・ジェイン)政権が制裁緩和を唱えるばかりで、北朝鮮の非核化に不熱心――はっきり言えば非核化を妨害しているからです。

 ハリス大使は「2018年統一貢献大賞」を受賞。11月26日にソウル市内で開いた授賞式での発言でした。

 朝鮮日報社の発行する月刊朝鮮が独自ダネ「ハリー・ハリス駐韓米大使、『米韓同盟を当然視してはいけない』」(韓国語、11月27日)で報じました。大使の発言を記事から拾います。式の参加者が同誌に伝えたものです。

  • (米朝首脳会談により)北朝鮮に肯定的な変化が生まれる可能性が無限にあると考えている。しかしこれは金正恩(キム・ジョンウン)委員長が非核化に関する自身の約束を守る時にのみ可能になる。
  • 北朝鮮が非核化に関する具体的な措置をとるまで、現在の制裁が維持されるということだ。文大統領が語ったように、南北対話は非核化の進展と必ず連携されることだろう。

 「南北対話は非核化の進展と必ず連携される」とは外交的な修辞です。「北朝鮮が非核化しない限り、米国は制裁緩和を認めない」と韓国にクギを刺したのです。

金正恩の使い走り

 9月下旬に訪米した際、文在寅大統領はあちこちで「北朝鮮は平和に向け動き出した」「金正恩委員長は信頼できる」などと強調しました。

 このため米メディアが「文在寅は金正恩の首席報道官」と揶揄するなど「韓国は北朝鮮の別働隊」との見方が広がったのです(「『北朝鮮の使い走り』と米国で見切られた文在寅」参照)。

 10月10日、トランプ(Donald Trump)大統領はホワイトハウスで「韓国は米国の承認なしに何もできない」と3度も繰り返し語りました。韓国が対北援助の再開に動くことに関し、記者から聞かれての答えです。

 もちろん「勝手に動くな」と叱責したのです(「『言うことを聞け』と文在寅を叱ったトランプ」参照)。

 それでも文在寅政権はめげませんでした。10月中旬の欧州歴訪では、仏、英、独の首脳と会談し対北制裁をやめさせようと画策しました。

 ローマ法王まで利用する徹底ぶりでした。欧州を味方に付け、米国を孤立させようとしたのです。もちろん、そんな試みは失敗しました(「北朝鮮と心中する韓国」参照)。

 

同盟を当然と思うな

露骨になる一方の「韓国の裏切り」。それに対しハリス大使は警告したのですね。

鈴置:その通りです。そうした文脈の中で「米韓同盟消滅」に言及したのです。記事からその部分を引用します。

  • 最後に一言申し上げたい。我々の同盟は確固として維持されているが、我々はこれを当然視してはいけない。

 韓国がこんなに同盟をないがしろにするのなら、打ち切ってもいいのだぞ――と匂わせたのです。月刊朝鮮も前文で、以下のように解説しました。

  • 非核化もしないのに韓国政府が南北対話や対北制裁解除を推進する場合、同盟が揺れることもあり得ると暗示した。

 私の記憶する限り、米政府高官が公開の席で「同盟破棄」に言及して韓国を脅したのは初めてです。韓国の親米保守は驚愕しました。

フィリピンを思い出せ

 朝鮮日報の元・主筆の柳根一(ユ・グンイル)氏がこの発言に直ちに反応し、保守系サイトの趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムに記事を載せました。

ハリス米大使『韓米同盟を当然視するな』」(11月28日、韓国語)です。柳根一氏はまず「米国は韓国を見捨てない」との思い込みに警告を発しました。

  • ハリス大使の発言は韓国に対する米国の断固とした警告に聞こえる。米国は卑屈に同盟を求める国ではない。
  • 一部の人は言う。米国は自分の利益のために韓国に軍隊を置いているのであって、韓国のためではないと。バカも休み休み言うべきだ。
  • 在韓米軍基地がたとえ、米国の戦略的な利益のために必要であったとしても、韓国人たちが望まなければいつでも離れる用意があると見なければならない。
  • フィリピンの政治家たちが「民族主義」を掲げて米軍撤収を言いだすと、米国はピナツボ火山噴火を口実にクラーク基地をある朝に捨て、去った。米軍が離れるや否や、比海域には中国海軍が忍び寄った。

 韓国では左派に限らず普通の人も、そして多くの保守派までも「米国は自分の利益のために軍を韓国に駐屯させている」「だから少々我がまま言っても同盟は打ち切られない」と信じています。

 柳根一氏はハリス大使の発言を聞いて「単なる脅しではなく本気で韓国を捨てるハラを固めたな」と焦った。そしてこの記事を書くことで韓国人に、状況が大きく変わった。幻想を捨てよ、と訴えたのです。

 

左派の陰謀

「状況が変わった」とは?

鈴置:次のくだりを読むと分かります。ポイントを翻訳します。

  • 韓国の運動圏(左派)は内心、米国が韓国に愛想を尽かして自ら離れて行くことを望んでいるのかもしれない。だから米国が愛想尽かしするようなことばかり選ぶ手法をとっているとも言える。
  • 「我々がいつ、出て行けと言ったか。我々はただ、自主的であろうとしただけなのに、あなたたちが公然と怒って出て行ったのだ」というわけだ。
  • この方式はすでにある程度、実行に移されている。米国は今や十分に怒っている。少し前、韓国外交部を担当する記者らがワシントンに行った時、あるシンクタンクの研究員が米国の官僚らが韓国のやり方に猛烈に怒っていると伝えたのではなかったか?
  • そうなのだ。韓国人は韓米同盟を当然視してはいけない。いったいどの国が、自尊心を傷付けられてまで同盟という見せかけに縛られると言うのか?

 文在寅政権は米国から「縁切り」を言わせたい。そこで米国が怒るよう仕向けている。「そんな卑怯なやり方をすれば、米国は本当に怒って出て行くぞ」と、柳根一氏は「左派が演出した危い状況」に警鐘を鳴らしたのです。

その見方は正しいのですか?

鈴置:私もそう見ます。文在寅大統領はじめ、政権中枢の運動圏出身者は、米韓同盟こそが民族を分断する諸悪の根源と考えているからです(「『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 ただ、文在寅政権が同盟破棄を言い出せば、韓国の保守や普通の人、あるいは左派の一部も反対するでしょう。米国を分断の元凶となじる韓国人にも、米国に守ってもらいたい人が多い。

 だから文在寅政権は米国から同盟破棄を言わせるよう仕向けているのです(「『言うだけ番長』文在寅の仮面を剥がせ」)。

なぜイライラさせるのか

米国もそれに気付いているのでしょうか。

鈴置:もちろんです。米国人は韓国人が考えるほどバカではありません。文在寅大統領の9月の訪米で、韓国が北朝鮮の使い走りに堕ちたことは天下に知れ渡りました。当然、米国は韓国の裏切りを監視する体制を強化しました。

 米政府は日本にも安保・外交専門家を送り込み、「文在寅政権は何を考えているのか」を聞いて回りました。10月、そんな1人からヒアリングを受けました。何と、最初の質問が「韓国はなぜ、我々をイライラさせるのか」でした。

どう答えたのですか?

鈴置:「米国側から同盟解消を言わせたいのだろう。もし文在寅政権が先に言い出せば、青瓦台(大統領府)は保守派のデモで取り囲まれるであろうから」と答えました。

 すると相手は大きくうなずいてメモを取りました。新しい知見に感動して、というよりも「日本の専門家もそう見ているのか」といった感じでした。

 米政府も、同盟廃棄に向けた韓国のやり口はすっかり見抜いています。ヒアリングの対象になったのは、10月に『米韓同盟消滅』というタイトルの本を出したこともあったようです。

 

「韓国疲れ」とこぼす米高官

 『米韓同盟消滅』の第1章「離婚する米韓」で説いたように、トランプ大統領は北朝鮮の非核化が実現するなら、米韓同盟を廃棄してもいいと考えている。

 注目すべきは、米政府や米軍の高官たちもそう考え始めたことです。日本のカウンターパートに対し「韓国疲れ(Korea fatigue)」とこぼす軍出身の高官が増えたそうです。大統領と同様に、非核化と同盟廃棄の取引を進めるハラを米軍も固めた可能性があります。

 12月に実施予定だった米韓空軍の合同演習「ヴィジラント・エース(Vigilant Ace)」が10月に中止が決まりましたが、米国側の発案でした。

 ハンギョレの「韓米ビジラントエース演習の猶予は米国から先に提案した」(10月21日、日本語版)など、韓国各紙が一斉に報じました。

 CNNは「国防総省、米韓軍事演習の中止を発表 米朝交渉に配慮」(10月21日、日本語版)で「トランプ大統領が高額の出費を強いられる演習を嫌う」「米朝関係に配慮した」などの理由を挙げました。

 ただ、日本の専門家によると米軍の現場からは「韓国軍と肩を並べて戦うことはもうない。である以上、合同演習などは無駄だ」との声が漏れてくるそうです。

 米軍内にも「米韓同盟は長くは持たない」との意識が広がった。米海軍大将で、太平洋軍司令官だったハリス大使が「米韓同盟を当然視するな」と韓国人に警告したのも別段、不思議ではないのです。

 

日韓関係も破壊

韓国が日本を「イライラさせる」のも……。

鈴置:米韓同盟破棄の伏線を敷いているつもりでしょう。10月30日、戦時の朝鮮人労働者に賠償するよう、韓国大法院(最高裁判所)が新日鉄住金に命じました(「新日鉄住金が敗訴、韓国で戦時中の徴用工裁判」参照)。

 日韓国交正常化の際に取り交わした請求権協定を完全に否定する判決でした。これにより日韓両国は国交の基本的あり方を確認した条約を失いました。無条約時代とも言うべき状況に突入したのです(「文在寅政権は『現状を打ち壊す』革命政府だ」)。

 11月21日には韓国政府は、従軍慰安婦問題に関する「和解・癒やし財団」――いわゆる「慰安婦財団」の解散を発表しました 。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年末の日韓合意を踏みにじりました。

 日本を怒らせ日韓関係を破壊すれば、米韓同盟にもヒビが入ります。日本では「韓国防衛のために日本が戦争に巻き込まれる危険性を冒すべきではない」との主張が高まり、朝鮮半島有事の際の在日米軍基地の使用が難しくなるのは間違いありません。

 在韓米軍は日本という強力な兵站基地があって十分に機能します。米国はますます在韓米軍を維持する意欲を失うでしょう。

日米からのけ者にされた

 11月30日、12月1日の両日にアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が象徴的でした。この場を利用し、各国は相次いで2国間の首脳会談を持ちました。

 最高裁判決などで無茶苦茶なことをして来る韓国に怒った日本は、いつもなら開く日韓首脳会談を実施しませんでした。

 トランプ大統領は11月30日に文在寅大統領と会いましたが、ホワイトハウスはわざわざ「会談はpull asideである」と断りました。「pull aside」とはイベント会場の片隅で実施する立ち話のような、非公式の会談を意味するのだそうです。米国は韓国をはっきりと「格下げ」して見せたのです。

 「米国と日本から見捨てられた」と、もっと大きなショックを韓国人に与えたのが、日米がインドを安全保障上のパートナーに引きこもうと開いた初の3カ国首脳会談(11月30日)でした。

 中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)ワシントン総局長は「『外交だけ質問せよ』は自信感、ですよね?」(12月5日、韓国語版)で以下のように書きました。

  • インドのモディ首相は「日本(Japan)、米国(America)、インド(India)の頭文字を足した「JAI」なる新語を創り出し「民主主義の価値を象徴するJAIが平和と繁栄を共に創ろう」と語った。すると安倍首相が待っていたかのように相槌を打った。「自由で開放されたインド太平洋に向けこの3カ国で進もう」。
  • 昨年7月のG20首脳会議と9月の国連総会では韓米日の3カ国首脳会談が行われた。だがそれ以降途絶えた。北朝鮮にオールインし、米中間でどちらにつこうかとうろうろする韓国は除かれ、代わりにインドが入ったのだ。

 

保守に期待できるか

米国はどうするつもりでしょうか?

鈴置:保守派に期待しているフシがあります。彼らをして、文在寅政権の対北支援を阻止させたいと考えているようです。米国の専門家からのヒアリングでも「保守派に期待できるか」との質問がありました。

何と答えたのですか?

鈴置:「保守勢力は分裂しており力がない。左派の対北傾斜をどこまで防げるかは不透明だ、と韓国の友人は言っている」と答えました。ついでに「ご質問が『クーデターは可能か』ということなら、それは不可能と見られている」と言っておきましたが。

「クーデターに期待できない」米国はどう出ますか?

鈴置:過去、韓国が逆らった時は「通貨」で脅しました。1997年の通貨危機も米韓関係が悪化した状況下で起きました。

米韓同盟消滅』の第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」で、米国の手口を詳しく説明しています。

 現在、韓国は資本逃避が起きやすい状況に陥っています。米国の今後予想される利上げで米韓金利差が広がるというのに、韓国は個人負債の膨張のため金利を上げにくい。半導体市況の低迷で貿易黒字も減ると見込まれています。いずれも通貨危機の危険信号です。

日米共同で対韓制裁?

 「通貨」で韓国を脅すやり方には大きな副作用があります。韓国の反米感情を育てるからです。1997年の通貨危機は米韓関係悪化の大きな引き金となりました。

 ただ、同盟を長く続けるつもりがないのなら、米国は反米感情に神経を払う必要はなくなる。それは日本も同じです。韓国が米国の同盟国から外れるのなら、これまでのように遠慮しなくてよいのです。

 ちょうど今、日本も韓国に対し経済制裁を検討し始めたところです。朝鮮人労働者の判決の是正を求めているのに、韓国政府は馬耳東風。このまま放っておけば、韓国の無法を認めることになります。日本は何らかの形で韓国に対抗措置を取らざるを得ません。

 一方、米国も北朝鮮の核武装を助ける韓国をここで叩いておきたい。日米が一緒になって韓国の弱点たる「金融」を攻める可能性が出てきました。

次回に続く)

【著者最新刊】『米韓同盟消滅』

 米朝首脳会談だけでなく、南北朝鮮の首脳が会談を重ねるなど、東アジア情勢は現在、大きく動きつつある。著者はこうした動きの本質を、「米韓同盟が破棄され、朝鮮半島全体が中立化することによって実質的に中国の属国へと『回帰』していく過程」と読み解く。韓国が中国の属国へと回帰すれば、日本は日清戦争以前の「大陸と直接対峙する」国際環境に身を置くことになる。朝鮮半島情勢「先読みのプロ」が描き出す冷徹な現実。

第1章 離婚する米韓
第2章 「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章 中二病にかかった韓国人
第4章 「妄想外交」は止まらない

2018年10月17日発売 新潮社刊

 


2019年 M&A大予測 電力会社の再編が始まる M&A業界インタビュー

2019年07月20日 18時11分00秒 | Weblog
他 1名
日経ビジネス記者

2019年1月21日

 

 日経ビジネスの1月21日号特集「2019年M&A大予測」では、独自の取材に基づき、大型M&Aを巡る様々なシナリオを紹介した。業界関係者へのインタビューでは「電力会社の再編が始まる」「アクティビストは沈静化する」など、激変の2019年を予想するコメントが相次いだ。M&A助言、レコフの稲田洋一社長、さわかみ投信の澤上篤人会長、東京理科大学大学院の橘川武郎教授、シティグループ証券の江沢厚太マネジングディレクターの4氏へのインタビューを掲載する。

中小型M&Aの隆盛続く レコフ・稲田洋一社長

稲田洋一(いなだ・よういち) 1959年生まれ。84年東京大学法学部卒、93年米ダートマス大学経営学修士(MBA)取得。山一證券株式会社を経て94年にレコフ入社。国内流通、総合商社、外食・フードサービス業界を担当し、2016年より現職。(写真:北山 宏一)

 2019年の国内M&A市場は一層活性化し、今後10年で最盛期を迎えるはずだ。70歳前後を迎えた団塊の世代の経営者が引退を考える時期に入っている。一方、後継者不足は深刻だ。同業や関連企業による事業承継をテーマにした買収が顕著に増えてきている。財務省のデータによると、再編や廃業などを通じて、15年末~25年末までに国内企業が83万社減るという予測もある。

 最近では、赤字企業だけでなく黒字経営の中小企業も買収の対象となってきている。業種別で多いのは建設関連。足元では、20年の東京オリンピック・パラリンピックや首都圏でのオフィスビル建設などで建設需要が旺盛だ。技術者不足が深刻となっており、人材確保を目的とした買収が多い。

 中小規模の病院や診療所の案件も増えている。最新の医療機器は性能が優れているが非常に高額で、多くの病院では設備投資が経営の負担となっている。医師や看護師はしっかり労務管理をしないと他の病院へ簡単に移ってしまう。難しい経営の舵取りを負担と感じる院長は多く、他の医療グループなどに事業を譲るケースが増えてきた。

 地域別では、九州での案件がより活発化するとみている。九州新幹線の開業に伴い、地域内でも交通アクセスが格段に向上し、鹿児島と熊本や、佐賀と長崎など、県をまたいだM&Aが増えている。昨年九州で開催したグループのセミナーでは3000人が集まった。新幹線の整備は今後も続き、更なる越境案件が増えると見ている。

 

「アクティビスト」が沈静化する さわかみ投信・澤上篤人会長

澤上篤人(さわかみ・あつと) 1947年、愛知県名古屋市生まれ。ピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を務めた後、96年にさわかみ投資顧問(現 さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。同ファンドの純資産総額は約3000億円。(写真:北山 宏一)

 金融市場では、凄まじい変化が今まさに始まりつつある。リーマンショックへの応急対処として始まった史上空前の金融緩和が金余りバブルをもたらし、世界中の株価や不動産価格の上昇を引き起こした。だが、米国の利上げなどを通じて、先進国を中心に逆転現象が始まりつつある。金融市場は既に不安定化しだしているが、2019年はこの流れがより明確化する一年となるだろう。

 M&A関連では、物言う株主「アクティビスト」の発言力が低下すると予想する。これまで低金利による運用難を背景に、世界中の年金基金などが、少しでも運用リターンを引き上げようとアクティビストファンドに資金を振り向けてきた。おかげでファンドは、豊富な資金を元に積極的に企業の株を買い集め、経営に注文をつけることができた。

 アクティビストは利益を回収するために、短期的な株価上昇につながるM&Aや、企業の成長率に見合わない配当の拡大などを要求してきた。しかし、金融市場での金余りは終焉を迎え始めている。アクティビストファンドへ流れていた資金がすっと引く可能性は高い。市場が正常化すると言ったほうが良いかも知れない。

 先進国で利上げが進むと、銀行からの巨額借り入れを通じた超大型M&Aも鳴りを潜めるだろう。一方、企業のコア事業を成長させるためのM&Aは、国内外で引き続き活発に行われると見ている。

 

電力会社は6社になる 東京理科大学大学院・橘川武郎教授

橘川武郎(きつかわ・たけお) 国のエネルギー政策の基本方針である「エネルギー基本計画」を議論する「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」の委員などを歴任(写真:的野 弘路)

 電力会社の再編の起点は2つ。西日本は中国電力が台風の目だ。関西電力、四国電力、九州電力に囲まれている。この3社の共通点は原発問題が大体片付いたこと。中国電は石炭火力に強い。石炭に弱い関電は、大飯原発(福井県おおい町)が再稼働してキャッシュが回り出した今、発電ポートフォリオを充実させたいと考える。原発と石炭をそろえれば盤石という観点から、石炭に強い中国電を狙うのは自然だろう。四国電、九電も同様だ。

 中国電にとって石炭に強いのは弱点でもある。電力会社は2030年度までにkWhあたりの二酸化炭素排出量を0.37kgにしないといけないからだ。島根原発(松江市)を動かしても達成できない。だからこそ、上関原発(山口県上関町)の新設にこだわるわけだが、新規立地は誰が考えても無理だ。中国電から見ても合併しかない。関電に飲み込まれるのが嫌ならば、自社より小さい四国電と一緒になる可能性がある。中国と四国が一緒になれば九電が乗ってくるかもしれない。

 北陸電力も石炭が強い。だが、北陸電は関電に飲み込まれるのを食い止めてきた歴史があるので関電と一緒になることは考えづらい。中部電に頼る可能性はある。中部電は原発に弱いので、志賀第二原発(石川県志賀町)が動けば中部電にとって北陸電は魅力的だ。

 原発については、日本原子力発電を中心とした原発運営企業ができる可能性がある。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、設備が優れている。6、7号機は動かすべきだと思う。だが、持ち主が東電のままでは動かない。福島の復興費は必ず国民負担になるから、東電が優良な原発である柏崎刈羽を持ち、動かすのは世論が許さない。柏崎刈羽は売却すべきという議論になる。

 買い手の候補として新潟がおひざ元である東北電力があがるだろうが、キャッシュがないので、国は日本原子力発電を使うと思われる。原電は(直下に活断層があるとされる)敦賀原発も、東海第二も稼働は難しい。原発なき原電が生き残る道は、オペレーションの会社という道だけだ。

 10年先になるかもしれないが、東京電力と東北電力が一緒になる可能性はある。北海道は地理的にそのままだろう。東北・東京、中部・北陸、中国・四国・九州という組み合わせが考えられる。関電、北海道、沖縄で計6電力になる。競争を突き詰めるとこうなると予測している。

 

電機業界、売却続く可能性 シティグループ証券・江沢厚太マネジングディレクター

江沢厚太(えざわ・こうた) 電機業界の証券アナリストを17年間務める(写真:竹井 俊晴)

 電機業界の全体像をみると、多くの企業が企業買収をする計画や予算を持っている。2019年、20年もM&Aが起きる可能性はかつてないほど高い状態が続くと思う。

 蓋然性や論理的には可能性があるという前提で考えると、買収に積極的と考えられるのは、まずNECだ。海外事業を拡大させる計画があるので、監視カメラやサイバーセキュリティ関連で何かが出てくると思う。パナソニックは、(BtoB事業の)コネクティッドソリューションズと、自動車分野は買収する可能性がある。どちらもソフトウエア会社が考えられる。

 東芝は上場連結子会社を完全子会社化する可能性がある。東芝テック、東芝プラントシステム、ニューフレアテクノロジーと西芝電機があるが、このうちいくつかを完全子会社にする可能性があると思う。

 東芝はメモリ事業を売却し、キャッシュはあるが業績の水準が低い。最終損益で安定して黒字を維持することを担保できない状況だ。連結子会社の少数株主持ち分を買い取ることで当期利益の増加が期待できる。

 売却側は結構たくさん候補がある。日立製作所はABBの送配電事業を買収するが、連結上場子会社をまだ持っている。親会社のコントロールがきかないので、最終的には長く続いた親子上場は完全な解消に向かうと思っている。

 ソニーはスマホ事業のうち海外の事業を売却する可能性がある。国内は黒字で海外は赤字だ。ソニーは通信の技術開発は社内で継続したい考えとみられ、一部の事業は残しておいた方が研究開発費を吸収してくれるのでメリットがあると考える。残すなら国内事業だろう。